迷宮攻略~第一層・その2~
…
~一週間後・迷宮~
「これで終わり!『ブリッツ』!!」
アンの直剣がアラクネの人の部分の胸を貫いた。それでも、足掻くアラクネの顔にハイドロが発動した石の礫が直撃し沈黙させる。
それが前方の話。後方はというと…
「オセ!」
「ダブ、キナ、ナイスアシスト。」
ダブの繰り出す岩場を跳躍し、オセが縦横無尽にダチョウ型を数体、首を切り裂いていく。
羽根と風は鏡らしきものに吸い込まれたかと思うと、ダチョウ型のさらに奥、いかにも強そうな二足歩行の馬顔の魔物へと急に現れハチの巣にする。
『エンチャント・ウインド』
『インパクト』
オリーの風の援護を受けたオセが全身に羽が突き刺さる痛がる馬顔に、小づちを横に振った。
反応されるが関係ない。躱せない一撃が、馬顔のあばら骨をへし折り、致命的なダメージを内蔵に伝える。そして、大威力に従って吹き飛び壁に大きな罅を作った。
倒された魔物たちが霧となって消えていく。そして、手に入るインゴットは鉄と銅だけだ。
「現段階で、全員Lv50後半以上、オセ、セレス、オリーの三人がLv60台に乗ったと。」
「限界とは言いませんが、もうそろそろ、よろしいのではないでしょうか。」
レベリングを決意して、第一の門内を周回し始めてから、早くも一週間が経った。
余裕のある戦い方ではなく、連戦をし続けてきた護たちは、レベルが底上げされ、ヒヤッとするような場面も減った。
代償として、ノムの槍が完全に壊れてしまったことと、夜な夜な命の奪い合いで火照る身体を相手にさせされた護の本能が制御できなくなってきているところか。…メイアの体力の多さにタジタジな護であった。
「どうかなされましたか?…今は迷宮ですよ。」
「…」
護の視線に気づいたらしい。ゆっくりとオセたちの奮戦を見ていたメイアが、冷ややかな目と声で注意してきた。
主な原因は…と言いたい。太刀打ちできないので、心の内だけだが。
メイアに謝り、第二の門までの道を歩む。
「いよいよだなぁ。」
『胸が高鳴るチュウ』
不安はある。しかし、みっちり地獄のようなエンカウントを生き残った一行には自信もあった。
護が門を押す。いつ攻撃が来ても躱せるように、神経を尖らせる。
「不意打ちはなし。大部屋一つ。目視できる範囲に次の門があるな。」
「魔物の反応はありますか?」
「ない。不気味なほどにだ。十中八九、何か起こるぞ。」
引き返すという選択肢はない。セプを先頭にかなりの広さがある大部屋へと侵入する。
メイアが殿として、門を閉めたその時だった。
『!!!』
「セレス、防壁を。オリーはその支援。前衛組!覚悟を決めろよ!」
足元が発光し、膨大な魔力がその場に充満した。護の『気配察知』に多数の魔物が急に現れ始めた。
(モンスターボックス!)
一律Lv55。その数は50以上。数えるのが億通になるほどの魔物で、一杯になる。そして、それらすべてが護たちに敵意を向けてきた。
初手は護の妖精の秘奥。『月蝕』を両手で振るう。
『伍の舞・桜草』
強烈な範囲爆撃。護から扇状に爆発が連鎖する。
ガァァ!!
複数の断末魔が響く。それらすべてが霧のようにかき消え、金属へと姿を変えた。
…一部は水の防壁を使い爆発から身を守ったようだ。爆撃に加え、『守護』を発動した護に魔法を飛ばしたり、近づこうとしてくる。
「『アジャスト・デス』」
そのメイアの一言は、無慈悲に護へ魔法を飛ばしていた魔物五体に対して等しく死をもたらした。首が飛び、霧へと変わる。
さらに倒し、これでもう半分。
「大族長とメイアさん、獲物獲りすぎ!」
「こいつらを狩ってもレベルが上がらない。とっとと倒して、休憩をとる。」
『俺たちも負けられないチュウ!』
護が足を切り落としたバッタ型を、ノムの新たな槍が貫く。魔力が注がれ、刻まれた魔法陣が発動した。
ボンッ!!
突き刺されたところから爆ぜたバッタ型は霧へと返る。
『やっぱり、MP消費が激しいチュウ。それでも、戦える力をくれたセレ殿には感謝するチュウ』
土魔法で作られた槍に、強度補正の魔法式と爆破の魔法式が描かれたものだ。ノムのMPでは同時起動攻撃は数回が限界で、切り札となっている。
また、効率よく戦うために、魔力操作の練習をしていたのが、役に立った。オンオフの切り替えを早くし、必要量だけを注ぎ込むという技術は彼の『勤勉』と日々の努力があってこその力だ。
「ダブ、やりますよ!『ワープ・ホール』」
「はいよ。『ストーン・バレット・マルチ』」
キナの時空魔法とダブの土魔法の組み合わせ。予想外の位置から飛んでくる岩が魔物共を滅多打ちにする。絶命こそ免れた魔物がほとんどだ。しかし、怯み、動きが止まった。
さらにオセの『インパクト』、ノムの『ボア・バッシュ』、セプの『ソニックフォース』がそれぞれ、一体ずつに決まり、ダメージを負わせることに成功。
「『シャイン・レイ』」
『危なかったチュウ…』
セレスが一本の光線で、止めを刺しつつ、いつの間にか数体しか残っていない魔物も貫いた。その光の経路としてノムの股の下を潜り抜けて行ったので、冷や汗が流れる。少しタイミングがずれていたら、右太ももを焼き貫らぬいていたかもしれない。
セレスに抗議しようと彼女の方へと向くが、彼女はノムではなくアンに向かっていて、こちらに気づいてくれそうになかった。
「『エンチャント・シャイン』」
オリーの支援を受け、光を纏った剣を両手で握ってアンが舞う。
身長の二倍ほどある六足歩行のウマ型をすれ違い様に一閃。左足を三本とも膝で切り落とす。それから自分に迫るタヌキ型の爪を弾き、頭を一刀両断。
しかし、光を纏った剣は輝きを失ってしまう。そこへ、さらにもう一体、タヌキ型が迫る。
「ハイドロ、お願い。」
フルフル
アンの義手の形が変わる。指が刺突に特化した刃に。
『硬質化』したハイドロでタヌキ型の目、そして脳を貫き、念にハイドロの形をウニのように尖らせて内部を確実に破壊する。
霧に消え、インゴットだけが残った。
再び光を纏った剣で、ウマ型の足を全て切り落とし、倒した。切り落とされた足が残り、インゴットも残る。
それで戦闘は終わった。
「第一の門の方が難しかった。」
「マモたちのおかげです。マモとメイだけで半分減っちゃいましたし…」
「多分、物量で潰すのが、このコンセプト何だろうが…頭のおかしい殲滅力を持っている奴らがいるからな…」
アン、キナ、ダブの順で感想が出てきた。ダブは護とメイア、セレスを見て困ったような表情をする。
「どう捉えるのかダブの自由だけど…私は、油断していたところを潰す仕組みだと思う。」
「油断だぁ?正直、第一がきつくて、油断なんてできないだろ。」
オセが少し苛立っているダブにジト目を向けながら、こう続けた。
「第一は魔物の襲撃間隔が長い…かなりの速度で進むと地獄絵図に…でも、護たちのような強者がいなくても、じっくり休みつつ、技をフル活用すれば、私たちでもなんとか突破できる。それに足が速ければ、振り切ったり、『隠密』で乗り切れたりできるかもしれない。」
「地獄のような難易度になりそうだが、できそうだな。」
「でも、ここはそうはいかない。後ろも前もここにいる魔物を全滅させなければ、魔法で開かないようになっていた。」
命からがら逃げるように突破できたとしても、この場所はすぐに魔物が大量に出てきて、連戦を強いる。
また、『隠密』が効きにくい昆虫系なども混じっていたことから、『隠密』しつつ全て暗殺をするのは不可能だ。ただ、メイアほどの実力者が揃えば、成立する戦術になるかもしれない。
「徐々に進んできた人たちにとって、勝ててきたのは相手が少数だったから。もしくは相手がスキルをほとんど持っていない時のみ。ここは単純に物量がある。自分たちはやれると勘違いしていれば、間違いなく死ぬほど、多かった。」
「まぁ、レベルを上げる前の俺たちならそうなってたかもしれないな。」
「キナの勘のおかげ。その代わり…」
オセたちの顔色が青くなった。メイアのモンスタートレインをひたすら処理していくという、地獄の一週間の記憶が蘇る。
あれのおかげで、この第二の門を正々堂々と攻略できたことに感謝すべきなのか、護とメイアの狂気の発想に、セレスたちが平然とついて行っていることを知り、自分たちがおかしいと発狂すべきなのか、心の中でぐるぐると回っている。
…そもそもの考えの発端は聖女譲りなのだが、それを知る由もなく、護たちの考えにドン引きする獣人たちであった。
「…ともかく、ここを作った奴がいるとすれば、性質の悪い性格をしていそうだぜ。」
「大族長。ダブの言うことに同感。」
護が頷きを返す。すでに疑惑から確信に変わるほど、高い殺意を迷宮は有している。
『完全なる図書館の司書』で調べた限り、迷宮は二種類あり、一つは洞窟など自然型。二つ目は超文明型だ。この迷宮は後者に当たり、なぜ、どのような手段で作られたのか、謎の部分が多い。
加えて、難易度が高い傾向がある。迷宮踏破者が出ていないほどに。魔物の強さの他にトラップの種類の多さと、侵入者を拒絶するための仕組みが、踏破しやすい自然型に比べて段違いに発達している。
(アスタイト王国にある迷宮は自然型…だったはず。二種混合型はないみたいなんだよなぁ…)
超文明型の最初の層が自然型を模している場合はあれど、奥に行けば行くほど、超文明型の迷宮構造になっていくため、二種混合型は分類に存在しないらしい。
そんなことを記憶の中から引っ張り出していると、第三の門が勝手に開き始めた。
「やった。次の層への階段がある。」
オセがより一段と大きくなった部屋の最奥に下へと続く階段を見つける。
「…」
「マモル様?」
護の視線はオセとは別のところに釘付けになっていた。…あれは絶対起動しなければ。
壁にいくつも立てかけられた松明に火が勝手に灯り始める。どこかゲームを彷彿させる演出に、内心、笑いがこみあげながらも、武器を構えるように仲間に告げる。
「待ってくれないらしいな。」
「…そうみたいです。護さん、先制は私がとります。」
「頼む。ヘイトは俺がすぐに気を惹きつけるから、心配しなくていい。」
「分かりました。…『エレメント・リアライズ』」
セレスが属性の玉を宙に浮遊させ、先制攻撃の準備を取る。他の面子も準備ができたことを確認し、護が一歩、部屋に踏み込んだ。
部屋の中心で、大きな魔力が渦巻く。一つの渦巻く球となり、護たちから内部は覗けない。
…中から爆ぜた。そして、魔物が姿を現す。ミノタウロス。Lv69。大きな鈍い輝きを放つハルバードを持ち、スキルも豊富だ。アラクネを超える存在感を放ってくる。
「『バースト・ランス』!」
すかさずセレスの魔法が炸裂した。様々な属性の槍がミノタウロスに殺到し、防御を貫いて直撃していく。
「やったか?」
ダブが思わずそう言った。アラクネはセレスの全力攻撃に耐え切れなかった。そんな攻撃を受けて、倒せないはずはないと。
しかし、ミノタウロスはあちこちから裂傷、火傷、凍傷などになりつつも健在だった。
「嘘だろ!」
「『守護』!」
ダブの動揺を気にしている暇はない。
護はすかさず『守護』を発動し、相手のヘイトを自分に向かせる。
「!!」
ギャリン!
相手のハルバードを短剣で流しつつ、回避する。あまりの重さに、腕が痺れた。
振り下ろしを横に飛びのけ、槍斧術Lv4の技『ムーン・スラッシュ』を『フルパリィ』で弾こうとする。
「くっ!」
真正面から弾こうとしたわけでもないのに、護の身体が吹き飛んだ。ハルバードの斬撃の軌道も護の技を受けて変わってはいるが、護の思ったようには弾けていない。
転がる護に変わって、攻撃を仕掛けたのはメイアだ。護たちの三倍はあるミノタウロスの身体を駆け上がり、首を炎を付与した『宵闇』で焼き切ろうとする。
ウオォォォ!!
メイアの短剣は分厚い肉に阻まれ、致命傷にはならない。押し込もうにも、ミノタウロスが暴風の鎧を展開したことで、比較的身軽であるメイアも吹き飛ばされてしまう。
光線が迸るが…『硬質化』した瞼で受け止めた。火傷はしているものの、頭に致命的なダメージを与えるには至っていない。
オセたちも攻撃を加えていくが…硬い皮膚と肉に阻まれ、浅い傷を負わせるのが精一杯。
キナとダブの連携も、相手を攪乱するのには使えるが致命的な攻撃とはならなかった。
『クソォ!徐々に回復してるチュウ』
「きゃぁ!」
セプが蹴りを受けそうになった。そこを護が『フルパリィ』で弾き、体勢を崩させる。
「やばい!」
「ハイドロ!」
フルフル!
体勢を崩しながらも技を発動してきた。Lv7、『エア・クラッシャー』。振り下ろされる地点に、アンとハイドロが入り込み、彼女にかけた『障壁』と『ライト・ウォール』が砕け散る。
ハイドロの腕が剣へと変わり、アンの技が発動する。
『シャーク・ヴァル』
フルフル!!
ハルバードを右から二回、高速で打ち付け、横に威力を逃す。
さらに、左手だけで握った土の剣で『パリィ』を発動。打ち据えたところが完全に折れてしまうが、ハルバードは地面に打ちつけられずに、宙で止まった。
そして、巨体が倒れると同時にハルバードも地面に土埃をあげて落ちる。
「アン!」
アンの左手、腕は膨大な力に耐え切れずに骨と肉がぐちゃぐちゃになっており、護ですら吹き飛ばされた威力に、アンも吹き飛ばされ、壁に激突していた。松明を支える金具に、アンの腹部が刺さっており、激しく息を吐く口からは、血が合わせて出ている。
『真理眼』には減っていくLPが映っていた。
「護さん!アンさんは私に任せてください!」
魔法を発動しながら起きあがるミノタウロス。メイアが魔法を掻い潜り、左手首を焼くが、切り落とすには至らない。護が追撃を加えれば、落とせそうだった。このチャンスを逃せない。
セレスを信じ、護は走る。『月光・真打』から魔力の刃を展開し、十八番を発動する。
「『日閃』」
オオォォ!
左手が落ちた。ミノタウロスが悲鳴を上げ、耳をつんざく。
だが、関係ない。アンが戦闘不能になった以上、呑気に戦うつもりはなかった。
護はキナとメイアに視線を送る。
「大族長、メイアさん、いきます!」
「『属性付与・日』」
「『ウインド』」
護とメイアの刃に超高熱の輝きが灯った。そして、キナの『ワープホール』が発動。風を纏った護とメイアの姿がかき消える。
オセたちが慌てて距離を取る。オセが攻撃していたところを、メイアが一陣の風となって駆け抜ける。
そこには、肉が焼けこげ、骨まで到達する切り傷が残っていた。
ブモ?オオォォォォ!
二人の攻撃を理解できない。ミノタウロスは自身を切りつけ焼き払おうとするムシを追い払うように暴れ、風の魔法を発動するが、それを突破される。捉えきれない。
二人は肉を切り、骨を焼き、目を奪う。
「っ」
地面に激突しそうになった護の目の前に『ワープホール』を作る。
今度はメイアの前に、ワンセットの出入り口をつなげ、攻撃をさせ続ける。
そのたびに、キナの汗がしたたり落ちる。目は充血し、イメージを途絶えさせない。
「キナ…」
隣にいたダブは、キナのことが心配になる。
護とメイアの命綱を握っているのは彼女であり、気を抜けば、二人を自爆させかねない。
命を削るような魔法の行使を手伝えないことに、ダブは拳を握りしめる。
「ラスト!!」
最後の魔力を振り絞り、キナは『ワープホール・ツイン』を発動。護とメイアを同時に転送する。
「『日閃』」
「はぁっ!!」
ミノタウロスの首を二つのギロチンが裁断した。二人の一撃は同じ面で一致し、大半を護が、足りない部分をメイアが切っていた。
首を切り落とされても、まだ足掻く腕を躱し、最後のあがきである炎の爆発は水の防壁で防ぎ、地面へと着地した。
ミノタウロスは霧となって霧散し、その場にはハルバードと立派な角が残る。
「アン!」
フルフル
心配ないよと、ハイドロが伝えてくる。確かに、『真理眼』ではLPがほぼ回復していた。
汗を拭うセレスに『浄化』をかけ、気を失っているアンの様子を目視する。血の気はないが、左腕は以前の通りとなっており、傷も塞がっていた。
「ありがとう、セレス。」
「…護さん、アンさんが目を覚ました後に…その言葉をアンさんにも。」
「分かってる。」
アンを背負う。
ハイドロはアンが落ちないように支えるため、形を紐状にし、二人の身体を固定する。
「これって…」
「ミスリルだ。」
「やっぱりか…俺が持っている剣と同じ輝きをしている。にしても、これだけ大きいと重すぎるな。」
ダブでは持ち上げることができず、オセが持ち上げる。ミノタウロスようにできているせいで、人では持ち運ぶことはできても、武器としてそのまま利用するのは難しい。
素材としてダブの『アイテムボックス』に回収する。
「結局、金、銀は出なかったか。」
「そのようですね、護様。やはり、先に進むしかありませんが…」
「今回のような戦闘は、勘弁してほしいところだ。」
メイアが護に背負われているアンを見る。眠っている彼女の機転で、大ダメージをパーティが受けなかったものの、彼女自身は重傷を負ってしまった。
もし、下層がこのミノタウロスより強いとなると、進攻はほぼ不可能になる。…その時は、達成不可として、別の方法を考えるしかないだろう。
「そのためにも…良かった。壊れていない。」
「?」
護が階段の方へと近づいていく。そして、何も無いかのように偽装されていた装置に触れた。
光の波動が護たちの表面を通り過ぎて行く。すると…
『にゃにゃ!』
「これは…驚いたぜ。」
護たち一人一人の首に紋様が現れた。逆三角形の内側に、三本のかぎ爪という形をしている。ちなみに、ハイドロは核の近くで光っているようだ。
しばらくすると、紋様は消える。その代わり、ステータスに『苦難の迷宮・獣の間踏破者』という備考が追記された。スキルではないので、完全に別枠に記されている。呪いや怪我、体調を『真理眼』で調べたときと同じだ。
「この状態で階段を下りれば、使える装置がある。」
「へー、どんな装置なんですか?」
「第一の門の前の通路があるだろう。あそこから跳んだり戻ったりできるやつだ。」
『!!』
一同が護の言葉にポカンとする。
喜びも勿論あるが、息を吐いて再びへたり込みたくなった。
「なぁ。それって、ここで起動しないといけないやつか?」
「そのようだな。」
「もし、気づかないままに、下に降りると使えない類のものですよね?」
セプの問いに護は頷く。それでダブたちからため息が漏れた。
「よく気づいたな。俺たちの視覚すら欺くレベルの偽装だぞ。」
「偽装もあるが、認識阻害も加わっているみたいだ。」
『大族長、流石チュウ』
ダブは護の『鑑定』が働いた結果だという言葉を信じる。
…『鑑定』でそもそも目がいっても、しっかり認識できていないといけないのだが…、『鑑定』自体を持っている者が少ない上に、護なら、何でもありだと思っているので、スキルについてツッコミが入ることは無かった。
「それに気づかず下に行っても、装置を見つけても起動できずに途方に暮れることになる。かなり嫌なやり方だよね。」
オセが思っていることを口に出してまとめてくれた。
とりあえず、階段を下りることに。そして、第二層へと挑戦するための門には、丁度ミノタウロスの角をはめ込めるくぼみがあった。
「嵌めてみるぞ。」
罠がないか気をつけつつ、護が角を嵌める。
すると、門は霧のように霞んで消えてしまった。入ってすぐのところに、大きな水晶が宙に浮いてあり、『職変えの水晶』に類似していた。しかし、水晶の内部は灰のようにくすんでしまっており、綺麗だとは言えない。
『これが?』
ノムが水晶に手を触れてみる。くすんだ水晶はたちまち透明になり、強い輝きを放つ。
ステータスに似たものが、ノムの手元に表示される。
『入り口に…』
『!!』
ノムが入り口を指定した瞬間に消えた。あまりに一瞬のことだったので、キナがパニックに陥り、周りを物凄い勢いで見ている。
キナを落ち着かせ、自分たちも追いかけるべきかと、水晶に触れようとする。
『できた!本当に行き来できるチュウ』
「きゃっ!」
ノムが戻ってきた。オセが可愛らしい悲鳴を上げる。
『真理眼』でノムに悪影響がないことを確認すると、護も起動してみた。
「…」
(発声すれば、意思に関係なく跳べるみたいだな…)
現時点では、入り口と第二層の二つしか登録されていないが、これから攻略をしていく度に、増えていくのだろう。
アンを背負った状態で「入り口」と呟く。
「!」
目の前の景色が変わっていた。第一の門までの長い通路の中で、魔力の濃さが内部と変わらなくなる空間のはじめに跳ばされた。
端にほぼ同じ水晶がある。ぼんやりとした輝きを放ち、こちらも宙に浮いてる。
「ううん…」
「アン?」
「あ、あれ?マモル様?」
意識をずっと失っていたアンが目を覚ます。彼女をゆっくりを下ろし、近くの壁にもたれさせる。
それから、アンが気を失っていた時の出来事を話し、水晶を使って入り口まで戻ってきたことを説明する。
「みんなは?」
「この通りですよ、アンさん。護様、今日は撤退ということでよろしいのですよね?」
「ああ。」
メイアにダブ…全員が転移して戻ってくる。疲れが出ているのか反応はかなり薄い。
先に戻るようダブたちに伝え、護はメイアと共に第一の門まで歩いて行く。
「『ローン・モゥイング』」
石槍を高速で振り回し、相変わらず突然現れる魔物を駆除する。
疲労こそあれど、体力、魔力の値は余裕がある。その上、適性レベルを超えている護とメイアだ。全て倒し切り、鉢のところまでたどり着いた。
「まだのようですね。」
「移動させよう。しばらくはここに来ないだろう。」
「はい。」
二人で『アイテムボックス』に入れて、元の道を戻り始めた。
護は『真理眼』で壁を探っていく。あの行き来の水晶は急に現れた。もしかしたら、ギミックが隠されているのかもしれないと考え、調べた訳だが…
「結局、見つからなかったのですか。」
「ああ。」
鉢の一つを収穫できる状態まで魔力を注いで育てつつ、メイアの呆れた声に軽く頷く。
「完全にどこから現れたかさっぱりだ。真面目に攻略していくしかないな。」
「はぁ。…護様」
「ん?」
護は首を傾げる。しかし、メイアは「なんでもありません」と、それ以上話さない。
そう、護の危険を冒すような動きは今に始まったことではない。それを指摘しても、決して直すつもりはないだろう。
メイアは渦巻く不安を心の中で抑え込む。
「何か困っていることがあるなら言ってくれ。」
「護様、それをどうするつもりですか?」
「えーと、脱穀して、炊いて食べるつもりだ。」
「手間がかかりそうですね。私も手伝います。」
「助かる。」
そうして、夕飯には大麦を炊いたものが出たそうな。味は悪くなかったようである。




