閑話~勇者の回想~
ゆ、勇者編…
~勇者サイド~
「龍志、倒し切ったわよ。」
「お疲れ、由奈。ルマノ、『アイテムボックス』に空きはあるかい?」
「ごめんなさい。ほとんど空きが残ってません。魔石だけ回収して持っていきましょう。」
そこは山肌がところどころ剥きだしになっている山中だった。一面に、ワイバーンと呼ばれる翼竜だった魔物たちの死体が散在していた。
その場には三人しかいない。「勇者」である龍志、「賢者」の由奈、そして王女であり、同行者であるルマノだ。
死体から魔石を取り出していき、死体を焼却していく。作業が終わる頃には、日が暮れていた。そのため、結界を張り、小型の天幕を組み立て、周辺で集めた薪に火をつけた。それから、ルマノが近くでとった兎型を『アイテムボックス』から取り出して、龍志に渡す。
兎型を短剣で捌いていく。これも何度も何度も繰り返したことで、迷うことなく肉を切り取り、食べられない所を捨てていく。そして、肉を一口大に切り、煮え立つ鍋の中に放り込む。少しの野菜と一つまみの塩を放りこむと、それで出来上がりだ。
「報酬は、金貨三枚…。大変だった割に安いとは思わない?」
「そうかな?村の人たちからすれば大金だと思うよ。」
暮らすだけなら、金貨一枚も一年かかるかどうか。龍志たちが訪れた村人はそんな生活をしているので、金貨三枚は大金と言えるだろう。
まだ、鬱憤が溜まる由奈は、矛先を変えた。
「百二十四匹よ。あのモンパレの時も大変だったけど、これをたった三人で倒したのよ!本当だったら、騎士とかが動くべきじゃないの!」
「ごめんなさい。多分、伯爵が陳情書を無視しているかもしれません。町に被害が出ていないから、お金をとったのでしょう。」
「ルマノが謝ることじゃないわ!…あぁ!殴りに行きたいわ!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ由奈。便りは聖女に送ってあるから、何かしらの対処はしてくれるはずだよ。」
「…龍志が言うなら…」
出来上がったスープを受け取って由奈が落ち着く。
ルマノにも、よそった器を渡し、龍志はこれまでのことを回想していく。
(魔物行進戦が終わってから…)
今いる三人で魔物行進戦を戦い抜けた後、仲間が療養している宿に戻った。
るかの自傷行為は収まったものの、戦闘ができるような精神状態ではないことは一目瞭然で、旅を続けられるような状態でもなかった。
龍志は決断をしたのだ。前に進むと。
以前、協力を申し出てくれたコミイナという女性にるかが回復してくれるまで、面倒を見てもらうことに。その時、松本猛、一人の荒ぶる拳士が言う。
「俺もここに残る。佐藤は委員長と行け。」
当然、猛の申し出は由奈が反対した。猛に掴みかかり、喚き散らす。そんな由奈を止めたのは、佐藤桃花、ずっとるかを献身的に見てくれた「聖母」だった。
龍志たちが居ない間、団長と鍛錬を積み、猛はコミイナや他の冒険者と共に依頼をこなしていた。それと同時に、桃花の代わりにるかの面倒を交代で見ていたそうだ。
桃花が疲れで眠ってしまった時、るかが自身の手に爪を立てようとしていたのをずっと猛は両手を掴んで落ち着くまで待ったそうだ。それから少しずつ、彼が彼女の面倒を見るようになっていった。
「恋とか愛とかなのかは知らねぇ。ただ、あいつの手はずっと震えていた。…殴り倒すために鍛えた拳でも、あいつの手は震えが止まったんだ。俺はあいつの傍にいてやりてぇ。それに、佐藤の癒しの力は委員長たちに必要だ。委員長たちは魔王をぶっ飛ばすんだろ。ぜってぇ強いからな、傷を治す奴がいる。」
「それは…」
「俺は魔法が使えねぇ。でも、手を繋いだり、抱きしめたりはできる。魔法に頼らない方法も覚えるし、料理なんかも全て覚えてやる。だから行け、委員長。俺はコミイナとどうにかするし、そっちは委員長がやらないといけないことだろうが。」
猛は龍志を後ろに向かせて、背中を押す。振り向いてみた猛の顔は覚悟の決まった男の顔つきで。
荒れ狂っていた龍志の心にそれだけが大きく突き刺さった。突き出された拳に、自然と拳を合わせる。そして、それ以上、反対するような言葉は思いつかなかった。
由奈も桃花に抱きしめられ、落ち着きを取り戻しているようだ。
「少しだけ、私も残らせてください~。タケだけだと不安なので~」
「おい、佐藤。」
「黙ってください~。安心できるようになるまでですぅ。任せられると思ったら、龍志君を追いかけますから~」
「分かった。無茶だけは二人とも避けてね。」
「そっちこそ、死ぬんじゃねぇぞ。」
嫌そうにする猛に怖い笑みで迫る桃花。少しだけ龍志たちは笑った。
そして、二人と頭を下げるコミイナに、るかを預け、龍志たちは移動し始めた。
旅を再開してすぐグンガイ団長が戦力増強のため離脱して、三人旅となり、ルマノの『アイテムボックス』に入る物資と、龍志が背負うバックパックに入る荷物だけで進む毎日が始まった。
勇者一行とは認識されずらくなり、奇異な視線は減ったが、その分、貴族たちからの支援を受けにくくなった。正確にはトラブルが増えたのだ。
「ルマノ王女、勇者一行の旅から手を引き、愚息との結婚をしてはいかがでしょうか。」
「はい?」
「噂に聞いていた勇者一行は、三人ではなかった筈です。脱落者を出していて、何が魔王退治でしょう。このままいけば、失敗する危険を大きく孕んでいるということです。それならば、旅などそこにいる勇者と仲間に任せ、貴方は今すぐご結婚なさるべきではないかと、申しております。」
「…危険は承知の上ですし、王自らが命じた使命を私が放棄することは有り得ません。それに、貴方の御子息との結婚の申し出は有難い限りですが、私は先ほど申した通り、勇者一行を支える身。放棄したとなれば、面目が立ちません。王族の面を汚すような真似を私にしろ、とおっしゃられるのですか?」
「そういうつもりで、申したつもりは…」
「では、ご協力をお願いします。あなたに多大な負担をかけるつもりはありません。」
このような、ルマノとの政略結婚を狙うようなやり取りをあきらさまに言ってくる貴族が増えたのだ。
もう一つのパターンとしては…
「どういうつもりなのでしょうか?」
「本当にルマノ王女様か?薄汚れていて勇者一行には見えない。嘘つきの輩をひっとらえよ!」
「ちょ、本物よ!紋章もあるし!」
「紋章なぞ、奪ってしまえばいいだろう。言い訳なぞしよって、見苦しい!兵よとっと動け!」
屋敷に入った途端、四方八方を囲まれてしまった。由奈の言動がマイナスに働いて、余計に状況がこじれ、場が張りつめる。
アルカイックスマイルを浮かべていたルマノ。その笑みは変わらないが、明らかに口角が引き攣っている。そして、目が据わった。
さらに、一瞬だけ魔力が放たれ、龍志や由奈、その場にいた全員の身体が強張り、更なる緊張感を強いらせる。
「私はこの地にほとんど訪れたことはありません。ですので、疑われるのは仕方がないことだと、思っております。しかし話すら聞かず、兵を向けるのはいかがなものでしょうか?もし本物であれば、あなたがしているのは王家への謀反ですよ?」
ルマノは表情を変えずに、そう言う。笑みの裏側にある怒気におされ、貴族の私兵が武器をより一層突きつけた。それでも、ルマノは止まらず、冷たい視線で貴族を見据える。
視線に耐え切れず貴族は後ろからこけ、悲鳴を上げた。後ろに下がろうにも、恐怖が邪魔をして、身体は震えるばかり。
そんな貴族に、ルマノはこう言った。
「そうですね……仲間が失礼な態度をとったことは謝ります。本当に申し訳ございません。」
先ほどまでの冷たい空気を一変し、優雅な一礼。思わず私兵が見とれてしまうほどの。それでも、貴族はパニックに陥っているのか、ルマノを指でさして、命令する。
「そ、そんな馬鹿なぁ!こ、こけおどしにすぎん!やってしまえ!どうした、クビになりたいのか!!」
見とれていた私兵もハッとし、武器を構え直す。しかし、その動きはたどたどしい。素人でも分かる高貴な動きに、本物なのでは?という疑念が渦巻く。
それでも、顔が青ざめた一人が、由奈を背後から切りかかる。
「お、俺はぁぁ!クビになりたくねぇ!!」
冷静さを失った力任せの一撃。振り下ろそうとした瞬間、動きが止まった。
男は自分の身体の状態を見る。両手両足、身体中に纏わりつき、拘束する黒い帯がある。
「はぁ?」
「歯、食いしばんなさいよ!『エア・ブラスト』!」
「おぼぅ!!」
そこへ暴風が直撃し吹き飛んだ。自分たちも動こうとした私兵たちは、再び硬直し互いに顔を見合わせる。
顔を白くして、貴族は叫びとも化した命令を兵たちへするが…
「な、何をやっている!たったの三人だぞ!数で押せば、何とかなるだろ!」
「そ、そうだ!合わせるぞ!」
「『シャドウ・バインド』」
今度は全員。その場にいた私兵全員に、影の拘束が入る。かなりの強度で解けない。
今までずっと黙っていた龍志が口を開く。
「まだやりますか?全員でかかってくれば、手加減ができなくなるかもしれません。仕事より命の方が大事だと思います。それに、彼女は本物のルマノ・アスタイト王女です。僕は勇者、朝野龍志。となりは、近藤由奈、賢者です。先日に起こった魔物行進戦にも参戦していますし、それを生き残っています。実力の差はこの通りだと思いますが、それでも、戦いますか?」
淡々とした言葉に、私兵たちは完全に戦意を消失させられて武装を解除する。
おまけに、奥の方から不意をついた魔法は由奈に無効化され、撃った本人は、暗闇に閉じ込められ身動きをとれなくなってしまった。
貴族から生気が抜け落ちる。ようやく認識できたらしい。刃を向けていた者たちは本物で…、自分は謀反者だと…あまりのショックに気を失ってしまった。
倒れられると話し合いどころではない。そもそも、話し合いというレベルでは済まない状況ではあるが…
とにかく、このまま床で倒れられたままでも困るので、運ぶことにする。
「この方を、休める場所に運びましょう。執事はどこにおられますか?」
「あー、俺が執事みたいなことをやらされている。主人が無礼なことをして、すまなかった。」
「「「……」」」
あれだけ無礼だの言っていた執事の礼儀がなっていない。思わず三人とも無言になってしまった。
その貴族は結局、牢屋に入れられることになり、代理として町長をやっていた人物が抜擢される。代わりの法衣貴族とその補佐官が来るまでの間、統治されることとなった。支援金として、その貴族の資産を利用することになったのだが、ほとんど残っておらず、怒髪天を衝く由奈を二人で宥めることに。
(由奈が怒る頻度が確実に増えたかな。ルマノも僕もムカッと来ること多いけど。)
由奈が怒る分、龍志やルマノは冷静になれることが多い。しかし、三人ともフラストレーションが溜まっていることに変わりはない。一度、ゆったりと問題から逃げて、休みたい。
「龍志、大丈夫?」
「大丈夫だよ、由奈。少し、考え事していただけだよ。」
「そうならいいけど、スープ冷めたんじゃない?」
「うーん、これはこれでいけるよ。」
脂が固まって浮きつつあるが、食べられないことはない。龍志は飲み干し、お代わりを注ぐ。
それからは、無言で食べる時間だけが過ぎていく。この中では一番体力が低い由奈が、最初に眠り始め、火を囲むのは龍志とルマノになった。
龍志は枝を適当に折り、火にくべる。パチッと爆ぜる音だけが響く。
「龍志さん、先に休んでもらってもいいですよ?」
「いや、ルマノの方が先に休んでくれた方がいいかな。僕は平気さ。それにルマノなら、何かあった時にすぐに起きて来られるでしょ?」
「…分かりました。しんどくなったら起こしてください。代わります。」
「うん、その時はお願いするよ。」
ルマノも天幕に入っていった。
龍志は火を絶やさないように気をつけながら、剣の手入れをしていく。その剣は急激に上がる力に耐えきれるよう頑丈にできており、切れ味はやや悪い。その欠点も魔法を付与して切りかかるため、そこまで気にしなくていい、良い剣だった。
「鍛冶師の人は不満を持っていたみたいだけど、今の僕には丁度いい。ステータスオープン。」
龍志の前に見慣れたウィンドウが表示される。
朝野龍志(男・17歳・人族)職 勇者Lv39
LP 679 MP 693
STR 701 AGI 688
TEC 754 END 701
INT 722
一般スキル 剣術Lv4 大剣術Lv2 直剣術Lv2
魔法(闇)Lv7(火・水・風・光)Lv4 指揮Lv2
栽培Lv1 裁縫Lv1 料理Lv2 集中Lv5 不屈Lv2
職スキル 瞬転Lv4 限界突破Lv2
エクストラ 言語理解
「今回もやっぱり…」
龍志の残念そうにそう呟く。そのステータス画面は魔物行進戦以降、ほぼ変動していない。
ルマノから聞いた基準からすれば、Lv39という低レベルでこのステータスは高く、上級へと足を入れているステータスになるそうだ。
しかし、それでは意味がない。相手は魔王。あの聖女と並ぶ強敵と戦えなければいけないのだ。レベルが上がらないという状況に、龍志は苛立ちを募らせる。
居ても立っても居られず、結界の外へと出た。天幕と火が見える位置で剣を構える。
「はぁ!」
苛立ちをのせて剣を振った。ひらりとひらりと落ちる葉を狙ったその一撃は、願い通りにはならない。何度も繰り返すが、葉が切れることは無く、ただただ、風に乗って落ちていくだけ。
「…もうそろそろ火が消えるかな。適当に枝を集めよう。」
一枚の葉も切ることができずに龍志は切り上げ、その場に落ちている枝を拾い集めて天幕に戻っていく。
その背中を影から見つめる存在がいることに龍志は気づかない。
翌日、村へと戻った三人は、感謝の宴を受けて過ごした。
次の日、村を出発し、次の街へとたどり着いたところに、桃花とグンガイ団長、そして、猛とるかの代わりのメンバーが合流する。
それから一か月後、龍志はとある存在と遭遇し、死闘を繰り広げることになっていく。
ちなみに、聖女に送られた手紙は、某義賊に。某義賊から某大公爵に大量の不正の証拠が送られ、その貴族は没落したそうな。
次回も閑話になります。




