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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
獣人黎明編
74/138

再会~親子喧嘩は唐突に~

に、似たような…

~養殖場~


『うげっ、やり過ぎたにゃ!』

「マモ、対処してくれぇ!」

「マモ、メイさ~ん!!」


 出て来た魔物の強さに、獣人たちが逃げ惑う。その中の一人が、その魔物の攻撃を受けて吹き飛んだ。


「『エア・クッション』……Lv63、シーベン・ナースホルン。前に立つのは危険だな。」


 吹き飛んだ彼を空気の塊で受け止めつつ、護は『真理眼』でステータスを見ていく。

 目のまえに現れた魔物は、大きな一本角を持ち、前脚が肥大しているサイ型だった。圧倒的な硬さを誇る外皮に、その肥大した前脚が振るわれるたび、大地が震えているところを見ると、見た目相応の重量をしている。


「背後の皮は前面に比べて、かなりぶ厚いのか。でも…『日閃』」


 膨大な熱を帯びた攻撃が、背後に回った護から放たれる。一瞬の抵抗の後、皮をじりじりと焼き切り始め、どんどん侵食していく。肉が焼ける匂いが徐々にし始める、。


ドンッ!!

「おいおいマジか。」


 大きく叫んだサイ型は、前脚を大きく振り上げたかと思うと、思いっきり振り下ろし、土砂が大きく舞い上がる。そして倒立の状態で静止した。そのまま一回転して倒れず、後足から着地し、再び土砂が舞い散る。

 『日閃』は土砂に塞がれてしまい、ほとんどを無効化されてしまった。


「まぁ、そうなるよな…」


 相手から強烈な視線が。他の仲間が傷つけられていない中、傷つけたらどうなるか、はっきりしている。ヘイトを集中させた護に、サイ型は狙いを定め、足を動かす。

 サイ型は速度を上げ、巨体に似合わず、かなりの速度で向かってきた。角で貫かれたら、即死もあり得るだろう。

 呑気に観察している暇はない。護は魔法を発動した。


「『ボグ・ダウン』」


 前脚が泥に一気に沈み込み、勢いのままひっくり返る。前脚はともかく、角も大地に突き刺さり、泥と土を巻き上げながら、護の手前まで地面を削って滑ってきた。

 完全にひっくり返ってしまい、もがくしかないサイ型。その上に護は立ち、観察を再開する。


「腹側は比較的、革が薄いのか。…とりあえず、このまま暴れられると危ないから…」


 危険な前脚を時間をかけて切り落とす。重い音を響かせて前脚が落ちた後、まだジタバタしているので、後ろ脚も切り落とす。そうしてようやく、呻くだけになった。


「マモ、終わったの?セレを呼んできたよ。」

「この魔物…倒してしまいますね。護さん、早速やってもいいですか?」

「ああ、いいぞ。」

 

 詠唱もなく翳された手から放たれた光線がサイ型の口に入っていった。内部から焼かれ、LPを削られ、完全に沈黙する。

 セレスはステータスを確認すると、首を横に振る。


「駄目ですね…足りないみたいです。」

「そうか。」


 セレスのレベルは上がっていない。残念ではあるが、一体二体でレベルが上がる護がおかしいのであって、こればかりは仕方がなかった。

 護は沈黙したサイ型に向き直って、『真理眼』で改めて鑑定し、こう言い残す。


「外皮は鎧に使えそうだ。角と骨もかなりの強度がある。手分けして解体してくれ。」


 それから、セレスと共に職人たちの元へと赴く。彼らは、様々な魔物が襲撃したことと養殖場が稼働し始めたことで、解体から加工まで手が一杯になっていた。それでも、楽しそうにしているのは、色々と思いついたことを試せるからだろう。


「ちっ、いつまで…マモ、お前も手伝えよ!」

「悪いが忙しい。あのおっさんは?」

「マモが連れて来た鼠の職人は、向こうで、指導してくれているぞ。あのおっさんとはやることは違うが、結構参考になる。」

「モン、お前がそう言うとは珍しいな。」

「…」


 顔を逸らされてしまった。相変わらず護への風当たりが強い彼だが、面倒見がいい。ただ、(トヴァ)のことが関わってくると、血の気が増すので、先日あったこと(鼠人とのいざこざ)の詳細は話していない。

 モンの指していたとおりに向かうと、目的の人物へたどり着いた。そこにいるのは新しく加わることになった職人、見た目三十代、中身53歳のムサだ。Lv70越えという点から、猛者でもある。


「よぉ、旦那ぁ。何か用か?」

「様子を見に来ただけだ。…皮鎧の素材が手に入った。解体し終えたらこちらに回ってくる。…ここの居心地はいいか?」

「血の匂いが気になるがぁ、それ以外は悪かねぇなぁ。こいつらを育てるのも、案外面白いってもんよ。」

「専用の解体所を作って、風を扱えるスライムたちの改造もやってみるべきかな…」

「まぁ、優先度はそんなに高くないだろうぜ。」


 スライムのことはアンに丸投げしている。ただ、魔法のことになると、彼女はからきし駄目なため、護のタスクが積み重なる一因に。セレスが心配そうな顔で見てくるのと、ムサの言葉で、スライム改造案は、保留にしておく。

 無言になった護に、ムサが言い出した。


「逃げてきた奴の中に建築に携わっていた奴がいたが、あんたらの魔法の方が速いし、頑丈だからな。そいつらの自信を木っ端みじんにして、あれを造ったのは驚いたぜぇ。」

「あははは…」


 ムサが指摘したのは、第三住居地、ボロボロの天幕を張り、極寒の夜を過ごしかけた居候たちに向けた新たな地下住居。護は彼らが居た砂防林の近くに、親と子供優先で利用できる地下住宅を用意したのだ。ちなみに、水が溜まっている地盤にぶつかったことで、深部の方は水浸しになっており、そこへの入り口はウェットスライムが閉じている。

 力技である護式拠点の作り方は、大きく日干し煉瓦と干し草を利用して、こつこつ立てていた彼らにはあまりにもショッキングな光景だった。しばらく放心状態に陥っていて、子供たちのいたずらにも無反応だったため、面白いというよりも、困惑の方が勝った記憶が護たちに残っている。


「まぁ、俺たちのように、戦えることが前提だからなぁ。」

「…」


 MPとINT、想像力を合わせた力技である以上、ステータスが低い彼らがやるには向かない。やるにしても、今すぐには無理だ。内心でエールを送るしかない。

 それで、死んでしまっては元も子もないので、レベリングでも計画してみるかと、頭に思い浮かぶ。


(…誰を当てればいいんだ。とりあえず、土魔法に素質がある奴の採用も結構、重要になりそうだなぁ。ラーあたりに話してみるか。)


 レベリング案を没にし、ラーたちに話題提供をしてみることにする。

 というのも、メイアにラーたちと共に、色々と制度の話を聞かせてもらっていた。国をゴールとしているが、その在り方は全然定まっていない。どうするべきか、答えを保留にしていた。あえて、ラーたちから意見を聞くのに徹している。

 考えこんでいると、二人の前からいつの間にかいなくなっていたセレスが、手に一つの杖を持って戻ってくる。形状からして足付近の骨の先端に魔石がくくられていて、怪しげな光を灯っていた。


「ムサさん。…これ、魔石灯ですか?」

「よく分かったな。ドワーフ(鉱人族)の国で作ったやつだ。俺が仕留めた黄ランク級の魔石を使っている。今は待機状態で、魔力を蓄えている最中だ。解放してみるかい。」


 物々しい見た目だが、攻撃用ではないらしい。『真理眼』でも確認できた。

 護たちの夜の活動を支える魔石灯。セレスがほぼ片手間で作ることができる使い捨ての魔石灯の上位版。ある程度の大きさが必要なため、中々お目にかかれないものだ。


「綺麗にできてます…」

「まぁ、何年もやってりゃ、できるようになる。教会の奴らに同行して、活躍した時に報酬としてもらったやつだからなぁ。懐かしいぜ。」

「教会に?」

「ああ。たしか、土の神様の教会だったなぁ。もうかれこれ、三十年以上になるぜ。」

「「!!」」


 経緯が気になる。この男は一体、どんな経験を積んできたのだろうか。

 数日前、あの職人見習いの少女(スス)を連れて、男を見つけた時に感じた余裕の態度は、多くの濃密な経験から来ているものだと、改めて感じる。そして、護たちの提案を真っ先に了承したのも。


「お願いが。」

「飯をしっかりくれるなら、引き受けるぜぇ。」

「今日の魔石で、魔石灯を作ってほしい。できれば、これと同じようなものを。」


 護はセレスの手にある魔石灯を指して、そう頼む。丁度、解体が終わったようで、充分な大きさの魔石が届くところだった。

 ニヤリと笑ったムサは承諾する。


「任せなぁ。で、飯は?」

「特別に牛の貴重部位の焼肉でどうだろう?ほぼ味付けなしでも上手いと思う。」

「ん?試してねぇのか?」

「俺たちは実験台になっている…今まで食えなかった部位の可能性を模索中だ。」

「そりゃあ、馬鹿野郎が出て来た時に、使う罰にした方が良さそうだ。」

「「はっははは…」」

「…楽しそうですね、護さん。」


 少しだけ、二人に置いて行かれたセレスが不貞腐れる。顔は笑顔だが、不機嫌なオーラを纏っている感じがする。

 二人は機嫌がもっと悪く前に、話を終えることにした。


「んんっ。とにかく、行きな。終わったらどこに持っていけばいい?」

「俺たちの拠点に。誰でもいいから渡してくれ。その時に、マモの部屋の前に置いといてくれと。」

「承知した。」


 護たちは彼の部屋を後にする。拠点に戻ると、メイアたちは既に戻っており、夕食の準備が整っていた。汚れを落としてから、食べ始めてすぐにメイアとオリーにムサへの報酬の件を話す。オリーが承諾し、確保してくれることになった。

 ちなみに、その夜はラーたちといつものディスカッションの後、セレスと過ごすことに。色々とあったおかげで彼女の機嫌は直るのであった。


 翌日、朝食を作るために早起きした護は、日課の水やりをする。拠点入り口に置かれているハーブ類の鉢に水をやり、『アイテムボックス』に仕舞った後、最初に砂防林を植えた場所、実験場の内側に移動させる。

 ハーブ類は、採取してきたものと、買っていた種や枝を挿し木したものになる。それに加えて、エルフの伯爵からの報酬で貰ったものも含まれていた。拠点組から相談されて、護が腐食土と鉢を用意した。

 拠点組のメンバーが面倒を基本見ているのだが、経過報告のついでに護が世話をしている。いや、させられているのかもしれない。


「大分、色が褪せて来たな。」


 護は実験場に生えていた雑草の色を見てそう呟く。昼は暑く、夜は極寒、それは変わらない。体感では、全体的に寒くなった気がする程度。

 ぼんやりと、冬の到来を予感させてくる。


「マジック・ププレアには関係なさそうだから別に構わないか。」


 『マジック・ププレア』の温度変化への耐性は驚くほど高い。氷点下でも一応生存できることはこれまでの観察から判明していた。ただ、魔力がほぼ無い空間だと、成長どころか発芽しないし、発芽しても、成長できずに、踏まれたり、維持する魔力が無くなったりと枯れてしまうことが分かってきた。

 この記録はラーがとっていて、ドーム内に壁画として保管されている。


「さて、朝食を……」


 そう言おうとして護の『気配察知』に自分たちとは異なる存在が引っ掛かる。北から、数は二、いやその後ろに七。一目散にこちらに近づいてきていることから、護たちの柱の規則性が分かっているようだ。


「朝から、勘弁してくれよ。」


 見張り台にいる獣人たちに養殖場から目を離さないように、注意し、護はメイアたちを起こすために拠点に急ぐのであった。


「今度は猫人か。」

「護様、いつでも武器を抜ける準備はできております。制圧を。」

「いきなり物騒な選択肢…相手の様子を見れば、分からないこともないが…」


 護たちが武装を整えて、一番近くの柱付近へと移動するのと、未知の一団がそこまで接近したのは、ほぼ同時だった。相手を視認できるようになってから、シィの顔が恐ろしくなっている。

 相手は、猫人族の一団。全員がボロボロになった武器を構えつつも、鼠人の戦士たちに引けを取らない威圧感を放ってくる。


『シィ…』

「馬鹿兄貴に父上、どうして、ここに?」


 尻尾を逆立て短剣を構えるシィは、先行していた二人組に向けて、そう尋ねた。

 確かに、シィに似ている。ただ、兄の方は、異母兄妹のためか、トラ柄のシィに対し、兄は灰色の毛並みをしていた。


『人族に、ハーフエルフ、犬人か。シィよ、狩り損ねたな。(われ)が言った通りになったにゃ。』

「父上の言葉は正しかったよ。」

『ほう。』


 父親の方から、『威圧』が放たれる。気絶する味方はいないが、足を震わせたり、顔色が悪くなったりしている。震えているセレスを護は抱きしめながら、魔力を散らしていく。

 そして、シィは体を震わせながらも、父親を睨みつけた。

 

『今となってはどうでもいいことだにゃ。我らのために死んでもらう。』

カンッ! 


 飛び出した父親の土の刃と、シィの土の刃がぶつかり合い、音が鳴り響く。それが合図となって、他の猫人も襲い掛かってくる。

 数は少ないというのに、その差を思わせない。どの猫人も死に物狂いで、護たちを殺そうとしてくる。その様子に、護側の猫人たちは、困惑しながら対処していくしかなかった。

 

「らしくないよ!父上なら、マモたちの実力を分かっているはず。逃げてよ!!」


 防御が間に合わない攻撃を、土魔法で足元を崩して回避しながら、シィは叫ぶ。父親の表情は、何を示しているのか分からない。ただ、振るわれる剣技には焦りが見える。

 小さな傷が増えていく。致命傷を避け、皮膚一枚、毛一本を切らせる。護やガンドルフ、時にはメイアといった強者と戦った経験が、格上の父親相手に、善戦させていた。


『あいつはどうなったのだ?』

「は?」

『お前たちを送った時に率いらせた男は?』

「…死んだよ。マモ、族長が殺した。」


 動きが止まる。シィは思い切り蹴り飛ばした。

 地面を削りながらも、受けきった親の顔には、後悔が映っている。シィの記憶には、あいつと父親は口論していた。なぜ、そんな顔をするのか、シィには理解できない。


「話してよ!?」

『何をにゃ』

「あんたやクォたちが私たちと戦わなきゃいけない理由!!」


 距離を詰め、再び武器が激しくぶつかり合う。防戦一方になっていた、シィが攻勢に移る。

 …シィは護が嫌いだ。勝てない相手だし、言うことは聞かないといけないし、仲間たちが慕っている所を見ると、目の前の男を思い出してしまう。

 ただ、護の言っていることは、嫌いではなかった。あの気に入らなかったラーも、目に入った途端に殴りたくなる状態から、毛嫌いする程度の状態になった。遊ぶという行為を教えてくれたのも、護だ。

 要するに、嫌いだが、認めている。それが、シィが護に対して思っていることだった。

 だから、問う。

 

「他はどうしたの?村の皆は?」

『…』

「死んだの?」


 動きが変わる。

 以前のシィなら、反応できない速度で放たれた斬撃。それは的確に、シィの首を狙っていた。それを何とか、流しきる。

 それからはギアが一段上がった攻撃に、シィはそれ以上、喋ることを許されない。


バキッ!!


 纏っていた土の刃が折れる。二人とも同時に。

 シィは刺突からの回し蹴りをしゃがむと同時に、足払いを放とうとするが、砂の壁に邪魔をされる。

 その壁から土の刃を再生する父。さらに、崩れ落ちていく砂を足で蹴ることで、シィの目つぶしを行ってくる。

 目を閉じて下がる。しかし、距離を詰められて、短剣が首筋に迫った。防御も回避も、間に合わない。


『ほう。』

「マモ、いつの間に…」


 刃が見えない壁にぶつかり、罅を入れて止まる。

 完全に砕け散る前に、シィは後ろに下がり、距離が空いた。


『次はないにゃ』

「ああ、次はシィだけじゃない。」

「マモ…」


 護がシィの隣に並ぶ。残りは父だけになっていた。いつの間にか、制圧され、拘束されている猫人たちが流した視線にチラッと入る。


『視線を逸らすな、と教えた筈だぞシィ。ハーフエルフ、邪魔をするかにゃ。』

「親子喧嘩なら、よそでやってくれ。襲ってきた以上、敵だが、鼠人の件もある。武器を収めてくれないだろうか。あんたらが、ろくに食べられてないのは知っている。影が来たんだろう?」

『…』

「それに、こっちは朝早くから起こされて、いい迷惑をしている。…いや、丁度いいタイミングなのか。朝食を今からとる。そっちの事情を聞かせてくれるなら、分けてもいい。」

『我がいるのではない。族全員分が必要にゃ。お前たちを狩れば、当分はしのげる。』

「なら、その分も用意しよう。それとも、ここで全滅するか?」


 変わった状況、護の乱入という要素が、動きを止まらせる。シィの父親はシィ()をじっと見つめた後、護に向き直った。

 土魔法を解除し、柄しかない骨の短剣を仕舞う。


『いいだろう。だが、嘘だった時は…』

「…」


 食料事情は少し圧迫している。鼠人たちの有志を集めて、サイクルを増やさなければ、足りなくなるかもしれない。

 そんな不安を声、仕草に出すわけにもいかず、護は頷くだけで答えた。

 念のため父親も縛り、護は彼らをドームに案内する。草で編んだ絨毯をしき、『浄化』をかけた後、彼らを座らせる。

 台を土魔法で作成する。それから、護は彼らの目の前で、道具に『浄化』をかけ、『アイテムボックス』から取り出した肉を一口大に切っていった。大量の肉をかなりの速度で切っていく。

 セレスが魔道具を取って来てくれた。土鍋に水を入れて、加熱をしていく。その間にナイフとまな板を『浄化』、ジャガイモのような芋に、ハーブ、樹海樹林でとれた、大きなシイタケらしき茸を『浄化』して綺麗にした後、切っていった。

 まだ湧ききっていないお湯に芋を真っ先に入れて、次に肉と入れていく。沸騰してからは、ハーブ、茸と入れていき、さらに塩と唐辛子を入れて、ある程度煮込んでいく。

 ドームの一番上で、サンドスライムとウェットスライムが仲良く働いているのを観察しながら待つ。…時間が充分にたち、火が通ったのを確認する。そうして、スープができあがった。

 それをそれぞれによそい、彼ら木でできたスプーンと共に前に置いていく。新作のジャーキーも取り出した護は、木皿にそれを入れて、置いた。


「これで、毒は入っていないことに証明になればいいが。」


 祈りを捧げ、先にスープに手を付けて、ジャーキーも食べて見せる。辛みが効き、食欲をそそるように作った。少し、身体に負担をかけるかもしれないが、そこは護のように倒れるところまで、心身を削っている様子は見られないため、大丈夫だろう。

 『堅牢』夫妻に視線を飛ばし、彼らの拘束を解いてもらう。今のところ、暴れるようなそぶりは見られない。


「辛い!でも美味しい。」


 一番最初に手を付けた獣人が、そう叫びながら、一気に食べ進めていく。それにつられるように、他の獣人たちも食べ始めた。唯一、シィの父親だけが手を付けない。


「食べないのか?」

『……ハーフエルフ、我らを堕落させる気か?』

「堕落か…」


 なかなか聞かない言葉に、護は苦笑する。確かに、毎日を必死に生きて来た彼らからすれば、護が提供している寝床や食事は堕落するよう誘い向けているように、感じるかもしれない。


「分からない。でも、言えることはある。」

『なんだ?』

「堕落していく奴は一定数出てくる。これは仕方がないことだ。勘違いして、貪るだけの奴も。与えられるのが当然っていう考えも、生まれたりする。そんな奴が完全に道を逸れた時は容赦しないし、必要以上に与えるつもりはない。」

『どうやって判断するつもりだ。』

「さぁ。はっきり言って、良い解決方法が分からないんだ。特に、どうやって救済するのが、正しいかなんてな。」


 時代によって変わる。環境によって変わる。人、種族によって変わる。

 護が、ラーたちの意見を尊重し、自分の意見を出して、強制させない理由の一つだ。今、長として動いているのは、結果的であって、これからのことを考えると、護が決まりを多く決めることは、よいとは考えられない。


『今はどうやっている?』

「働かざる者食うべからず。ただし、子供と面倒を見る者は除く、だ。」

『老人は?』

「あいにく、決めていない。これから決めるさ、ラーたちがな。」

『仲間に振るのか…お前はどうしたい。』

「この世界はレベルがある。年齢と見た目、肉体がそぐわないことなんて多すぎる。それに、種族によって寿命が違う。だから、年齢で割り振るのはナンセンスだ。食い扶持があるかないかが、鍵だな。」

『…確かめる方法は?』

「…」


 護の答えが途切れたところで、ようやく、料理に手を出した。生ぬるいだろうに、手を止めず食べていく。

 その勢いのまま食べ終えた彼は、護を真っすぐ見つめる。


『お前が殺したリーダー格の最後はどうだった?』

「……俺が塵に。肉片の欠片も、全て吹き飛ばした。」

『…』


 嘘偽りがない事実をもって、護は言う。

 どんな関係性だったのかは、知らない。ただ、その視線は遠くを彷徨っていた。


「なぜ、シィを戦争に出した?娘だったんだろう?」

『シィはいつか死んでいた。それも仲間を率いてだ。あれは族を滅ぼしうる意思を持っていた。だから、送った。それだけだ。』

「…」


 声音に感情が籠っていない。無機質な返答に護は無言になる。

 それ以上、互いに何も言わず、手だけが進む。あっという間に、護が作った分も、セレスとオリーが追加で作った分もなくなっていた。


「マモ、これからどうしたらいい?」

「シィたちはいつも通りの生活を。ガンドルフさん、お願いごとが。メイア、彼らの監視を頼む。」

「分かった。」

「畏まりました。」


 シィたちに呼ばれて、一旦、席を離れる。シィたちに普段の巡回と養殖場の稼働を頼み、メイアには監視を、ガンドルフには、鼠人で、居住決定者を中心に、有志を連れて、養殖場で働いてもらうように頼んだ。

 さらに拠点で、オリーを探して、頼みごとをする。ラーにもだ。

 ドームに戻ってきた護は、満腹でうとうとしている客人に、数人を残して眠るように勧める。シィの父親と警戒心が強いもう一人だけが起き、それ以外の七人が眠り始める。


「これからのことを話そう。」

『ハーフエルフ、影を倒すことは可能か?』

「実物に遭遇してみないと分からない。最悪、倒せないとなったら、拠点を破棄して、散らばる必要も出てくるかもしれない。」

『…』

「切り札はある。切りたくはないけどな。」


 実情、数が心もとない。薬師に作ってもらった『反撃の水薬カウンター・ポーション』は減ってきている。

 拠点をロストし犠牲が出るのと、護のLPと水薬一本では重さが違う。ただ、優先順位は彼女(メイア)たちが一番で、彼女(アン)たちが狂ってしまわないよう護は生き続けなければならない。


『死ぬ気はないみたいだにゃ』

「当然だ。で、食料を持って、お前たちについて行けばいいのか?」

『ああ。食料がほとんど残っていない。』

「了解した。それで、場所は?」

『お前たちが建てた柱を覚えている。それに、道しるべもあるにゃ』


 そう言って、彼は一つの水晶玉を取り出す。内側には赤い矢印があり、クルクルと回してみても、指す方向は一定だった。


双方向発見玉 (対晶石と呼ばれる、二つに割ると、互いの重い(矢印)側が相手側の方向を向こうとする性質を持つ石を利用した、装置。距離は関係なく、効果を発揮するため、相手を見失うことはない。取り囲む水晶が壊れたとしても、効果は持続する。なお、『アイテムボックス』に入れると、反応が途絶えてしまう。)


 護たちは迷わないよう、目印を規則的に建てていった。それに対して、この水晶玉は、二方向限定なら、道に迷わずに済むアイテムになる。狩りの際、仮の拠点に戻るには都合がいい。


(俺たちが戻れるようにしておかないといけないな…)


 護は予備が無いのか尋ねるが、無いとのことだった。例のごとく、土柱を立てながらの移動をすることが決まる。


「こっちが準備でき次第で出発する。それでいいか?」

『できるだけ早くしてほしいにゃ。頼むにゃ』

「考慮する。」


 そうして、二人での会話はひとまず、終了した。

 養殖場に赴きながら、移動に必要な人員を頭の中でピックアップしていく。

 速度と物資輸送に加え、影との戦闘がある。聞いた影の性質を考えると、いつかは自分たちの元にも来る。討伐しておけば、心配事が減るだろう。


(少しでも、こちらの信用を勝ち取る。…引き抜けるかなぁ。)


 影を討伐すれば、とりあえず敵ではないと、アピールすることができる。

 それに、人材の極端な流入は混乱の元になるが、それを差し引いても、人手が相変わらず足りない。養殖場の隣、農地の整備はかなりの速度で進んでいる。今のプランでは、農地一つと養殖場一つでワンセットだ。それを支える人材は多い方がいい。


(ミゥとリーダーは残すとして、シィやトヴァは…)


 少し悩んだ後、シィは残留、トヴァは連れて行くことにする。シィの身体能力と勘は頼もしいが、光魔法を覚えていない。相手との相性が最悪だ。トヴァは光魔法を覚えているし、『予知』が使える。『指揮』は、どちらかと言えば、拠点で使ってほしいところだが、向こうは混乱している最中だろう。戦力にならなくても、彼女は役に立つ。


「マモ!」

『我らは、残った方がいいかワン?』

「ミゥ、リーダー、上手くやってくれ、頼む。」

『任せるワン。』

「少し抑えめにするから、安心してー」


 養殖場での用はあっさり終わった。今度は拠点に向けて歩き出す。


(彼女たちも…連れて行くべきだよな。なら、急ぐべきか。)


 護は走り出した。その夕方、護たちは準備を整え、拠点を出発することになる。

 

Q:Aはどこに行ったんですかね?


 今回も、なんちゃってQ&Aはありません。

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