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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
賢者編
52/138

閑話 ~デート3?~

か、閑話にしてはやや長め…

~エルフの国・イルロ侯爵領~


 王都の西側にあり、王都から辺境伯領に続く街道にある最大規模の領。

 そこを統治するロウ・イルロ侯爵は目の前の少女に注視していた。


「この度は、即位なされて、誠におめでとうございます。」

「ありがとう、侯爵。王都から逃れてきた民たちを受け入れて、適切に対処したことを礼に言うわ。」

「恐悦至極に存じます。」


 手に入れた情報によると、この女は放浪の旅をしていた。そして、今回の騒動を急逝した王に代わり、治めた女傑だ。

 この領に来た理由は辺境伯領に向かう道中の休息をとるためとのことだが、こうして相まみえているとそれだけではない気がしてしょうがない。侯爵は、そんな考えに囚われていた。


「ほとんど被害が無かったのは、幸いだったわね。貴方のところが所有している紙の製造工場と、印刷工場に影響がなくて、王国としても運に助けられた形ね。」

「奴らは我らを攻撃して追い出し、新たな政権として権力を獲得することが目的の一つでした。そのためか、建物の被害はそこまで出ておりません。王都の方は散々だと聞いておりますので、複雑な気持ちではあります。」

「王木も要塞もなくなってしまったわ。新しい建物を、象徴を考えないといけないわね。」


 資金を提供しろ、と要求でもしてくるのか、と身構える。しかし、ライラはその言葉を発さなかった。


「復興が優先だけどね。それに、私が居なくなってからでも、遅くないし。」

「…それはどういうことですか?」

「詳しい話は、伯爵以上が集まる国家会議の際に話します。今は、察してほしいとしか言いようがないわね。」


 ライラは耳飾りにそっと触れる。それが何を意味しているか知っている侯爵はそれ以上、追及しなかった。そうして、侯爵と女王の面会が終わった。

 ライラは部屋を出て、屋敷の別の応接間の扉を開ける。そこには、護とアン、オリーの三人が座って待っており、ウィスたち護衛の姿もある。


「終わったわ。」

「お疲れ様。」


 ライラは護から差し出された水を飲み干した。女王としての威厳は完全に消え失せ、護たちが知る彼女になる。


「侯爵との話は上手くいった?」

「あいさつ程度よ、アンちゃん。それでも緊張したわ。作法を使うのは久しぶりだったから。」

「へー。観光できそうなところはあるの?」

「いくつか人族との戦争の跡地はあるし、樹海樹を密生させて、枝の上に建物を立てている地域はあるわね。後は、紙の生産はこの領地で盛んなのよ。それを買いに来た商人たちでできている市があるわ。」


 純血派の戦乱のせいで、市はまだ立ち慣れてないらしいけどね。と付け加える。


「うーん、微妙。」

「観光はおまけみたいなものだしね。マモル君と派手に回ることもできないし、しょうがないわ。」

「だとしたら、寝る時間が楽しみ。」

「そうね。」


 アンとライラは辺境伯の道中でかなり仲良くなっていた。初日は互いに距離を探っていたようだが、会話していく内に今の状態だ。

 何より、眠る時は交互といった感じで争うことがない。また、口を出して機嫌を悪くされても困るので、護は何も言えない。

 二人が期待しているのは、今回は大きめの宿に泊まるからか。ダブルベッドで眠ることは確定しており、三人で眠るのが楽しみなのだろう。


「さて、この屋敷に留まる理由はないし、町の方でも行きましょうか。」


 ライラが扉を開けると、侯爵が立っていた。丁度、用があったようだ。

 驚きを隠し、ライラは女王としての姿勢を取る。


「女王様、どこにお出かけになるつもりなのですか?」

「町に。」

「詳しい者と護衛をつけましょうか?」

「要りません。護衛は彼らがいれば充分だし、案内役がいると興が削がれてしまいます。それに、宿の場所は把握しています。いざとなれば屋根を伝い移動するので問題ありません。」


 苦言を言おうとする侯爵に、ライラは冷たい視線で微笑んで黙らせる。

 何かしらの要件があるはずだが、侯爵はそそくさと退散してしまった。


「ライラ、流石にあれはちょっと、どうなのだろう。」

「だって、今からデートよ。邪魔されるのは面白くないわ。」

「同感。」


 護もニ対一で言いくるめられてしまった。ウィスに助けを求めるが、彼女はため息を吐くだけだ。

 ライラにとって、羽を伸ばして動けるのは今回が最後になるかもしれない。彼女が女王の責務から解放されるまで、こういった日は来なくなる。行動について甘くなるのはしょうがなかった。


「気を取り直して、行きましょうか。」


 屋敷を出て、少し歩き、町へと入る。

 町並みは他のところと大差変わりない。ただ、見かける馬車の数が多かった。


「まだまだ立ち直ってはないらしいけど、商人が多そうね。珍しい物が流れてきていることもあるし、探してみると楽しそうだわ。」

「食料の方が多いみたいだぞ。…銀貨一枚だな。」


 護は店に並んでいる果物を買って、ライラに渡した。

 見回す限り並ぶのは食料で、小物はなかなか見当たらない。しかも、相場よりも少し安い値段で売っているところが多い。薄利多売でも利益が出るのだろう。

 まだ大半の人は故郷、もしくは拠点に戻れていない。それだけ食料に需要があるということだ。


「大量に買っている人が多い。戦いが終わったとはいえ、不安は残っているようだな。」

「そうよね。兵として志願した人たちは、ほとんど帰って来れてないわ。彼らの話があれば、勝ったという実感が湧くと思うのだけど。今度は北がきな臭いし、まだ、休んでもらうには早いわ。」

「そうか。俺も頑張らないといけないかな。」

「充分に働いてくれていると思うけどね。アンちゃんに怒られるわよ。」


 見たことない食べ物に惹かれているアンを見て、ライラはそう言った。

 確かにと同意して、護はマンゴスチンに近いその食べ物をオリーを含めた四人分買う。

 それぞれが実を選んだ後、食べ方が分からない三人に、ライラが実の割り方を教える。


「あっ」


 力の加減を間違えた護の実が潰れる。アンに励まされ、オリーは何も言わない。ライラは苦笑する。

 三者三様に反応された護は、無言で潰れた実を『アイテムボックス』に放りこみ、『浄化』を発動して、手を綺麗にした。


「私のを分けてあげるわよ。力の調整を失敗するなんて、珍しいわね。」

「ありがとう。俺だってミスぐらいする。」

「私の手を握ったりするときは、ちゃんとできているのに?」

「この実と手だと気の振り方が違うだろ。次は失敗しない。」

「マモル様、私のも分けてあげる、よ?多分こっちの方が甘いから。」


 どうやら、次のチャンスは来させないらしい。アンとライラ、オリーと三人の分を一つずつ食べさせられる。三人の中でどれが一番美味しい実か聞かれた護は、素直に答える。


「オリーのが一番甘いかな。」

「そうなのですね。私たちでも食べ比べてみます。」


 そうして、三人が食べ比べた後、アンとライラが敗北感を滲ませているのが印象的だった。

 複数の店舗をめぐり、とあるアクセサリー店に入る。


「これいいかも。」

「あら、見ない子だね。それが、気に入ったのかい。」


 六十台に見えるエルフの女性が店を仕切っていた。アンが気になるアクセサリーを手に取る。

 アンが選んだのは首飾り。青いリングと黄色のハートが一つずつ組み合わさったものが、銀のチェーンに通っているものだ。素人の護が見ても、かなりの技術がつぎ込まれているのが分かる。

 値段の表示がない。護が尋ねると、


「値段は決めてないんだよ。この老いぼれが暇つぶしに作っているものだからねぇ。」


 老婆はそう言う。彼女が嘘を言っている素振りはない。

 護は『真理眼』を発動する。


明暗 (END、AGI+10。名匠パミルが作成した首飾り。青狼と光亀の魔石を加工している。魔石の大半が残っておらず、魔法陣も刻まれていないため、効果は微弱。ペアとして『暗明』があり、互いに想い合う男女が愛を確かめ合うために着けるという、ロマンチックな願いが込められている。)


「この片割れはどこに?」

「説明をしようかと思ったら、言われてしまったねぇ。」


 老婆はもう一つ、青のハートと黄色のリングという組み合わせのネックレスが取り出し、護に渡す。

 アンにも見せると、彼女は喜ぶ。その様子を見て、老婆は笑った。


「気に入ったかい?」

「丁度、二人で身に付けられる物を探していたんだ。」

「そりゃあ、良かったね。そいつはあんたたちみたいな男女に作ったものだよ。気に入ったのなら持って行きなさい。」

「お代はいいのか?」

「言っただろう。暇つぶしで作っているってねぇ。…実際につけているところを見せてくれるかい?それをお代にしようじゃないか。」


 アンはフードを降ろし、首飾りを身に付ける。アンの耳に目を大きくするが、老婆は何も追及しない。

 二人が首にそれぞれかけたところで、満足したように頷く。


「作った甲斐があったねぇ。そこのお嬢さん方もあんたの連れかい?」

「そうなるな。」

「…ちょっと待っておくれ。」


 腰を上げると、店の奥に三つの木箱を取り出して戻ってくる。そして、ライラ、ウィス、オリーの三人に一つずつ渡した。

 ライラたちが開けると、それぞれ赤、緑、青の魔石と宝石を使用した腕輪が入っていた。

 護は効果を見て、こちらは実用性も兼ねているのかと思う。


「見て分かるのはお互い様さ。そちらのローブのお嬢さんはお偉いさんで、その後ろで控えているのは護衛さんだろ?そして、あんたの彼女の隣にいるのは、侍女といったところかね?」

「大体合っているわ。それにしても、こんな精巧な装飾品を作れる職人は何人もいない……『美麗』?」

「おや、その二つ名を知っているのかい。お嬢さんも中々物知りだねぇ。」


 ライラが思い出して、その二つ名を呼ぶ。老婆は笑って見せた。


「黄ランクまでは私もいったものさ。冒険者を引退してから、かれこれ、五十年近くするのに、まだ、その二つ名を知っている者がいるとは驚きさ。」

「歴史に名を遺すような人物の一人よね。私は貴方が作った伝説に憧れた者の一人になるの。」

「ファンかい。そりゃあ、嬉しいね。でも、今はしがないの装飾店の職人さ。戦いも未来も後続に任せることにしたのさ。それは分かっているだろうね。」

「ええ。今回のことで、動かなかったのは知っているから。」

「私はそうだけど、あの賢者様が動いたのは、驚いたけどねぇ。」

『…』


 護たちはそれ以上、詳しい話をしなかった。ただ一言だけ、賢者は過去にあったことの決着を自らつけただけだ、と。それで満足したのか、老婆は追及しなかった。

 ほぼ目標を達成してしまった護たちは、探索を続ける気にもならず、宿で休むことになった。

 健全な体つきになってきたアンとメイア並のものを既に持っているライラに挟まれて、眠れない護は、エクストラに頼って眠るのだった。


~二日後~


「ここが辺境伯領…」

「かなり酷いわね。」


 直轄の街にたどり着いた護たち。戦闘の傷跡が残っているのを見て、純血派との戦闘が苛烈だったことを想像する。

 向かってくる一団がこちらにやってくる。サフラ・ルーメ、この辺境伯の騎士団長になった女性とその部下たちだ。

 ライラは馬車を降り、整列して敬礼をしてくる彼女たちの前に立った。


「ご苦労様。貴方たち、いや、この町を取り返そうと戦ってくれた者たちに敬意を表します。」

「光栄の限りです。女王様、案内は私、騎士団長がさせていただきます。」

「お願いします。辺境伯の娘の元へと案内して頂戴。」

「かしこまりました。」


 騎士団が散開する。サフラはライラと共に馬車へと入る。

 町の様子を見ながら、ライラが言った。


「どう、復興は進んでいますか?」

「ええ。皆、力を尽くしております。」

「それでも十年はかかるでしょうね…。報告書を読みました。建物の被害もそうだけど、人も大勢が亡くなりました。」


 ライラは淡々と現状を話し、謝罪する。


「隣のアスタイト王国に応援を頼みたいのですが、向こうは向こうで復興作業中で、西部もいくつかの町村が壊滅していて、貴方たちと同様な有様です。北部は獣人たちが怪しい動きをしているとの報告があり、下手な戦力や労力を外せません。…ごめんなさい。私がもっとうまく人を振ることができたら、もう少し復興を早めることができるのに。」

「いえ、女王様は上手くやっておられます。現に新たな騒乱は起こっていません。」

「それは…」

「統治が上手くいっているから、起こらないのです。不満があるものがいれば、疲弊している時に命を狙うはずです。」

「うん、そ、そうね。」


 ライラは自身の政治能力に関して、上手く評価できていなかった。宰相の問題処理能力が高すぎて、自信が持てていないのだ。騎士団長の評価に軽く相づちを打つので精いっぱいになっていた。


「もうそろそろ、屋敷に着きます。令嬢の状態はご存知ですか?」

「ええ。年頃の女の子だったら、ああなってもおかしくありません。…近くに例外はいるけど。」


 メイアたちを思い出して、ボソッと呟く。

 辺境伯家の唯一の生き残りである令嬢は、心を病んでいた。塞ぎ込み、彼女は誰にも心を開かない。父親の血が残った部屋から出ることもせず、言葉も失ったかのようにしゃべることもしない。食事は部屋前に置けば時空魔法を使って手だけ出してとる。いつの間にか、衣服が消えていたり、洗濯場に使われたものが置いていたりと、彼女は生活に関して、誰にも見られないよう徹底しているようだ。

 あまりにひどい状態に無理矢理扉を開けたことがあった。彼女は半狂乱に陥り、自分の首を掻き切ろうとしたので、眠らせた。

 そして、別の部屋に移した訳だが、次の日には元の部屋に戻っている。それからは、繰り返しだ。


「私ができることは少ないけど、女王として行動だけはしなければなりません。」


 屋敷に到着し、扉がなくなっている部屋の前と移動したライラは中を除く。そこには、今を拒絶し、過去の思い出に浸る少女の姿があった。ライラの姿を見た少女は、警戒心を露わにする。


「…」

「初めまして。ライラ・ン・ポルンよ。第十五代女王です。あなたが取れる選択肢の話をしに来ました。」

「…」

「あなたには二つの選択肢が残っています。一つ目は辺境伯の地位を返上し、この屋敷を放棄するというもの。二つ目は、辺境伯の地位を引き継ぎ、屋敷の主で居続けること。」


 一つ目を提示した際、少女は明らかに殺気をライラに向けていた。

 微塵も震えることなく、ライラは現実を突きつける。言葉がだんだん荒くなっていく。


「今のあなたじゃ、二つ目の選択肢は選べません。ただ単に駄々をこねて部屋に籠ろうとする部下を私は要らない。あなたが大事だと思えるもののために戦えることを示して。手段は問わないわ。あなたなりにこの領をどうするか、本気になって頂戴。」

「……」

「あなたに国への忠誠心は求めないわ。ただ、あなたのお父さんが何を成し遂げたかったのか、思い出すことね。」


 ライラは部屋を後にし、護たちが待つ部屋に行く。少女は無言のまま見送るだけだった。


「お前さん、そんな髪と耳だったか?完全にハーフエルフにしか見えない。」

「少し事情があって、そうなった。」

「ブリガン、事情の詮索は駄目よ。それよりも私もハーフエルフになれるかな?」

「残念だが、不可能だな。」

「そんな~」


 『黄土の極み』のブリガンとその妻、護が話していた。サフラ(騎士団長)がそわそわしており、アンたちは会話に少しだけ参加する形でいるようだ。

 護が扉付近で立つライラに気づき、自身の隣へと、来るよう手で示す。


「マモル君、この人たちと知り合いなの?」

「ああ。魔物行進戦の時に、とある事情で顔だけな。印象的だったから覚えている。」

「そっちも、聖女の弟子で竜殺しの青年。当然、覚えている。」

「『竜殺し』?それは初耳ね。今まで話に出てこなかったわ。」


 女王であることを伏せライラは自然に会話に混ざる。魔物行進戦の話の方を聞き、護が死にかけていたことを知った彼女は、苦笑するだけだ。


「ねぇ、あなたが新しい女王様?」

「そうよ。自己紹介がまだだったわね。ライラ・ン・ポルンよ。隣のマモル君とは、私の婚約者といった感じね。」

「玉の輿だ…。」


 護の方を見て、ブリガンの妻がそう呟いた。

 言われた本人はというと、ライラと顔を見合わせる。今の現状からすればそうだが、話は違う。


「ええと、私がマモル君に嫁ぐときには、私の方がひもになっていそうね。」

「「??」」

「気にしないで。婚姻はまだまだ未来の話だから。」


 ライラの緊張が護に伝わる。女王をやめるという話は混乱を招く可能性が高い。


「それよりも、あの女騎士が気になってしょうがないんだが。」


 話を変える。護は、落ち着かない騎士団長を胡乱げな目で見てしまう。ライラが入ってから、護とライラの間に視線を行き交いさせている。時折、睨みつけることがあれば、逸らしてみるといった動きをさせていた。

 護に言われた後は、何でもないと言わんばかりに手を振っているが、どう見ても怪しい。


「わ、私は別に、特に何もありません。」

「そうかしら。マモル君が私にとって相応しいか、品定めしていたんじゃないの?」

「そんなつもりは。」

「折角だし、戦ってみる?二人ともそれなりの実力者だし、強さの方があなたもしっくりくるでしょ。」


 戦うことになりそうで、護はライラに抗議の視線を送る。しかし、返答はウインクと「見てみたいわ。」との一言だ。

 気は乗らないがやるしかない。護は息を一つ吐いて、了承するのだった。


~一時間後~


「そこまで!!流石ね、マモル君。」

「はぁ、はぁ。騎士団長に勝ってしまったがいいのか?」


 護に短剣を首元に当てられているサフラ。彼女の手に武器はなく片腕を抑えている。勝負は完全についていた。

 ただ、一切手加減なしで勝った護は困惑していた。副騎士団長あたりはショックを覚えているのが見える。負けた方が、ショックにならなかったのでは、と。


「本気の私に勝ったのだ。貴殿に、女王様を任せられることがよく分かった。それよりも、引き分けにも持ち込めなかった私が恥ずかしい。」


 騎士団長が勝敗に納得しているようなので、どうやらいいらしい。

 手ぬぐいをアンが渡してくる。護はそれで汗を拭い、アンに礼を言う。


「ありがとう。」

「マモル様、かっこよかった。」

「そう言われると、どこか照れくさいな。」

「自信を持って。マモル様は強い。」


 サフラや副騎士団長が目を丸くしている。二人を微笑ましく見ているライラに、ますます状況が分からなくなったようだ。


「ブリガン殿。ずっと思っていたのだが、彼はアンさんとも仲良くしているのだが、ライラ様は何も言わないぞ。どういうことなのだ?」

「ん?…要するに、あの少女も『竜殺し』の彼女だろうよ。後、奥さんも一人いるみたいだぞ。」

「はあ!?」


ザワッ!


 周りが騒がしくなる。女王の他に女性が三人もいる?困惑と混乱が支配していく。


「これは説明で納得してくれるのかしら。」

「多分、無理。逃げるべき。」

「そう言えば、こちらでは知る人間がほぼいないんだったな…」


 徐々に迫ってくる副騎士団長他大勢に、護はアンをお姫様抱っこしてその場を離脱するのであった。

 逃げ切った後、宿で、護はライラに膝枕をしている。


「ねぇ、マモル君。」

「できれば早く解放してほしい。」

「アンちゃんみたいに満足するまでね。…マモル君は夢を持ってる?」

「夢?」


 ライラは体を仰向けにする。隠れていた胸元が見えて、護は目を背ける。

 しかし、護は顔を掴まれて、互いの顔が正面に向くようにされる。彼女も同様に緊張しているのが分かった。


「私にはね、夢が無かった。」

「それは俺も同じだ。必死に戦って、死にかけて、それでも戦って。メイアやセレス、アン、君を幸せにする。それはあるけど、夢ではなくて目標だ。」

「幸せにして、マモル君はどうしたいの?」

「そこからが分からない。だから、目標なんだ。」


 達成すべきことは定まっている。彼女たちを幸せにする。では、その時とそれからの自分は?

 自分自身がどうありたいかを夢であるとするならば、護は明確な答えを持っていなかった。


「私は貴方の傍に居たい。とりあえずの夢ね。もしくは目標かも。」

「それで、いいんじゃないか。」

「私はそうかも。マモル君にも見つけてほしいかなぁ。誰かのために動くのは間違っていないけど、もっと自分を大切にしないと。」

「周りから散々言われているけど、無理だな。」


 ライラが不機嫌そうな顔になる。護は苦笑するだけだ。

 二人の唇が重なる。感覚の共有が二人の身体を火照らせた。ライラの衝動が移り、護の情欲に火が灯る。


「ライラ…」

「マモル君…」

「ちょっと待って。ずるい。」


 いつの間にか部屋に入ってきていたアンが凍てつく気配を纏わせて、死んだ目を向けてくる。

 護たちは互いに距離を少し離し、二人がかりでアンを宥めた。

 それからは、三人で眠るという、昨日までと変わらない夜を過ごすのであった。

 

補足 セレスはいつも手伝っているところに引っ張りだこにされ、メイアはムスプラに捕まり、解体作業を手伝わされています。ガンドルフたちはセレスのところで、一応、護衛として一緒に行動しているようです。

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