第14話【藍良の彼氏】
気づけばサングラス越しであれば藍良の顔を見て話すことが出来るようになっていた。
藍良はその様子に気づきつつも指摘はしなかった。
自然と受け入れていたがため、灯里も無意識で気づいていなかった。
藍良以外にはやはりまだ顔を見ることは出来ない。
それはふたりの間に信頼関係が気づかれている証拠でもあった。
そんな時、藍良に一本の電話がかかってくる。
灯里はどうぞと電話に出ることを促し、藍良もそれに甘えて電話に出た。
かすかに聞こえる声は男性のものだった。
男性と言えば、藍良には彼氏がいる。
別の高校に通う男子。たまに藍良の会話にも出てくる人物で、その口ぶりから藍良が心底信頼していることは伝わっていた。
彼氏の話をするときはいつも決まって彼のおかしな部分の話ばかりをする。ちょっとズレた行動や発言をしたときに面白がっているようだった。
「うんうん、わかった」
どんな会話をしているのかはさっぱりだったが、普段よりも落ち着いた話し方をしているように見えた。
それは堅苦しくなっているわけではなく、良く見せようとしているのか、はたまた友達には見えない一面か。
「ごめんね、彼氏だった」
やはりというべきか、想像通り彼氏との電話だった。
そんなことを想い巡らせていると、藍良は灯里に聞いた。
「知りたい?」
「そ、そういう、わけじゃ……」
灯里の表情はこわばっていた。
その様子に藍良はすぐ身を引いて、話を変えようとした。
でも
「お、男の人とは特に目を合わせちゃいけないんです」
と灯里が告げた。
灯里の瞳は「異性を魅了してしまう」だから男の人とは目を合わせられない。灯里が人とは目を合わせられない恐怖とは別の自戒だった。
灯里は藍良の彼氏と目を合わせてしまったあとのことを考えてしまう。そう、前の学校でもそれが引き金だった。
人の彼氏に色目を使っている、なんて言いがかりをつけられて孤立した。
藍良に嫌われたくない。
だから藍良の彼氏とは会えない。
目を合わせないように会っちゃいけない。
「……そっか。嫌なら大丈夫。何もしないよ」
「ご、ごめんなさい」
藍良は事情を深堀しなかった。
でも彼女は知っていた。自分を犠牲にしてでも男性と目を合わせて、自分を救ってくれたことを。
それがどういう行為だったのか、藍良は知らない。
藍良は、彼女の苦しみの根源がそこにあるのだと感じ取っていた。
サングラスで目を隠している理由がわかりかけていた。




