↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
迷宮編
91/138

迷宮攻略~第?層~

……

~迷宮・第三層~


「!!」

「あの光の方向は…」

「何が起こったの!?」


 極太の光が発生し、疑似的な天へと迸っている。

 足を止め、オリーたちは木々の隙間からでも見える光の柱を見つめる。


「マモたち、死んじゃったの?」

「いえ、それはないでしょう。まだ、ご主人様との繋がりは消えていません。」

「じゃあ、あの光は…」

「分からない。」


 不安が支配する。何かが起こったのは間違いない。

 助けに行くべきか。それとも、このまま逃げるべきか。判断を強いられる。


「俺は撤退するべきだと思うぜ。大族長の指示を思い出せ。俺たちに求めているのは生き残ることだ。全滅だけは避けなきゃいけないってあいつは言っていたぞ。」

「でも…」

「その通り。私もダブに賛成。マモたちが苦戦していた魔物の元へ行くのは自殺行為。それに、マモが持っていた食料などが無いから、かなり活動の限界が近い。戦力も食料も足りない。」

「オリー殿がいるから、ミゥ殿には殺されまい。しかし、大族長殿を待たなくてよいのか?」

「マモたちなら、どうにでもする。そうだよね?」


 最後のオセの質問に、オリーが頷く。


「はい。連絡できなくなっていますが、生きていることは確実です。ご主人様は強者と戦って生き残るのが得意なようですし、いつの間にか帰って来ますよ。」

「キナ、セプ、泣かないで。こんな体にしたマモたちには生きてもらわないと困るの。もし、戻ってこないなら、今度はミゥやシィ、ガンドルフさんを引き連れて、連れ戻しに来ればいい。今じゃないだけ。」


 オセの瞳に戦意が宿る。トラウマを植え付けられた恨みをまだ晴らせていない。いざ、目の前に立たれると、本能的に怖気づいてしまうが、乗り越えなければいけない壁だ。

 そんなオセを見て、セプとキナは涙を拭った。心配ではある。しかし、マモたちが死ぬイメージが見えないどころか、逆に心配してくるイメージが浮かんだ。

 二人の様子が和らいだところで、オセは言った。


「戻ろう」


 セプを先頭に歩みを再開する。

 殿となったオセは消えてしまった光の柱の方を見て…


(上手く眠れない日々が続きそう。無事だよね…)


 ゆっくり反転して、キナの後ろをついていくのであった。

 …数日迷宮の入り口で待った。それから『ザ・リルゥガ』まで撤退しても、護たちは戻ってこない…


~迷宮・???~


「ここは…」

「…あの魔物がいなくなっています!」


 魔法陣に飛ばされた護たちは、まるで第一層のような通路の中にいた。

 『気配察知』に反応はない。また、魔法が使えた。光を灯そうとすると、壁に立てかけられた松明…いや、魔道具が光を灯し始める。

 ひんやりと、そして乾燥した空気が護たちの顔を叩きつける。


「一旦、休憩しよう。」

「…罠の類はなさそうです…第一層に戻ってきたのでしょうか?」

「いや、こんなギミック(魔道具)は見たことがない。完全に別の場所だろう。」


 護は罠がないことを確認して、腰を下ろす。『アイテムボックス』から木のコップを取り出し、水を注いで一気に飲み干す。アンの強化薬の効果が切れ、身体が重い。


(しばらくは、まともに動けないか…眠いなぁ。)


 セレスがメイアを光魔法で回復しているところをぼんやり見る。この副作用は回復魔法では回復できないため、彼女に頼もうにも頼めない。

 アンがもたれかかってくる。互いに体重をかけ合い、温もりを共有する。…眠気が強くなり、瞼が落ちることが多くなった。


「マモル様、寝た方がいいよ。」

「そうだが…」

「私たちは大丈夫。魔法が使えるから、セレスお姉ちゃんも本気で戦えるし。」

「すまない。少し眠らせてくれ…」


 護の瞼が完全に落ち、意識は闇へと沈んでいく…


「やっぱり駄目だね…」

「どうかしたのですか、アン?」

「うん。オリーとは連絡できないし、もうこの剣は限界みたい。」


 アンは護を起こさないように、ハイドロへ頼んで器用に剣を抜いていた。

 剣身には罅が入ってしまっており、どうして折れていないのか、不思議だ。それに加え、技の使用で完全に折れてしまうのが目に見えている。

 オリーと連絡できず、護の力になれない悲しみと、剣とのお別れが早まったことに悲しみが心を占める。


「アンさん。…間に合わせですが…」

「ありがとう。セレスお姉ちゃん。大切に使うね。」


 セレスが作成したずっしりと重い土の剣を受け取り、軽く振る。切れ味はさっぱりだろう。しかし、鈍器として、技の発動の条件を満たすには十分だ。

 …隣で眠っている護を見ているだけで、悲しみよりも愛おしさがあふれ出る。


(自分のことはどうだっていいのに…)


 『依存(スキル)』によって、生まれた思いがアンを支配する。

 そう、護だけが全てで、『調合』も、ハイドロも、奴隷と妻という立場は、彼が望んだ。だから、アンはその望みに応える。それが充足感を与え、不安を払拭してくれる。

 なら、恐怖で動けないは望まれるのか?


「分かり切っていることだよね、マモル様…」


 考えるまでもない。セレスが強くなろうとしているのも、これまでの自分の行為も振り返れば、答えは自ずとでる。

 彼のためなら、何でもできる。恐怖なんか、どうでもいい(・・・・・・)。動けなくなる方が問題。

 そう、アンは心の中で結論を出した。そして『依存(スキル)』は怪しく力を増していき、歪んでいく…


~数時間後~


「…」

「マモル様、ようやく起きたね。」

「おはよう。どれくらい寝ていたんだ?」

「うーん、分かんない。でも、かなりの時間寝ていたと思う。」

「敵襲とかなかったんだな。」

「うん。メイアお姉ちゃんが、少し探索して、気になるものを見つけた。」


 護は寝息を立てているセレスを起こさないように気をつけながら、静かに背伸びをする。

 『気配察知』には自分たち以外の反応はない。あの人型の顔を思い出すと、安全地帯に飛ばされたとは到底思えないのだが…


「とりあえずセレスが起きるのを待つか。…食料は持って数日分。餓死は避けたいな…」


 護は放り込まれたままの炭を取り出し、火を起こす。メイアと協力して風魔法を使い、空気を循環させながら、残っている干し肉を炙り温める。

 また、大麦に水を吸わせる。さらに、第三層でとれた薬草の泥を落とした。…充分に水を吸った大麦が入った土鍋へ適当に千切った薬草を入れ、一緒に炊き始めた。


「セレスの魔道具は拠点に置いて来ているからなぁ…」

「便利な道具がないので、不便ですが…魔法の制御の訓練にはなります。」


 二人のレベルになると、これぐらいの魔法は朝飯前で制御できるというのも事実。

 ステータスにある魔法のレベルが、ずっと使っていなかった魔法の精密な制御を支えている。通常なら、時間があけば、多少は制御が甘くなったり、失敗したりするはずだ。

 メイアの言う訓練というよりは、確認という意識が強かった。

 護の様子を退屈していると、取ったハイドロが義手の姿を解除した。連れてきているハイドロⅡたちへとフルフルとその透明な体を震わせて、コミュニケーションをとったかと思うと、ハイドロたちが小さな人の姿をとる。そして、謎のダンスを踊り始めた。

 シュールだが…完成度が高い。


「ああ、ありがとな。」

ビシッ!


 スライムなりの激励らしい。一斉にブレイクダンスをし始める。

 流石、同じ個体から生まれたスライムたちだ。寸分違わずのシンクロを見せ、護たちを魅了する。


「何を見ているんですか?」

「セレス、目が覚めたのか。ハイドロたちがな…」

「…凄いです。…頭が痛くないのでしょうか?」

「さぁ?ハイドロたちは痛くないらしい。」


 硬質化を利用してタップダンスをし始めたハイドロたち。今度はシンクロとソロの合わせ技だ。

 アンが懐かしそうな表情を取っていた。故郷での軍歌だそうだ。


「出来た。さて、食べよう。」


 ハイドロたちの芸を鑑賞し、拍手を送った後、護たちは食べ始める。

 薬草の苦味が舌を襲う。だが、癖になりそうな味だ。何より、複数ある薬草の一つの効用、食欲促進が効き、瞬く間に平らげていく。

 死闘と眠ったことで、かなりお腹が空いていたらしい。四人はあっという間に食べ終えてしまった。

 迷宮の中とは思えない休憩は、あっという間に過ぎていく…


「それで、メイアが見つけたものって…」

「実際に見てもらった方がはやいですね。こちらです、護様。」


 装備を整えた一行は、メイアの案内のもと、護たちは歩き始めた。

 魔道具によって灯りがともされた一本道を歩いて行く。すると、横の壁ではなく、上に灯りが吊るされ、部屋とも通路とも言える場所にたどり着いた。


「右の壁を見てください。」

「これは…壁画か?」


 男のような絵と鋭い三本の爪を両手に持ち、狼のような顔を持った二足歩行の魔物の絵が対峙している。よくよく見ると、魔物の足元には多くの血と死体の絵が描かれている。

 場所はどこなのだろうか?太陽や月は描かれておらず、かといって迷宮と断定できる要素もない。

 これが右側の壁画。では、左側の壁画はというと…


「ひっ!」


 セレスが悲鳴を上げる程の深紅。

 臓腑をぶちまけ、血だまりとなったところにところどころ白い線が描かれている。おそらく骨だろう。

 その中央には一際大きな骨があった。形からして右側の魔物の頭蓋骨か。男を探してみる。

 少し奥に入ったところにいた。左腕を欠損し、顔らしい部分を真っ赤に染められている。


「一体、何があったんだ?」


 これだけでは分からない。護たちはさらに奥に進む。

 右側の壁は人と魔物が対峙するまでの経緯が描かれ始める。多くの戦士が愛する人を守るためにあの魔物に挑んでは、亡くなっていった。


「原因はこれか…」


 魔物に供物として人を捧げていた。ゾッとするような内容だが、魔物はそれで満足していた描写がある。少なくとも、この壁画では魔物は供物以上のものを人に求めていなかった。

 魔物は供物として選んだヒトを同じ村の仲間に殺させていたのだろう。そして、一人の女が供物として決まった時に、嘘をつこうとしたようだ。

 村長のような男と似たような服を着た娘が魔物に指を指されている。この絵から娘の心情は分からなかったが、村長は違った。酷く動揺し、焦っている。次の描写では赤くなった目で行動に移していた。

 まず、娘が眠っている間に、馬にのせ、村から走らせていった。そして…娘と同じ年の女を殺し、それに娘の装飾をして捧げた。

 しかし、それは一瞬でバレたのだろう。まず死んだのは村長だった。激昂した魔物に挑んでいった戦士が次々と死に、他の村人が死に、そして、あの男だけが残った。

 男は魔物との激闘の末に討伐し、彷徨うように悲惨な場所から離れていったようだ。


「報われたのか…」


 力尽き倒れていた男を一人の女が拾い、介抱する。…女は村長が逃したあの娘と衣装が一致している。様子を見に戻ろうとしたところで、男と遭遇したと、護は考えた。

 それから、時間が一気に飛んだ。

 男と女の間には子供ができており、三人いた。最初は幸せそうな笑顔の描写だったが…その内、一番下の女の子の様子がおかしくなりはじめる。赤い生の肉を喰らい、どんどん狂暴になっていく。そして、その姿が怪物になり果てている。…あの男が倒した魔物によく似ていた。

 セレスが息を呑む。その魔物は、夫婦が眠っている間に、兄と姉を殺して、姿をくらましていた。

 夫婦は魔物となった娘を探し始める。いくつもの壊滅している村の後に、再び夫婦が登場する。


「まるで入り口のような描写のしかただな…」


 その続きを見ようとすると…


「これはきつい。」


 右も左も天井も床も、どす黒い赤に染められており、見ているだけで、気が狂いそうになる。

 警戒しつつ、さらに進む。…結末があった。


「二人とも死んだ?いや、これは…」

「この姿、あの人型によく似ている。どういうこと?」


 致命傷らしき穴を空けられた男が立ち上がっている。そして次の描写で、その姿は護たちが対峙したあの人型へと変わっていた。

 そして、人型と魔物を囲むように魔法陣が描かれている。


「俺たちの状況が似ている。…飛ばしたのか。」


 転移したのだろう。詳しい描写はなかったが、おそらくそうだ。

 そして、物語は終わる。右の壁に鎖に繋がれた魔物と、左の壁に狂気的な笑みを浮かべる男の絵で。

 見回してみると、奥の行き止まりには言葉が書かれている。

 護は眉を顰める。獣人たちの言語ではない。かといって、アスタイト王国などで使われている言語でもない。古代語とでもいうべき言語で、その警告、いや助言は書かれていた。



『汝、災厄に挑む覚悟はあるや?』

『逃れる道はもう閉じられた。しかし、諦めることなかれ。』

『最奥に続きの道あり。生き残る道はそれのみ。苦難は続こう。しかし、命は紡げる。』

『汝、犠牲の覚悟はあるや?』


 読めた護はメイアたちにも聞こえるように伝える。

 護が振り返ると、あの赤黒く染まった壁の先が見えない。おそらくだが、あの闇に触れるのは不味い。頭の中で警鐘が鳴り響いている。

 セレスが尋ねてきた。


「…奥さんの書置きでしょうか?」

「分からない。しかし、誰かが到達したことがあるというのはこれで分かるな。それも二度も。」

「二度目じゃないと、警告は書けないってことね。でも、二度もここに訪れた?何のために?」


 護は首を横に振る。過去に何が起こったのか非常に気になるところだが、護たちで一番の問題は、この先だ。足元に書かれている魔法陣。ここから移動するしかなかった。

 転移先には、あの人型よりもおそらく強い魔物がいる。セレスとアンを守りながら戦えるのか、怪しくなってくるほどの。


「犠牲か…」


 「犠牲の覚悟」が引っ掛かる。要するに、誰かを囮にすれば、生き残ることができるというもの。

 つい想像してしまう悪いイメージを振り払う。それに、もし、死ぬとしたらまずは自分()からだ。自分の身代わりに死ぬことは許さないし、させない。

 覚悟を決めた護は一息おいて、メイアたちに尋ねる。


「準備はいいか?」

「「はい」」

「うん」

フルフル


 メイアたちが頷き、それぞれの得物を構える。護も『月光・真打』を構えて、魔法陣へと左手をかざした。

 魔力を魔法陣へと注ぐ。10にも満たないMP消費で、魔法陣は輝きを放った。


『!!』


 転送された場所は、ザ・リルゥガで作ったドームぐらい大きい部屋だった。そして、その中央に壁画に描かれていたあの獣が鎖繋がれた形でいる。体長はゆうに三メートルはあり、二足歩行の直立。全身を肌から分かるほどの筋肉で武装し、その長爪は一つ一つが人を貫くのには過剰に長く大きい。

 また、あの人型はいない。そして、残されていた助言の装置は獣が邪魔をしていて、見えなかった。

 獣が瞳を開く。『真理眼』で確かめようとしていた護の瞳と、視線が重なり合う。


(まずい!)


 頭の中で警鐘が鳴り響く。

 呆けて、呑気に眺めている場合じゃない。あれが完全に動き出す前にステータスを見極める。


リサラ(ティーア・カタストローフェ)Lv105

 LP 1920 MP 1598

  STR 1732 AGI 1470

  TEC 1666 END 1619

  INT 1500

 一般スキル 魔法(火・風・土)Lv10 

 特殊 獣の呪 迷宮の守護者


(あいつらの時と一緒よ!!)


 短剣の霊のイメージが護に伝わる。賢者の戦いと同等。つまり、今の現状で、護たちはどうあがいても勝てない。

 勿論、『反撃の水薬カウンター・ポーション』を使えば、勝てないことは無いが…


「走れ!」


 護たちは走り出す。目指すは災禍の獣(リサラ)の背後。あの助言を実行しようとした。

 しかし、リサラの鎖がはじけ飛び、護たちは高速で飛ぶ残骸をよけることを専念させられる。『障壁』を三発で砕く威力。少し、魔法をブーストしただけなのだろう。ちゃんとした投擲物なら、『障壁』は一発で貫通している。そんな予感に突き動かされるまま、足を力限り動かすしかなかった。


「来ます!…『ファイア・ランス・トリプル』」

フルフル!

フルフル!


 セレスが放った火の槍は相手の瞼を少し焦がすだけで、目を貫通しない。

 ハイドロたちスライムが放った水の槍も同様だ。表皮を削るだけで、ダメージはほとんどなかった。

 何より、足を止めない。距離を一気に詰められ、その凶爪が振るわれた。


「くぅ!」


 魔力の刃が砕かれ、護が吹き飛ぶ。空中で何回転も縦に回る独楽のようだ。

 強化され鍛えられた動体視力が何とか、状況を捉え、『超制御』で姿勢を整えて地面を削る。

 右腕を鈍痛がはしっている。見てみると、腕と肩の骨が砕けていた。『月光・真打』を落とさなかったのは幸運だった。


(メイア!!)


 …メイアが執拗に目への攻撃をして、時間を稼いでいる。アンとセレスに攻撃が行かないようしていた。

 風の刃と凶爪を残像を残しながら躱していっている。

 相手とのステータス差で、有効なダメージは与えられない。表皮は削れても、肉を断つ…増して内臓へとダメージを与えるには、刃が届かない。


「まだ、駄目だ…」


 『アイテムボックス』に手を伸ばそうとした護の手が止まる。LPの減少値が足りない。


「『ライト・ヒール』」


 護は腕を回復させると、メイアの元へと加勢する。

 セレスが光を『月光・真打』へと付与し、いつもより倍ほど輝く魔力の刃を展開した。


「はぁ!」


 一撃離脱。走る速度を落とさずに、獣の足を切りつけた。

 硬い。そして、効いていない。

 分かり切ったことだ。護の膂力では皮膚一枚を完全に断ち切ることすら怪しかった。セレスの魔法で強化したとしても。


(なら!)

「『属性付与・日』」

 

 セレスのエンチャントに、日属性を重ね合わせる。輝きを増し、そして、ひんやりとしていた部屋の温度を上げる熱が、護の持つ刃に収束している。


「もう一度!」


 振るわれた護の刃は、皮膚を焼き切り、その下にある筋肉を焼く。

 当然ながら、周囲を駆けまわるメイア()よりも、脅威となった護に強烈な殺意を向けた。


「『パリィ』」


 護が再度吹き飛ぶ。何とか地面を削りながらも、着地した。

 そこへ風の刃の嵐が迫る。


「『三の型・土塔壁』」


 護の周囲を鋼鉄のような壁が覆う。風が当たる度、音が爆ぜ、壁が砕けていく。

 二度、三度、展開し直し、護は風の刃をやり過ごした。しかし…


「マモル様!」

「護さん!」


 セレスとアンの悲鳴が聞こえた時には、遅かった。

 メイアを置いてきぼりにした加速で突進した獣はボロボロになった壁を破壊し、護に体当たりを仕掛ける。

 護は咄嗟に『パリィ』を行ったが、先ほどまでの攻撃とは、重量と速度が桁違いだ。技は発動していても、その効力をほとんど意味をなさない。…かつてナヒーリヤに殺されかけた記憶が蘇る。過去の自分と同等のダメージが入り、奥の壁へとぶつかる。

 意識が途絶える。血が床を赤黒く染め、護は死の縁へと立たされる。また、短剣は地面を転がり、輝きを失った。


「護様を!」


 メイアが叫ぶ。獣はメイアに凶爪を振るってきており、護に近づくことなど、到底できない。…アンとセレスが見逃されているのは、あまりにも実力がかけ離れているからか。

 逃げと防御に徹する。しかし、状況は良くない。爪が掠る。それだけで、右腕の肉が吹き飛んだ。水薬(ポーション)で癒すものの、血は失われていく。体力も。

 そう長くはもたない。そんな確信を持ちながらも、必死に足掻く。久しぶりの死との輪舞を、メイアは舞い続ける。

 メイアが懸命に獣と対峙している中、セレスは護の元へとたどり着いていた。


「『メガ・ヒール』」


 護にあらゆる手で回復をかけていく。しかし、薬や魔法の効力が薄い。あまりにも死へと近づきすぎた。すでに心臓は止まり、息をしていない。

 セレスは護の胸へと手を当てる。肋骨が砕け、肺なども原型をとどめているか怪しい。偏にまだ死んでいないのは護のLPが0になっていないからだ。

 上手く治せない。…絶望がセレスへと迫る。『純愛』がセレスを苦しめ始めていた。


「いやいやいや…」


 助けなければいけないのに。頭がおかしくなりそうだ。

 魔法の光が弱くなっていく。イメージが途切れていく。そして、頭をよぎるのは、これまで一緒に過ごしてきた記憶。どれも、楽しそうな自分と護が映っている。

 目の前の現実を受け入れたくない。愛しているからこそ、永遠に。

 セレスの瞳が淀み始める。治療の手が止まった。護が死ぬなら…


「セレスお姉ちゃん!!」


 アンのハイドロを使ったビンタがセレスの頬を叩いた。


「アンちゃん?」

「まだ、間に合う。諦めないで!!」

 

 セレスはハッとする。瞳に光が戻った。

 目の前で死にかけている護はまだ生きている。諦めるのは完全に死んでからだ。

 

「命を…愛してます、護さん。」


 イメージするのは、オリーの『命共有(エクストラ)』。セレスは護の青くなった唇に自身の唇を重ねる。

 セレスのMPが急速に減っていく。そして、LPが減り始めた。

 護の身体が回復魔法とは異なる光に包まれる。また、セレスは腕の皮膚が割け、白い衣装がどんどん赤黒く染まっていく。


「っ」


 セレスはこれまで体験したことがないほどの激痛と、気怠さに襲われる。

 でも、関係ない。護のことを思えば、この程度。(LP)をどんどん注ぎ込んでいく。注ぎこんでいく度に、護の顔色が良くなっていくところを見れば、力が湧きあがる。

 …護が息を吹き返し、咳き込む。それと同時に、セレスはその隣へと倒れた。二人とも激しく消耗しており、動けない。


「マモル様、マモル様!」

「う……、アンか……!!」


 体が碌に動かない。かつての地球での生活、そして、メイアによく似た少女の面倒を見ていた記憶がある。それもすぐに消えてしまった。

 ぼんやりとした意識が戦闘音、いや、自分に向けられた殺意で覚醒した。

 アンの視界に満身創痍となったメイアの姿が入った。彼女の黒い戦闘服はボロボロとなっており、その下の肌は水薬や魔法で癒し切れていないのか、傷口から血が流れ固まっていた。

 何より、命を吹き返した(脅威)を殺さんと、獣がこちらを向いている。


「大丈夫。私が守るから。」

「アン!?」


 獣がすぐそこまで迫って来ていた。

 アンは護へと微笑むと、両手にそれぞれ剣を一本ずつ構え、対峙する。


(くそっ!動けよ!)

「やぁあ!」


 アンの姿が遠くなるのが見える。自殺行為だ。獣がにやりと笑っているように映る。

 意識を切り替える。悪態をつくのではなく、スキルと技、魔法を使え、と。

 護は『超・制御』で、重い体を動かしつつ、魔法を発動した。


「『ライトニング・ホップ』『九・速』」

バチッ!!


 爪が二つの長剣を砕き、アンの胸へと届く前に、制御ができない速度で突っこんだ護がアンを爪の軌道内から、助け出し、股の下を通過していった。


「ぐうぅ!」


 そして、そのまま、アンを逃げるための魔法陣の元へと運ぶ。

 負荷がなけなしのLPを削る。せっかく、セレスが命がけで助けてくれたのに、これでは逆戻りしそうだ。


「メイア、セレスを!」

「え!?」

「早く!!」


 獣の視線は『反撃の水薬』を服用し、殺気を向ける護へと向かっていた。

 一歩(・・)で距離を詰める。白黒の世界の中、護はスローモーションで振るわれる爪を躱した。

 そして、左の拳で殴る。


グァ!

「ちぃ!」


 あまりの力に殴った左腕の骨が砕け、獣も護も吹き飛んだ。近くに落ちてあった『月光・真打』を回収しつつ、相手を調べる。

 『真理眼』には一気に獣のLPが300以上減っているのが映っていた。また、自分は後、21だ。

 駄目だ。倒し切れない。MPも風の刃の嵐を防ぐのに使ったせいで、もう一発分ぐらいしかない。

 運が悪いことに、獣の目から愉悦の色は消え、警戒に変わっている。


(頭を吹き飛ばせば…)


 それでも、護の動きを捉えられていなかった。ならば、行けると確信し、走る。

 獣の全方位への爆発を、護はボロボロの左腕を振るっただけで、吹き飛ばす。激痛に護の顔が歪んだ。それでも、足を止めない。

 そして、渾身の魔法が炸裂した。


「『日閃』」


 右手が振り下ろされると同時に、護たちの目を焼くほどの灼熱が獣を真っ二つにした。

 LPが0になるのを目にし…真っ二つにしたはずの傷は、何もなかったかのようにくっついた。


「はぁ!?」


 呆気にとられる。まさかの事態に、動きを止めるしかない。

 自身のレベル(・・・)は上がっているのに。あれで倒せていないのかと、疑問で頭が埋まっていた。


「護様!!」

「!」


 メイアとセレスが、アンの元へとたどり着いていた。

 獣がそれに気づき、護ではなく、彼女たちの元へと走った。


「うおおぉ!!」


 トップスピードで繰り出した、右ストレート。今度は、右腕がぐちゃぐちゃになった。LPが一桁にまで減り、護は意識を失う。また、反動を受けて宙を舞う彼を、メイアが魔法を使いつつ、受け止め、そして抱きかかえる。

 …肝心の獣は吹き飛び、壁へと激突していた。衝撃を受けて、動きが止まっている。

 そのわずかな時間、メイアが全力疾走し、気を失った護を含めた全員で魔法陣へと乗る。さらに、MPを注ぎ、魔法陣を起動した。


グオォォォ!!


 壁から叫ぶ獣の魔法は、起動した魔法陣から上がる光の壁に弾かれた。

 そして、浮遊感と共に、メイアたちの視界を白い光が染めていく…


補足 

セレスの蘇生

 セレスが用いたのは、『命共有(ライフシェアリング)』もどき。分類は魔法であり、光魔法Lv11に相当する。高レベルの原因は、肉体の復元と蘇生(呼吸や鼓動を正常に戻すという意味で)を可能としており、自身のLP量次第では全快させることもできるため。

 なお、護に対して、回復魔法が効きずらかったのは、セレスの動揺とスキルに加え、あまりにも損傷が酷かったから。言い換えると、セレスの光魔法で治せる領域を超えていたことが原因。


最後、護の攻撃が効かなかった理由について

…実のところ、倒してはいる。護のレベルは上がっており、魔物のLPは0になっていた。しかし、『迷宮の守護者』によって、直ぐ新規の魔物としてリポップしている。記憶を引き継いでおり、かなり厄介な状態。この状態ではいくら足掻いても倒せない。そのため、逃げ道が存在…いや、できた(・・・)

 倒すためのギミックが存在し、それを行うことで、リポップしなくなる。…ただし、人型に転移を許した時点で達成不可。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。