第20話【藍良の不在】
いつものように秘密の教室を訪れると藍良はそこにはいなかった。
休みであるわけではない。ちゃんと登校しているし、少し遅れるというだけのことだった。
だけど、そこに誰もいないことに寂しさを感じる灯里。
すっかり藍良との日々は灯里の日常の一部と化していた。
秘密の教室に入ればいつも元気に迎え入れてくれる藍良。
何気ない会話をしてくれる藍良。
たまに強引になることもあるけど、嫌と言えばやめてくれる。
きっと今も誰かが周りにいて、誰かと仲良くしているのだろう。
そう思うと、もう来ないんじゃないかとすら感じられる。
彼女はどうしてここに来るのだろう、どうして彼女は自分に世話焼いてくれるのだろう。
灯里の頭に色んな想いが巡る。
灯里は静かにサングラスを外して、鏡で自分の姿を見た。
頭からつま先まで。
そして、鏡に写る自分と目を合わせる。
その瞳はキラキラと輝きを放っているかのように澄んでいる。
昔、友達に言われたことを思い出す。
「灯里ちゃんの目って宝石みたいで綺麗だね」
その友達とはもう連絡を取っていない。
自分の目を見るたびに彼女の声が聞こえてくる。
仲がいいはずだった。ずっと一緒にいて、相談も出来る仲だった。
灯里は目を瞑る。
瞼の裏に写る光景は、泣きながら灯里を責める友達の姿。そしてその友達に寄り添う女子たち。
灯里の隣には誰もいなかった。
藍良とはそういう風にはなりたくない。
だけど、彼女は一歩踏み出して手を取ってくれた。
少しだけ心を軽くしてくれた。
彼女は知らないだろうけど、同じようにはならないと示してくれた。
藍良に何を返せるのだろうか。
何を返したら喜んでもらえるだろうか。
灯里は知らない。
逆に藍良から返されているのだということに。
灯里は結びついていない。
昔助けた同年代の少女と藍良の姿が。
そっと色付き眼鏡にかける。
そこに写る自分はいつもの自分と違う。
藍良とふたりっきりの時の自分。
これが灯里に出来る精いっぱいのお返しだった。
そんなことを考えていると、ちょうど藍良が教室に入ってくる。
「ごめーん、お待たせ~」
慌ててきたようで少し汗をかいていた。
今日はどんな表情が見せてくれるんだろう。




