第13話【名前の呼び方】
「妻鳥さん」
灯里は藍良のことをこう呼ぶ。
友達になって日が浅い彼女らは苗字で呼び合っている。
まだ藍良の方も灯里のことは「蛇ノ目さん」と呼んでいた。
しかし、灯里の口少ない状態から苗字呼びまで心を開いているのは快挙である。
他のクラスメイトは声をかけることすら叶えられていない。
最近ようやく挨拶のどもりが減ってきているぐらいだった。
「私達って友達だよね」
「……?」
秘密の教室にて突然そんなことを口走る藍良。
質問の意図がわからず灯里は首をかしげる。
「と、友、友達っ、でっ、いいんでしょうか」
「だよね」
藍良にとっては友達であることは確定しているので、灯里の疑問形には答えず友達という認識で言葉を返した。
「友達じゃなかったら毎日のようにこうやって会わないもんね」
あっけらかんとした様子で事実を確かめるように話を続ける。
そして、「だからさ」と前置きをし、
「そろそろ灯里ちゃんって呼んでいいかな!?」
灯里はその勢いの良さにヒュッと喉を鳴らした。
拒絶の反応ではない。むしろそんなに親しくされるのがちょっと怖い。
「べ、別に、かま構いませんが……」
「OK、今度から灯里ちゃんって呼ぶね」
だとしても灯里自身は呼ばれ方に特にこだわりがなかったため、あっさりと承諾する。
いつになく上機嫌の藍良に戸惑う灯里。
藍良の手はこれからもよろしくと言わんばかりに灯里の手を握っていた。
「なーのーでー」
怖いぐらい笑顔のまま藍良は告げる。
「灯里ちゃんも、藍良って呼んでいいよ」
「ぇぁっ」
そこまでの勇気は灯里にはない。
むしろ馴れ馴れしくしたことで周りから「生意気なんだよぉっ」と因縁を付けられてしまうのではないかと被害妄想に駆られてしまうほどだった。
ああ、神様どうして藍良はグイグイ来るのでしょう。
小悪魔は最近少々強引になってきているのではないでしょうか。
「お」
「お?」
どうにか出した言葉だった。
「恐れ多い……」
「どうして?」
灯里は下を向いて、顔を逸らす。
「誰も責めたりしないって~。藍良!って呼び捨てにしてもいいし」
「む、っむむむ、無理ですっ!」
勢いよく拒否する灯里にドッと笑う藍良。
「じゃあ、藍良って呼びたくなったらいつでも呼んでね」
と藍良は微笑んだ。
「私は灯里ちゃんって呼ばせてもらうから」
自信満々の宣言だった。




