交渉、黄ランク級、北部戦線
あ、あぶねぇ…
~西の砦~
「犯罪者の姿が見当たらないが、一体どこにいる?」
「確かに、チュリ・エフ・ストランド名誉公爵の姿がないな。彼女がいないと話にならないだろう。」
「…名誉公爵はここには出席する予定はありません。」
女王が断言したことで、貴族側の顔が怒りでさらに染まる。その中、唯一冷静さを保っていた男、セントパルス伯爵がライラに問う。
「任務続行不可の責任は彼女にあることは知っていますよね。」
「はい。」
「それを追及し、罰を決めるのが、ここへ来た私たちの役目のはずだ。」
「彼女への罰はもう決めてあります。あなた方にしてもらいたのは、彼女への留飲を下げてほしいのです。」
「……納得いくような罰にしてあるのですか。」
ライラは一つの書状を取り出した。隣にいた、ウィスがその内容を読み上げていく。
「チュリ・エフ・ストランド名誉公爵には、財産没収および十年間の無褒賞勤務、指揮官としての権利剥奪を罰として行うものとする。」
「はぁ!?そんな軽い罰でいいと思っているのか!?」
一人が激昂しライラを怒鳴りつける。彼女はそれを受け流し、セントパルス伯爵の様子を窺う。
彼としても、微妙な表情をしていた。
「これに加えて名誉公爵としての地位を剥奪、建築など重労働に従事を罰にしては?」
「彼女は戦力として必要です。今は病んでしまっているそうですが、彼女は再び立ち上がる、いや、立たなければならない人物です。ここで完全に潰れてしまっては困ります。」
「女王陛下は本気で彼女が役に立つと思っているのか。犠牲者を出し、私たちの協力を無為にした女を!!」
「はい。これまでの功績を鑑みれば、私の判断が妥当でしょう。」
ライラは迷いなく首肯した。彼女の異論は認めないという圧に、貴族たちは動きを止める。
拳を握りしめ、歯ぎしりしている彼らの矛先は沈黙を続けている護たちに移る。
「こいつらは何故ここにいる!!」
「ここからが本題です。彼らのからの提案に私は乗ろうと思っています。」
「提案だとぉ?」
訝しむ中年体系の貴族に、護が切り出した。
「そちらの支援条件は、国近隣に出ていた黄ランク級の討伐だったはずだ。調査までは手が回らないが、それをこちらで引き受けようと思う。」
「あぁ?お前ら冒険者に何の得があるんだぁ。お前らは自分たちに利が無ければ動かない奴らだろう。」
高圧的な態度を向けてくる貴族に対し、冷静な態度で護は続けた。
「利は充分にあるだろう。女王に恩を売る、それ以上のことが何がある?」
「それはそうかもしれないがよぉ。」
「女王の人柄について、こちらは信頼している。もし、裏切られた時は、こちらの見る目がなかっただけだ。それに、こちらの提案はそちらにとって都合の良いものだろう。」
「だからこそ、こちらとしては理解に苦しみますがね…」
後から条件を追加してくるのではないかと、警戒しているのが伝わる。都合の良すぎる話には大抵裏がある。護でも疑う話だ。
「なら、そちらに要求する件は二つ。一つ、女王の判断通り、ストランド名誉公爵の処罰を受け入れること。二つ、彼女からの干渉を除き、彼女への接触をしないことを条件にする。」
「尚更、分からなくなりますね。」
「戦友が苦しむ姿をずっと見ていていいものじゃない。それに、あの場にいた人間からして、女王の処罰が適切だと判断した。この場にいない隊員からの署名も貰っている。これがそうだ。」
護は昨日までに揃えた署名を貴族たちの前に渡す。数自体は少ないが、ほぼ全員から署名を貰っている。
これを見た伯爵がチラッと見て、こう言った。
「なるほど。最悪、騎士団と冒険者が相手になると。脅迫のおつもりで?」
「脅迫?ただ、こちらは女王の裁定を同意しただけだ。」
伯爵が納得した様子で引き下がる。他の貴族はライラに視線を送り、彼女が頷いたのを見ると、矛先を収める。
唯一、あの中年体系の貴族だけは納得がいっていないようだ。顔を歪めながらも、大声で問う。
「なら、我らの支援の損失はどうするつもりなのだ?我らが支援した物資についてどう補填する?」
「まず確かめたいことがあります。この度の支援への物資投入の金銭はどう回収するつもりだったのですか?」
「それは…冒険者を誘致してだな…」
「そう、冒険者に比較的な安全な狩場と宿を提供して、需要を喚起させるためのものです。そのためには、黄ランク級が付近にいるというのは、リスクが高く、彼らが敬遠する原因になってしまいます。それを国の調査隊を利用して、排除してもらおうと考えた。あっていますか?」
「…うむ。」
「それ自体は間違っていません。黄ランク級討伐は冒険者と騎士団、両方に対して責務ある仕事だと私は考えています。」
ライラは一区切り間を置き、こう告げた。
「悲劇だったのは、獣人族の動きがここまで及んでいたこと。そして、戦闘になってしまったことにあると思われます。相手の数が多く、奇襲も受けて犠牲を出しながらも撤退するしか選択肢はなかった。」
「そうかもしれないが…」
必死に言葉を紡ごうとする中年体系の貴族を、ライラは視線で抑え、結論を出す。
「ソルト伯爵の言う損失ですが、補填するつもりはありません。」
「なっ!」
「今回の支援は、言い換えるなら投資です。貴方は、未来を見据えて、魔物の排除がプラスに働くと判断した。そして、調査隊は失敗した。しかし、肝心の魔物の討伐は冒険者が自ら負担して、やってくださるという話になりました。冒険者が失敗した時に初めて損失をどうするかを主張しなければ、とり合う必要はないと、私は考えています。」
呆然とする中年体系の貴族に、ライラはにっこり微笑みながら続ける。
「今は戦時下。国庫からの支出も多い状態です。出来るだけ足を引っ張るような真似は避けてくださいね?」
「…当然だ。」
貴族が完全に沈黙した後、ライラは議論の終了を告げる。半日で済んだのは、僥倖とも言えるだろう。
次々と貴族たちが退出した後、女王の命で護を残して冒険者や隊員たちが退出していく。
護、ライラ、ウィスだけとなった部屋で、ライラはぐったりと机に伏せた。
「後はマモル君次第よ。」
「ありがとう、ライラ。凄かったよ。」
護から果実水を受け取ったライラは、一息に飲み干すと、護にもう一杯ねだる。
再び注がれた果実水を見ながら、ライラは護に言った。
「強者が足りないのよ。本来なら教会が動くべきなんでしょうけど、過去のコルチちゃんのせいで、立て直しに時間がかかりそうだし、これ以上、軍は戦争で手一杯だから動かしようがないし、本当にマモル君たちを頼りにしているわ。」
「俺は一応、リヒト教会の一員だからな。魔物退治は任せてくれ。」
護は記章を見せる。ライラには苦笑を返されてしまった。
「そんなものがあるのね。」
「あるらしい。…明日にはここを発って、ガンドルフさんたちと合流を目指すつもりだ。」
「お互いに頑張りましょう。」
「ああ。」
互いに笑いあうと三人は部屋を出て、護とライラはそれぞれ異なる方向へ足を進めるのであった。
~数日後~
「ここが、遭遇したポイントか…」
「坊主よ、『気配察知』には引っ掛かる様子はないのか?」
「今のところはない。」
護は戦闘の名残がある幹の様子を観察しながら、問いかけに答える。
セントパルス伯爵領から南へ進み、前回の戦闘跡地にまでたどり着いていた。相手が格上と分かった時点で、撤退したそうだが、それでも負傷者が出ている。そこまで大した傷を与えられてもいないらしい。
「…かなり大きく焼けこげた跡は、チュリさんの攻撃でしょうか…」
「火の壁を作ったのは間違いなさそうね。彼女の制御力に脱帽しそう。」
「上手い。」
護のいつものメンバー七人に加えて、この場には冒険者ギルドからの三人、メノウ、フィア、ペリーがいた。
署名を集めている際に、持ち出された条件がこれだった。
少しでも情報を集める。彼らのその意志は強かった。結果、戦闘の際は後衛に徹してもらうというお願いを飲んでもらう形で、彼らが付随している。
「奴は動いた。」
「ペリーの言う通りよ。傷跡は残っているけど、さらに荒らされた形跡はほとんどないし、魔物との遭遇頻度が多いから、奴はこの付近から動いているのは間違いない。」
「どう動くべきなんだ?」
護の問いに、フィアが悩む。代わりに答えたのはメノウだ。
「大分、日が過ぎちまってるからなぁ。跡を追うのはかなり困難だ。ただ、ここは大分魔力が薄くなっているみたいだぜ。魔力が濃い方がいい獲物を取れるだろうから、魔力が濃いところに移った可能性は高いだろう。」
「魔力の濃さって変わるの?」
「おう、変わるぜ。魔物や俺たちが死ねばその分、魔力が濃くなる。この樹海深部は元々濃さが異なる訳だが、この前の侵略みたいに多くの魔物が死んだ場合は、それが一時的に乱れて今の状態みたいになっちまう訳だ。」
へー、と納得するアンにメノウは笑う。
「まぁ、魔物の発生は不思議で、生殖するものもいれば、魔力から体を成しているものもいるからなぁ。とりあえずそういう奴らは、濃い魔力だと強くなりやすくなるっていう説が有力だぜ。」
「ん?魔物行進とかがあれば、大量に倒したところで強い奴が生まれるということになるんじゃ。」
「そこが分かんねぇところなんだよ。なぜか発生しない。前回の侵略で大量の魔物が死んだわけだが、今いる黄ランク級の魔物はその魔力の変動につられてきた奴らばかりだろうぜ。」
(魔法自体が俺からすれば、どういう原理で動いているのかさっぱりだからなぁ…)
使い方は分かる。ただ、その原理については一切不明だ。『完全なる図書館の司書』で調べてみても、仮説が立つばかりで、実証不可ばかりだった。
とりあえず、魔法や魔物の謎については置いておくとして、魔力が濃い方を探る。
ハーフエルフになったおかげなのか、微妙な魔力の濃さの違いに気づく。若干だが、西の方が濃い。
「とりあえず、向かってみるか。」
魔力の知覚はメノウたちに頼み、護は『気配察知』で探りながら西へと歩を進める。
明確な層となっている部分はないのだが、徐々に魔力が濃くなっていく。そして、魔物の遭遇頻度も減っていく。無惨に食い散らかされた魔物の死体や戦闘の跡が多くなっていることからも、目標の敵に近づいていることをひしひしと感じる。
そして、ついに『気配察知』に一体とそれを囲むように戦う敵影が引っ掛かる。
「見つけた。」
「俺が先頭で、メイア、マモルが前衛。エトリアとお嬢が後衛で、アンたちは他の魔物が来ないように見張りでいいか。」
「うん。私じゃ、前に出られないから。」
ガンドルフが護の指示に従い前を走る。そして魔物が幹に叩きつけられて、肉が潰れる音がする距離に入った。
「おっと!!」
ガンドルフは盾を地面に突き刺し、飛んできた残骸を受け止める。それと同時に大体の威力を把握した。重く速い投擲に、獰猛な笑みが浮かぶ。
ほとんど間髪開けず飛んできた二体目を、少しだけ角度をずらし、後ろに当たらないよう逸らす。
キィエエエァァアア!!
かん高い叫び声と共に、大きな筋肉達磨、もとい猿型が大きな跳躍をしてこちらへと距離を詰めてくる。
戦闘開始だ。
「『守護』!」
いきなりガンドルフたちを無視し、後衛へと向かおうとした猿型は、『守護』により惹きつけられ、意識に空白が生まれる。
そこへすかさず、三人の攻撃が殺到した。
「硬いな、おい!」
STR800越えの三人の攻撃を受け止めた。表皮は切り裂くことができ、鮮血を散らすが、猿型の反撃が迫る。
「『真理眼』」
一気に距離を取った護に、猿型のステータスが見える。
ゲフェアーリッヒ・アッフェ Lv78
LP 1001/1100 MP 743/806
STR 1054 AGI 477(954)
TEC 977 END 1143
INT 949
一般スキル 投擲Lv5 土魔法Lv5 体術Lv2
特殊 硬質化 鈍重 激昂
「動き自体は鈍いが、一撃必殺だ。ヘビーアタッカーかよ。」
「護さん、魔法は効きますよね?」
「物理に比べれば。いけるぞ。」
セレスとエトリアの光の弾丸が猿型を蜂の巣にしようとする。それを見た猿型は土魔法で壁を作り、身を守り、石の壁をこちらに大まかに狙いをつけて、投擲してきた。
「手癖が悪い奴さね。『障壁』に『シャイン・ウォール』。マモルもさっさと前に行きな。」
「はい。」
二重の結界が、土の壁を防ぐ。かなりの衝撃だが、同程度の防御力を誇るエトリアたちを傷つける決定打にはならない。
「『日閃』」
日属性の斬撃が、猿型の背中を切り裂き、肉を焼く。メイアも短剣に炎を纏わせ、攻撃をしているようだ。硬質化した毛や肉を少しずつだが、削っていく。
ガンドルフが地面を削りながらも、攻撃をいなしていく。護たちの攻撃を諸ともせず、自身を狙う攻撃に、怯むどころかむしろ光を纏った大剣で切り裂く。
型に入り、戦闘は安定し始めていた。エトリアとセレスの支援を受けるガンドルフは、絶えず気を惹きつけ、時折振り回しや、土魔法で攻撃してこない限りはフリーとなる護とメイアが攻撃を加えていく。着実に傷は増え、深くなりLPを削っていく。
しかし、LPが二割を切ったところで、戦場に変化が訪れる。
「こっちにも魔物が来た。対処するぞ!!」
メノウの叫ぶ声と戦闘音が響き始めた。そして目の前の猿型の瞳が真っ赤に充血し、顔も赤く染まり、凶悪な形相となる。
対峙する全員に緊張が走る。
「『守護』!」
ガンドルフの惹きつけに一瞬だけ反応する猿型だが、後衛たちの方に視線が向いた。
悪寒が走った護は、魔法を発動する。
「『フラッシュ』!!」
ガァァッ!!
目が眩んだ猿型は先ほどとは威力も速度も段違いな振り回しを連発していく。視界が潰れたことで、狙いはでたらめだが、当たった樹海樹の幹が大きく割れるほどの威力だ。下手に間合いに入るのは危険と言わざる得ない。
「ここからが本番みたいですね。」
「メイア、セレスたちに威力重視した攻撃を用意してくれと伝えてくれ。」
「俺たちで撹拌するぞ。やるか、マモル。」
視界が治ってきた猿型の視線は、再び後衛に向く。突進しようとしたところに、護とガンドルフは背後から同時にスキルを発動した。
「「『守護』!」」
やはり効果は薄いが、自分たちへの蹴りを引き出すには十分だった。
ガンドルフが攻撃を受け流し、時には躱しながら、さらに効果が切れる度に連発してしていく。
「腕が痺れるぜ!!絶対に当たるなよ、マモル!!」
「ガンドルフさんの後ろに居る限りは大丈夫ですよ!吹き飛ばされないでください!」
何度も何度も『守護』を掛けられ、注意を逸らされ続けた猿型は、遂に業を煮やし、ガンドルフたちに狙いを変える。
余りの重さに大剣を仕舞い両手で盾を構えるガンドルフ。盾が変形するほどの一撃を何とかいなしながら、相手の拳と蹴りに対処していく。その後ろで護は、『守護』をかけ続けていた。もし切れると今の流れが崩れる。脱力したくなる気を抑えながら、ガンドルフの行動に合わせて体を動かしていく。
「やばっ」
ガンドルフの盾が飛んだ。両手の振り下ろしを流し損ねたのだ。頭の中で警鐘が鳴り響く。
しかし、追撃は来なかった。残像を残しながらメイアが猿型の頭上に現れ、二つの煌めきが猿型の両目に刺さり、猿型は顔を抑えて苦しむ。
「準備ができました。お二人とも離脱を。」
時間差を置いて、猿型の両目に刺さったナイフが爆発する。三人はそれを確認する暇なく、セレスたちの射程から外れる。
目を抑えて苦しむ猿型の動きが完全に止まった。そこへ後衛二人の儀式魔法が発動した。
「「『ピアシング・レイ』」」
光速の一撃は猿型の頭を貫通し、樹海樹を何本か貫通して、通り過ぎて行く。
膨大な熱量が一気に空気を伝わって、護たちへと迫る。風の結界でそれを受け流した後、猿型が絶命していることを確認した。
「そっちは、終わったか!?こっちを手伝ってくれ!!」
メノウの助けを呼ぶ声に、護は一旦、死体を『アイテムボックス』に仕舞いこみ、アンたちの元へと走る。
「くぅ…」
「アン!…ご主人様!!」
「任せてくれ。」
身体から血を流すアンを押し倒している、両足の付け根から二本の刀剣を生やしたピューマ型の首が飛ぶ。そして、護は『月光・真打』を迫りくる狼型の頭に投擲し、槍を構える。
「『エンチャント・ライトニング』」
空気にオゾンの匂いが混じる。雷光を纏った槍で狼型に止めを刺し、様子を窺ってくる魔物に、穂先を向けた。
「『バースト』」
バチィッ!!
雷の槍は複数に分枝して、魔物を貫く。倒すには至らないが、それで十分だった。
「やぁ!!」
アンの直剣による攻撃が、雷撃を受け怯み止まった敵の首を掻き切る。その他の面々もそれぞれの武器で倒し、少し離れたところでも、ガンドルフの『威圧』に動きを止めた魔物が討伐されていた。
「後は逃げて行ったな。敵の反応なし。俺たちだけだ。」
「アンちゃん、ちょっと待ってくださいね。魔力を回復して治してあげますから。」
魔力回復薬を飲み、傷を癒していくセレスを見ながら、護は近くの地上に出ている根っこに腰を下ろした。
「お疲れ様です、護様。」
「メイアもお疲れ様。流石にしんどいな。」
「戦力は充実していましたから、犠牲者なく終えられたので良かったです。比較的倒しやすい敵でしたね。」
「そうかもしれない。だが、調査隊の面子で戦うことできたか?あいつ、かなり硬かったけど。」
「私と護様が前衛に立って、ひたすら魔法を当て続ければ何とかなったのではないでしょうか。顔が赤くなってからは、私たちでは抑えられないので、綱渡りになっていた可能性はあります。そういう点ではガンドルフさんたちがいて、助かったと言えるでしょう。」
幸い猿型の足は速くなかった。投擲さえ気をつければ、一定の距離をとり、周囲を囲んで魔法でタコ殴りする戦法もあり得たということだ。ただし、激昂してからはダメージを無視して突っ込んでくる上、ステータスが一時的に上がっており、距離を取り損ねやすい状態になっていた。
一応聞いていた作戦では、似たような戦法を行う予定だった。方向性は間違っていないが、終盤で一時撤退を余儀なくされていた可能性は高い。
「『竜殺し』もお疲れみたいだな。はっはっ。とりあえず、俺たちの目的も達成だ。」
「ん?」
「方向性が決まったからなぁ。魔力が濃い地域を避ければ、強敵との遭遇確率は大分落ちることが分かった。冒険者ギルドとしては、それを指針にして樹海深部への侵入を勧告するよう報告書に書ける。」
「もっと、正確な情報が欲しいところだけど、戦争が終わるまでは無理ね。この時期に参戦しない冒険者は少ないし、初心者から中堅に入る奴らしかいないからね。とりあえず、魔力の濃さはエルフなら分かるから、馬鹿以外は避けるでしょうし、突っ込んで遭遇して死ぬことまではこちらとしても責任が持てないといったところよ。」
「危機管理大事。死なないための重要な素質。」
冒険者ギルドの三人がそれぞれ言ってくる。
「ちなみにだが、この戦争の時期は初心者から中堅にとっては、競争相手が減るからありがたい時期なんだぜ。今年は、内乱に魔物の侵攻と、不確定要素が絡んじまったから、人手は減っちまっている。それでも、いない訳じゃない。貴族としては少しでも安心感を与えて、そいつらに来てもらいたい訳さ。」
「結界付近は領地経営に樹海深部での活動をする面子に向けた経済が多いの。災厄続きで、上手くいっていないでしょうから、名誉公爵の財を取り上げて、自分たちの補填にしたくなる気持ちは理解できるわ。」
「まぁ、貴族の事情はともかく、近場で強力な魔物は居なくなったわけだ。国としては有難いだろうし、冒険者から命を落とす奴が減ったことは間違いないだろうぜ。ありがとな、『竜殺し』と奥さん方、『堅牢』」
差し出されたメノウの拳に、護は自身の拳を突き合わせ、笑いあう。
それから、魔力の薄い場所で一泊し、国へと戻った。
「これが黄ランク級、魔石の大きさからして間違いありませんね。」
それから二日後、貴族たちを呼んで、セントパルス伯爵家の屋敷で猿型の死体と取り出された魔石を見せていた。
猿型の大きい巨体と、力を帯びた魔石の輝きに魅了されている者が多数で、本物であると確認したセントパルス伯爵が、護に一枚の書類を手渡す。
「誓約書です。ストランド名誉公爵にお渡しください。もし、私たちから干渉された際、それを見せれば効力を発揮するはずです、と。」
少しだけ目を通すと、ライラのサインがある。女王がこしらえた書類であることは間違いない。それに連なる貴族も、ここいる面子全員のもので間違いない。
護は名誉公爵に責任を持って渡しておくと伝え、『アイテムボックス』に仕舞った。
「一つだけ、お聞きしたいことが。」
「なんだ?」
「最近のライラ様が耳飾りをしているのを目にしました。それと同じものを貴方はつけていらっしゃる。それが意味することを一つしか思いつきません。ですが、そういった報せがないことも事実。何を企んでいるのですか?」
「企み?特に何もない。ただ、これ以上、戦友を苦しませたくなかっただけだ。」
事実を端的に護は言った。また、尋ね返す。
「今回の判断は、伯爵にとって利はあったか?」
「ええ。そうですね…筋は通っていました。それに、出費を隊員から回収するのはほとんど無理だと思っていたので、財政の余剰だけで済ませましたし、懐はそこまで傷んでいませんね。これからの施策は私たちの仕事です。あなた方の動きは迅速だった。こちらとしては有難い限りです。冷静に考える時間が増えましたから。」
「そうか。」
「それで、いつ発表を?」
「楽しみに待ってくれ。」
セントパルス伯爵はやれやれといった形で、一つの腕章を取り出した。
「どんな形の付き合いになるかは、まだまだ分かりませんが、これを。セントパルス伯爵家の紋章ですね。腕章の形をしていますが、腕につける必要はなく見せてくだされば、我が領地内で割引など特典があります。是非とも、ご活用を。」
「抜け目がないな。」
「できれば、私の領の宣伝をお願いします。私個人からの報酬ということで特産品を用意していますので、後で受け取ってください。味や品物について、広めてくださるだけでもありがたいです。」
「分かった。それとなく、広めておく。」
敵に回すと厄介な人物だろうと思いながらも、相手の手から腕章を受け取って承諾するのだった。
その後は、人気を集めるセレスに必要以上に接近して、媚びを売ろうとした貴族の一人が、護とメイアの殺気に当てられて、粗相をしてしまうといった、アクシデントがあったものの日が沈むころには解放されるのであった。
~北部・戦線~
「オラオラァ!!」
「魔法で防御、弾幕薄いぞ!当たるなよ!!毒矢だ!」
護たちが猿型の討伐をしていた頃、妖精と獣人の戦争は一気に火が付き燃え上がっていた。
現れた鼠人の数はおおよそ一万。それに対して、エルフの軍勢は一万三千。エルフの数は時間が経つにつれて、増え続けていた。
「グギャ!」
「『ファイヤー・ランス』」
ドゴォ!!
開戦当初は劣勢だったエルフも徐々に援軍が増えたことで、数で逆転しており、魔法で吹き飛ぶ鼠人も相対的に増えていく。
そんな中、一本の槍と成りて、突き進んでくる鼠人の集団がいた。
「おいおい、あいつらに攻撃を集中!!」
「『ウォータ・ランス』!」
「『ライトニング・ライン』!」
水の槍、雷撃と、様々な魔法攻撃を集中させていく。そして、部隊長含め、エルフたちは目撃する。
短槍が魔法の数だけ投げられる。それは次々と魔法とぶつかり、爆ぜる音が連鎖する。
「『シャイン・レイ』!!」
彼らが投擲の合間を縫った光線は、一番先頭を走っていた鼠人が槍で弾き、空へと打ち上げられ、消えた。
一人がその事実に大声を上げる。
「あいつら何年ぶりだぁ!?鼠人の一番槍、『穿行』が来たぞ!!」
「接近を許すな!壁や穴を作り、妨害!!両翼に通達、包囲して潰すぞ!!」
第一特記戦力、『穿行』。鼠人のエリートであり、数年ぶりに現れた奴らである。
槍を基本装備とし、投擲で魔法を撃ち落とす技量を兼ね備えた部隊。そして、それを率いる隊長が持っているのが魔槍『ウィッチキラー』の効果だ。どんな魔法であれ、技量があれば弾けるという国宝級の武装。
エルフの指揮官は、彼らを優先して潰すことを判断する。両翼を前進させ、全方位からの魔法で叩くつもりで、進ませる。
「数減らしじゃねぇ。本気だ!」
「飢えてない奴らの対処とか、何年ぶりだよ!」
一般兵、歴戦の勇士それぞれが息を整え、そして走る。
それに対して鼠人たちは、そのまま数の暴力に怯えない突進を敢行してくる。彼らから伝わる圧は尋常ではない。
戦々兢々としながらも、中央だけはそのままに両翼を包むように展開したエルフは攻撃を開始する。
「物量で押しきれ!!こいつらだけは通すな!!」
怒涛の攻撃に脱落していく鼠人。数を半分に減らしながらも撤退せず、狂気染みた突撃は、突き進むあるのみと言わんばかりだ。最早、距離は中央のエルフたちの目と鼻の先まで詰まってきていた。
全滅が見え隠れしている鼠人に追い風が吹くのはこのタイミングだった。
「遠方から新手!鼠人一万、猿人、鷲人…はぁあ!?混成軍、数は三千!!」
多くの屍を収納しながら、距離を詰めてくる軍勢に、援軍を警戒していたエルフの悲鳴が響く。
狐人族あたりからだろうか、両翼に向かって光の矢が降り注ぐ。
『ぎゃっ!』
「両翼後退!食い散らかされる!」
魔法の被害で混乱するエルフに、両翼に象人を盾にした獣人たちがぶつかった。
巻き起こるは獣人族の雄たけびとエルフの悲鳴。三メートル近くなる象人にひき殺される者がいれば、鼠人に刺される者も、拳大の石を受け転倒する者もいる。
戦況が一気に変わった。
「全軍後退!北部戦線および女王に通達!我ら、進軍を全力で阻止する。更なる応援を求めたり!」
覚悟を決め、前線へと向かう団長と幹部、そして、使命を帯びた伝令が急いで馬へと動くのは同時だった。
それから数日後、犠牲を払いながらも、何とか北部戦線のエルフ兵士は戦線を押し戻し、膠着状態に陥らせる。この戦場に女王とその護衛が着くのは、もう一つの戦場での決着がついた後である。
なんちゃってQ&Aはお休みします。




