迷宮攻略~第三層・その1~
……
~迷宮・第三層~
「おおー!木がいっぱい!!」
セプが叫ぶ。第三層の門を開けた護たちの目の前には広大な森林が広がっていた。
疑似的な青い空が広がっていて、これまでとは毛色が完全に異なっている。
少し遅れて、ダブが驚きの声をあげる。
「魔法が使ねぇぞ!!」
「!!」
何度やっても魔力が垂れ流されるだけで、魔法が発動しない。
セレスたちも同様で、魔法は起動できなかった。
「魔力の刃も駄目か…」
『私の槍は何とか、起動できるチュウ。でも、効率が悪いチュウ』
魔道具の類は起動できるようだ。しかし、ノムの言う通り、かなり魔力を注がなければ発動しない。
「スキルは?」
「そっちは難なく発動できそうだぜ。にしても、これはかなりきついぞ…」
回復薬などは緊急時に使うほどの量しかない上、土魔法が使えないということは、武器の損耗を気にしながら戦わなくてはならない。
また、目印になるようなものがない。一面、同じような木々が生い茂り、小さくなった門だけがポツンとあるだけだ。
「どうする?ここで引き返す?」
「いや。何ができるか確かめてみよう。『十・断』」
アンの問いに護は近くの木に近寄って、妖精の秘奥を使う。どちらかといえば、技の比重が大きいからか、いつもの倍以上の魔力を消耗して発動する。
木が同時に三本切れたところを、護が思い切り蹴りつけ、倒れる方向を調整。
目の前では瞬く間に、切り株から再生する木々。切り倒した方はそのまま残った。
「凄い再生力。セレの回復魔法みたい。」
「…ありがとう?」
苦笑するセレス。オセの率直な感想に、礼ではなく、ツッコむべきなのか、迷っているようだ。
ともかく、護は『月蝕』に持ち替えて、『ブリッツ』を発動。切り倒した一本を縦に真っ二つにする。
「これをどうするの?」
「目印を作っていこう。この森の中で帰還するための門が分からなくなるのはかなり不味い。遠くからでも見えるものを建てないといけない。」
「かなり時間がかかっちまうぞ。」
「立派なものにする必要はない。とりあえず、何本か木を利用して屋根のようなものをつけよう。資材はありあまるほどある。後、ある程度太い枝で槍を作ろう。技の使用には耐えきれないかもしれなが…ないよりかはマシだろ。」
動き出した仲間を他所に、護は何か使えないか調べてみることにする。
『気配察知』は使えるので、仲間の反応と魔物の反応を確かめつつ、木々の間を歩いていると…
プツン!
「!」
足元の糸が切れた同時に、護はその場で跳躍する。そして、前方から飛んできた四本の木の矢を躱し、横からの矢は『月蝕』で弾き無効化する。
護は木の杭を回収し、頭をかく。
(罠もあるのか…どういう風なギミックになっているんだ。)
護は見えないように小さな茂みになっているところを『月蝕』で切り裂きながら、探索してみる。
すると弩が五台設置されていた。また、その近くに、護へと飛び損ねた一本の矢もある。
その一本に、緩んだ糸が伸びているところを見ると、横からの弩の攻撃のスイッチとなっているのだろう。
「弩は回収して…」
更に歩く護。すぐに別の罠…それも魔法系の罠が起動し、無数の氷の切っ先が襲い掛かってきた時は、ずるいと思わざるえなかった。
(おっ、こんなところでこれに遭遇するとは。)
足元にある小さな葉の丸い植物を採取する。水薬の原料の一つであり、獣人族の領域に来てからは、ほぼお目にかかれていなかった。
(魔法がない代わりの救済措置?)
カチッ
上から落ちてきたまきびしを斜めに展開した『障壁』で流す。律儀に毒が付与されていた。
魔法が使えない状況での毒に、護は危機感を覚える。
(解毒薬の素材もとれるのか?…現地調達できないと、ほとんどないぞ。)
解毒薬はある程度のレベルの魔法で解毒できるため、ほぼ備蓄がない。それに解毒薬の方は、症状によって、使い分ける必要がある。…どんな毒でもINTさえあれば解毒できてしまう魔法の方がおかしいだけだ。…種類が異なるのだから、それに対応した解毒を行うほうが当然とも言える。
毒びしを『アイテムボックス』に回収する。他にもないか、慎重に進み、時にはわざと引っ掛かって、罠の種類を確認しつつ、回復関連の素材を探す。
「…速いな!」
門の近くに木々を利用した屋根と壁が一体化した三角形のツリーハウスもどきが形になっていた。あくまで、目印として機能すればいいので、拠点としての機能はないはりぼてだ。
木を登った視認した護は、一旦戻ることにする。丁度、戻れる頃には、向こうの作業も終わるはずだ。
「!」
木から飛び降りようとした護に、羽根が迫る。大きく跳躍する形で回避し、地面を転がった。
護がいた所に、羽根の持ち主が飛んで止まった。
(『隠密』持ち…)
白いフクロウ型。羽毛を『硬質化』し、飛ばしてきたようだ。そのほかにも、鋭いくちばしに、獰猛な爪を持っている。何より、その両方から毒が滲み出ているとなると、最初の攻撃が羽根だったのは、幸運だった。
大きな目で見据えられる護。強力な『隠密』によってフクロウ型が消えるようにいなくなった。
「『障壁』」
かぎ爪と目に見えない壁がぶつかりあった。
離脱しようとするフクロウ型へと、すかさず護は技を発動する。
「『九・速』」
神速の突きがフクロウ型の右羽へと突き刺さった。そしてそのまま、地面へと振り下ろす。
羽が裂けたフクロウ型は地面に落ちた。残った左羽から羽根を飛ばして護を追い払おうとするが…
『障壁』を砕けない。
ゴッ!
護から飛び退き損ねたフクロウ型は頭を『月蝕』で砕かれ、絶命する。
その死体は霧のように消え、残ったのはインゴットだけだ。
(銀…悪くないな。)
何事もなかったように『アイテムボックス』へと仕舞い、合流するのであった。
~迷宮の隣拠点~
「あれ?一日経ってる?」
門付近の探索し終え、迷宮外が夜になり始める頃(迷宮内ではずっと青い空のまま)に一旦撤退した護たちは、迷宮の外に出て、首を傾げた。
太陽は頭上をやや低めの高さの位置にあり、体感とずれが生じている。
「ケー」
拠点の門番をしているケーに護は声と思念を送った。それで、問いに対する答えをぼんやりと掴んだ。
「なるほど…」
「何か分かったのですか?」
「こっちでは一日すら経っていない。」
『!?』
向こうでの半日が、こちらでは数時間経っているかどうか。
獣人たちは驚きのあまり、固まっている。
(まぁ、そうなるよなぁ…)
獣人たちに比べると、護はそこまで驚いてはいない。なんでもありと言える迷宮ギミックに、時へ干渉してくるものがあってもおかしくはない。
それに、森林と青空が広がっている時点でおかしい状況だった。今更、一つ加わったほどで、仰天するのも…という風に護は思っている。
「…護さん、食料の消費が増えませんか?」
「うーん、大丈夫だろう。一応、向こうで自給自足はできる。ただ、肉は工夫しないと手に入らないだろうけど。」
回復に使えるものだけではなく、食用の植物も生えていた。また、魔物は他の層と同様の仕様となっているため、部位をしっかり切り取らないと、肉は手に入らない。
「いつも罠が近くにある。危なくない?」
「後衛陣は原則近づかない、アンもハイドロで防御を固められた時だけにすればいい。俺とメイア、オセあたりは、普通に対処すれば問題ないだろうし、物理的な罠ならセプが解除できる。」
「そう…」
「何か気になることがあるなら言ってくれ。」
「今はない。…マモル様が夢中になって、攻略をしているから…マモル様がこっちを見てくれる時間が減った気がして、嫌と思っただけ。」
「ごめん…」
護はアンを抱きしめる。腕の中にいる彼女は、少し不機嫌だ。
「これから、水薬を大量に作るんでしょ?」
「ああ。」
「一緒に作ろう?…それで私はいい。」
アンが護の腕をすり抜ける。不機嫌さが抜け、ニッコリと笑う。
背後からオリーの視線が刺さっている気がする…ログには何も表示がないので、問題ないと思いたい護だった。
アンと護が水薬類を作成している間、メイアはセレスやキナと共に体術を励んでいるようだ。また、ノムとダブが土魔法で、使い捨ての武器を作成するなど、各々が時間を利用していく。
そして、日が昇り切ったころにリトライをすることになった。
「はぁはぁ…」
「『ライト・ヒール』」
「ありがとうございます、護さん。」
「十本。もう少し素材があれば、もう一本いけたんだが…」
「解毒薬は一種類ずつ各一本。誰かが毒になった時点で撤退する。だから、罠や毒の攻撃は避けてね。」
息が上がっている面子に回復魔法をかけ、LPを全快させた一行は第三層に再び赴く。
「どうやら、そのまま残るようですね。」
「幸運だね。最初からやり直しはかなり大変。」
「…ただなぁ。」
ンッァア!
護たちを大きな翼を広げ威嚇してくるシラサギ型。まるで蛾のような羽模様をしており、大きな目が護たちをジーと見つめてくるようだ。
「!!」
「各自散開!」
魔法陣がいくつも展開され、水弾が飛んでくる。木が大きくえぐれる威力。
しかし、気に入っているのか目印の建造物には傷一つつけていない。
「メイア!」
「畏まりました。」
「『守護』」
護がヘイトを集め囮になる。メイアは『隠密』を起動。
一段膨れ上がった脅威にシラサギ型の雨が襲い掛かる。木々を貫通し、護の『障壁』を激しく打ち据える。
その暴雨が止み、間髪入れず水の槍が神速の速さで飛んできた。『障壁』が砕け散る。
「『九・速』」
加速した身体で、木々の隙間を潜り抜ける。水の槍は白のコートを掠って、奥へと飛んでいった。
それからも、次々とやってくる水の砲弾は何度も護のすぐ背後を木々を吹き飛ばしつつも、仕留め損ねる。
カチッ
「『七・転』」
ぐっとMPが減る感覚と、護が直角に曲がり落ちる感覚が護を襲う。
水の槍と氷の剣山がぶつかり合い、砕け散った。
護の視線に、シラサギ型の背後に近づいているメイアがチラッと映る。こちらに夢中になっている上、『隠密』でメイアは気づかれずに、シラサギ型の背後をとっていた。
「『バイト』」
シラサギ型の首が飛んだ。たった二撃で、魔法砲台と化していた魔物は命を途絶えさせる。そして、霧とインゴットに変わっていった。
護は矢を弾き、メイアたちに合流する。
「流石だ。お疲れ様。」
「恐縮です。護様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。」
「あいつがへし折った木を回収した。大族長、どっちに進む?」
オセの質問に、護は真っすぐな木の枝を拾ってきたかと思うと…地面に垂直に立て、手を放す。
支えを失った枝がふらついて倒れた。丁度、目印がある方向を指して。
「こっちへ進む。」
「…」
「大族長、運ですか?」
「キナ、何かいい方法があるなら教えてくれ。」
「いえ、何でもありません。遅れないようしっかりついて行くことだけに集中します。」
枝が倒れた方向に進み始める。
第二層…ではなく、第一層と同じような編成で、唯一違うのは、メイアが殿ではなく偵察に回っている。木々の間をかなりの速度で前進し罠を走破してもらい、護たちが復活する前に、仕掛けを回収しつつ進むという方法をとっていた。
「メイアさんに頼りすぎてるような気がします。」
「俺がやってもいいんだが…」
(メイアが頑固として譲ってくれなかった。…夜の体力持つかなぁ…)
第二層を攻略した夜を思い出し、護は無表情になった。
…彼女いわく、快楽を貪った後に、ドッと襲い掛かってくる疲労があると、よく眠れるらしい。
特に、昼によく活動すればするほど…とのこと。
(うん。これは考えないようにしよう…)
セレスとアンからジト目を向けられる。強く両腕を抱きしめられ、手を軽く捻られる。
完全に何を考えていたかバレているようだ。
「大族長たち、危ない!」
カキンッ!!
ダブが引っ掛かったボウガンの矢が背後の見えない壁に当たって弾かれる。
警告したキナの目が徐々に死んでいく。セレスとアンが護と引っ付いているのはいつものことなので、気にしない。ただ…さりげなくアンがハイドロを使ってダブの方に打ち返しているのはどうだろうか。
クルクルと回転し飛んでいった矢はダブの犬耳へと軽く当たって落ちた。彼の顔の血がサーと引く。
「ダブ、こっちに飛んできた。」
「悪かった、アンちゃん。次からはそっちに飛んでいくのは何とか撃墜する。だから、その瞳孔が開き切った目は勘弁してほしい。」
「気をつけてね。」
振り返って口を開いたのはアンだけ。しかし、セレスも目が据わっており、ダブを捉えている。
護が歩みを再開したことで、二人は元に戻った。
「こ、怖ぇ…」
「魔法が使えなくて、ラッキー。あれ、一歩間違えたら、光が飛んできたと思う。」
戦々兢々とするダブにオセが呆れる。ノムとキナが遅れて頷いた。
もし、実力行使に及んだら、護は二人を止めるだろうか…。矢に関しては、止めなかった。
「やっぱり、おっかねぇ。俺たち、生かされている側だった。」
「忘れてたの?…第二層で見せた根性をここでもしてよ。私たちが尻ぬぐいするのは御免。」
「首輪をつけて、躾れば、罠を踏まなくなりますか?」
「じょ、冗談だよな、キナ。」
ニコリと笑うキナ。それを見て、身体中の毛が逆立つ。
それから、どうにかして首輪だけは勘弁と真剣になり始めたダブの後ろを、キナは満足そうに笑みを浮かべながらついていく。
大族長に…二人だけの世界を作り始めるようになったダブとキナ。
「どうにかしてよ…」
オセの呟きに同意するノムであった。…ちなみに、セプは先頭を歩いており、後ろの騒ぎよりも罠の解除に忙しかったため、彼女だけマイペースを維持していたそうな。
~数時間後~
「こいつらは…」
『気配察知』に多数の反応があった。
四つ目の目印を置いたところで、メイアが進もうとしたところに護が待ったをかける。
「メイア、罠をできるだけ起動させずに、魔物を一、二匹だけ引っ張れないか?」
「視認できるものであれば、可能です。ですので、魔法の罠は引っ掛からないとほぼ分からないので無理ですが、数を減らすことはできるかと。」
メイアが『隠密』を発動し、姿を消す。
護はセレスたちに戦闘の準備をするように言いつつ、『気配察知』で魔物との距離を探っていく。
時折、木々が薙ぎ倒れる音が遠くで聞こえたり、爆発音がしたり…それでも、魔物が特別な動きをする様子を見せない。
「!」
メイアが『隠密』を解除し、反応が映る。それから、魔物の動きが一気に変わった。
目の前に突然現れた彼女に魔物が殺到し始める。行きと少し異なるルートで護たちの方へと戻ってきているようで、魔法の罠もかなりの量が作動している。
「あー、やっぱり…」
視認できるほど近づいたメイアがしゃがみ、速度を落とす。その頭上をバスケットボールほどの大きさスズメバチ型が飛び、糸を千切った。
すぐにボウガンの矢がスズメバチ型を蜂の巣にし、命を奪う。
「思ったより残りましたね…『アジャスト・デス』」
メイアが五匹を目で捉えると同時に、技を発動。
胸部と腹部が断ち切られ、翅も半ばから切り取られた五匹は、絶命する。
「せーの!!」
セプが土の槍を高速で飛んでくる個体に突き刺そうとするが…躱されてしまった。
カウンターを何とか身を反らして回避。速度を維持したままの次が迫ってくる。
ノムが『ボア・バッシュ』で、インターセプト。胸部の硬い外殻を砕き、思い切り突き刺さる。
ギチッ!ギチッ!
「うわぁ…」
『セプ、槍を変えるチュウ』
貫通したまま、まだ足掻く魔物に、セプの顔から血の気が失せた。
力尽きるのは時間の問題だが、緑色の体液を流しながら、動いているところはかなり精神にくるところがある。
ノムは半ば強制的に、セプのもつ土の槍と魔物が刺さったままの槍を取りかえる。
『次がくるチュウ』
「おわっ!ラッキー!」
二人を通り過ぎ、その背後で様子を見ていたダブに襲い掛かった。
驚いたダブは咄嗟に、槍を突きだす。それは、比較的柔らかい脚の節へと刺さった。
スズメバチ型の飛ぶ軌道が変わり、ダブの背後へと消える。…しばらくした後、爆炎と共に、残骸が飛んできた。
「折れちまったか…やっぱり、俺が作るんじゃ、セレのようにはならないみたいだ。」
「ダブ、これ一回きりの使い捨てにしてもいい?」
「別に構わねぇけれどよ、上手使ってくれ!」
バキン!
「言った傍から、折る奴がいるか!!」
「こっちの方が好都合なの。黙ってて。」
オセが半ばから折ったかと思えば、速度を上げてまだまだ湧いてくるスズメバチ型の一匹へと突進をかける。
突き出した左手の棒は顎に砕かれる。しかし、続いて突き出されたもう一本は外殻の間へと刺さる。
「っ!!」
急ブレーキをかけ、忌まわしく殺気を向けてくるもう一体の毒針を躱した。
まだ緑の血をぼたぼたと垂れ流しているスズメバチ型へと、槍を投擲。一発目は外れ。二発目で頭部に突き刺さり、絶命。
再び槍を真ん中でへし折り、接近してくる一体へ体を捻った全力投擲。
ガッ!!
「もう一度」
棒とぶつかり、速度が落ちてふらついているところを、二本目が両顎の真ん中を通って突き刺さり、墜とす。
次へと襲い掛かっているオセを見るダブは涙目だ。あの様子だと、何本あっても足りない。
魔法で作成したものなので、大変苦労したとは言えないが……使い潰されていく様子を見ると、涙がにじむのであった。
「今です!」
「セレスお姉ちゃん!『ブリッツ』!」
一方、セレスとオリー、アンの三人は固まって襲撃に対処していた。
セレスが護から貸してもらった盾を両手で構え、攻撃をいなし、アンの剣技とオリーの槍が次々と屠っていく。
「オリーさん、危ない!」
「くっ」
間一髪のところで、護が張った『障壁』がオリーを顎の脅威から守った。
慌てて槍を振るうと、それをゆらりと躱され、次の攻撃が迫ってくる。
…槍から手を放し、『アイテムボックス』から取り出した太い土魔法の串を二本、顎の関節にさし込み、噛めなくする。そして、触覚を掴んで、セレスの方へ投擲。
セレスが拳を握りしめ、叩き落とす。そして頭部と胸部の間に、盾の尖った部分突き入れた。
ギチチッ!
「はぁ!」
一度で駄目なら二度、三度と体重をかけてへし折った。
オセたちに比べて非力かつ、アンのように剣術を収めていないセレスではこれが精一杯。
「はぁはぁ…」
「セレスさん、少し休んだ方が…」
「大丈夫です、オリーさん。…アンちゃんよりも体力はあるんです。…頭がまだついて来ていないだけなので、まだまだいけます。」
盾を構え直し、真正面から残る一匹…いや、二匹をいなした。
息が激しく乱れるセレス。メイアとの手合わせだけでは、まだ感覚にずれが残っている。
毒針をすんでのところで回避し、後ろへと体制が崩れた。そこに左右から同時攻撃が迫る。
「はぁはぁ!…ここです!!」
セレスは後ろ向きに倒れる勢いを加速させ、身体を捻る。右足を蹴り上げ、右側のスズメバチ型を吹き飛ばし、反らした胸の直上を左側の毒針がギリギリ通り過ぎて行った。
そこへ、オリーとアンがそれぞれ止めを刺しにかかる。
「『ブリッツ』」
剣が閃き、頭部を粉砕。たちまち霧へと変わった。
「しつこい相手は嫌いです!」
土の槍を渾身の力を持って叩きつけた。負荷からピシッと罅が入る。
オリーは腹部の外殻の隙間を狙って槍を、無理矢理押し込んだ。…罅が入ったところから折れてしまう。
「いい加減、くたばりなさい!」
もがくスズメバチ型に突き刺さっている槍を足で強く踏み込み、地面へと縫い付ける。
さらに、頭部に残った槍の柄を叩きつけた。鈍い音がして、ようやく動きが止まった。
「はぁ…マモル様は…」
「まだ、戦闘中のようです。メイアさんと共にいるのでしょうか?」
「…大分遠くで戦闘音がします。息が整ったら、加勢しないと。」
目印付近のスズメバチ型は処理し終えた。後は…距離を離して戦っている護とメイアのみ。
木々が倒れる音に鳴りやまない雷鳴。セレスたちの不安を駆り立てる音は、断末魔が聞こえるまで、鳴りやむことはない。
焦がれる思いを抑えて、セレスは雷光を揺れる瞳で見るしかなかった。
ドガッ!
「こいつが親玉…もう少し、大人しくしてくれよ…」
発生からほぼノータイムの雷撃の嵐に護は辟易としていた。
『障壁』を一撃で砕かれることは無いが…敵味方お構いなしの無差別雷撃が襲い掛かってくるのは、防げるとしても心臓に悪い。
(強引に突破したいところだ…)
しかし、翅ではなく脚を発達させ、地面を軽快に走り襲い掛かってくる近衛が邪魔だ。
『月蝕』の剣閃を軽々と躱し、毒爪を振りかざしてくる。こいつらがセレスたちの元へと、行かなかったことにホッとする。
「!!」
「油断は禁物ですよ。」
別のことに意識を割いていたからか、『障壁』が砕けたタイミングで挟み撃ちを受けてしまう。
そこへメイアが疾風のごとく二匹とも始末し、護の頭上を跳び雷撃から守る。
背中合わせとなった二人。周りは依然として雷撃の雨に、近衛型の包囲が残っている。
「『障壁』…助かった。」
「礼は後に。しかし、どうしますか、護様。」
「あれの攻略か?」
「はい。スタミナ切れを起こしそうな雰囲気をしていないあの女王型をどうやって仕留めましょう。」
「近衛の殲滅が一番か」
そこで会話が一旦途切れる。
飛び掛かってきた近衛型を護は『双月蹴り』でスタンさせ、『月蝕』で真っ二つにする。
さらに、その近くの木陰に隠れていたもう一体、いや三体の同時強襲。
「『五・武』…『蝦蛄打ち』」
紅いオーラを纏ったエルボーが高速で打ち出される。オーラが三角錐のように広がり、護を覆った。
まともに当たった一体は、複雑に外殻に罅割れを生じたかと思うと、体液をその間から垂れ流しながら、絶命する。
残りの二体は強烈なノックバックで吹き飛んだ。その先で雷撃が直撃し、煙をあげる。こちらも、触れたところが粉々に砕け散っていた。
「中々、えぐい…」
凶悪な技に使った本人が引く。拳闘士が使う『気功術』ほどの汎用性(攻撃、回復、防御)はなくても、発動した『五・武』は、攻撃という点では勝っているのかもしれない。
また、何の技も使わずに、発動して使っていたため、ここまでの威力を発揮したことがないという点も、護がギョッとする原因となっていた。
「護様、私が単身で勝負を…」
「いや、俺がやる。邪魔な奴を追い払ってくれ。」
「畏まりました。露払いはお任せください。」
『九・速』を起動。雷撃を無視して女王型へと直線を詰める。
それを知覚した近衛型。護を急いで追おうとするが…
「『ソニックフォース』」
残像が残るほどの高速移動を持ってして、一体がバラバラになった。
「『ピアシング』」
続いて、護に一番近い個体を中心に四体ほど木でできたビスが打ち込まれる。外殻の節間を狙ったそれは、砕け散りながも貫通し、内部をその破片が蹂躙する。
「つ!!」
護に迫る敵の数にメイアは『アイテムボックス』から札がついたビスを取り出し、膨大な魔力を注ぐ。
雷撃が消えた瞬間、それは護を囲むように投擲され効果を発揮する。
パキィィン!
氷の花が一気に昇華し、近衛型の脚を奪う。跳躍しようにも、氷結の茨が食い込み、邪魔をしてきて上手くいかない。
そんな状況を作ったメイアにMP切れの頭痛が襲う中、護が到達したのを視界に捉える。
「『十・断』」
すれ違い様に放たれた雷撃は『障壁』を砕き、護の左手に当たった。
あまりの痛みに護は目を閉じそうになるが、目を見開きギロチンを放つ。
ギィイィィィイイイイ!
重い胴体と泣き別れた女王型が叫ぶ。そこへ、さらにもう一発『十・断』を放ち、その頭を真っ二つにした。
余韻に浸る暇もなく、敵討ちと飛び掛かってくる近衛型を護は『月蝕』でたたき割り、左手の傷が少しだけ癒えた。
「残党狩りはしないとな…まだ、痛いし」
『月蝕』をゆらりと揺らした護は残りのスズメバチ型を殲滅するために、再び剣を振るい続けるのであった。
その2へ続く…




