問題児
ま、まだ…
~本拠点・ベルゥト~
「大族長だぁ。おやすみなさい。」
ドガッ!
「いたぁぁい!」
いきなり眠ろうとした女猫人を蹴り飛ばす。強めに蹴ったので、彼女は涙目になりながら、縛られた手足をばたつかせて転がりまわっていた。
表情が抜け落ちた護は他の四人を見る。男犬人一人、女猫人一人、鼠人の男女だ。
彼らが、不満たらたら、不機嫌であることは一目瞭然だった。
『こんな手荒な真似をして、本当に大族長かワン!』
「ん?俺が大族長だ。そっちが、ソラの言うことを聞かないから、こうして括りつけて来させただけで、大人しく言うことを聞けば、括る必要なんてなかったぞ。」
『他にも方法があったはずワン。』
平然と言う犬人に護は殺気を飛ばす。彼はその気に押されて汗が溢れ、身体を震わす。
激怒しているとまでは言わないが、護は頭にきていた。
「んー、何々、君は養殖場の見張りを勝手にやめて、魔物が発生。危うく仲間を殺しかけていて、さらに、食料を盗んで一人で独占。しばりつけていたら、声が枯れるまで叫び続けて周りを妨害。そして、ソラの勧告にも従わずに俺の命令を無視。」
「見せしめに殺しても良かったんだぞ?」という言葉が、簡単に出てきた。
そうして、ようやく彼らは自分たちの置かれた立場ちょびっとだけ理解する。自分たちは一歩間違えれば処刑される立場だと。
『殺さないでほしいチュウ。これからは反省して、まじめにやるチュウ。』
「んん-?そう言って、ネクを何度裏切ってきたんだ?何度も謝る度に、そう言ったんだろ?」
『…』
「死にたくなければ、俺に従え。正直、お前たちの生存に興味がない。」
ニコッと笑った護。正面で対峙する前までは平静でいた。それも、対峙した瞬間、かつて自ら離脱していき、生き途絶えた彼らよりも性質の悪さに吐き気を覚える。
「なに、お前らを肉盾にするつもりはないし、なりたくないだろ?死なずに済むステータスはあるんだ。しっかり働けば死なないって。」
優しい言葉。しかし、向かうはダンジョン。死地と思われている場所だ。
そんな場所に行くのは嫌だと粘るのは女獣人。護に尋ねる。
「やることやれば、寝てていいの?」
「それは当然だな。それすらできていないのが、オセ、お前だ。」
「私はやっているよ?」
「自分がやったことを思い出してみろ。」
「……ずっと寝てるから覚えてない。」
テヘッと、舌を見せて笑ってみせるが、護は転がり続ける彼女を足で踏みつける。
この五人の中でマシな類であるオセではあるが、それでも、彼女に怒りを覚えている獣人たちは多かった。
誰もいないところで眠るのであれば、無視するだけでいいが、彼女は人が多いところを選び、自分が決めた場所から動かそうものなら、全力で抵抗する。養殖場で眠っていた時に魔物をけしかけてみたそうだが、レベルが高いため、一人で退け、眠り続けたそうだ。
自分たちがせっせと動いている中、何もしていない彼女は無視しようにも、目に入り苛ついてしまうのもしょうがなかった。
「安心してくれ、これからゆっくりと眠れなくなる場所に放り込んでやる。今まで、眠るのを邪魔してきたやつは問答無用で排除してきたんだろ。それをすれば、ゆっくりと寝ていいぞ。」
「今、ここで抵抗する。」
そう言った瞬間、彼女の首から血が咲き溢れた。魔力の刃が彼女の首を割いたのだ。
オセはジタバタもがくが、地面がどんどん黒く染まっていく。悲鳴すら上げられず、口からも血が流れだし、LPが物凄い速さで0に近づいていった。
瞳から光が失せていき…LPが一桁になりかけたところで、護は光魔法を発動する。
「『ライト・ヒール』」
傷が癒えた。大半の血を失ってもオセはまだ、護を睨みつけようとしたが、今度は縛られていた右手の小指が折れられる。
「あああぁぁ!!うぅぅ、痛い!痛い!」
再び、傷を癒す。また、オセは護を睨もうとしたが…
「ひぃぃ!ごめんなさい!ごめんなさい!死にたくない!死にたくないの!」
護が魔力の刃を展開したことで、首を割かれた記憶がフラッシュバックし、彼女は恐怖に支配される。
身体を丸く、小さくし、震えながら泣きじゃくる彼女を他の四人は同じように血の気が失せた表情で見守る。
「俺としては、こんなことしたくない。自分を見失いそうになってしまうからな。」
魔力の刃を収め、『月光・真打』を鞘に納める。
ようやく護の雰囲気が普段と同じように、柔らかいものとなった。あまりの変貌に、泣き続けるオセ以外の四人の顔も汗と涙で歪んでいた。
「…しばらくは、まともに話せそうにないな。少し時間を置こう。」
メイアに彼らをドームに案内するように言い残して、その場を後にするのだった。
~しばらくして・ドーム内~
「わ、私はオセとい、言います。槍使いで魔法は土と風、火も、つ、使えます。索敵はできませんけど、悪意や殺意に敏感なので、う、上手く使ってください…ご、殺さないで…」
完全に涙を流して震えるオセ。時間を置いたのにも関わらず護を見た途端、こうなってしまった。
さきほどの痛みが完全にトラウマとなり、護を見るだけで過呼吸になる。そのため、彼女は目隠しに鼻栓をして、護の姿、匂いが見えないようにしていた。それでも耳ばかりは塞ぐわけにはいかず、護の声だけで、涙が溢れ出てしまう。
「俺はダブ。魔剣士で、Lv38。レベルは低いが、『アイテムボックス』だけなら、Lv6だ。」
「魔法は何が使えますか?」
「土魔法が一応だ。魔剣士だが、他の魔法は使えない。」
「荷物持ちとしては合格ですね。」
辛辣なメイアに体を震わすダブ。そこには怒りが見え隠れしている。
それを介せずに、次の女猫人に映る。
「セ、セプです。盗賊で、『解錠Lv6』なので、お役に立てます。…その気になれば、身体も…」
「護様を誘惑して、安心しようとは浅はかですね。」
「じょ、冗談です!!盗んでばっかりで、オセと一緒にさぼってきた分は、しっかり償います!」
顔が真っ青になっている。メイアの殺気やオセが酷い目にあったことが余程こたえているようだ。
さらに、二人の鼠人の紹介が続く。
時空魔法が使えながらもそれを悪用し、さらに弱い者いじめをしていた女鼠人のキナ。武人肌で、練習相手を瀕死にまで追い込んでいた男鼠人のノム。
それぞれが自己紹介し、オセを除いて護の様子を窺う。対して、護は沈黙を続けるだけだ。
「なんで、私たちを殺さなかったのでしょうか?」
その無言に耐え切れなかったセプが尋ねる。護の言論では、自分たちを処分してしまう選択肢もあったはずだ。シザは自分を捕まえるだけで、殺しはしなかった。以前なら、自分は処分されてもおかしくないほど、悪さをしていたはずなのに。
「…自分で考えろと言いたいところだが…単純に能力があるからだな。」
あまりに冷たい視線に四人は震える。それは物を見る視線だった。
その様子に気づいた護は顔を揉む。それでも、作った笑みは尚更、彼らを震わせるだけだ。
「俺たちはまだまだ小さい集団だからな。まぁ…捨て置くしかない奴だったら、見せしめにしていたかもしれない。でも、お前たちには能力がある。良かったな、運がいいぞ。」
「「「「「……」」」」」
喜べるはずがない。運がいい?いいや、悪いだろう。一思いに殺されるよりも痛めつけられ、苦しむ方が残酷だ。快楽といった欲求に従う彼らからすれば、強制や痛みは悪夢以外の何でもない。
また、自ら死を選ぶ度胸がない。死ぬのは嫌だった。
「ひとつ言い忘れていた。メイアたちも同行する。手を出すようなことをすれば、その場で切り捨てるつもりだから、気をつけろよ。」
やれるか!と心の内が一致する五人。ただ殺すだけではなくて、惨い手段をとることは、どす黒い殺気を感じて確信する。
護は大人しくなった五人の前で、さらに付け加える。
「あー、ダンジョンでは生き残ることだけを考えろ。もし、俺やメイアたちが戻ってこれない場合になった時は、お前たちがここに生還しろ。どこかに姿を消すようなことがあれば、命を保証できない。…あり得るのは激怒したミゥたちに地の果てまで追いかけられて…」
「いや!それ以上、聞きたくないよぉ」
「なぁ、その時って、俺たち殺されないか?」
「心配はいらないぞ、ダブ。ちゃんと事情を説明すれば、死ぬことは無い。」
その時は半殺しで済むようにと伝えてある、と護は内心で呟く。
また、彼らに渡すスライムは、男猫人のテイマーがテイムしたもので、彼らが逃亡した場合、一発でバレるようになっている。おまけに、大小の違うスライムをつかせることで、油断したところを逃がさない算段になっていることも。
「いやな予感しかしねぇ。」
「そう思うなら、俺たちを守ることだ。」
護たちの方がレベルが高い。獣人たちの方が足手まといになる可能性が高いことは、口を噤む。
本人たちがある程度納得してくれたようなので、護は次の話に移る。
「出発は三日後にしてある。それまでに、二手に分かれて少し力をつけるぞ。」
『はい?』
「呆ける暇はないぞ、女鼠人。女性陣はメイアと共に本拠点の養殖場で、少しでもレベルを上げてもらう。一般スキルが上がるだけでもいい。格上と戦うことがどういうことなのか、経験してもらうだけだ。」
『死ぬ思いはごめんチュウ』
「ん?」
『何でもないチュウ』
護がにっこり笑い、キナは慌てて首を横に振った。
キナは既に覚醒している。勘では、おそらく死線を一度潜り抜けたことがあるのだろう。
残りの女猫人、二人には発現していない。オセは天性の才能を持っていて、一般スキルのレベルも高い。苦戦こそすれ、死にかけたことはないのだろう。セプは、死にかける戦闘そのものを避けてきた感じがする。
だから、オセは楽観しており、セプは足が外に向いていて今すぐにでも逃げ出してしまいたいようだ。
「で、男の方は…一回戦って決めようか。」
男性陣の反応は微妙だ。二人とも無言でうなずく。
「さて、早速やろう。メイア、そっちは頼む。」
「畏まりました。この雌共が二度と、迷惑をかけないように躾いたします。」
「…ほどほどにな。」
「はい。」
メイアが縄を持って、三人を引きずっていく。
「ダブぅ、助けてぇ。」
「無理だろ。」
オセがダブに助けを求めるが、即答で断られてしまった。こればかりは、護も同情する。
~離れ~
「二人同時にかかってくるのか?」
ドームを出て、周囲に誰もいないところで、護は対峙した二人にそう言った。
二人に鎧と兜を装着させ、ダブは石でできた剣を握り、ノムは黄色をした骨でできた長槍を構えている。対して、護は盾二枚にヘッドギアと完全に防御に振った姿をしていた。
「私から行く。」
「そうかい。なら、俺は引くぜ。」
どうやら、ノムが最初らしい。護より頭の半分ほど低い身長の彼は、強烈な戦意を叩きつけてくる。
『真理眼』でステータスを予め見ているが、改めて見直す。
ノム (男・15歳・鼠人族)職 魔槍使いLv45
LP 288 MP 260
STR 403 AGI 430
TEC 298 END 238
INT 340
一般スキル 槍術Lv4 長槍術Lv2 魔法(土)Lv4(火・水)Lv2
調合Lv1 強欲Lv2 勤勉Lv3
職スキル アイテムボックスLv5
エクストラ
(スピード、高火力型…、魔法も脅威だな。)
目を引くのは『強欲』よりレベルが高い『勤勉』。確か、戦闘を除けばコツコツと腕を磨いていると、パロといった戦士たちから聞いていた。戦闘時に手加減しない事情を聞いてみないといけないが、何かしらの関与を感じる。
また、護は自分のステータスを開く。
明石宮 護(男・17歳・雑種《人・精・獣》?)職 Lv88
LP 750 MP 769
STR 825 AGI 791
TEC 752 END 781
INT 793
一般スキル 剣術Lv5 短剣術Lv7 体術Lv5 盾術Lv2 槍術Lv6
魔法(光・水)Lv8(土)Lv7(風・火・雷)Lv6(闇)Lv4
気配察知Lv5 調合Lv3 料理Lv3 拷問Lv2 不屈Lv6 集中Lv5
職スキル アイテムボックスLv8 浄化Lv3 テイム 守護Lv4 障壁Lv4
エクストラ 言語理解 真理眼 完全なる図書館の司書
合成魔(日)Lv5(腐)Lv3 妖精の秘奥(E・L・F)
本能回帰(猫) 超・制御
(ステータス的には、負ける筈がない…それでも、油断はできない。)
視線がずれている間にノムが槍を鋭く突いてきた。護は『気配察知』でそれを感じ、左腕の盾で軽く受け流す。
ノムは直ぐに槍を引き一瞬の溜めの後、槍術Lv4の技、『トリプルスラスト』。三つの刺突が同時に護を襲い掛かった。
右足を一歩引き半身になって、右足狙いを躱す。また、左肩狙いは右の盾で右へ流し、残る真っすぐの突きは、左手のかぎ爪で弾いた。
「!!」
「隙あり」
護の防御の仕方に驚き、動きが止まったノムの槍を掴み、振り回そうとする。
しかし、彼は素直に槍を手放して魔法を発動してきた。
「『ロック』」
『『ストーン・パイル』!』
護は足元の砂を固めて、土の杭が出てくるのを防ぐ。加えて、遠くからの杭が届く前に走り出す。
腰を低くして接近。一気に間合いを詰めての右盾でシールドバッシュ。技を発動していないが、素の能力でもノムを弾き飛ばすには十分だ。
『がはぁ!』
咄嗟に作った土の杭で護の勢いを利用し突き刺そうとするノムだったが…護はすんでのところで、構えを解き、認知できない速さでその杭を右へと弾いた。さらに、伸びきった右腕のせいで防御ができない右わき腹に自身の掌を打ち込む。
ノムは鎧を貫通してきた衝撃で足が絡まった。なんとか、解き転がらないように踏ん張る。また、次の右盾が躱せたのは偶然だ。のけ反っていたタイミングで盾が鼻先を擦っていった。
まだ、手放していない杭を護にとにかく叩きつけようと右腕が動く。
ドゴッ!
護は右腕を肘あたりでとめ、ノムの顔面に左ストレート。爪は当てずに盾の縁が頭を強打し、皮膚が割けて血がダラダラと鼠人の顔を赤黒く染める。
ふらついているところに、ダメ押しの回し蹴り。転がったノムは、もはや、立ち上がることすらできない。
「すまない。つい、防御していない部分を狙ってしまった。」
回復をかけ、傷を癒した後、『浄化』を発動し、彼の血だらけの顔を綺麗にする。
メイアと容赦なく防御の隙を狙い、制圧する鍛錬をしている。ついノムの戦闘力を測るつもりがいつもと変わらない戦い方をしてしまった。
槍という距離のアドバンテージを活かしてくる前に、護が虚を突き、前に詰めた。まさか、爪で弾くなんて、思いもよらなかったのだろう。
(今回は上手くいった…)
護は割れずに伸びたままの爪を見る。先端になるにつれて、かぎ爪のように鋭くなり丸みを帯びている。…この力を使った時、爪の形状が変化するのだが、どうしてそうなるのかは、護の理解の範疇を越えていた。
ただ、実のところ、爪を使った防御で折れずに力をいなせたのは今回が二度目だ。
(一度は、メイアとの模擬戦の時に、たまたまできただけだし…というか、どんな強度してんだか。)
明らかに通常の爪よりはるかに強度があった。ステータスが多少影響しているみたいで、メイアやセレスに協力してもらったところ、微妙に強度が異なっていた。それでも、護の爪の強度と弾性は異常だ。
ということで、攻撃だけではなく盾を使っていない時の防御法として、緊急の方法として考えていた訳だが、両手で伸ばしても面積が小さい。所詮、爪なのでメイアの斬撃で切れる、折れる。とどめに、指に負荷がかかり、超痛い。
(やっぱり没だな…)
おまけに、自由に伸ばすことはできても、引っ込められない。
とりあえず不要になったので、護は風魔法を使って切断する。
「も、もう一度。」
「次はダブの番だ。一度、休め。」
「断る。まだまだ戦える。本気を…」
「黙れ」
まだ戦おうとするノムにそう言った。すると、ノムは槍で護を突こうとする。
その意思表示に、護は手加減なしで応える。具体的には、槍を『月光・真打』の峰で『フル・パリィ』し、衝撃で槍が手から落ちる。痛みで涙が滲んでいるところに、体術Lv5、『双月蹴り』で両足での高速ワンツーが頭を強打し、意識を刈り取った。
「えげつなさすぎるぜ…」
「『強欲』が働いたのか?」
ダブが剣を持つ手を震わせ、護は首を傾げる。ノムがチラッと見せた表情は何かに憑りつかれているかのようだった。
とりあえず、適当に離れた所に伸びてしまっているノムを休ませ、ダブと対峙する。
「なぁ、俺もやらないと駄目なのか?」
「一切反撃しないから、やってみろ。…魔法はしっかり対処させてもらうからな。」
「くぅ、逃げられないのか。お、おりゃぁぁ!」
雄たけびを上げながら突っ込んでくるダブ。護は後ろからの土の刃を躱し、目の前の薙ぎを捌く。
護の死角、背後、真上を中心に土の刃が襲い掛かってくる。目の前のダブ自身の剣も、脅威であり気を抜けば、どれかに当たりそうだった。
(後ろから四で四肢狙い…って、私を使うのはありなの?)
土の壁を自身の足元から盛り上げるのと同時に跳躍、『超・制御』でさらに迫りくる攻撃を空中で丸くなって躱す。追撃の大剣の振り下ろしは自ら転がって回避。地面を固め、奇襲を阻止。一部を崩して、飛んでくる刃を迎撃。立ち上がろうとしたところを、あえて立たずに横薙ぎに振るわれた大剣を回避。
「ダブ、殺気が出ているぞ。」
「はっ、はっ…」
(呑気にして…下から来るわよ!!)
護が飛びのくと、完全に殺すつもりで貫くことを前提で発動したであろう土の刃が顕現していた。
(MP切れ…ここからが本番か?)
あれだけ持続的に魔法を発動していたダブのMPはもうすっからかんだ。
『アイテムボックス』から、彼は愛剣を取り出す。元から右手に握られる土の剣とは違い、金属でできていた。
(あの感じは…)
(ミスリルっぽいわね。あんな奴が何でそこそこ良い剣持っているのかしら…大体想像がついてしまうけど。)
「はぁはぁ………っ!!」
息を整えたダブが駆けだしてくる。その瞳には必死さが見えてとれた。
土の剣は受け流し、ミスリルの刃の下をしゃがむ。続く土の刃のすくい上げは盾で真正面から受け止め、頭に振り下ろされる鈍い光へとあえて向かって威力を殺し、強引に盾で流す。
「!」
少しだけ回復した魔力を使った目潰しを風の結界を張って、防御。
ダブが飛びのこうとするのとほぼ同じタイミングで、肉薄。剣が振るえない位置をひたすら詰める。
土の剣を手放し、短剣を取り出した。すぐさま投擲し護の顔面に直撃するコースを狙ってくる。
カンッ!
短剣が盾で跳ね返る音がする。護の視線が途切れたところをすかさず、ダブは技を発動した。
「『ブリッツ』!」
電光石火の突進攻撃。距離は短いが、速さは槍術の技、『ボア・バッシュ』よりも初動が速く回避が難しい。
…ダブはすぐさま目を見開くことになった。護の盾だけを貫く自身の剣と顔に迫りくる右こぶしを見て。
「こんなところか。」
「マジかよ。確実にど真ん中に当てようとしたはずだぜ。」
「ステータスがあれば、一応躱せるんだ。かなり練習した。」
(そして、痛い目にあった。)
どれだけメイアに殺されかけたか。防御、回避ができなければ、肋骨の骨折は確実で、肺にダメージがあることも。痛いどころか、呼吸さえできなくなった状態で、更なる追撃を対処しなければならないと…地獄を何か月も繰り返し続けている成果だ。
「本当に人間か?俺の攻撃、見ずに防いだり躱したりとか、冗談きついぜ。」
「裏技を使っているからな。対人だと嫌な攻撃だ。…もう少し威力は出せないのか?」
「あのなぁ、結構難しいんだぞ。あんたが足を止めてくれたから、狙いがつけやすくて、あの威力を出せたのに、それで弱いって。レベル差だろうよ。」
ダブの言うことに護は納得する。自身は近接攻撃をしつつも、魔法に意識を割くという行為は、護が防御に徹していたからできたのであって、本来はあそこまでの精度で運用できないのだろう。
また、護のステータスが倍ほどあるため、どちらにしろ有効打になったかは怪しい。頭に当たったとしても、全く1ダメージすらないという結果になっていた可能性があった。
「…自衛ができるなら、まぁいいか。」
「荷物持ちぐらいにはなれるって?そうだろうな…現実、ノムと戦っても負けるだろうぜ。」
いい勝負ができそうだが…ステータス勝負になれば、ノムの方が高い。
ただ、いやらしい戦い方はダブに軍配が上がるだろう。
「ぐっ…」
気を失っていたノムが目を覚まし、喋っていた二人の方へ歩く。
ノムは戦意を放っており、護を睨みつけていた。あっけなくやられたというのに、まだ、不満があるらしい。
「さて、二人でかかって来い。ダブが合図を。」
「ゆっくり休ませてもらう。おい、ノム。作戦会議だ。一太刀でもいいから、当ててやるぞ。」
「分かった。」
二人が少し離れた所で、護相手に一矢報いるにはどうするべきか、話し始めた。
(あいつらの能力だと、主に掠らせるのが精一杯かもね。)
(油断はできない。)
(謙遜?)
(事実だ。人間の構造上、対処できない攻撃は防げない。背後とかはそうだな。)
(私がいるから、大丈夫でしょ。それに、主の反応速度は化け物じみているわ。私の指示からの行動への速さといい、レベルとステータスって恐ろしい。)
才能もあるだろう。それとは別に、濃厚な経験が彼を支えている。
恐怖というネジが違う方向に締まっている護に、霊はやれやれと伝わらないように、ため息を漏らすのであった。
「…本気かよ。」
少し休憩した後、盾を外して槍を装備した護を見て、ダブの顔が引き攣る。それでも、剣を構える。
「!!」
先制は護の『ボア・バッシュ』からだった。ダブはそれをすんでのところで躱し、切りつけようとするが…
「くそったれ!」
遅れてやって来た石礫が剣先から腕までを強打する。あまりの威力に直に受けた左腕は折れ、剣が手から滑り落ちた。
『はぁ!』
ノムの護の背後からフェイントを入れて狙われた頭部への突きは不発に終わる。『障壁』が穂先を罅が入りながらも、受け止めていた。
「ぅ…ズルくね!」
ダブがそう叫びながら、ノムの援護を行う。護の足元から杭を出しつつ、行動を制限…
できる筈がなく、護が既に出た杭を足場にして宙を舞う。
すかさず、ノムの槍が技を纏って繰り出した。それを、護は空中で捌き切り、足元に出てきた杭すら足場にして再び跳躍する。
そして、ダブを射程に捉えた。
「マジか…よ!!」
薙ぎを迎撃するダブ。剣で弾こうとした途端に足の甲に激痛が走り、防御が上手くいかずに倒れる。それと同時に、傷が広がり、叫び声をあげて傷口を見る。
足の甲を土の杭が貫いていた。その杭は頑丈に作られているようで、倒れたにも関わらず直立したままだった。そのせいで、傷口が広がってしまっている。
骨が砕け肉がえぐれ、冷や汗が止まらない。まともに集中できず戦える状況ではなくなっていた。
そんなダブからノムが、護の気を引くように突きを放つ。それを護は弾き、魔法を発動する。
土の杭が何本もノムへと襲い掛かった。
「!!」
バックステップで躱すノム。空中から腕を切断するような軌道で飛んできた風の刃も間一髪のところで躱した。
護は周囲に発生させた土の杭を『日閃』で切り飛ばしては、風を纏わせてノムに飛ばす。彼にイメージを練らせる時間を与えない。
次に切り飛ばそうとした杭から、新規の杭が飛び出て護を襲う。
「…『ロック』」
足場を固めつつ、極光の刃で切り落とす。そして、その切った先端をダブへと投げつけた。
『させないチュウ』
顔色が悪いダブを庇うようにノムが槍で弾く。さらに護が利用した土の杭が不意に浮き、護を襲い始めた。
「いけぇぇ!!」
ダブの渾身の魔法が護を襲う。
『障壁』に風の結界を使って防ぐが、貫かれそうだ。ノムも協力し全てのMPを使った、岩石を生成、押しつぶそうとしてくる。
「…『二・伸』」
槍の切っ先が潰そうとしている岩石に触れた。すると、その岩が不自然なほどに浮き上がる。さらに、防御を一部解除し、そこから襲い掛かる攻撃を全て撃墜する。
「『ボア・バッシュ』」
「なんだと!?」
虚を突かれたノムは護の技に対処できない。逸らそうと槍を構えるが触れた途端に、圧倒的な力によって弾かれてしまう。腹を貫かれ、血があふれ出る。それでも、その槍を両手でしっかりと握りしめ、手を放さなかった。
「ぐふぅ」
ノムを貫いたまま、護は『ローン・モゥイング』を発動。一気に加速し、弧を描くように振ると、遠心力でノムは吹き飛ばされてしまった。
体に穴が空いている状態で出血が酷く、それ以上ノムは動けない。
「降参だ。」
杭をなんとか引き抜いたダブに近づくと、彼は俯けになった状態でその言葉を苦し紛れに伝える。
周囲をしばらく警戒した護だが、魔法が来る気配はなかった。本当に降参らしい。
(こっちはともかく、向こうの傷は大分不味くない?)
槍の血を『浄化』した護は、『アイテムボックス』に仕舞い、ノムから治療を始めるのであった。
Q:なんちゃってQ&Aを始めます。
A:ああ。
Q:護のステータス、ほぼ前回と変わらなくないですか?
A:1レベルだけ上昇しているぞ。あと、エクストラ欄が増えているだろう?
Q:そうですけど…爪以外、特に戦闘シーンで分かりやすい描写ないですし…
A:それはおいおいだな…
Q:未来の自分に丸投げするのはどうなのでしょう?
A:…
ということで、補足
超・制御…ふざけた名前だが、身体を状況関係なく動かせるようになる。短時間であれば、物理法則に喧嘩を売ることもできるので、かなりのぶっ壊れ。原則、猫科の獣人だけが習得可能。
本能回帰(猫)…夜目、動体視力といった目に関する強化、AGIへの補正、聴覚、直感にも強化が入る。直感以外は、元から備わっているため、過剰になることも。明確なオンオフこそできないものの、調整することが可能。
また、護の爪に関する強化もこれの影響が一番強い。ステータスの補正は雀の涙程度。




