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Find one‘s place  作者: 青海
2/6

働ける場所 前編

見つけて頂きありがとうございます。前回の続きです。読んで頂けたら嬉しいです。

〇働ける場所


明とワトソンは地方百貨店の再生コンサルティングにアサインされている。

YRS株式会社関東支社の白石課長の紹介だ。


「こんな田舎に良く来てくださいました」

フラワー百貨店の佐々木社長が明とワトソンを出迎える。

佐々木社長と白石は親戚で、佐々木社長は白石のことを『美沙ちゃん』と呼ぶ。

白石はこの地域出身だ。

「艶島です。よろしくお願いいたします」

「ワトソンです。よろしくお願いいたします」

二人は印象の良い挨拶をする。

「いやあ、美沙ちゃんから聞いてたけんど、ええ男だぁ。

美沙ちゃんが見染めるだけあるぅ」

佐々木社長は明をまじまじと見ながら、地方訛りで明を褒めた。

「佐々木社長、早速ですが、社員の方々のヒアリングから始めさせて

いただきます」

明が話題をビジネスに戻す。


白石が明に言った個人的な相談とは、

親族が経営する百貨店の再生コンサルティングのことだった。

明は少しがっかりしたが、仕事を紹介してくれただけでも有難いと思うことにした。

明とワトソンは事前に『有限会社 フラワー百貨店』の決算書などの数字を

インプットしている。

現状、売り上げは低下し続けている。人員削減、経費の見直しなど対策をしたが、

軌道修正にはまだ至っていない。立て直しが可能か見極めるために

現地視察にやって来た。


各部門の代表とのモニタリングが始まった。

場所は在庫に囲まれたストックルームの一角。

折り畳み長テーブルを二つ付けて並べ、両サイドにパイプ椅子が置かれた

簡易面談セットを作った。


「失礼しまーす」

20代前半の若い女性社員が入室してきた。

明とワトソンは資料で名前と顔を確認する。

資料の役職には『販売チーフ』と記載がある。

「水野咲奈さんですね。おかけください」

水野は座るなり、はしゃぎ始める。

「イケメンだぁ。こんなイケメンが来るって分かっていたら

フル装備メイクしたのに」

明とワトソンは笑顔で誤魔化し、自己紹介をする。

「コンサルタントの艶島明です。よろしくお願いします」

「艶島さん…」

水野は明を見つめる。

「コンサルタントのワトソンです」

「ワトソンさん…」

水野はワトソンを目を輝かせて見る。

「あの、早速ですが、水野さん、今後の方向性について

ご意見をお聞かせください。改善点、展望など…」

明が質問を切り出すと、水野はあからさまに不機嫌になった。

「こんな若くて可愛い女の子が販売チーフっておかしいでしょ。

みんな辞めちゃったからよ」

「どうして水野さんは辞めなかったんですか?」

「…。ねえ、おらを東京さ、連れてってぇ。嫁っこさしてけろ」

「…」

明とワトソンは再び笑顔で誤魔化す。

「方言にキュンキュンしないの?ああ、今日のメイク、スペック低すぎ。

装備整えてリトライすっぺ」

ゲームで使うような用語を使って水野は一方的に話す。

「お二人、いつまでいらっしゃるの?」

「3か月間でご契約いただいています」

ワトソンが答える。

「リベンジします」

水野はそそくさとストックルームを出て行ってしまった。


次に30代前半の男性社員が入ってきた。明は資料を確認する。

「バイヤーの木原 陽介さんですね。お掛けください。」

木原は座らず、明に話しかける。

「お兄さん、このスーツ、ブランドの新作だべ?展示会で見たことある。

カッコイイなぁ!」

「触ってもいいかぁ?」

「どうぞ。」

木原は明のスーツの腕の辺りを触る。

「うわー、質感が違う。テキスタイルのクオリティーが高い!」

ワトソンは木原の言動に目を配る。

「お兄さん、立ってください。パンツのラインも見せてください。」

「どうぞ。」

明は立ち上がり、木原の方を向く。木原は明の頭から靴まで、

まるでスキャンでもするかのようにじっと見る。

「やっぱり、ええなぁ。この靴も!ありがとうございました!」

木原は明へのお礼もそこそこに、今度はワトソンに近づく。

「外人さんのスーツもおしゃれだぁ。オーダーメイドだべ。

外人さんのワイルドな体にぴったりだあ!」

「Thank you」

「ああ、こんなスーツ、おらの給料じゃ買えねぇ…失礼します。」

木原はぼやくと、ストックルームを出て行った。


次に40代前半の女性社員が入ってきた。

「PB担当の矢田部絢子さんですね。おかけください」

矢田部は座るなり、捲し立てる。

「Fガーデンシリーズを廃止するつもりでしょ?

どうせ時代にあってないとかダサいとか言うんでしょ?

でもね、地域の魅力が詰まったプライベートブランドなの。

ファンもいるんだから。

費用対効果が悪い。工場の運営コストが高すぎる。

そんなこと、ただの百貨店社員の私でも分かる…。」

矢田部は明とワトソンを睨みながら

「そこをどうにかするのがあんたたちの仕事でしょ。」と言い放つ。

「矢田部さんが考える地域の魅力をぜひお聞かせください」

明が宥めるように言う。

「なんで、よそ者のあんたたちに言わなきゃいけないの。棚卸で忙しいの」

矢田部は足早にストックルームを出て行った。


次に50代後半の男性が入ってきた。

「マネージャーの大岩学さんですね。お掛けください」

大岩は座って、腕組みをした。二人と目を合わせようともしない。

「コンサルタントの艶島明です」

「コンサルタントのワトソンです」

二人が自己紹介をしても無視。

「早速ですが、組織全体の改善点などを…」

大岩は明の言葉を遮って声を荒げる。

「おらは反対だったんだ。…弱みに付け込んで、着ぐるみ剥がしに来たんべ。

社長の親族の紹介だって言うから…。しかたなく…。

社長には恩がある。あんたらにはねえ。あんたらの言うことを聞くつもりはねぇ」

大岩はイライラしながらストックルームを出て行った。


ヒアリングを終えた明とワトソンは言葉もなく、頭を抱えた。

歓迎されると思ってはいなかったが、

漫画のようなアウェー感を味わうとは思わなかった。

事態の深刻さを思い知らされる。


ヒアリングの報告をするために社長室に移動する。

社長室に着くと、佐々木社長自らが出迎え、

ペットボトルの水を出す。

「いやいやお疲れ様です。さあ、かけて。秘書も辞めてしまってね。こんなもんしか出せないけんど」

明とワトソンはお礼を言って受け取る。二人の表情が硬いのを見抜いた佐々木社長が話し出す。

「社員たちの態度悪かったでしょ。申し訳ねぇです。皆疲れてるんだぁ。

許してけろや。これでも色々やってみたんだぁ。でも数字に繋がらなくてねぇ。

こんな田舎でもインターネットで家で買い物できる時代だっぺ…。

地方の小売りが駄目になる話なんて、珍しくもない…。

せっかく来て頂いたんだども、閉店もしかたねぇと思ってんだあ。

そん時は少しでも債務を減らして下されば助かりますだぁ」

「佐々木社長、理想と現実は違います。

でも、クライアントの理想に寄り添うのがコンサルタントだと思って、

仕事をして参りました。本当は閉店なんて望んでないですよね?」

明は力強く言った。

「それは…そうだども…」

佐々木社長は明の目力に押されて、本音を漏らす。

「頭の筋肉フル稼働で、御社のバリューを高めます」

「よろしくお願いします」

佐々木社長は頭を下げる。ワトソンは明の仕事ぶりに心酔した。

「あの、これ社有車のキーです」

佐々木社長がポケットから車のキーを出してテーブルに置く。

「ホテルまで送れませんが、ここにいる間、自由に車使って下せぇ」


明とワトソンが駐車場へ着くと、借りている営業車の前に水野が立っていた。

水野は2つの紙袋をそれぞれ明とワトソンに差し出す。

「地元の名物です。お召し上がりください」

「ありがとうございます」

明とワトソンは同時にお礼を言い、紙袋を受け取る。

水野は昼間、面談をしていた時とはまったく違う、思いつめた表情で話し始める。

「働ける場所を残してください。私はここでしか働けない。」

明とワトソンは戸惑いながらも傾聴する。

「なぜそのように思うのですか」

明が優しく問いかける。

「…社会に出るのが嫌だった。仕事なんかしたくはなかった。

1日中ゲームして、2次元の世界から出たくなかった。外の世界が…3次元が…」

水野は言葉を詰まらせる。

「怖かったんですね」明が察して続ける。

「いつキルされるのかいつも不安…社会は敵だらけ。攻略方法なんてない。」

水野の話を聞いて、明はまた過去がフラッシュバックした。

社会は敵だらけ…智香が戦うことをもっと早く止められていたら…。


ワトソンは明の表情が曇り、心配になる。

「明さん…大丈夫ですか」と小声で呼びかける。

明ははっとして、ワトソンにアイコンタクトをする。

「私の母もフラワー百貨店で働いていたの。働くイメージはここでしか持てない。

ここにしか私の居場所はないの。よろしくお願いします」

と水野は深々と頭を下げる。

「水野さん、頭を上げてください。我々もたまにゲームをします。

ラスボスを倒すまで、何度でもリトライしますから。どんな装備が必要か、

頭の筋肉をフル稼働で考えます。」

明は自然に相手を包み込む。

「水野さんは居場所を自分で作り上げた。頑張ったんですね。

僕は3つの国で暮らしたことがあります。

子供の頃、日本からアメリカに移住した時は本当に心細かった…。

水野さんのステージを守るため、戦略をひねり出します。」

ワトソンも一言添える。

明はワトソンがクライアント社員に優しい言葉がけをするなんて珍しいと思った。

「ありがとうございます」と水野はやっと笑顔を見せた。


大きく『フラワー百貨店』とペイントされた営業車を明が運転している。

田舎の道は電灯が少なく、周囲は静寂に包まれていた。

明の運転する車のヘッドライトが、

暗闇を切り裂くように前方を照らしている。

明は道が暗くて見通しが悪いなと思いながら慎重に運転していた。

季節は3月で、時間もまだ19時過ぎなのに…。暗すぎる…。

助手席のワトソンは運転している明を横目で見ながら、

ドライブデートのようなシチュエーションに浮かれていた。

「ワトソン、何ニヤニヤしているんだ?」明がワトソンの視線を感じて聞く?

「何でもないです」

ワトソンは慌てて表情を堅くする。

「熊とか、出てきたら教えろよ。暗くて見えない」

「はい。分かりました」

ワトソンは明をずっと見ていたい気持ちを抑えて、前方に視線を向けた。


数分後、ホテルの部屋。

明とワトソンはホテルの部屋に辿り着く。

「さすがに疲れたな」と明がぼやきながらベットに座り込む。

「運転、お疲れ様でした」とワトソンは明を労う。

浮かれていたワトソンはまったく疲れてはいなかったが、

明に合わせて向かい側のベッドに座り、

「色々ありましたね…」と言ってみる。

「今いる社員さんたちは会社に愛着があるんだろうな。泥船だと分かっていて、

降りないんだから。ポテンシャルを感じるよ」と明が言う。

明の言うことは深みがある。説得力が違うとワトソンは感心する。

「そういえば、ワトソン、日本で生まれたのか?」

突然、話題が自分のことになり、ワトソンは嬉しくなる。

「はい」

「へー、ワシントンかと思ってた」

「5歳まで日本の離島で育ってます。」

「離島なんだ。さっき、水野さんにキャラじゃないこと言ってたから、気になって」

「キャラじゃない?」

「自分のことを話して誰かを励ますなんて、今まで一度もなかったじゃん」

「それは…明さんがダメージくらって…HPが残り少なそうだったから…」

「はあ?くらってないっつの」と言いながら明はワトソンの隣に座る。

ワトソンは何事かと思いドキドキする。

「よく出来ました」と明がワトソンの頭を撫でる。

「…な、何するんですか…もう子供じゃありませんよ」

ワトソンは驚きつつも、褒めれて胸を躍らせる。

約3か月間、24時間、明と一緒にいられる。

仕事が終わった後もたわいもない会話が毎日できる幸せ。

自分のことを知ってもらう喜び。

田舎の古びたホテルもワトソンにとっては王子様と暮らすお城。

ツインの部屋を押さえてくれたファームの事務員、吉永さんに感謝。

「明日から、どうするか…。せっかく来たんだから隈なくリサーチだな」

「はい」

「その前に…俺は脱ぐぞ、ワトソンも脱げ」

「はい?」

ワトソンは再び何事かと思う。

ドキドキしているワトソンを尻目に明はスマホで通話を始めた。

「佐々木社長。先ほどはどうも、一つお願いがあるんですけど…。

はい。よろしくお願いします」

明は通話を終えると「温泉行くぞ」と言って立ち上がった。

ワトソンは「脱ぐ」=「温泉」の意味を理解し、落ち着きを取り戻し、

クールに答える。

「僕は後で良いです」

「え、何で?折角、吉永さんが温泉付きのホテル予約してくれたのに」

「入らないとは言っていません。後で」

「いいじゃん。一緒に入ろう」と明が甘えた声を出す。

「NO。パワハラで訴えますよ」

「こわ。そういうとこはちゃんとアメリカ人だな」

明はブツブツ言いながら風呂の用意をし、部屋を出た。


ワトソンは寂しさが込み上げてくるのを感じた。

「多くを望まない」と自分で決めたルールを心の中で唱え続ける。



読んで頂きありがとうございます。続きを近日中に投稿します。よろしくお願いいたします。

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