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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
獣人侵略編
57/138

遭遇、撤退、準備

ま、迷った…

~深夜~


「交代の時間か。」

「はい、護様。後は頼みます。」


 メイアに起こされた護は装備を確認し、天幕の外にへと出る。

 鳥肌が立つか立たない寒さに、発色茸の光が落ち始めている中、火の周りを囲んで身を暖める者が居れば、暗闇の向こうをじっと見つめる者もいる。

 護はとりあえず、火を囲む二人の隣に座って、身体を暖める。


「よく眠れたか?」

「ぐっすりできた。現状は、何も出ていない感じか。」

「ああ。あの狼以来、気配の一つありゃしねぇみたいだ。平穏なことは良いんだが、その分、暇だ。」

「ぜいたくな悩みだよ、全く。気楽でいいんだけどさ。」

「そうだな。戦闘はない方がいい。」


 必要最低限の声の大きさで会話していく。護の『気配察知』にも確かに反応はない。

 この二人のように気が抜けるのも、仕方がない。護もずっと気を張るわけにもいかない訳で、視線を時折闇に飛ばすが、視認できる距離はたかが知れている。


「さっきまではマシだったんだよね。あの発光茸も大分、光がなくなって来たし、奇襲があるならこの時間帯だね。」

「チュリ姐さんが言っていた反応が来るってか。坊主の探知能力がありゃ、逃げる時間ぐらい確保できるだろ。」

「『隠密』を発動されると、探るのは不可能だぞ。気を抜かない方がいい。」

「前一回、挑戦してみたけど、『隠密』の習得なんて、無理ゲ―だと思ったぞ。敵さんに居ても数人ぐらいじゃないのか?それで、襲撃してくるとは思えんな。」


 一人が笑って見せる。隣に座るもう一人もだ。

 二人とは対照的に、護はチリッとした感覚と寒気を覚える。身体に叩きこまれた感覚に従い短剣を引き抜いた。


「え?」


 護の隣に座っていた緑の髪の男の脳天に尖った石が生える。即死だ。


「て、敵…」

「危ない!!」


 咄嗟に護が叫ぼうとしたもう一人を吹き飛ばす。彼が居た所に同様の石が地面に刺さった。護にも飛来してくるが、短剣で弾く。

 五つ、六つと飛んでくる石に、対処が遅れ怪我をする者が続出する。

 奇襲に拠点内が騒々しくなり、それに応じて目が覚めた者にも容赦なく石の礫は飛んでくる。それを、セレスが彼らを守るように魔法で防御し、被害を減らしていた。

 セレスの傍で彼女を守るアンに合流し、護は『隠密』で姿を消している敵の動きを探る。

 投擲されたタイミングで、反撃のいかずちを撃つ。


「『ライトニング・ボルト』」


 一筋の雷光が自身に迫る石を砕き、敵を照らす。


「獣人!!」


 そう叫ぶと、閉じられた目が開き、爛々とした瞳が護を見据える。

 アンよりも背の小さい少女からもたらされるのは、濃密な殺気。そして苛立ちが彼女の顔に映る。

 

「この音、かなり多いぞ!!」

「アカシミヤさん!!『気配察知』は!?」

「!!」


 意識を外した瞬間、少女は消える。それよりも、百以上の気配がこちらに向かってきている。包囲されるのも時間の問題だ。


「数は百以上!!」

「嘘だろ!?」

「撤退します!」

「ですが、けが人は…」

「足の速い者が担いで戦線離脱!一点突破します!!」


 チュリの叫びに複数の敵が反応する。彼女に矢が殺到する。

 彼女は『六の舞・樫』で迎撃した。その炎の竜巻きが切れるタイミングで、あの少女、シィが首を掻き切ろうとする。


『惜しいにゃ』

「やらせませんよ。」


 メイアの短剣に憚られ、シィはすぐに下がる。目の前の女は強いという野生の勘に従って。


『逃がすなワン!』


 東へと逃げる隊員に、追い縋る犬人たち。けが人を担いだエルフの足取りがどうしても遅くなってしまい、中々距離が開かない。迫りくる魔法や矢を必死に防ぎながらの撤退は思うようにいかない。

 殿付近で戦っていた護は、さらに突出した形で前に出てイメージを練り、魔法を発動する。


「『日閃』」


 極限まで細くし、距離を稼いだ斬撃が、樹海の幹を数本切り倒す威力を伴って振舞われる。

 地面を移動していた犬人たちは、その斬撃に反応しきれず、二十人ほど上下に分かれた。

 猫人も倒れる幹から離脱するのに慌ただしくなっているようだ。一人着地に失敗し、足を抑えて呻いている様子も見られる。

 動揺が走り、護へのヘイトと警戒心が一時的に集まった。護から離れたところで襲い掛かる犬人の視線もこちらに向き、その隙をエルフたちが魔法で犬人を吹き飛ばし、離脱していく。


『ニャァァッ』

「ッ!」


 このままヘイトを稼ごうとした護に覆い被さる形で急襲してきたシィの短剣がぶつかり合う。

 力をいなし、護とシィは対峙した。


『お前、大きい獲物にゃ。』

「なぜ、お前たちがここにいる!」

『死ねにゃ!!』


 再び激突した護とシィの技量は同等。自分より明らかに年下の少女の実力に意識が研ぎ澄まされていく。

 『真理眼』に意識が割けない代わりにぶつかり合う度に分かってきたのはステータス。護の方が高い。


『馬鹿力にゃ!』


 シィが一方的に弾かれ、動き出しも遅れる。何より、護にペースを取られていた。

 苛立ちと興奮で、頭がおかしくなるのを堪えながら、シィは護に襲い掛かる。

 そんなシィが、前のめりになったところを冷静に短剣を真上に放り投げ槍で払う。シィは持ち前の体幹で立てなおそうとするが、護の短剣の方が速い。

 しかし、護は優位を捨て距離を取る。魔法で強化された矢が、頭を貫く軌道で来たためだ。


「『アイテムボックス』」


 目の前の猫少女や矢を放った猫人だけではない。かなりの数に囲まれている。エルフたちの姿も闇に紛れ、時折見える魔法の光でしか分からない。殿としては充分時間を稼いだし、少し後ろで戦うセレスたちの負担も大きい。潮時だ。

 護は『アイテムボックス』から二つの玉を取り出す。大体敵陣中央になるよう投げ、そして魔法を放った。


「『ウィンド・ボム』」

キィィィィン!


『ウギャ!!』

『耳がワン!』


 音響爆弾を模した魔法に、獣人族は耳をやられる。人族よりも鋭敏な耳をしている彼らに、効果は抜群だった。駄目押しと言わんばかりに、玉が割れ強烈な匂いが充満する。猫人はマシだが、犬人は完全に戦うどころではない。


『待つにゃ!』


 離脱を図る護にシィが追い縋るが、ふらついた足取りでは、距離がどんどん離れていく。


「『日閃』」


 置きみあげに樹海樹を何本か切り倒し、混乱をさらに増大させていく。

 一人の猫人の雄たけびが聞こえる中、護たちは獣人族から撤退することに成功するのだった。


「はぁはぁ…急いで!」


 西の砦に戻るように進路を取る中、チュリは前を急き立てる。


「これ以上は速度を上げられんぞ!!

「命を削ってでも走りなさい!追手が来ますよ!」


 護の『気配察知』に三回目の反応が映りこむ。メイアに目配せをすると、彼女は頷いた。


「皆はこのまま逃げ続けてくれ。俺とメイアで足止めをする。」

「護さん…また…ですか?」

「ああ。」

「ごめんなさい、アカシミヤさん。」

「謝らなくていい。俺たちが適任だ。」


 セレスたちのAGIでは獣人族を振り切れない。匂いを攪乱しているはずなのだが、追いかけてくる。

 あの猫人少女が執着心が物凄い。三度の対峙で完璧に鼻を潰しているはずだ。それでも自分たちを見失わない。彼女のエクストラ『追跡者』がなせる業か。

 セレスたちの気配が遠ざかるのを感じながら、護とメイアは足を止め、備える。

 息を整え終わるのと同時に、彼女らが来た。


『追いついたにゃ!!って、またかにゃ!』

『集団を追え!』


 二人を無視し、進もうとする猫人。メイアの投擲を躱したが、黒く塗られた鋼糸にひっかかり爆発した。何とか原型はとどめており、瀕死になりながらも生きている状態だ。進むのを躊躇わせるには十分だった。

 メイアの静かな殺意が彼らを震わせる。いつもの戦闘服に身を包んだ彼女は『隠密』を発動した。


『くそっ!!匂いがないにゃぁ』


 猫人の首が一つ飛んだ。完全に暗闇に包まれ、それに紛れる彼女は容赦しない。

 直感で回避できる者もいるが、完全に動きを捉え切れず、彼女に切られる。数で押そうにも、枝にはすでに鋼糸と罠が張り巡らされ、爆発という恐怖に足が竦む。

 安全に前に進むには地上を進むしかない。降りる所をメイアが発動した風の鳥によって切り刻まれる。


性質たちが悪いにゃ!!』


 一人で混乱をもたらしたシィ。その彼女以上の力の暴威に、一人の猫人が叫ぶ。そして、接近してきた護が目に入り、そして引き寄せられる。視線がずれただけで、やられるような危機感に、彼を追いかけ始めるしかなかった。

 ガンドルフ直伝『守護Lv3』。これを発動しながら護は戦場を駆け続ける。獣人たちをトレインし、セレスたちを追わせないよう今まで来た道に走る。


「『三・流』」

『当たらないワン!』

『同士討ちになるにゃ!極力遠距離攻撃は避けるにゃ!』


 ここには味方がメイアしかいない。『妖精の秘奥』をフル発動、『月蝕』を抜き放つ彼は、手あたり次第、切りつけていく。


『にゃぁ~。力が抜けるにゃ~』

『剣を受けるなワン!力を抜かれるワン!』


 焦らされ、忠告を無視したシィの石が飛ぶ。護は右から剣を振り下ろす犬人の攻撃を躱し盾にした。


「キャン!」


 犬人の悲鳴が上がる。護はチラッと後ろを確認した護はこれで十分かと判断し、発動した。


「『一の型・活火激発』」


 追いかけていた獣人が本能に任せて、ありったけの攻撃をするが遅い。爆発が護を中心に発生した。樹海樹を燃やし、空へ火柱を打ち上げる。


『ギャァァッ!!!』

「良く毛が燃える。『四の型・大瀑布』」

ドゴォォオ!


 空中から滝のように膨大な水が降り注ぐ。火を止め、焼けこげた傷口を抉る攻撃に、獣人族は対処できず、流される。その中、空気の結界を作っていた護と、転がりこんできたシィが一対一で向き合った。


『はぁ、はぁ。よくもやってくれにゃ!』

「それはこちらのセリフだ。襲い掛かってきたのはそっちだろう。こちらに攻撃の意志はなかったというのに。」


 護は『月蝕』を仕舞い、『月光・真打』を取り出した。

 そんな護の行動を気にせず、突き出されたシィの短剣は、距離を詰められて躱される。さらに、すれ違い様に足を引っかけられ、体勢を崩す。

 咄嗟に振った魔力の刃が護へと向こうと体を捻る彼女の右腕を切り落とす。


「ニャァァッ!!痛い、痛いニャァァ!!」

「狙いが甘いし、浅かったか。」


 護は顔色一つ変えずに、大量の血を流し転げまわる彼女に止めを刺そうとする。


『シィ!!!』


 滝の防御を突破し、結界も突破した渾身の一矢が、護の腕に刺さる。『夜見纏い』を貫通し、骨も貫いた形で、刺さっているようだ。痛みで短剣を落としそうになるのを堪える。

 二、三と続く矢を護は躱す。意識が完全に外れたことで水の暴威は消え失せ、メイアが護を撃った女に迫ろうとしているのを、必死で防いでいる獣人が見える。


「メイア!」

「はい、護様。」


 苦痛で顔を歪めながらも護は矢尻を風魔法で切り落とし、勢いよく引き抜く。そして、傷口にポーションをぶっかける。

 メイアが攻撃を捌きながら隣に来たことを確認し、魔法を発動した。


「『フラッシュ』」


 護の二度目の『フラッシュ』に対処する獣人だが、次の手の濁流と暴風に対処できず、護たちを追えない。

 何より、頼りにしていたシィが戦闘不能になってしまったことで、これ以上の追跡は不可能になってしまった。

 護が残した濁流と暴風の脅威から、間一髪でシィを助け出したミゥは、涙を流しながら、必死に治療していく。しかし、腕を拾う余裕がなくシィは片腕となってしまった。

 動き出した状況は、さらなる戦乱を呼ぶことになる。


~西の砦~


「五人か…」


 奇襲の石や味方を庇って命を落とした者の数だ。

 相手の数から考えれば、全滅していたかもしれない状況で、この結果は奇跡に近い。

 しかし、死者が出たことに対するダメージが無い訳ではなかった。


「畜生…」


 与えられた建物で、それぞれ感情を持て余す。

 一番酷いのはチュリだ。西の砦の司令への説明の後、覇気は無くなり、食欲などが完全に消え失せている。

 そんな彼女にかける言葉など思いつけるはずもなく、また悲痛な雰囲気でよどむ建物を出て、護は壁を駆けあがる。


「ここにいたのか。」

「マモル様。」


 アンの隣に護は座る。そして、樹海に広がる暗闇を二人で見つめる。


「あいつらが来たら、今度は殺す。」

「…」

「仲間を殺して、私たちも殺そうとした。絶対に許せない。」

「…」

「…どうして、そんな顔をしているの?」


 護は無表情だった。感情が表に出ていない状態。

 その状態から、少しだけ目を伏せる。


「死者が出て悲しい感じがしない自分に驚いているんだ。もしかしたらアンたちを失った時も似たようになるんじゃないのか?そんな考えがよぎる。」

「怖いの?」

「ああ。」


 自分は死に慣れすぎたのかもしれない。死に対して悲しむことや敵に対して怒りを覚えることがそこまでできなくなってしまっていた。アンの様子を見ていると、そう思えてしまう。

 今更なことかもしれない。だが、本当に大切な者を失くした時に悲しめなくなるのは、護としても、恐ろしい。


「大丈夫。そんなマモル様を残して、先に逝くつもりは全然ないし、させない。」

「…」

「ゆっくり生きていけるようになれば、思い出せるようになる。だから大丈夫。焦らなくても時間はたくさんあるよ。」


 護を正面から抱きしめ、自身の唇を重ねる。そして、見つめ合う。彼女の瞳には怒りとは別の感情が映っていた。

 そんなアンの様子に、護は体から力を抜く。そして優しく彼女を抱きしめ返す。

 護は自分にまとわりつく負の感情を振り払うように力を少しだけ込め、そうだな、と力強く返すのだった。


「……」


 どれぐらいアンと抱擁を交わしていたのだろうか、視線を感じてその先を見ると、無言でこちらを凝視してくるオリーが。

 顔を赤くしながらも抱擁を解き、護はオリーに問いかける。

 

「ええと、何かあったのか?」

「ご主人様を探していました。アンも関係あるので来てください。」

「そうか。場所は?」

「仮の宿です。場所は私が案内します。」


 二人で立ち上がり、オリーの後ろをついて行く。

 広くもなく狭くなく、ベッドだけが備えられた家へと案内される。窓もなく、魔法具の光だけが頼りになっていた。

 そして、そのベッドにはセレスが眠っている。


「護様、チュリさんが召喚されました。損失の責任を求める貴族が多く出たようです。ですので、女王がこちらに向かっているようです。」

「え?召喚なのに、こっちにか?それって体裁的に大丈夫なのか?」

「普通は有り得ませんが、一気に開戦の機運が高まりましたから、鼓舞を兼ねて来られるようですよ。」

「何より、マモル様が心配だと思う。肉体の情報を共有しているんだったら、マモル様の身に何が起こったのか、ライラも大分知っているはず。」


 護は顔を上に向けそうだったと今更ながらに思う。絶対、ライラからの追及は避けられない。護が感じた痛みを彼女は共有しているはずで、アンの指摘の通りだろう。

 そんな護よりも不味い立場にいるのが、チュリだ。


「チュリの状態は?」

「はっきり申しますと、よくありません。食が細くなっており、薬を使って眠ってもらっている状態のようです。」

「そうか…」


 内戦でも彼女を慕う部下を亡くしている。それでも、名誉公爵としての責務が彼女を動かし続けてきたのだろう。名誉公爵の三人はどんなに辛い逆境があってもそれを糧に頑張る節があることを、ライラから聞いていた。

 また、これまでの探索を彼女が率いて来た。魔物を相手に部下と共に戦い、犠牲者を出さないように必死に足掻いて成し遂げてきたところに、この結果だ。耐え切れず心を病んでしまってもおかしくない。


「今、査問を受けたら、チュリお姉ちゃん、確実に潰れる。」

「立ち上がれなくなるか?」

「私は五分五分だと思います。」

「最悪を想定した方がいいでしょう。」


 アン、メイア、オリーの順だ。護は苦い表情になる。


「…予想できなかったことだ、とはいかないか…」

「私たちのおかげで、猫人と犬人が手を組んでいることが明らかになりました。ですが、私たちの任務の続行不可に加えて、犠牲者も出ています。統率者として責任を取らされる可能性が高いです。」


 沈黙が護たちを支配する。はっきり言って、解決策が見当たらない。

 チュリ本人がどう思っているのか、分からない以上、護には想像できないことだった。


「落としどころを探すのは、ライラが来ないと話にならないか。協力できることがあるなら、俺たちも手伝おう。それとは別にこれからどうする?」

「これから?」

「ああ。獣人たちとの戦いに参戦するのか、魔物を殺しに行くのか。または、戦わないという選択肢もあるな。」

「…護さん、おはようございます。…皆さん揃って、何を話しているのですか?」


 セレスの目が覚める。護は今まで話していたことを伝えると、チュリの話で彼女は辛そうな表情をする。

すぐにそれは、意志に満ちた顔に変わった。


「チュリさんには良くしてもらいましたから…私にできることがあれば、頑張ります。」

「俺たちも一緒だ。」

「はい。」

「それでどうするかなんだが…」


 護たちは時間を忘れて話し合い、夜遅くまで翌日に備えるのだった。


~翌日~


「アンさん、お気持ちは嬉しいのですが、今は食欲がありません。」

「食べて。」


 アンはオリーと共にチュリの元を訪れていた。護とは別行動だ。

 チュリはアンの譲らない表情に負けて、手を弱弱しく動かし、食器を受け取る。

 いい匂いが鼻に届く。それでも、チュリはスプーンを動かそうとしなかった。


「皆死んでいきます。私を慕ってくれた者が死んでいくのです。私より、若い人も、私より長く生きて来た人も、全て。私が彼らを死地に連れて行ってせいで、皆死ぬ。死なないようにずっと必死で頑張ってきたのに、それでも誰かが死ぬ。死ぬべきは私です。私に生きていく価値なんて、ないんです。」

「それは、違う。」

「どこが?」


 タガが外れ、絶望を垣間見せるチュリの問いに、アンは胸を締め付けられる。


「教えてください。私は間違っていますか?」

「間違っている。チュリは、チュリが生かした人たちを忘れている。私たちはチュリの判断で、生かされた。」

「それは、アカシミヤさんたち、彼らのおかげでしょう。」

「そうかもしれない。でも、私たちは与えられたチャンスをしっかり掴んだだけ。そもそも選択肢を用意したのはチュリ。それを活かすも殺すも私たち次第なのは認めるけど、選択肢自体は間違っていなかった。」

「もっといい方法があったはずです。私はそれを見つけられなかった。」


 湯気が昇らなくなった料理をぼんやり見つめながら、チュリはそう言った。

 沈黙が二人を包もうとしている。これまで黙っていた、オリーが動く。


「もどかしいですね。チュリさん、貴方はどうしたいのですか?」

「それは…」

「死を選ぶなら、もう既に首を吊っているはずです。弱りながらも貴方が生きる理由は何なのです?」

「…分かりません。私が何がしたいのか、分からないんです。」


 漠然とした後悔と停滞。過去への思考放棄といった方が正しいか。押しつぶされそうな彼女はずっと自問自答しているのだ。過去に犯した失敗の時の、最善策は何だったのだろうか、と。


「チュリは戦わないの?」

「たたか…もうこれ以上、戦いたくないです。散々だから。皆死んでいくところを見たくない!」


 取り乱し、スープが零れる。器に残ったスープにやつれ、酷い表情を晒す自身が映っている。自分の顔にチュリはさらに暗くしていく。

 アンはそんな彼女を後ろから優しく抱きしめ、ゆっくり頷いた。


「分かった。チュリはもう戦わなくていい。この国は安全。多分、ライラお姉ちゃんに頼めば戦わなくていいようになると思う。今回のことも、私たちがどうにかする。だから、ゆっくり元気になって。」

「今、戦わないと…」

「それは私たちに任せてくれればいい。チュリは頑張ったよ。」


 チュリから涙がこぼれる。


「アンさん、ごめんなさい。わ、私自身が戦うべきことをアンさんたちに背負わせるなんて、私は…」

「ううん。自分たちでそう望んだことだから。チュリも再び進めるようになる。しっかり食べて、休もう。」


 ゆっくりだが、チュリは食べ始めた。冷めた料理は体を震わせるが、その分、抱きしめられたアンの身体の温もりを感じ、涙が止まらなくなる。

 二人の様子をオリーが静かに見守っていくのだった。

 一方、アンとオリーがチュリの元を訪れていた頃、護はメイアとセレスを連れて、壁を建造しているところへと向かっていた。


「さて、アンたちは上手くやっているかな。」

「大丈夫だと思いますよ。護様もアンを信じているのでしょう?」

「ああ。」

「護さん…見えてきました。」


 怒号が聞こえる。急ピッチで建設しているためか、緊張感に包まれているのが距離を離れていても分かる。

 見張りの休憩をしている兵士が護たちに気づく。


「何者…ではないか、どうかしたのか?」

「これより先の兵で警備している奴に渡しておきたいものがある。」

「俺たちが預かろう。」


 護は撤退時に使用した匂い玉を『アイテムボックス』からありったけ取り出していく。

 そして実際に戦った時の対処法も。


「いいのか?」

「ああ。比較的、あいつらは魔法が苦手そうだ。鼻や目、耳を潰せば遠距離攻撃は確実に減る。」

「お前さん達も戦いに参加すると思っていたから…いいのかと聞いたんだ。」

「俺たちも参戦できるなら、できればそうしたい。しかし、これとは別にやるべきことが俺たちにはある。有効に使ってくれ。」

「そうか。有難くいただくとする。協力感謝する。」


 護は首を横に振ると、許可を貰って壁を上がる。

 日が出ている分、ところどころ明るいところはあるが、それでも樹海樹の中は闇に包まれている。

 そして、壁の近くでそれぞれの活動をしているエルフたちも見る。これから起こる戦火に向けて備える姿に、護は心の中で燻っていた炎が消えるのを感じる。


「護さん…」

「俺たちも再び備えるぞ。あいつとは、再び遭遇しそうだしな。」


 自分に執着してきた猫少女を思い出す。あれだけで終わる気がしない。

 また、自分たちの戦いは他にもある。


「戻ろう。明日にはライラ達が来てもおかしくない。時間は限られているし、今のうちにできることはするぞ。」

「「はい」」


 三人は、西の砦へと戻る。アンとオリーに合流し、できる範囲で調合や修理、調達、説得を行っていく。

 また、ライラ、その他貴族が来たのは、次の日の昼頃だった。

 当然のように、護は追及されるままライラに全てを話し、ライラから愚痴を散々聞かされる羽目になる。それからは、チュリの療養を含めて和気あいあいとする女性陣に囲まれ過ごすこととなった。移動する度、男性陣からの慣れた視線が飛んできたのはご愛嬌だ。

 そして、その翌朝、西の砦の一室で、護たちは貴族たちと対峙する。明らかに不満を抱え、苛立ちを覚えている貴族に、ポーカーフェイスで応え、会議が始まるのであった。


A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。

Q:シィちゃん、これどうやって石の雨降らせているんですかね。

A:魔法+投擲で考えている。手で四個、魔法で二個ほどと考えてくれればいい。

Q:犬人と猫人って、仲悪いと思っていたんですが?

A:それ自体は間違っていないぞ。同じ敵を追っている最中だからか、不思議と息が合っていたと考えればいい。

Q:そんな感じでいいんですかね…

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