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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
迷宮編
90/138

迷宮攻略~第三層・その2~

つ、続き…

~迷宮・第三層~


「マジかよ…」


 力を無くし、座るダブを誰も怒らない。仲間たちも同じ感想を抱いていたからだ。

 原因は護がスズメバチ型の女王からドロップさせた時計、いや方位磁針のような魔道具。その使い道から、第四層へと行く方法が大体判明した。

 罠と魔物を倒しながら、各地に潜んでいる中ボスを倒すと、第四層への門が出現するというものだ。


「まだまだ歩かないといけないのかよ。ってか、最初ノーヒントだったぞ。これ、運悪く見つけられなかったら、ほぼ詰みだったよな!?」

「……」


 ダブの魂からの叫びが木霊する。否定できるような要素もないので、何も言えない。

 溢れる怒りを抑えるように、近くの木へともたれた。第二層と比べると、まだ、許容できると自分に言い聞かせているようだ。

 護は魔道具で指示されている方向を見つめる。今までと変わらない風景だ。木々が生い茂り、その下には低木などの植物が生えている。おそらく、罠も設置されているだろう。


「第三層も骨が折れそうだ……潮時なのか?」


 脳裏に横切る「撤退」の二文字。どこまで進むべきか護には分からなかった。

 思考を一度中断する。物音がしたからだ。


「いいはけ口がやってきた。ボコって、ストレス発散。」


 ぞろぞろと姿を現す魔物たち。運が悪いことに、オセたちの怒りとやるせなさを晴らすためのサンドバック代わりになることが確定してしまう。

 …しばらくして、やや機嫌を直せたオセたちを率いて、次の中ボスへと向けて進み始めた。


「大族長、あの実、食べられる?」

「毒の類はなさそうだ。あと、喉が渇いている奴は優先的に食べた方がいい。」


 罠を解除したセプからの問いに、護は『真理眼』を発動し答える。

 『アイテムボックス』にたんまりと水はため込んでいるが、それ以外の手段でとれる時はその方法でとった方がいい。

 護ほどの身長の高さしかないのに、顔程の実を腕以上の太さの枝からつけている木から、セプが実を切り落とす。


「硬っ!うわ~、少しナイフの先が欠けちゃった。」

「俺に変わってくれ。」


 『月光・真打』でストンと刃の半ばまで入れた護は、一回引き抜き、三角形に皮を切り取った。

 少し傾けるだけで果汁と種が出てくる。


「種も食べられるみたいだ。」

「そうなの?」

「ただ、かなり硬いから生食には向かない。炒めれば、種皮が割れて剥けるようになる。その中身を食べるらしい。」

「へ~、大族長、凄い詳しいね。私たちのこともよく知ってるし、何でも答えてくれる。本当に物知りなんだね。」


 護はセプの称賛に、視線を逸らす。『真理眼』と『完全なる図書館の司書』の存在があっての、知識量だ。護という人間が、蓄えた知識とは言えない。

 セプはそんな護の様子より、果汁のほんのりとした甘さにはまっているようで、護の顔を見ていなかった。


「大族長はメイアさんたちの中で誰が一番好きなの?」

ザワッ!


 甘さで脳までおかしくなったのか!?と驚く護。セプはというと、純粋に興味があるようで、自分がタブーに触れかけていることに気づいていない。

 護に三人…いや、四人の視線が刺さっている。

 嫌な汗が滴り落ち、やや引き攣りながらも、笑みを浮かべた。


「優劣をつけるものじゃないぞ。それはメイアたちに失礼だろ。」

「ごめんなさい…」

「気になってしまうのは分かります。で、護様…誰が一番好きですか?誰を選んでも、私たちは怒りませんよ?」

「…」


 メイアの質問に、有無を言わせない圧力がかかる。

 彼女の背後には苦笑するセレスと、やや上目遣いをしてくるアンが。


「…」

「もちろん、私ですよね?」

「…ああ。」


 よくできましたと、メイアは軽く口づけを交わす。それから、悪戯を成功した子供のような笑みが浮かんだ。


「申し訳ございません。つい、護様が可愛らしかったので。」


 メイアが実を一つ、短剣で切り落とし、二つ切り口を開ける。

 『アイテムボックス』から護の目が点になる二つの棒が取り出された。金属でできたそれは、手より少し長いくらいで、真ん中には空洞になっている。

 要するにストローだ。金属(ミスリル)製なので、プラスチック製のように厚さが薄い割に、固い。


「もう少し、大きな反応を期待したのですが…」

「えーと、メイア、二人で?」


 護の顔が引きつる。この展開は…


「ええ。よく知っていますね。貴族の中でも若い恋人同士が一緒の飲み物をたしなむ時に使うそうなのです。」

「それは分かっているが、ここで?」

「ロマンチックなシチュエーションではないことは重々承知しております。ですが、せっかくいい物が手に入ったのです。駄目でしょうか?」


 飲み干して満足しているセプに罠が近くにないか確かめさせ、二人で同じ幹に座る。

 警戒しなければいけない迷宮の中だというのに、という考えと恥ずかしさが護の中をよぎる。

 躊躇っていると…


「護様、嫌ですか?」

(うぐぅ!)

 

 ここぞという時のメイアはあざとい。既に口へとストローをつけ、やや上目遣いで護にそう尋ねてくる。

 いつものポーカーフェイスはどこに行った!?と、護の頭がショートし始める。変なスイッチが…夜、嗜虐心をちらつかせている時と、妙に似ている彼女のテンションに、やや硬い動きをとるしかない。

 セレスとアンがまじまじと見つめてくる中、覚悟を決める。


(ああ、飲みやすい甘さ。セプが飲み干すのも分かるような…)


 現実逃避。

 護は羞恥心で心の中が一面占めており、楽しむことは出来そうになかった。

 そんな護にメイアは微笑む。咎める訳でもなく、護に何かを求める訳でもない。ただ、珍しく頬を赤くして微笑むだけだ。


「メイア?」

「少し、貴族の少女たちが憧れている理由が分かったような気がします。」

「そうか。凛としたメイアも好きだけど、初心なメイアもいいな。」

「そ、そうでしょうか?」


 羞恥心でゆっくり楽しむことはできなかったが…メイアの一面を見ることができたのでよしと思うことにする。

 それから、セレスとアンが羨ましそうに見ていたので、二人も同じようにする。

 …しばらく護の胃がタプタプになり辛かった。三人の機嫌に比べれば、代償ともいえないような出来事かもしれないが。


「全員、水分補給できたみたいだな。」

「ああ。マモ、大丈夫か、顔色がそんなに良くないぞ?」

「問題ない。その内収まる。次の奴を倒しに行こう。」


 魔道具に沿って進みつつ、目印を建てつつ進む。途中で罠を利用しながら、魔物を排除していき、ほぼ動かない(・・・・)反応の元へとたどり着いた。

 相手は魔物の木。他の木々は緑一色。こいつだけ、赤や黄と紅葉(こうよう)しており、場違いだ。

 そして、ひしひしと感じるのは、敵意と殺意。


「良く燃えるかな?」

「魔法があれば、セレス嬢が焼き払って終了…ってところだろ。普通の火で燃えるような木なのか、これ。山火事は勘弁だぞ。」

「じゃあ、殴り倒すの?」


 ダブとオセが攻略法を話し合っているところへ、魔物の攻撃が地面から迫ってきた。根を護たちを貫くように伸ばしてくる。

 スレスレで躱したオセが剣を振るう。根の半ばまで食い込むが、切断まで至らなかった。

 護が切断に成功するが…顔を顰め、返す刃でセレスに向かっている根を切り落とす。

 硬い。技の発動なしでは、護とメイア以外で切断するほどの威力を出せる者がいないほどに。

 

「葉っぱが飛んでくるよ!」

「セレス、オリー、キナは急いで後ろに。アン、ノムは護衛だ。」

「うん」

『了解チュウ』


 護の指示が飛び、セレスたちが罠に気をつけながら、後ろへと後退する。

 俺たちは!?と必死な顔をするダブとセプに、護は微笑んだ。


「ダブは周りを走って罠にかかりまくってほしい。」

「死ねと!?」

「大丈夫だ。ダブなら生きて帰って来れる。」

「いや、その信頼はどこから!?」

「セプ、カバーを頼む。」

「大族長!?」


 空気がひんやりとした。護は「跳べ!!」と離れるように跳ぶ。

 丁度いたところが一面凍った。音を立てて、凍った草花が砕け散る。


「頼んだぞ!!」


 『守護』を発動し、ヘイトを集めた護は、ひんやりとする空気をかき分けて氷漬けを回避していく。

 護は『気配察知』で立ち位置を気をつけながらも囮に徹し、一番の脅威である魔法を惹きつけていた。

 それが実ったのか、メイアが葉の雨をよけ、幹の元へとたどり着く。『バイト』の二撃が頑丈な幹へと深々と刺さった。さらに、蹴りを叩きつける。

 しかし、その傷はたちまちのうちに回復してしまい、蹴りを叩きつけるころには、折れることもなく、その樹体と枝を揺らすだけだ。


「むぅ、そう簡単にはいきませんか…」


 メイアが飛びのく。一瞬だけとはいえ致命的な攻撃をしてきた彼女に、ヘイトが移った。

 周囲を守るように冷気の帯を発生させ、近づくことを許さない。


(MPの回復速度、チートだろ…)


 『超再生』と『吸収』の二つがかなりの脅威となっていた。

 葉を飛ばしたり、根を伸ばしたりといった攻撃をする際のLPの減少は、『超再生』で無視できるほど微弱で、『吸収』でMPを消費した分を地面から吸い上げているようだ。

 魔法を連発させてMP切れといった持久戦はできない。


(実にいやらしい。魔法が使えない以上、斧使いでの一撃必殺とかが、正規の攻略法か?)


 護はメイアに『障壁』を張り直しつつも、『月蝕』で根を切り裂いていく。

 近くで悲鳴が上がったかと思うと、ダブとセプが叫びながら、二人一緒にヘッドスライディング。その上を鎌鼬が飛んでいき、彼らを狙っていた根を運よく傷つける。

 涙目になっている。護を見つけた二人は急いで立ち上がり叫んだ。


「大族長、ヘルプ~!!」

「ここら辺はあらかた作動させた!これでいいか!?」

「二人とも下がれ!!十分だ。」

「「やった!」」


 護が惹きつけた氷の槍がセプの真横を掠めて行った。セプとダブが慌てて後ろへと逃げていく。

 場が揃ったことで、護は縦横無尽にかけ、氷を、葉を、根を躱し、時にうち落とす。


「メイア!」

「いけます。」


 メイアが『隠密』を起動。効果が薄いのか、すぐさま狙いが元に戻るが、護が駆けだすのには十分だった。


「『五・武』」


 赤いオーラを、『月蝕』を握る両腕へと収束させていく。


「『九・速』」


 根を振り切り、幹へと迫る超加速。突如として現れた氷の壁を、『月蝕』の突きで吹き飛ばし、護は技を発動する。


「『クラッシュ・トレース』!」

  

 剣術の中でも、高威力、斬撃よりも打撃に特化した一撃が炸裂した。

 護の膂力と技の威力、そして、『五・武』の強化がかかった一撃で、幹がメキメキと嫌な音を立てて、へし折れる。

 しかし、強力な『超再生』がその幹を何とか繋ぎとめようと、繊維が伸びて千切れたところを再びつなげようとしている。


「はぁ!!」


 メイアの高速連撃が、それら全てを切り離した。それでも、LPが無くならない魔物に対して、護とメイアがそれぞれ攻撃する。


「『クロススラッシュ』」

「『アジャスト・デス』」


 切り落とされた上の部分はメイアが複数に輪切り、下の部分は護の渾身の一撃が地表付近にある魔石を砕いてとどめを刺した。

 そして、メイア側はドロップとして残り、護側は霧となってミスリルのインゴットへと変わった。

 また、漂う一枚の葉が、護の手の上に落ちてきた瞬間、次を指す指針へと変化する。


「オセ、大丈夫か?」


 痛みを堪えているオセに駆け寄る。彼女の右腕を根が貫通したらしい。穴が空き、血が流れ続けている。

 護はポーションをかける。肉が完全に治ったところで効果が切れた。もう一本を追加でかけると、傷口は完全に塞がった。


「すごい落ち着いている。」

「?」

「アンが大けがした時は、そうじゃなかった。」

「当然だろ?」


 傷口を見ても、顔色一つ変えずに、染みるどころか痛いポーションをぶっかけてきた護に、オセはそう言う。メイアたちが負傷した時も、顔色一つ変えずに、力強く握って痛い治療を行うのだろうか。そんな疑問がよぎった。


「気にしないで、少し変わってると思っただけだから。」

「オセより俺の方がマシだと思うが。」

「本気で言ってるの?」


 オセに呆れてしまった。彼女は塞がって傷口に手を当てて、完治していることを確かめると、護に礼を言って二人から離れて、落とした自分の武器を拾う。

 護はメイアに視線を送って尋ねるが、目を逸らされるだけだった。


「大分時間が経っている。撤退しよう。」

『武器の補給がしたいチュウ』

「どこぞの誰かさんが苦労して作った槍を破壊しまくるから…」

「後悔はしていない。杭を作ってよ。」

「俺に頼むなよ、セレス嬢に頼めよ…」


 ずっと変わらない青い空のせいで、体感時間が狂ってしまっている。一体、どれだけの時間が進んでいるのか不明だ。

 残してきた目印を頼りにして、復活した罠と魔物を倒しつつ、門へと戻るのであった。


~第三層・奥地~


 地上の日数で三日目、第三層では…よく分からない。

 魔道具を頼りに、四体目の中ボスを倒した後のことだった。


「散開!!」


 高速で飛んでくる岩が木々をなぎ倒し、護たちが居た所を大きくえぐった。

 飛び散った欠片が護の頬の皮膚を掠め、血が零れる。


(『気配察知』の圏外。厄介過ぎるなぁ。)


 遠くから次弾が飛んできているのを目にする。狙いはキナとダブの方向だ。


「キナ!ダブ!」

「分かってる!」

「きゃぁ!!」


 ダブがキナの手を引っ張って轟音がする場所から逃げた。遅れてやって来た三撃目は護が『障壁』を張ることで、無事で済む。


「護様!」

「俺でも捉えきれない!」

「嘘ですよねぇ!?」

「残念ながら、セプ、そのまさかだ!」


 木々がなぎ倒されたものが邪魔でいびつな形で再生している。

 さらに飛んできた一撃で護とセプとの距離があき、そこを木々が壁のように再生してしまったことで、合流が難しくなった。

 護、メイア、セレス、アンの四人と、オリーと獣人たちといった形に、完全に分断されてしまう。


「ええと、これで…」

「護様?」

「メイア、少し時間を稼いでくれ。」

「畏まりました。」


 護は奴隷契約のオプションを開き、一部を変更していく。

 動きを止めた護に、かなりの威力を持った岩が迫る。しかし、メイアが彼をお姫様抱っこしてその場から離脱。また、あえて止まることで、アンとセレスに飛んでいく砲撃を減らしつつ、腕の中で今も、本人にしかみえていないオプションを弄っている護をメイアはしっかり抱える。


「よし、できた!」

ヒュゴッ!!

「セレスさん!」

「『十・断』」


 セレスが躓いた。そこへすかさず木の砲撃が飛ぶ。

 護はセレスの前の木々と砲弾を切断。MPの急激な減少に頭が痛むのを堪えつつ、セレスに『障壁』を張った。

 上下に分かれた砲弾の下が、複雑に切られたことで、壁のようになった木々へとぶつかり破砕した。メキメキと音を立てて、伏せているセレスへと倒れかけるが、すんでのところで止まる。


「セレスさんは私と共に。」

「お、お願いします。」


 セレスを抱きかかえ、二撃目を走って躱した。

 背後は、かなり入り組んで再生しており、最早直線で戻ることはできないだろう。


「…向こうは撤退しているのか…砲撃は来ていないらしい。」

「私たちが完全に狙われているということですか?」

「ああ。どうしてなのか、さっぱり不明だ。」


 こんな状態でも生きている罠が残っている。メイアが踏んだ爆発系の魔法陣が起動した。

 咄嗟に護がアンを抱きかかえて、『九・速』を発動したため、巻き込まれなかった。その代わり、足にずっしりとした負担がかかる。


水薬ポーションを早く飲んで。後、オリーから挟み撃ちに出るべきか、だって。」

「少し近づいて砲撃が飛んでくる場合は、射程圏外に逃げてくれ。」

「そう送る。」


 一気に瓶一本分を飲み干した護は、『アイテムボックス』に空き瓶を放り込んだ。

 アンがオリーへとウィンドウに文字を書き込んでいる間、護は彼女を抱えて再び走る。


「やっぱり駄目か!」


 護たちではなくオリーたちがおそらくいるべき方向に飛んだ。

 被害はないものの、オセとオリー以外は浮足立っている。また、護の『障壁』などの安全策ももう取れない。

 オリーは護の指示通り、リスクを避けるように距離を取り始めた。


「こっちも撤退する。」

「許してくれるでしょうか。」

「さぁ、祈るしかないな…」


 護たちも反転を…し損ねた。大気を震わせる大きな叫び声が響き、護たちの意識を強制的に、元凶の方へ惹きつけられる。

 護の探知外にまで、逃げられたオリーたちには意識を割かせる効力はなかったらしい。

 チラッと、ログを見る限り、彼らは門へと先に戻るとのこと。心配するべきことが若干減るので、護にとって、有難かった。


ズガガガッ!


 砲撃が再開され、護たちの隣の木々を何本かなぎ倒す。

 

 当たればひとたまりもない。


 冷や汗が流れた。撤退を許してくれない相手。そして、膂力(STR)技量(TEC)がある敵なのは砲撃の威力と精度を考えると、間違いない。


「マモル様?」


 不安そうに見上げてくるアンに護は、「大丈夫だ」と告げた。

 ダブたちに知らずの内に頼り過ぎていたのか?

 セレスたちを守り切れないと不安があるのか?

 それとも…


(怯えているのか?……いや、そうじゃない。)


 護はアンを抱えたまま、三角跳びで樹上へと躍り出ると、放物線を描いてかなりの速度で落ちてくる木の砲弾を、右足で蹴り当てて軌道をずらした。軌道をずらされた砲弾は、的外れなところに落ちていく。

 近くの木の幹の表面を削りながら、着地する。一度、アンを下ろし、今度はおんぶの形で背負った。


「アン、かなり激しく動くから、しっかり掴まっていてくれ。」

「うん」


 護はアンが調合した敏捷強化薬を飲み干す。身体が熱い。しかし、瀕死時、限界の遥か先で振るう力に比べれば、全然足りない。

 それでも十分だ。今、必要な力は制御できる加速。アンという荷物を抱えた状態でも、いつもと同じように走ることができればいい。


「制限時間は長めだけど、気をつけて。」


 糸に引っ掛かる。しかし、矢が来るよりも護とメイアが通り過ぎる方が速い。

 砲撃を二手に分かれて避けた。すると、メイアと護のそれぞれにやや小ぶりの岩が襲い掛かってくる。


(面積に物言わせた攻撃を止めて、数で押すようになってきたか)


 岩の散弾が、枝を普通に折って護たちへと襲い掛かる。

 『障壁』に当たる度、バキッと、小さな罅が入った。もって十発までは、耐えてはくれそうだ。


(消耗が…これは対峙した時はメイアに任せるしかないな…)


 連戦の消耗が護を襲っていた。技や『障壁』の使用限界が近づいてきている。

 できるだけ木の幹を盾にして、護は避けていく。


「マモル様、右から風!」


 罠を踏んだらしい。横から発生した風が二人を襲る。

 風を受け止めた『障壁』が砕けた。さらに、そこへ運悪く礫の散弾が飛来する。


(うわっ…よくやるわね。)


 『月光・真打』を引き抜いて、礫を弾き、他の礫へと当てる。

 宿っている霊の一ミリも感じられない感心とアンの称賛に反応している暇はない。

 メイアに少し置いて行かれそうになっている。走る速度をあげて、横に追いついた。


「護様、魔物の動きは?」

「ほとんど移動していないな。もうそろそろ姿が見えてもいい筈だ。」

「あの膂力の持ち主は大分小柄なようですね。」

「…嫌な予感がします。」

「私も」


 散弾の雨を突破し、護たちがたどり着いた先、そこには人型と呼べる魔物がいた。とはいえ、体長はゆうに二メートルを超えており、異様な腕の長さと筋肉の付き方が目にいく。

 護たちを視線に捉えた人型。長い白髪の下、その口が醜く歪む。


「AGIは300、STRは1000越えだ!TECは933とか、化け物だな!」

「セレスさんとアンさんは荷が重いかと。」

「俺が惹きつける!その間にセレスを下ろしてくれ。」


 人型は手に持っていた枝を護に投げつけた。ほぼ腕の力だけだというのに、かなり速い。

 護はすでに動いていたため当たらなかったが、後ろの幹とぶつかり合って、枝が粉々になった。また、幹の方も当たったところが凹んでいる。

 メイアが一旦距離を取りセレスを下ろそうとしている間、護は挑発するように回収していた罠を投擲していく。


(毒はほぼ抵抗されているな…硬い筋肉のせいで、有効打っぽいのは無理か。)


 気を引くことには成功している。しかし、LPの減少は微々たるものだ。

 アンの手が緩む。咄嗟に投擲をキャンセルし、護はアンの手を掴んで、回避に専念する。


「ご、ごめんなさい。」


 アンの手は汗が滲んでおり、また滑った。

 急激に止まった勢いで、アンが落ちてしまう。悲鳴を上げるよりも早く、手首のスナップだけで飛ばされた礫が迫る。


「お待たせしました。」


 メイアがアンに迫っていた礫を弾いた。

 彼女が人型に切りかかり、護がアンを抱きかかえて後ろへと退散する。


「マモル様、役に立てなくてごめんなさい。」

「今は問題ない。とりあえず、下がっていてくれ。」

「うん。頑張って。」


 申し訳なそうなアンに、護は優しく抱きしめる。そして、戦場に戻る。

 メイアが相手のリーチの長さに苦戦している。ただ腕を振るわれるだけでも、彼女を吹き飛ばせるだけの力が込められており、かなりの速さがあるため、慎重にならざるを得ない。

 とはいえ、『宵闇』で硬い筋肉に少しだけ傷をつけ回っている。漆黒の短剣が硬い筋肉と触れ合う度、小さな傷は増えていっている。


「『隠密』」

!!

「っ!」


 目の前で自身と戦っていた女が消えたことに、驚く人型。女の代わりに出てきた男の赤黒い剣を、腕をクロスして防ぐ。完全に(メイア)への警戒が一瞬消えてしまった。


「『バイト』」

ガキン!!

「は?」

ウォォォォォオオ!!


 メイアも護も吹き飛ばされる。

 今度は護たちが驚く番だ。メイアの技は、首を正確に狙っていた。防がれた原因は、あの白髪だ。全てを『硬質化』させ、髪の半分を切られながらも、メイアの攻撃を凌いだ。

 人型は白髪が散っていく様をみて、激怒する。そして、狙いを変えた。


「セレス!」

「きゃぁ!!」


 セレスへ剛速球の礫が飛び、彼女の右太ももへと直撃した。骨が折れ、肉を貫通する。

 痛みで足を抑え倒れるセレスの頭部を目掛けての一撃は、アンが剣で弾く。礫が当たったところに、少し罅が入り、アンが顔を顰める。

 射線上に身を挺した護が、『月蝕』を振るった。


「こいつっ!」


 メイアが作った傷へと的確に当て、深くしていく。それでも、まるで、太い幹を叩きつけているかのような感触に、護はさらに神経を研ぎ澄ませる。

 嵐のような両腕の猛攻を、護は確実に潰す。速度が乗る前の腕を剣で切りつけ、できなかったものは、ステータス(AGI)にものを言わせて何とか回避する。


「首はもう狙わせないという訳ですか。」


 メイアの短剣は土の壁に阻まれた。切り裂くことは出来ても、その先の白髪の防御を突破できない。

 狙いを変え、護が弾いた腕をさらに切りつけ、傷を深くする。本体への防御は仕留め損ねたことで硬くなった。しかし、腕は攻撃に用いるためか、比較的柔らかい。


「ちっ!やはり警戒されてしまいますか。」


 メイアが『アジャスト・デス』を発動しようとしたところで、護の対処をやめメイアへ腕と土魔法で猛攻を加えてきた。

 彼女の顔が苦痛で歪む。腹部に礫が当たり、熱い痛みと脂汗がどっと出る。


「大丈夫です、護様!」


 メイアの『宵闇』が右腕を深々と切り裂いた。護の攻撃によって、もろくなっていたところを吹き飛ばされながらも、彼女は狙いきる。

 人型の悲鳴がようやく上がった。それと同時に、どす黒い血が溢れ落ちる。


ガァァアアア!!

「「!!」」


 吹き飛ばされることはなかった。しかし、足元が強烈な光を放つ。

 大規模な魔法陣。『真理眼』には人型のMPが一気に0になり、LPの八割を切っているのが映る。

 さらに…


(セレスとアンも対象か!)


 身体が金縛りにあったかのように、動かせない。セレスとアンも同様のようで、強張った顔で護を見つめるだけで動きが止まってしまっている。

 また、魔法陣を起動した人型も動きを止めていた。全身から出血し、ボロボロの姿。伏せていた顔だけが動く。


(笑ってやがる!)


 人型は愉悦の笑みを浮かべている。赤い瞳孔で護を捉え、ざまぁみろ、と言わんばかりに。

 どんどん魔法陣から光が溢れ、そして刻まれた魔法が発動。

 人型を中心に、護たちも光に包まれ…その場から消失したのであった。


A:なんちゃってQ&Aを始める。

Q:久々ですね。何から聞くべきですか?迷宮編に入ってからといえば…魔物のケー君いましたよね?

A:そうだが、ケーは基本、門番をして、お腹が空けば近くの魔物を狩って食欲を満たしているだけだぞ?

Q:えー(呆れ)、モフモフは無いと…。第三層で遭遇したスズメバチ型、あれ、遭遇しなかったらどうなるんです?ダブが言った通り詰みに?

A:あれは、どの方角でも一定距離を進めば遭遇するようになっている。実のところ、護の枝がどの方向に倒れても、スズメバチ型の魔物に遭遇していた。…まぁ、移動する場所は変わっていたかもしれない。

Q:では、あの人型は?

A:それは別条件で出てくる魔物だ。条件を達成してしまった故に出てきたエクストラ(例外)で、ステータスもかなり高い。Lv70は乗っているから、獣人たちではかなり厳しく、戦えば犠牲が出ていただろう。

Q:…(へー)


 と、こんなところでしょうか。迷宮編もようやく後半…


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