第六章 プロローグ
お、思ったより…
~???~
『くそぅ!どっから、湧いてきたチュウ!』
「いやぁぁぁああ!」
「あはっ!」
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図。夜になると同時に逃げ惑う民は影から必死に逃げていた。
だが、その影は逃走を許さない。一人の背後に近づいたかと思うと、触れた。
「あぁ。あはははははっ!」
狂ったかのように笑い、最後はこと切れ、影に浮かぶ顔の一つになった。
『逃がす時間を稼げ!二番手と甘んじていた我らでないことを証明するチュウ!!』
『オオゥ!!』
逃げまどう民に代わり、そいつの前に立ちはだかるのは、様々な骨などを使った武器をもつ戦士たち。
それぞれが攻撃を加えていく。剣で切りかかり、魔法を放つ。洗練された動きと連携が彼らが精鋭であることを示していた。
しかし彼らの攻撃は、そこに実体がないかのように、通り過ぎて行く。唯一、光魔法だけが影の輪郭に刺さった。
オオオオォォォォォォオオオオ!!
『うぅ、これは!』
『嫌だ!死にたくないチュウ!』
叫びと共に、戦士たちが顔を歪める。武器を半狂乱のままに振るう者を現れ、場が混沌に包まれた。
大きな影は兵士たちの混乱を他所にその場で止まると、丸く縮まる。
その動作に隊長の警告する声が戦場に響く。ところが、動けたのは冷静さを保てた者のみ。
『あぁぁ!!あははははっ!!!』
「ちぃっ、半分がぁ、やられたぁ!」
影は半狂乱になっていた戦士たちを呑みこんだ。そして、戦士たちを元のままに、大きさを戻す。
残された戦士たちは触れた者たちと同じ末路を辿る。それぞれ武器を落とし、笑い転げた後、自ら影へと近づいていく。
さらに、止めようとした一人が、彼らに触れた途端、同じように発狂する。助けようにも助けられない。
そして、影に触れた者たちは吸収されていった。
『隊長、このままじゃ!』
『くそぉ、光魔法を覚えている者以外は撤退!民を避難させろ!』
『了解チュウ!』
隊長の指示で光魔法を持っていない者が離脱していく。影は自分に脅威を与える者に執着するようで、彼らには見向きもしない。
一人、魔法の発動を無視して襲い掛かってくる影に反応が遅れて、触れそうになった。隊長が体当たりで逸らし、他の者が魔法を当てて気を惹きつけて難を逃れる。
『助かりましたチュウ!』
『我らは時間稼ぎせねばならん!上手く負担を分散せねば!』
影の注意を散乱し、全体攻撃を誘発させないように一人にヘイトを上手く集めさせる。ギリギリまで惹きつけ、攻撃を回避。他の者が魔法を撃ってヘイトを変える。それの繰り返し。
(このままでは長く持たない!)
魔力が足りない。彼らは基本魔法が得意な訳ではないのだ。身体を動かすのが性に合っていて、頭の中で光や炎をイメージするのは苦手だった。
魔法をメインとする職に就いている者は少なく、加えて光魔法となると、ほとんどいない。
『きゃぁぁ!』
『くっ』
逃げ遅れた少女を抱きかかえて、間一髪離れる。
下ろすと、少女は逃げていった。魔法が途切れ途切れで一人にヘイトを集めきれない。
「あははははっ!」
一人やられた。ヘイトを集め損なり不意を突かれた形だ。さらに、不気味な瞬間移動をし始めた。
瞬間移動なんて、光魔法を十分当てている間はしてこなかったことだ。急に現れて触れる動きを躱すのは、『本能回帰』に目覚めていなければ、ほぼ運任せになる。
運が悪いことに、この場には目覚めるほど激情や修羅場を潜ってきた隊員はいない。
(どうするチュウ?このままだと全滅チュウ)
夜になってから現れた。暗闇がなければ現れないとすると、夜明けまで時間を稼げば、生き残れるかもしれない。しかし、夜明けまではまだまだ時間があり全滅する方が先だ。倒せるビジョンもない。…詰みだ。
隊長は覚悟を決める。周囲の視線に目配せすると、他の生き残った隊員たちは頷いた。
「頑張るぞぉ!死力を尽くすぅ!」
『おぅ!!』
できる限り、戦い続ける。ここを死地とし、戦士たちは魔法を使い続ける。
「た、隊長…あはははっ!」
「すまん!」
「アィ。今、お前の元に…あははっ!!」
「…」
次々と仲間が減っていく。一人吸収していく度に与えたダメージは回復し、光魔法を受け薄くなっていたところも、より濃い闇へとなっていった。
追い詰められ、隊長を含めあと五人。ほぼ魔力を使い切り、身体能力だけで鬼ごっこをするしかない。
「お前らはぁ、逃げろぉ」
「「「は?」」」
「ここはぁ、俺と隊長が惹きつけるぅ」
『嫌だ、俺も残るチュウ!』
『私たちも死ぬ覚悟はできてます!』
『どうして!』
若い男女三人を老兵は槍で突き飛ばす。転移し襲い掛かる影を間一髪で躱しながら老兵は笑った。
「いけぇ!!お前らならば、至るかもしれん!いつかこいつを討てる時まで逃げろぉ!」
『隊長命令だ、行け!光魔法を使える奴が全滅するのは不味い!逃げて逃げて民を安住の地まで、導け!』
『そんな!無理チュウ!』
『お前たちならできる!!いけぇ!!』
涙を流し、叫びながらも三人が離れていく。その背後へと影が飛ぼうとするが、かなりの魔力を注ぎ込んだ光の剣が貫いた。影のヘイトは老兵に戻り、何本もの黒い手を彼に伸ばす。
光を纏った槍でそれらを一掃し、三人の気配がなくなるまで、ありったけの魔法を打ち込み、気を引く。
MPが切れる前に、残った隊長が魔力回復薬を老兵に投げ渡す。一気に飲み干し、老兵は獰猛に笑う。
「結局はこうするつもりだったんだなぁ?」
『お前が言うか。俺がもっと早く逃がすべきだったんだよ。』
「それじゃぁ、動かねぇ奴ばっかりだろうよぉ」
『そうかもしれん。……おっと!』
隊長は剣に纏った光で影から伸ばされた手を切り裂いた。同じ方向に立つ二人に何本もの影の手を伸ばしてくるのを捌きながら、二人の会話は続く。
「で、俺たち二人じゃ、長くはもたないぞぉ」
『どうする?東に動くか?』
「こいつがどこから来たかさえ、分かればなぁ、そっちに誘導できるんだがぁ」
『急に村の真ん中に現れたから分からん。とにかくあいつらとは反対方向に惹きつけるぞ。』
猛攻をしのぎながら、少しずつ後ろに下がっていく二人。大きく距離を開ければ、影は瞬間移動を行ってくる。一歩、さらに一歩と歩くしかない。
長年に渡って、生き残り続けた二人の連携は完璧だった。そう何本も残っていない魔力回復薬を隊長が老兵に投げ渡し、老兵が剣に光を付す。このタイミングが絶妙で相手をよく知らなければ、長く戦闘を続けることはできなかっただろう。
いつの間にか村落を抜け、他の魔物が影の餌食になっていった。また、二人に襲い掛かってくる奴らをぶつければ時間稼ぎにはなった。上手くやれば瞬間移動してきた影の攻撃を魔物を壁にすることもできた。
それでも限界はやってくる。
「お先にぃ。」
『あの世でな。』
老兵が躱し損ねた。発狂し、影に取り込まれていく。
そして、隊長は一気に距離を取り始める。視界の端に映った星は戦い始めた頃から地平線に沈み始めている。それでも、まだ夜明けは来ない。
砂に足を取られてこける。極度に集中して躱し、攻撃をしていた身体はとっくに限界を迎えていた。意地で、迫りくる手を躱す。しかし、そこまでだった。
起きあがろうにも、起きあがる暇もなく、ここで隊長も影に触れた。
「あはあはははははっ!!!」
頭に流れてくる。地獄。その言葉が相応しかった。
身体が無くなる感覚、吹き飛ぶ苦痛、貫かれる苦痛、潰される苦痛。耐えられない苦痛と、相手を殺す快楽。ほかにも様々。獣人、エルフは関係ない。この影は自分が知らないあの戦いの感情だ。
目覚めていた隊長は、発狂する寸前理解する。核となっているものはそれらとは一線を画す憎悪。それも自分たちを恨むもの。
笑い発狂する隊長は影に取り込まれていった。
周囲に、影が望む者たちはいなくなった。だが…まだ、足りない。
「カンジル!ヤツラハ!!」
影はその場から消え、少し離れたところに現れ、また消え、現れ、消え、現れ…を繰り返していく。
たどり着いたのは違う部族。あえて、他とは距離を離しているところだった。
ここも阿鼻叫喚の地獄と化していき…夜明けを迎えた。
~アスタイト王国・???~
「へぇー、突然変異かい?確かに面白そうだけど、使えないよ。」
「むぅ。どうしてだ?」
とある店で昼食を食べるローブ姿の男女がいた。
男の言ったことにあからさまに顔を嫌そうにする女に、男は笑って見せる。
「当然さ。だって、再現性がないものを僕たちは求めていない。それがきっちり再現できるならいいけど、僕たちの先達が試していて、それは無理だという結論が出ているからね。」
「そうなのか?」
「そうとも。僕たちの目的には、運などいらない。…少しは勉強した方がいいんじゃない?」
「お前に言われると、腹が立つ。いますぐ切り刻んでやる。」
「まぁまぁ。それで…」
男は本気で殺気を駄々洩れにしている女を宥める。こんなところで目をつけられるわけにはいかない。
また、男の視線はこちらに向かって歩いてくる背の高い女へと向いていた。
その女はローブ姿ではなく、きっちりとした正装。冒険者ギルドの職員の制服だ。赤い髪を一つに束ね、眼鏡をかけていて理知的に見える。
「私も忙しい身です。呼んだ理由は?」
「やぁやぁ。どうして、僕の周りの女性はこう厳しいんだい?」
「「あんたがうざいから。」」
「うわっ、酷いなぁ。呼んだ理由はそうだね…第二弾をやろうと思う。」
「「!!」」
思いっきり引かれる。言った男自身も引いた。
「なぜ、お前が引くんだ。で、本気か?実験は成功しているだろ。下手に痕跡を残すのは駄目じゃないのか?」
「おっ、まともな正論。間違ってはいないよ。どちらかというと、趣味?」
「相変わらずですね。主に怒られますよ。」
「良い誉め言葉を送ってくれるね~。流石に、何度もしたらバレるだろうけど、素体はいくらでもいるし、作れるよ。だから、主には怒られないね。」
男はにやりと笑う。女性二人の眉が引き攣った。
この男の貢献が大きく、我らが主のお気に入りであることから、この程度のおふざけも許されている。
それでも、嫌な頼みであるのは変わらない。自分たちを趣味のためだけに使われるのは、気に入らない。
彼女たちの様子に気づいているだろう。しかし、男は続ける。
「俺に、凶悪な欲望を持っている奴を紹介してくれない?」
「悪びれもしませんね。誰にぶつけるのですか?」
「勇者。」
「あんたのお気に入りか。」
この言質で、女性二人はこの男がお気に入りにちょっかいをかけたいだけだと、理解する。
やっぱり面白くない。誰が他人の趣味を手伝うだけ、暇だと?ますます、げんなりしてくる。顔を作ることができるギルド服の女でさえ、顔に嫌だとはっきり出ていた。
求めるのは対価。男はそこが分かっているので、提案する。
「二人には玩具をあげるよ。」
「今度はマシな奴をください。」
「しっかり選んでくるよ。」
「頼みましたよ。それで引き受けます。」
ギルド服を着た女はそれで、留飲を下げる。前回は遊べなかった。外見は良かったのだが、内部が全然。その時は、本気でこの男と殺り合うと覚悟を決めたものだ。
ローブの女はげんなりとしている様子を変えない。冷たい視線で男を睨み続けるだけだ。
「私は要らない。受け取る理由がない。」
「XXちゃん、そう言わずにさ。だったら、お願してもいい?」
「はぁ?」
「アレの試し斬りしたいだろ?誰にも邪魔されずに鍛錬できる空間をあげよう。」
「用意できるのか?」
「僕に任せて。最近、僕たちに加わった奴が優秀でね。彼に頼めばいけると思うよ。」
「もしできなかったら、お前の首を切る。」
「ははは…」
ローブの女の目は完全に据わっている。もし履行できなければ、有言実行するだろう。負けるつもりはないが、普段から恨みを買っている。他と手を組んでまで殺しにきてもおかしくない。それを男も重々分かって言っていた。
可能な範囲の提案をしているだけなので、男は苦笑するだけで済ます。
「私は何をすれば?」
「事の顛末を。最後まで見てきてほしい。偶然は嫌いだけど、話を聞くのは好きだ。もしかしたら、予想外の結果になるかもしれない。」
「やっぱり偶然が好きじゃないか。」
「自分たちがやることで、偶然は好きじゃないだけさ。ただ、物語としては、運というものはかなり面白くしてくれる素材になる。」
「訳が分からない。」
「まぁまぁ、面白い話を期待しているよ。」
「ふん、つまらなくしてやる。」
「あ、介入したら空間は当然なしだよ?」
「ちっ。」
苛立ったローブの女が席を立つ。次にギルド服の女が。
最後に立つことになった男は普通に勘定を支払いその店を後にするのだった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:前章で起こったことがここでようやく絡んでくるんですね…
A:その通り。
Q:さりげなく、勇者側の話も入れているし…
A:あくまでXXちゃんの動向がメインだ。
Q:…(本当のところどうなんでしょうね)
第六章を始めていきたいと思います。




