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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
迷宮編
97/138

閑話~勇者、迷宮に挑戦する・中編~

次回で…

~フェルペン・冒険者ギルド~


「すみません。お待たせしました。こちらです、勇者様。」


 龍志とルマノが自分たちと同年代のギルド職員に案内されるまま通されたのは、来賓用の客室。そこには色々と書類が積み上げられており、調度品を台無しにしている。また、机に対して椅子を三角形の形で配置しており、一番入り口に近いところに五十代の男は座っていた。

 平然と作業を続けている彼は、二人に視線を送って、彼から見て右に座るように手を差し伸べる。龍志とルマノは彼に従い、かなりの品質のソファへと腰をかけた。


「ふぅー、これまでの活躍は聞いているぜ。俺はここの冒険者ギルドのマスター、エンドル・セントという。その隣に座るのは、王弟陛下だ。もう少ししたら来ると思うぞ。」

「リュウシ・アサノです。よろしくお願いします。」

「よろしくリュウシ。王女様は自己紹介いらないから。ルマノ王女、いい男を呼んだもんだ。」

「ええ。いい勇者様ですよ。」

「嫁ぎ先、いや婿としては最高だろうに。縁談の話は勇者の旅を理由に断っているようだが、優良物件がすぐ隣にいるのが、本当の理由ではないだろうか?」

「お答えしかねます。話に聞いた通り、下世話なお人ですね。王族相手に不敬な態度で接してくるとは、なかなか剛毅です。」


 ルマノとエンドルとの間に火花が散っているのは気のせいだろうか?

 隣にいる王女との関係をいつも邪推される龍志にとっては、慣れたものだが、ルマノは頑なに否定する。そんな様子に、男としてやや落ち込むものだ。

 顔色が優れない龍志に気づいたエンドルがルマノに挑発的な態度をとるのをやめ、謝罪した。


「これ以上は勇者の方がダメージがでかそうだ。すまなかった、ルマノ王女様。興味本位で首を突っ込みすぎた。心から謝罪する。」

「え?………受け入れます。少なくとも、今は勇者様の仲間です。……恋人になることが勇者様の最善になるとは限りませんから。」

「「…」」


 男二人は黙った。ルマノの中にはちゃんとした基準があり、別に龍志のことが嫌いというわけではなさそうだ。それが()、距離を詰めることをよしとしていないだけで、ないわけではないと。

 エンドルが龍志の肩を叩く。それに龍志はエンドルの肩を叩き返した。男二人の仲が進んだようだが、ルマノは首を傾げてそれを見るだけだ。

 そんなやり取りをしていたからか、最後の役者がそろう。王弟が妙齢の侍女を引き連れて扉を開き、入室してきたのだ。場の空気が激変する。


「久しぶりのようだ。ルマノ!会いたかったぞ~!!」

「くっつかないで。叔父さん、三年ぶりですか?ご無沙汰しております。で、この場は真面目な話をする場所ですよね?…治っていないんですか?ロリコン。幼女の敵。罵られて喜ぶ変態。」

「うっ!!そ、そんなことはないぞ…。しょ、紹介しておきたいこともあるし…ルマノ、そちらの方がルマノの愛しの君だね?」

「なんですか、愛しの君って。こちらが龍志さん。勇者様です。決して、愛しの君なんて呼んでいいのは…叔父さんだけは絶対に却下。」


 様々な貴族に対して優雅な姿勢を崩さなかったルマノが、王弟をこき下ろすような視線と言葉で容赦なく責めた。それに対して、どこかはぁはぁしそうな雰囲気がある王弟に、ドン引きする勇者とギルド長、侍女の三人。

 冷たい態度を柔和させ、いつもの笑みを浮かべたルマノは、とりあえず叔父(王弟)を拳で座らせて、エンドルに本題に移るように促した。


「お、おほん。我らが現在調査している最中だが…暫定的に分かったことがある。第五層あたりから難易度が急激に上昇している。また、死霊系が出没するようになっているようだ。セイレーンのように階層を上がってきている個体は他に見られないようだが、現れだすのも時間の問題かもしれん。」

「なるほど、なるほど。今までにそんなことあったとは聞いたことがないぞ。王家の文献を探せば見つかるかもしれないがな。それで、冒険者ギルドに便宜を図ればいいのか?」


 王弟の問いに、エンドルは無言を返す。それから、手元にある資料を適当に机へと置いた。龍志たちにその内容が入ってくる。読み取れたのは……戦力不足だということだ。

 普段活動している黄ランク(上級)以上が全て出払っており、その一つ下、緑ランクの冒険者も数えるほどだ。すでに、ギルド員の調査隊とともに、ダンジョンに入ってしまっている。

 プレ・アスタイト家直轄地にある冒険者ギルド本部には連絡をして、黄ランク級冒険者『氷の魔術師』と、教会方面に連絡をしているが、リヒト教会は参加不可、フォイアー教会はまだ連絡待ちといったところだ。幸いなことに、各地に点在している教会から数百人に規模で増援が決まっている。


「どうやら、リヒト教会は別行動をとっていた仲間のために遠征の準備で忙しいらしい。聖女の力は借りられないそうだ。『氷の魔術師』がここに来るまで馬を急がせても数日はかかる。増援も同様だ。」

「ふむ。ここ数日の防衛が肝になる訳だね。聖女の力を借りられないのは惜しいところだが、小言を言われなくて済む。しばらく前に、彼らに力を間接的に借りたばっかりだ。」

「……あの馬車の魔石か。確かイウド辺境伯で起こった魔物行進(モンパレ)で手に入れたやつ…確か聖女が出撃したんだったな。とにかく、王弟陛下の仰る通りだ。大規模な侵攻の体制が整うまで、勇者一行と王弟陛下には力を貸してほしい。」

「私の方は義務だからね。ここだと消費よりも貯蓄の方が倍になって気が狂いそうになる。丁度いい、大盤振る舞いすると約束しよう。勇者君の方はいいかね?」


 龍志は「勿論、引き受けます」と了承し、ルマノは両拳を胸の前で合わせ、瞳に戦意をたぎらせて叔父に気を当てる。

 叔父の額から汗がダラダラと流れ落ちているようだが、了承したことは伝わったらしい。


「俺の方からは以上だ。さっき案内させた受付嬢に詳細は話してある。勇者殿はそこから情報を手に入れて動いてほしい。ルマノ王女に『豪鬼』、『風送』といった面々がいるんだ、こちらで統率をとるより遊撃として動いてもらう方が、最善になると俺は思っている。」

「『豪鬼』?」

「グンガイ団長の二つ名ですよ、龍志さん。本人は複雑な表情をするので、彼の前で言うのはよした方がいいと思います。」

「リヒト教会の『鬼神』と『豪鬼』で『相克の二鬼』とか呼ばれることもあるぐらいだ。まぁ、勇者殿も活躍次第で、二体の鬼が三体に増えたりするかもしれない。…既に〈勇者〉が二つ名みたいなもんだからなぁ…まぁ、知名度についてはもうこれ以上いらないようだし、こちらとしても、報酬を出すつもりだ。存分に暴れてくれ。」


 肩をすくめる王弟からも、支援金を出してもらえることになり、話は終わった。

 早速、龍志たちはその晩に力を振るうことになる。


「龍志さん、桃花さんのカバーに!」

「分かったよ。『瞬転』」

「賢者様、そちらに飛ばすと…」

「う、うん。…ごめんね、ルマノ。」

「問題ないよ、由奈ちゃん。」

(……勇者一行、尋常じゃねぇ…)


 周囲の騎士は吟遊詩人と共に流れてくる噂が本当だったということを悟った。

 調査隊が命からがら逃げだしてから、数時間後。迷宮から魔物が溢れ出し、先行する形で来ていた王弟の私兵と騎士たちと激突し、火花と魔法が入り乱れた。そこへ勇者一行が駆けつけてからは、勇者一行が中心で暴れ、それを支援する形で、参加しつつ羽を休めている。

 荒い。熟練の戦闘力を発揮するグンガイやルマノに比べると、龍志や桃花の動きはそう判断できる。しかし、ステータスと魔法、それを支える精神力が異常ともいえる程、強い。


「メイスを主武装にする『鮮血姫』と呼ばれる女性が一人旅してるらしいんだが…もしかして…」

「…回復魔法を使いながら、戦線維持とか狂気の沙汰じゃないだろうに。あっ、腕の肉が…流石にやば…」

ドチュッ!!

「「…」」


 桃花が自分の肉を抉った犬型の魔物をメイスで潰しつつ、光魔法で再生していく。それから真っ赤な薬品を口にし、近寄ってきた魔物たちに対して、由奈の風を纏ったメイスを薙ぎ払った。魔物たちが吹き飛び、そこをすかさず、私兵たちが魔法と矢でうち貫いていく。


「やけに肝が据わってやがる…」

「この戦いが終わったら、声をかけてみようかと思ったけど、やっぱりやめる。まだ、息子と別れたくない。下手をすれば潰されそうで怖い。」

「…」


 桃花の風評被害が広がり、冒険者ギルドや騎士団の男たちから距離を置かれてしまう。彼女本人は、「フフフ」とそれを知っても笑うだけで、何の抗議もしなかったそうだ。…余計に、距離を取られることになるのだが、未来の話だ。

 そんな桃花とは別の方向の感情を向けられているのは、由奈とハウの二人だった。後衛職である二人だが、ハウは短剣を主体に立ち回りをみせ、対し、由奈は近距離だろうが、遠距離だろうが、魔法を解き放つ。弓をつがえる兵士は再び同じ距離まで転がって来た魔物の頭に対して矢を放ち、絶命させた。

 噂ならば相手を容赦なく溶かす酸の雨を降らしたり、業火で焼き払ったりと派手な魔法を撃つという、賢者の印象と合致しない。時たま、炎の鳥を飛ばして数体を同時に火だるまにしているが、地味な攻撃の方が多い。それに、ハウも弓をしまっており、得意な弓術を使わずにルマノや龍志のサポートに回っている。そのため、弓使いという印象は全然感じられない。


「いたって普通だよな?」

「魔法職で魔法が得意とか、近接戦闘が得意な弓使いは想像の範疇といえばそうだ。あちらの『鮮血姫』に比べると、パッとしない。」

「その分、安心して声かけられそうだよな。」


 二人の方が…桃花より過激なのだが、男たちの知る由もない。それを身をもって知る羽目になるのはもうしばらく先だ。


「楽しそうだよ、王女様。あの話って、本当だったんだ。」

「有名な話だろうに。あのお歳であの身体と戦闘の才気。『拳姫』、『王族の二番手』、第一王子の自慢の妹、戦闘狂……魔族との戦いが終われば王族の中で一番強くなっているだろうと言われるほどの天才だ。勇者様の戦友として、伴侶としてもしっくりくる。」

「うわっ、容赦なく首をへし折った。」

「…」


 ルマノが馬型の魔物に飛び蹴りを横から当てて、倒し、もがく馬型の長い首を拳を打ち付けてへし折った。気を纏い爪牙を無効化して魔物の目を潰したり、頭蓋を叩き割ったりと、姫とは思えない戦闘力を発揮している。

 それでも、男たちは、血と汗に塗れても失わない光を放つ黒曜のような瞳に惹かれる。王女という立場を抜きにしてもその美しさに同じようにしていたことだろう。何より自然に浮かんでいる笑みが可愛い。狂気だと危機感を持てないほどに。


「はっ!!」

「龍志、付与が切れるぞ!」

「私にお任せください。『エンチャント・ファイヤ』」

「ありがとうございます、アズラさん」

「いえ。『ウインド・カッター』」


 炎を纏った剣を振りかざし、血肉を引きつぶす龍志(勇者)とその技量をもってして切り裂いていくグンガイ(元騎士団団長)。そして二人を支援しつつ、自らも風魔法を放つアズラ。

 男たちの目が死ぬ。ついつい比較してしまい、叫びたくなる気持ちを抑えた。


「くっ、俺だって、いつかは辿り着くもんね!」

「けっ!」


 同期の女性陣から冷たい視線を貰ってしまった。勇者一行の女性陣を評価している最中から、既に彼女たちから極寒の空気が発せられていた。そこへ、龍志たちに羨望と嫉妬の感想をあげたことで、我慢の限界らしい。魔物ではなく、男性陣に杖と弓の先が向けられる。


『余計な口をそれ以上開けば、殺す。』

「「すみませんでした!!」」


 男性陣は黙って、魔物を排除していく。勇者一行が疲労から交代し、一夜が過ぎた。

 セイレーンが現れてすぐに龍志(光の精霊)が瞬殺したり、レベルが上がるほどの死闘に曝された冒険者と騎士たちから悲鳴が上がったりと、瞬く間に数日が過ぎた。

 他の街から特例ですぐにフェルペンに入った援軍が疲労困憊、もしくはやつれた顔をする戦士たちに合流したことで、事態が動く。

後編に続きます。

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