第19話【背中合わせの静寂】
今日の秘密の教師は静寂に満ちていた。
ふたりとも何も話さず、背中合わせに座り、目を合わせることなく読書をしている。
灯里は文庫本を手に、藍良はスマホを掲げるようにして目の前に集中して時間を過ごしていた。
灯里がかけていたメガネはいつものサングラスではなく先日もらったばかりの色付き眼鏡である。なぜならサングラスでは本を読むのが難しいからだ。
視界が暗くなるのに黒い文字を読むのは苦労する。
だから藍良とふたりっきりならばこの眼鏡をして本を読める。
灯里にとってありがたかった。
背中に伝わる熱だけが互いの存在を認識させる。
片方が少し動けば、互いに位置調整をするように一度離してまた背中を合わせる。
今までもそうしてきたかのようにリラックスしていた。
藍良はちょっと声をかけようと灯里の方を見ようとしたが、すぐこんな時間もいいかなと思い声をかけず向き直った。
そこには灯里のページをめくる音と藍良のスマホをタップする音だけが小さく響く。
誰も訪れることはない、隔絶された空間。
そこはまさしくふたりだけの空間、ふたりだけの時間だった。
邪魔するものはない。
もう灯里にとっても藍良は大切な存在となっていて、一緒にいられることに安心感を覚えていた。日付にしてしまえばついこの間というほどの期間でしかない友人関係であったが、藍良の歩み寄りにより少しずつ打ち解けている灯里だった。
藍良はこうしていられるだけで幸せだった。
灯里を助けになりたい一心で手を取ったこの関係だったが、助けになれた自信はなく、むしろ傷つけているかもしれない。藍良はそう思っていた。
だからこそ、こうして灯里が拒絶せず一緒にいてくれることが自分にとってのご褒美になっており、感謝しかなかった。
互いが互いに救われているということはどちらも知らない。
知る由もない。
むしろ相手に迷惑をかけていると思っているふたり。
だけど、そこにある信頼は確かなものだった。
スマホの時間を見て、もうすぐチャイムが鳴ると思い、藍良が声をかけようとする。
しかし、先に動いたのは灯里の方だった。
灯里も体感で「もう少しかな」と感じ取って動いたのだ。
それは不運にも藍良のバランスを崩すことになる。
「うわぁっ」
「あ~~~~~ご、ごごごごめんさい~~~~っ」
床に落ちた藍良を見て思いっきり謝った灯里であった。
幸い藍良には怪我はなかった。




