↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
獣人侵略編
65/138

朝、昼、夕方

こ、今回も…



~拠点・護たちの部屋~


「これは流石に…」

「とりあえず思いつくだけ書いてみたのでしょう。明らかに不可能なものがあります。」


 護とメイアは、職人たちから渡された要望を見ていた。石板に彫られたものから、実物を石で模ったものと、色々、そして、大量にある。彼らの『アイテムボックス』からこれらが出てきたときは、目が点になったものだ。

 アイデアを片っ端から出してきたようで、説明を聞かないと分からないものや、現時点では難しいものも少なくない。

 特に、彼らの要望を叶えるのに圧倒的に足りない材料である金属。こればかりは護も用意できない。モンが少し保持しているようだが、それだけではまだまだ不十分だ。

 また、護はとあることに気づく。


「モンだけ、要望が少ないな。事情をよく把握できているのか?」

「そうではなく、確かめてきました。私への質問回数が一番多かったですから。最低限の道具は揃っているようで炉や燃料の心配がほとんどでしたし。」

「炉と燃料…調べてみて、今実現できそうなものを作ってやるか。」

(驚いたな。…いや、あのトヴァの兄だ。それよりも、生産職だったとは…)


 自分に噛みついてくる狐人を思い出して、護は驚愕の後、腑に落ちる。そして、聞いてから、意外で何度も心の内で反芻する驚きが再び満ちた。

 メイアに視線を送ると、彼女は困ったように微笑んだ。どうやら、彼女も同じらしい。


「護様もですか。彼曰く、両親を亡くしてからトヴァちゃんを守るために、転職したそうです。」

「そうみたいだな。」

「はい。それから、トヴァちゃんに、『戦士は揃っているの。お兄ちゃん一人、減ろうが問題ないの。それよりも、道具をたくさん作るの。そっちの方が楽しいでしょ?』と言われたらしいです。」

「…ショックだっただろうに。それに、よく兄のことを見ている。」


 前は、兄に対する同情。後ろはトヴァへの感心。

 本当に、当たりどころか、大当たりの二人を引いたらしい。


「エトリアさんの話によると、トヴァの方はかなり『予知』を使った戦闘に慣れているみたいだ。それに、『統率』を使うことに迷いがないし、信頼も得られているようだし。」

「それは、本当に喜ばしいことですね。」

「ミゥたちにもいい刺激になっている。今は、順調だな。」


 新たな住人は、刺激をもたらした。同時に負担も増えているが、それはまだ許容範囲に収まっている。

 護の物言いに、メイアが何か言おうとするところで、扉を叩く音がする。

 メイアが扉を開けると、勢いよく入ってきた男犬人が護の元へと突撃した。


『マモ、できたよ!よっしゃー!!私が一番だワン!』

「遂にか!」


 彼の手にはボロボロになった矢尻が。

 それが意味することは一つ。腐属性の使い手がもう一人誕生したということ。

 さらに、彼の腐属性は既にLv2に到達している。


「やったな!」

『ミゥを抜いた!やったぁ、マモ、一つお願い聞いてもらってもいいかワン?』

「俺ができる範囲ならいいぞ。」

『ボールを一個くれ!』

「ちょっと、待ってくれないか?今ある奴とは別に一個作る。」

『できだけ早くな!』

「約束する。」


 彼は『よっしゃー!』と走って出て行ってしまった。

 メイアの瞳が冷たさを帯びているが、護は見なかったことにする。

 ちゃんと砂は落として来たらしく、部屋は汚れていない。おそらく、汚していたら本気で怒ったに違いない。

 メイアは護の方へと向き、微笑みかける。 


「良かったですね、護様。ですが、よろしかったのですか?金属は貴重だったのですよね?」

「そうだな。ただ、モンからそれぐらいは設備ができ次第作れるというのと、骨の矢、魔法の矢で事足りている状況だ。だから、農業組限定で、ミゥが持っていた矢尻を使って腐植の訓練をさせている。」

「あの猫人が?」

「戦闘の時とエルフの拠点からくすねて来たらしい。」


 護は苦笑した。戦闘時はともかく、あの短い時間で、よく見つけられたものだ。ミゥがそれを渡してきた時、あれだけ悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまった。

 とはいえ、ミゥの命を預けるものであり、さらに、護の躊躇いの言葉から、彼女自身が使うことを躊躇っていたらしい。


「俺のためにか…」

「どうかされましたか?」

「いや、何でもない。」


 ミゥが自身に向けてくる感情は、ぼんやり分かってはいる。矢を差し出してきた時に、ミゥの顔を見れば、理解できた。

 ただ、それに応えることはできない。それが、護の答えだった。

 胸が痛む。それを振り払うように、メイアに提案する。


「彼らの様子を見に行った方が良さそうだ。メイア、検討はまた後でいいか?」

「かしこまりました。私もついて行ってよろしいでしょうか?」

「いいぞ。」


 二人で部屋を後にし、農場予定地へと歩き出した。

 着いた先では、試しに作っていた砂防林の隣、大体五メートルを離れたところから、まず、一列に砂防林を植えているのが見える。

 砂防林の木陰に入った二人は、休んでいる獣人たちに手を振り、活動している面子に目を向けた。


「あ、あのー少しだけずれています。もう少し、右横ですかね…あー、反対です。」

『これでいいかワン?』

「はい。」


 ラーが空を飛びながら、指示を出しているのが見える。

 メイアが護に問う。


「ラーに任せているのですか?」

「とりあえず、任せてみることにした。今のところ、問題はでていない。」

「よく、彼の言うことを聞きますね。」

「そこはリーダーが叱ったらしい。『聞かなかったら、マモの雷が飛んでくるぞ』、だそうだ。」

「…本当に飛ばすのですか?」


 メイアは表情を少し崩す。この問いだと、二つの意味で聞いていることになる。

 しかし、護は獣人たちに目を向けていて、彼女の表情に気づいていない。


「よっぽどだったらな。あまり怒鳴るのは得意じゃないし。」

「直接、雷魔法を当てるのかという意味で伺ったのですが。」

「あー、しない。トラウマになっている奴らがいるからなしだ。シィとの決闘の時、明らかに顔色を悪くしていたのが何人かいたからな。」


 ここには、護が本気でぶちきれていた時の当時者が数人いる。彼らは、護との距離を離しているし、メイアたちとの距離も空けることが多い。シィは例外だ。

 護は、自分が為したことを思うと…


「どうしたんだ?」

「いえ、何でもありません。ただ、護様を見つめていただけです。」

「?」


 メイアはポーカーフェイスで、そう言うだけだった。

 護は顎に手を当てる。酷い表情をしていたのだろうか。

 そんなことを思っていると、リーダーが駆け寄ってくる。


『マモ、ラーが暑さに当てられたワン。手当てを頼むワン。』

「分かった。すぐに行く。」


 先ほどからラーが地上に降りていたのが、見えていた。ただ単に疲れた訳ではないらしい。

 駆け寄った護は『真理眼』を発動し状態を確認、ハイドロⅡで冷却しながら、回復魔法をかけていく。


「す、すいません。ぞ、族長に迷惑をかけてしまって…」

「軽い熱中症だな。治療は施しているが、一旦、しっかり休憩した方がいい。」

「でも…」

「大分進んでいるんだ。ここで倒れたら、元も子もない。休んだ方が、もっと頑張れる。」

「わ、分かりました。」


 ラーが枝とツタを編み込んでできた担架で運ばれていく。また、今作業している者たちにも、休むように告げた。

 護はメイアを連れて作業中の場所を歩く。すでに植わっている砂防林は、三メートル前後。栄養量が少ないせいか高さはない。花や実も心なしか少ない感じがする。


「水だけじゃ、これ以上伸びないみたいだな。」

「そのようですね。」


 護は水を撒いてみる。しかし、反応はない。

 単純に量が足りないだけかと思い、二人がかりで試してみる。それでも目に見える変化は見られなかった。


「あのミゥに渡した量の肥料では、そこまで高くは出来ないでしょうね。」

「時間をかけて育てていくしかない。高さより面積を優先する。」


 ミゥたちには、生えてさえいればいい、と伝えている。さらに、無茶はしないようにとも言っている。

 ただ、進捗具合を確認していると、少し不安だ。


「あの雌のことを心配しているのですか?」

「ミゥのことは心配していない。…周りの疲労具合が凄かった。ノリで酷使している姿が目に浮かんでな…」

「あり得るでしょうね。」

「気をつけないと、脱落者が出そうで怖い。…後、メイア、ミゥのことを雌っていうのはどうなんだ?」

「護様の気のせいです。」

「いや、さっき…」

「気のせいです。」


 メイアの笑みが怖い。ミゥに対して、彼女は最初から冷たい。

 気になる。だが、地雷を踏みに行く趣味もないので、話題を変えることにする。


「耕す方法も考えないとなぁ。人の手だと時間がかかるし、相当な労力が必要になる。」

「かなりの面積の場合は、魔物の力を借りる場合が多いですね。それを生業にしているテイマーもいますから。」

「テイムか…呼び出してみる。」

「これも、呼び出せるのですか?」

「ああ。基本、祝詞と社が違うだけで、方法は変わらないんだ。ただ、テイムの場合は適性が明確に出るし、テイムした魔物によっては、テイマー本人の言葉しか聞かない奴もいるから、選ばないといけない。」

「後は、この環境に適している魔物でなければならないでしょうね。」

「そうなんだが…地上を移動する奴と言えば…あいつしか今のところ見たことない。」

「サソリでしたね…」


 暑さを避けるためか、地上を移動する魔物は少ない。また、水場がほぼないからか、両生類系の魔物はいなし、爬虫類系も地上で体を暖めた後は地下へと潜って移動しているようだ。あのサメ型が中間みたいなもので、地上を堂々と動いているのはサソリ型のみ。

 王国や樹海樹林で見られた狼系、鳥系もここでは少数派になる。ミゥたちからの話によると、オアシス付近でのみ、いるらしい。


「あのサソリをテイムできるのか?正直、できるのかさっぱり分からん。」

「それはやってみるしかないかと。あの頑強さと体力、そして力があれば便利な労働力になりそうな気はしますが、重量がかなりあるので、向いていないかもしれません。」

「俺とガンドルフさん、メイアの三人で持ち上げられない重さだったからな。」


 サソリ型は砂地に埋まりながら前進してくる。毒が混じった粘着液を尾から飛ばし、相手の動きを拘束した後にその巨体に付いたハサミで止めを刺す。それがあいつらの基本戦術で、魔法を使用してくるものもいる。

 また、見た目相応の重量をしており、『アイテムボックス』に放り込んで移動させるのがやっとだ。

 耕すことに成功するかもしれないが、沈みながら移動するため、整地が必要になる。その労力と人力で耕す労力が釣り合いそうだ。


「あまり変わらないかもしれない。希望はサンドスライムか。」


 土魔法を覚えている彼らなら、耕すことは不可能ではないかもしれない。ただ、上手くいくまで、トライアンドエラーは避けられない。

 とはいえ、一番現実的に実行できそうな案になる。


「どちらにしても、余裕ができ始めたら試してみればいいかもしれません。」

「ああ。とりあえずは、『マジック・ププレア』を植えていくから、耕す必要もない。」

「もしかしたら、作り出した魔物から都合のよいのが出てくるかもしれません。」

「その手も考えておこうとは思う。ただ、頼りたくはない。」


 人手不足と、獣人たちの能力を考える。狩りを生業にしてきた者がほとんどなため、『養殖』が最適だとは思う。

 しかし、ラーのように戦えない獣人たちの受け皿を考えると、やはりリスクある『養殖』は一時的なものだ。


「進んではいるが…作物が育つようになるまで、どれぐらいの時間がかかるのだろう?」

「私には、想像がつきません。」

「俺もだ。」


 護は苦笑した。目標は十年以内。ライラを屋敷で待ちぼうけさせる訳にはいかない。いや、彼女のことだ、追いかけてくるに違いない。

 ライラ本人を慕うウィスもついて来るだろう。実力者であるので、ウィスもいれば心配はしていない…いや、不安だ。あの戦いで恨みを買っているだろう。来ない方が安全である。

 護は息をゆっくり吐き、気を引き締め直す。


「とりあえず、今できることからやるしかない。」

「はい。」


 二人は休んでいる獣人たちの元へと歩く。

 ラーの体調も大分回復してきたようだ。また、腐属性を手に入れた彼は、枯葉や枝の剪定したものを数人に協力を頼んで、腐植させていた。


「マモ、もうそろそろ続きをした方がいいか?」

「大分、休めているみたいだし、再開しよう。…ルシ、交代だ。休んで魔力を回復させろ。手伝っていた奴もだ。」

『ワン!』


 腐属性を習得した犬人、ルシたちに交代を告げ、それ以外に再開するよう手を叩く。

 この調子だと、まだ進めそうだ。

 護は貰ったサメ型をミンチにしたものをルシたちが作っていたものに混ぜ、メイアと二人で魔法を発動させていくのであった。


~昼~


「マモル様、ハイドロが遊んでほしいって。」

「ハイドロが?」

フルフル


 アンに呼ばれて、部屋に戻ってきた護は、彼女にそう言われた。

 義手の状態を解除したハイドロは、護のかつての飼い猫の姿になって、護にすり寄る。

 それからハイドロに触れた途端、護の中に記憶と感情が送られる。その内容に護は何とも言えない表情になって謝る。


「あー。ごめんな。ずっと仲間外れになっていたんだな。」

ニャー


 夜の情事の際、ずっとハイドロは壁の隅で一人ぼっちでその様子を見ていたことを思い出した。

 オリーはログからの推測で…彼女はハイドロの面倒を見る暇などないだろう。

 結果的にハイドロは一人ぼっちに。ハイドロⅡたちはその時は集まって談合らしきものをしているようだ。それに混じらないのは、主人の元で居たいからか。


「ああ、なるほど。でも、これはな…」

ニャー


 望んで傍にいることは間違いないらしい。

 また、『記憶再生』の副作用で、護たちがしている行為についても、知識、アンが感じている感触、感情を知っている。義手としての役割から外される理由も知っているのだ。

 そうであっても、寂しいし、実体験への強烈な興味が護へと送られてくる。


「…」

「どうしたのマモル様?」


 どう返せばいいのか迷う。護の一存で決めていいのか、と。

 確かに、そういう目的でスライムを使うことはできる。ただ、それは普通のピンクスライムの話であって、ハイドロのように賢い場合は、躊躇いが生じる。

 ハイドロが悪戯して、それを困っている彼女たちを見てみたい気持ちもあるが、それはあくまで護の欲求だ。


フルフル

「駄目だ。」

ニャー


 ハイドロからショボンとした気持ちが流れ込んでくるが、護は拒否するしかない。追加で念を送ると、ハイドロからイメージが。


「そんなこともできるのか?」

フルフル

「今はできないけど、もっと強くなればできる?」

ニャー


 増々微妙な表情になる護とハイドロのやり取りに、アンが置いてけぼりになる。


「何を話したの?」

フルフル…ピトッ


 ハイドロがアンに触手のように伸ばし、護に見せたものと同じイメージを送った。

 たちまち、アンの顔が真っ赤になる。


「!?…絶対にやっちゃダメだよ!」

フルフル


 アンから触手を離し、護にだけ不満を伝えて来た。

 それに対し、鬼になったような気持ちで、前の事やハイドロが提案した事は、本人の許可が出ない限り、してはいけないと叱る。


フルフルフル


 不満たらたらにハイドロは自身から分裂した仲間たちの元に行ってしまった。

 顔をまだ赤くするアンに護は話しかける。


「アン、大体どれぐらい進んだんだ?」

「……はぅ。ええと、八割ぐらい。」

「もうそろそろ、職人たちの工房を作ろうと思うから、数が増えるかもしれない。」

「大丈夫。任せて。」

「済まない。」


 話が変わったことで、アンは落ちつきを取り戻した。しかし、護の視線から隠すように、片腕で自身の身体を抱きしめる。

 護は護で、視線をあらぬ方向に逸らした。

 よそよそしい雰囲気が漂う。話しかけるには二人とも互いを意識しすぎて、どちらからも切り出せない。

 そんな二人の元に、オリーが現れた。


「お二人とも、何かあったのですか?ハイドロがいないようですし。」

「少し、ハイドロと喧嘩してな。」

「そんなことあるのですね。」

「あるみたい。」

「「ハハハ…」」


 ぎこちなく笑う二人に、オリーはジト目こそ向けるが、それ以上追及することはなかった。

 オリーは偶然部屋に戻ってきただけらしい。今はセレスの手伝いをしているそうだ。


「セレスは今どこに?」

「彼女は、職人たちの元に行っています。今作成している魔道具の土台を作成してもらうそうです。」

「ああ、なるほど。」

「セレスお姉ちゃん、どんどん作っているみたいだけど、マモル様、何を渡したの?」

「魔道具に関する基礎知識と応用。この拠点に来てから、頼まれて用意したんだ。」


 貴重な紙を使用して、知識をセレスに渡していた。アンの顔がいつの間にと驚きに染まる。


「渡したのは、アンが遠征に行っていた頃だから、知らないのも無理はない。まだまだ渡し切れていないのもあるし、どんどんセレスは吸収していっているからなぁ。」


 『真理眼』で見た時には『彫刻Lv4』と物凄い成長を見せていた。どこまでも妥協がなく、セレスはやり遂げているようだ。

 護は夜の献身を思い出して、身体が反応にしそうになるのを抑える。先ほどのハイドロの一件もあって、邪まな気持ちが湧きたつ。

 深呼吸をすると治まった。オリーの視線が冷たいが、気のせいだろう。


「セレスの光魔法が達人級になっているのも相まって、かなりの速度で作っていくからなぁ。」

「凄いよね。」

「恋心、もとい、依存とも言える力ですね。」

「ん?」


 護は首を傾げる。アンの『依存』と確かに似ている部分があることは知っているが…

 『純愛』の効果。詳しくは調べてはいない。ただ、スキルの急成長はこのスキルのせいだと分かる。

 セレス本人の話だと、想えば、想うほど、体力、各種ステータスに強化補正が入るそうだ。


「一歩間違えれば、『依存』に変わる。マモル様のことだから、多分大丈夫だと思うけど。」

「悲惨な物語もあるぐらいですから。」

「そんな話、聞いていないんだが。」

「あ…」

「知らない方がいいかもしれません。…言ってしまった以上、ご説明します。ご主人様、『純愛』というスキルは…」


 護は説明を聞いていく。

 終始、顔色を変えずに聞き、護は一言だけ感想を言う。


「これまでと変わらなくても大丈夫だな。」

「うん、マモル様が見捨てない限りは。」


 セレスが耐え切れない拒絶をすれば、『純愛』は『依存』になり果て、狂う。

 強すぎる想いは「祝福」とも「呪い」ともなる。


「不思議だ。想いがスキルになって固定されるなんて、人を不幸にしかしないじゃないか。」

「それは人それぞれ。私は幸せだし、セレスお姉ちゃんもそう。さっきの疑問は、セレスお姉ちゃんの前で口にしないで。」

「ああ、アンたちを否定することだもんな。済まない。」


 アンは頷く。その瞳は怒りよりも不安そうに揺れていた。

 護はアンを軽く抱きしめ、頭を撫でる。アンが離れようとするまで、抱きしめ続けた。


(「祝福」が「呪い」に変わってしまわぬように気をつけないと。変わったとしても、幸せであれるように。スキルであり方までは、決まっていない。)


 護は反省と共に、そう思うのだった。


~夕方~


「護さん…見て欲しいものがあるんですけど…お時間いいですか?」

「ああ、いいぞ。」


 オリーとアンと会話を終えた後、護はメイアの元に戻り、農業組や職人たち、その他の相談に乗っていた。

 鳥柱組が戻ってきたところで、ボールを使い、ルールをアレンジしつつ遊んでいると、セレスに呼ばれる。


「ミゥ!!」

『どうしたにゃー?』

「俺はここを離れるから、後を頼んだ!夕食を作っている奴らから、呼び出される前に戻れよ!ミゥ、忘れていたら罰を与えるぞ!」

『は「隙あり!」…にゃー!マモとの会話を邪魔したにゃー!!』


 投げつけられたボールをがっしりと受け取り、ミゥは投げ返す。それから次々と、ミゥにボールが殺到し始めた。これでは、会話は続けられない。

 視線を感じる。

 傍で休むリーダーがサムズアップしていた。ミゥが駄目でも、リーダーがやってくれるだろう。

 護もサムズアップを返した。さらに、後でリーダーに会って感謝の言葉を言わないと、と心に決め、セレスの後ろをついて行く。


「お、これは…」


 見た目は魔法陣。星の頂点には拳より小さな魔石が置かれ、骨が周りとそれらを繋ぐように設置されている。魔石、骨、共にかなりの細工がされており、時間がかかっているのが分かった。

 おそらくだが、それぞれのパーツごとに作成し、それらを繋ぎ合わせるのに、職人たちの力を借りたことも想像がつく。

 護は『真理眼』を発動する。


湯あみ用・湯沸し器(セレスティアが作成。複数の魔石を同調させることで、水の生成、温度の上昇をそれなりの速度で発生させることができる。魔力との親和性が高い骨を繋ぎとして使用することで、同調率を引き上げに成功している。また、魔力を流し込むことで再装填することも可能。)


「…あの、教会みたいな、大きな浴場は無理だと思います。」

「それを抜きにしても、すごくいい。」

「きゃっ…私も嬉しいです。」


 護が抱きしめる。それに驚いたセレスだが、顔を赤らめて抱きしめ返す。

 スライム浴に慣れていたとはいえ、お風呂が恋しい。こればかりは、この地に来てから、強く思うことだった。


「…一歩前進です。次は、浴場作りです。」

「セレス、それも作るつもりなのか?」

「はい。試してみたいこともあるので…駄目ですか?」

「全然、駄目じゃない。」


 入浴自体は優先順位は食料に関するものに比べれば低くなる。それでも娯楽としては必要だ。

 唇を重ね合わせようとしたところで、セレスが「あっ」と声を上げる。


「…獣人の皆さんはシャワーの方がいいのでしょうか?…毛が…抜けて大変そうです。」

「あー、どうなんだろうか。確かに考えてみるとそうだな。」

「……まだまだ、考えないといけないことが一杯です。」


 二人で笑いあう。そして、口づけを交わした。

 進展への喜びに、淫靡な快感が加わる。息が切れるまで、舌を絡め合い繋がり続ける。

 離れる度に、再び求め合った。

 しばらくして…


『にゃっ!?』

「「!!」」


 二人はバッと、離れた。二人の視線の前には、顔を赤らめるミゥが。


「どうしてここに?」

『メイが探していたから、私も手伝っていたにゃー。ここにとても重なり合っている反応があったから、来てみたにゃー』

「ああ、メイアが探していたのか。そう言えば、全員撤収したのか?」

「とっくにしてるよー?ちゃんと、あいつに言われる前にしたからねー。」

「見えていたのか?」

「むぅー。私は目が良いんだよー?マモとあいつのやり取りをしっかり見ていたからねー。」


 どうやら、ミゥはリーダーに言われる前に、頼み事をこなしたらしい。それよりも、彼女は護をずっと睨みつけている。そして、そっぽを向いてしまった。


「発情している匂いがするー。匂いが残るからー、すぐにばれるよー。」

「…そうなんですか?」

「私たちも当てられるから、気をつけてねー。セレから…」

「少し…静かにしてくれますか?ミゥさん。」

「…」


 セレスの凍てつくような視線が、ミゥを黙らした。そして、セレスは顔を真っ赤にする。

 ミゥが言っていた続きの想像がつく。こればかりは、嬉しいような、分からなかった方がいいような…いや、彼女の尊厳のために、分からない方がいい。


「そ、その…ですね…。決っして…。その…気持ち良かったので…」

「むぅー」


 セレスが完全に茹蛸状態で固まってしまった。

 また、ミゥが脹れている。それから、何を閃いたのか、にやぁと笑う。そして、護に胸元が見えるように上半身を折りながら、腰と尾を妖しく振りながら護に近づいてきた。

 顔を上気させ近づく彼女に、目を奪われる。煽情的な彼女から、護は視線を動かせない。

 彼女が護の腰に手を置いてから、下へとなぞるように動かす。セレスはまだ茹蛸状態で、動けそうにない。


「そこまでですよ、雌。」

「あたっ!」


 助け舟?を出したのはメイアだ。ミゥの背後からチョップを彼女の頭に振り下ろしたのだ。

 護は、金縛りから解放され、セレスを正気に戻す。


「わ、私…」

「護様、探しましたよ。セレスさんと仲睦まじく過ごされているようで結構ですが、その雌とは駄目ですよ?それに、夕食ができました。」

「俺が悪かった。…そんな時間か?」

「はい。」


 棘のある言い方をしてくるメイア。セレスに対して少し妬けているのと、ミゥに魅了されかけていた護を咎めるような感じだ。

 また、耳を澄ませると、職人たちが夕食をとっている音が聞こえる。…とても美味しい部位でできた肉串の取り合いをしているようで、乱闘騒ぎになっているようだ。


「冷める前に、怒りに行くべきか?」

「そうですね。食事を粗末にされるのも困ります。」

『喧嘩は駄目にゃー』

「…私も行きます。」


 護たちは、職人たちの元へと向かうのであった。

 

なんちゃってQ&Aはお休みとします。

サブタイトルがてきとう?…それは、うーん、否定できない…

次回でエピローグです。


補足『依存』と『純愛』

『依存』 Lv制。依存対象への思いの固定化。メリットとしては、対象へ危害を加えようとする相手に対して、Lvに応じたステータス強化。また対象生存時、生への執着が発生し、即死の攻撃でも、LPが一気に0にならず、活動可能。回復も可。デメリットは、依存対象からの拒絶、死亡または、予期せぬ長期離脱が起こると、発狂。対象とその周辺人物への危害、自死といった衝動に突き動かされるようになる。


『純愛』Lvなし。対象への想いの固定化。メリットとしては、対象への想いが深いほど成長速度に補正、ステータスにも補正が入る。また、対象が生存する限り、心が決して折れることは無い。デメリットは、対象からの大きな拒絶、死亡が起こると、『依存』に変化。想いに応じてLvが上昇、発狂。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。