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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
獣人侵略編
68/138

閑話~雨~

例の…デート?の代わりに…

~護たちの拠点~


「曇ってきたよー。」

「雲が多くなってきたな。」


 朝、ミゥと護は空を見上げていた。見たところ、太陽の光を遮ったり、遮らなかったりしている。西の空を見ると、似たような感じだ。

 ここに来てから雨が降ったことはない。もしかしたら、初の雨が降るかもしれない。


「これは結構降りそうな予感がする。」

「どうするー?」

「皆を集めてくれ。優先的にやることがある。」

「分かったー。」


 それから一刻後、相変わらずの天候の中、護は農場予定地に赴いていた。砂防林と畑との境界に排水溝を作っていき、急ピッチで作られている貯水池へ繋ぐ。それから、拠点表面の土砂の所々を固め、そこに切ったマツの枝やら間伐材をばらまき、土が流れないようにする作業も進める。

 さらに、今、護たちとは別の班が行動していた。鳥の柱に作成している砂防林の周囲に壁を作成する班だ。


(この砂防林の種が広がるのは避けたい。肥料が流れるのも困るし。)


 土で作られたスコップを使って魔力を節約しながら堀り進めている戦闘班の様子を気にしながら、護はそう思う。将来広げていったときに、農地予定にこの種があったら、そこで発芽して急成長するだろう。そして、その対処に追われることは間違いない。

 そのため、近くに種が流出しないよう壁もしくは堀を作り、流出を防ぐ必要があった。

 

『うはぁー、疲れたワン。』

「無理はするなよ。しっかり休みながら、やっていけ!倒れたら許さないからな!」


 日差しはほぼ無いとは言え、温度は高い。脱水症状などが見られ始めたら、護は彼らを離脱させ、休ませていく。さぼり気味な奴らはミゥとリーダーが対処していた。

 護がアメを、ミゥとリーダーがムチを与えつつ、雨に間に合うよう彼らは作業を続けていく…


~外縁部・鳥柱~


「サソリ型が来たぞ!」

「柱が何本か倒されてる!!」

「サソリ型は私たちが対処します。あなた方は引き続き、作業の続行を!」


 一方の班は、魔物の襲撃を撃退しながら、作業を続けていた。こちらは、ガンドルフにメイア、シィ、トヴァが戦闘に対処し、エトリアとセレスが作業を引っ張っていく。

 こちらに気づいて襲い掛かってくるサソリ型。迎撃組が相対する。


「『守護』!」

「『エンチャント・アイス』」


 ヘイトをガンドルフが集め、尾からの毒飛ばしを躱す。

 その間にメイアが距離を詰めて強烈な冷気を纏った短剣を右足の節に突き刺した。


(浅い。…流石にこちらに移りますか。)


 肉を凍てつかせるも、完全に動きを止めるまでには至らない。毒が飛んできたのを躱し、振り回されるハサミもしゃがんで躱す。


「『隠密』」


 メイアの気配が薄くなる。しかし、右のハサミは的確に彼女を狙い続ける。前回の戦闘で分かってはいたことだが、やはり効きにくい。

 ただ、毒の狙いは『守護』をかけ直したらしいガンドルフに移っていた。


『ここにゃ』


 そして、今まで隙を伺っていた三人目、シィが一番後ろの左足の節に突き刺す。土魔法で拡張された刀身を離し、可動域を制限する。明らかに動きが鈍くなった。

 メイアの短剣が突き刺さり、さらに一本足が止まる。毒とハサミで抵抗し続けるが、機動力を失ったことで、討伐されるのは時間の問題になった。ダメージを蓄積させていく。

 安全を確保しつつ、動いている三人へトヴァの大声が届く。


「さらに、もう一体来るの!」

「トヴァさん、方向は?」

「丁度、あの柱辺りからなの。」


 三人の攻撃速度が上がった。メイアが右ハサミを無効化、巨体を駆け上がり、尾も無効化する。シィが遅れて、左ハサミを無効化し、ガンドルフの光の大剣が、防御を貫いて頭を一刀両断した。

 丁度、一体を仕留めた後に二体目が現れた。似たように対処しようしたところにトヴァの警告が来る。


「メイアさん、シィ、土から棘が!」

「「!!」」


 足へ仕掛けようとした二人が飛びのく。自分の周りに付くモノは許さないと言わんばかりに、前面だけを残し、一メートルほどの土の棘が壁を作る。

 二人の判断は早かった。その棘を足場にし、一歩間違えれば突き刺さる足場を駆け抜ける。


「シィ、毒で狙われているの!」

『…厄介にゃ』


 視界には入っていないはず。だが、正確な偏差射撃。

 シィは重い石斧を創作。空中で体を捻り足元の棘へと思いっきり当てた。衝撃と共に石斧から手を放し、離脱。その後を毒が通り過ぎる。

 宙を飛ぶシィに棘の先端が迫る。丁度その手前の棘に手をかけ、ブレーキ。勢いでブリッジから全身を起こす。そして、二発目を普通に跳躍して回避。その後も次々と飛んでくる毒を躱していく。


「『アイス・エッジ』」


 尾が凍り付く。シィが対処している間に背後から近づいたメイアが尾へ短剣を突き刺し、内部を凍てつかせる。

 これで厄介な尾は無力化できた。

 サソリ型の背中へとシィが飛び乗ろうとする。


「脳天がら空きだね。」

「油断しちゃダメなの!まだ棘が来る!」


 トヴァの言葉がシィの耳に届く。それと同時に甲殻から棘が飛んでくる。ばらついていない面の攻撃。

 シィは魔法をキャンセルし、白黒になった世界で動く。手に持つ短剣を投擲。当たってずれたところにさらに自分を飛び蹴りの姿勢で入り込んだ。掠りこそすれ、シィの身体を貫通するものはない。

 棘を突破し、甲殻へと着地。メイアから飛んでくる短剣を掴み、二回目の魔法を放とうとするサソリ型の甲殻の間を突き刺し、イメージに魔力を流す。


「『ロック・スパイク・ランダム』!」


 短剣を起点に、友達から教えてもらった魔法が発動した。

 サソリ型内部が土の杭でずたずたになる。致命傷だ。

 少しだけ浮いていた巨体が沈み砂埃が舞う。ハサミや足がピクピクと動くだけで、それもしばらくした後、沈黙する。


「ふぅ。…ありがとう、メイ。」

「どういたしまして。いい腕でしたよ。」


 互いの武器を交換し合い、二人はサソリ型から飛び降りる。

 若干、涙目で走ってくるトヴァにシィは頭を撫でた。


「分かってても、ヒヤッとしたの。」

『助かったにゃ。セレに傷を治してもらってくるにゃ』

「ガンドルフおじさんに直してもらえばいいの。」

「俺が治すぞ?」

「えー、なんか嫌。」

「…」


 ガーン!!という効果音が似合いそうだ。口をあんぐりとあげてショックを受けているガンドルフにトヴァとシィは笑う。


「手伝ってください。次が来る前に片付けておきますよ。」

「傷を治してくる。」

「分かりました。できるだけ早く戻ってきてくださいね。」


 一人で解体作業をしていたメイアにそう言われ、シィは治療に、トヴァと再起動を果たしたガンドルフが作業に加わるのであった。

 一端、壁を作っている場所へ戻ったシィはセレスに傷を見せる。血はすでに固まっている。LPの減少も止まっているものの、全快には時間がかかる。


「…シィちゃん、直ぐに治してあげるね。」


 魔法名すら言うことなく、シィの全身に光の粒子が纏わりつく。傷はかさぶたになっていた場所も含めて、傷跡一つなく、LPも全快した。


「ありがと。セレは大丈夫?」

「?…MPのことなら、結構休んでるから、あまり減っていません。」

「違う。レベル上げ。」

「サソリ型は…私より弱いから。…それに、護さんは戦わせるためにここへ送った訳じゃないと思います。壁を作った方が喜んでくれそうです。」

「…」


 サソリ型。地味にLv40から60という強い部類には入る。ただ、今のところ、50以降は中々現れていない。セレスの現レベルがLv56で、確かに運がないとレベルを上げるには、足りないところだ。

 メイアたちにセレス、もしくはエトリアが加われば、サソリ型の攻略は簡単になる。遠距離への攻撃が乏しいサソリ型に、ガンドルフが惹きつけて足止めするだけで、彼の背後から魔法を撃てばいい。メイアとシィ、トヴァの三人でも、似たような戦法はとれるが、やらないのは単に腕が鈍らないようにしているからだ。

 また、セレスは壁作りに尽力している。無理強いは出来なかった。


「強そうな奴が来たら…教えてください。」

「うん、分かったよ。セレに教えるね。」


 シィがメイアたちの元へ戻っていく。

 砂地と砂防林が生えている場所の境界線から一メートル離れたところにある腰ほどの壁。幅は上を安定して歩けるほどある。さらに盛り上げた分だけ、砂防林側に堀ができていた。

 拠点側をセレス、外界側をエトリアが手がけていて、ほぼこの二人で壁を作成していた。


(護さんは…根腐れ?したらどうしよう…と言っていましたが、この木を見ると大丈夫そうな気がします。護さんがやったことだから、信じます。)


 ジャンプしたら手が届きそうな位の高さしかない木々を見てそう思う。魔物によって、荒らされている場所も見られた。しかし、小さい代わりはすでに出ている。今回で水浸しになるだろう。それでも、種を残すか、しぶとく生き残る。そんな予感があった。


『なぁ。』

『何にゃ。』

『さっきから、セレの壁、一気に長くなってないかにゃ?』

『…』


 一人、間伐していた獣人が壁の端に立つセレスを見てそう呟く。

 セレスは遠くを見据えて、手を翳す。練るイメージは同じ。見える範囲の境界線から同じ幅。それだけの余裕を残し、一本の線に沿って砂を動かし固める。


「『ロック・ウォール』」


 呟きと共に、物凄い音をたてて、砂が動いていく。壁となった砂は石となり動くことは無い。


「はぁ。」


 一息と共に、動きが止まった。数日かけて伸ばしている砂防林の終点一歩手前。そこまでの展開が終わった瞬間だった。獣人たちはその光景を受け入れらず、目をぱちくりしている。

 それから、それを成したセレスのMPはすっからかん。疲労がどっと押し寄せていた。

 少し重く感じる頭で、セレスはステータスを開く。


セレスティア(女・17歳・人族)職 巫女Lv56

 LP 427 MP 0/375

  STR 387 AGI 351

  TEC 390 END 344

  INT 913

一般スキル 杖術Lv5 戦棍術Lv2 体術Lv2

      魔法(光)Lv9(火・水・風・雷)Lv8(土)Lv7

      料理Lv4 奉仕Lv4 彫刻Lv4 集中Lv5 慈愛Lv2 純愛

職スキル 神託Lv5(MAX)

エクストラ


(土魔法ももう少しで、Lv8…護さん、きっと喜んでくれます。)


 セレスは護が喜んでいる姿を想像する。そうすると、疲れが吹き飛ぶような感覚と、身体の奥深くから力が満ちるような感覚がして、やる気が湧いた。

 とはいえ、MPの回復は微々たるもの。こればかりは『純愛』の影響を受けない。魔力回復薬で貴重である以上、自然回復に頼るしかない。

 焦がれるような気持ちが押し寄せてきた。セレスは深呼吸する。

 護は倒れかけて以来、しっかり休むようになったし、させた。私も燃え上がるような感情を鎮め、休まなければなりませんと、もう一度深呼吸して、今すぐ動きたい気持ちを抑える。


「セレス、派手にやったさね。」

「エトリアさんの方が、凄いと思います。」

「私としては、追いつかれたくないんだけどねぇ。セレスが成長して嬉しいけど、複雑な気分さ。」

「はは…」


 セレスは苦笑した。確かに強くなっている。それでも、メイアという尊敬すべき女性にはまだまだ遠い。

 護には(セレス)を見てほしい。メイアやアン、ライラよりも。独り占めして、誰かが傷つくのは嫌だ。でも、愛する人との時間は、私を満たしてくれる。

 思いつめるセレスの肩に、エトリアは軽く手を置いた。


「話してやりな。頑張ったことはマモルにちゃんと話すさね。マモルは聞いてくれるよ。ご褒美くらい、ねだってもいいんじゃないかい?」

「そうですね。…わがまま、言ってみます。」

「その息さね。」


 後日、一日中、セレスに付き合う護が居たという。少し離れたところで一夜過ごした二人は、少し寝不足だったとか。


~翌日の午後~


「あ、降りだした。」


 一日で外縁部を終わらしてきた面子が加わったことにより、貯水池組も無事に作業を完遂することができた。昨日よりどんよりとした雲からぽつぽつと降りだし、あっという間に雨足を強くしていく。

 雨にはしゃぐ獣人たちをスルーし、護たちは拠点に入る。入り口をウェットスライムが塞いだ。


「排気口および、入り口からの浸水は必要最低限、換気も一応できていると…」

「何とか、間に合った。」


 片腕のアンが護たちへ手ぬぐいを渡す。雨を軽く拭いながら、拠点内を動き回っているスライムが目に入った。

 いつもの七割増しでポヨンポヨンと移動している。雨という湿気とは段違いの量にウェットスライムは、吸収、魔力転換を代わり替わりでやっている。それと同時に、サンドスライムが水によって脆弱になっているところの修復に追われているようだ。もし雨漏れでもしたら、急いで修復しないといけない。


「上手く、ローテーションできてるかな?」

「ハイドロやハイドロⅡといったリーダーが格が見ているなら大丈夫だと思うぞ。」

「そうだね。」


 特に完全に通気口を塞ぐわけにはいかない。ということで、流れてくる途中で塞がないように待ち構え、ウェットスライムが吸収し、移動するタイミングでサンドスライムが固めなおすという方法をとっていた。ハイドロの影響か、ハイドロⅡといった個体は『指揮』を覚えているものがおり、彼らは護たちの言葉を理解できるので、仲間を言われた通り上手く動かしている。


「にしても、地下につくる欠点だな…」

「…ハイドロさんたちには…感謝しないといけないですね。」

「暑いよりかはマシ。」


 普段の暑さとは無縁の生活に比べれば、些細な欠点でしかない。地上にあるドームと比べると、自分たちの部屋の方が涼しい。快適な生活ができていると考えれば、メリットは大きかった。


「何かしらの問題が出てくるかもしれない。雨が降る間は誰かは対処できるようにしておかないと。」

「私が起きておきましょうか?戦闘とは異なりますし、一夜程度であれば、眠る必要はありません。」

「メイア一人に任せる訳には…」

「伺っていますよ。セレスさんと一日、二人水入らずで過ごされるようですね?」

「メイアも、か。」

「はい。駄目でしょうか?」

「え?メイアお姉ちゃんもセレスお姉ちゃんも何の話?マモル様の独り占め、ずるい。」


 護の額から冷や汗が落ちる。この流れは…

 セレスが苦笑している。二人きりの時に約束したはずなのに、メイアは知っていた。どうやら聞き耳を立てられていたらしい。

 こうして、メイア、アンとも過ごすことになるのだった。


 結果だけを述べると、大きなトラブルはほぼ無かった。多少、水食で土の移動が見られるものの、許容範囲内。砂防林も健在だ。種の流出も広めに壁を作ったおかげで確認する限り、なかった。

 ただし、雨に興奮しはしゃいだことと、これまでの活動による獣人たちの疲労がピークであったために翌日は一日ゆっくり休むことにはなったが。

 ちなみに、メイアとは戦闘訓練と久しぶりに二人で眠る夜を、アンとは昼に新たな調合の可能性の話をして、極寒の中、星空を見つめて過ごしたらしい。

次回は登場人物紹介です。

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