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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
迷宮編
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閑話~勇者、迷宮に挑戦する・前編~

~アスタイト王国・欲望と金の迷宮~


 アスタイト王国、南東部に位置し海と接し、王族の直轄地の街であるフェルペンに来た勇者一行は、とある場所を訪れていた。


「龍志さん、危ないですよ!」

「えーと…」


 起動した落とし穴から何事もなかったかのように脱出する。忠告したルマノからは龍志が瞬間移動して、落とし穴の向こう側に現れたように見えていた。

 龍志は魔法を発動し、闇魔法で近づいてきているゴブリンたちを一掃する。すると、硬貨サイズの銅がドロップした。それを魔法袋に仕舞い、土魔法で道を作り渡る仲間を待つ。


「突出しすぎね。龍志がはしゃぎたくなるのは分かるけど、ここは迷宮の中よ。普通むやみに突っ込まないでしょ?」

「ごめん、由奈。今度からは気をつけるよ。」

「罠に引っ掛かって、平然としている人は中々居りません。流石、勇者様。」


 仲間の一人である金髪、蒼眼のアズラにそう言われて、気まずくなる龍志。彼の隣にいるグンガイ団長もやや責めるような視線をしているあたり、褒められたことではないと、龍志も分かっている。

 そんな龍志に代わり、〈中級狩人〉のハウが先頭に立ち、周辺を警戒して進む。盗賊系の職についていたことがあるようで、罠の解除もできる彼女は索敵に罠の無力化と、かなり活躍していた。

 頼れる仲間(ハウ)が奮闘している間、片手間に魔物の襲撃を撃退していた龍志たちは、教えられたことの復習をし始める。


「ここは、王国内の通貨を発行するための迷宮なんですよね?鉱山からは取れないんですか?」

「鉱山もないことは無いが、向こうは王族が管理せず、町や鍛冶師ギルドなどが管理している。こちらは第一に通貨、第二にアンティーク、第三に武器といった目的で、魔物を討伐、ドロップを回収しているんだ。貴族御用達の職人たちが集まり、貴族たちに高価な家具、道具を売っているし、そのためのドロップアイテムを回収する冒険者も多く集まる。…当然、王族の直轄地だ。本来であれば、かなり入るのに手続きがいるんだぞ。」


 だから、エルフの国並に、冒険者がじれったく感じる場所として有名だと。

 通常の鉱山とは違い、無限の鉱山資源となり得る迷宮を、王家が責任を持って管理し、経済の調整者として、それ相応の態度と行動を行わねばならない。

 由奈が自信満々に、グンガイ団長の言葉を引き受けて続けた。ここまでは、話した通りである。


「汚職とか起こらないのですか~?」

「王家の許可ない通貨の作成は大罪で、最悪死刑になる。とは言っても王国で使われる金貨は細工がほとんどない。新規作成自体は簡単だ。…過去に酷い金貨の流通が起こってな、その時は王族は元の物価に戻すまで、かなりの権力を利用したそうだ。また、混乱を起こした組織は末端まで首を晒している。」

「難しいところなんです。特に、『アイテムボックス』は干渉する方法が極端なものしかありません。ですから、実際、裏に流れて麻薬などの育成の資金源になることも多いのは昔も今も変わってませんし。それより貴族や王族の財を危機に備えて貯めておく方が大事ですから、それはここへ挑む冒険者と同じように目を瞑ります。…被害が大きい場合は騎士たちを動員して、潰します。この地を管理している私の叔父を含めて、王族の義務ですから。」


 ルマノの笑みに隠れる冷たい感情に、桃花たちが黙る。普段は優しい王女の鏡だが、ろくでもない輩にはやはり極寒の対応をするようだ。

 それから、「あっ」と声をあげて、ルマノは笑った。


「先ほどのグンガイさんのお話にもあった通り、物価が急激に上がった時は、王家の方が貴族への税をあげて、貨幣を回収したり、食料品などの価格を固定したりといった措置が取られたりしますし、大不作で飢饉が起こるような場合も、物価の調整を貴族を通じて商人と交渉することもあります。…冒険者や教会の方々に魔物の供給を頼み、なんとかやり過ごすこともありますよ。」


 「失敗すると、打ち首案件になるので、心臓に悪いですよ」と、最後に付け加えて、ルマノは話し終える。

 すっかり、話に呑まれた龍志たちはほぼ無言となって、罠を解除して進むハウの後ろをついて行く。何度か冒険者に遭遇したのだが、お互い不干渉といった体で、話をすることなくすれ違っていった。


「止まって。戦闘音が近づいてくる。これ、魔物を引き連れてきているわ。」

「トレイン?本当にあるんだ。」


 武器を構え、魔法をイメージする。光と悲鳴がどんどん大きくなってきた。

 逃げてきている人数は二人。見た目からは二人とも戦士のようだ。明らかに龍志たちより年下で、武器はかなりガタついてきているのが遠目からでも分かった。欲を出し過ぎたのだろう、引き際を間違えて奥に入ってしまったらしい。

 はた迷惑とグンガイ団長は愚痴をこぼすが、彼らを助けるために動き始めていた。


「龍志、あれを拘束できるか?」

「できます。『ダーク・バインド』」


 二人を追いかけてきている犬型の魔物たちを影より暗い闇で拘束する。突然の出来事に、魔物も二人の戦士も動きを止めた。それでようやく、グンガイ団長が彼らの間に割って入り、あっけなく一体を切り捨てた事実に目を開く。

 それから、龍志も前線に参加し、もう一体切り捨て、由奈の魔法が発動する。


「『アイス・コフィン』」

パッキーン!!


 残りのその背後をさらに追いかけていた奴らが凍てついた。氷の墓は続く風の砲撃で全て砕け散る。

 その様子を見た二人が気絶する。あまりの力の大きさに意識を手放してしまっていた。

 二人を優しく抱きかかえた桃花が苦笑する。


「あらら~。気を失ってしまいましたね~」

「この程度の実力の子がここにいるなんて…かなり珍しいです。このフェルペンで育った子かな?とにかく、このまま放置するのも不味いので、今日は戻りませんか。見てもらうことが今日の目的でしたし。」

「そうしよう。グンガイ団長は赤髪の子を御願いします。僕は、この緑髪の子を運びます。」


 龍志とグンガイ団長がそれぞれ少年を肩に抱えて、迷宮から撤退するのであった。


~翌日~


「「すみませんでした!!」」

「今度から気をつけてね。」


 朝一番に宿へと謝りに来た二人の少年。なぜか矢面に立たされた龍志は跪いている二人を立たせる。

 …二人はずっとそこに立っているままで、龍志は戸惑った。


「えーと、他に何が用があるのかな?」

「「えっ、先ほどのお言葉でおしまいですか?僕たち悪いことしたのに…」」


 龍志は背後にいるルマノに助けを求める。罰なんて求められても迷惑すぎて、困る。

 困った表情の龍志に代わり、ルマノが二人の前に出た。


「私たちは忙しいの。…そうね、今度からはちゃんと戻れるうちに帰るのよ。貴方たちを見る限り、まだまだ初めてのようだし…先輩の冒険者に弟子入りとかはできないの?できないのなら、冒険者ギルドにお願いしておくよ?」


 二人が視線を横にずらす。それで、大体理解できたルマノは、二人に微笑みを向けた。


「迷宮に入るのは禁止。しばらくは、ギルドで雑用の依頼を受けてください。それでいい冒険者さんを見つけてくださいね。…私たちはあれより奥へと進まないといけないのです。ついて来れないですよ。」

「ルマノが言った通りなんだ。心苦しいけど、君たちの面倒を見れない。面倒は見れないけど、依頼があるのなら、冒険者ギルドの人に頼んで、僕たち宛てに依頼をするといいよ。」

「「…」」

「龍志だよ」

「りゅ…?」

「龍志」

「りゅうし?」

「そう、龍志だ。お父さんやお母さんはいるかい?君たちだけで、戻れるかい?」


 二人はこくりと頷くと、宿から出て行った。

 それから、朝食をとり迷宮へと潜った一行は、魔物を蹴散らしながら第三層にまで到達していた。

 グンガイ団長が、四層入り口付近で休んでいる冒険者たちを見かけた時、全員に止まれの指示を出す。


「何かがおかしい。」

「どこが…あっ、見張りも全員寝てるみたい!」

「こんなところでですか?」

「魔物に襲われていないことが不思議だが…いや、既に襲われているのだろう。珍しい魔物が上がって来ているようだ。」


 綺麗な音色、波動が龍志たちを浸透していく。音色は綺麗だというのに、ざわりとおぞましい感覚が襲った龍志は剣をしっかりと構え直す。

 龍志の頭の中で警鐘が鳴り響いている。いや、かの光の精霊の警告だ。


(気をつけろ!もう既に攻撃は……おぬしとそこの小娘二人は闇魔法しかりINTが高いのだったな。王女と弓使いはレジスト出来ぬぞ。ほら…)


 ルマノ、ハウの二人が闇魔法を受けて、眠ってしまう。由奈はピンピンしているがグンガイ団長と桃花、アズラは眠そうにしている。つまり、まともに動けるのは龍志と由奈の二人だけだ。

 魔物の高笑いが聞こえる。新たに獲物が引っ掛かったことに対する喜び、いや獲物への嘲笑か。

 意識を失った二人が念動力によって、他の被害者たちの元へと運ばれていこうとするのを、由奈が放った影が縫い留めて阻止する。また、フラフラと動き出した桃花とアズラを眠らせ、ルマノたちと同様に固定した。グンガイ団長は抗っているようだが、身動きがとれていない。

 獲物をしとめた感触があるのに引っ張れない。そんな事態に、苛立ちを放ちながら様子を見に来たのは、ハープを持った女性の悪霊。彼女がそのハープの弦から音を奏でる度に、強烈な魔法が木霊する。しかし、二人には効かない。


「変わろう……全く、変な女を惹きつける達人だねぇ。やぁ、小娘。そこでじっとしておきな。」

「龍志…じゃなくて、光の精霊さん?だったかしら。その変な女って、私も入ったりする?」

「さぁね?まぁ、難儀な女だとは思うよ。」

「お、覚えておきなさい。どうにかして、あんたを泣かせてやるから。…手伝わなくて大丈夫なの?」


 龍志の身体を使って、笑って答えた精霊は、小手調べに光線を放った。

 悪霊が持っていたハープが粉々になった。それと同時に空間を震わせる絶叫が返ってくる。


「ほれほれ。そんなに大事なら光に当たる所に持ってくるんでないわい。」


 容赦なく光線が乱れ飛ぶ。逃げまどう悪霊は躱しきれず、徐々にダメージを蓄積させていく。

 そして、悪霊側は切り札を切った。


アアアアアァァア!

「ふむ。人質のつもりかい?だけど、ぬるい。」


 ルマノたちが無理矢理身体を動かそうとして、血がにじむ。さらに、今まで術中に嵌めた冒険者たちを操り、龍志たちにけしかけてきた。しかし、動きはまるでゾンビのようで遅く、力だけが増幅されているようである。言い換えると、光の精霊の精神と勇者の身体を相手にするには、遅すぎる。


ギャッ!


 操られている者たちを無視し、距離を詰めて光を纏った剣が悪霊を横一文字に断った。切り捨てられた下半身が消え失せる。

 …かなりのLPが削れているはずだが、まだ倒れる気配はない。


「とどめだよ。『シャイン・リッパ―』」


 言葉をキーとした光魔法の斬撃が逃がす時間を与えることなく、悪霊を消滅させる。

 終始見ていた由奈が息を呑む中、光の精霊から龍志へと切り替わる。


「終わったね。…由奈、レジストしてくれるかい?…いくよ、『マインド・ショック』」


 龍志から、悪霊と根本的なところは同じ魔法が発動する。すると、ルマノを始めとする今まで、気を失っていた面々が、額に汗を浮かべて目が覚めた。悪霊に抗っていたグンガイ団長も龍志の魔法によって、再起動を果たしたようで、周囲に警戒の視線を向け、動く。

 他の冒険者の混乱を収め、顔面から倒れて鼻血などが出ている人の治療を終えた後、悪霊が残したピンポン玉大の金を回収し、事の顛末を仲間内で共有する。


「龍志…光の精霊の独壇場だったわ。あれに反撃らしい反撃を許してなかったから。あの化け物って、一体何なの?」

「おそらく、セイレーンと呼ばれる魔物です。歌とハープで人や魔物を拐かし、眠りについている間にLPを吸いつくしてしまうという戦士などINTが低い私たちが会いたくない魔物です。本来なら黄ランクの中でも、INT600以上推奨とかなり強力な魔物です。この迷宮では出てくること自体がイレギュラーです。」

「ルマノの言う通りだ。この迷宮には出現していなかった。だが、この迷宮の魔物としてドロップが発生し、金の玉を手に入れられている。…悪霊系の魔物が出てきたというのは、私も初耳だ。何か大きな変化の前触れかもしれない。」

「えーと、やっぱり戻るのね…碌に攻略できないじゃない…」


 再び満足とは言えない探索を終え、帰路に入る龍志たちだった。


次話も勇者編…

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