第5話【あっちむいてほい!】
いつもの教室、ふたりっきり。
灯里と藍良は向かい合って座っていた。静寂の中、藍良は一本の指を灯里に向けてじっと見つめている。
「あっちむいて……」
その掛け声の後、勢いよく指を振った。
灯里は思わず指の刺した方向を向いてしまう。あっちむいてほいが苦手なわけではない。なぜなら、彼女は相手の目が見られない分、指に集中してしまうからだ。
向かい側にいる相手の瞳がぼんやりとするように指の一点を見つめてしまう。
本日、彼女たちが試すのは「あっちむいてほい」言わずと知れたじゃんけんで勝った方が指を相手に向け、一方を差す。向けられた方が同じ方向を向いたら負けという単純なルール。
ただし、今回はじゃんけんはなしで藍良が一方的に指をさしている。
それは藍良の提案から始まった。
「あっちむいてほいなら、相手の目を見ずに指を見ることで、実質的に相手を見れるんじゃないかな!」
「そ、そんな……」
実際にやったところ、指に集中しすぎて相手を見るどころの話ではなかった。だけど、そうすることで顔を向かい合わせることには成功した。
「あっちむいて~……」
指を顔の位置から外して降ろすと、釣られるように灯里も顔を下に向ける。右に左にと動かせば同じように顔を動かした。
ちょっと面白くなってあっちこっち動かして、自分の顔の前に移動させると灯里は思わず顔を逸らした。
「あ、蛇ノ目さんはやいっ」
「ご、ごごごめん、なさっっ」
指を差す前に動いた灯里に指摘すると慌てて謝った。
「謝らなくても大丈夫だよ~。今のは私が悪いし」
「そ、そんな、ことっ」
藍良は灯里で遊び過ぎたとちょっと反省した。
「やっぱこれじゃダメだね」
「かっ、顔を意識しなっ、しなかったら……」
「最後に一回!」
そう言って藍良はまた灯里の目の前に指を合わせた。
藍良はサングラス越しに指を見つめる灯里の姿を見ていた。藍良にとって顔を自分の方に向けてくれているだけでも嬉しかった。
「あっちむいて……」
その掛け声と共に場に小さな緊張が走る。静寂がより静かに感じられる。
沈黙。藍良は微笑みながら動いた。
「ほいっ」
また灯里は指に釣られた。




