労働力不足~戦力分散は悪手だった~
…
~養殖場~
「せいやぁ!」
「『ウォーター・ランス』!」
急に出現した狼型の一体が、女犬人に飛び掛かろうとするも、彼女にアッパーで殴り飛ばされ、その隙を襲い掛かった二体目は護の水槍で貫かれ絶命した。すぐさま、他の獣人も参戦したことで、他の狼型も倒されていった。
戦闘が終わったところで、けが人が出ていないことを確認する。LPが減っている者はいないようだ。
一旦、作業を中断し、全員砂防林に集合をかけた。
「驚いたわっ!」
「殴り飛ばすのか…こっちが驚いたぞ。」
「ナイフのことを忘れてしまっていましたっ!」
独特な話し方をする女犬人の手を改めてけがをしていないか確認した後、狼型を捌いてみる。自然に遭遇する狼型と変わらない構造で、小さな魔石もあった。
成功した。しかし、いきなりであったので、護の顔は顰め面になる。
「全員、武器が抜けるようにしておいてくれ。誰か出現したところを見た者は?」
互いに顔を見合わせていて、誰も名乗り上げる者はいない。聞いた護も『気配察知』に反応があったときには、すでに狼型が産まれていた。
ようするに、不意をつくような形で魔物が生まれたということだ。
(かなり厄介だなぁ。…ん、反応が。)
「メイア、始末を頼んでも?」
「畏まりました。」
『生まれたのかワン?』
「ああ。」
メイアが姿を消した。護たちが集まっている丁度、反対側で生まれたようである。今のところ、そこまで強い魔物が生まれる気配はない。すぐに終わって戻ってくるだろう。
護は顎に手を当て、考える。
「ラー、しばらく全体が見える位置で空を飛んでくれないか?」
「わ、分かりました。あ、あまり長い時間は無理です。」
「それでいい。」
ラーが空を飛んでいった。入れ替わる形でメイアが戻ってくる。
「護様、終わりました。生まれたのはホーンラビットです。」
「お疲れ様。」
メイアは頭を切り飛ばすと、死体の尾を持ち血抜きを始めた。その彼女の足元には、血だまりができつつある。
護は獣人たちに、狼型で使えそうな部位を抜き出させ、腐敗させるように指示をだす。それから、護は『気配察知』に意識を注ぐ。騒ぎながらやっている獣人たちの声が、聞こえなくなるほどに、集中させていった。
時間が過ぎていく。そして、ラーが戻ってきた時に、結論は出た。
(やっぱり…俺たちが見ていない場所で生まれるようになっているかなぁ。原理は一切分からないけど。)
ラーが上空にいる間は全く出てこなかった。
また、再開した作業の途中でもう一匹ホーンラビットが生まれるだけに留まる。魔物が生まれると、魔力の濃度が薄くなっていくようで、全部を刈り取る頃には、ほとんど種を蒔く前と戻っていたので間違いない。
狼型五匹に、ホーンラビット二匹。それがほぼ一か月掛けてできた養殖場に現れた最初の魔物の数である。
「種を蒔いて、魔力を注ぐのに三日。それで、数食分あるかないか。毎日やっても苦しいか?」
「少ないですね…」
「あくまでこの場にいる全員でやるとしたら、だ。拠点にいる全員ですれば伸ばせる。」
「そうしますと、他のことが滞ります。」
「ああ。」
護は再び思案に耽る。
色々と検証しなければならない。文献にはもっと強力な魔物が生まれていた筈だ。出てくる魔物を巨体にし、レベル上げができるほど、強くしなければ。
魔力の濃さがヒントだ。樹海深部の浅層程度の魔力では、狼型やホーンラビットなどの弱い魔物しか出てこないのだろう。ならば、中層ほどの魔力があるとしたら、どうなるのか?
「問題は…」
護は刈り取った一本を手にする。ぼんやりと輝くその茎は魔力を帯びていた。これを砂に混ぜ込めば、魔力の濃度が増えるかもしれない。しかし、そのまま混ぜ込むだけでは魔物がその場で生まれることになりそうだ。全体を監視できるようにしないと、溜めることができない。ラーだけに任せるのは現実的に不可能だった。
「拠点から見張り役を…しっかりとした見張り台を立てるべきか。後、見張り役には夜目が利く猫人を中心に組めば夜もいけるか?ただ、負担がどうしても増えてしまうな。」
拠点から見下ろすには砂防林など視界を塞ぐものがある。砂防林と育てているところの間の砂地に見張り台を建設することが先になりそうだ。
夜も見張らなければならない。植物自体が発する燐光で全体が視認できるのであれば、猫人だけで監視する必要はなくなる。これは確かめてみないと分からない。
とりあえず、獣人たちが作業を終えて集まってきたので、思考の渦から抜け出す。
「種だけ蒔き直して今日は終わりにしよう。刈り取ったやつは俺に渡してくれ。」
『了解!』
魔物が出て来たからか、二割増しで動く獣人たち。護は苦笑するしかなかった。
その夜、エトリアと二人で見張り台を早速建て、その日は見張り台で夜をメイアたちと過ごした。セレスの新作の魔道具があり、極寒の中でも快適に。また、残された残骸から燐光が発生し、地面が光るという興味をそそられる光景を見ることもでき、心配事が一つ減るのであった。
日を跨いで、日が照りつけ始める頃、護は歩き続けていた。
『こっちに来てよかったのですかワン?』
「農地組は今朝言った通りだからな。とりあえず、こっちの作業が終わらない限り、地道にやっていくしかないんだ。」
『俺もこっちに呼ばれたのは何故ワン?』
「こっちで肥やしを作るつもりだからな。二人ならもう少し速くできる。」
腐属性を使えるようになった犬人のルシを連れて、外縁部で砂防林を育てている班に同行している。
狩猟組も加わって三十人ほどと大所帯で移動している割に、その足取りは軽く、もう作業を中断している場所まで来ていた。少し視線を横に飛ばすと、これまでの砂防林と壁も視認できる。
(今更ではあるけど、砂防林に壁…よっぽどの嵐が来ないと壁の手前で砂が止まっている感じなんだよなぁ。)
もしかして林にする必要はなかったのでは、という疑念が頭をよぎったが、壊れる度に直す必要がある壁に比べると、砂防林は、時間はかかるが勝手に代わりが育つ。
壁を補助に幅を厚くしていけば、壁もほとんどいらなくなるだろう。
『マモ、準備ができたワン!』
「早速やっていこう。」
魔物死体の下処理は終わっている。後は腐敗させボロボロにするだけだ。
護とルシが『ディケイ』を発動している最中、少し離れたところで、壁を作成している面子が見える。砂を堀り上げ、土魔法で固めるだけによって、魔力の消費を抑えていた。
セレスとエトリアが不在の中、持続的にするには、この方法が一番いいらしい。最初聞いたときは、顎が外れるかと思ったほどだ。しかし、見ていると、あっという間に彼らの身体が沈んでいっている。
「終わったぞ。」
『今度は、我らの番ワン』
種をばらまき、水を撒くとたちまち芽が出始める。護たちの傍で待機していた三人が風の刃でいらないものを切り裂き倒す。慣れてきた彼らの選択に、迷いはない。
魔力の回復を待つ護は、掘っている女犬人と代わる。土だけでできたショベルはやはり重い。
「これぐらいなら、消耗とは言わないか。『クリエイト』」
護は中が空洞の土の柄をまず作成し、先にかけて尖るタイプの面を土で作った。
試しに砂に突き刺して上げてみる。かなりの重量がかかっているが、折れる様子はない。
自分の身長より高い壁の上に砂を飛ばしていく。高いSTRの賜物だ。
足で押し込んでは飛ばし、足で押し込んでは飛ばし…
たまに失敗して、砂を被ることもしばしば。何より、上手く力を伝えられず、砂があらぬ方向に飛ぶこともあった。
「あまり効率がよくないな…」
護は形状を変更、先まで平面にし淵が内側に沿って落ちないようにする。さらに、投げ方も工夫し、砂を被らない投げ方を探っていく。
一回目、魔力が回復するまでにはコツを掴めなかった。
二回目、少しだけ要領を掴んだ。
三回目、ほとんど獣人たちと変わらない速度で掘り始めた護に、周りがドン引きか賞賛の目を向ける。
そして、四回目…
「族長、いつまでやるの?」
「ん?ああ、もうこんな時間か。」
トヴァに呆れた様子でそう言われて、護は正気に戻る。
もうそろそろ終わりにしないと日が暮れそうだった。どうやら、没頭しすぎていたらしい。
「ああ、撤収しよう。」
「穴掘り楽しいの?」
「…」
護は顔を背ける。トヴァの無機質な視線が痛い。
それから数日、腐植させては穴を掘りという作業が進んで行く。そこに、農地にいたメンバーも呼んで、加わり、探索組も、一日で戻って来られるか怪しい距離まで探索が進んだということで、こちらに加わったことで、作業が加速していく。
さらに…
「護さん、ごめんなさい!」
「?」
「継続的に結界を張る魔石は、やっぱり大きくないと…無理そうです。」
護たちでも苦戦する大きい魔物の魔石は中々出てこない。サソリ型の老生したものが釣り合うかどうかの魔石だ。護もほとんど持ち合わせていないので、できなくても仕方ない。
護は何度も謝ってくるセレスの頭を優しく撫でて、抱きしめる。
「セレス、一旦、魔道具を作るのを止めて、こっちの作業に加わらないか?」
「いいんですか?」
「セレスの力が必要なんだ。」
残り三割の壁は、無いもの同然だった。万里の長城ごとく長い壁が一気にできた時は、護も目を瞬かせる。ふらっと歩くセレスを抱きしめて褒めると、とても顔を真っ赤にしながら喜んでいた。
また、ミゥがついに腐属性を習得した。要求はしてこなかった…何か言おうとしたのを急にやめて、どこかに走り去ってしまったのだ。ミゥの視線の先には誰もいない…いや、いたのだろう。
作れる腐食の量が増え、砂防林の整備も拍車がかかり、どんどん進んでいく。そして…
「まさか、終わってしまうとは…」
さらに、数日後。護の手には記録が描かれた石板が。それは始点の石板、鳥の22。その石柱の前にいる。
そして目の前には繋がっている壁と砂防林が。
更に壁の強化といった形でやることは残っているが、終わったのだ。
「これで専念できる。」
「マモ、食料が減ってきた。狩りにいかせてよ。」
護の隣について来ていたシィがそう言う。ほとんど迎撃でしか魔物を狩っていない。食料が減ってきて当然だった。
頭の片隅に置いていたことを言われ、護は二つ返事で反応してしまった。
「そうだな、採ってほしい植物もある。」
「やった!ガンドルフ爺ちゃんに言ってくるね。」
シィが走り出した。尻尾をとても振っているところをみると、非常に嬉しいらしい。
同行してきた彼女の目的は、許可をとるためだけだったようだ。いつもは嫌そうな顔をしてくるのに、今日は露骨に機嫌がよかったところを鑑みると、苦笑を浮かべるしかない。
「食料か…」
護も走り出しつつ、思案に耽る。やはりシィたちには狩りに出かけてもらった方がよいだろう。トヴァがいるので、ほぼ確実に成果をあげることができるし、損耗も最低限だ。
養殖で中層の魔力を再現するには、多大な魔力がいる。相談の結果、調査組は一旦解体し、ガンドルフとエトリアの判断で、狩猟組と農地組にそれぞれ割り振られていた。農地組は新たに加わった者を含めて計二十名になる。
シィたち狩猟組が出掛ける間、外縁部の修復は農地組に回ってくることになるので、そちらへ人を割くとなると、今までの人数と変わらない人数で活動しなければならない。
(一気に魔力注いでやる方法は無理そうだな…)
最大効率の方法は、大人数で魔力を注ぎ、一気にサイクルを回すことだ。どんどん土にすきこんでいき、新しいものを生やしていく。新個体が出る度に魔力を新しく注げば、その場の魔力濃度もそれに比例するように上がっていくはずだ。
ただ、注ぐ速度が遅いと前の個体が吸収した魔力を利用してしまうため、その速度を超える必要はある。
(やるには人数が足りない。やっぱり地道にやっていくしかないかなぁ。)
人数不足という解決困難の問題が出るので、この考えは放棄。
次に、今までと同じ方法、実がとれる状態になれば刈りこみ、『アイテムボックス』にため込む方法だ。こつこつと葉や枝を回収していき、一気に解放することで魔力濃度をあげるというもの。
護たちの『アイテムボックス』という制限はある。しかし、護の『アイテムボックス』は武器、日用品、天幕、素材などを入れてもまだまだ余裕があって、おそらくだが、実行可能なほど空きがある。
(日数はどうしてもかかってしまう。こればかりはしょうがない。後は…)
ずっと監視を続けるというのは難しく、目を離している隙に魔物が発生してしまうことがあった。飽きと睡魔が襲ってくるので、その解決方法も考えなければならない、
(目を離さず、暇を潰せるもの…。ガムでも作れればなぁ。硬くなった干し肉で代用するか?)
仲間との会話だけでは限界があるだろう。夜に間食とは…女性陣を敵に回しそうだが、そもそも動き回っているので、太ることはないかと思う護だった。
限りある食料、オリーと相談することを決める。
(この選択肢もあるんだっけ?)
砂防林の拡張。シィたちが出払っている間、今ある農地は放置し、隣に新たな畑(仮)を作る。そこにはシィたちに頼んだものを植える予定だ。
当然、土の改変は必要。肥やしは外縁部に出てもらった農地組のもので賄う。余剰があれば、内部もすきこみ、直ぐに植えられる体制が好ましい。
(…できそうだな。この二つ組み合わせられないか?)
適当に放っておいても、マジック・ププレアは育つ。それは護が外縁部完成に力を注いでいる時に判明していることだった。
普段は外縁部に見張り役以外を全員行かせ、もし戻ってきた際、余裕がある時に魔力を注ぎ、刈り取って回収。余裕がない場合は、放置。また、魔物が狩れればそれを肥やしにして、新規を作ればいい。新規を作るメンバーは、普段拠点で活動している仲間に手伝ってもらう。人が減ることでできる自由な時間をとってしまう罪悪感はある。そこは向こうの様子を窺いながらになるだろう。
(お、意外に悪くないな?判断すべき俺の負担が大きくなった気もするが。)
獣人たちの状況を上手く見極めないと、潰れてしまうような重労働になりそうだ。
護が意識を思考から戻すと、拠点が見え始めていた。メイアたちに相談するため、護は足を速めるのであった。
その翌日、早速、狩猟組は樹海樹林まで数日の旅に出発し、護は農地組を連れて、外縁部まで来ていた。壊された壁の修復中に魔物はやってくる。
「マモっ!」
「散開しろ!ブレスが来る!」
超高圧の水のブレスが地面を削っていく。
目の前には保護色となる砂と同じ色をした、蛙型がいた。背の高い砂防林と同じ大きさで、脚力は巨体に関わらず飛び跳ねられるようだ。そして、その重量を活かして押しつぶしにくる。おまけに水のブレスも吐いてくるので、性質が悪い。
『柔らかいのに刺さらないワン!』
『マモのボールみたい!』
弾力のある皮。剣や槍、矢のような尖った攻撃でも、刺さりにくく、獣人たちは苦戦していた。
『おりゃぁ!!』
ゲコゥ!
フルスイング。女犬人の槌による一撃が蛙型を大きく凹ませて、ダメージを与える。
口が空いたところにすかさず、ミゥが矢を叩きこんだ。矢尻に込められた風が蛙型を内部から切り刻む。蛙型から苦しみに呻く声と血が吐き出される。
『もういっちょぉ!!』
「『サンド・ウォール』」
『マモ!?』
追撃しようと加速する女犬人の進路を塞ぐように砂の壁を作る。思わずぶつかった彼女が悲鳴まじりに驚きの声をあげた。そこへ水の槍が突き刺さり、壁が砕け散る。女犬人はその様子を見て、慌てながらも続いて迫る次弾を躱していった。
蛙型の周りには水が浮いており、それが水の槍となって護たちも襲い始めた。
『これじゃ、近づけないワン!!』
『魔法を!』
一定の距離に限定しているのか、ある程度離れると撃ってこない。その距離まで離れ、魔法を浴びせるが、土魔法による砲弾や槍は効果が薄い。
蛙型は距離を詰めようと飛び跳ねてくる。位置取りに失敗すると折角作り上げた壁が削れそうだ。
護の判断は早かった。
「MP切れを狙う!俺と一緒に飛び込んでくれる奴は!」
『俺がやるにゃー』
男猫人の二人で、護は相手の射程圏内に飛び込んだ。護は『守護』を発動、《レンジャー》の男犬人は土の矢を連射し、空中に浮かぶ水を撃ち落としていく。狙いが護に移り、蛙型の足が止まった。
右からの水槍を魔力の刃で切り払う。次は背後からの一撃をしゃがみ、砂からの奇襲は、半身をずらす。
「『日閃』」
ジュワッ!!
「!」
水の合間を縫った灼熱の攻撃は、表面に張られている水のバリアで防がれた。それでも、深い火傷を負わせていた。脅威に感じた蛙型は、男犬人に使っていた魔力を自身の防御に回し、護から距離を取ろうとする。距離は詰めさせないと水の魔法の弾幕つきだ。
風の結界でそれを凌ぎきった。そのタイミングで戦槌を持った女犬人が動く。
『今度こそ!『インパクト』!!」
背後から二度目のフルスイング。スキルで上乗せされた威力は水の防御を打ち払い、本体に直撃し転がらせる。
また、魔法で作られた戦槌が折れ、女犬人から悲鳴があがった。
「『日』…!!」
転がる蛙型から視線を感じ、護は飛びのいた。その場所には高圧のブレスが飛ぶ。
再びブレスを放とうと口を開く。護が動く前に、ミゥが再び口の中へ矢を打ち込み、暴発させた。
血を吐き出す蛙型の動きが止まり、残っていた漂う水も地面に落ちた。チャンスだ。
『上手くできていたのに~!!くたばりやがれ!!』
三度目のフルスイング。怒りと共に作り直された槌が蛙型の頭に振り下ろされた。砂埃が舞い上がると共に、地面に巨体がのめり込む。これでも、まだLPが残っている。
「『日閃』」
とどめは護の十八番。蛙型に光が一瞬入ったかと思うと、真っ二つに割れ、焼けた匂いが漂う。
戦闘が終わり、気を抜いているところに遠くで砂埃が舞った。『気配察知』にも追加が引っ掛かる。
「作っているときには出てこないのに、完成してから出てくるとは…」
『大量だにゃぁ』
『交代するワン、ミゥ。』
『えー』
『決まりワン。マモ殿も。』
「そうさせてもらうか。頼んだリーダー。ほら、いくぞ。」
『任せるワン』
蛙型を『アイテムボックス』に回収し、リーダーたちと入れ替わる。シィも護に頭を撫でられたことで、動き出した。壁と堀を飛び越え、砂防林の影で腰を下ろす。
『マモ、この調子だと昼までに帰れないワン』
「そうだな。メイアを呼んでくれるか。」
『分かったワン』
頼みを受けた犬人が拠点に戻っていく。
水を飲んだ護は壁へと駆け上がって、リーダーの戦闘を観察する。
(魔物の数が多い。それにここら辺では見られなかった種類が襲い掛かってきている。)
今度は蛇型だ。エトリアたちが北を探索している際に、戦闘しているが、この周辺には現れたことがない。
初見の護は不安がよぎるが、直ぐに消えた。戦闘そのものは安定している。リーダーが上手く指揮をとり、攻撃のタイミングを調製して相手の攻撃を躱したり、自分たちの攻撃が競合しないようにしていた。そして、しばらくもしないうちに討伐してしまった。
「またか…初日から勘弁してほしいぞ。」
少しずれたところに、また魔物が引っ掛かる。休んでいる獣人たちに声をかけ、護は惹きつけるためにその場所に走り出した。
それから時間が過ぎて、夜、護はミゥ、リーダー、メイアの四人で話していた。
「今日だけで四十二。今まででもここまで多い数、会敵したことはないんだよな?」
「普段がやり過ごしたり、見逃したりしている分、少ないだけかもしれないでござる。ただ、それでも倍は異常でござるよ。」
「これだと計画変更だな…」
「セレスさんにお願いして、肥やしの下準備はできます。後は護様やミゥ次第で、こちらでも作業できますが…」
「戦闘の頻度を考えると、ミゥか護の代わりに、メイア殿が入ると良いと思われるでござる。」
日が出ている間は魔物の討伐に追われ続けた。帰ってくる頃には全員が疲労困憊で、他のことをする気にはなれなかった。解体はオリーや職人たちに丸投げしようという話でまとまった状態だ。
マジック・ププレアの世話など、できる筈もない。計画は変更するべきかというところで、メイアとリーダーが可能だと示してくる。
「俺とルシが残ればいいか。とりあえず、魔物の襲撃の頻度が下がるまではしっかり夜は休んでもらうしかないな。この状況で無理は死に繋がる。」
「かしこまりました。」
「了承でござる。」
「分かったよー」
翌日からは、護とルシが拠点でひたすら魔物の死体を腐植させていき、メイアとミゥ、リーダーは魔物を狩るという状況になった。それはガンドルフたちが戻るまで続いた。
その間に判明および変化したことは三つ。
(一つ目は、魔物の襲撃は北から東に集中していること。)
原因は不明だが、魔物が長距離移動してきているようだ。建てた柱がどれほど倒れているのか…調査組だったメンバーが発狂しそうになるのは間違いないだろう。とにかく、方角は決まっていた。襲撃してくる魔物は比較的強い部類に入る奴が多く、対処したメンバーによってはレベルが上がった者もいる。
また、深い傷を負ったり、武器が刺さったりしていた魔物にも遭遇したらしい。
北は他の獣人たちの領域…護は何が起こってもおかしくないと、報告に目を凝らしている毎日が続いている。
(二つ目、農地については…)
四割。それが、セレスたちが協力の元、砂防林の整備で進行した割合だ。マツの高さは本来の半分以下しかないが、かなり密度がある。というのも、間伐などやる労力がなかっただけだ。堀などの作成はセレスがやったため、ほとんど労力がかかっていない。
協力の見返りとして、護はセレスと二人で、一夜見張り台でスリリングな夜を楽しむことに。翌日の護の目の下には隈ができていて、セレスは満足そうにしていたらしい。
ちなみに、獣人たちは戦闘三昧だったため、養殖場はやはりほぼ放置するしかなかった。
(で、三つ目がなぁ…)
メイアとミゥが騒ぎを起こした。以前なら甘えてくるところで、身を引いているミゥと、気配をわざわざ消して護に悟らせないようにミゥを監視していたメイアの間でトラブルがあったことは知っている。護は敢えて何も言わなかったことだが、火が付いた。
アン経由でスライムたちからドームで言い争いから戦闘に発展していると聞いて、向かうと、ミゥを右腕を折って、背中に馬乗りしているメイアがいた。能面だったメイアの顔がたちまち、気不味いものに変わっていったのを、覚えている。
ミゥの怪我を癒し、サンドスライムにドームの修復を頼んだところで、メイアとミゥの二人から事情を聞く。護が眠っている際に、二人の間でルールを定めたようだ。ようするに、メイアにミゥが勝てば、護にずっと甘えてもいい、と。
(……怖い……)
自分が景品にされているところは置いておくとして、二人の実力だと、ヒートアップした際に被害が尋常ではない。そもそも、本気の戦闘になっているため、メイアは容赦なく短剣で切り裂いたり骨を折ったりするし、ミゥはゼロ距離からの風の矢を放とうとしていた。このまま続けると、冗談抜きで、どちらかが死んでもおかしくはなかった。
(…二人が納得してくれてよかった。)
戦闘は護がきっぱり「ノー」と叩きつけたため、禁止に。代わりに奉仕合戦が起こりそうになった。これは護がげっそりしてしまう。その代案として、娯楽で決着をつけてもらうことにした。
ボードゲームで定番のチェス。駒を見せると、反応が真っ二つに割れて面白かったが、ルールを説明しだすと、二人とも真剣に。護は二人にセットを一つずつ渡し、決着の時まで色々と試行錯誤するように言った。それから、しばしば駒が動く音が鳴るようになった。
(後はなぁ…)
護はミゥを遠ざける理由をメイアに聞いた。その答えは…
「無邪気に護様に近づこうとする彼女が嫌いなだけです。護様に好意を向けているのは、分かっています。護様が微妙な距離を取られていることも。…私は貴方との時間を盗られたくない!」
「…」
「あなたと傍に居ると、本当に大変で、でも、刺激に満ちていて、楽しいのです。私たちに向けてくれているあなたの感情も、本物だと思えるから嬉しいのです。」
「…」
「あなたの隣を独り占めはできないけれど、ずっと居たいのです。セレスさんの時や、アンやライラ様の時は、受け入れられる自分がいました。でも…」
「メイア…」
「勝負の結果がどんなものになったとしても、護様は受け入れてくださいますか?私も受け入れます。」
「苦しむことはしなくていい。俺は、メイアが大事だ。ミゥのことで苦しむなら、俺は…」
「…それは止めてください。決着は私が決めます。」
涙が浮かんでいる。聞かなければ、良かったかもしれないと後悔の念がよぎった。
メイアが自身での決着を望んでいる以上、護は何も言えない。ただ、彼女の望むように口づけを交わすしかなかった。
以上、三つが護の記憶に残っていることになる。狩猟組が帰って来てからも、護はため息を吐く暇もなく、変わり続ける状況に対処し続けていっている。
ちなみに、護は異世界版のチェスもどきがあると、セレスたちから聞き、それについても作成中だ。
~養殖場~
「全員揃ったか。」
養殖場には、農地組、狩猟組が集まっていた。巡回組に割り振られたものは、ガンドルフとエトリアに率いられて、外縁部に向かっている。
疲れが出ている者も多く、休ませたいが、その当人たちは、今からやることへの期待が大きいようで、目を輝かせている。言っても聞かなさそうである。
「今いる面子で、魔力を注ぎまくるぞ。揺すると、種は落ちて自然に発芽するから無視していい。とりあえず、その状態になったら、刈っていけ!!」
『マモ、空いてる時間は?』
「今日は特別だ。好きにしていいぞ!ただし、眠い奴はしっかり眠れ!」
『おう!』『は~い!』
放置された紫色の草は、膝ほどしかなかった。それが大人数の魔力によって一気に成長していく。
できたものは、強く揺すって種を落としてから、武器やナイフで刈り取って、『アイテムボックス』に仕舞いこむ。乱雑にしているので、残骸が散らばるが気にしない。
魔力を注ぎきった獣人たちは、それぞれの行動をとり始めた。魔力が回復しては、再び戻って来て、注ぎ、刈込み作業をする。そして、護の『アイテムボックス』に仕舞われる。その繰り返しだ。
それは夕方まで続く。気づけば、ガンドルフたちが戻ってくる頃になった。
「さぁ、解放するぞ。」
『見たことがない魔物がでてほしいにゃ!』
その時点で護の『アイテムボックス』に溜まった残骸を吐き出していく。積み重ならないよう、応援にきたセレスと他の獣人が土魔法で、混ぜ込んでいく。
全てを混ぜ込み、駄目押しの『ディケイ』を発動。腐敗と同時に魔力濃度が一気に高まっていく。その濃度は中層より少し濃い。
そして、全員が目を逸らした時、その魔物は産まれた。
モオオォォォォォオン!!
立派な双角を持つ牛型。その名も、ホーンカゥ。Lv49。
体長は、三メートルは余裕であり、その体格は見るだけで猛者を想像させる。…致命的な問題がなければ。
「ねぇ、転んだよ?」
「もがいているわねぇ。起きあがれないのかしら。」
「足が完全に地面に埋もれてやがる。」
足元を泥にするまでもなく、動けなくなっていた。
土は改良しつつも、まだ砂だ。あまりの重さで登場した際から足が地面に沈んでいた訳だが、動かした際にバランスを崩し、転倒していた。必死にもがくが、立ち上がる様子はない。
「あー、ひと思いに首を刈ってしまおう。」
どこかあった熱狂は冷めた。疲れがどっと押し寄せたのか、へたり込む獣人もいる。
ジタバタしていて危ないので、護の『日閃』で首へと一筋。それで哀れな牛型の命は消えた。
(結果は成功。このサイズの魔物が出てくれば結構持たせられる。ただ、魔力がほとんどなくなった。追加の魔物が出るか微妙な状態だな。)
護は牛型を『アイテムボックス』に仕舞い込むと、撤収の指示を出す。それから、今日の見張り役に注意と試作のスネークジャーキーを渡して、拠点に戻るのであった。
なんちゃってQ&Aはお休みとします。
補足 チェスを見た時のメイアとミゥの反応。
メイア いつものポーカーフェイス。視線だけ、戦闘時と似たような状況に。
ミゥ 興味津々で、駒を色々回したり、触ってみたり。目が輝いていた。




