治療、決意、離脱
も、もうそろそろ…
~樹海深部~
『どこに向かっているかにゃー?』
「とりあえず、南だ。ここからじゃ、兵士に見つかる。」
『そうなのかにゃ。…さっきからしんどいにゃー』
樹海樹を木から木へと移動していた護は、太い枝の上で彼女を下ろす。
明らかに辛そうなミゥの額に手を当てると、途轍もなく熱い。高熱を出していた。
(『真理眼』)
ミゥ (女・21歳・猫人族)職 上級狩人Lv59
LP 254/460 MP 488
STR 553 AGI 693
TEC 664 END 638
INT 513
一般スキル 弓術Lv7 長弓術Lv6 気配察知Lv4 魔法(水・土・風)Lv5(土)Lv2
体術Lv2 料理Lv3 調合Lv1 集中Lv3
職スキル 視力強化Lv1 アイテムボックスLv5
エクストラ 逆察知Lv5 超・制御Lv4 本能回帰
状態 右足損傷 化膿 高熱 脱水
(っ。傷口を放置したつけが来たか。流石に、折れた足を治すような知識は…)
護は急いで結界を張り、彼女に告げる。
「しばらく、眠ったようになる。何かがあれば、思い切り揺すれば目が覚めるから、そうしてくれ。」
『何を言って…』
「『完全なる図書館の司書』」
意識が暗転する。幹に座る形となってもたれこみ、意識はあの白い空間へと導かれた。
『お久しぶりです。何をお求めですか?』
「人体の本と、外科治療に関する本だ。」
『…1万件以上、本は13254冊、資料は34567件あります。』
「骨、縫合、出血をキーワードに追加。魔法による接骨と縫合を優先に。」
『少々お待ちください。…本は1999冊、資料は3945件にまで絞れました。魔法は全てに該当するため、対象を絞り切れません。』
「獣人を追加。」
『18冊、資料は2654件まで絞れました。』
「これならいけるか?」
護は棚一つすら埋めない本から、一冊の本を取り出した。本の名は、『獣人治療~敵対する者たちを知る~』という、匿名で書かれた本だった。
護は古びたその本から、欲しい情報にたどり着く。
「原則、人族の構造と変わらないが、筋肉の質に差異があるように見られる…?まあいい。とりあえず、この図をイメージできれば何とかなる。後は、『キュア』…ばい菌を殺すイメージでやればいいのか。他にも必要なことは…」
必要な知識を全て脳に直接焼き付け、護の意識は浮上する。
「「わっ」」
「痛たーっ」
至近距離で護の様子を心配していたミゥをのけ反らせる。痛みで大きく動いた彼女は上半身から、地面に落ちかける。
「危ない。」
「びっくりしたよー」
咄嗟にミゥの左足を掴み、落下を阻止した。慎重に上半身を引き上げて、膿んでいる右足を直視する。
護は息が浅くなるのを、深呼吸で整える。
「やるしかないか…」
覚悟を決め、ナイフを取り出すと、火で消毒する。
何をするつもりなのか悟り、怯える彼女に魔法を使う。
「『スリープ』『パラライズ』」
意識が途絶え、しっかり眠っていることを確認し、護はナイフを彼女の右足へと当てるのであった。
~十二時間後~
『う、う…あれ、寝てるにゃー』
ミゥは自分の隣で眠っている護に気づく。そして、怠く重かった身体が軽くなっていることにも。そして…
『右足が動くにゃー!』
驚きと共に、護を揺する。揺すられた護は、短剣を構えて跳び起きた。
「敵か!?」
「起きたー!これ、あなたが治したの!?」
「ああ。…覚えたての知識で外科手術は二度と御免だ。LPと魔法が無かったら、絶対に殺してるぞ…」
返事以外は、ボソッと呟く護。ミゥの耳にも入ってしまったようで、少し護から引いた。
『にゃにゃ、初めてでこれやったのかにゃー!?』
「そうだな…えーと、違和感はあるか?」
『ないにゃー!』
「そうか、良かった。」
(魔法さまさまだけどな。)
結果に、一安心する護。『真理眼』でも状態枠が消えている。
ふと、気になったので、自分のステータス画面を開く。
明石宮 護(男・17歳・半人半精?)職 Lv87
LP 735 MP 112/754
STR 811 AGI 777
TEC 738 END 769
INT 780
一般スキル 剣術Lv5 短剣術Lv7 体術Lv5 盾術Lv2 槍術Lv6
魔法(光・水)Lv8(火・風・土・雷)Lv6(闇)Lv3
気配察知Lv5 威圧Lv1 拷問Lv1 調合Lv3 料理Lv3
不屈Lv6 集中Lv5
職スキル アイテムボックスLv7 浄化Lv3 テイム 守護Lv4 障壁Lv2
エクストラ 完全なる図書館の司書 真理眼 言語理解
合成魔(日)Lv5 妖精の秘奥(E・L・F)
(光と水属性を使いまくったからか、かなり伸びている。)
レベルが上がっていない。死にかけたとはいえ、相手は格下。無双しても、何の得もないレベルシステムに様々な意味で虚しくなる。
そんなことはお構いなしに、時間は進んでいた。日は暮れかけていて、赤い空が見える。
「ミゥ、動けるか?」
「私の名前、教えたっけー?」
「鑑定持ちだ。そういや、俺の名前は護だ。今更だが、よろしくな。」
「うん、マモ。あと、動けるよー」
「よし。じゃあ、西へ行くか。」
「え?もっと南から行くつもりじゃなかったのー?」
「試してみたいことがある。」
護は笑って見せると、「任せるねー」と抱き着いてきた彼女を連れて、動き始める。
そして、西の砦の壁が見える位置まできた二人はあることを試していた。
「『イル―ジョン』」
「わっ、姿が消えた!…にゃっ!!」
何もない空間から、腕が伸びてきて、彼女の腕を掴む。彼女が見た目に反した力で、振り払おうとするのを、それ以上のSTRで抑えた。
「落ち着け。俺だ。」
「びっくりさせるなーっ!でも、これ、面白いかも。」
「これと、風魔法を使って見張りを躱す。後、『ミラージュ』と『コピー』」
ミゥの姿が、エルフの姿に見える。尾は腰に巻いてもらって、ベルトように偽装した。
護も、顔の各パーツを変えており、耳飾りなどの意匠も変えている。別人に偽装していた。
「二人に使うとなると、イメージの維持がきついから、俺は基本、コートを変えて、顔を隠すようにする。」
「入ってからどうするのー?」
「どの魔法もずっとはキツイ。俺が元いた建物に行こうと思う。」
「マモの仲間はー?」
「アドリブ。絶対に、ミゥを殺させはしない。その時があったとしても俺が先だ。」
ミゥをシィに合わせてからのことを何も考えていない。最悪、エルフたちから追われるような立場になるかもしれない。
しかし、それでも、進まなければ。
「止めるかにゃー?」
「いいや。行くぞ。」
奥歯を噛み締め、イメージを練る。
「『イル―ジョン』、『サイレント』。走っても大丈夫だ、切れる前に突っ走る!」
見張りの中で、二人の距離が離れている間に、『イル―ジョン』の道を作り、走り出した。音は全て、『サイレント』が『イル―ジョン』の空間内で収まるようにしている。
二人が動き始める前に、壁を乗り越え、侵入する。
(やばっ)
一人が道の方に近づきだした。今の護では、魔法の発動範囲の変更はできない。重ねがけなど、もってのほかだ。
全力疾走しつつ、バレないことを祈る。
(よしっ)
もう一、二歩近寄られると、気づかれていたかもしれない距離で、再び元の位置に戻った。
一気に壁を駆けあがり、そして飛び降りる。下は、道になっていて、この時間帯に移動する者は少なく、光は遠い。
(『ミラージュ』!そして、『サイレント』)
ミゥの姿を変えて、自身は外とうを目深に被る。
着地の音を消し、一番近くにある木の陰に移る。また、少しだけ見張りの声が聞こえる。
一瞬だけした風切り音に疑問を覚えながらも、こちらへ来る様子はなかった。
「動くぞ。」
「…」
ミゥの前を護は歩く。西の砦の正門付近に近づくにつれて、エルフたちの数は増える。しかし、護たちに絡む者は誰もいなかった。
どんちゃん騒ぎで、ほとんどの者が酔いつぶれており、起きている者は彼らの世話に忙しい。
護が闇魔法で意識を少しずらしていることもあって、すんなりと目的の建物に着いた。
「ふぅ…」
息を整え、扉を叩く。
「どなたですか?」
オリーの声だ。護は簡潔に答えた。
「護だ。」
扉が勢いよく開かれ、目を大きく開けたオリーが出迎える。
「よくぞ、ご無事で…その方は?」
「事情は中に入って話す。」
部屋の中では、護人形を抱えて、泣きはらした跡があるセレスと人形を強く抱きしめたアンがこちらを真っすぐに見つめて言葉をなくす。
そして、何より…
「護様!!」
「おぇ…。メイア、遅くなった。」
「捜しました。で、その女は誰なのでしょう?大体、想像はついています。…なぜ、護様が庇うのですか?」
ミゥの偽装を解くと、その場の空気が一気に凍り付く。
メイアが『宵闇』を鞘ごと取り出し、今すぐにでも抜き放てる状態で、護を押し倒す。
「副作用の時に、俺のことを守ってもらったんだ。」
「…」
「彼女を襲っていた魔物を殺して、それからはしばらく行動を…」
「情が湧いたの?敵だよ?」
「敵だった、が正しい。俺たちを襲ってきた事実に変わりはない。でも、戦闘は終わった。仲間とは言えないが、少なくとも俺たちの敵じゃない。」
「納得がいかない。…でも、マモル様が言うなら、とりあえず信じてみる。」
アンは護を信じることにする。とは言え、目の前の猫人への険しい視線は向いたままだ。
護の考えに、メイアの瞳には呆れが混じり、ため息を漏らす。
「一つだけ正直にお答えください。この雌を、いかにするつもりですか?」
「彼女の友人のところへと連れて行く。その後のことは考えていない。」
メイアの視線がミゥの元に向く。ミゥはこくこくと頷き、護が言ったことを肯定した。
その様子をしばらく観察していたメイアは、短剣を仕舞い、淡々と言う。
「分かりました。獣人はちょうど、戦闘があったところの壁の外で面倒を見ているようです。そこの雌の友人もそこにいると思われます。」
「そうか。」
「その後はどうするのです?会えたとしても、獣人たちのこれからは、ライラさんが握っています。」
「…ライラは!?」
「命に別状はありません。ただ、かなり落ち込んでいました。特に、護様のせいで。」
頭に手を当てる。思い当たる節があり過ぎる。
「どこから説明したらいいんだろうか…」
「私と別れてからのすべてを話された方がいいですよ。勿論、私たちにも。」
「そうよ、マモル君。説明を求めるわ。」
「ラ、ライラ?」
珍しく軽装をしたウィスを連れて、ライラが扉から入ってくる。
護の顔が引き攣った。
「さぁ、この子との出会いの経緯も含めて話しなさい。」
「あ、ああ。」
メイアに押し倒されている護の顔を両手で掴んで、ライラはにっこりと護の顔を見つめる。
「実は…」
~三十分後~
『……』
メイアの拘束から解放され、全てを話し終えた護は、囲まれた女性陣から無言を返される。
「どう言えばいいのか、困るわ。私のせいで、マモル君があれを使うことになったみたいだし、そのおかげで、戦闘が終わったんだけど…」
ライラの表情は暗い。獣人たちに勝ったという喜びより、その過程に一人で大量虐殺、それも婚約者が為したという事実が、あまりにも重すぎてどう受け止めればいいのか、彼女には分からなかった。
「護さん……無事でよかったです。」
涙を見せるセレスが護の腕を強く抱きしめてそう言った。
「また、一人で動いた。メイアお姉ちゃんが止めたのに、また。」
「ご、ごめん…」
アンからは文句を言われる。オリーが後ろで頷いているのが見える。二人とも同じ考えのようだ。
「護様、お帰りなさいませ。心配させるような言動はお控えください。直さないとずっと言い続けますので、そのつもりでお覚悟を。」
「何回目かなぁ。済まない、メイア。」
ひとまず、ずっと行動してきた女性が話の区切りをつける。
護はひとまず胸を下ろす。見限られるという最悪の結果は来なかった。そして自分を不安そうに見つめてくる猫人と視線を合わせる。
「…」
護が話している間、ミゥは口一つ開けなかった。彼女の頭の中では、二人で過ごした日々を話すと、あの驚きがどこか寂びれてしまうような気がしてのだ。今目の前にある彼らの様子を静か見つめるしかなかった。
「ライラ、獣人たちをどうするつもりだ?」
「私を直接狙った者は処刑するしかないわ。あとね、それ以外の者も、どこにも居場所がないの。このままいけば、似たような道を辿る可能性が高いわね。」
和やかな雰囲気から一転、緊張が走る。
ミゥは自身の体を抱きしめ、視線を険しくする。その様子に見ていた護は手招きして彼女を座らせる。
耳をやさしく撫でた。彼女はその刺激に耐えるように、身体を小さく丸める。
しばらくすると、落ち着き突きを取り戻したようだ。不安は残っているようだが、どこか衝動に任せて動く様子は見られない。
「マモル君、妙に手つきが慣れているわね。」
「猪突猛進なところがあるからなぁ。…偶然見つけたんだ。」
本当かしら?という、疑いの目を向けられる中、護はライラに問いかける。
「とりあえず、ミゥをシィに合わせることは出来るんだよな?」
「それは出来るわよ。ただ、それが一生の別れになる可能性は高いわ。その子は一生、種族を隠して生きていくか、国を出ていくかの二択しかないし。」
「ライラ様、彼女もはライラ様を殺そうとした重罪人です。婚約者であるアカシミヤ殿が庇わなければ、今すぐその女の首を刎ねたいところです。」
『にゃ!?』
「忘れませんよ。あれほどの弓の腕と闘志を放っていたではないですか。」
ウィスがそう指摘したことで、ミゥは体を再び縮こませる。ウィスが動いていないのは、単に、ライラが望んでいないことだからか。
「確か、マモル君は考えていなかったのよね。合わせた後を。じゃあ、聞きましょうか、ミゥちゃん、それからどうしたい?」
「分からないよー」
シィに会えることは嬉しい。だが、その後に処刑されると知って、それは地獄の前にあるひと時の甘い誘惑でしかなかった。
「私一人で戻る場所なんてないし、マモがいなかったら死ぬつもりだったし。生きる理由なんてない。いっそのこと、一緒に死んだら幸せかなー。でも、マモは私を生かしたから、それもなんか嫌だー」
「…死にたくないのですね?」
「うん。死にたくないよ、セレ。」
ミゥは戸惑った様子で、肯定する。ぼんやりとした気持ちが、死という選択肢を否定し、彼女を惑わせる。
「予想外…ね。ここまで、私たちと近い感性を持ってる獣人がいるって…。」
「千差万別です、ライラ様。私たちを襲撃した者には、食欲のまま、話が通じない者の方が多いのです。もしくは、気に入らないから殺そうとした者の方が、多数なのですよ。」
ウィスが言ったことも事実だ。ほとんどは話し合いで済むような獣人は少ない。
今回は、彼らを率いたリーダーが異質だったから起こったことで、それに従う獣人が、もしリーダーが死んだ場合、投降の意志を示すようにと、指示を受けていたからこそ、あの行動をとったと、判明している。
猫人と犬人が組んだ理由も、彼らのリーダーたちの力が大きい。助けてからの、いざこざを見れば、そのことははっきりしていた。
「分かっているわ。それでも、今回のことはチャンスよ。」
ライラは、護に支えられているミゥの頭をやさしく撫でた。
「処刑は避けられない。だけど、全員を処する必要はない。」
「ほぇ?」
「そう言えば、マモル君、闇属性を使えるようになったようね。」
「微妙な気持ちだが、そうだな。」
「実はね伝令が来て、北部の戦いがかなり激化したらしいの。こちらの兵力を割いて援軍を送らなければならないわ。すると、追いかける余力何てないの。」
「つまり、襲撃して、彼らを解放し、そのまま離脱しろと。」
「正解。」
護は顔を引きつらせる。ライラのにこやかな笑みにどこか黒いものを感じたからだ。
「はっきり言って、獣人は自分たちで養えない者を私たちに処理させているのよね。勿論、そうじゃない場合はあるし、実際に起こっているのだけど。少なくとも、犬人と猫人は追い出された集まりね。そのままだと、彼らの居場所はどこにもない。それはこれからも起こるだろうし、この状況が続く限り、争いは続くわ。」
「だから、俺たちを送って、その状況をどうにかして来いという訳か。」
「満点よ。とはいっても、本気で改善するなら、百年単位でことがかかるだろうから、そのきっかけを作るぐらいでいいわ。」
長い時間がかかりそうだ。目標としては十年。ライラがあの屋敷に来るまでには終わらせておきたい。
「マモたちと逃げるのー?」
「ああ。」
ミゥの質問に護は頷く。
「決まりね。急いだ方がいいわよ。今日は酔いつぶれている者が多いし、必要最低限しか見張りとか置いてないから。」
「分かった。…そういえば、ガンドルフさんとエトリアさんは?」
「お二人は、…お酒で眠ってしまっておられます。その…『腕力』さん達が来て、断るに断れずだったみたいです。」
「セレス、起こせそうか?」
「大丈夫です。酔いも魔法で回復させられます。」
「なら、任せる。メイアはセレスと共に行動してくれ。」
「護様は?」
「俺は、ミゥと二人で獣人族を解放する。アンとオリーは壁を渡った後で、先に樹海樹に向かってくれ。」
「二人で大丈夫ですか?」
メイアの心配に、護は大丈夫だと告げる。殺しは原則なし、そして選ぶ。
「お別れね、マモル君。」
「また、会おう。今度はアスタイト王国、王都で。」
ライラと口づけを交わし、それぞれが別れを交わす。そこに悲観はなく、笑顔だった。
護たちは、動き出す。
宿を後にし、暗闇を移動する護にオリーとアンが問いかける。
「ご主人様、具体的にどうなさるつもりですか?」
「確かに気になる。」
「奇襲、意識強奪、解放、離脱といった感じか。」
「マモル様は、隠密使えたっけ?」
「いや、まだだ。魔法でカバーするつもりだからな。」
お腹が少し重い。魔力回復薬を全回復させるまで飲んだ護は、アンとオリーの疑問に答える。
護は、認識阻害がかかる仮面を被り、茶色いフードで耳と髪を隠し、完全に不審者となっていた。獣人側からも、怪しまれる姿らしい。ミゥが実際に変装した護をそう訝しむ目で見ていた。
下手に顔がバレる訳にもいかないので、必要な処置だった。
(今はただ、真っすぐに進むしかない。)
やろうとしていることを躊躇う気持ちが浮かぶ。それを、護は振り切った。
「明るいな。ここから上がろう。」
壁の外側から、光が見える。少し離れた所に来た時と同じ要領で道を作り、アンとオリーを壁の上へと運ぶ。
「ご武運を。」
「二人で目印を立ててくれ。それを見つけて追いかける。」
「分かった。マモル様、頑張って。」
道を通って、樹海樹に二人が入ったのを見送ると、護は鞘ごと『月蝕』を構えて、『イル―ジョン』を解除した。
「『アスリープ』」
二人に気づいた見張りが声を上げようとするが、一人は魔法で意識がまどろんだところをみねうちを受けて、昏倒。もう一人も、ミゥが締め上げて、意識を奪う。
『シィ、待っててにゃー』
音を消し、護たちは走り出した。
「な、なんだ…」
急に訪れた眠気を振り払おうと首を振ったところに一撃。足を止めずに、次々と倒していく。
そんな壁を走る二つの影に気づいたのは、下を巡回する兵たちだった。
「何者!?」
「…」
「そのシルエット、獣人!?やはり、罠だったのか?」
困惑している所を振り切る。相手している暇はない。壁を飛び降りる。
「はぁ~、今頃、楽しんでるんだろうなぁ…」
「交代したら、お酒をたんまり飲んで寝るか?」
「いいすっ…」
「お」
音が鳴り響いたのと、護とミゥが天幕等が設立されている場所へと入り込んだのは同時だった。
瞬く間に二人を制圧し、目的の場所へと足を進める。
(『パラライズ』…くっ、魔力の消費が激しいな。)
「て、てき、しゅうだ…がふぅ」
制圧し、天幕の内部も同様に、意識を奪う。
『あったにゃ!!』
ミゥが鍵を見つけた。これで、檻から解放できる。
「ミゥ、時間がない。俺も解放していくから北を頼む。南は俺が対処する。」
「うん!」
『気配察知』でこちらに来る集団の反応がある。これは足止めをしないといけないと判断した護は、鍵の束を『アイテムボックス』に放り込み、天幕をでる。
「撃て!」
(いきなり撃ってくるか!『アース・ウォール』)
土壁で防御するが、数が数で、突破される。そのころには護は影へと退避していた。
護は、魔力回復薬を口に含みながら、息を吐く。
(混乱させないと駄目か。なら…)
「あそこだ!」
「『ボグ・ダウン』」
「おわっ、足場が…」
(『バキューム』)
空気が奪われたことで、急に呼吸が止まり、混乱が場を支配した。さらに、足もとを狂わされたことで、上手く離脱できず、そのまま意識を失う。
「解除。さて急がないと。」
反応がある天幕に入る。獣人たちが三人いた。檻に入れられた彼らの瞳と、ステータスを見て、護は判断した。
「…」
『どこへ行くにゃ!?助けてくれにゃ、俺は死にたくないにゃ!』
助けを求める声が聞こえるが、護は無視して次へと、移った。
次は合格だ。何者かという問いを無視し、牢の扉を開け放つ。
『お前ら、出ろ。』
『どこへ連れていくつもりワン?』
『森へ。早く行け。俺はお前たちの面倒を今見てやれない。後、戦うな。全力で逃げろ。』
『は、はいにゃ』
それから、とある基準を元に、ひたすら当てはまる者だけを解放する作業を、護は淡々とこなしていく。
そんな護に向けてかなりの反応が来ている。流石に、お祭り騒ぎをしても襲撃に対処できる数は確保しているようだ。
ミゥの方も、それなりに解放、離脱し、エルフたちを翻弄しながらこちらに向かってきているようだ。
「ここが、最後か。」
天幕に入る。そこには手と足に枷が嵌められ、動けないようにされて、シィが眠っていた。
護が枷の鍵を外す。
キンッ!
短剣と爪がぶつかり合う音が響く。護は首を狙った攻撃を丁寧にいなした。
『見つけたにゃ!』
「『パラライズ』」
「ぐぅう!」
『パラライズ』に抗うシィの首に手刀を当て、気絶させる。
『シィ!』
「これで最後だ。今すぐ離れるぞ。」
『うん!』
遠くから、大勢の足音が聞こえる。
一筋の短剣が飛んできた。それを躱す。
「ち、斥候か。」
道を作り、姿を消す。
「な、消えた!いや、姿が見えないだけだ。魔法で潰せ!」
(対応が早い。でも!)
「『ブラインド』」
視界を奪われたエルフたちは、魔法をキャンセルする。一秒にも満たない間だけだったが、距離が離れている。
「速い!」
「猫人や犬人の性質だ!あいつらのAGIは高い。最低でも、600はあるんじゃないか!?」
「あのフード野郎、女王を殺そうとした奴を連れているぞ。戻ってきたら叶わん!行かせてたまるか!」
「『ストーン・ウォール』」
護の前に現れた壁を、立ち止まらず足場を作り踏破。飛び降りると同時に、風魔法も使っての加速を行う。
「く、このままでは逃がしてしまう!」
「まだまだぁ!」
魔法の雨が護たちに迫る。それを確認した護は反撃に出る。
ミゥへシィを放り投げ、護は足を止めると、エルフたちに向かって魔法を発動する。
「『アイス・シールド』からの、『スモッグ』」
護は迫りくる攻撃を氷の盾で防御し、煙を焚く。
突然現れた煙を吸った、目に入った者たちは、咳と痛みで足が止まり、後ろから押される形でこける。
離脱するには十分な時間ができた。
(これぐらいは許してくれ。)
聞こえる悲鳴を後ろに、護は暗闇の中へと離脱するのであった。
~西の砦・護たちの宿屋~
「呼吸が落ち着いた。もう、樹海樹の中に入ったのね。」
「ライラ様、あなたが居ないことで、場が混乱しているようです。いい加減、動いたらどうでしょう。」
「もう少しだけ、居させて頂戴。」
ライラはずっと護が座っていたところへと、腰をかけていた。
耳飾りから彼の息遣いや体の動きが伝わってくる。ライラの心臓もずっと激しく打っていた。
繋がっている。そのどこか甘美で、不安になる気持ちを胸を押さえて鎮める。
目が覚めた時も凄かった。ずっと汗が止まらず、落ち着かない状態が続いたのだ。
そして、護がしていたことを聞いて、納得した。
(本当に無茶をすることに慣れているのね。あなたは一体どこまで、やるのかしら。)
別れの悲しみよりも、胸が高鳴る自分がいる。
「楽しみね…」
ライラの呟きは、彼女を見守る護衛一人にしか聞こえることはなかった。
Q:なんちゃってQ&Aを始めます。
A:おお、ついにQが…。
Q:護の行動がちぐはぐな感じがして、どうなのかなぁと。
A:自分が起こした結果について、逃避している。もしくは、やった事実を片隅に置いているという形だな。
Q:うわぁ。どっちも同じ意味じゃないですか。主人公の取る行動だとは思えませんね。
A:そうかもしれない。ただ、歪みがない完璧超人にするつもりはない。
Q:本当そうだと思います。純粋なキャラはいつ出るのやら…。
A:出していなかったか?
Q:え?
A:え?
とこんな感じです。捻くれている…




