第10話【反射は鏡のようにはならない】
先日雨が降った翌日。
本日晴天なり。あちこちに水たまりが出来ては日の光に輝く。
登校中の灯里は水たまりにうつる自分の姿を見た。
水たまりに映し出される自分の顔は影で黒く見える。
サングラスをしているからではない。
水面に映る自分の姿はアニメのように綺麗にはうつらない。
だけど、灯里は考えてしまう。
自分の姿は他人にどう思われているのだろうか。どう見えているのだろうか。
それでもどう見られているか以上に自分を見ている人の顔を見るのが怖い。
目を合わせることが不安で仕方なかった。
たとえ嫉妬や軽蔑のまなざしでなくとも。
人の顔色を窺っているのにその顔色すら見られないのだ。
灯里はサングラスに手をかける。
だが、そこから先は動かすことが出来ない。
恐怖で潰れる前に手を離す。
サングラスを外す勇気は灯里にはなかった。
すると、ちょんちょんと指で肩を突かれる。
「おはよう、蛇ノ目さん」
「お、おお、おは、おはようございます」
びっくりして思わず勢いよく振り返る灯里。その瞬間藍良の表情が見えた。
微笑んでいる彼女の表情が見えた。
「あ、目が合った」
ぶん、という音が聞こえるほど勢いよく首が回る。
勢いよく回したところで灯里の髪は巻きあがり、藍良を襲う。「あ、いたっ」という声にまた藍良の方に向き直り、あわあわとして
「ご、ごごっごごご、ごめ、、んなさいっっ」
「大丈夫大丈夫~あはは落ち着いて蛇ノ目さん」
慌てすぎて早送りしたかのような動きでぶんぶんと止まらない首振り人形のように頭を下げる灯里に、笑って返す藍良。
「ほら」
藍良は灯里の両肩を抑えて、動きを止めさせる。
「じゃあお返しー」
「ほへ」
そう言って両頬を軽くつまんで左右に伸ばす。
むにーっと伸びる灯里の頬。
「柔らかいね蛇ノ目さんの頬~」
「あぇ……」
「こら、藍良蛇ノ目さんで遊ばない」
あまりの柔らかさにぐにぐにむにむにと頬を触っていると藍良の友人が後ろからやってきて藍良を止める。
「遅刻するよ藍良」
「えへへー、蛇ノ目さん行こうか」
「……は、はいっ」
藍良は灯里の手を取って学校へ向かった。
朝の悩みはすっかり灯里の頭の中から忘れ去られていることを本人は気づいていない。




