働ける場所 後編
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〇働ける場所 後編
翌朝、
ワトソンは明より早く目を覚ます。
隣のベッドで寝ている明の寝顔をうっとりと見つめ、同じ部屋で寝た余韻に浸る。
「今日はベッドから出たくないな」と願ったところで、スマホのアラームが鳴った。
明が目を覚ます。寝ぐせがひどく、頭だけハリネズミのようになっていた。
ワトソンは可愛らしい明の姿を見られたことで、
「仕事なんてどうでも良い。このままここにいたい…」と不良な考えが浮かぶ。
そんなことをワトソンが考えているとは微塵も思わない明は、
「俺、風呂行ってくるわ」と欠伸交じりに告げて、寝ぼけたまま部屋を出た。
ワトソンはなんとか気持ちを仕事モードに切り替えて、
ベッドから出る決心をした。
明とワトソンはホテルの朝食会場で朝食をとっていた。
メニューは、鯖の塩焼き、郷土料理のいちご煮、つくだ煮、
採れたて野菜のサラダ、そして炊き立てごはん。
地元の食材を使った、健康に良さそうな料理が並んでいる。
ワトソンは、美味しそうに食べる明を見ているだけで満足感を覚えた。
朝食後、明とワトソンはホテルの駐車場へ向かった。
フラワー百貨店に到着すると、社長室に顔を出す。
「おはようございます」
二人が挨拶をすると佐々木社長が出迎える。
「いやいや、今日も朝からありがとうございます。
今、制服を持ってくるすけ」と
ハンガーにかかった制服を持ってきた。
「ありがとうございます」と明が受け取る。
「辞めた社員の制服がたくさん余ってんだ。サイズが合わなかったら言ってけろ。
着替えや事務仕事は隣の部屋を使ってけろ。秘書室だったんだけんど、
今は誰もいねぇから」と佐々木社長が暗い話題を地方訛りでケロッと話す。
「お気遣いありがとうございます」と明は胸が痛む思いを抱えながらも明るく返事をした。
明とワトソンは制服を持って、元秘書室へ移動する。
ワトソンは制服をまじまじと見る。
色は白に近いベージュで、トップスのデザインはシンプルなブレザー。
ボタンは学生の制服のような金色で、花のモチーフがあしらわれている。
パンツのラインはストレート。
ワトソン好みのデザインではなかった。
着替え始めないワトソンに、明は声をかける。
「ワトソン、早く、脱げ!」
ワトソンが明の方を見ると、既に着替えを終えていた。
百貨店の制服も、明が着ると映える。
思わず見とれてしまうワトソン。
「俺は脱いだぞ。郷に入れば郷に従えだ。俺たちの本気度を見せるんだよ!」
ワトソンはホテルでの明との会話を思い出す。
『脱げ』とはアウェー感を少しでも減らす明の作戦だった…。
「コスプレだと思えば良いんだよ」明はためらっているワトソンに畳み掛ける。
「僕にはそんな趣味はありません」ワトソンは抵抗する。
「きょ、強制じゃないぞ…パワハラじゃないからな。訴えるなよ」
明は少しひるむ。
「仕事ですから、着替えます」ワトソンは明が困惑している様子に慌てて、
着替え始める。
そして、昨日から自分のパワハラ発言のせいで
明との距離感が広がってしまったようで、残念に思う。
ワトソンはまた「多くを望まない」と自分で決めたルールを心の中で唱えた。
着替え終わり、二人が廊下に出ると反対側から大岩がやってきた。
大岩は二人の制服姿に驚いて立ち止まる。
「おはようございます!」と明とワトソンが挨拶をする。
「おはようございます。着る服を変えても中身は変わらない」と大岩は言い放ち、
そそくさと歩き出す。
「中身を認めてもらえるよう、しっかり成果を上げます!」
明は大岩の背中に向かって宣言した。
明とワトソンはストックルームに向かう。
「なんて恰好してるんですか? ブランドスーツはどうしたんですか?」
明とワトソンの制服姿を見て、木原が驚く。
「どうですか。似合ってますか?」明が聞くと、
「って聞かれても…」と木原がお茶を濁す。
周りではスタッフ達が洋服が沢山かかったラックを押したり、商品を段ボールに
詰めたりしている。
「今日は確かアパレルのテナントが撤退する日ですよね…」明が確認する。
「よくご存じで… 社長がテナント料半額にする交渉をしたんだけど、駄目だった。
『フェバーイエ』さんに出て行かれたら、おしゃれ度がゼロになってしまう」
木原がため息交じりに説明する。
「おしゃれな服はブランドにこだわらず、
木原さんのセンスで仕入れれば良いんじゃないですか。
木原さん、センスありますよ」明が木原のセンスについて触れる。
「急に何?私服を見たことのないくせによく言いますね。それともオーラ出てます?」
「オーラはよく分かりませんが、数字は把握しています。」明は笑いながら答える。
「資料を見ました。木原さんが仕入れた服は売れている」ワトソンも応戦する。
「東京の人に褒められると嬉しいな」木原は照れる。
ワトソンは『誰もがこの人の魅力には抗えないのだ』と思った。
明は相変わらず、人の懐に入るのがうまい。
「話は全然変わりますけど、髪を切りたいです。お勧めの美容室教えてください」
明が急に話題を変える。
「いいですけど…」
木原は怪訝な顔をする。
ワトソンと明が売り場に出る。
撤退したテナントがいくつもあり、幕で覆われたスペースが目立つ。
客入りは疎らだ。それでも残っている売り場のディスプレイは整っている。
「いらっしゃいませ」
閑散とした空間に水野の元気な声が響き渡る。売り場の空気が明るくなった。
「何かお探しですか?」
水野が高齢の女性客に声をかける。女性客はホッとした表情を見せる
「孫にプレゼントを送りたいんだけど」
「いいですね。ご案内しますね。お孫さんは男の子? 女の子?」
「女の子。小学5年生」
「だったら、お洋服とかバッグが喜ばれると思います。こちらです」
女性客は有難がって、水野について行った。
明は水野の仕事ぶりを観察する。質の高い接客にはニーズがある。
水野は顧客のニーズに応えるスキルがある。
明は隣のワトソンの表情を見て、同じことを考えていると確信した。
ワトソンと明はPB「Fランドスケープ」の売り場に来ている。
Fはフラワー百貨店のFとふるさとのFの2つのコンセプトが込められている。
商品のラインナップは、
風景写真がプリントされたTシャツ、バッグ、スカーフなどのアパレル商品。
花柄などボタニカル柄のカトラリー雑貨がメインだ。
「コンサルさんって、ここまでしなきゃいけないんだね。うける」
矢田部はワトソンと明の制服姿をいじる。
「コンセプトが伝わる良い商品ですね」
明が売り場の商品を見渡しながら話す。
「根強いファンのお客様がいるのよ。どこかで見たことがあるようだけど、
ちゃんとユニーク。そこが素朴な魅力。モチーフは地元の写真サークルの作品」
「見てい穏やかな気持ちになります」と明が感想を伝える。
「どう?」
矢田部はワトソンに話を振る。
「ユニークだと思います」
ワトソンは本当のところはよく分からなかったが、ビジネスライクに答える。
「サンプルをお借りしても良いですか?」
「もちろん。ちゃんと価値を検証して」
矢田部は必死に訴えた。
ホテルの廊下。
本日の仕事を終え、ワトソンと明はホテルの廊下を歩いている。
ワトソンは駐車場から段ボールを運んでいて、視界が悪い。縦横高さすべて50cmはある段ボールだ。
中身はフラワー百貨店のPB『Fランドスケープ』のサンプル。
Tシャツ、バッグ、スカーフ、スプーンなどがたくさん入っている。
部屋の前に着くと、明がドアを開ける。
「ワトソン、ゆっくりな」
明がドアを押さえながらワトソンを気遣う。
「はい、何とか」
ワトソンが部屋に入る。段ボールで視界が遮られ、ベッドの角に躓いてよろめく。
段ボールは放り出される。
明が慌てて駆けつけ、ワトソンを支えようとするが、支えきれずに二人ともベッドに倒れ込む。
明がワトソンの上に覆いかぶさるような体勢になり、
明の唇がワトソンの首元に当たる。
ワトソンは心拍数が上がり、呼吸が早くなっていることを自覚する。
サンプルが部屋中に散らばった。
明はすぐに立ち上がり、散らばったサンプルをテーブルに並べはじめている。
ワトソンは動けない。
「矢田部さんに見られなくて良かった。ワトソン、気を付けろよ。って、いつまで寝てるんだよ」
明がベットの上で仰向けになっているワトソンに手を差し出す。
ワトソンは迷う。そして、
「すみません」と謝罪しワトソンは明の手には触れずに立ち上がる。
「これってセクハラか?」
明はまた、少しひるみ、オーバーリアクション気味に手を引く。
ワトソンは心臓の音が明に伝わってしまいそうで、
明の手をとることが出来なかった。
明とワトソンはサンプルをテーブルに並べて、検証している。
「このPBのバリューは何だろう?」
明はサンプルのTシャツを手にしてつぶやく。
「地元のアイテムがプリントされていて、ブランドストーリーは確立しています。アイデンティティもあります。」とワトソンが冷静に分析する。
「素材も良い。デザインも良い。総合的にクオリティーも高い。
特定のセグメントの顧客にニーズもある。価値のあるPBだよ。だけど、
作り続ける体力が今のフラワー百貨店にはない…」
「オンライン、オフラインのそれぞれの戦略を試した結果が現状ですよね…」
ワトソンはタブレットで資料を確認しながら答える。
「飲みに行くぞ」
明が唐突に提案した。
「え、あ、はい」ワトソンは驚きながらも応じた。
「地元の酒を飲んで、名物料理を食べれば、何か思いつくかも」
明とワトソンは地元の居酒屋に入った。
テーブル席が3つ、あとはカウンターだけのアットホームな作りだ。
「あ、コンサルさんと外人さん」
カウンター席でフラワー百貨店の社員、矢田部が飲んでいた。
矢田部は「Fランドスケープ」のフラワー柄のブラウスとワイドパンツの
セットアップを着ていた。
明とワトソンは突然客に話しかけられて戸惑ったが、
洋服のコーディネートですぐに矢田部だと分かった。
「一緒に飲もう。こういう接待的なのって、経費で落ちるんじゃない。
おごってよ」
矢田部の態度は仕事の時とは違いフレンドリーだ。
ワトソンは嫌な予感がして、明と矢田部を近づけたくなかったが、
明が拒むはずがないことを知っていた。
「ご一緒しても良いんですか?」
明は笑顔で矢田部の隣に座り、
「良いコーディネートですね」と矢田部の服装を褒める。
明が流れるように自然に矢田部の隣に座ってしまい、ワトソンは出遅れる。
しかたなく、作り笑いを浮かべて明の隣に座る。
矢田部がカウンター席の端に座っていたので、反対隣に座ることができなかった。
右から、矢田部、明、ワトソンの並びになった。
「何、飲まれてるんですか」
明が矢田部に聞く。
「『男山』。地元のお酒でこれが一番好き。
よかったら、コンサルさんと、外人さんも飲んでみて」
「はい」
明が返事をすると、矢田部が店の大将に注文する。
大将は日本酒の準備をしながら、矢田部をひやかす。
「あやちゃん、イケメン彼氏が二人も出来たんかい?」
「まさか、職場に来た、コンサルさんと外人さんよ」
「コンサルタントの艶島です」
「ワトソンです」
二人は大将に自己紹介をする。
「へー、コンサルさん」
大将も明とワトソンを職業名で呼んだ。コンサルタントという職業のことを
よく分からない人の反応だ。明とワトソンはこの反応に慣れている。
「はい、『男山』ね」
大将は明とワトソンの前のカウンターに冷酒のグラスを置く。
明とワトソンが受け取る。
「ごめん、今気づいた…外人さんの飲める?」
矢田部が軽い感じでワトソンに聞く。
「はい。ぼくは日本人とアメリカ人とのミックスなので」
「え?ハーフだったんだ。見た目にアジア要素ないね」
「よく言われます」とワトソンは適当に流す。
「サンプルは見てくれた?」と矢田部が切り出す。
「ええ」明が答える。
「ありがとう。なんかさあ、子供みたいに思っちゃって…。
コンサルさん、結婚は?」
「結婚はけっこうハードルが高くって、まだです」
明の定番のダジャレが出た。
「へー、おやじギャグ言うタイプか」
矢田部は明のギャグに突っ込む。
「『おやじ』いります?ギャグのつもりなんですけど…」
「『おやじ、ギャク』ってなんですか。『ダジャレ』とは違うですか」
ワトソンが聞く。
「外人さん、おやじギャグ知らないのね。だめじゃない。
部下をしっかり教育しなきゃ。おやじギャグとダジャレの違いはね。
えーと、あ、氷…アイス…」
矢田部は空いたグラスに残っていた氷をワトソンに見せる。
「おやじギャグはおやじが言う…大しておもしろくもない…
その場が氷つくようなギャクよ」
「そうなんですね。」
ワトソンは大袈裟に感心して、矢田部の突っ込みを際立たせる。
「矢田部さん、勘弁してください。部下に変な日本語教えないでください。
俺の中では伊月なんです。男バスだったんで」
「コンサルさん、男バス?私、女バス」
「男バス?女バス?イズキ?」
ワトソンが割って入り、会話が盛り上がるのを阻止する。
「男バスは男子バスケットボール部、女バスは女子バスケットボール部のこと。
伊月君はダジャレを言う漫画のキャラクター。高校生のバスケ部の話」
「で、話をおやじギャグに戻すけど」
「戻さなくて良いです」と明がむくれる。
矢田部は明を見つつ、ワトソンに話す。
「伊月君が言うのは『ダジャレ』。コンサルさんが言うのは『おやじギャグ』
Do you understand?」
「Yes」
「とどめを刺さないでください」
「僕とbasketball一緒にしましょう」
ワトソンはうろたえる明をフォローするつもりで話題を振ったが、
「嫌だよ。ワトソンとだけは絶対、ノー」と明が拒む。
「Why?」
「ビジュがね…。外人さんはシュート外しても様になるからね」
ワトソンは矢田部の発言にイラつく。『外人』という呼び方も最初から気に入らない。
明と馴れ馴れしく話す女性は全員気に入らない。
明がバスケットボール部であったことを知れたことは嬉しい…。
「はい、沖さばの刺身ね」
大将が絶妙なタイミングで刺身を出す。
「大将、分かってる。ここにきたら沖さば食べないと」
矢田部が明とワトソンに勧める。
明とワトソンは沖サバの刺身を食べる。
今まで食べた鯖の中で一番おいしいと思った。
ワトソンのイライラも沖さばのうまみに丸めこまれて消化された。
「私はバツ1。子供が産めないと田舎では肩身が狭い…」
矢田部は一度俯いて、ゆっくり顔を上げ、遠くを見つめながら自分語りを始めた。
「時代のせいにしたくないけど、氷河期世代なの。あ、『就職氷河期』ってのは」
矢田部は再度、空いたグラスを掲げて、ワトソンに見せる。
「日本の大学生が就職するのが大変な時期があったの。またまた、氷の出番。
『必要ないです』って企業から冷たくされちゃうの」
ワトソンは黙って頷く。
「で、就活に失敗して、出戻ったわけ。その後、結婚にも失敗するんだけど」
「苦労されたんですね」
明は矢田部の気持ちにも寄り添うような言葉がけをする。
「嫌なことばかりじゃなかったわよ。入社して3年目くらい。
景気が少しだけ回復した頃、PBを立ち上げることになって。
プロジェクトメンバーに入れてもらって…」
明とワトソンは矢田部の表情を観察しながら、耳を傾ける。
「忙しかったけど、企画が通った時は嬉しかったな。自分達で一から作った商品を
お客様が喜んで購入して下さって。はじめてやりがい的なこと感じて。
それまではさ正直、『なんでこんな田舎で働かないといけないの』って思ってた。
よくある話」
明は矢田部の言葉の重みを受け止める
「『よくある話』でまとめられることではないですよね。先ほど『子供みたい』だと…」
「でも、子供じゃない…。最初に言ったでしょ。私にだって分かるって。
今のPBは時代に合わない。コスパが悪い…。自社工場を売却して、
運営資金に回した方が良い」
「矢田部さん…あの」
「氷河期世代の遠吠えよ。どうでもいい人に…無償に噛みつきたくなる時があるの」
矢田部は明の言葉を遮り、吐息のように吐き出す。
「好きなだけ噛みついてください。我々はどうでも良いコンサルタントですから。
数か月後にはいなくなります。遠慮はいりませんよ」
「コンサルさん…名前何だっけ?」
「艶島です」
「艶島さん、よろしくお願いいたします。人情深い社長は決断が出来ない…
働ける場所を残してくれたそれでいい」
矢田部の態度が変わる。
明のファームの依頼がつきないのはコンサルティングスキルだけじゃない。
この人柄に需要があるのだ。
明とワトソンはホテルの部屋に戻ってきている。
部屋に置かれたPBのサンプルが入った段ボールを、明はじっと見つめている。
表情は虚ろだ。
「明さん」
ワトソンが呼びかける。
「ん?」
「コンサルタントはカウンセラーじゃありませんよ」
「何だよ、いきなり」
「クライアントの要望は、働ける場所を残すことです」
「だから、分かってるよ」
「そのための戦略を練りましょう」
ワトソンは時々心配になる。
明がクライアントの気持ちに寄り添い過ぎて、壊れてしまいそうで。
二人の休日。
「髪切りに行くぞ」と明がワトソンを誘う。
ワトソンは、こんな田舎の美容室へ行くのは遠慮したかったが、
明と一緒に出掛けられるのなら…それで良いと思うことにした。
明とワトソンは海沿いの田舎の美容室へ着いた。
色褪せた看板の「ヘアサロン大野」の文字。
狭い店内は3席しかなく、最近あまり見なくなった数字の大きなアナログ時計がかかっていた。
ワトソンは島に住んでいた頃を思い出し、タイムスリップしたような感覚になった。
「こんにちは」
誰もいない店内の奥へ明が呼びかけると、店主夫婦が出てきた。
奥さんの方が二人を見てはしゃぎ出す。
「あら、何?ドラマの撮影?芸能人?」
「違いますよ。お上手ですね。木原君に教えてもらって来ました。カットをお願いします」
明は愛想よく笑う。
ワトソンは見た目60歳くらいに見える美容師に、どんな髪型にされるのかばかりが気になった。
「ああ、木原君。ということはフラワー百貨店に来た、東京の人かあ」
店主が思い出す。
「はい」
「さあさあ座って。よく来てくれたなす」
奥さんは地元の方言で二人を席に案内する。
明を奥さんが、ワトソンを店主が担当することになった。
「木原君、服のセンスありますね」
明が話題を振る。
「陽介君も苦労したからね。畑仕事しながら、通信制の高校通って、
洋服の勉強して。本当は都会に出たかったみたい…。東京の人は今時?
って思うかもしれないけど、家を守るとかそういうの田舎にはまだあるから…」
「木原君がおすすめする洋服だったら買います?」
「もちろん。私だけじゃなくて、みんな買うと思う」
ワトソンは隣の席の奥さんと明の会話を聞いていた。
昼、地元の食堂。
明とワトソンは美容室の店主夫婦が教えてくれた、
地元の食材を使ったおいしい料理と地ビールがおすすめの食堂に来ている。
店内は木の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気が広がっていた。
二人はテーブル席に座り、ビールが来るのを待っている。
「ワトソン、髪型似合ってるぞ」と明がワトソンが褒めると
ワトソンは分かりやすく顔をほころばせる。
「ダサい髪型にされたらどうしようって思ったろ?」
「思ってません」
「良く言うよ。ワトソン自分ではクールだと思ってるかもしれないけど、
ダダ漏れで、分かりやすいからな。」
「そうですか?」ワトソンは動揺する。明は続ける。
「地方の美容室は地元の方々の交流の場所だ。貴重な情報源だぞ。覚えとけ。」
「勉強になりました」
ワトソンは素直に聞き入れる。店員が地ビールとグラスを運んでくる。
「お待たせいたしました。こちら『カネクポーター』でございます。
黒ビールの香ばしさもお楽しみください」
「ありがとうございます」
と店員にお礼を言う明を、素敵だと思いながら、ワトソンは見つめている。
好きな人の良い所は輝いて見えるし、欠点は愛おしく思う。
3か月の間、明とワトソンは百貨店の再生に向けて尽力する。
テナントの見直しを行い、アパレルにこだわらず、地元のお客様が利用しやすく、
高いテナント料が見込める企業を誘致した。
木原を名物バイヤーとして起用し、売り場には木原のおすすめコーナーを設けた。
さらに、地元の高齢者支援施設との連携を深め、
お買い物レクリエーションのコースに
フラワー百貨店を組み込んでもらうよう交渉を重ねた。
これらの取り組みにより、二人は社員たちの間で「コンサルさん」「外人さん」と
呼ばれることもなくなり、フラワー百貨店は再生の兆しを見せ始めた。
ワトソンと明は、社員たちが自立して業務をこなせるよう、丁寧に指導を行った。
契約最終日。
開店前の朝、社員たちに見送られながら、二人は店を後にしようとしていた。
「東京に連れてってくれないの?」と、水野が冗談交じりに声をかけた。
「水野さんは、経験値を上げて、カンストを目指してますよね」とワトソンが笑顔で返す。
「働ける場所を残してくれてありがとう」水野は感謝の言葉を伝える。
矢田部が、いつもの調子で話し始めた。
「私、働ける場所にしがみつく。また、PB一から作るから、
今度はお客様として買いに来て」
「はい」と、二人は笑顔で答えた。
大岩は、少し照れくさそうに言った。
「正直、コンサルタントなんて、平気で人を騙す詐欺師のようなもんだろって
思ってました。艶島さんとワトソンさんはプロだった。ありがとうございます」
「ありがとうございます」と、二人は深く頭を下げた。
木原が、少し照れくさそうに頼み込んだ。
「東京に遊びに行ってもいい?兄貴?」
「待ってます」「Of course」と、明とワトソンがそれぞれ答えた。
佐々木社長が、社員たちを見渡しながら締めくくった。
「お二人が軌道に乗せてくれたので、後は自分たちで頑張っていきます」
「また、何かあれば遠慮なくご相談ください」と、明が爽やかに答えた。
佐々木社長が、にやにやしながら言った。
「遠慮はしねえ…もうすぐ親戚になるだっぺ?」
明は笑って誤魔化す。
ワトソンは考えたくないのに先のことが頭に浮かぶ。
明が佐々木社長の親戚になる日がきたら…。
読んで頂きありがとうございます。近日中に続きを投稿します。よろしくお願いいたします。




