過程~結果と方針~
……
~第二拠点・鼠人たちの住処~
「先にし始めたのか…」
「うん。砂嵐に埋もれてしまない程度に育ててしまえば、マモの林を育てなくても大丈夫そうだと、思ったから。」
会議が終わり四日後、護は幹部(正式名称)を決定するため、まず、護が向かったのは鼠人たちの拠点だ。ネクと派遣した五人に案内されて、拠点から離れたところにある養殖場に来ていた。
そこには、平地一面にマジック・ププレアが生えており、四隅の角に櫓が四つと厳重に監視してある。
「堀を作る余力はないし、マモさんみたいに強い人があまりいないから、少し控えめにやっています。今のところ下級の魔物しか出していません。外縁部ということもあって、主力は砂防林からの防御に回ってもらっています。」
働いている鼠人たちの顔を見る。来た当初は亡くなった者たちの弔いから生活に慣れるまで、慌ただしい日常生活を送っていた彼らだが、大分落ち着いてきたようだ。
余裕ができ始めたところに労働時間が入ったことで、無理をしている様子はなく、むしろ、食べ物へのモチベーションも相まって、良い表情をしている。
「一息ついたら、見張り台以外の者を集めてくれ。その間に、防衛に回っている者たちを見に行こう。」
「はい。」
一人が養殖場で働いている者たちに伝えに行った。護たちは、そのまま境界の方までへと歩き始める。
「これは…族長と、大族長!」
「あ、マモだぁ。遊びに来たの?」
今は、魔物の気配は引っ掛かっていない。リラックスした様子で、休んでいるパロたち鼠人の戦士が、護たちに気づき、挨拶をしてくる。
ほとんどの者が、護たちに好意的な反応を向けている中、一人だけ不満を示す男がいた。護と一戦交わしたあの槍の男だ。
「何をしに来た。」
「彼らの見定めだ。働きに文句は?」
「ある。こいつらに従わなければならないのが気に食わない。」
護は視線を幹部候補に飛ばす。彼らは見合わせて、首を振った。
「強制はしてない。」
「と言っているが?」
「民を守る責務を放棄していないだけだ。今は、脅威的な魔物が出ていないからいいものの、こいつらの体たらくっぷりを作ったのは、こいつらの指示だ。我らは盾。常に動けるようにしておかなければならん。それなのに、交代制に、休みを一日入れるだと?正気の沙汰じゃない。」
彼以外が、全力で首を振っている。
壁と砂防林を突破して襲い掛かってくる魔物や、飛んでくる魔物が出現しないこともないが、現状、討伐できている。非番の日でも、拠点に魔物が来た場合は、戦ってもらうようにしているし、対処できない場合は護たちの本拠点に応援を要請して、本拠点まで防御を主体にして避難する訓練もしていた。
何より、槍使いの顔には疲労が浮かんでいる。気が気でしょうがないせいで、眠れておらず、ストレスが溜まっているのが一目で分かってしまう。こうはなりたくないと思われても、しょうがない状態だった。
「俺は、こいつらの態度を見る度に、気が狂いそうだ!!それを要請してくるお前たちもな!」
彼の怒鳴り声が来るたびに、獣人たちは耳を塞いで逸らす。早く終わってくれ、と言わんばかりの視線に、ボルテージが上がっていく。槍を握る手に力が入り、顔は完全に真っ赤だ。
これ以上は、彼にとっても、護たちにとっても良くない。護は魔法を発動した。
「『スリープ』」
「くっ」
強靭な意志が護の魔法を一瞬だけ拒むが、疲労と強力なINTによって眠ってしまった。崩れ落ちる彼を、木の幹に持たれかけさせ、不安そうにしている鼠人たちにこう言った。
「彼を防衛から外そうと思う。もし、俺の判断が受け入れなかった場合は、追放も考慮するつもりだ。異議ある者は?」
『……』
「…本題に入ろう。五人に引き続き率いて欲しい者は手を挙げてくれ。」
全員が手を挙げる。その顔には、恐怖といった負の感情は出ていない。やはり、この五人は真摯に向き合ってきたのだと、護は確信する。
視線をネクに飛ばすと、彼は少し瞑った後、話し始めた。
「私の方からは何も。少しずつですが、食料もでき始めましたし、彼らの士気も悪くない。共に進む資格は充分にあるかと。」
「よくやったな。」
満面の笑みを浮かべて、喜ぶ五人。つられて、周りも笑う。
それから、養殖場と拠点で活動している鼠人たちからも、同様の解答を貰えた五人は、完全にこの場所に馴染んでいるのだと、確かめることができて嬉しそうにしているのだった。
~第三拠点・犬人たちの拠点~
「入っていいか?」
『マモ、いらっしゃ~い。』
扉を開くと、ソラと四人がいた。四人とも、下に俯いていたり、涙を流したりと、明らかに失敗しているのが分かってしまい、護の顔が曇る。
『ごめんなさいワン』
『族長~、わ、私たち~頼まれたことできなかった。うえぇぇん!』
「お、落ち着け。せ、責めないからな。」
本格的に泣き出し始めてしまった女猫人の肩を優しく撫でて、パニックになりつつある彼女を何とか、落ち着かせる。
他も、血の気がサーっと引いていて、精神状態が非常に悪い。今、失敗のことを出せば、何をし始めるか、分からない。
「一人ずつ、話を聞こう。誰もいないところで俺しか聞かない。ゆっくりと話してくれればいい。怒ったりしないから。」
「本当?」
「約束する。…ソラ、三人を頼んだ。」
『旦那様の頼みなら、お任せあれ~』
泣き止んだ女猫人にローブをかけて、さらに周りから見えなくして外へと出る。
『気配察知』で人手がいなくなったところで、魔法とローブを外して、事情を聞いていく。彼女が話し終えると、次は男犬人と言った風に聞いていき、日が暮れかけるまで、それは続いた。
護が戻った頃には、彼らの拠点はほぼ寝静まっており、見張りが数人起きているだけだ。護は彼らをねぎらいながら、小さな光魔法で照らしつつ、ソラの部屋へと入る。
他の三人は眠ってしまっており、護は最後の農場組の女犬人を寝床で寝させる。護に泣きついて、感情を吐き出した彼女はすぐに眠り着いてしまう。
「…頑張ったんだな。」
『運が無かったんだよ。それに、旦那様の場合と状況が違うから…』
小さな光、小さな声で二人は話し始める。
それぞれアイデアを抱え、実行しようとしていた。誤算は、確執の深さを見誤ったことだ。会議が進むまで、順調に信頼を築けていた彼らだったが、シザ側の猫人たちに協力を求める時にトラブルが起こったらしい。
協力して、出来上がった養殖場での魔物を半分ずつで分ける。そう約束をしようとしたらしい。だが、武器を突き付け合うことになった。先に来たものが、優先されるという向こうでのルールや、互いに対峙したこともあって、不満が両社から爆発した。
シザやソラが止めそこね、離脱している一人が重傷を負った。今はセレスのおかげで、傷の完治こそしてはいるものの、精神状態が不安定で、今は、拠点で作業を仲間としつつ療養している。
「『マモみたいに力があったら、こうならなかったのかな…』と言われたよ。」
『そうだね。でも、マモが居たら問題なかったと思っている。私たちはマモに服従を誓っている身だから。彼らの指示とあなたの指示はほぼ同じだと分かっているけど、信じきれなかった。』
「それを解消したいが…」
『早すぎるワン。』
「俺の落ち度か…」
『さぁ?助けを求めなかった彼らの責任かも?…それに、マモはいなくなるのでしょ?』
話す間、ソラは優しい眼差しで眠る彼らを見つめていた。それから護を見据えてそう尋ねる。
護は頷きで答えを返すだけだ。それ以上、肯定も否定もしない。
小さな光が、肩を落とすソラと真っすぐな瞳で彼女を見つめる護の顔を照らす。
『ここは、大きくなる。でも…そこにあなたたちの姿はないかもしれない。彼らを見て確信したワン。あたしたちを自分たちで生きていけるようにしたい。そうでしょ?』
「ああ。」
『全く、途轍もないお節介だと思うけど…嬉しい。あなたは見捨てない方法を、取ろうと頑張っているから。』
悪ふざけを仕掛けてくる彼女の姿はない。族長として、民を生き延びさせ、生活できるように舵を取っていく。その立場から護を称賛しているのだと、感じる。
『ありがとうワン』
「その言葉を受け取るにはまだ早い。生きていけるようになってからだ。それに、俺の目的を継げる相手を見つけなきゃいけない。」
『あたしじゃ、役不足?』
「さぁな?たった一人に継がせる必要はないからな。」
『何それ?』
護はそれ以上説明する様子はない。不貞腐れたソラは、行動を起こした。
『んっ』
「!」
『…はぁはぁ、話してよ?それとも、言いふらしてもいい?』
「…外で。」
『期待していい?』
濡れていない方の彼女の手を取り、極寒の夜の中へと向かっていった。
…翌日の朝、返り血塗れで、大きなイタチ型を引きずりながら拠点へと戻ったソラの表情は実に満足したものだったそうだ。当然、見張りはドン引きしたらしい。
~太陽が昇り切った頃~
『よろしくお願いしますにゃ』
『こっちのあんちゃんは、信用できるのかワン?』
「正式な幹部になる。言い換えると俺の代行だ。あの五人よりも上の立場になるし、正当な理由もなく、反抗すれば、罰の対象になるから、気をつけてくれ。」
ソラを魔物の群れに放り込んンだ後、眠る暇もなく、夜の間に鼠人の拠点まで移動した。朝早く、合格した男猫人と男犬人の二人をピックアップしてソラたちの拠点まで戻ってきていた。
シザ側の猫人も集めて、二人を紹介する。さらに、護が権限を渡していることを周知し、人数を補うための協力を二人を中心にやってほしいと、護は呼びかけたのだ。
『やっぱり、こいつらとやらなきゃいけないのかワン?』
「合わせれば、五十人。俺たちがだましだましやっていた頃の倍は達する。今すぐでも食料を確保できた方がいいだろ。拡張し始められるまでは、協力してやった方がいい。売った恩を返すと思って、目を瞑ってくれないだろうか。」
『命の恩人の迷惑はかけたくないワン。でも、やっぱり不安だワン。』
漠然とした不安をちょっとやそこらで、払拭するのは難しい。
護は『アイテムボックス』に手を入れると、二人や後ろの方で様子を見ていた四人が出てきた物に、耳を立たせる。
「俺からプレゼントがある。ボールだ。どうやって使うのかは、二人に聞いてくれ。」
『ボール?』
「まぁ、遊ぶためのものだ。自分が何者なのか忘れて没頭できる魔法のアイテムだと思ってくれればいい。」
『盛り過ぎワン…』
ツッコミが横から入るが、護は気にした様子もなく、一番手前にいた犬人に渡す。
最初に、本拠点にいる彼らに渡した時と同様な、興味津々な様子に満足しながら、護は隣にいる二人の背中をポンポンと叩いた。
「力を合わせれば、大きなこともできる。時には争うこともあるかもしれないが、両者が幸せになるような答えを探してみてくれ。」
『マモが見ている世界は、難しいにゃ』
「そうかもな。でも、挑戦することは無駄じゃないと思う。任せたぞ、皆。」
護はそう言い切り、話を終えた。
二人を残して、護は、後ろで複雑な表情をしている合格しなかった四人に駆け寄る。彼らを連れて、少しだけ、拠点周りを歩いて行く。
「相談なんだが…この拠点に残るか、今まで自分がやっていた仕事に戻るか、選んでくれ。」
「「「「え?」」」」
目を丸くし、動きが止まる。このまま自分たちは元の仕事に戻ると、思い込んでいたので、護の提案は寝耳に水だった。
「幹部としての仕事は任せられないが、彼らと共に働くことはできる。あそこに残るかどうかを、俺は尋ねたい。どうしたい?」
『私は、まだ残って頑張ってみたいにゃ。』
『俺は戻る。…向いていないと感じたワン。何も考えずに、動いている方が向いているワン。』
二人が即答し、残りの二人が熟考した後、残留を選んだ。彼らの表情は、まだ少し暗いが決断したことで、迷いはなくなっている。
護は優しく微笑むだけだった。
「じゃあ、ドトは拠点に、三人は戻ってくれ。」
『了解』
四人はそれぞれ動き始めた。そして、入れ替わりでソラとシザがやってくる。
『私には酷いのに、彼らには優しいのね。妬けてしまいそう。』
『マモ殿、例の計画は?』
息を荒くし始めたソラを無視し、シザの問いに答える。
「今日、狩猟組が戻ってくる。量にもよるが、おそらく実行可能だ。」
『感謝するにゃ』
「仲間は了承しているのか?」
『マモ殿の言葉で大丈夫だと思うにゃ』
それを聞いた護は苦笑するしかなかった。やっぱりという思いが湧きあがる。
「猫人の族長たちは?」
『大体七割といったところにゃ。メイ殿が食料が心もとなくなってきたと、言っていたにゃ』
「用意しておくと伝えてくれ。夕方には訪れるとも。」
『承知にゃ』
シザが、隣で体を震わせて恍惚な表情をしているソラに冷たい視線を送る。
『何があったにゃ?マシな感性をしている女だったと思うにゃ』
「やり過ぎた。」
『マモに教えられちゃったワン。旦那様~もっと~』
「「……」」
護は尻尾を強く握りしめて、ソラを黙らせる。悪化する要素しかなく、性質が悪い。
二人は頭を抑えるしかないのだった。
~数日後・鼠人の拠点~
『終わったー!!』
ミゥがそう叫んで、幹にもたれかかる。周りも、その場にへたり込んだり、やり遂げて満足した表情をとったりしていた。
彼女に一人の女猫人が近づく。ミゥに水を渡して、隣に立った。
「お疲れ様。ミゥ、ありがとう。」
『マモのお願いだから、全然気にしなくていいよ。それより、合格おめでとう!ごめんね、遅くなって。』
「私も戻る暇がなかったから。これで、ミゥと一緒だと思うと…嬉しいよ。」
幹部となった女性は、ミゥの祝いの言葉に、頬を赤く染めて喜ぶ。
二人の視線の先には、養殖場を囲むように堀と壁ができていた。また、ここは一回り小さい土地を囲むように植えられた砂防林の内側だ。
「壁を作らないといけないね。」
『忘れていたかったのにー。セレが向こうにいっているからこっちは私たちで頑張んないといけないにゃー』
「私も手伝うよ。」
『大丈夫ー?私たちだけでもできるよー?』
「いいの。普段指示を出しながら、やっているから。ミゥたちと変わらないよ。」
そう言って、砂防林から充分離れたところで、ショベルを取り出す。マモから貰ったお気に入りだ。
砂に深くさし込み、上げて隣へと盛る。最初は感触を確かめるようにゆっくりだった動作が、徐々に加速していき、それに応じて彼女の身体も沈んでいく。
彼女につられて、休んでいたミゥたちも動き始めた。
「やっぱりミゥたちがいると、早く進んでいくね。…ミゥたちが来るなんて、驚きだよ。」
『帰って来てから、マモはミゥたちをここに来させるつもりだったみたいー。シィの父親と相談していたらしいし、整備をしてしまえば…あ、マモからのプレゼントだって。』
その時まで忘れてしまっていた預かり物をミゥは渡す。結構ぶ厚い石板だ。そこには、腐属性に関することと、通常の肥やしの作り方が書かれていた。
『えーと、「焦る必要はない。」ってさ。』
「マモにはありがとうございます、と伝えて。ミゥ、頑張ろう!」
『うん!!』
日が暮れる頃には、壁と堀の大半を作成し終わり、翌日には完成までこぎつけるのであった。
場所は変わり、ソラとシザたちの拠点の間、そこは熱狂に包まれていた。
「おお、出たぞ!!」
『俺が一番ワン!』
グゲェェ!
出てきた蛙型へとゼロ距離から土の刃を突き立てる男犬人。護たちがかつて対峙した奴より、ワンランク落ちる蛙型の柔らかい皮を貫き、肉を切り裂く。他の者も追随して、一切の抵抗を許さないまま、倒し切った。
雄たけびが聞こえる中、護はその近くでセレスと共に、見張り台を作ったり、壁や堀を作成したりしていた。
『旦那様、内の若い奴が騒がしくてすまないワン。』
「元気そうで何よりだ。調子に乗り過ぎなければ、問題ない。」
『…あっ、怪我した。』
「…」
死角から魔物は発生する。油断すれば攻撃を受けてしまう訳で。
ホーンラビットのようだが、鋭い角での突進を受けて、一人足から血が溢れている。ホーンラビット自体は、近くにいた一人が倒し切ったようで、傷の治療をシザが行っているようだ。
「今はいいけど、魔力を高める場合は注意しないとな…」
「…見張りはやっぱり必要ですね…。ホーンラビットでも、不意打ちは脅威ですから。」
より上位の魔物に不意をうたれると、死者が出てもおかしくない。ソラぐらいになれば、ホーンラビットの攻撃では皮膚に小さな穴やかすり傷さえ与えられないが、怪我を負ったLv13の彼には、ダメージを与えることに成功している。
方法は違えど、ジャイアントキリングばかりやってきた護だ。下だからと油断しすぎるのはよくない。
『マモ殿、こちらは終了したワン。』
「リーダー、お疲れ様。持ってきた肥やし分を漉き込んで、今日は終わりにしよう。」
護たちが終わる頃には、彼らは、完全に魔力を使い切りへとへとになるまで戦っていた。けが人はさらに二人出てしまったが、どちらも軽傷で済んでいるらしい。
その夜は、族長たちが滞在している住処に向かった。馴染み始めたラーに、完全に孫ポジションを使い、情報を集めているトヴァが。
また、護に誘われて、スライムと調合の研究の息抜きをしにきていた筈のアンが闘志を燃やしていた。
「勝負に負けた。今度は勝ちたい。マモル様、悔しい。」
詳しく事情を聞いてみると、女族長と模擬戦をして負けたらしい。あの女族長は《上級拳闘士Lv58》とアンの《巫女Lv48》と、レベルとステータスの差がある。それに、ハイドロの能力を一切使わず、純粋なステータスと技量で勝負したらしく、その差がもろに出てしまったようだ。
しばらく、彼女の反省点を聞くこと一時間、セレスとメイアが部屋に戻ってきた。その夜は、眠るまで、アンの再戦をどうするかの話で持ち切りになるのであった。
~本拠点~
「えーと、現状は…」
さらに日が経ったある日、護はドームでガンドルフ、エトリア、ネク、シザ、ソラを集めて、情報整理を行っていた。
幹部を決め、それぞれ養殖場と農場を整備し、少しずつだが稼働し始めた。
「ここの養殖場での支援は必要です。レベルが低いのがネックで、サイクルを増やしたり、強い魔物を呼んだりするのは、数年かかるかと。」
「こっちも同様だね~。」
「変態に同様だ。」
ネク、シザ、ソラ、三種族の意見が一致する。以前、職人のレベルリングを棚に上げて、考えていた護だが、まさかここでも、似たような問題が出てしまうとは、予想外だった。
(いや、都合がいいのか?大規模レベリングを実施すべきか…)
ガンドルフたちに視線を送る。
「マモルの考えはできないことは無いと思うぞ。ただ、それでも一年はかかる。」
「私たちがいるから、死なすことはないさね。…トラウマになる子はいるかもしれないねぇ。」
成長する速度はまちまちだ。護や周りの成長速度が異常、もしくは効率厨なだけだ。また、ラーのように戦いが嫌いな人間を向かわせるのはどうだろうか。
「養殖場の稼働に直結するからなぁ…。レベル上げと、鍛錬はやっぱり外せない。有志を募る形で参加してもらってレベルを少しずつでも上げていくべきか。」
「一気には不可能だからそうなるさね。結局は地道にやるしかないよ。」
多くを望んでも、現在のリソースで達成不可。本拠点だけであれば狩りなどする必要もなく、生きていける分の魔物を手に入れることができるようになったという、変化が大きく、それ以上を高望みできるほどまで、やってこれたと言うべきか。
食料は、狩猟組をまだ頼らないといけないものの、養殖場が回り始めたことで、遠征する回数は減らせそうだ。内政も、幹部が機能しはじめ、文官の役割もラーたちができるようになりつつある。
…護としては、決めておかなければならないことがもう二つあった。
「獣人の中から、王に相応しい者はいるか?」
一つ目。再三、答えを伸ばし続けていた問だ。護がその立ち位置にずっと居座り続ける訳にはいかない。
この質問に、ネクたちは互いの顔を見合わせる。
「無理に決めなくてもいいんじゃない~?えーと、外交?する人は、話術に長けてたり、理解が速かったりする人にする必要はあるかもしれないけど…」
「大族長が仰るのは、あなたのような、私たちを集めて、全体の方針を調整する人のことですよね?」
「ああ。」
「…マモ殿、正直なところ、自然と出てくるのではないかと思う。今はマモ殿がその任を担っているため、居ない訳だが、マモ殿がいなくなれば、やる人間は出てくるだろう。」
「それだと、混乱しないか?王は権力を一定、保持しないと働かない地位だ。それを求めて、争いが起こると、最悪戦乱ばかりになるぞ。」
特権階級を手に入れるための、闘争と足の引っ張り合いはこの世の常だと、護は考えている。
ほぼ、幹部と族長に権力を付与しているとはいえ、それぞれがばらばらに動くと困る場合も存在する。その時の強権とセーフティは確保すべきなのだ。そして、セーフティはあれど、他者の上に立つという、誘惑は大きなものとなるだろう。
「マモル、王の権力は個人で担保すればいいんじゃないか。もちろん、称賛を得るために、何でもありというのは、どうなのかといった問題はあるが…」
「そこらへんのルールはしっかり決める必要があると思わうよ~」
「マモ殿、今すぐ決めるのは早計だ。」
「…」
ここまで言われてしまっては、引き下がるしかない。確かに、ルール面は決まっていないし、ここで上げられた者を王としたとして、ルールができるまでの暫定の王となるだろう。そう考えると、現状、護がこの立場で居続ける方が好ましい。
反論を封じられてしまった護は、二つ目の話題へと移る。
「この場所の名前と、それぞれの拠点の名前を決めたい。呼びづらいし、周りと接点が大きくなった時、呼び名がないのは不便でしかないからな。」
「…旦那様が決めてしまえば~?」
「もしくは、全員に聞いて、適切だと思うものを採用しますか?」
ソラとネクは違う方法を提案して、にらみ合う。シザが間に入り、二人の距離を離しつつも、視線は護に注がれていた。
(正直、俺が決めた方が早いということは分かるけど…)
護は顎に手を当てて、どう答えるべきか悩む。
誰が提案したかで、揉めそうな気配が目の前の二人から既にしている。手間と言う面でも、全員から意見を聞くのは大変だ。
「俺が決めた場合、異論はでてくるのか?」
「…どこかの種族を贔屓しない限りは、大丈夫でしょう。」
「そうか…」
ネクにはそう返されてしまった。もし不満があるなら、護に直談判しにくるだろうとも。
しばらく間を置いた後、腹をくくる。
「俺が決めよう。思いついたら、再び集まって話そうと思う。それでいけるか、意見が欲しい。」
「それでいいと思うよ~」
「はい。」
「承知した。」
ソラ、ネク、シザの三人から了承を得られた。後は、幹部たちにも話してみるべきだろう。
これで、相談すべきことは終わったと、表情をやわらげた護にソラが尋ねる。
「旦那様~」
「ん?」
「旦那様の像を立ててもいい?」
「はい?」
予想外の質問。思わず身体の動きを止めて、思考が停止する。
ソラの提案に、珍しくネクとシザがハッとしたような表情を取っている。これは…
「旦那様のおかげで生活できていることを感謝するのに、丁度いいかな~と思うのよ。」
「確かに、私たちからすればそうですし、これから来る者、産まれてくる者にはこの場所のルーツと、私たちが忠誠を誓い、規則を守らなければならないのは、創始者を裏切ることになると…いろいろと使えそうですね。」
「正気か?」
王権神授説…いや、新手の新興宗教でも作るつもりなのかと、本気で、正気を疑う。
護は独裁者になるつもりでもないし、神になりたい訳でもない。まだ、国に忠誠を誓わせるなら、分かるが、個人、それも生きている本人に誓わせるのは恥ずかしさなどで、悶死してしまいそうだ。
「俺もそれがいいと思う。」
「シザ?…却下だ。像を立てるのは却下だ。建てていたら撤去しにいくからな。」
「そんなぁ~」
切実な声で言われても、護は頑なに否定する。
それからしばらく、ネクたちは粘ったが、護が首を縦に振ることは無く、諦めるしかないのであった。




