12話 ”魔導”それは狂人である
わたし的にはウェルの戦いよりリンの方が気になる。あいつはよく見境なく全てを吹っ飛ばしたり実験したりとこちらの後始末のことなど考えていない。
わたしは戦後の処理に少し懸念を抱きながらリンの戦いを安全な後方の執務室から見守ることにした。
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彼は焦っていた。彼の仲間がどんどん消息を経っていたのだ。彼は組織で1021番と呼ばれていた。彼は支部でもなかなかの実力者だったが、彼以上の実力者など支部でもごまんといた。
彼も自身の実力は把握しているし別に高望みもしていない。しかしただの王宮勤めのメイド達にここまで仲間が殺られるとは考えてもいなかった。
もちろん被害も予想していた。だがここまで大きいとは想像できなかった。彼はとにかく目標を達成するために廊下を走っていた。
目標とはもちろんメイというメイド長を殺す事、ではなく今、彼は生物としての目標のために走っていた。それは生き残ること。彼ら組織の構成員は洗脳されている者と洗脳されていない者の2種類に分けられる。洗脳されている構成員は下っ端のものが多い。
意識がはっきりあるものは立場が上なのだ。そう彼は選ばれた構成員なのだが今、彼は逃走を選択していた。これまでの自分のキャリアを捨てて。たとえ組織に殺されるかもしれなくても。彼は逃走を選んだ。
しかしそんな彼を彼女が見逃すわけがなかった。彼女の名前はリン。
自称 "大陸最強魔法使い” である。彼が逃走するなど彼女の前で許される筈がないのだ。
彼女は自身の魔法のレベルや技術レベルが上がるなら非道な実験も普通にやるような狂人なのである。しかし本人は全く自覚はない。
彼は逃げる、が彼女の索敵魔法に引っかかったのが運の尽きである。リンが彼を見つけた瞬間、彼の足元に魔法陣が浮かび上がった。これは彼女が空間魔法の魔術を応用し新たに開発した転移魔法である。
そしてその瞬間、彼は彼女の目の前に転移した。リンはホウキに乗り空中で浮遊していた。リンは隠れ美人だが彼はそんなことは少しも思わなかった。
リンは薄気味悪い笑みを浮かべている。彼はその場を逃げ出そうとするが手足や体の細かい部分まで少しも動けなかった。金縛りである。彼は叫び声を上げた。
しかし彼女はそんなことでは引き下がらずホウキから降りて彼に近寄る。その手には手術道具で有名な”メス”を持っていた。彼はその瞬間彼女にとって自分がどういう存在かが分かった。
モルモットだ。
彼は確信した。彼女にとって自分はただの実験台であることに。それと同時に自分がこの後どういう目に遭うかが分かってしまった。彼の目は大きく見開かれていて、どのくらい彼が彼女に恐怖しているかが分かる。
しかしそんな彼の表情もリンは貴重な実験結果としてポケットから取り出した手帳にメモをしている。そして彼女が「チェンジ」そういうと彼女の服が変わった。
その格好は今から手術に向かう医者と同じような格好だった。その服の素材は彼が知らない未知の材料だった。
「殺すなら早く殺せ!」
これが彼にできる唯一の抵抗だった。しかしそれも通用しなかった。
「殺すわけない お前は 貴重な 実験台」
彼女はゆったりという。それは圧倒的強者故の余裕だった。彼は舌を噛んで自死しようとしたが、それもできなかった。対策はしっかりとされているようだ。
そしてリンと彼は次の瞬間その場から消えた。
そこには魔力の残穢だけが残っていた。
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私はネイルからリンの戦況の報告を聞いていた。リンが組織の一人を実験体として捕獲したらしい。可哀想に。こんなところに侵入しなければその人は無事だっただろう。もしくは遭遇したのがリン以外なら苦しまずにすぐに死ねたというのに。
うむ少し同情してしまう。でも普通に自業自得だ。私が彼について考えるのをやめようとした時、何者かが執務室にいる私の後ろの窓ガラスを割った。振り向くとその男が私の顔を持つ。
「メイ様!」
普段動揺しないネイルが動揺している事でこの事態がどれだけ異常事態なのかを物語っている。私はなんとか抵抗しようとするも、魔力のない私に抵抗ができる余地などない。
しかも相手は戦いのプロだ。ネイルはなんとかこの男の隙を窺っているが何もできない。ネイルは悔しそうな顔をした。私はそんなネイルを見て咄嗟に叫んだ。
「ネイル!動くな!」
ネイルは“ハッ”としたような顔をして頷く。どうやらネイルの持ち味の冷静さを取り戻したようだ。今度は男が喋る。
「おっと銀色の髪の嬢ちゃん動くなよ。動けばこいつは殺す」
その顔には笑みが宿っていた。今この状況は敵の方が圧倒的に有利だ。私は喋る。
「ただのメイド である私に こんな事しても何も 徳はありません よ。」
私は少し息がしづらく途中途中で言葉が切れながらも男に対して喋りかかる。しかし男は私の言葉を無視し一方的に喋る。
「まさか、こんなガキがこの国権力を握ってるなんてよ〜。ぶっ殺したくなるな〜!!」
私はこの男に恐怖した。
そして次の瞬間、私は男に首を”トン”と叩かれ気絶した。




