第11話【眠りの教室の藍良】
秘密の教室に訪れると、今日はいつも元気に出迎えてくれるはずの藍良が静かだった。
様子を窺ってみると藍良は机に伏して寝ているようだった。
灯里は起こさぬように静かに近づいて、あまり音を立てないように近くに座った。
いつもならば藍良が話を振ってくれたし、何かをするならすべて藍良からだったため、灯里は座ったところで何もすることは出来ない。
だからと言ってすやすやと眠る藍良を叩き起こしてまで話す勇気はない。
灯里は起こさぬ選択を取った。
眠っているのなら時間まで寝させてあげよう。
近くに畳まれていたブランケットを手に取り、藍良の肩にかけてあげる。
また座りなおし、静寂の時間が訪れる。
何の会話もない静かな時間。
言葉として聞き取れるわけではないが、壁の向こうからの足音や会話が少しだけ聞こえてくる。たまに走っている音も。
それでも教室内に響くことはなく、壁越しにかすかに感じられる程度のもの。
だけど、それが逆に心地よかった。
灯里が求めていたひとりの時間である。
だけど、最近は藍良が話しかけてきて共にいる時間が増えた。
煩わしかったかと言われればそうではない。
灯里だって好き好んでひとりになっているわけではない。
前の学校で事件を起こす前は交友関係もあった。
藍良が喋らない時間は少しさびしさを覚えた。
時間は進んでいき、気づけば昼休みの時間が終わりを迎えようとしていた。
それでも藍良は眠っていて、起きる気配を感じられない。
どうやって起こそうか、上手く声かけられるだろうか。
色々悩んだ末、灯里はまず藍良の顔を覗き込んだ。
瞬間、藍良の目が開いた。
かわされる視線。灯里のサングラス越しに目が合う。
不意に虫を発見したかのように飛びのく灯里。
心臓がバクバクと外に漏れて聞こえてくるのではないかというほど鳴らしている。
すっと顔を上げて、ニカっと笑う藍良。
「目があったね」
髪が乱れているため、決まっているようで決まっていない藍良。
「あー、やば」と言いながら髪をいじり始める。
「じ、時間…」
「え、やば! 蛇ノ目さんごめん! ありがとう!」
声が漏れたかのような一言を藍良に投げかける灯里にバタバタと動き出す藍良。
荷物をまとめて、外に出ようとする。
「よし、戻ろう!」
口元がよだれまみれなことを指摘できなかった灯里であった。
そして、灯里本人はまだ気づいていない。
目を合わせなければ藍良の表情を見ることが出来るようになっていることに。




