世界樹と風の神 ~勇者の剣、失望、希望は~
ふ、振り回されてる…
~数日後~
「マモル様、アザレアさんたちが来てる。」
「そうなのか。通してくれ。」
スラムに蔓延る盗賊共を潰し、エルフの巫女を発見した後、足取りをゆっくりしてセレスたちが待つ町まで、護たちは戻ってきていた。仮ではあるが、建物の一室を借り、休んでいる。
また、エルフの巫女は昨日まで眠っていたが、目を覚ました。ただし、彼女自身、何が起こったのか身に覚えていない。ショックで記憶をほとんどなくしていた。
『真理眼』には『傲慢』、『強欲』、『嫉妬』の三つのスキルが灰色になっており、彼女の行動を見る限り、癇癪を起すようなこともないらしい。むしろ、素直になり、復興の手伝いの申し建てをするほどだった。
(あれが…彼女本来の性格なのだろうか。思い出せば、元に戻ってしまいそうだが…)
「ねぇ、アカシミヤ君、何考えているの?」
アザレアの言葉で、護は彼女を見る。隣にはチュリが座っていて、アンは壁の傍でハイドロと共に控えていた。
護は何でもないと答えて、アザレアに何の用かと尋ね返す。
「いつも聞いても、何でもないで躱すね。それで大丈夫?ちゃんと休めてるかい?」
「問題ない。休めている。」
「ホントに?」
こちらに戻ってから、毎日一回はする問答だ。あの戦いの影響がないか、毎回確認してくる。
悲惨ともいえる戦いに参加し、人も殺したというのに、護の心は揺れ動かなかった。まるで、魔物を殺した時と変わらない感慨しか抱かなかったのだ。
前後で変わったのは、誰かと鍛錬する時だけだ。向かい合うと、意識が鮮明になる気がする。
また、纏う気配が明らかに変わったと周りから言われている。
「調子は悪くない。夢に出てくることはあっても、視点を共有している傍観者と同じような感じで、辛いや悲しいと思ったことはないな。」
「それ、ヤバいと思うんだけど。」
護は苦笑いした。傍から聞いたら、確かにそう思うのが適切だろう。
アザレアは護の顔をじっと見つめると、脱力する。彼女はやれやれと言った風に首を振った。
「アカシミヤさんはこれから、世界樹に行くのですよね?」
「そうだな。今手伝っている魔物解体がひと段落したし、翌日にはここを発つつもりだ。」
アザレアに代わり、チュリの質問に、護は答える。
賢者の手紙の通り、世界樹に赴くつもりだった。明日にメイアを連れて二人で行く予定だ。アンやセレスはエルフたちから人気を集めており、手が離せない。町に戻ってからも常に行動を共にしているメイアだけ、手が空いている状態だった。
「メイアお姉ちゃんとのデート、楽しんできて。私はこれで、我慢するから。」
アンの手にあるのは護を模した人形だ。メイアが昨日作成したもので、アンの『依存』を満たすために、彼女の手の中にある。効果はあるようで、護を求める衝動が収まるらしい。
アン曰く、「マモル様を独り占めしてる感じがして、落ち着く。」とのこと。
それを聞き、鳥肌が立ったが、それを悟らせないように逃げられたのは僥倖だろう。
「愛されているというか…」
「重いですね。」
名誉公爵から同情の視線を向けられる。その視線から目を背ける護だった。
「ところで、ムスプラさんからこれを預かっているんだけど。」
アザレアが魔物の翅を取り出した。トンボ型の魔物の翅で、透き通っているが、かなりの強度がある。
護は『真理眼』を使い鑑定する。
「グロース・リべレという、トンボ型みたいだ。加工には向かないけど、魔法耐性が強いと伝えてくれ。」
「伝えておくよ。…鑑定をさせるだけのために、僕を遣わしたみたいだね…」
おそらく急用だと言わんばかりの勢いで渡されたのだろう。ムスプラの悪癖だ。
戻って来てから知ったのだが、彼女は騎士団に所属していないらしい。普段は、とある冒険者ギルドで働く解体屋で、今回は志願して、戦場付近まで来ていたようだ。
対人戦でも解体包丁を振り回すみたいなので、有名なのだが、名誉公爵であるアザレアたちとの直接的な面識は初めてのようだった。
「あいつには抗議しても無駄だから止めておけ。」
「そうしておく。ええと、彼女は君の好みかい?」
「…違うが。別に好みの女だから彼女を手伝っている訳ではない。寧ろ巻き込まれてやらされているといった方が正しい。嫌でも理解させられる。」
「ライラ様にはそう言っておくよ。それでなんだけど、ライラ様からアカシミヤ君に伝言を預かっているんだ。」
戻って来てからというもの、ライラは多忙で、会うことができていなかった。
「夜に、町の東にある一番近い樹海樹の傍で待っているそうだよ。彼女のお気に入りの場所になっているみたい。少数の護衛だけ引き連れて毎晩向かってるらしいね。」
「襲われても全く文句が言えないぞ…」
「まぁ、彼女だからね…」
三人でため息を吐いた。暗殺でも起これば、混乱どころの騒ぎではない。
彼女が要となって成り立っているところもあるのだ、自重してほしいと思う。
「とりあえず伝えるべきことは言ったよ。チュリは別に話したいことがあるらしいから、まだ残るよね。」
「はい。」
アザレアが出て行った。
アンが居る中、チュリと護は視線を交わす。
「国に入る前に聞いた一団を覚えていますか?」
「覚えているが。何か分かったのか?」
「それが、彼らは純血派ではないようです。魔物を引き寄せた痕跡が残っており、人為的に引き起こされたのは間違いないのですが、生き残った純血派幹部によると、計画にはなかったそうです。」
「…王の方で引き寄せた可能性は?」
チュリは首を横に振った。あの王が仕組んだことでもないらしい。
魔物を引き寄せ、西の砦を壊滅させた者たちの意図は不明だ。混乱に便乗しただけとは言い難いが、それ以外の動きは見られなかった。
(多数、もしくは赤以上のクラスの魔物を引き寄せることができるかどうか…それ自体が今回の目的なら納得がいくが…)
考えてみても、よく分からない。
宰相が人事を動かして調査しているようなので、護はそれ以上考えることを止めた。
「それで何ですが、樹海深部の調査に参加しませんか。」
「チュリお姉ちゃん、マモル様にこれ以上戦わせるつもり?休ませてあげて。」
護が言う前に、アンが声を低くして、そう言った。
明らかに怒っているアンの顔を見て、チュリは大人しく断念する。彼女は護に再会の約束を告げて、部屋から出て行ってしまう。
その様子を最後まで見ることなく、アンは人形を強く抱きしめて言う。
「マモル様、休んで。私は心配している。大きな戦いが何度もあったのに、自ら戦いに身を投げ出している。マモル様は具体的に言おうとしないけど、あの巫女の様子や死人が出ているのを知っているから、何があったのか大体想像できる。」
「…」
「置いて行かないで。辛いことや悲しいことがあっても、隣に居たい。私たちもマモル様の力になりたい。追いつく時間が欲しい。これ以上離れたら、駄目。」
強さの点では、メイアとの距離は詰まり、アンやセレスとの距離は離れた。アンが抱いているような不安を感じてしまってもおかしくない。
護は椅子から立ち、アンの頭を優しく撫でる。
「アンの気持ちは分かった。そう言ってくれて、嬉しいさ。そうだな、少し休もう。」
「うん、そうして。」
オリーがさりげなく、飲み物を取り出して、渡してくる。
三人で、穏やかな時間を過ごすのであった。
~二日後~
「護様、お急ぎになる必要はあったのですか?」
「特にはないが、そうした方がアンやセレスが喜ぶかなと思った。」
護は羅針盤を頼りに世界樹へと最速に近い状態で走破していた。
別の女性のことを考えている護に、メイアは呆れた視線を向ける。
「はぁ。私ばかり、独り占めする訳にも行けないことは理解しておりますが、妬いてしまいます。」
「…」
返す言葉がない護。不意に自称光の神が高笑いしてくるイメージが浮かぶ。
少しだけ、走る速度が上がるのであった。
「何も見えませんね。教会の神降ろしの結界と似ていますが、世界樹が完全に見えないとは、かなりの力が働いているようです。」
「メイアはここで待っていてくれ。そこまで時間はかけずに戻ってくる。」
「畏まりました。」
結界に触れ、興味を示すメイアを待たせて、護は結界内に進入する。
彼の住処は、世界樹の南に位置していた。異様に切り拓けているので、直ぐに見つけられた。
一戸建ての、平屋になっている。最初に来た時は部屋に直接転移して気づかなかった訳だが、かなり小さい。
(内部はかなり広いんだろうなぁ。)
確実に資産は下手な貴族を上回るだろう。彼自身、時空魔法の使い手でもあるし、常識が通用しない魔改造をしているのは間違いない。
その平屋の扉にポツンと立てかけられている剣と、木箱が目に映る。この二つが彼が渡したかったもののはずだ。
「手紙の類はなしか。ええと、『真理眼』」
剣の方をまず鑑定してみる。
月蝕 (簒奪・生命吸収・魔力吸収・自動復元・??)
物騒な効果に恐る恐る護は剣を鞘から抜き放つ。幸いなことに弾かれることもなく、命を吸われることもなく装備することができた。赤黒い刀身は血、いや赤く染まり輪郭がぼやけた月を思わせる。
まだ、『真理眼』の表示は続いていた。
月蝕 (黄ランク中位。とある時期まで勇者が愛用していた剣。日蝕は兄弟刀。戦いの末、ブレット・トルメイマにこの剣を渡している。赤黒い刀身は、吸血鬼の王、フェイタルドの魔石とその眷属の魔石が利用されているためである。吸血鬼の特性を引き継いだこの剣に、血を吸わせれば、かけた刃が戻るなど効果がある。)
勇者が使っていた武器という事実もそうだが、吸血鬼がいることに驚く。何より、『真理眼』に表示されない効果があるのもそうだ。
護は首をひねった。扱いをどうするか。勇者が使っていた剣であるという点もそうだし、なぜ、これを渡そうと思ったのか、理解にも苦しむ。魅力的な剣ではあるが、それゆえに躊躇いが生じていた。
とりあえず鞘に納め、木箱を開けてみる。三つのスクロールと、水薬の類が二つ入っていた。水薬の方は、変化薬で両方ともに世界樹の葉が混ぜられているようだ。そして、スクロールはというと、
「!!…これはっ…」
どんなものかと開き、魔法陣を見た瞬間に、護の頭に激痛が走る。覚えがある痛みに耐え、途中でやめる訳にもいかず、三本とも見終えた。
護は自身のステータスを開く。
明石宮 護 (男・17歳・半人半精?)職 Lv87
LP 735 MP 754
STR 811 AGI 777
TEC 738 END 769
INT 780
一般スキル 剣術Lv5 短剣術Lv7 体術Lv5 盾術Lv2 槍術Lv6
魔法(火・水・光・土・風・雷)Lv6 気配察知Lv5
調合Lv2 料理Lv3 拷問Lv1 集中Lv3 不屈Lv5
職スキル アイテムボックスLv6 浄化Lv3 テイム
エクストラ 完全なる図書館の司書 真理眼 言語理解
合成魔(日)Lv5 妖精の秘奥(E・L・F)
レベルこそ上がっていないものの、戦闘により、スキルレベルがいくつか上がっていた。そして、スクロールによる強制で、護は『妖精の秘奥』が使える状態になっている。どうやら、エルフの血が少しでも流れていれば、覚えることができるらしい。
スクロールを使用した記憶への強制書き込みは、エクストラ所以であるのか、それとも別の要素があるのかどうかは分からない。
「あれ?」
チュリたちから聞いていた、奥義に該当する技が思い当たらない。「十」まではすべて揃っているのだが、その次がない。
「あれは賢者が思いついたのではなくて、チュリたちが独自に作ったのか?」
本人たちに聞いてみたいが、自分が秘奥を習得しているのは、伏せておいた方が良さそうだと思う。『月蝕』はともかく、秘奥は習得しているのは賢者と名誉公爵の三人だけだ。余計な事情説明をする羽目になるのは間違いない。
それに、チュリたちは一つずつ覚えていた。それが何を意味しているのか判明するまでは、伏せておいた方がいいと勘が告げている。
「善意だけとは言い難そうだな…」
護はそう呟いて、剣と木箱を『アイテムボックス』へと仕舞った。もう一つの内容の通り、世界樹を見れば、これを渡す理由が分かるかもしれないと思い、世界樹を見る。
幹の直径は約五十メートル、全高は測りきれないほど高い。しかし、木の陰が無い。
護は世界樹に近づいていく。幹の向こう側は見えないが、日の光は降り注ぐという、不思議な現象に惹かれるように足を進めた。
「!!!」
大体三十メートルを切ろうとしたところで、護は悪寒と共に進むのを止めた。
明確な敵意。目の前の世界樹から発せられ、その時だけ、本性を現したかのようだった。
「おいおい、マジか。」
『真理眼』には世界樹のステータスが映っている。植物でステータスが映るということは、目の前の大樹が魔物であると示していた。
世界樹 Lv555
LP 11100 MP 9000
STR 8354 AGI 8322
TEC 9111 END 9500
INT 8743
特殊 植生 硬質化 超再生Lv5(MAX) マジックサイクラー 選択的透過
ワイズノウレッジ 合成魔(木)Lv15(MAX) ????
あの賢者ですら勝ち目がない圧倒的なステータス。LPが五桁に乗り、その他も四桁後半という、最早想像できない域の強さだ。
護が殺されなかったのは、ただ単純に殺す価値がないだからだろう。
「どうにもできないなぁ…」
少し距離をとって、光を透き通らせる世界樹を見上げて、護の口から素直な感想が零れた。
オリーの予想は当たっていた。世界樹は魔物で、それも戦うこと自体が馬鹿馬鹿しくなるほどの、強者。もう一本あるという、世界樹も似たような物だろう。
世界を滅ぼせ得る脅威が二体。ここまでくると、言葉が出てこない。
「ワイズノウレッジ、か。」
ステータスを覗いていて、気になるスキルだ。賢者が関わっているとすれば、このスキルだろう。そして、世界樹が世界を滅ぼしていない理由だろうとも。
護はため息を吐いた。結局、予想を立てるぐらいしかできない。ここで時間を浪費するぐらいならばと、メイアの元へと戻るのであった。
日は沈み、暗くなった頃、護とメイアの二人は天幕で夕食をとっていた。樹海深部で採取した茸と鳥型の魔物の肉のスープに、教会特製ソイスティックを浸す。
柔らかく、スープの味が染みたソイスティックの味わいに護の手は進んでいく。疲れた脳に栄養が行くような感じで、あっという間に食べ終えてしまった。
護は『月蝕』を取り出した。後、『月光・真打』も。霊が少女の姿で現れる。
(『月蝕』ねぇ。私には劣るけど、名剣よ。)
「勇者が一時期使っていたものらしいからな。性能の方も悪くない。」
「勇者ですか…」
メイアが赤黒い刀身を見つめ、そっと触れる。しばらくした後、護に問う。
「護様は、これをどうするつもりですか?」
「『月光・真打』もあるし、しばらくは『アイテムボックス』の肥やしになりそうだ。」
「それならば、良いのですが。勇者の伝承は様々あり、この剣が登場するエピソードもいくつか存在するのです。今のところ、勇者の行方と共に実際に残っているとは考えられておりません。ですが、鑑定を使える者が本物だと、騒ぎ始めれば問題です。」
(かなり目立っているみたいだし、もう手遅れな気がするけど~。)
「女好きとは一線を画します。勇者にゆかりある品は本物、偽物問わずに人気の物で、本物となれば、貴族、強盗、その他大勢に追われることも珍しくありません。」
「それは嫌だな。」
アスタイト王国だけではなく、このエルフの国でも、勇者のファンが多い。賢者が仲間だったこともあり、人気度、もとい熱狂度はこちらの方が高いのが、アザレアあたりの反応から窺えた。
ライラとの一件もあり、それにこの『月蝕』が加われば、王に担ぎ上げられそうだ。一番困るのは、周りの勘違いだ。賢者公認とか言いだしそうな代物であることは間違いなく、暴走する輩が出てくるだろう。
(『アイテムボックス』から絶対に出せないな。ライラにも言わない方がいいか。)
(よし!!どんどん私を使ってね。そんな剣の出番は一生来ないわ!)
喜ぶ霊を傍目に、護は『月蝕』を仕舞う。
『月蝕』の件は二人、正確には三人だけの話にすることが決まった。
「後、世界樹なんだが…」
護はメイアに世界樹のことを話した。顔色一つ変えずに聞き終えたメイアは結論から切り出す。
「これも誰かに伝えるべきことではないですね。オリーさんには、話していいかもしれません。ですが、チュリさん等には話さないでください。確実に混乱を招きますから。」
「不安を煽るだけになるか。」
「そうなるでしょう。」
話せないことばかりに、護はため息を吐く。メイアを見ると、彼女は一つも顔色を変えていない。
メイアの今までの経緯を考えると、慣れているのか。護は、ため息を吐いても意味がないな、と切り替える。
それからは、メイアと二人だけの時間をゆっくり過ごすのであった。
~一日後~
「お帰りなさい、護さん。メイアさんも。」
「ただいま。」
日が暮れる頃、戻ってきた二人をセレスが迎えた。
部屋に入ると、オリーが飲み物を用意し、アンが隣に座ってくる。
「どうでしたか?」
オリーが尋ねてくる。
護は世界樹のことだけを話す。『月蝕』や秘奥のことは伏せた。
何の疑問をもつことなく聞いたオリーは礼を護にし、手のひら大の木の彫刻を見せてきた。
「やはり、ただの木では無かったわけですね。ありがとうございました、ご主人様。後、これをガンドルフ様から預かっております。鑑定をしてほしいそうです。」
「…特に、効果はなさそうだ。綺麗な彫刻だな。」
特別な効果はない。この彫り物が作られた経緯すら出てこないとなると、本当にただの綺麗な彫刻としか言いようがなかった。
「そうですか。いくつか似たような物が発見されているようなのですが、純血派の物ではないそうです。」
「魔物を引き入れた連中の物かもしれなかった訳か。」
「その通りです。ですが、彼らの物でもなさそうですね。」
相変わらず、犯人探しは進展していないようだ。それから誰がどのような行動をとっているかに話が移る。
チュリは未だ樹海深部に赴き、調査をしているようで戻っておらず、アザレアもニースメンドもライラに駆り出されているらしい。ガンドルフとエトリアは巫女を連れて教会に向かった。
「護さん、私たちも…教会に。」
「分かった。今日は遅いから、明日でも構わないよな。」
「はい。…その、今度は私だけと行きませんか。」
今度はセレスと二人きりの時間を過ごすことになりそうだ。
顔赤くするセレスに、護は快く承諾するのであった。
~隣町~
「え?…神託を…受けられなかったのですか?」
「そうみたいさね。」
翌日、隣町まで移動した二人は、先についていたガンドルフたちと合流した。
落ち込む巫女を、二人で慰めているところに護とセレスが来た形だ。
「私は神様と話すのが役割なんですよね?ごめんなさい。どうしてかできないの。」
「…大丈夫ですよ。…私が原因を調べます。」
「え?」
「私もあなたと同じ巫女です。…私も駄目だったら諦めましょう。神様なんて、そういう存在かもしれませんから。」
護たちがギョッとする。そして、ガンドルフとエトリアの視線が護に向かった。
確かに、あの自称光の神はいけ好かない部分があるが、セレスたちとの出会いには感謝している。
悪影響を与えたのは自分ではないと、護は首を横に振るのだった。
「護さん?…一緒に行きましょう。多分、大丈夫だと思います。」
セレスが首を傾げながらも、護の手をとり、教会の中へと入った。
リヒト教会よりも涼しく、ひんやりしていた。造りはそこまで大差なく、『職変えの水晶』が浮遊している。
『来たな。光の子。』
『子。』
風が渦巻き、護たちの耳へと風が声を運ぶ。
ヴィント教会。チュリから聞いていた通り、風の神がこの国に広がっているらしい。
「初めまして、風の神様。私はセレスティアと言います。」
『知っている。隣の男は明石宮 護。』
『護。』
「自己紹介は不要か。」
女性二人の姿を幻視する。原理は不明だが、間違いなくそこにいることが感じられた。
『生意気だ。』
『生意気。でも、我ら意志ある理と巫女に必要な存在。』
「どういうことだ?」
『喋る必要はない。お前が自然と行動すれば、なるようになる。』
『そうそう。』
追及したい物事を話す風の神たちに、セレスがはっきりとした口調で切り出した。
「コルチさんの前に姿を現さないのは何故ですか。」
一本のかまいたちが壁を削る。見える表情には怒りが浮かんでいた。
護がセレスを庇って動けるよう、位置を調節する。
『貴方たちに怒りを向けるのは不適切。でも、あの女は最早巫女に相応しくない。』
『ない。』
「記憶を失ってから、一生懸命に頑張っているコルチさんを見ていないから、そう言えるんです。」
『それは違う、光の子よ。』
『スキルとレベルは力でもあり、呪縛でもある。』
「記憶を失っているのは一時的で、思い出せば元に戻るということか。」
暖かい風が吹く。どうやら正解らしい。
『例え、改心したとしても、自らの業が苛む。』
『苛む。』
『飲まれない者はいない。気をつけろ。』
『気をつけろ。もう時間だ。私たちは去る。』
「待ってください!!」
気配が遠のいていく。セレスの止める呼び声が虚しく響いた。
『最後に。あの者は身籠った。それに、解決策がないわけではない。』
護の耳元に、そう言い残して、完全に気配が消えた。
「今のを聞いたか?」
「?」
セレスには聞こえていなかったらしい。護が、最後に言い残してくれたことについて話す。
「本当…ですか?」
「嘘とは思えない。調べてみよう。」
一気にセレスが脱力して、倒れる。慌てて護は彼女の身体を支えた。
光の神の時と似ている。あの風の神も『神託』を使って顕現していたということなのだろう。
護はセレスを椅子の上に横にして、ガンドルフたちを中へと入れた。
「神様に叱られてしまうようなことをしてしまったのですね。出来るようになっても、皆様に迷惑をかけてしまうなら、いっそのこと命を自ら断って…」
「物騒なことは言うんじゃない。マモル、方法はあるんだろ?」
「ある。ライラたちに聞いてみれば、見つかりそうな気がする。無ければ、別の方法を取るだけだ。」
状況を聞き、ネガティブになってしまっているコルチを励ましつつ、セレスが目覚めるのを待つ。妊娠していることは、直ぐには護の口から言い出せなかった。
セレスが目覚めた後、拠点へと戻り、調べてみる方針でメイアたちも協力することになる。アンは不満そうにしていたが、コルチの不安そうで儚い表情を見て、力を貸してくれることに。
そして、その夜、護はライラの元へと向かうのであった。
次回でエピローグとなります。




