第十一話……ラルゴの町~予選~
それから数日後。
俺たちを乗せた馬車は大きな町についた。
その町はラルゴの町という。
その名前の由来は、ラルゴ公爵家が治める町だということかららしい。
「いらっしゃい」
「今日はカツオが安いよ!」
ラルゴの町は外海にも面し、大きな貿易船も立ち寄る活気のある交易都市であった。
その活気に触れ、柄にもなく俺までお祭り気分に浸ったものだ。
石造りの大通りを通り、目的の闘技場が見えてきた。
その建造物は、丁度円形のコロシアムといった感じだ。
予想屋が店を並べ、賭け事に興じる客も多い。
その客を目当てに、おいしそうな食べ物を出す出店も多数並んでいる。
「凄い活気ポコ~♪」
「おぬしが勝つ方に賭けるぞよ!」
魔女はもう賭ける気満々だ。
……というか、俺が勝つ方に賭けるのは当然だろ?
「あんたはこっちだ」
「あいよ」
俺はライアンに案内され、闘技場の裏口に回る。
そこは出場選手の受付口だ。
「健闘を祈る!」
「へいへい」
俺は面倒くさそうにライアンに手を振って別れた。
……さてと、それじゃあ行きますかい。
「出場選手の方ですね?」
「ああ」
「こちらの紙に必要事項を記入ください」
受付で、ペンと羊皮紙を貰う。
記入欄は名前や身長、体重といったところだった。
「……では、こちらにお越しください」
俺は受付の男に連れられ、出場選手控室に案内された。
そこは殺風景な石造りの個室で、丸テーブルに水の入った壺がおかれているだけの部屋だった。
「それでは、出番になるまでお待ちください」
案内の男は去り、俺は順番をのんびり待つことになったのだった。
□□□□□
「142番、カーヴ選手入場!」
派手に太鼓や銅鑼が鳴らされ、俺はすり鉢状の闘技場に入る。
一段高くなった周りの観客席には、人、人、人という感じで、物凄い数の観客がいたのだった。
「カーヴ負けろ!」
「カーヴ負けろ!」
俺に負けろという声の大合唱。
……ぬう。
どうやら俺は、大変に期待されていないらしい。
ところで相手は誰だろう?
周りを見渡すと、向こうから出てきたのは大きな虎だった。
「……げ?」
ガルルル……、と威嚇してくる猛獣。
まさか予選の一番手が人間じゃないとは思わなかった。
確かに、誰でも出場できるのは、おかしいなとは思っていたのだ。
「第一試合、始め!」
猛獣は腹が減っていたのか、こちらへ一目散に駆け寄って来る。
そして鋭い爪をむき出しに、飛び掛かってきた。
ガッ!
俺は、素早く木で出来たスモールシールドで受け止める。
そして、猛獣の脇腹に蹴りをぶち込んだ。
俺の蹴りを受けて、猛獣の肋骨が何本もへし折れる音が聞こえる。
戦闘ヘリの防弾ガラスも撃ち抜く蹴りだ。
生き物が食らって無事な訳がねぇ……。
「ギャァァァ」
痛みにのたうち回る猛獣。
俺はさらに飛び掛かり、こめかみにナイフを突き立て、脳髄をえぐり取った。
こうして虎は絶命。
俺は勝ち名乗りをあげた。
「この試合、カーヴ選手の勝ち!」
「……」
「……」
会場は盛り上がるどころか、シーンと静まり返っていた。
……やっぱりだ。
皆、俺が負けるほうに賭けていたに違いない。
なんだか、少し残念な一回戦だった。
やっぱり、他人に期待されていないなんて寂しいな……。
俺は肩を落として控室に戻ったのだった。
□□□□□
「142番、カーヴ選手の入場!」
「いけ! カーヴ!」
「やっちまえ!」
「カーヴ! カーヴ!」
今回は、ちゃんと俺の勝ちにも賭けている奴がいるようだ。
湧きたつ歓声が気持ち良い。
今回の相手はと……、
「……げ?」
今回の相手は、マンモスを思わせる巨象だった。
普通の象の3倍はありそうな相手だった。
「二回戦、始め!」
「パォオオオオン……」
こいつも数日餌を貰ってないのだろう。
開始の号令一下、空腹に目を血走らせてこっちへ突っ込んできた。
俺は倒れ込んで突進を躱す。
そして素早く巨象の背後に回り込み、両の後ろ足の腱を魔法銀の剣で斬った。
ぶちっとした鈍い音の後。
鮮血が迸った。
巨象は激痛にもんどりうって倒れこんだ。
……しかし今回、俺は止めを刺さないつもりだった。
「カーヴ選手の勝利!」
審判の判定により、俺の勝利が決まる。
負傷した巨象には、無数の救護の要員が取り囲んだ。
「あいつすげぇな!」
「巨象を一瞬で倒しやがった!」
「いいぞ! カーヴ!」
「頼んだぞ! カーヴ!」
今回は俺に対する声援が凄い。
そうだろう。そうだろう。
何しろ、ちょっと前まで勇者と間違われていた存在だぞ。
もっと声援くれてもいいぞ。
そんなことを思いつつ、俺は観客席の声援に応えつつ、控室にさがったのだった。
……というか予選で負けたら、奴隷どころか獣に食われるんじゃねーか。
とんでもないところに来てしまったな。
俺は控室におかれた水をのみ、少しの時間、昂った精神を休めたのだった。
□□□□□
その後、試合は無く、夕方に案内係がやってきた。
「142番、カーヴさん。予選突破おめでとうございます。明日から本選となります」
「また明日も猛獣と戦わされるんじゃないだろうな?」
俺は案内係に毒づいて見せた。
「いえいえ、本選からは人間のかたと戦って頂きます」
「……へぇ」
やっと人間相手か。
よく考えたら、予選突破した同士ってことだよな。
ということは猛獣を倒した奴らとやるのかぁ。
うーむ。
何とも言えない気持ちになったが、準備してもらった夕食を食べて、その日はゆっくりと休んだのであった。
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