閑話的本編、暗躍
じ、次回は…
~護たちの拠点・砂防林~
「よし、全員揃ったか。」
護はミゥたちの人数を確認する。全員が揃っていた。
とはいえ、すでにだらんと脱力している者が多い。共感は得られても、彼らからすれば、狩りのように燃えるような体験ではないのだから、当然とも言える。仕事量が増えるとなるとなおさらだ。
「今日は長く活動するつもりはない。折角だし、遊びも用意した。」
そう言って、護は試作の皮でできたボールを取り出す。
だらけきっていた者の目がボールに移る。
護はその一人にボールを投げた。しっかり受け止めた一人は、ボールの感触を押して弾む感触に驚いているようだ。
「それはボールっていう球だ。」
『ボール?』
「投げたり、蹴ったり、時には物で打ったりと色々遊べる。それは主に投げたり、蹴ったりする用のボールだ。どんなルールでやるかは、作業が終わってから説明する。こっちに投げてくれ。」
返してもらったボールを『アイテムボックス』に仕舞う。
怠さが少し飛び、やる気を見せ始めた所で、護は喋り始めた。
「遊ぶ前に、やるべきことをやらないとな。俺たちの作業は次に移る。ずっと、改良していたこれも、大分、この環境下で育つようになった。」
護は背後の『ピヌス・ワスティ』の幹を軽く叩く。衝撃によって、羽が付いた種がクルクルと舞って落ちて来る。それを護は手で掴み、前に突き出す。
「こいつを鳥の土柱を繋ぐようにひたすら植えていく。それと、予め決めて置いた場所の周りもだ。だから、二つの班に分ける。鳥の土柱班は移動距離が増えるし、魔物と遭遇することがある。その代わり、俺たちが作った娯楽を、優先的に遊べるようにするぞ。多少の願いも聞いてやろう。」
『!』
「それから、俺はここで肥料を作ったり、相談に乗ったりする。班分けはそうだな…」
護は『真理眼』を発動し、全員のステータスを眺めていく。
始めた頃に比べて、全体的に魔法のレベルが上がった。職のレベルは上がっていないが、労働によって、ステータスが微かに上昇している者も多い。
また、ミゥやリーダー(犬人の仕切り役、護にダンジョンの情報を提供した彼)を除くと似たり寄ったりのステータスだ。
「喧嘩はなし。ミゥはレベル上げを兼ねて鳥組に、リーダーは農場予定地に。後のメンバーの選定は二人に任せる。ひとつ言っておくが、交代はするぞ。だから、リーダー組になったとしても、落ち込む必要はないぞ。」
『マモ、任せてにゃー』
ミゥとリーダーがメンバーを分け始めた。不満を持つ者も出ている。それでも暴れ出す奴は今のところ、出てはいない。
それから十分後、口論になりかける寸前までいったものの、平和に二班に分かれる。やや、鳥組の方が多いが、問題ない。
また、その間に護は砂のままの場所から砂を持ってきていた。
「今日から、記録をとっていく。メンバーが入れ替わるからな、その記録を頼りに、作業を進めていくんだ。それで作り方は…『クリエイト』」
砂が動き始め、護の手の上で、石板の形をとっていく。そして、鳥の絵と王国での数字が描かれる。
「鳥組は植えた所の土柱に描かれているマークを記録する。それで、休憩所に置くんだ。ただ、どれが新しいか分かるように、置き方を工夫するか、古いのは壊すなりしてくれ。行く時にこれを持って、場所を目指して移動すれば、続きを探す必要がなくなる。」
『分かったにゃー。でも、マモみたいに作るのは難しくないかにゃー?』
「ここまで綺麗に作る必要はないし、全員で作れとは言わない。魔物が襲ってきたりもする訳だ。誰が作るかをあえて、決めておくといい。」
『えーと、サァ!君に任せるにゃー!』
『ちょ、ちょっと、俺も戦いたいっすワン!』
いきなりの決定に、サァと呼ばれた犬人の青年は反論する。
ミゥは彼の腕をガシッと掴んで、笑う。
『長の指示にゃー?破っていいのかにゃー?……にゃっ!!?』
「ミゥ。それはやってはいけない。サァ、最初は君にする。だが、交代してやるように。次はミゥだ。」
「え~」
ミゥの近距離の上目遣いで甘えるような仕草に、護は体を離し、拳を下ろす。
彼女は涙目になりながら、こくこくと頷いた。
護はやれやれといった感じで、獣人たちの前へと戻る。
トヴァを威嚇しているようだし、一体どういうことなんだと不思議に思いながら、気を取り直し、リーダーの質問に答えることにした。
『こちらでも記録をとるのかワン?』
「いや、こっちは任せようと思う人材がいる。…もうそろそろだな。」
「あ、あのー。私をお呼びでしょうか?」
おどおどと現れたのは鳩人のラーだ。生産職を担当しているセレスの元で、職の変更を行ってきた後、こちらに来るように、言っていたのだ。
視線が集まって、ラーは体を幹の後ろに隠す。
「彼には『吟遊詩人』から『書記』に変わってもらった。」
「そうです。センスのない『吟遊詩人』から変わりました。あの、族長、私、帰っていいですか?皆さんの視線がきついです。」
「顔を出さずに木の後ろで話を聞いてくれ。」
「は、はいぃ。」
ラーは顔を引っ込めた。
護は手を叩き、剣呑な顔つきをして苛立っている獣人たちの視線を集める。
「ラーに上空から詳細を記録してもらう。だから、リーダーの班は記録する必要はない。」
『信用できるのかワン?』
「ああ。これについてはラーが適任だと思っている。」
「もし、失敗しても、餌にされませんよね?」
「流石に、餌にはしないが…どうやってこれまで生きて来たんだ?」
背後への質問は、おどおどはしながらも、直ぐに返ってきた。
「狩りの時はすぐさま逃げ出して、本を読んだり、幼い子供たちと親に隠れて遊んでいました。食べ物は、数少ない実をひたすら逃げながら探したり、たまに譲ってくれるものを食べたり、何とか繋いで…」
「戦場に向かうつもりはなかったみたいだな。捕まったのか。」
「逃げ切れなかったんです。かつて面倒を見ていた子供たちに追われて。」
(自業自得、だろうか…)
ある種の同情が護の中に湧く。獣人族を取り巻く環境が切羽詰まっていなければ、居場所があったかもしれない。
しかし、ラーの選択を周りは怒り、許さなかった。
その結末が死でないだけ、彼はマシ、もしくは残酷な道を歩んでいるかもしれない。
ともあれ、護はトーンを落として、言葉を紡ぐ。
「不用意な質問をしてしまった。すまない。」
「全ては戦えない、私が悪いんです。無理矢理レベルを上げられた時に、あの族長に首を切られていた方が良かったんです。あいつが死んだのも…」
『やっぱり変えた方がいいのではないかワン?』
「いや、何も考えずに聞いてしまった俺が悪い。しばらくしたら落ち着くだろうし、理由はちゃんとある。」
過去を彷徨うラーをしばらく静観することにし、苛立ちを覚えている獣人たちに護は理由を言う。
「まず、単純に字は書けるし、計算ができるんだ。その分、記録が詳しくなる。そういうのは、ミゥたちが苦手だろ?」
『私だって、できるようになったにゃー!』
「悪かった。でも、ラーには負けると思うぞ。後、空を飛べる。別に戦闘に使える能力じゃない。今、この拠点に必要の一つだ。上からの図を、地上から作るのは難しい。だから、彼には学んでもらって、地図を作ってもらうつもりだ。今回はその訓練も含めている。」
(地上からでも測量は出来るみたいだが、人手がない。)
正確さはいらない。簡易的なものでいい。それでも、ある程度分かる地図が欲しい。
護の理由に納得いかないようだ。ラーに対する信用がなさすぎる。
「今はしょうがない。でも、いつかは、周りを認めさせるような男になっていると、信じている。今は、俺を信じてくれないか?」
ミゥたちは、護が嘘をついていないことと本気でそう思っていることを感じ、留飲を下げる。
「私はマモを信じるー。」
『とりあえず、待ってみるワン』
ミゥとリーダーがそう言ったことで、周りから完全に険悪さが抜けきった。
「ありがとう。さて、今日は種を集めたり、肥やしづくりをするぞ。それが終わったら、遊んでみよう。」
『とっとと、終わらせるにゃあ!』
雰囲気が一点して変わる。大騒ぎになりながら、獣人たちが散らばっていく。
護は残ったサァとラー、ミゥを連れて、石板づくりの練習を始めるのであった。
~拠点の外れ~
「うにゃぁあ!!」
「まだまだ、へばる暇はないぞ!!」
ガンドルフの盾に吹き飛ばれた男猫人が暑い砂地に吹き飛び、ぶっ倒れる。
そこには死屍累々。ガンドルフとシィに扱かれて、倒れた獣人たちで溢れていた。
「あばっ、ガンドルフさん、きゅ、休憩を…」
「進んで志願した巡回組が羨ましい…」
「調査組の方が良かったかも…」
「鬼…」
冷たい水をぶっかけられて、気持ちいい筈なのに、それを疲労と痛みが感じさせない。
さらに、すぐさま暑さで冷たさはぬるさに、砂は引っ付くし、毛の中に入り込んで、気持ち悪くなる。
シィはガンドルフに負けた友人の女猫人の額を指でツンツンと突きながら、ぼやく。
『情けないにゃ。ガンドルフさんに五人で挑んでボコボコにされるなんて、とても無様にゃ』
『シィだって、一騎打ちで負けていたじゃないかにゃぁ』
『うるさいにゃ』
『ぶげっ…酷いにゃぁ』
強めのデコピンを友人の頬にし、ガンドルフの前に立ち、練習用の石ナイフを構える。
ガンドルフも、盾で応じる。
「来い!!」
「!!」
シィが軽やかな足取りで、ガンドルフに接近する。
ゴンッ!
シィの突きは盾で受け流される。それでもすかさず、反転し、喰らいつく。
「ッ!!」
「どうした、シィ!!右が疎かだぞ!」
「くぅ!」
シィの右側へ、ガンドルフの左足が振りぬかれる。単純であれ高威力だ。
残っている左腕は、伸びきって防御に使えない。シィは勢いのまま身を倒すように回避、空中で身体を捻り、石ナイフを蹴りから踏みつけに変わったガンドルフの足に投擲した。
「おっと。そっちが狙いか。」
「ふーっ、ふーっ。」
石ナイフを無視した踏みつけは不発に終わった。砂を隆起させ、自身の身体を流すのと同時に、砂に嵌った足を固定したのだ。
それはすぐさま砕け散ることになるが、距離をとって、立て直しは成功した。
「こっちの番だ!」
ガンドルフは盾を構え、一歩目を踏み出す。それは沈みこまず、ニ歩、三歩と加速していく。
「痛っ!」
「遅いぞ!」
右斜め後ろへの回避に合わせて、盾が飛んできた。速度が乗った攻撃であり、足が地を離れていることもあって、真正面から受けてしまう。
シィが砂地を転がっていく。また、ガンドルフとシィの間に盾が転がった。
すかさず、ガンドルフは盾を正確にシィへと蹴り込む。
「あぅ!」
防御に使った石ナイフが砕け散り、指がおかしな方向に折れた。痛みで涙が滲み、顔が苦痛に染まる。
それでも、シィは闘志を燃やし体勢を直そうとする。
「がっ!」
しかし、距離を詰めたガンドルフの拳が、シィの腹にささり、シィは九の字に倒れ込んでしまった。
さらに、ガンドルフは倒れ込んだシィを容赦なく蹴り上げ、転がす。
シィの戦意が完全になくなり、全く動かなくなってしまったところで戦闘は終了した。
「『ミドルヒール』」
「うぅ…」
ガンドルフに回復魔法をかけられ、酷い青あざとなっている部分が癒えていく。折れた指も矯正し、治されていった。
そして、痛みが収まっていくのと同時に、シィは涙で地面を濡らし、叫ぶ。
「ひぐっ、むー!また、また、負けた!ガンドルフ爺ちゃん、強すぎる!!」
「そりゃあ、レベルも違うし、生きて来た年が違うからな!後、爺ちゃんと言うなよ!見た目はまだまだ、若いだろ!?」
「ところどころ、爺臭い。」
「なんと!?」
そう、マモが言っていたとシィは心の中で付け加える。
顎に手を当てて、悩んでいるガンドルフをスルーし、シィは立ち上がる。
友人の視線が気になった。シィはまだ寝転がっている友人へとしゃがみ込んで、再び突き始める。
『やっぱり勝てなかったにゃぁ』
『あのガンドルフ爺ちゃんに勝てれば、マモにだって勝てるにゃ』
『マモにも勝てないのに、ガンドルフさんに勝てない、が正しいのじゃないかにゃぁ』
にやりと笑う友人の頬を引っ張る。周りからも笑い声が聞こえて、シィは『威圧』をかけて黙らした。
『マモは絶対に倒すにゃ。負けたままは嫌にゃ』
『そう言いつつ、挑戦してないにゃぁ』
『マモは忙しいにゃ。それぐらい分かってるにゃ。…私は、全力のマモに勝ちたいにゃ。忙しいマモが全力を出せるとは思わないにゃ』
それを聞いて、フフッと笑いを止めない友人を蹴り飛ばして、シィはガンドルフに再戦を挑む。
次は負けないと闘志を燃やし、再び強大な相手へとシィは走り出した。
~砂漠・調査組~
「今日はここまでにするさね。」
「エトリアさん、さきに、進まないのか?」
「トヴァちゃんがどこまで、できるのかの確認だからねぇ。先には進まないよ。」
日が頂点を通り越し、傾き始めた頃、十度目の戦闘を終えて、エトリアは撤退の指示を出した。
魔物によって倒された土柱を立て直し作業と魔物の討伐。そして、トヴァ自身の能力と『予知』がどこまで、できるのかのテストのために、調査組と巡回組を連れて、鳥の土柱まで進んきたのだ。
「お家から、丸、三角、四角、犬、猫、鳥で立っているんだね。最初見た時は、怖かったの。」
トヴァがここに来るまでの道中で呟いたことである。
護の索敵範囲は、一番近い三角の土柱まで。トヴァたちはそこまで砂漠に建つ柱に怯えながら、進んだことになる。それも、今となっては、迷わないようにしていると安心できる。
ただ…
「敵が気付いたら、一気に攻め込まれそう。便利だけど危なくないの?」
「今の敵は、魔物だけだからさね。それに数も少なくて、拠点で守ればいいだけだからねぇ。」
「そっか。…エトリアおばさんたちは、いつか他の獣人たちと戦うって、考えてるんだ。」
「できれば、戦いたくないんだけどねぇ。」
「それは出来ないと思うの。あの人たちは、自分が良かったらいいだけなの。私たちのことなんて、使えなかったら、餌とか思ってるの。」
「大丈夫さね。私たちは見捨てないさね。」
「知ってる。ここにいるみんな、本当に変わってるの。私たち、見た目が違うだけで敵、って思わされてたのに、ここは色んな人たちが、エトリアおばさんと一緒に暮らしてるの。凄いことなの。」
「そんな風に考えているなんて、偉いねぇ。トヴァちゃんみたいな頃は、考えずに随分やんちゃしてたもんだよ。」
エトリアはトヴァの頭をやさしく撫でた。トヴァはそれを嬉しく、そして恥ずかしく受け入れていた。
「おら、トヴァちゃんみたいに、考えたことないべ。」
「あんたは、獲物を追っかけてるだけじゃん。あんた、よくここにいるわね…」
「そりゃあ、こっちの方が、いっぱい食べられそうだなぁと、思ったべ。そのためなら、他のこともするべ。」
そんな会話が聞こえる。トヴァは顔を真っ赤になった。
「恥ずかしいの…」
「堂々としていたらいいさね。すこーし、考えたらずもいるけど、悪い奴じゃないさね。」
「うん!」
朗らかに笑うトヴァ。周りもつられて笑う。
それからしばらく歩き、拠点に大分近づいた。トヴァの顔が警戒に染まる。
「いやな感じがする。…あのサメさんたちが数匹、向こうからやってくるの。」
「全員警戒しな!!」
トヴァの言った通りに、砂を泳ぐサメ型が近づいてくるのが見えた。
立っている柱を器用に躱し、エトリアたちの元へと、五匹の群れがやってくる。
「最初に、エトリアおばさんが牽制してほしいの。三匹足止めして、二匹を最初に殺るの。」
「分かったさね。『障壁』!」
トヴァの指示で、若干遅れていた三匹が、急に現れた障壁に激突する。また、二匹が接近してくるが、トヴァの魔法が発動した。
「『ロック・ハンマー』。かち上がるの。」
土の柱が、二匹を的確に砂から空中へと吹き飛ばす。それと同時に、獣人たちが動き出した。
「あああ!折れた!」
『槍にして隙間に突き刺した方が上手くいくにゃ!』
『一撃だワン!』
外殻ごと不慣れな魔法で作った土の剣で切ろうとした男猫人の剣が折れる。その横で、短槍を作っていた、女猫人が、隙間に突き刺し、血が溢れる。
さらに、痛みでのけ反っている所に、槍を目から脳へと女犬人が突き刺し、止めをさした。
もう一体の方も、三人で対処し、男犬人が大槌で口めがけてフルスイングしているのが見える。
「リィさん、もう少し右なの。…今!」
『ウォーター・ランス!』
『障壁』を潜り抜け、前衛組を狙う三体目に、水の槍が当たった。しかし、外殻を突破できない。それでも気を引くには十分だ。動きが一瞬だけだが、迷った。
『二体目!!』
『ちょっと、ずるいにゃ!!』
女犬人が血に塗れた槍を手放し、『アイテムボックス』から予備の槍を取り出す。そして、投げつける。
的確に口に刺さり、血が溢れた。殺し切れていない。結果に舌打ちが漏れる。
動きが止まった彼女と交代するように、突っこんだ女猫人が杭を血を流して暴れまわるサメに突き刺し、魔法を発動する。
『『ロック・スパイク・ランダム』にゃ!』
「素材が勿体ない!」
内側に土の杭を生やされたサメ型が絶命する。酷い有様に、一人から悲鳴が上がる。
『マモなら活用してくれるにゃ!』
『族長に面倒を押し付けるなワン!!』
「セェ、しゃがんで!!!」
杭の女猫人もとい、セェが強制的にしゃがみこむ。その真上を吹き飛ばされた四体目が通り過ぎて行った。
セェから「ほえっ!」という声が聞こえるが、それどころではない。
「気をつけて!ロシュ、後ろに三歩!」
「……こいつ、魔法を!!」
ロシュと呼ばれた男犬人が居た所に、砂の塊が降り注ぐ。かなりの速さで、当たれば確実に怪我をするだろうという代物だ。
周りを囲むように、砂の壁を作り始めたサメ型へ突っ込もうとする獣人たちをトヴァは抑え込み、残る五体目に止めを刺すよう指示をだす。
『ここに来いコン!』
『トヴァちゃん!?』
前に出て、地面を揺らして誘ったトヴァに、サメ型が地中から食らいつこうとする。
不意を突かれたリィが遅れて彼女を追いかけるが、間に合いそうにない。代わりに反応したのはエトリアだ。
「トヴァ!…『ライト・シールド』!!」
エトリアの防御魔法がトヴァの四方を囲むのと、サメ型が食らいつくのは、同時だった。
キィィン!
「このタイミングなの。『ファイアボール・ナイン』」
顎が光の防壁に塞がれる。そして、防壁の外に九つの火球が出来上がった。
口を閉じようにも閉じられない状態のサメ型の体内へ、火球が入っていき…爆ぜた。
黒い煙と砂埃が舞う。リィとエトリアが顔色を変えて、その場所へと走る。
「凄いなの。」
「大丈夫だったかい、トヴァ!」
「ナイスタイミングだったの。」
「全く、心配させるんじゃないよ。」
「ごめんなさい。でも、魔法を封じるには一番だったから。」
力なく横たわるサメ型の口から防壁を利用して出て来たトヴァは、エトリアに謝る。
雄たけびが聞こえる。五体目の止めを、あの土剣の男犬人がしたようで、彼が叫んでいた。
戦闘は終わったのだ。
それぞれが興奮の余波を宥めて、後片づけしている中、リィがトヴァに申し訳なさそうに声をかける。
『トヴァちゃん、私たちの魔法、役に立っていたのかにゃ?』
「リィさんたちの魔法のおかけで勝てたの。エトリアさんと比べちゃいけないの。」
『それは分かるけどにゃー』
「私でも、あの威力と速さは真似できないよ?族長やメイアさんは、使い慣れている感じがするし、エトリアさんたちはもっと使ってきたの。私たちはもっと頑張らないと、魔法は上達しないの。才能があるから、あとは磨くだけなの。」
『トヴァちゃんが言うなら、頑張ってみるにゃ』
その後、魔物を仕舞い、周囲の柱に問題がないことを確認して移動を再開する。
拠点に戻ったところで、盛り上がっている仲間たちがいることに気づく。
「あいつら、何をやっているのさね。」
「面白そうなの。」
屋根を作って外野から応援している遠征組と、ボール三つでドッジボールをしている農業組が。
また、さりげなく混じっていたガンドルフの剛速球が、キャッチし損ねるどころか吹き飛ばしているところを目撃する。
大きな歓声と、更にボルテージが上がっている彼らに、エトリアは脱力した様子で、近づいていくのであった。
~拠点~
時は少し遡る。水晶の間と呼ばれるようになった場所で、ラーが職を変更し、護の元へと向かった後だ。
そこには新たに加わった獣人たちと、なぜかトヴァの兄、モンが。
「あなた、戦闘職ですよね。妹さんなら、調査組たちの元へと向かいましたよ。」
「俺はここでいいんだ。職を変更したい。」
「何にですか?」
「…鍛冶師だ。」
「経験が?」
「少しだけだが、ある。」
メイアは顔には出さないが、内心では疑問を覚える。
護とのやりとりを見ていたが、妹のトヴァのことを溺愛とも言えるほど、過保護にしていたはずだ。急に心変わりする理由は…
「トヴァさんに頼まれたのですか?」
「…」
目が泳ぐ。それが如実に肯定していた。
「私は、無理にやれとは申しません。ですが、中途半端にされるのが嫌いです。」
「中途半端になんかしねぇ。妹の頼みを無為になんかするか。」
「分かりました。そう言うのであれば。」
「?」
「さっさとしなさい。貴方だけにかける時間はありません。」
「お、おう。」
メイアに急かされ、ポカンとしていたモンは『職変えの水晶』に手を触れる。
出てくる項目を変え、『鍛冶師』を選択する。理が代わるのを感じながら、ステータス上の職が、『鍛冶師』に変わった。
「変えてはもらいましたが、金属がありません。」
「ああ、知ってる。トヴァから聞いた。それは俺が持ってるし、上手くやれば見つけられる。」
「そうですか。では、行きましょうか。ついて来てください。」
メイアは歩き出してしまった。
獣人たちは特に説明という説明がなかったので、思考が停まりそうになる。
慌ててその後ろをついて行くのだった。
「ここが、俺たちの?」
「まっーたく、ない。」
『暑いだけチュー』
メイアが案内した場所にはほぼ何もなかった。縄で括られた範囲に一つの看板が立っている。
《生産ラボ、建設予定地》
一陣の風が、土を舞い上げる。絶句してしまった場で、メイアが告げる。
「護様の伝言です。『要望に添えた施設を作りたい。三日後までに案を練ってほしい。それから、建造にかかる。』とのことです。」
「建物の作り方なんて、知るかよ!!」
「そうでしょう。ですので、あくまで要望を聞きたいだけです。何が欲しいとか、言わないと作る側も困るわけです。貴方たちの仕事を護様は詳しくは存じておりませんので、貴方たちが求めないといけません。」
「じーゆーうに、言っても、いーいーのか?」
「はい。ただし、無理な物は諦めてくださいね。」
おぉっ!という声が上がる。職人の端くれ、もしくは下っ端だった彼らに、この待遇は大きすぎた。
色々と熱が上がる彼らの中、それについていけない者が一人。
「そもそも、俺たちの腕を信用しているのか?…俺たちは捨てられた奴らだぞ。」
「いえ。ですが、ご安心を。嫌と言うほど時間を与えますし、できるまで、レベリングから知識の提供をさせていただきます。」
「いーやな、予感がする。」
「そんな身構えないでください。貴方たちをここに来た時点で、追い出すことはありません。才能がなかったとしても、できる範囲でしてもらうつもりですし、他のこともしてもらうだけですから。」
メイアが微笑む。
それが悪魔の笑みに見えてしょうがない。不意に手を叩く音に、ビクッと震える。
メイアはポーカーフェイスに戻り、
「ここでできることはありません。貴方たちの住居に戻りましょうか。すぐにでも取り組めるように、色々と考えたり、決めたりする必要があるでしょうから。」
『は、はい』
獣人たちは大人しく言うことを聞くしかなかった。
一方、セレスとアン、オリーはというと…
「あ、入れ過ぎた…」
「ここは、これで…」
「分かりました。貯蔵庫から冷凍したボアの肉を解凍して、ハーブを使いましょう。確か、岩塩も残っていましたね…」
アンは『調合』、セレスは『彫刻』、オリーは獣人たちの料理の相談に乗っていた。
それぞれがバラバラな行動をとっていたが、ひと段落着いたところで、三人の視線が交わる。
「…アンさんは何を作っていたのですか?私は…三台目の魔石焜炉を…」
「私は、なんていえばいいんだろ。普通の水薬に魔力回復薬を混ぜてみて、効果がでないか、試していた。出来たけど、味が酷すぎてスライムたちにしかやれない。」
「ほどほどにしておいてくださいね、アン。必要な時に無くなったらだめですから。」
「分かってる。」
アンは趣味で『調合』をやっている。護たちから素材を受け取ってみては、色々やっているようで、気づかない内に実験台になった時は、オリーも本気で怒った。
オリーとしては、生き生きとしているアンを見られて嬉しいが、表には出さない。
「それで、ご主人様から頼まれたことは終えたのですか?」
「まだ。変化薬じゃないから、レベルの上りが遅いみたいだし、手間も多い。」
「規模がどんどん大きくなっているので、育成は急務でしょう?水薬の実験をしている暇は無い筈です。」
「オリー、息抜きにしていただけ。七割は終わっているし、期限もマモル様に自分で決めていいって、言われてるから。それに沿って順調にやっている。」
「そうであるならば、何も言いません。」
オリーは胸を下ろす。アンに多少疎まれようとも、落ち込む姿は見たくない。
(アンの喜びが私の全て。ご主人様の機嫌には気をつけないと。あの方が嫌う要素はほとんどない…とは思うのですが、越したことはないでしょう。)
談笑する二人に、そう思うオリーであった。
しばらくして、三人がいる部屋に男女二人の獣人が慌てた様子で入ってきた。
「オリー!!手伝ってほしい!!」
「セレ!この魔石、割っちゃった!ど、どうしよう!?」
更に…
フルフル
その背後に大量のスライムが。
「向かいます。」
「…落ち着いてください…代わりはあります…それより怪我はないですか?」
「ハイドロが呼んだの?…そうだね、再開しないと。」
三人はそれぞれの持ち場に移動するのであった。
~???~
『あいつら許さねぇ…にゃ』
「何で、俺たちがこんな目に…」
ズタボロの猫人たち。魔物に追われ、エルフに追われ、数を居場所を無くした者たちの怨嗟が続く。
虚ろな瞳をする彼らの前に、一人、女の同族がやってきた。
発光茸が弱く照らし、白い耳に赤い目と綺麗な漆黒のドレスを際立たせる。まるで、パーティーにでも赴くかのような姿だ。
場にそぐわず異様とも言える。しかし、猫人たちはどうでもよかった。
「寄こせよ、飯持ってんだろ?」
「…」
ほとんど何も食べられていない彼らは、食べ物を要求するが、赤い目も唇も動かない。
『殺して、奪うにゃ』
「ほう。」
グシャァ!
殺気を向けた猫人の顔が弾け飛んだ。血で染まった顔面大の岩が転がる。
ようやく気付いた彼らは逃げようとする。しかし、身体は動かない。
「逃げようとするか。食欲ですら、その程度。使えない。あの男のように、憎悪と性への渇望が大きいわけでもない。所詮、獣のくせに、獣以下とは笑えるな。」
「なんだ、てめぇ…」
「た、助けてくれよぉ!」
命乞いをした男猫人の頭が無くなった。
悟る。最初に逃げるべきだった。あの女は自分たちを見定めに来て、そして、捨てたのだ。
始まった惨劇から逃げ出すことすら許されず、血だけが樹海を染めていく。
「やはり、あいつの言う通りか。」
全てを頭なし人形に変えた後、彼女は眉を顰める。
「『獣人とエルフの戦争は魅力的じゃない。XXちゃんが望むような素体には恵まれないよ。多分、真面目だから、実験せず捨てちゃうじゃないかな。』…くっ、あいつの言っていた通りだ。」
目の前の状態を見て、あいつが言っていたことが正しいことを実感する。
「だが、面白い状況も確認できたぞ。あいつをぎゃふんと言わせてやる。」
そう心に決め、白き耳は黒に、赤き目も黒に染まった女は闇に紛れていく…
A:なんちゃってQ&Aを行うぞ。
Q:サブタイトルが酷い…色々同時進行しているのは分かりますけど。
A:あぁ、そうだな…。
Q:あと、XXちゃん、その悪の組織に向いている性格なんですかね?大分、ちょろそうな雰囲気がしているんですが?
A:さぁ?
Q:…
ちなみにXXちゃんは本名ではないです。例のごとく二文字。ただし、コードネームを与えられているので、そちらは『無慈悲』となっています。
それから、あと一話入れて、エピローグにする予定です。




