変化~次のステージへ~
……
~農場あらため養殖場~
「よし、これで次に進めるな!」
護は砂防林と堀に四方を囲まれたその内側の中央に立ち、そう告げた。強い日差しが照り付けるが、それが気にならないほど、嬉しさがこみあげてくる。
他の獣人たちもそれぞれ叫んだり、笑ったりして喜んでいた。
「思ったより早くできたな。大分綺麗にできているし。」
「マモー?」
背後から声をかけて来たのはミゥだ。耳や尾が若干、萎れている。
暑さが辛いのかと思った護は、木陰に入るように指示を出した。
獣人たちが動く中、ミゥは護の腕を掴み引き留める。どうやら、暑い訳ではなかったようだ。
「どうしたんだ?」
「別に…何でもないのー」
そう言って他の獣人たちの元へと走り去ってしまった。
(一体、何だったんだ?)
ミゥの謎の行動はともかく、護は意識を切り替える。
これからが本番と言っても過言ではない。とりあえず、マジック・ププレア、魔力回復薬の素材となる植物を大量に育てていくのだ。一鉢分だけ試してみて、開花、結実までどれだけの量の魔力が必要なのかも分かった。
(さて、樹海深部に比べると魔力の量が明らかに少ないからなぁ。それに、日の光に弱かったとかだったら目も当てらないし。)
数日間では、特に問題なさそうだった。とはいえ、それが数十日になると分からない。
まだ太陽は頭上で照らしている。護は休む獣人たちの元へと駆け寄る。
「ありがとう。予想よりも早く進んだ。ミゥたちの頑張りのおかげだと思っている。」
『急にどうしたにゃ。照れるにゃ』
『そうだワン。もしかして、次にやることの方がしんどいのかワン?』
「いや、こっちの方が簡単だ。」
護は土魔法で作った鉢を『アイテムボックス』から取り出す。丁度、人数分だ。
それを一人一人に渡していく。
「とりあえず、林の世話はしばらくしない。これからやるのは、種を増やす作業だ。」
護は近くの土を魔法で盛り上げたかと思うと、下の方に一部だけ土が流れるといを作り、出口に鉢を置く。といに流れこむように固めていた魔法を解除する。すると、鉢に土が流れ始め、たちまち鉢の中は土で一杯になった。
護は袋から種を一つまみし、鉢の土の上に適当にばらまく。そして、魔力を流し始めた。
『おおっ!』
『凄いにゃ!一気に大きくなったにゃ!あの木みたいにゃ!』
獣人たちから歓声や驚きの声があがる。種から双葉がひょこと出たかと思うと、一気に背丈を伸ばしていく。護の腰と同じ高さになり、穂が出て花が咲いた。そして、たちまち実に変わっていった。よく見ると、植物全体から淡い光が発している。
護は近くのマツの幹に腰を下ろす。ほとんどの魔力を注いだせいか、疲労感がある。
疲れで説明を投げ出したい欲求を堪え、護は説明を続ける。
「だいたい、実がつくまでMPが700いる。」
「700!?」
『無理にゃ。そんなにないにゃ』
獣人たちから悲鳴があがる。彼らは戦士。比較的魔法が得意だからと言って、魔法使いではないのだから。
護は彼らを宥める。それでも、中々落ち着かないので、殺気を飛ばし黙らせた。
「いいか、別に俺みたいに一気にやれとは言わない。出来る限り魔力を注いだら、休んで、回復したら休んでの繰り返しでいい。」
『それでいいのかにゃ?』
「ああ。それでも、今日中には十分な量ができる。」
『マモ、魔力を回復させている間は何をすればいいかワン?』
「うーん、そうだな…」
護は悩む。正直、何でもいい。遊んでもいいのだが…
獣人たちの視線が集まる。何を期待しているのか、大体分かる護は仮面を外し、にっこり笑う。
「砂防林の剪定と、堀や貯水池の見回り、後は拠点の中で働いている仲間の手伝いをしてくれ。」
『え~』
「文句はなしだ。鉢にしたからその場に持って行ってもいいぞ。実ができたらここにやって来てくれ。俺は今日はここにいるつもりだ。」
『了解~』
ミゥなど土魔法に慣れている者は護と似たような方法をとり、慣れていない者には、以前作ったショベルを渡す。
それぞれ鉢に種をばらまき、今ある魔力を注ぐ。疲れで気怠そうにしながらも、鉢を持って散らばっていった。
その場に残ったのは、ラーとミゥだけだ。
「あの~。私はどうしたらいいでしょうか?」
「ん?」
「碌に料理とかしたことがないんです。」
「裁縫とかは?」
「少しだけ。でも、布も道具もありませんし。」
「メイアが持っていたとは思うが…」
「残念ですが、ラーさんでも使える素材はないですね。」
「…こっちに来ていたのか。」
二人でやりとりしていたところに、メイアが加わる。服に関しては、彼女が一日の長で、ほとんどやっている。その当人に無理だと言われてしまった。
ラーは肩を落とす。すぐ油断すると居場所がなくなってしまう。活躍できることを見つけた分、辛いのだろう。
「まぁ、適材適所という言葉があるからなぁ。せっかくだから、資料のまとめ方とか、色々やってみるか。『書記』だし。」
「え、時間を割いてくれるのですか?」
「俺よりメイアの方が経験がある分、よく扱いてもらえるぞ。今は役に立たないが、これからやることに必要だ。…例えば、戸籍とか?」
「こせき?」
護自身が首を傾げる。普段の生活で戸籍が登場することは高校生だった彼には、ほぼ無かった。あったとすれば、歴史の授業ぐらいか。
「私も初めて聞く言葉ですね…。貴族台帳と呼ばれるものや、民台帳と呼ばれるものはあります。」
「多分、似たようなものだと思うぞ。」
護は自分が知っている内容をメイアの知識と照らし合わせる。基本はほぼ同じで、違いは貴族台帳は王が管理し、民台帳は、それぞれの貴族が管理しているところだ。
さらに、冒険者は定住地を持ち合わせていない場合が多いので、管理が別になっている。
「石板で管理ができるかどうか…利便性には欠けますが、できないことは無いでしょう。護様は税や兵力の徴収をお考えで?」
「規模が大きくなってきたらな。今は顔見知りで、済んでいるから問題ない。」
「ほぇ、あの…戦争にまた駆り出されたりとかは…」
「兵力」という言葉が出て来たことで、ラーが怯える。戦争に駆り出されるのは勘弁してほしいと体を震わしていた。
護は優しく笑った。軽くラーの肩を叩く。
「王次第だ。大きくなっていく過程で戦うことが避けられない場合もあるし、戦わずに済むこともある。少なくとも俺はエルフと戦わなくてもいいように、ラーたちと過ごすつもりだ。」
「王次第って、族長はあなたじゃないですか!」
「俺はずっとここにいる訳じゃない。いつかはここを離れるんだ。だから、ラー、色々と学んでほしい。俺はラーに戦闘力は求めない。もし、王が命令したとして、自分の戦場は違うって言える場所を見つけるんだ。」
「私に…できるでしょうか?見つけられるでしょうか?」
「望めば、きっとな。」
心配そうに見つめてくるラーに護は頷く。そして、ラーの瞳に光が灯ったような気がした。
メイアと目が合う。護が頷くと、メイアはラーを連れてこの場を離れていった。その代わり、近くの木にもたれて不満そうにしていたミゥが近寄ってくる。
「マモー。私に頼むことはないのー?」
「何かあったか?」
「変化薬。」
「!!」
護は思わず、記憶を探り始めた。いつ、どこで、話を聞かれていたのだろうか。
ミゥは伸ばした爪で、自分の手首を掻き切る。血がぽたぽたと地面に流れ落ちた。
「マモが強くなるのに、必要なんでしょー」
「いつ、聞いていたんだ。」
「ここに来て最初の頃。マモとメイが話しているのが聞こえたのー」
護は流れゆく血を見て、迂闊だったかと思うと同時に、渡りに船かもしれないと思う。
ミゥの言う通り、自分が強くなるには、因子を取り込まなければならない。どんどん人間から遠ざかることになり、懸念材料も無い訳ではないが…
また、ミゥの目は妖しく光っていた。木陰で暗いというのに。
「何が目的だ?」
「私でもよく分からないんだー。でも、こうしろって、何かに囁かれている感じがするのー」
見えない敵にでもミゥは操られているのだろうかと、ステータスを覗くが、そういう表示はない。つまり、彼女の意思だ。
血が止まってしまったのか、ミゥは残念そうにしながら、護に傷を見せてくる。
「血が止まっちゃったよー。私だって痛いんだよー?」
「あのな。急にそんなことを言われても、頭が働かない。どういうことなんだ、囁かれているって。」
「分かんないー。でも、マモといると、何なんだろ?その…マモとセレたちに当てられた時に近い?…ううん、もっとすごく惹かれる感じがするんだー」
「もっと分からなくなったんだが。」
「とにかく、私の血を食べてー」
ミゥは尖った犬歯で自分の唇を傷つける。血が再び滴り落ち始めた。
このままだと、護が飲むまで、彼女は血が止まる度に自傷行為に走り続けかねない。
護は『気配察知』で周りに誰もいないことを確認し、『アイテムボックス』から変化薬を取り出すと、口に含んだ。そこに、不意打ちでミゥの唇が重なる。
血と変化薬が混じった液体が二人の顎を伝っていく。
「「!!」」
ミゥは強烈な快楽とも恐怖とも思えるものが背筋を走り、足に力が入らなくなる。そして、一方的に、自分の何かが、奪われていると感じた。不思議なことに、嫌悪感が薄らぎ、快楽が支配する。
一方、護では、変化薬が体の中に入ると同時に、ミゥから何かが流れてくる感じがする。全身が熱く、身体に力が漲る。崩れ落ちそうになるミゥをしっかり抱きしめ、熱心にその何かを貪る。
前回は強制だった。エルフの因子を一方的に注ぎ込まれて、訳の分からないまま体を書き換えられたが、今回は違う。
どうなっているのかが、分かる。このままだとミゥが危ないことも。
「んんっ!」
ミゥに逆流しようとする変化薬の因子を全て飲み干し、護はミゥを解放した。気を失った彼女をそっと近くの幹に置き、ミゥのステータスを見る。
変化はほぼない。ただ一つ、追加されているもの以外は。
「くっ。」
一気に身体から力が抜ける。このままだとミゥに覆い被さる形で倒れてしまいそうだった。
明暗する視界の中、何とか別の幹に体を預け、意識を失った。
~???~
「ここは…」
白い空間。そして見上げるほどの大樹。
半人半精となる際にみたあの光で満ちた場所だった。
護は自分の身体を触る。不思議なことに耳は元に戻っており、髪の色も黒いようだ。
「どういうことなんだ?」
ニャァ
背後から猫の鳴き声がする。振り返ってみると、ミゥを彷彿させる腰ほどある大きな猫が一匹。
その猫は護を回り、大樹の元で丸くなった。
「一体、どういうことなんだ?」
再び呟かれた問い。困惑が護を支配する。
大樹と猫。それぞれは自分の中にある因子だと理解できる。だが、この空間ですべきことは分からない。
「二つとも、俺の中にあるんだよなぁ。」
護は歩き、すんなりと大樹と猫にたどり着いた。試練でもあるのかと身構えていたが、あまりにもあっさりしていて拍子抜けする。
気を取り直して、右手で大樹に、左手で猫に触れようとした。
「っ!!」
その両手は沈み込み、引き抜こうにも全身が痺れる。
耳の形が変わり、髪は深い緑に。そして、両腕には強靭な毛が。足も筋肉がもぞもぞと動き変わったような感じがする。未知の体験に護の身体は動かず、まともに考えられないまま、その変化が終わるのを待つしかなかった。。
しばらくして、変化が終わった時、護の腕は猫と大樹から引き抜く。
「はぁはぁ。」
何だったのか?ぐちゃぐちゃになっている思考を放棄し、その場にへたり込む。しばらく頭の中が真っ白になった後、落ち着きを取り戻した。
少なくとも、ここでやるべきことは終わった。直感がそう告げている。
さらに腕を引き込まれたときの感覚を思い出す。
「…」
大樹からは、世界樹と同じような雰囲気を感じた。エルフと世界樹は間違いなく密接に関係していると思われるから、おかしくはない。しかし、どういう関係、変遷を辿ったのかは、ここにある情報からは分からなかった。
そして猫からは…。ミゥの情報が少し。それは護からすると、恥ずかしさを覚えるものであると同時に、罪悪感を覚えずにはいられないものだった。
さらに、ミゥがああいう行動をとった原因も判明する。
「俺の魔力が原因とは…」
ミゥの大怪我を治療したのが事の発端のようだ。ミゥには変質した護の魔力が残っていた。本能回帰、距離が離れて活動する頻度の増加も相まって、彼女は護の傍にいないと何か物足りない感じがするようになっていたのだ。
そこに変化薬の話も加わって、今回の行動に繋がったようだった。
「頭を抱えたくなる。」
護の魔力も回収したから、喪失感に苛まれる可能性は低くなった。とはいえ、今までの記憶までが無くなった訳ではないし、今回の行動がなくなったわけではない。
そもそも、ミゥが懐いているのは彼女自身が元々抱えていた感情だ。
「はぁ…」
ヘタレていてもしょうがない。
メイアたちにどう説明するのかも考えなければならないし、ますますくっつくようになるだろうミゥに対して、どう接していくのかも。
「もうそろそろ時間か。」
耳に音が入りだす。自分を呼ぶ声はセレスあたりだろう。
周りが輝きだし、意識は再び現実へと戻りだした。
~養殖場~
「護さん、護さん!起きてください!」
セレスに体を揺さぶられて、意識を取り戻す。不思議と頭の中はすっきりしていた。自分に抱き着いて眠るミゥに気づくまでは。
顔が引き攣りそうになりながらも、様子を窺う。
セレスは心配そうにしていて、周りには獣人たちが実がとれる状態になったマジック・ププレアを持っている。
「心配したんですよ?…ずっと揺すり続けても、起きなかったんです。」
「そうか、心配かけた。すまない。」
「…ミゥさんに傷があったのですが…」
「それについては、後で説明する。…お~い、ミゥ、起きてくれ。」
護はセレスにだけ聞こえる声でそう伝え、ミゥを起こそうとするが、起きる気配がない。幸せそうに眠っているのは結構だが、起きてもらわないと抱きかかえてつれていくしかない。
「うん。駄目だな。……種の取り方なんだが…」
『マモ。ミゥと寝たのかワン?』
『ミゥと仲良しにゃ』
『うちらにも手を出すのかワン?』
興味津々といった感じで、聞いてくる獣人たち。一部の女獣人は顔を赤く染めている。
また…
『マモの匂いが変わったワン。』
『こんな匂いだったけ?』
種族が変化したことで疑問を持つ獣人たちも。
とりあえず、本日二度目の殺気を飛ばして黙らし、彼らに種のふるい方を教える。それから、ミゥを抱えて自分の部屋に護は一旦戻るのであった。
「おい、起きていただろ。」
「バレてたー?」
護の部屋で抱えていたミゥを投げる。空中で体勢を立て直し、上手く着地した彼女は、舌をチラッと見せて笑う。
おそらく、殺気を飛ばした時だ。ミゥの身体が一瞬震えていたから間違いない。
「セレ、傷を治してくれたんだねー。ありがとー」
「ミゥさん…私を盾にしても駄目ですよ?」
口では感謝を言いながらもセレスの背後に隠れる。しかし、鮮やかに今度はセレスがミゥの背後に回り、がっしり肩を掴んだ。セレスの視線は笑っていない。
振り払えるはずなのに、ミゥは体を震わせるだけだ。おまけに、涙目になっている。
「マモル様、お帰りなさい。」
「おや、護様、戻ってきていたのですか?」
アンとメイアが部屋に入ってきて、ミゥを捕まえたセレスに近づく護に声を掛ける。
「丁度いい。メイアたちに見てもらいたいものがあってな。」
「「「?」」」
ミゥに拳骨を下ろし、近くの椅子に腰を掛ける。右手を前にかざすと爪が伸びた。人本来よりも固く鋭い爪に、メイアたちは驚きを隠せない。
さらに腕をまくると、人のものとは思えない毛が生え揃っていた。
「まさか、その雌から…」
「そのまさかだ。」
「…事情を聞かせてもらっても?」
護の背中に冷たい汗が流れる。メイアから重圧が。
久しぶりの感覚に、言葉を間違えないように気をつけながら、護は説明し始めた。
結果だけを述べると、殺されなかった。激しく虐められることにはなったが。
~翌日~
「種を蒔くぞ。適当にばらまくだけでいい。歩ける場所は取るように。」
「族長、か、重なったりしないかは確認したほうがいいのでしょうか?」
「そうした方がいいか。ラー、空から頼む。」
目の下に隈を作っている護の指示で、獣人たちが後ろに下がりながら種をばらまく。
地球におけるゴミ袋(大)ほどの大きさの麻袋いっぱいにまで溜められた種がどんどん減っていく。昨日、メイアたちにおしおきを受けていた間もやっていたようだったし、訓練から帰って来て疲れている面子をフル活用して作らせたらしい。
ちなみに、鍛冶のために色々と準備しているモンが、部屋を追い出されたミゥの八つ当たりにあったらしく、気を失うほど魔力を注がさせたようである。当然、ミゥには罰として、三日間、遊びを禁止にした。
「護様、できました。」
「了解。『ディケイ』!」
獣人たちが種を蒔き始めてから、護は養殖場を離れ、隣の実験場で、メイアと二人で肥やしづくりをしていた。あまり大量にできないが、外縁部を囲む作業は続いている。雨が降ったあの日以来、壁と堀の作業も同時並行で行われているため、進みは遅くなっている。
また、魔物の被害が看過できないので、セレスには結界の作成を頼んでいるが、芳しくない。物理的に壁を高く、ぶ厚くして対処しているのが現状だ。
「魔力が切れた。一回休もう。」
「はい。」
様子を見る限り、大体半分だろうか。獣人たちは休むことなくばらまいていた。この調子だと、もう一度肥やしを作れるころには終わっているかもしれない。
木でつくられた器に注がれた水を飲み干す。連れて来たウェットスライムが空になった器に再び水を注いだ。その水面を護は静かに見つめる。
一気に増殖したウェットスライムを水魔法が使えない獣人たちに貸し出している。水分補給に必要な魔力を、攻撃に回せるようになったので、魔法を使う者から好評だった。一々ねだってくる仲間のうざったらしい声を聞かなくなって、ストレスも減ったとか。
「護様、眠そうですね。」
「眠らせてくれなかったのはメイアたちだぞ。体力も使わされたせいだ。」
「今日はゆっくり休まれてください。」
「そうする。」
護は軽く目を閉じた。たちまち睡魔が襲ってくる。被りを振って一回追い払うが、誘惑は再びやってきた。
メイアに視線を飛ばすと、彼女は微笑む。
誘惑のまま、再び目を閉じると護は眠りに落ちていった。
『…マモがさぼっているにゃー』
「さぼってはいませんよ、雌猫。休まれているだけです。」
しばらくして、一足先に種を蒔き終えたミゥとメイアが対峙していた。
眠る護に向けたミゥのジト目は、メイアが彼女の前に立ったことで塞がれる。
二人の視線が重なり、火花が飛び散っているようだ。
「ここでは、護様の眠りを邪魔になりそうです。場所を変えませんか?」
「いいよー」
そうして、二人が護を置いて離れていくのであった。
…………
どこからともなく起こる戦闘音が響き、獣人たちはその様子を恐る恐る見に行くことに。本気を出した暗殺者の一方的とも言える攻撃に、身体を震えあがらせ、絶対に逆らわないと心の中で誓う者が続出したらしい。
…………
「うん?何かあったのか?」
『こわか…何もなかったワン』
目覚めた護は、首を傾げる。何か言おうとした男犬人の視線が一瞬メイアに向いていた。
護が見てみると、いつものポーカーフェイスをしている彼女がいるだけで、よく分からない。ただ、獣人たちは怯えている。
疑問を心の中に押し込み、話し始めた。
「…これからやることなんだが、昨日とほぼ変わらない。魔力をひたすら注いでいく。」
『結構な量があるワン。一日じゃ終わらないワン』
「半分くらいでいい。徹夜でやると身が持たないだろ。」
「分かったです。」
獣人たちが散らばっていった。今日は日が暮れるまでこの作業が続いていくだろう。
「で、メイア。一体、何をしたんだ?」
「お話ですよ、ミゥさんと。」
「その時点で、ろくでもないだろ。本当に話だけなのか?」
「ええ。」
メイアは表情を変えることはなかった。
夜、ミゥが近づいてくることがなかったので、何かがあったのは間違いない。しかし、必要以上に聞くと、命の危険がありそうなので、追及することはできなかった。
二日後、養殖場はマジック・ププレアで生い茂り、樹海深部の浅層と変わらない濃度まで、魔力で満ちていた。そして、実などを収穫し、余計な部分を切り刻んでいる際に、そいつらは現れる。
「魔物が出たぞ!」
狼型の群れ。レベルは25~30。
彼らは一吠えすると、近くにいた女犬人に襲い掛かるのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:展開が…パワーアップイベントがさりげなく流れている…
A:強化する際に、気を失ってしまうからな。土壇場で強化する訳にもいかない。
Q:それはそうですけど。
A:…
といった感じでしょうか。護のステータス変化については、以降登場させます。




