迷宮攻略~最果て~
よ、ようやくになるのか?
~???~
「…」
「護さん…」
四本の柱に囲まれた祭壇と呼べる場所に、セレスと気を失っている護はいた。さらに、その隣にはアンとメイアがまだ目を覚ましておらず眠っており、意識が唯一あるセレスは、目が虚ろになっており、時折、護の名前を呟く。
「…」
手持ちに残っている回復薬の類は使い切った。瀕死の護や仲間を助けるために、自らの命と魔力を回復するには、それだけ必要だった。
それから護の両腕を命を削って、元通りに直した。MPを使いきってしまったせいで、上書きするように裂けた傷口はそのままだ。
血は布が皮膚に引っ付いた状態で乾いてしまって、剥がそうとすると痛い。…そんなことをぼんやりと思う。
眠さは不思議と感じない。しかし、血を多く流してしまったせいで、ろくに考えられる状態でもなかった。
(あんた、大丈夫?顔色は悪いし、ボーとしているけど。他の奴は起こさないと、魔物に襲われたら、皆死ぬわよ。)
「…」
(起きなさい!!)
変わらず呆然としているセレスに変わり、短剣の霊が護たちの頭の中へ直接、言葉を送った。
それで、メイアが飛び起き、漆黒の短剣を構えた。周囲を一度見渡し、涙が乾き果て、呆然としているセレスと引き続き起きるように、叫んでいる霊を目にした。
メイアはまず、水魔法を発動し、セレスの傷口を癒し、血を洗い流す。続いて風魔法で一気に服と身体を乾かした。それだけのことをやっても、セレスの反応は相変わらず鈍い。彼女のことは、一旦置いておき、霊へと話しかける。
「ありがとう。護様は私が起こします。」
(礼を言うなら、セレスにした方がいいわよ。彼女、全員の傷を癒してたわ。)
「そうですね。……護様」
メイアは護に殺気を飛ばした。間髪入れずに、護が上半身を起こそうとした。しかし、碌に動かせない。
口を塞がれる。流れてきた水と薬を無理矢理飲み干し、息が整うまで、護は横たわったままだった。
その間に護は自分がやっていたことを思い出した。確か、格上の魔物と死闘を行い…逃げてきたようだ。魔物を殴り飛ばした後の記憶がないが…全員、この場にいるとなると…
「何とか、逃げ切れたみたいだな。」
「はい」
護は上半身をゆっくり起こす。そして、メイアが見ている方向へと目を向けた。
「セレス、大丈夫か?」
「……」
護がセレスの身体を揺さぶってみても、鈍く反応するだけだった。
『真理眼』には、『オーバーロード、ポーション中毒、貧血、MP欠乏』と映り、ただ単に力を使い切っただけではないと分かる。特に、オーバーロードとポーション中毒は初めて見た症状だ。
「『デトックス』」
優しい青の光が包む。護は『真理眼』でポーション中毒がステータスから消えるまでかけ続ける。
少量で効く麻痺毒なんかと比べるとかなり魔法の効果が薄い。セレスの瞳はぼんやりとしたままで、対処法として解毒があっているのか不安になってくるほどだ。
そんな不安もMPが切れる前にセレスから中毒症状が消えたことで、解消された。彼女は護の腕の中で気を失ってしまったが。
「メイア、オーバーロードって、聞いたことがあるか?」
「申し訳ありません。それがセレスさんに?」
「そうみたいだ。…しばらく、エクストラを使う。その間、俺は眠っているから、アンが起きたらそう説明してくれ。」
「畏まりました。この周辺に魔物はいますか?」
「…『気配察知』には引っ掛からないな。それにここは、教会に近い雰囲気がある。」
「神がいるのでしょうか?」
メイアの問いに首を横に振る。『真理眼』で、近くにある床や柱を調べてみたが、普通に石材でできているだけだった。
しかし、明らかに力が働いている。魔物が近くにいないのは偶然ではないと確信していた。
「『完全なる図書館の司書』」
『アイテムボックス』から簡易ベッドを引っ張り出して、セレスを寝かせる。そのベッドにもたれかかるように護は座り、スキルをあえて口に出して起動した。
「ここに来るのは…いつだったかな…」
『ようこそ、司書様。』
護の意識は白い空間へと移動していた。すぐさま、ステータスのウインドウと似た表示が現れた。
検索ワードを口にする。
「オーバーロードで検索。」
『しばらく、お待ちください。本は8432冊、資料は10003件です。』
「うげっ、意外にあるな。…対処、原因をワードに追加。」
『…本は7563冊、資料は9222件です。』
全然減らなかった。
護はワードではなく、ソートを使うことにする。
「条件追加。年代が最近の物を一番前の棚に。それから、右下の棚から左上の棚へと、書かれた年代が最近になるよう、順に並び替えろ。」
『お待ちください。…………できました。再展開します。』
出ていた本棚が一旦、消え失せ、再度登場する。
護は右下に出てきたぶ厚い本をとる。本もとい図鑑の名は『状態異常大全』、編集者は『パトリック・ポイ二クス』となっており、現存している資料を基に、状態異常とその対処について纏められた本となっていた。
(……へー、一応、精神系スキルも状態異常として扱っているのか。)
『依存』や『強欲』といった、悪影響を及ぼしかねない精神スキルもこの編集者と研究者は状態異常とみなしているようだ。また、対処法が精神論…一辺倒になっている。
(……あてにしていいのか?)
狂った人間を思い浮かべ、微妙な表情をとってしまう。
本人だけの努力でどうにかなるなら、苦労しない。素直に、分からないや見つかっていないと書いてくれた方が、親切なのではと護は思っていた。
「ええと、あった。オーバーロード、オーバーロード……」
脱線していた思考を本来の目的に戻し、「オーバーロード」とそのまま書かれたページを読んでいく。一通り目を通した護が出した結論。それは…
「しばらく、セレスは魔法が使えないな…」
護の読んでいた部分を要約すると、次のようになっていた。
(まず、オーバーロードの発生原因は、自身のレベルを超えた魔法の行使を何度も行うこと。普通、自身の限界を超えた魔法は不発することが多い。だけど、条件を満たせば、できないことはない。おそらく、セレスが使った魔法が該当するんだろうな。セレス自身、死にかけていたし…)
別の本を引っ張り出しつつ、護は考え続ける。
(次に、症状なんだが…気を失う。普通、セレスのように起きていることの方がおかしい。併発したポーション中毒かが、噛み合った結果かな。それに、気を失うだけじゃなくて、魔力の放出がままならなくなるわけだ。)
自身の内部から魔力の放出ができなくなると、当然、発動できなくなる。
詳しい原理については、激しく議論されているようで、オーバーロードという状態になる条件は分かれど、メカニズムについては未知の部分が多い。
(対処法は、とにかく休ませることしかなさそうだ…)
薬での治療もできない。…物理的にどこかが欠損しているなら、まだ治せる。
「強いて言うならば魂が傷ついているのだろう」…そんな論説を唱えている研究者も多いようで、議論はずっと進んでいないことを、数冊流し読みした護は把握した。
「まぁ、命に別状はないし、治らないわけでもないのは幸いだ。…ふぅ、折角生き延びれたのに、セレスを失ったり、狂ったりする姿は見たくない…」
希望が見えたところで、肩の力を抜く。それから、真っ白な床に座り込んだ。
危なかった。
一人でいられるこの場所で、その事実を再認識する。セレスの献身が無ければ、護はあの世に行っていたし、メイアたちも同じ末路を辿っていた可能性が高い。
「はぁ…。まだ気が抜けない。今の状況じゃ、これ以上調べようがないしな…」
苦難の迷宮の情報は最初から少なかったし、まして、飛ばされた場所の情報なんて、この場にはほとんどない。それほど、迷宮の難易度が高い。
頼みの賢者の情報すらなかった。壁画は『完全なる図書館の司書』でヒットしない。本、または資料として残っていなければならないという条件を今更ながら、恨めしく思う。
「とにかくセレスのケアは必要だが、治る。それが分かっただけでも、僥倖だ。意識を戻さないと…」
護は無造作に置かれた本をそのままに、意識を浮上させる。
「あ、マモル様が起きた。」
「アンも目が覚めたのか…怪我はないか?」
「うん。でも、オリーには連絡がやっぱりできない。」
「そうだな。繋がりは切れていないから、俺が生きていることは分かっているとは思うぞ。」
不安そうにしているアンを撫でる。怪物に向かおうとした時のことを叱らなければいけないかもしれないが、後にする。
オリーの精神状態は護のログからでも分からない。更新されていないところを見ると、完全に繋がりがあるだけで、連絡の手段としても、機能を失ってしまっている。
「オリーたちと連絡を取る手段は後で考えるとして、セレスのことなんだが…」
「セレスお姉ちゃん、元気になる?」
「心配はしなくていい。少し、頑張り過ぎて疲れているだけだ。しばらく魔法は使えなくなるようだが、それ以外に影響はないみたいだ。」
「良かったですね、護様。」
「ああ」
セレスとアンが胸を下ろす。不幸中の幸いといったところだろう。
護は、聞かなければいけないことを聞く。
「メイア、変化は?」
「何もありません。魔物の姿が見える時もありましたが、この祭壇には近づけないようです。」
「ですが」とメイアは続ける。彼女の顔には珍しく緊張で強張っている。
「かなり強い魔物が周回しています。あの最弱のホーンラビットですら、私たちが知っている強さではなさそうです。当然、それを餌とする魔物たちはそれ以上です。ここは…」
メイアは言いよどみ、言葉が途切れてしまった。
今、魔物の姿はない。しかし、それを証明するようなものは他にもあった。
「逃げ出すことすらできない。だから、骨が積み上がっているんだろう。」
顔を曇らせ、護は祭壇の外回りへと歩く。そして、しゃがむとかなり太い骨を拾った。
『真理眼』には、『イチェランティガ・ボルドナス・パオリス(鉱人族)の右上腕骨』と表示されている。近くには、同じ鉱人族の骨が転がり、獣人や妖精族の骨もあるようだった。かなり時間が経っているようだが、風化から逃れたように、形をしっかり保っている。
「逃げきれた先で、これは…絶望するだろ…」
少し明るくなっていた雰囲気が再び暗くなる。
「『苦難は続こう』か。確かにそうだ。」
護は拾った骨を強く握った。忠告通り、続いている。心が折れてもおかしくないような状況は、良くなっていない。
ダブのように叫ぶ気力も湧かない。虚しく笑うこともできなかった。
「戦いましょう、護様。私と護様で、この場所を突破できるはずです。」
「私も。こんなところで無気力に最後を待つのは嫌。多分、セレスお姉ちゃんもそう言うと思う。」
護は頷きだけを返した。二人の意志に、言葉が出てこない。
ハイドロたちもフルフルと、身体を揺らし、意志を伝えてくる。
両手で自分の頬を叩き、活を入れる。
やることは決まった。凪のように静まり返った内心に炎が灯る。
「…とりあえず、セレスが目を覚ますまで、何かないか探そう。」
「はい」
「うん。武器がないか探してみる。」
それぞれが動きだす。
~夕方~
「ご、ごめんなさい。…私、ずっと眠ってしまって。」
「いや、気にするな。セレス、ありがとう。セレスがいなかったら、俺は多分死んでいた。本当にありがとう。」
「ごめんなさい。…護さんと死んでもいいって、諦めてしまったんです。…駄目ですよね。私、護さんが好きです。…でも、それなのに…わ、私…」
「それ以上、言わなくていい。セレスが救ってくれたんだ。」
護は涙を流すセレスを優しく抱きしめた。しばらく、泣きじゃくる彼女を抱きしめ続ける。
辛い現実と想いを体験させてしまった。セレスが諦めてしまうような状況になってしまったことに、後悔が胸を占める。
「すま…」
「謝らないでください。…もっとつらくなっちゃいます。」
「…」
「護さんが悪い訳じゃないんです。」
「セレスだってそうだ。」
「…私は、見捨てようとしたんですよ?」
セレスが抱擁を振りほどく。ずっと涙が流れ続けているその顔は、かなりぐしゃぐしゃになってしまっている。言葉の刃に傷ついているのは、護ではなくセレスだ。目の前の恋人を拒絶するように、彼女は自身の身体を抱きしめて、泣き続ける。
そんなセレスに、護は苦笑しつつも彼女の両腕を握った。
「気にしてない。…気にしてないんだ。」
「…本当にですか?」
「ああ」
護がセレスを再び抱きしめて、優しく背中をさする。セレスも護の抱擁に恐る恐る腕を彼の背中に回し、嗚咽が漏れた。
しばらく、互いに強く抱きしめ合い、ようやく落ち着いた。
「ご、ごめんなさい。」
「謝らなくていいぞ。セレス、魔法は使えるか?」
「……あれ?つ、使えないです!!ど、どうしてっ!?」
「一時的なもので、頑張りすぎた反動だ。しばらく休めば治るから、大丈夫だ。」
「………はい」
取り乱した少女を護は優しく抱きしめて、再び落ち着かせた。
さらに、セレスの身に起こっていることと、目覚めるまでのことを追加で話す。置かれている状況を聞くにつれて、彼女の赤くなった目に意志の光が宿り、手に力が入っていく。
「護さん、魔石はありますか?」
「あるにはあるが…」
「道具が揃っていれば…魔道具を作れます。魔法がないので、時間かかってしまいますけど、いつもと同じぐらいのものなら、問題ありません。」
「分かった。作成してみるから、少し待ってくれ。」
護は土魔法で、各種道具を作っていく。通常の道具と比肩するほどの質だ。上がったステータスが発揮されているのを実感していった。
時間をかけずに、道具を作成し終えた。セレスがそれぞれ手に持ってみて、護に調節させる。
「ああっ!いいなぁ。」
「アン、戻ってきていたのか。」
「うん。セレスお姉ちゃんも目が覚めたんだね。お姉ちゃんの体調はどうなの?」
「元気だよ。…アンちゃんも傷の治し忘れとか、ない?」
アンは首を横に振り、腕に傷がないことを見せる。ハイドロも否定するように横にフルフルと揺れた。
それからセレスの手にある道具をじっと見つめている。
「あー、何か使えそうなものは見つかったのか?」
「ううん。武器は残ってなかった。多分、挑んでいった人が全部、持っていたんだと思う。後、この結界内で食べ物を育てようとしてたみたい。荒れ果てた畑みたいなのが残ってた。」
「できるのでしょうか?」
護は『アイテムボックス』から大麦を取り出し、魔力を注いだ。芽が出てくる。
鉢を用意し、植えてみる。そのまま必要量の魔力を注いでいくと、順調に伸びていく。
「あ…」
アンが声を漏らす。花をつけるかどうかで、いきなり色が悪くなっていき、枯れた。
二度、三度とトライしてみるが、結果は同じ。
「理屈は分からないが、ある程度大きくなった時点で、枯れてしまうな。うーん、人が何も食わずに生きられるまでに、収穫なんてさせないという仕様か?」
「かもしれないね。普通に育ててみれば、できるかも。」
「セレスさんの目が覚めたのですね。護様、外の景色を見ていただきたいのです。」
戻ってきたメイアに誘われるままに、祭壇の外を見る。
迷宮第三層とは異なったかなり高い木が乱立していて、樹海樹の木にどちらかといえば近い。
時折、なぎ倒される音やかなり大きい衝撃音がしている。そして何より…
「うげ…」
「あれがここの主のようです。私たちではどうあがいても勝てない相手ですね。」
龍だった。かなりの距離があり、頭から前脚までしか見えていないが、五十、六十メートルはあるのでないだろうか。
前に戦った土竜とは格そのものが違う。あの迷宮の獣より強い。
『真理眼』で見ようとして…
「!!」
「護さん!?」
立っていられない。息が荒い。
間違いなく視線が合った。そして、拒絶された。
見えない。スキルどころかステータスも。初めての経験に、頭の中で整理がつかない。
(…セレスたちがいるんだ。落ち着け。…息を整えて、ゆっくりでいいから、立て。)
体に力を入れ直し、護は顔を真っ青にしながらも、立った。
改めてみると、龍は興味を失ったのか、護たちの前から消え失せる。時空魔法の類を使ったのだろう。
「大丈夫ですか?」
「ああ。殺されていないだけマシだ。軽率だったみたいだ。あれはヤバい。メイアたちは体に何ともないか?……特に何もされてないようだし、俺は大丈夫だ。」
「私たちの心配をしているつもりですか?戻りましょう。まだ、身体に力が入っていませんし、震えていますよ。護様、私とアンで支えます。」
「…頼む。」
右はメイア、左をアンが肩を支える。そして、祭壇の中央に戻ろうとした時だった。
「ん?…雪か?」
「…すごい勢いで振り出しています!」
空を見ると、先ほどまでの晴天が嘘のように、曇天に変わり果てており、ちらほらとは言えない勢いで雪が降り始めた。
しかし、護たちの祭壇の中には雪が降らない。祭壇にそびえ立つ柱の頂点あたりで、雪が消失している。
「寒くない…」
また、寒さを感じないことにようやく気付いた。飛ばされた時からずっと変わっていない。
完全にここだけが外とは違う場所となっていた。
「不思議だね。でも、外だったら、寒くて死んでいたかも。」
たちまち外は雪が積もっていく。重さに耐えきれなく枝が折れた。
白き世界となった。それでも、戦闘音と魔物の咆哮はやまない。そんな世界を背後にし、設置した天幕の元へ向かうのであった。
~翌日~
「え…嘘ですよね、護様。私がLv100なんて。」
「あー、気づかなかったのか?」
「はい。確かに違和感があったのですが、疲れがたまっていただけだと思っていましたので。」
天幕の中で、ステータスを開いたメイアの頬が引き攣った。
職の変更と無関係な三人とは違い、メイアはさらに上位への転職が可能となっている。
「Lv99をまさか通り越すなんて…1レベル分のステータスの上昇をどぶに捨ててしまうなんて…」
Lv99で、職変更が可能だった。つまり、1レベル分の上位職で獲得できるステータスを得られていないことになる。一応、レベルが上がった際に、ステータス自体は上昇している。だが、上がり幅の差異はショックを受けて、落ち込むのに十分な要素だ。
この世界の常識を考えると、効率と戦いの観点で、最小レベルでの転職は重要だ。レベルを下げる手段が、ほぼない世界で取りこぼしは、かなり致命的になる。
冷静なメイアでも、魂が抜けてしまいそうになるのはしょうがないことだと言えるだろう。
「セレス、メイアが正気に戻ったら、天幕の外に出てくるように言ってくれ。俺は、水晶を呼び出せるか試してみるから。」
「分かりました。伝えておきますね。」
護は放心しているメイアに一応、準備をする旨を伝えて、天幕の外に出る。
祭壇の外は、白銀の世界となっていた。身長を超える程の積雪に、言葉を失う。…遠くで炎の柱が上がった。それから、大きな巨体が宙を舞ってこちらに飛んでくる。
ボゴォォン!!!
大きな巨体、もとい、ヘビ型が雪を舞い上げて、祭壇の目と鼻の先で止まる。
「一方的に殴れるなら良かったんだけどなぁ。」
護は、ヘビ型とワシ型の戦闘を観察するだけだ。目の前で起こっている雷と炎の嵐に飛び込む勇気はなかった。
また、祭壇内から、魔法や投石による攻撃はできないようで、見たり聞いたりすることだけができる。よって、結界を出て挑むしかないが、万が一戻ってこれない場合を考えるとゾッとする。
そんなわけで、観戦していると、決着がついた。
「うわー、あの兎、うまい。」
ホーンラビットとは異なる大きさ。体長は護と同じくらいだろうか。種族名は、ラピッドキッカー。異様に太い後ろ脚で二足歩行し、ヘビ型を仕留めたワシ型の後ろをアンブッシュ。容赦のない蹴りが頭を粉砕し、残っていた雪を赤く染めていた。
こちらを気にすることなく、ラピッドキッカーは食事を始める。血しぶきが上がったところで、護はやらなければいけないことを思い出した。
「ええと、『世界を作りし、神よ。この世の枠組みに触れ、生きる力を欲す。』」
しばらくした後に『職変えの水晶』が現れた。ここでも呼べたことに、息を吐く護。ふと、魔が差して、水晶に触れた。
「これは…」
前回は悲しい結果が映っていた筈だ。それが変化している。
明石宮 護
職 (下級?)
派生先 なし
職変更 制限により変更不可。
備考 制限解除段階 (2/5)
(は?なんだよ、制限解除段階って。)
疑問で頭の中が一杯になった。備考欄に、記載が増えている。制限解除段階ということは、職変更にある制限が徐々に解除されてきているのだろう。しかし、条件が分からない。
(五分の二…二?……)
ステータスを開き、2に該当するものを探す。護特有の要素で2といえば…
「種族数か?」
今まで取り込んだ因子の数。妖精族と獣人族に合致する。五種族あるうち、人族を除けば、残りは魔族と鉱人族になる。これが条件だとして、あと一つは何だろうか。
護は考えてみるが、該当するようなものは複数あり、一つに絞れそうになかった。
「申し訳ありません。気を取り乱してしまいました。護様?」
「メイア、試したいことができた。それはともかく、職を変えてみよう。」
「はい。これで、聖女と同じステージに立てます。」
護が見守る中、メイアが水晶に手を触れる。
しばらく、彼女にだけ見えるステータス欄を弄り、そして水晶と身体が光った。
雰囲気は変わっていない。しかし、『真理眼』には職がはっきり変わっていることが映った。
メイア・リンベル (女・20歳・人族)職 影Lv100
LP 739 MP 745
STR 1077 AGI 1328
TEC 860 END 701
INT 727
一般スキル 短剣術Lv9、隠密Lv9、暗器術Lv8、剣術Lv5、体術Lv3
魔法(火・水)Lv7(風)Lv8 裁縫Lv9、家事Lv9、奉仕Lv8
拷問Lv6、集中Lv3、不屈Lv3、色欲Lv3、淫乱
職スキル アイテムボックスLv3、命中補正Lv8、影移動
エクストラ 愛しき 主と 共に
(相変わらずえげつない…というより、気になるスキルがいくつかあるんだが。特にエクストラの『愛しき主と共に』ってなんだ?こっちも恥ずかしい気がする。)
メイアの顔が真っ赤になる。顔を両手で抑え、護の視線から逃れるように、後ろを向いた。
「今日は本当についてません。護様の顔が見られなくなります。」
「エクストラはどんな効果があるんだ?」
「いきなり聞きますか!?…護様の傍にいるだけで、私のステータスが2割上がります。ただ…」
「ただ?」
「発動の条件が…もう我慢できません!」
「おわっ!」
メイアに押し倒される。硬い床の感触と、メイアの柔らかい感触との落差が酷い。
頬を押さえつけられ、唇を無理矢理貪られる。舌が絡まり、甘い匂いが護の鼻をくすぐった。
メイアの瞳は妖しく光り、息が荒い。
(ああ、なるほど。そういう系のスキルなのね。うん、これは抵抗できないかも…)
理性が溶けていく。すでに、はだけた服の下から火照った体を見せつけてきており、メイアの手は護の腰より下に伸びている。
あきらめの境地に至り、なされるがままに護は理性を手放した。
…その日はロクな活動はなかったようである。護はともかく、セレスとアンの二人の『色欲』と『淫乱』のステータスが上がった(発現した)時点で、言うまでもない。
Q:なんちゃってQ&Aを始めます。えーと、まずこれどこに跳ばされたんですか?祭壇と付近の描写はあっても、迷宮とどんな関係か分からないですし。
A:サブタイトルの通り最果てだ。迷宮内部ではない。場所に関しては、次話でも上げようと思っている。
Q:次は龍について。竜との違いは?
A:ステータスと格、レベル、能力、その他諸々全てだ。見た目に関しては、龍とドラゴンで、龍には翼がなくても、飛べる奴が多いな。ああ、格というのは、ランクのことだ。色にして赤以上(紫、黒、銀、金)は確定だから、人類では倒せない相手と言えるぞ。
Q:うわっ。そんなのがいる場所って限られません?
A:その通りだ。はっきり言って、人類の生存圏に居座る物好きを除けば、龍なんて、災厄以外なんでもないレベルだし、羽虫がいるところに住む理由もない。
Q:後、パワーアップイベントが酷い…
A:ノーコメントで。
補足 ヘタレな主人公、ヒロインに襲われる。メイアのステータスでがっちりホールドされてしまうと、逃げ出せない上に、闇魔法で眠らせようと思っても、INTが拮抗していて、効果が薄いという状況に。情欲には勝てなかったんだ…
次回はエピローグの予定です。




