第9話【雨の日の教室】
雨の音が外から響き渡ってくる。
静かなこの空間に雨音だけが響き渡っている。
雨の日でも彼女はそこにいた。
妻鳥藍良。彼女は外からしか来られないこの教室にやってくる。
蛇ノ目灯里を待って。
今日は昼休みではない。放課後。生徒は用もなければ帰る時間である。
灯里は濡れた傘を扉の近くに立てかけておき、中へと入る。
「蛇ノ目さん、来たね」
藍良はブランケットを広げて足元にかけて、スマホをいじっていた。
灯里が来ると顔を上げていつもの笑顔。
「め、妻鳥さんは帰らないんですか」
「帰るよ。超帰る。もう少ししたらね」
「?」
藍良は手招きをして灯里を引き寄せる。おずおずと近くに寄ると藍良は椅子を自分の隣に配置する。
「……(ぶんぶん)」
ここに座るようにジェスチャーをする藍良に灯里は「恐れ多い」と首を横に勢いよく振る。目の前にかざしている手が壁を作っているかのようだ。
「蛇ノ目さんはどうして来たのかな」
「……えと、妻鳥さんによ、呼ばれて」
「そうだね、いつものように一緒に過ごそう。蛇ノ目さん」
いいから座ろう、という圧を感じる。
有無を言わせぬほどに椅子を指差す藍良。
灯里は従うほかなかった。
椅子に座ると、藍良は灯里の足元にも届くようにブランケットをかけなおした。そして、灯里に身体を寄せた。
びっくりして飛び上がりそうになる灯里。
慌てる灯里をよそに満足げな藍良。
「あったかいでしょ」
「……は、はい」
思わぬ近さに緊張している灯里に藍良はスマホを目の前に持ってくる。
「これ見て、わんちゃん。散歩しているところに出会って撮らせてもらったんだぁ。かわいいでしょ」
「もふもふですね」
「だよね~」
何気ない日常の中で撮った色んな写真や動画を灯里に見せる藍良。一枚めくるたびに思い出を語る。
犬が可愛かった話とか、友達がお菓子作りで失敗した話とか、彼氏と猫カフェ入った話とか。とりとめのない話ばかりだったが、藍良が近くにいることで感じる人のぬくもりは灯里をほんのりと安心させた。
目を合わせることはしなかったが、近い距離で同じものを見ていたふたり。
あまりに夢中になりすぎて、校長が乱入して強制下校となった。




