迷宮攻略~第一層~
ぜ、全然…
~ダンジョン~
「この広さなら、松明でも問題なさそうだ。」
「…暗いです。」
「俺たちは見えているが、灯りをつけるならさっさとしてくれよ。目が眩む。」
朝食を取り、身体を軽く温めた護たちは、早速ダンジョンに侵入していた。全てが石でできた一本道を進む。
魔力の濃さが樹海深部の中層と深層の間であり、外にいた魔物の強さと合致する。また、罠に気をつけるためメンバーの並びは次のとおりになっていた。
まず、先頭は中級盗賊であるセプだ。その次に護とノム、真ん中にセレス、ダブ、キナがおり、背後はオセ、オリー、殿はメイアとアンという陣形をとっていた。
灯りをつけ、警戒していく。自分たちが出す音以外、物音は何もしない。
「全然、罠はないね。」
「『気配察知』にも反応なし。ダブ、マッピングの準備は?」
「すでにやってる。といっても、ただなぁ。単に一本道だから何の変哲もないけどな。」
ダブが手の上にある石の板を振る。重くかさばるので、羊皮紙が良かったが魔物が出てこなかったので、悔やまれる。イメージが正確なら、手で描くよりも綺麗にできるという点は、劣らない部分ではあった。
罠はない、魔物も出てこないので拍子抜けしつつ進んでいると、一本道の終わりに大きな両開きの門が見えてきた。…その時だった。
「メイア!」
「見えています!」
メイアが『宵闇』で飛んでくる針を叩き落とすのと、護がセプを引っ張りつつ『障壁』で目の前の爪を防ぐのは同時だった。
急に魔物の数が五、六、と増えていく。
「セレスは遊撃、ダブ、キナは待機だ。オセはその護衛。セプ、ノムは俺と、後ろはメイアとアン、オリーで対処してくれ!」
『了解!』
Lv63、Lv62、Lv59、目の前に現れた四足歩行の魔物のレベルだ。大鼠の頭にサーベルタイガー並みに発達した犬歯、それに合わないような熊の巨体と長太い足を持っている。背中のちょうど真ん中には硬質化した皮膚がそのまま見えている部分があった。
『障壁』を鋭いかぎ爪で壊せないことにいら立ったのか、Lv59の一体が体当たりをかまして、罅を入れてくる。二度目の体当たりで砕け散った。だが、動きが止まってしまう。
そこへすかさず護の『ライトニング・ブランチ』がその一体を貫通し、同じように体当たりを仕掛けていた残りの二体も貫通する。
LPはまだ残っている。毛が燃え盛り、激痛が走っているだろう肉体を動かして、起きあがってくる魔物に、追撃を加えたのはノムだ。
「『ボア・バッシュ』!」
目を貫通し、脳を貫いた。LPが一気にゼロになる。すると、魔物の姿は霧のように霧散し、その場にインゴットだけが残る。それについ目がいってしまった。
動きを止めたノムに、潜んでいた蝙蝠型から大きな鎌鼬が襲う。それを護が魔力の刃で打ち払い、セプが元凶を打ち落として守る。
意識を戦闘に戻したノムの目に映ったのは、残りの魔物は既に止めが刺され、セプが骨でできた剣を引き抜いて血を払うところだった。
「終わりました、護様。」
「強かったけど、メイアお姉ちゃんがほとんどやっちゃた。」
背後から声が聞こえたかと思えば、何事もなく倒し切っている。
アンが注意を引き、『隠密』を発動したメイアが次々と急所を切り裂き、焼いたらしい。
また、メイアたちの方も、ドロップしたのはインゴットだった。
「うーん、鉄、鉄……銅か。」
インゴットを回収して、ダブの『アイテムボックス』に入れた。そのついでに『真理眼』でどの金属なのか鑑定した護は唸る。
ほぼ金属のドロップだった。例外は、種。『マジック・ププレア』と同じ魔力で育つ植物の種で、その名は『マジック・ヴルガレ・へクス』。護の『真理眼』には説明が映っていた。
マジック・ブルガレ・へクス (魔力によって育つことができる六条大麦。通常の物とは異なり、環境が整っていない状況下でも、魔力さえあれば育つ。魔力が無ければ通常どおり。大半の魔力吸収植物とは異なり、魔力の蓄積を行わない。食用。)
(なんで、ここでドロップするんだ?というか、芽が既に出始めているし。)
魔力を吸収し、芽を出した種に首を傾げる。このまま放っておけば、数日のうちで花まで付きそうだ。
とりあえず道の端で植木鉢をいくつか作成し、壁を砕いた物と一緒に種を入れる。なお、壁はすぐに盛り上がり、元に戻った。
門に罠がないか慎重に調べ、ゆっくり開く。『気配察知』で感知できない領域に警戒しつつ、門は開かれた。
「…また、道なのね。」
「魔力の濃さが濃くなった。反応もある。…ここからが本番らしいな。」
今度は十字に道が分かれる。三つの方向それぞれから魔物の反応があり、結構な数だ。
また、反応の動きと消失からして、殺し合っているらしい。
「マモル様、どこまで進むの?」
「今日は右を選んで進もう。危なくなる前に撤退する。」
比較的、魔物が多い道を選んだ護は、先ほどと変わらない陣形で進む。
罠は相変わらずなく、ひんやりとした風には血の匂いが混じり、敏感な鼻へと届いてきた。
「こっちに気づいた。やってくるぞ。」
前方から複数の足音が聞こえる。その足取りはかなり速い。
暗闇からやってくるのは、ラプトル型。数は七。一番最後の一体には光り目立つとさかがあり、あれがリーダー個体だろう。
「全て、Lv66。リーダー個体のみ風魔法。ダブ、出番だ。オセもこっちに加わってくれ。」
「消費量は考えなくていいのか?」
「任せる。相手の連携を阻止してくれればいい。」
先制は護の『日閃』。横一文字への攻撃は、一体だけ躱しきれず、羽毛が燃え上がる。
リーダー個体が蹴りと風魔法で、その燃え上がりもがき苦しむ一体を近接戦のために近づくオセに向けて吹き飛ばした。強風で火はかき消え、鋭いかぎ爪や歯で怪我をさせればよしといったところだろう。
予想外の攻撃方法にオセは回避を選ぶ。
「『メルト』…『ストーン・パイル』」
足元を崩して身を低くし、『本能回帰』で左腕を調整、骨のレイピアでかぎ爪を受け流す。
さらに、杭を作り上げ、激突させた。動きが止まったところに、オセがレイピアを振るう。
しかし、ダブの弾幕を潜り抜けた別の個体の爪が彼女の足を軽く引き裂き、邪魔をされてしまった。
「ダブ!」
「悪い!俺の攻撃じゃ、時間稼ぎが限界だ!」
セプが投擲した短剣を躱すために飛びのいたところに、いつの間にか来ていたアンの『クロススラッシュ』が決まる。鱗を叩き割り、肉を断つ。血が溢れ、地面を黒く濡らしながらラプトルが滑った。
アンにヘイトが集まる。派手に同胞を傷つけたやつを先にやってやると。加速しアンに急接近…二体が吹き飛んだ。
「『トリプル・スラスト』」
リーチが長いノムの技が鱗を砕いたのだ。これでさらに二匹が傷を負い、憎しみはさらに溜まる。
三体が負傷し、怒りで連携が完全に崩れる。血を流し怒りに狂ったラプトルはそれぞれ傷をつけた者へと襲い掛かる。
傷を負っていないラプトル一体は迷った挙句、孤立しているアンの方へと向かう。
「ノム、耐えて!」
「承知した!」
ノムが二体をいなしている間に、先にアンたちの方へ向かってくる二体の止めを刺しにかかる。
深い傷を負っても、動き自体は速い。長いかぎ爪はオセたちの皮鎧を容易く切り裂く鋭さを持ち、牙に噛みつかれれば無傷では済まない。
それでも、セプは冷静だった。短剣をゆっくり構え、怒りのままに突進してくるラプトルを見据える。
「『スネーク・ダイブ』」
腕を引き、ラプトルのかぎ爪が射程圏内に入るのと同時に開放する。
キンッ!
かぎ爪は根元から切り落とされ、ラプトルが吹き飛んだ。
鱗は砕けているが、致命傷になっていない。遅れてやってきた無傷のラプトルをオセのいる方に蹴り飛ばし、自分の両腕に力を込める。
「『ソニックフォース』」
「『ブリッツ』」
『スネークダイブ』で吹き飛ばしたラプトルの砕いた鱗へ、さらに正確な四連撃。それとは別にアンの突進攻撃が、細長い尻尾を切り落とした。
そこへダブの石礫が頭に直撃し、昏倒。止めにセプの短剣が貫いた。
「まず、一。オセ!」
オセの方を向くとすでに決着がついていた。
頭を小づちで潰したオセが残心を解く。小づちから血がしたたり落ちており、潰された頭は原型をとどめていない。
彼女は咄嗟に放り捨てた剣を拾い、『アイテムボックス』に仕舞った。
これで、二。残りはノムが腕に噛みつかれながらも引きつけている二匹だ。
「『ブリッツ』!!」
アンの攻撃は首の骨の隙間を抜けて貫通した。これで、三。
残り一匹を槍を振って距離を取らせる。
「うおおぉ!」
すかさず『ローン・モゥイング』。しかし、それは躱されてしまう。
…躱した場所にはオセが。
「『インパクト』!」
頭を狙った的確な振り下ろし。地面を砕きながら、粉砕する。
これで四。七匹のうち半分以上を倒した。では、残りはというと…
「!」
護がリーダー個体の首を切り裂き、血が溢れる。
最後のあがきの噛みつき攻撃も、流れるように躱され、下あごが切断される形で不発した。
残り二体はすでに護の攻撃で絶命しており、銅のインゴットに変わり果てていた。
「ノム、怪我をしているじゃないか。『ライトヒール』」
肉を切り裂かれているノムに護は魔法をかけて癒す。
戦っていた獣人たちはドッと疲れを感じる。息を乱し、汗にまみれてその場でへたり込んでしまう。
自分の命を燃やしているような戦闘だった。相手が格上だったことも原因だが、技の連続使用に身体も精神も悲鳴を上げていた。
魔法だけだったダブも同様だ。魔法を素早い相手に当てるというのは、ある種の予測が必要であり、集中していなければならなかった。スキルの補助があるとはいえ、戦闘のスイッチが切れると疲弊していた。
「大丈夫かな。ハイドロは疲れてない?」
唯一、そこまで疲弊している様子を見せないのが、アンだ。彼女は剣を点検した後、ハイドロにそう尋ねていた。
息もほぼ整え、精神的な疲弊もほとんどないように見える。
「マモル様、私とハイドロ、レベルが上がった。」
「私もです。」
アンとハイドロ、オセのレベルがそれぞれ1上がる。これで、アンはLv49、ハイドロはLv55、オセはLv54といったところだ。
護は考える。一回の戦闘でこの疲労はかなり不味い。獣人たちの強さが足りない。
ラプトル型が脳筋で、魔法を使える個体がリーダーだけだったから、攪乱と技の連続攻撃で勢いのまま倒せたものの、魔法がメインや相手も技を使用してくる場合は、確実に負ける。
(まともに進めないか?)
護は『気配察知』で周囲の様子を探る。反応はまばらだ。休みながらであれば、行けそうな気もする。
相談するとして、とりあえず、ドロップしたものを拾っていく。
(鉄、銅…爪と尻尾。本体は消失しても、切り落としたりすれば残る?いや、真っ二つにしたりすれば、残っていなかった筈。となると…)
セプが切り捨てたかぎ爪とアンが切り落とした尻尾だけが消えずに残っていた。
これも検証する必要があるだろう。迷宮を攻略する上で、食料が現地調達できるのかできないのかは、かなり重要だ。もし、食べられる部位を残せるなら、かなりのアドバンテージとなる。
「護様、いかがなさいますか?」
「この道を進むか、退却するか、どっちがいい。…この先は今のところ一体だけだ。」
「私が『隠密』で偵察してきましょうか?罠は発動しても、躱せますので。」
メイアの提案に護は頷く。彼女の姿がかき消えた。
へたり込んでいた獣人たちも次々と起きあがる。そして、護にまだいけると。
「気をつけていくぞ。」
『了解』
メイアがすぐに戻ってきた。馬をベースに、背中からも蜘蛛のような足が生えている魔物らしい。
罠がないか確認しつつ、一行は次なる戦いへと歩を進める…
~二日目~
「またか。」
あの門の前まで来ていた護たちは、昨日と同じ奇襲攻撃を対処していた。
二度目ともあって、動きに迷いはない。前は護が、後ろはメイアが中心となって次々と魔物を倒していく。魔物のタイプに変化がないので、最早作業と言っても過言ではなかった。
被害が出ることもなく、討伐し終えた護たちは、道の脇に置いていた鉢を見てみる。そこには、大分伸びた大麦が。青々としており、既につぼみが付き始めている。
「拠点に置いている方は全然なんだけどな…」
やはり魔力の濃さがかなり異なっている。入り口から数歩のところで、魔力が一気に濃くなり、門のところになると、ほぼ内側と変わらない。
(なぜ、下級の魔物が出ないんだ?謎だらけだ。)
大麦の様子を一つ一つ見ながら、そんなことを考える。今、はっきりしていることは、迷宮内では外とは異なるルールが働いているということだけ。
様子を見終えて、門を開く。侵入し『気配察知』で探ると、今日は中央の道の方が、反応が少ない。
中央の道を選び進むと、セプが尋ねてきた。
「大族長、魔物との距離はどれくらい?」
「まだ、見える位置には…いや、こっちに気づいた。かなりの速度で来るぞ!」
武器を構える護たちに、相手が姿を現す。ダチョウ型にしては、足が太く羽も大きい。
空気を切り裂く音が最初に聞こえる。
「伏せろ!」
隣にいるセプを押し倒す。その頭上を直ぐに鋭い羽根が飛んでいった。
一気に距離を詰めたダチョウ型と護の槍がぶつかる。強い衝撃に護が地面を削りながらも、受けきった。…『ローン・モゥイング』で無理やり威力を増していなければ、吹き飛んでいただろう。
クァ゛!!
『くっ!』「!!」
鎌鼬が横へと回ったノムとセプを襲う。ノムが腕で受けてしまい、強靭な毛を切り裂く力に、苦悶の声が上がる。
また、セプは回避できたものの、次が襲い掛かりなかなか近づけない。
「『エンチャント・ライトニング』」
護の槍に雷が宿った。頑丈な足と激突する度、雷光が散る。危険度が上がった護に、ダチョウ型は強烈な蹴りをかまし、風の力を宿した羽根を飛ばす。
『障壁』を展開し、そこへセレスの『ライト・ウォール』が補強する。『ライト・ウォール』はノムたちにも展開されており、風と羽根の暴威から彼らを守った。
「ここですね。」
その一言が、メイアの口から零れる。背後から首の骨を膂力と『宵闇』の性能で叩き切り、絶命させた。
ダチョウ型の姿が消え、残るは金属光沢がある茶色の金属。銅のインゴットだ。
「メイア、助かった。」
「いえ、背後から魔物が来ていないことは把握していたので、加勢したまでです。それにあそこまで行くのに、夜遅くまでかける訳にもいかないでしょう?」
次の門がある場所までのことを指していた。第二の門までたどり着いた際、護たちが通ってきた通路を除いて、二つの道があった。結局、第二の門まで一本道であったので、他の分岐も一緒だろうと。
まさに、確かめている最中である。
「そうだな。星が大分傾くまで攻略するのは、翌日のコンディションに関わる。メイア、今日は頼む。」
「お任せください。」
メイアにもう反応があることを伝える。避けては通れない、
見た目からは有り得ないほど、この直線通路は長かった。メリットしては、迷う心配がないことで、マップを担当していたダブが愚痴をこぼすほどだ。デメリットとしては魔物をやり過ごせる場所がない。
確実にエンカウントし、護たちと戦闘となった。結果、第二の門から引き返し、拠点に撤退した頃には、という訳だ。
無理に拠点に戻る必要はないが、やはり疲労がとれるという点では、圧倒的に作った拠点の中が安心する。ケーという番犬もいるので、女性陣の癒しという観点でも好ましい。
「メイアさんが援護してくれる…!」
「有難いよ。」
ダンジョンの作りについて、もう愚痴で頭が一杯になりそうな護を傍目に、獣人たちが一安心している。
メイアに睨まれて、視線を逸らした。
「主に戦うのは貴方たちですよ。命を削って、レベルをあげてください。幸いなことにここの魔物はかなり強いですから。」
『りょ、了解……』
耳と尻尾の元気がなくなった獣人たちに同情する。しかし、慰めは言えない。
魔法を使う相手だと、かなり苦しい戦いを既に強いられているので、養護できない。
(即死ではない限り、死にはしないから頑張れ…)
次の相手を聴覚で捉えつつ、苦笑する。
…八時間後、護たちは第二の門まで到達し、その帰路についていた。元来た道を引き返し、新たにリポップした魔物を倒していく帰り道。
行きに倒したからと、帰りが楽になる訳ではない。
「後ろから九。ダブ行けるか?」
「前をどうかにかしろよ!!だー!やってやる!なんでこんなタイミングで来んだよ!!」
休息を取る護に『気配察知』に増援の反応が引っ掛かる。
ダブは愚痴を吐きながらも、土魔法の弾丸を飛ばし始めた。当たっているだろうに、接近する速度が落ちない。
「オリー、アン、俺が前に出るから。」
「マモル様、大丈夫?」
「ご主人様、休息をしっかりなされた方が。私とアンで対処します。」
「お、おい!効いているのかちゃんと!」
ダブに土魔法を使わせるのをやめ、前衛のサポートに注力するように伝える。
オリーはその場で動けるように待機、アンも同様だ。それでも動こうとしたところを、奴隷としての設定を一時改変していたため、動けなくなった。
「全く、帰りの方が忙しいとか、本当にダンジョンを作った奴を殴りたい。」
護は『月光・真打』を仕舞い、『月蝕』を取り出した。赤黒い剣身を下段に構え走る。
強化された護の夜目に、相手の姿が映る。アルマジロ型だ。護の腰ほどの大きさがあり、転がって移動している。さらに後ろにはサル型がおり、アルマジロ型を盾にしつつ押しているようだ。
一匹だけサル型の中でも腕が四本の個体が一番奥の安全なところを走っている。そいつがリーダーなのだろう。
(群れる魔物は厄介だ!!)
「『七・転』」
ガッ!!
轢かれるタイミングで、宙を歩く。アルマジロ型を無視し、サル型の頭を『月蝕』でかち割った。
護が地面に足をつくのと同時に、サル型の頭に刺さった剣が抜ける。
「!!」
しゃがむ。その頭上を炎の塊が過ぎていく。さらに、剣を振るうと、石の礫が落ちた。
また、アルマジロ型が直進が止まる。サル型がいなければ、先ほどの曲芸は出来ないらしい。動きは非常にのろく、魔法もない。対処は後でいいだろう。
キャッ!
キャッキャッ!
手下三匹。飛び魔法を放ってくる。一匹は炎、二匹目は風、三匹目は土といったところで、護を面の攻撃を中心に殺そうとしてくるので、厄介極まりない。
回復した魔力を指輪に注いで、風の結界を張った。威力を落として貫通してくる攻撃を『障壁』で防ぐ。
(順番は決めた。後は突っ込むだけだ。)
護は魔法が途切れた瞬間、加速する。まず風のサルへと。
鎌鼬を送りながら距離をとろうとするサル型に対し、『障壁』の多重展開で突破。
筋肉質の硬い腕を弾き、首をへし折った。
「次は…」
護に恐怖を覚えているのか及び腰になった土のサルに、攻撃を仕掛ける。そこへ、炎のサルの火の玉が飛んでくる。それを『二・伸』で打ち返し、土のサルを間合いに捉えた。
キキィ!…ギャッ!
逃げられないと悟った土のサルが間合いを詰めてきた。振られる『月蝕』を左腕の骨を折りながらも受け止め、護に蹴りを繰り出す。…しかし、それは護も同じこと。剣を手放さず、力任せに左足で合わせる。そこへさらに右足でサルの腹部を押すように蹴り込み、距離が離れた。
ゴッ!
土のサルも鈍い音を立てて、頭が砕けた。血を吸い、『月蝕』が怪しく光る。
リーダー個体が逃げ出す。そこを『スリープ』で眠りを誘い足を遅らせる。一旦無視し、自らの火魔法をくらって爆発、鼻が曲がり、顔全面が焼けこげてしまっている火のサルに向かう。
比較的無事な耳で、護の足音を聞き分ける。一歩下がり剣を避け、火球を飛ばす。
近くで爆発した音に火のサルは喜ぶ。
ギャァ!
…『月蝕』が胸に刺さった。魔石が割られ、力が抜けた火のサルは霧のように消えて行った。目が無事であれば、護が『参の舞・藤』で相殺していたことに気づけていただろう。
ともあれ、残りのサル型はリーダー個体のみ。
「…!」
姿が遠い。血が垂れている。どうやら自傷することで、強烈な睡魔を振り払ったようだ。
追いかけるかどうかを考える前にアルマジロ型が一体、こちらに飛び掛かってくる。それを叩き落とし、丸まるより速く、柔らかい内側に剣を突き刺し、止めをさした。
(まぁ、いいか…あっ)
音が反響して伝わってきた。断末魔が。
残りのアルマジロ型も硬い鱗を使った突進に気をつけながら処理し、ドロップした戦利品を回収し、オリーたちがいる方に戻る。
前方の魔物も処理し終えたようで、ダブの太ももからの出血以外、無傷で終らしたらしい。
「急ごう。後ろにそこそこ強い奴がいる。」
護の言葉に頷いた一行は、先を急ぐ。
先頭を護とメイアが並走し、出てきた魔物を片っ端から片付ける。護の『守護』とメイアの『隠密』のコンボで、メイアの首狩り速度が獣人たちと組んでいた時よりも上がっていた。
思わず獣人たちがドン引きするほど、首が割かれ、護の槍が吹き飛ばす。
「門が見えてきた。」
「護さん!後ろから!」
門が目に見える範囲になって、サル型のリーダー個体を倒した魔物が追い付いてきた。
蜘蛛の胴体に女の人の身体がつながっている。種族名は『アラクネ・ファーデン』、レベルはLv64。
セレスの光の光線を間一髪のところで躱し、女の口、身体に三つある噴出口から糸を飛ばす。光の防壁に当たると、その糸は硬化し貫通する。
一番後ろにいたアンが剣を使って硬化した糸を弾く。あまりの重さに顔を顰めた。
「『参の舞・藤』!」
セレスの光の防壁の代わりに、アンの前にでた護の炎の防壁が通路を遮断する。意識が途絶えそうな感覚を唇を噛んで堪え、防壁を維持する。…糸は爆ぜる防壁に遮られ、激しく燃え、仲間を捕らえさせない。
そこへアラクネからの水魔法が直撃する。防壁の維持に、護の魔力と残り少ない力がゴリゴリと削られ、意識が飛びそうだ。力が切れるのと、門が開くのは同時だった。
迫る糸と水。怒りから愉悦に変わるアラクネ。…護とアンは射程圏内。門までたどり着く前に、捕らえられると。
「『ファイア・ランス』!!」
「『ファイア・ファルコン』」
既に門の外に出たセレスの炎の槍が水玉を相殺し、メイアの隼が糸を焼き払って爆発する。威力が強すぎて爆風が護とアンを襲ってきた。
護は咄嗟にアンを抱きかかえ、吹き飛ばされる形で門を通る。アンを傷つけないように気をつけつつ、地面を滑り、止まった。
…門が閉まる瞬間に怒りに染まったアラクネと視線が合う。しかし、門を開けてくる様子はない。
「護様、お怪我はありませんか?」
「俺もアンも無事だ。メイア、強烈な攻撃だったぞ。」
「申し訳ございません。」
「いや、助かった。」
(クモが絡むと吹き飛ばされるのは…偶然か何かか?)
トラウマ寄りの記憶が蘇る。吹き飛ばされることはともかく、足を溶かされるのは勘弁願いたい。…聖女関連も連鎖的に思い出してしまい、寒気を覚える。
悪しき記憶を振り払うように別のことを考える。気になる点は、セレスの光の防壁に当たった途端、糸の性質が硬質化したことだろう。原理はさっぱりで、光魔法を使わないように気をつけるしかない。
「ねぇ、大族長。明日もやるの?」
「ああ。明日は左を通って、明後日に第二の門の先に進むつもりだ。」
小柄な女鼠人の問いにそう答える。すると、キナは不安そうな顔になって、
「私たちがもっと強くなるまで、待った方がいいんじゃない?」
「出来ればそうしたいが…ドロップする金属の問題がある。現状、本当に欲しい金属は出ていない。もう少し奥に進む必要がある。」
「だ、大丈夫かな。」
キナの不安に、護はどう言うか悩む。
実のところ、ダブたちはこの二日で、レベルが2、3上がった。護のぶっ壊れたレベルの上がり方ほどではないが、常識から考えた異常だ。このペースでいけば、一週間ほどすれば、正面から力勝負ができるほどにはなる。
一週間費やし、レベル上げをするべきか、先へ進みつつ上げるべきか。判断に迷った護はメイアを見る。
「持ち運べない金属は拠点の近くに倉庫を置くとして、キナたちの不安を払拭しておくことも大事です。極度の不安はいざという時に、身体を固くしてしまいますから。」
「…メイアの言うこともあるし、一週間、死ぬ気で戦い通してみるか。」
『え?』
こうして、獣人たちのレベリングが始まった。




