説明、ギルド員、出発
く、雲行きが…
~作戦会議室~
「西の砦から出発し、南下。中層を中心に探索し、東に移動していきます。途中、いくつか浅層域まで後退し、補給できるように合流ポイントを設定しています。最終的には、我が国とアスタイト王国を繋ぐ大街道まで行き、国の内部を通ってここまで帰還するという計画です。前回までとは異なり、かなりの日数をかけて調査と排除を行うことになると思われます。」
「具体的な日程は?」
「約一か月です。」
「この人数で実行可能なのか?どうみても、三部隊分の規模しかないだろう。」
「実力に関してはLv40以上。助っ人で参戦された方には私よりも強い方もいます。魔物行進に私たちで突撃する訳ではないので、問題ないと判断しています。なにより、離脱者が出ないような人選にしましたから。」
チュリはメイアに視線を送る。メイアのことを知っている隊員もいるようで、納得した者も多い。
周囲の反応を窺い、ある程度不安を払拭できていると判断したチュリが話を続ける。
「ここには来ていませんが、冒険者ギルドからの調査員も当日加わります。」
調査員は元冒険者であり、足手まといにはならないことなどが伝えられる。
その後も特に支障なくチュリの話は進んで行く。物品、武器等、樹海深部と接する貴族たちが負担しているようで、それなりの成果を出す必要性があること。これまでの調査から判明した黄ランク級の魔物の討伐をどうするか、撤退時の安否確認、再合流方法などもあった。
「改めて確認しておきますが、明日の明朝、人員、物資が到着、揃い次第出発します。」
『了解』
「では、これにて会議を終了します。皆さん、お疲れさまでした。」
チュリのその言葉で隊員たちは各々散らばりだした。
護たちはチュリが近づいてきたことで、扉に足を向けずに、彼女と合流する。
「あの、アカシミヤさんに相談があるのですが。」
「?」
「今回だけですが、騎士団に所属しているという扱いをさせていただけないでしょうか?」
「…えーと、今の俺たちはどういう立ち位置になっているんだ?」
「食客、もしくはボランティアです。このままだと、貴族からの支援の範囲から外れます。食料や道具は工面して共有できますが、武器の修復や購入については、支援できないのです。」
「あー、なるほど。」
護たちはエルフの国に所属しているわけではない。さらに、今回は飛び入り参加というあまり良くない形で参戦したため、支援が整っていなくて当然とも言える。
今から申請しておけば、少なくとも作戦が終わった時に、支援の対象になるということだ。
「頼む。」
「では、契約書に血を垂らしてください。」
チュリから渡された書類に血を一滴たらし、護は彼女に返す。
セレスやメイアたちにも同様の操作を行った後、チュリは部屋を書類を仕舞って出て行った。
「マモル様、即決だったね。」
「エルフの味方だと証明できる書類を残しておいて方が、良さそうだ。でっち上げで敵にされた時に、少しでも有利になるものは用意しておきたい。」
護はチュリが出て行った扉を見つめながらそう言った。すでに兵士たちから、敵意を受けることもある。大事に至ってはいないが。
疲労感を覚える護だった。
そして、その夜、護はあの契約を交わした木に来ていた。木の下にいるウィスに挨拶をして、護は一気に駆け上がる。ライラはすでに来ていて、自分の隣を叩く。
護はそこに座り、戦いに出向くことを伝えると、彼女は護にデコピンをし、ジト目を向ける。
「早く言いなさいよね。…はぁ、帰りを待っているわ。」
「すまない。ライラの力になりたかったからな。思いだったら、身体が動いた。」
「…よく真面目にそんなこと言えるわね。」
呆れたように言うライラに、護は顔を背ける。明らかに精神的なダメージを負っていた。
その護の姿にライラはしょうがないと一息吐いた後、告げる。
「嬉しかったわ。それに……私もあなたのためなら、どんなことでもやってのけられる。」
「…」
「無言は流石にやめてよ!!これでおあいこね!これ、すごく恥ずかしい!!」
顔を真っ赤にしたライラが両手で顔を隠す。
不意打ちに固まっていた護は再起動を果たし、視線を彷徨わせる。
「しばらくは会えなくなるなぁ。」
結局、出てきた言葉は当たり障りのない、凡庸な言葉だった。
「…そうねぇ。でも、絶対に再会は出来ると思うの。」
「死ぬかもしれないぞ。」
「それはないわよ。だって、マモル君、死にかけた時が一番強いし。」
「事実だが、好き好んでやっているわけじゃない。ライラ達を心配させるやり方だ。」
「…この話は終わりにした方が良さそうね。しんみりになっちゃう。今日、ウィスがね…」
ここ最近あった面白い話で笑おうとするが、話題に乗り切れない。
続かなくなった世間話を切り上げて、口づけだけを交わして、二人は互いに明日は早いからと、宿に戻るのであった。
翌日の早朝、日が昇る前に目が覚めた護は、いつの間にか隣で眠っているセレスを起こさないようにベッドから降りる。まだ早く、再び寝ようとしても寝れなかった。どこか気持ちが落ち着かない。
鳥肌が立つか立たないか絶妙な気温の中、護は町の中を散歩する。この時間帯から活動している人は少ない。いつかの飲食店で光が灯っているぐらいだ。
(戦闘三昧か。魔物相手に腕が鈍っていないといいけど。)
久々になる実戦にそんなことを思う護。メイアたちと模擬戦や鍛錬を欠かした日は休息に当てている日以外ない。きっと大丈夫だと思い直した。
ぼんやりとした意識は町に向く。このエルフの国は平和だ。魔物の脅威を結界で防ぎ、唯一生まれる場所でも、しっかり管理が行き届いている。獣人や人族との戦争の可能性はあれど、上手く対処してきた。さらに、純血派との内乱、女王型ケファーといった脅威が現実となり、解決した今、潜在的な脅威も減ったことになる。
もちろん、犠牲者は多く出ており、建物への被害は大きい。それでも、多大な労力と時間が経てば元通りかさらに発展するだろう。今を生きているエルフたちの顔は暗くない。
「…戦い続けないとな。」
誰もいない中、護は呟く。今も足掻き続けている周りのように。
焦りもなく、高揚感もない、平常とも言える状態になった護は、宿へと戻った。
~半刻後~
「護様、彼らが冒険者ギルドの方みたいですね。」
集合場所である町の西門で人員が揃うのを待っている中、見慣れない三人が迷いなくこちらに近づいてくる。その三人はかなり個性的だ。
一人は、身長が二メートルを超え、細長い印象の男で、もう一人の男は身長が低く横腹が出ており、文献に載っていたドワーフに近い。耳が違えばドワーフと見間違えそうなぐらいそっくりだ。残りの一人、女性は、青の髪に皮鎧、腰には鞭を装備している。
「お待ちしておりました。」
「よろしく頼むぜ。冒険者ギルドとしても、樹海深部の状況を知るっていうのは、生存者を増やすために必要だ。乗りかかる形になるが、俺たちもしっかり働くから、よろしく頼むぜ。」
ドワーフみたいなエルフは護たちに向かってそう言い、一人一人、握手していく。
「メノウだ。お前さん方の活躍は風の噂で聞いているぜ。」
「護だ。」
ドワーフみたいなエルフもとい、メノウのぶ厚い手が護の手をしっかり握る。
メノウの笑みと護の無表情がぶつかる。互いの手にはかなりの力が込められていた。
「風の噂通りの男かよ。女を沢山侍らせて羨ましいぜ。」
「……」
表情はそのままに護が一気に力を加える。メノウの顔色が少し悪くなった。それでも離そうとしないメノウに更なる力を加えると、メノウは諦めたように手から力を抜いた。
「たまげたぜ。引退したと言っても、力に自信はあったんだけどなぁ。」
「そうなのか。」
「試して悪かった。実力がないただの女たらしだったら、叩きのめしていたところだ。こんなところにいる時点で、只者じゃないことは分かりきっているか、はっはっはっ。」
「…」
どう反応を返したらいいのか迷った護は、ため息をつくしかなかった。
また、残りの二人、身長が高い男エルフのペリー、女エルフのフィアとはメノウのように力を試すようなことがなく、無事挨拶を終える。『真理眼』で見ると、三人ともLv40以上と、チュリが事前に話していた通り、それなりの戦闘力を持っていることになる。
「もう皆さんお揃いのようですね。ストランド名誉公爵、今回の調査、ぜひ成功させてください。」
「セントパルス伯爵、この度は支援していただきありがとうございます。」
「私は、貴族として勤めをしているだけのこと。樹海深部は私や領民にとって死活問題です。直接戦う力を持たない我々ができる最大限のことをしているまで。脅威は次から次へと迫ってきております。平穏が訪れるように、力を惜しまないのは同じです。」
冒険者ギルドの三人に遅れてやって来た数台の馬車から一人、身なりを整えた中年のエルフが降りてきていた。チュリとの会話を聞く限り、伯爵自らが、物資を届けについてきたらしい。
馬車から何人かが降りてきて、『アイテムボックス』から食料などを隊員に手渡ししている。隊員たちが収納できない分が出た場合、護が代わりに『アイテムボックス』に収納していく。Lv7に上がった『アイテムボックス』は地竜が丸二匹は平然と入りそうな広さで、自分たちの道具や倒した魔物を収納するスペースを差し引いても、余裕があった。
「荷物運びもできるとか、正式に入隊してくれないかな…」
隊員の一人がポツリと呟く。それを聞いた周りが頷き笑う。
一家に一台の電化製品扱いを受けている、当の本人はそれに気づかず、物資を収入して終わった後、チュリと伯爵の会話に耳を傾けていた。
「やはり、そうですか。」
「妨害なんてできないような輩なので、心配をする必要はないかと思われます。それよりも、黄ランク級の取り扱いはどうなりましたか?」
「意向は組んでいます。万が一、逃がすことはあっても、こちらから敬遠することはありません。」
「それはありがとうございます。大体、受け渡しは終了したようですね。このまま、この馬車をお使いください。西の砦まで送るよう、伝えていますから。」
(黄ランク級…確か一体だけ戦うやつか。なるほど、スポンサーからの依頼なら引き受けない訳には行かないな。国に一番近い奴だからなぁ、絶対に倒しておきたい。)
そこでようやく自分に視線が集まっていることに気づく。隊員たちはすっと視線を逸らした。
何があったのか首を傾げるも、追及する前に、チュリが会話を終えてこちらに向かってくる。
「積み込みは終わったようですね。馬車を貸してくださるようなので、それで西の砦まで行きましょう。各自乗り込んでください。」
護はメイアたちと共に乗り込む。あと一人、入れるところにチュリが乗り込み、馬車が進み始める。
西の砦に近づくにつれて、先の戦いの爪痕が多くなってくる。一部が炭になった植物も出てきはじめた。
事情を知らない隊員たちからすれば、主と賢者の戦いの余波がここまで来ていると思うだろうが、それを為した護の顔色は優れない。メイアたちを危険に晒した事実は頭の中に残っている。
突如、襲った冷たい感触に護は体を震わせて、飛びのこうとする。アンが義手で触ってきたようだ。
「マモル様はみんなを守ったよ?」
「…」
「アンの言う通りです。護様が主を倒したのです。それにもう終わったことを悩むのは、護様の悪い癖ですよ。」
バランスを崩した護を支えるようにメイアは抱きかかえ、アンの言葉に付け加える。
護は二人をまじまじと見つめて、そうだな、と相づちをうった。
「西の砦って、壊滅状態だったよな。」
「あの戦いが終わった時点では、ほとんどが燃えて灰になってしまいました。…アカシミヤさんが魔法を使わなくても、西の砦は原型をとどめていなかったので、お気になさらないでください。」
「再建して、立て直している途中といった感じか。」
「そうなります。兵、大工を派遣して、急ピッチで再建している途中です。結界は回復しているので、魔物は問題ないのですが、獣人たちとの戦争には必要な拠点ですので。」
西の砦以西は樹海深部となる。そこからさらに西にいくと、ガラリと雰囲気が変わり、人類未踏破領域、通称「魔の領域」と呼ばれる、高ランク帯の魔物だけが生息する場所へと出るらしい。幸いなことに、魔の領域から魔物が来ることはない。原理は不明だが、引き寄せる方法もなく、領域から絶対に出てくることはないらしい。
とは言え、魔の領域を恐れて、西の樹海に出るエルフはかなり少ないようだ。
「獣人からの襲撃はこれまであったのですか?」
「今まで、西から攻められた記録はありません。ですが、もしもの時に対処できるように、備えておくようにしています。戦いで絶対はありませんから。」
護たちの頭の片隅に、獣人族の話が残る。嫌な感じに、護は『月光・真打』の柄に触れた。
昼過ぎまで一度も止まらずに進み続け、西の砦へと到着する。馬車で進めるのはここまでだ。
西の砦の建物はというと、過去のものと比べると若干、低い。また、そこを中心に高さ十メートルほどの防壁を立てており、前回のような結界任せの状態とは最早別だ。
「物理的な防御も必要最低限固めることにしたんです。結界が破られて大量に侵入を許してしまったので、西の砦から最終的にはエルフの国周縁部を全て壁で覆う計画を立てています。」
「大変な工事になりそう。」
「そうですね。ですが、土魔法に特化した人材でカバーすることで、五年で終わらせるつもりです。その分、国庫が物凄い勢いで消費されているそうですね。ニースが回りだした経済からいかに税として回収するか、頭を悩ませていましたよ。」
「そ、そうなのか…」
護は税と聞いて、どこの世界でも似たような悩みをしているかと頭が痛くなる。
ちなみに、国庫は王木とは異なる場所に設置されていて、被害はないらしい。場所は限られた人間し知らず、護も知らない。
頑丈な造りをした門の前で馬車を降り、休憩をはさんだ後、早速門をでて、結界の外にへと出る。
ここも護の魔法の余波を受けたせいなのか、所々焼けた跡がある。しかし、光が差すところでは緑が生い茂り、暗いところでは、あの独特な色をした植物が生えていた。
「しばらく放っておくと、あっという間に再生しちまうからなぁ。」
「我らの国も土地柄似たような性質を持っていますが、樹海に比べると微弱ですからね。」
「あれなんて、ここらへんでしか見られないんだから、採取しておきましょ。」
ギルド三人組が状況に対して感想を述べていく。フィアが生い茂る緑の植物を手慣れた様子で、採取していく。護たちはそれなりの速度で歩いているはずなのだが、彼女はついてくる。手に植物を携えながら。
どうやら、適切に違う植物を見極めてそれだけを引っこ抜くなり、ちぎっているようだ。
「魔物の気配がしない。前回はいた筈なんだけど。」
隊員の一人がポツリと呟く。確かに、『気配察知』に引っ掛かる気配はしない。結局、それは野営をし始めるまで、そのままの状態が続いた。
樹上から南下し始めるポイントを確認し、野営をし始める。
それぞれが天幕を張り終え、護に預けていた食べ物を取りに、殺到する。それを押されながらも捌き切り、談笑まじりの食事が始まった。
「やるな!竜殺しなんて滅多にできるもんじゃねぇぜ。機会しかり、実力しかり、色々必要だろぉ?」
「あ、ああ。」
護は、メノウに絡まれていた。どんな戦いをしてきたのかを端的に言うと、護のことが大層気に入ったようで、酔っ払いかと思わず言いたくなるような陽気さで、護の肩を叩く。
助けを彼のギルド仲間に送るが、首を横に振られた。メイアたちも同様らしい。
引き気味に応じる護は、『気配察知』に引っ掛かる存在を捉えたことで、顔色を変える。
「どうした?」
「敵みたいだ。一つの気配にそれを追いかけるように迫るのが三つ。…ん?三つの反応が遠ざかるように動いている。とりあえず一つの気配が来るぞ。」
隊員たちは武器を取り出し点検する。陣を組み前衛が護が指し示す方向へとそれぞれ得物を向けた。
オォオォオォン!
重低音を鳴らし接近するのは、狼型。体長三メートル、獰猛な爪が地面を、幹を捉え、立体的な移動を可能にしているようだ。
結界が張ってあるのにも関わらず、激しく衝突する。結界が砕けるも、ぶつかって弾かれたところに後衛の魔法が刺さった。
ダメージはかなり抑えられたようだ。無傷と入っていないようだが、鮮血が散った部分や焼けこげた部分はかなり少ない。
「Lv54か。」
「少し高いですね。」
「オリーとセレスは魔法の準備を。メイアと俺で支援する。」
レベルが足りない隊員もいる。チュリと視線を合わせると、地面を転がった隊員と変わるように、護は前戦へと立った。
迫りくる風の刃を風の結界で相殺し、後ろから飛び出したチュリが炎を纏わせた大剣を振りぬく。
狼型は回避、幹を蹴り頭上を高速移動する。樹海樹を飛び回り、セレスたちに狙いを定めさせない。
しかし、動きを読んだメイアが幹を一気に駆け上がり、空中で身動きが取れない狼型の鼻に踵落としをぶちかました。
地面に叩きつけられた狼型に、セレスとオリー、他の後衛の光の矢が刺さっていく。その中、セレスの光の矢が一度狼型を貫通した後、軌道を変えて脳天へと突き刺さった。それが止めとなり、狼型は沈黙する。
「アカシミヤさん、他は?」
「後続はなし。三つの反応はロスト。」
「けが人は?」
「かすり傷のみです。魔法で治療終えました!」
「結界を張り直し、事前に決めた通り、見張りを置いて休息をとります。」
チュリの凛とした言葉が、戦闘で興奮している隊員たちを落ち着かせる。
被害はほぼ無く、後続やその他の魔物が来る気配もない。戦闘が終了したとして、高ぶった気持ちを熱と一緒に流すように、護は息を吐いた。
「アカシミヤさん、三つの反応について、どう思いますか?」
「少ししか反応しなかったから、何とも言えないが、もしこちらに気づいたのであれば、距離からしてLv4、5の『気配察知』を向こうも持っていそうだ。」
「獣人?」
「それは分かりませんね。魔物でも群れを作って行動するものはいますし、『気配察知』を持っているものもいますから。」
「そうなんだ。」
敵が護と同等のスキルレベルをしているとなると、捕まえるのは困難となる。
気になる存在ではあるが、目的はあくまで、南の樹海深部を調査、目標の討伐であり、未知を確認している余裕はない。
もし、獣人ならば問題ではあるのだが、向こうから顔を出してこない限り、こちらから行動を起こすのはリスキーだ。この場にいる兵士たちを信じるしかなかった。
「慈愛の女神様に治療をしてもらえるなんて、俺、どんな戦場でも戦えそうです。」
「じ、慈愛の女神様じゃありませんっ。…命は大切にしてください。」
「は、はい!!」
そんな会話が聞こえたので、護はそちらを見てみると、拝まれているセレスが。どうやら報告の際、治療したのはセレスであり、微笑まれて隊員の心が信仰に傾いたらしい。その内、慈愛の女神教ができそうだ。
「護さん、どうしたらいいのでしょうか。正直、厭らしい視線とは別の視線を向けてくるお方が増えたのですが…どこか怖いのです。」
「危害を加えてくるようなら、問答無用で魔法を打ち込むんだ。後ろを付きまとう相手がいれば、言ってくれ。オハナシをするから。」
「分かりました。…ありがとうございます、護さん。」
セレスが顔を赤らめながらも、腕を組んでくる。
男エルフからぐれた視線が突き刺さるが、セレスに危害が加わるよりマシだろう。
一人のエルフが気まずそうに寄って来て、
「いちゃいちゃしてるところ悪いが、マモルさん方は休んでくれ。その間は見張っておく。マモルさんへ怨念を向けている奴らには、睨みを利かしておく。」
「なんか悪いことをしているようですまない。」
「場が場だからな。ほどほどにしてくれよ。」
顔を真っ赤にしているセレスを連れて、天幕へと入る。護、セレス、アンが眠り、メイア、オリーが見張りになる。それを前半と後半で分けて、交互に負担する形をとることにしていた。
既に眠いのかうとうとしているアンと緊張が解けて、疲れが出ているセレスをベッドに寝かせ、護自身は、寝袋で眠るのであった。
~???~
『気づかれたかにゃ?』
『分からない。でも知覚できた時点で転身したのは正解かもにゃー。私の『逆察知』が反応していたにゃー』
『当然か。数は分かったか?』
『反応したのは、十ちょいにゃ。でも、捉え切れなかったかもしれないにゃー』
『中途半端な数だ。俺たちの行動に気づいているような動きではないかもしれない。』
リーダー格がそう判断する。それで血に飢えていた一人の女はフシュ―ッ、と不満を漏らした。
『狩らないのかにゃ』
『数では勝っているだろう。しかし、ミゥと同等の探査能力を持っている輩が居ると言うことは、最悪逃げ切られる。すると、作戦は失敗だ。犬人族と手を組んでいる以上、我らの失態は、あいつらに隙を見せるということだ。我慢しろ。』
『納得いかないにゃ。獲物を逃がすなんて嫌にゃ。『隠密』を持っている奴で行けば何とかなるにゃ。サクッと首を何人か引き裂けば、混乱して狩れるにゃ』
『文句を言うな。』
その場で尻尾を立てらせて、全身で不満を言うが、リーダー格の判断は変わらない。
ミゥと言われた女性が、その子をなだめるが、威嚇を止めない。
そして、
『うちだけでやるにゃ。一人で首を全て狩れば問題ないにゃ』
『馬鹿なことを言うな。相手は十人以上だぞ。いくら、お前が狩りが上手かろうと、多勢に無勢だぞ。族長に言われただろう、狩れる獲物を狩れ。いくら大物だろうと狩れなければ、飢えて死ぬ。お前は散々聞いてきたはずだろう。』
『うちはそんな風に思わないにゃ。狩るか死か。どうせやるなら、大物を狙うにゃ。うちはいつもそうしてきたにゃ』
『シィ!!』
威嚇をしていた少女もとい、族長の娘シィはリーダー格の言うことを聞かず、姿を消してしまう。メイアに劣らない『隠密』を駆使して、血が昂るのに任せて動き始める。
勘で追随し、止めるまではいかなくても、声を届かせられる存在が居た。
『待って!シィ!』
『止めるな、ミゥ。リーダーみたいなヘタレた考えを持っている奴と同じ奴の言うことは聞かないにゃ』
『一人で勝てる訳ないじゃない!!大きな獲物は彼らじゃないにゃー。リーダーに文句は言わせないから、戻って来てにゃー』
『知ったことないにゃ』
シィの気配が遠ざかっていく。意固地になっている彼女に、親友の言葉は伝わらない。
リーダーがミゥに追いつく。
『しょうがないが、動くしかない。シィの行動を無駄にする訳には行かない。』
『ごめんなさいにゃー』
『ミゥが謝ることはない。あいつの衝動を抑えきれなかった私の責任だ。一緒に、ここを切り抜けるぞ。』
『承知にゃー』
暗闇の中、瞳孔を光らせて、猫人たちは動き始めた。護たちは未だそれに気づいていない。
A:なんちゃってQ&Aを行うぞ。
Q:中々酷い展開になりそうな予感がビンビンする状態になっていません?
A:黙秘する。
Q:うわぁ。それもこれ、初期構想と違いますよね。
A:…。




