↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
獣人侵略編
59/138

鼓舞、危機、衝動

け、結構、グロい…

後、選ぶかも(再)

~西の砦~


「女王様、ここは危険です。本陣にて、指示を!」

「大丈夫よ。兵士たちを鼓舞するには、ここにいる方がいいでしょ。」


 苦言を申す兵長に、ライラは朗らかに笑って見せる。彼女がいるのは、壁の上、既に遠距離戦が行われ始めている最中だ。

 彼女に一矢が迫る。盾を持ったウィスがそれを弾いた。


「ライラ様、報告にあった手練れが来る可能性もあります。流石に、不意打ちには私でも対処が遅れることがあります。できれば、彼がいった通りに引くべきでは?」

「分かっているわ。でも、それでは駄目なのよ。」


 自らの手で、迫りくる風の刃を籠手で打ち払い、魔法を唱える。


「『サンダー・バード』」


 雷鳥は、丁度獣人たちと壁の中間まで飛ぶと派手に爆発し、魔法を誘爆、矢を撃ち落とす。

 彼女の意図を察した兵士は、攻撃のタイミングをうかがう。


「『サンダー・バード』『コピー』…確かこうだったけ。」


 二体の雷鳥は彼女の意識を反映し、最初と似たような軌道をとり、戦場の中央で爆ぜる。


「今だ!撃て!!」

「ライラ様!」


 エルフたちができた一瞬の空白を埋め尽くす魔法を放つのと、彼女の魔法を貫いてきた矢をウィスが弾くのは同時だった。

 ドンッ、とウィスの盾をへこませながら迫りって来た矢は潰れる。

 そのことに気づいたエルフは一部だけだった。少なくとも彼女の傍にいた兵士たちだけだ。


「やはりっ…!」

「声を拡張、私の像を映しなさい。」


 怯まず、凛とした声でライラはそう告げる。ウィスは淡々と彼女の願いの通りに魔法を展開し、戦場に一人の女性の顔が映り、声が響く。


『今ここにいる兵士と獣人たちに。私の名は、ライラ・ン・ポルン。この国を統べる女王です。兵よ、勝利を。生き残るためには、この戦は負けられません。そして、獣人。貴方たちにこの国を侵略させるわけにはいかない。容赦なく叩き潰します。二度と再起できないように。』


 先ほどとは比べようがないくらいに殺気が場に満ちる。映像のライラの額を打ち抜くような攻撃が殺到し、その下に居たライラ達にも攻撃が時折流れてきて、ウィスたちが対処し続ける。

 それでも、彼女は言葉を紡ぐ。


『我らは負けない。この国を愛する戦士たちよ。見せつけなさい、これが我らの力であると。私は女王としてずっと傍で見守っています。貴方たちの活躍を。そして、勝利を信じています。我らは、苦難を乗り越えて来た!この度の苦難も振り払えると信じている!!』


 戦い続けながらも、彼女の言葉に耳を貸していた兵士たちは、痺れるような感覚に襲われる。


『我らに勝利を!』

『オオッ!!!』


 映像と言葉が途切れる。彼女の服部には、一つの矢が貫通していて、矢に纏わりついていた風による裂傷が傷を深くしていた。それでも、唇から血が垂れながらも、彼女は笑って見せた。


「『デトックス』『ウォーター・ヒール』!」

「ありがとう、ウィス。」

「無茶しすぎです。」


 彼女の宣言は、エルフと獣人の動きを変えた。

 まず、獣人からの攻撃の優先順位が変わった。ライラの鼓舞は彼らを煽るには十分だったらしい。明らかにライラを狙う攻撃が増え、護衛陣の負担が急増する。

 その一方、攻撃頻度が落ちたエルフの兵士たちは、儀式魔法を用意できるにまでなっていた。女王の命にしっかり応えるように、彼らは出し惜しみをしない。


「獣人ども喰らいやがれ!!『ハリケーン』!!」


 感覚に優れた獣人が音を拾う。はるか上空から振り下ろされる風の暴威を。

 樹海樹の木々が激しく揺れ、凍り砕け散る。渦の中心にいて、回避が間に合わなかった獣人も同じ末路を辿った。

 これは、『ハリケーン』の副産物でしかなかった。そして本命が迫る。


『退避、退避にゃ!!』

『吹き飛ばさ…ワォォォン!』


 エルフ三十人による、全力の魔法攻撃は、樹海樹を吹き飛ばす威力で、発動する。

 あまりの余波に発動する側であるエルフたちも防御を強いるほどの威力で、敵を薙ぎ払っていく。

 逃げまどい、誰もが巨大竜巻に対処する中、打ち上げられた一人の猫人の女性が空中で矢をつがえる。


『まだにゃぁ!』


 ミゥがライラに狙いを定め、気迫と共に放った。


『いけぇぇ!』


 エルフが張る風の結界をぶち破り、ライラの額を貫こうとする。反応が遅れたライラの代わりに、ウィスが体を張って、彼女を庇う。即死ではないが、当たり所が悪い。ウィスは激しく血を吐き出す。

 動揺したライラはその場を離れようとを彼女を担ぐ。そして、戦況は最悪に向かおうとしていた。


「うおぉわ!」

「結界が!!…ライラ様を守れ。敵は上だ!」

『残念にゃ。下にもいるんだにゃ。』

『殺しまくるワン!…あの女は絶対に殺すワン!』


 風の結界が崩れ、そこへ隠密を持って流れ込んだ獣人と、風の暴威がエルフを襲う。

 また、ウィスの体を引きずりながらライラは壁の端までたどり着いた。しかし、今、彼女たちを守る者はいない。


「死なせない!」

『もう一発、にゃあ!』


 地面が迫る中、ミゥは覚悟決め、矢を放つ。それは壁を降りようとした二人を貫き、二人は地面へと叩きつける。


「ゴホッ…」

「女王様!!護衛殿も!救護班、急げ、二人とも重傷だ、二人を死なせるな!」


 後方支援に回っていた兵士が二人に気づき、急いで駆け寄る。ミゥ渾身の矢は二人の右半身に穴を空け、出血が止まらない。何より、右肺を貫かれたライラは呼吸がまともにできない状態で、意識が急速に朦朧とする。


(御免なさい…マモル君。)


 ライラは護に謝りながら、意識を失う。

 そして、戦場は壁を越えた先にまで広がり始めるのであった。


~護サイド~


「護さん!!」


 西の砦へと急ぐ護たち。いきなり護が体を抑え、顔を苦痛に歪ませる。


「大丈夫、マモル様?」

「だ、大丈夫だ…。それよりも急いでくれ!!」

「護さん、もしかして、ライラさんが…」


 頷く護。全員に緊張が走る。

 旅路を急ぐ中、さらなる痛みと力が抜ける感覚に、護の顔が真っ青になる。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

「護様、水薬ポーションを。」

「……普通の飲み物で十分だ。…ライラは死んではいない。でもかなりの重傷だ。」

「すまんが、マモル!これ以上は馬を飛ばせないぞ!」

「ここからは走った方が速い。セレス、アンを頼みます。」

「了解。二人とも女王様を頼んださね。」

「メイア、頼む。」

「かしこまりました。振り落とされないでくださいね。」


 走る馬車から飛び降りる二人。護を背負ったメイアは小さな水薬ポーションを飲み干した。

 彼女は息を吐く間隔を短くし、彼女の心臓は早鐘を打つ。身体中の血が暴れるような衝動を抑え込みながら、護に合図を送る。


「行きます。」


 一歩、二歩、三歩…と距離が徐々に伸び、二人は残像を残しながら、加速していく。二人を包む風の結界が無ければ、間違いなく抵抗を受けて出せない領域。

 ガンドルフたちを置き去りにし、周囲の大気を震わせて、二人は一陣の風となった。目指すは西の砦だ。


「『メガ・ヒール』」

「はっ、はっ…」


 息切れを起こすメイアに回復を施し、風の結界を維持する。

 護の『真理眼』にはメイアが文字通り命を削って(・・・・・)走っているのが見える。

 あの小さな水薬ポーションの効果は、一定時間、AGIを上限なく上げる代わりに、LPを減らしていくというものだ。

 今出している速度だと、一分もしない内に、メイアの命を削りきるという劇薬で、二人でなければ成り立たない方法だった。


「『気配察知』にいくつか反応が引っ掛かった!」

「…突き進みます。護様、回復を。」

「『ミドル・ヒール』、『リジェネレイト』」


 二つの回復魔法をかけ、護は短剣を用意する。

 見えたのはエルフ。慌ただしく走っているようだ。護はここじゃないと直感的に判断する。


「メイア!北に!」

「はい!」


 速度が乗ったまま、壁を走る。それを見たエルフたちが足を止め、絶句した様子でこちらを見てくるが、反応する余裕はない。

 ひたすら突っ走る。


「見えた!」

「はっ、はっ…侵入されているみたいですね…あれを!」


 二つの担架を襲撃から守りながら、こちらに向かってくる一団がある。劣勢で、身を盾にした一人が剣で串刺しになるのが見えた。

 また、護の『真理眼』に見慣れた名前が映った。護は息を呑みこむ。


「メイア、直進。俺が注意を引く。」

「畏まりました。」


 こちらに気づいたようで、エルフたちの足が少し止まる。それは大きな隙となり、シィが片腕で、ライラを回復していた救護兵を殺し、ライラの首筋を掻き切ろうとしているのが、二人の目に見える。


「シィ!!」


 護は叫ぶ。メイアは駆ける。

 最大速度。肉体がボロボロになり、身体から力が抜ける一瞬、メイアはライラ達を越す形で跳躍した。

 こちらを向いたシィの耳を護は力強く掴んだ。


『ギャァァ!!』


 シィを放り投げ、二人も派手に獣人たちとぶつかりあう。突如起こったことに、その場の全員が混乱の渦中に陥る。


「ごはっ。…護様、しばらくは…動けません。後は頼みます…」


 そんな中、メイアは身体を激しく打ち付け、体中を切り傷と打撲、骨折を作りながらも、生き残る。しかし、彼女の宣言の通り、反動で死にかけており、両手両足をピクリとも動かすことができていない。魔法による回復でLPが回復しているのが見えるが、それでも彼女が動く気配はない。

 護はというと、運悪く、剣をもった犬人たちを吹き飛ばしたようで、腹に三本と右腕に一本、左足に一本と、計五本剣が突き刺さっており、血がしたたり落ちる。彼の有様に一人のエルフが悲鳴を上げる。

 しかし、それは、当の本人である護には好都合だった。五本とも引き抜く。出血が激しくなり、ふらつく。だが、不思議なことに痛みがない。痛みすら掻き消す、衝動が護を突き動かす。


LP 55/735


 普通の水薬ポーションで出血を止めただけで、LPが三桁に戻ってしまったが、今の護に関係はない。反撃の水薬(カウンターポーション)を使うには十分だった。

 賢者の警告が頭をよぎるが、すぐに消え、護は水薬の蓋を開ける。飲み干した。

 より強力になる衝動のまま、エルフに向かい、護は叫ぶ。


「早く逃げろ!死なせたらお前ら許さないからな!」

「はひっ」


 セレスを助けた時よりも、地竜と戦った時よりも、そして、森の主と対峙した時よりも、ステータスの強化率は低い。だが…


 許さない。


 感情に従うまま、無差別に猛烈な殺気を飛ばす。そんな護に、メイアすら寒気を覚える。


『今度は負けないにゃ!!』


 足踏みし、金縛りにあったかのように動けない獣人たちの中、シィが魔法を発動し、石の礫が護へと殺到する。


『にゃにゃ!?』


 消えた。目の前の護はかき消え、姿を見失う。

 右側にいた獣人たちが吹き飛び、シィも同様に吹き飛ぶ。


『にゃっ!!』


 勘のままに、シィは身体を空中で丸める。足があったところが一瞬ぶれた。

 ぶれた所にあった物は全て切断、衝撃だけで何人かが戦闘不能になった。

 シィの知覚に再び現れた護は、霞む動きを見せる。シィは護の初動に合わせて地面に倒れ込む。


『!』


 再び霞むほどの斬撃。意識が自分の状態に向いていた獣人は対処が遅れた。胴体に一筋の線が入り、動きが止まる。遅れて血が溢れ出して、崩れ落ちた。


『……っ』

「逃がすかよ!」


 気配を隠そうとした猫人の一人の腹に槍が生える。その勢いのままに背後の犬人も串刺しだ。そこへ、護の魔法が飛んだ。


「『ライトニング・ブランチ』」

「『ストーン・ウォール』にゃ!」

…ニャァァ!グゥゥ!


 槍に当たった雷撃は、拡散して獣人を襲う。適切に防御した者ですら重傷、対処できなかった者は即死だった。

 体が思うように動かない中、獣人たちは、護を見て恐怖する。激情と殺気を叩きつけられていたからではない。

 多くの視線が集まる中で、護は近くにいた犬人の女の首を刎ねていた。その女の叫ぼうにも叫べず、涙だけが溢れ、苦痛に飲まれた顔が、獣人たちに恐怖をもたらしていた。

 護の瞳はその生首を捉えて離さず、動きを止める。不気味でしかない。


「じょお…!?なんだこれは…」

「獣人ども…!?」


 シィたちの元へと行かせまいと足止めを図ってきた獣人を倒し、駆けつけて来たエルフたちが、護とその後ろで倒れ伏しているメイアの姿、そして、這い蹲っている獣人たちを見て、絶句する。

 何より、まだ青年としか言いようがない護を見て、鳥肌が立つ。緑色の髪をした青年は、赤黒い剣から血を垂れ落としながら、に向かおうとしていた。


「じゅ、充分だ!!生きている奴を拘束しろ!」

「せ、青年、これ以上は止め…」


 恐怖で歪んだ生首がもう一つできた。その事実に、エルフは戦闘の高揚感が失せ、身体が震える。耐え切れず、吐く者がいるほどだ。

 そして、もう一つ。こんな状況になっても戦意を落とさないシィの首を切り落とそうとした時だった。


「護様!」


 シィの首から血が一筋漏れた。首の皮を切り、突き刺しかけていた『月蝕』が止まる。

 『月蝕』を引き抜き、『月光・真打』を左手で持った護は、シィをエルフたちの元に蹴った。


「メイア、絶対に戻ってくる。」

「護様…まさか…」

「…」

「ま、待って!!」


 護の姿がかき消える。地面に血を残して。それは壁へと続き、壁から地面へと着地する音がメイアの耳に入る。

 顔色を真っ青にしたメイアは体を動かそうとするが、反動で動けない。エルフたちが彼女へと駆け寄ってくる。


「彼は!?」

「お願します!!彼を連れ戻してきてください!」

「しかし、俺たちでは追いかけようが…それより、貴方の傷も重傷だ。あなたも輸送する。」

「私は問題ありません。彼を、護様を追いかけてください。」

「無理だ。」


 抱え上げられたメイアは強く噛み締める。

 破滅に向っているように見える彼を、止められない。涙がこぼれ落ちてしまう。


「護様…」


 強く目を瞑り、彼女は共に過ごしてきた男の無事を祈るしかなかった。


(前方に五。右から接敵。)

『にゃ!?』

(『二の型・疾風』)


 男の猫人の首が飛ぶ。返しの刃から飛んだ風の刃は二人の胴体を切断。『ハリケーン』の猛威から逃げて来た彼らは護の攻撃に反応ができない。


(『九・速』)

『消え…』


 胸に深々と剣が突き刺さる。護は残り一人へと手を翳した。


「『はちの舞・仙人掌』」


 毛が燃え上がる。頭を貫かれた獣人はその身を燃やして、悲鳴すら上がらない。

 そして、護は再び移動し始めた。


(まだ、いける…。もっと、もっと、もっと…いた。)


 護は暴走していた。不完全燃焼と言わんばかりに、相手を殺していく。

 これまで強敵との戦いの後、全てを燃やし尽くしたかのように、護は力尽きていた。しかし、今回は違う。反撃の水薬の効果時間はまだ残っている上、身体は悲鳴を上げつつあるのに、止まれない。

 相手を殺す時だけ頭が冴える。倒してしまえば『気配察知』に引っ掛かるまで、身体を動かす衝動が抑えきれない。まるで、ブレーキで止まることができなくなってしまった機械のようだった。


『来るにゃぁ!』

「『ライトニング』」

ドゴォ!!


 猫人の男が泣き叫びながら末路を辿る。護は彼が庇っていた女から『月蝕』を引き抜こうとした。


「あ」


 『月蝕』が護の力に耐え切れず折れる。しかしその刀身は、前の刀身とその場にある血集め直し、再生した。より強靭となって。


「次」


 刀身の再生に何の関心もなく、移動した護の『気配察知』に多くの存在が引っ掛かる。その場に護は全速力で突っこんだ。


ガァア!


『何事だワン!』


ギャァアァァ!


『敵襲、数は1!』

『囲んで殺せ!…おいおい、この場から散開!くるぞ!』

あぶ…』

「『七の型改・砂嵐・金剛』!」


 護の目と猫人のリーダーが合う。リーダーが離脱不可だと気づくのと魔法の発動は同時だった。

 二度目の嵐。護のMP全てと、LPを一桁にして発動した、それは護以外の存在に牙を剥く。


………


 悲鳴は暴風にかき消えた。吹き飛ぶより先に千切れる(・・・・)

 砂嵐はところどころで、発光し輝きを見せる。渦を巻き、樹海樹すら次々と穴を空け、その身をすり減らしていく中、その光景は幻想的だったかもしれない。

 また、二度目の嵐はエルフたちにも見えていた。散発的に起こる襲撃を撃退しつつ、反撃に転じようとしている途中だった。


「誰か、許可なく儀式魔法を使ったか!?」

「そのようなことは確認できません。壁の下にいる者たちも誰もしていないと。」

「じゃあ、あれは誰が。」

「分かりません。あの規模の攻撃を起こせるとしたら賢者様ぐらいしか…」

「賢者様が戦争に参戦した記録はない。あるとしても、顔をお見せになるはずだ。」


 視認できる位置に肉塊が飛んできた。それを見た兵士たちの顔が青ざめる。


「惨い…誰だこんな魔法を使ったのは…『ハリケーン』を使った俺たちが言えることでないことは分かっている。でも、こいつは…」


 森から飛び出してきた獣人に魔法を放とうとするが、思考を止める。

 恐怖に満ちた瞳。右足をひきずりながらも、両手を両肩にクロスした形で、近寄ってくる。

 その猫人の女を皮切りに、森からぞろぞろと獣人族が現れる。


「う、撃ちますか…?」

「各自、防御、反撃ができるように発動準備。様子を窺う。」


 今までになかった行動に警戒しながら、エルフたちは獣人族が近づくのを静かに観察する。

 男犬人が倒れたのを見て、女エルフの一人が壁を滑り降りて、彼の元による。

 それを邪魔、攻撃する獣人はおらず、彼らは立ち止まった。


「…攻撃の意志は無いようだ。それぞれ数人で行動しろ。嵐が止んだ。原因を探る者は私についてこい。」


 西の砦を任された指揮官は、森へと侵攻することを決める。どれだけ仲間が倒れようとも、戦意をおとさなかった獣人が急に大人しくなった理由を探らずに入られなかった。

 未知の強敵と遭遇する可能性もある。彼に従う者は皆、集中して森へと進むのであった。


・・・・・・・


「ここを離れないといけないな。」


 あれほど、自分の中にあった衝動は治まり切り、虚無感を覚えながら、護はぽつりと呟く。

 嵐の中心、周囲の樹海樹を切り開きぽっかり空いた場所に寝転がっていた。身体を起こし、周りに落ちている戦利品を見回す。大半は嵐で粉々になっていた。何の感慨も抱けない。

 さらに、全てを出し切った代償で激しい睡魔に襲われる。それでも立ち上がらなければならない。


(反応がある。)


 全身を襲う倦怠感で顔を顰めながらも、『気配察知』を行って状況を確認する。

 大まかに二つの方向から反応があった。一つは砦から。もう一つは北からだ。

 

(体力を回復させて…魔力回復薬を飲んで…よし、これでいけるな。)

「『ウィンド・ステップ』」


 風の援護を受けた護は一旦西へと走り出した。


「流石にきつい。どうする?俺一人だと、身体を満足に動かせなくなるし、それにこれは長く持ちそうにない。」


 次の対処を考えている護に新たに二つの反応が映る。避けるかと思った矢先で、一つの反応の挙動がおかしいことに気づいた。


「逃げてるのか?…横に避けては、止まる瞬間がある。それから、あっ、轢かれた。」

(吉とでるか、凶とでるか、賭けるしかない。とりあえず一人は避けないと。)


 考えを強制的に中断させてくる睡魔を気づけ薬の臭いで無理やり振り払いながら、護は加速した。

 二つの反応が目に入る。どこか見たことがある獣人族の女に、毒々しいイグアナ型が一匹。


(ついてはいるけど、右足が完全に駄目になっているな。噛みつかれた跡と突進を受けたのか、毒と出血がひどいし、死にかけか。)


 『守護』を発動する。意識が飛びかけたが、唇を噛んで目を無理矢理覚ます。

 立ち直した時には相手の突進が迫っていた。


「似たような奴にはお世話になったんでね。『アイシクルエッジ』!」


 上から魔法に反応したイグアナ型は躱す。しかし、後から来た投槍に目から頭を貫かれ、絶命した。

 

「おわっ!」


 投槍し、体勢を崩した護は『ウィンド・ステップ』の制御に失敗し、転がりながらも、女の元へとたどり着く。

 猫人の女、ミゥはどこか諦観した目で護に短剣を突きつける。しかしそれは困惑に変わる。


「『デトックス』『ヒール』」

『!?』


 護は『アイテムボックス』から簡易結界と寝袋を取り出すと、ミゥに薬を渡して頼む。


『俺が起きたらその薬を飲ませるにゃ。』

『!…どうして私たちの言葉をにゃー?』

『知りたいなら、俺を殺さずにちゃんと飲ませること。分かったにゃ?』


 じゃ、おやすみにゃ、と護はミゥに手を振って眠ってしまった。


~一日後~


 全快した侍女たちがご主人様を探して、西の砦を疾走している頃、護とミゥには試練が立ち塞がっていた。


(こうなることを予測していなかった、自分が憎い…)


 目覚めた途端に、襲う筋肉痛と呼吸困難。うとうとしていたミゥが耳を立てて、慌てて護の口に薬をぶちこもうとするが、当然自力で飲めるような状況ではない。


『このまま、気を失うのを待った方が良さそうにゃー』

「!?」

『じょ、冗談にゃー、やるしかないかにゃー』


 正気か!?と問う視線を受けてミゥは、水と薬を口に含み、護の顎と鼻を掴んで、口を開きそこへ自分の口で思い切り塞ぐ。

 気管支の方に水が入ったのか、咳き込む護をホールドし、水と薬を流し込んでいく。

 全てを流し終えた後、舌が絡み合う。ミゥはびっくりして、護を突き飛ばした。


『にゃ、にゃ、にゃー!?』

『ごほっ、ごほっ。はぁー、はぁー、すまんにゃ。つい。』


 顔を赤くしながら、全身の毛を逆立てるミゥと息を整える護。

 二人とも準備が整った所で、護は料理を取り出した。


『食べるかにゃ。』

『いら…(グゥーッ)いるにゃー』


 器を取り出すと、すごい勢いで食べ始めたミゥを見て、こいつ獣人なのか?と不思議に思いながらも、食事を取っていく。

 しばらく、無言で食事に集中した二人は、ほぼ同時に食べ終える。


『教えるにゃー』

『えーと、何だっけにゃ?』

『どうして喋れるにゃー』

『これは、『言語理解』っていうスキルのおかげにゃ。』

『聞いたことないにゃー』


 護は曖昧な笑みを浮かべるしかない。詳しいことは自分も知らないのだ。


『なんか、もっとすごいことだと思っていたにゃー』

「拍子抜けか?」

『うん、そうにゃー』

「こっちの言葉も理解できるんだな。」

「一応、喋れるよー」


 護からすると、口の動きが変わったようにしか分からないが、確かに口調が変わった。護に聞こえる変な猫語尾が消えている。間延びするような喋り方は彼女の癖のようだ。

 改めて彼女を見ると、三毛猫を思わせる毛柄の耳と尾、三本のひげが伸びており、美女だった。ただし、全体的にやせ細っていて、アンを彷彿させる体形をしていた。

 また、手や腕の傷は治っているようだが、足は血を止めただけで、直視を避けたい状況のままだった。具体的には、右足の脛から骨が見えており、出血が止まっている状態。左足は、脛から先にあのイグアナ型の牙の跡が残っていた。


「私一人じゃ間違いなく死ぬねー」

「なんか、言い方が軽いな。」

「だって、今度は私の番でしょー、死ぬの。みんな死んじゃったからー」

「…怖くないのか?」

「うん。私以外、兄妹は死んだよー。最初はね、苦しかったの。でもね、妹が狩りに失敗した時かな、なにも感じなくなっちゃった。…あなたが来なかったら、もういいかなと思ったんだ。シィを残して逝くのは、少し悪い気がするけど、シィも死んでると思うし、死んだ後の世界で会えればいいなーって。」

「……」


 笑顔でそういう彼女に、護は言葉を失う。どっと自分がやって来たことを思い出しては、頭の片隅から消えていく。


「シィは特別か?」

「うん。ずっと一緒に生きて来たんだー。…君ってシィの腕を奪った人だよね?」

「…ああ。」

「そう……。あの時は許せなかったー」


 でも、と続けた彼女は、護に笑顔を見せた。


「シィはね、目覚めた。私たちの中に眠ってる、闘争心っていうかな。なんかそんな感じのやつに。片腕になったのに、ずっと私よりも強かった。」


 だからね、と友達を誇る彼女は続ける。


「感謝してるよー。シィが強くなってくれるきっかけをくれて。でも、シィは死んじゃった。」

「いや、多分まだ生きていると思うぞ。」

『!?…生きているのかにゃ?』

「女王を殺しかけた重罪人だが、処刑まではまだしてないはず。状況次第だが、会わせてやれるかもしれない。」


 希望を見せられたミゥの顔は暗く沈んだ。


「あなたがそんなことする理由って何?女王を矢で撃った私を突きだせば、あなたは英雄になれる。どうして、そんなこと言うのー?私を苦しめるつもり?」

「俺はここに来る前に、獣人たちを衝動のままに殺した。おそらく、リーダーらしき人物も。」

『!?』


 身体を動かしたミゥが苦痛で顔を歪めながらも、護の首に両手に手をかける。

 その手に力はなく、ミゥの目は淀んでいた。


『みんな、殺したのかにゃー』

「そうだ。力のままに戦って、そして殺した。それを、俺は…」

『……私も、あなたもいっしょの目にゃー』


 彼女の瞳に映る自分の目も淀んでいた。互いに死者に対する思いなど、どこか置いて来てしまった。

 ミゥが体勢を崩し、護に倒れ込む。


『女王を撃った私を殺すかにゃー』

「もう殺す気は失せた。」

『信じていいのかにゃー』


 護は頷く。寝袋などを仕舞い、護は彼女を背負った。大分、彼女の身体は軽かった。


「動くとするか。まずは、どうやって入るかだな。」


 二人は昼でも見通しが悪い森の中を移動し始めるのであった。 

今回のステータス

明石宮 護(男・17歳・半人半精?)職  Lv87

 LP 103/735 MP 353/754

  STR 2433(811) AGI 2221(777)

  TEC 738       END 769

  INT 2340(780)


といった感じです。シィちゃんのステータスだと、覚醒していなければ、確実に死んでいた状態ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。