終息 ~義手、賢者と主、そして~
イ、インフレ気味か…
~数日後~
「久しぶりのご主人様の匂い…」
「うわっ!!」
町を拠点にしてから数日が経ち、遂に別行動していたアンとオリーが合流した。
護はアンのタックルを喰らい、思い切り匂いを嗅いでくるアンを引き剥がそうとする。両腕で抱きしめてくるアンの力は強く、執念染みた抱きしめに、護は顔を引き攣らせる。
(ハイドロ、力を抜け。)
義手と化したハイドロに指示を出した。すると、義手の方の力が一気に抜け、アンを引き剥がすことに成功した。
アンは不満そうに護を見た後、ハイドロを見せてくる。
指から腕まで、完全に再現されている。色は透明のままで核も見えているが、触ってみると、人肌の温度に、感触は皮膚だ。あのスライム独特の感触ではないことに驚く。
「これで、片腕娘も戦えるだろう。」
「賢者…」
「礼はいい。エルナのことで俺はお前に感謝している。これぐらい朝飯前のことだ。」
「少し試し斬りしてきた。いい感じ。」
アンは腰に差した剣を抜くと、両手で握り軽く振ってみせた。確かに、問題なさそうだ。
賢者によると、剣術はアンのステータスが適応され、握力などはハイドロのステータスが適応されるらしい。
コツコツと強化していたハイドロのステータスは、こうなっていた。
ハイドロ (スライム?) Lv44
LP 236 MP 181
STR 222 AGI 146
TEC 209 END 247
INT 211
一般スキル 魔法(風・土)Lv3
特殊 吸収(改) 変異 分裂 硬質化 毒Lv3 超再生Lv2
記憶再生 再現
アンの腕を再現できているのは、『記憶再生』及び、『再現』の二つのスキルがあるからだ。いつぞやの屋敷にいた亡霊からドロップした魔石を食わせて、『記憶再生』を獲得させ、『再現』に関しては、賢者が調合した薬によって獲得させている。
特に『記憶再生』は、彼女の腕を失う前の記憶を読み取ることに役に立ち、調整の手間を省いていた。こればかりは、亡霊を倒して僥倖といったところである。
ただ、アンのステータスに対してハイドロのステータスが低いため、まだ強化させなければならない。
それは、本格的に魔物を狩り始めることで、自然にレベルが上がっていく。また、STRを伸ばす方法を新たに探すつもりだった。
「無理はするなよ。」
「分かってる。」
若干浮ついているアンに護は釘を刺した。それでも頬が緩んでいるのを見ると、心配になるのだった。
また、護はとあることに気づく。
「オリー、職を変えたのか。」
「はい。賢者様の計らいで、教会で変えてきました。これで、私も戦闘に参加できます。」
オリーの職が、『祓魔師Lv49』から『上級祓魔師Lv53』になっていた。レベルが上がっている所を見ると、賢者との行動の際、戦闘も行ったようだ。
しばらくして、周りが騒がしくなる。賢者が居ることに気づいたようだ。
賢者は護の方に向かうと、
「俺はチュリたちの方へと向かう。後、これを渡しておく。」
『アイテムボックス』から複数のキューブを取り出し、護の元へと積み上げる。
キューブの大きさは結界を張るためのものと大差変わりない。『真理眼』で効果を見ると、差異が分かった。
「これ、対Lv80以上用の結界か。」
「そうだ。下位の魔物への結界効果を失くし、黄ランク、それも高位に当たる魔物を抑えるために作った物だ。ただし、赤ランクになると効果が無いから気をつけろ。」
「兵に渡した方が良さそうな道具だから、渡しておく。」
「頼んだ。」
指揮官が走ってくるのをよそに、賢者は転移してしまった。
残された護はというと、内心、賢者に愚痴を漏らして、指揮官に道具の説明をするのであった。
~翌日~
「いよいよか。」
「頑張りましょう、護さん。」
「そうだな。」
隣を歩くセレスの励ましに、護はそう相づちを打った。
賢者が本格的に参戦したことによって、包囲網が完成し、いよいよ西の砦へと向かうことになったのだ。
彼のおかげで、苦戦していた魔物の大半が討伐されたらしく、拠点の整備までしてくれたらしい。たった一日で難儀していた進行まで推し進めた賢者の力を、末恐ろしく感じる護だった。
「かなり広く展開しているが、とりあえず打ち漏らしはなさそうだ。」
護は周りを見回しながら、そう言った。
『気配察知』には多くの兵士と、魔物が引っ掛かる。高速で動き、魔物を狩っているのがメイアで、他の兵士が戦っている奴まで惹きつけ、盾となっているのが、ガンドルフたちだろう。
護の傍に居るのは、セレス、アン、オリーの三人で、今、目の前で戦闘しているのは、アンとオリーの二人だ。
「『クロススラッシュ』」
アンの技がすばしっこく動く狼型を捉え、切り裂いた。
血を流しながらも、噛みつこうとする狼型。
飛び掛かったところをオリーの風魔法が撥ね上げ、アンの直剣が脳天まで貫いた。
アンは嬉しそうに寄ってくる。
「どう?」
「いいんじゃないか。後、三体ほど来ている。同格だから続けるか?」
「うん。」
アンが再び、前に出て行った。戦闘が始まってから、アンとオリーは積極的に魔物を狩っている。
護もセレスもレベルが上がっていることを知った二人は、追いつくために、がむしゃらに狩り続けているようだ。
二人の連携はぶれない。長いこと一緒に戦い続けたのだろう。二人を最初、不安そうに見ていたセレスが、今は安心して護と話せているぐらいだ。
それでもカバーできるように護が見ている傍で、二人は追加で来た魔物二体を倒し、残り一体をアンが切り裂き、これも倒した。オリーが死体を『アイテムボックス』に仕舞って、戦闘が終わった。
魔物を倒しながら進むこと、一刻半が過ぎた。
「はぁ、はぁ、もうそろそろ交代しよ。」
「私もお願いします。」
あれから、三十体以上屠ったところで、二人のスタミナが尽きた。今度は護たちが前に出て戦い始める。
四人が徐々に進んで行くにつれて、魔物の強さが上がっていく。兵士たちの中では、苦戦し始めているところもでてきていた。護が把握する限りでは、最初に割り振った小隊編成では勝てず、危ない場面をメイアなど遊撃が加わってやっと勝てるという状態もあった。
さらに嫌なことは重なって出てくるようで、頻度も増え始めてきている。最早、前進するのも困難だ。
もうそろそろかな、と思っているタイミングで、魔法による大きな爆発が空で起こった。
護たちは目の前の敵を倒し終えると、通常の結界を張り、撤退するのであった。
~翌日~
「むぅ。」
「私も参加するから、守ってね、マモル君。」
護と腕を組んでいるのは、ライラだった。その隣でアンが不満そうに唸っている。
昨日のことを思い出して、護はため息一つつき、どうしてこうなったと思う。
撤退した後、町に戻ってみると、ライラが壁の上で待ち構えていた。彼女がにこやかに手を振ってみせた時の兵たちの雄たけびに、護は鼓膜が破れるかと思ったぐらいだ。
問題はその後で、兵たちが移動する最中、護はライラに捕まった。そして、頬に口づけをすると去っていったのだ。
広まった噂は確信に変わり、護は多数の兵士たちを相手に逃げ回る羽目になった。最後は、メイアたちに捕まって、関係をどうするつもりなのか散々聞かれ、護は白状した。護らしい答えに、メイアたちは怒る気力が失せて、呆れられてしまった。
昨日に引き続き、今日はライラの御指名の護衛だ。見せつけるように護を放さない。
その様子に、彼女のファンとなった兵から殺意を護だけに向けてくるあたり、笑えない。
護は死んだ目で、ライラに尋ねた。
「ライラは、確か魔法拳闘士だったか。」
「ええ。こう見えて、武闘派なの。意外?」
「ああ。」
ライラの職は『魔法拳闘士Lv36』。『隠密』、『変装』を持っているあたり、何をしていたのか気になるところだ。
結界付近に魔物どもがたむろしている。丁度いい的なので、彼女にレベル上げをしてもらうことにした。
「『ライトニング・スフィア・フォース』」
四つのバスケットボール大の雷球をライラは中央に放りこんだ。雷撃は拡散していき、広範囲を焼いていく。
五回、撃ったところで、ようやく絶命する魔物が現れる。また、彼女は魔力回復薬を飲み、続ける。
怒り狂いながら、結界を叩いていた魔物が沈黙し、目に見える範囲の魔物は全滅した。
「こんなものかしらね。うわっ、Lv41だって。凄く上がった。」
(パワーレベリングにはうってつけの方法だな…)
驚きながらも嬉しそうに言ってくるライラに、護はそんなことを思いながら、頷きを返した。
相手の魔法には気をつけないといけないらしいが、一方的に魔法で滅多打ちにできるという方法は、彼女のような高貴な身分にはうってつけだろう。欠点としては、アンみたいな魔法が使えない者だとできない方法といったところか。
また、これだけの魔物がいる状況が滅多にないというのも、欠点の一つだった。
何より、レベルを聞いた護は、ライラに釘を刺す。
「ライラ、前に出ていい相手じゃない時は、絶対に後ろにいろ。」
「分かってる。心配してくれて、嬉しいわ。」
笑いながら腕を組んでそう言ってくるライラに、護は内心で心配になるのだった。
「『ウィンド・ランス』」
護の風の槍が、アンを襲っていたトカゲに刺さった。アンの追撃に、そのトカゲは対処しきれず、頭を切り落とされる。
アンは背を上下に何度も揺らしながら、剣に着いた血を振り払い、剣を仕舞う。
「ご主人様、ありがとう。昨日ステータスが上がったおかげで、切り落とすことができた。」
「そうか、それは良かったな。」
「うん。」
頭を撫でると、アンは顔を赤らめて喜ぶ。そして再び、現れた魔物と対峙しに走っていった。
アンの消耗からして、もうそろそろ交代か、と思いながら、護は『気配察知』を発動した。
結果に、護は顔顰める。
「不味いな…」
「どうしたの、マモル君。」
あれだけ倒したはずなのに、反応が減るどころか増えている。人数を増やしたり、レベルの高い人間を組ませて、突破力を上げていたはずだが、それでも、前に進めない事態が起こり始めていた。
何より、こちらに十体以上やってきていることが、厄介だ。
「かなりの数が来る。セレス。」
「私が守りに専念すれば…いいんですね。」
「頼んだ。」
ライラをセレスに預ける。複数の属性の結界が、二人を何重にも包む。
その様子を確認して、アンが苦戦しているワーム型を真っ二つにし、アンを少し下がらせる。
「メイアは距離が遠いな。アン、オリーとウィス、やるぞ。」
オリーはイメージを練ることに集中し、アンは息を整えた。そして、ウィス、ライラの護衛は剣に炎を纏わせ、護の横に並ぶ。他の護衛もそれぞれ武器を構えた。
羽音と共に、蚊型が現れた。顔の大きさほどで、こいつらに吸われたら痛そうだと思うぐらい口がでかい。
また、LP、STR、ENDが低い代わりにAGIが高い。蚊型が速すぎて、他は置いて行かれた形になっていた。
「こいつが四匹、あとは獣。熊型は土魔法を覚えているみたいなので、足元に注意。」
「…承知した。」
ウィスが前に出た。蚊型が反応し、彼女の四方から血を吸おうと群がる。
一閃。
鋭い一撃が一体を燃やし尽くし、魔石だけが残った。彼女の背後から、足めがけて狙う奴をオリーが打ち落とす。風の障壁で上手く動きを止められるようだ。
オリーの倒し方を参考に、残りの蚊型を一体ずつ護とウィスが倒し、やってきた獣たちの相手をしていく。
護が土魔法で横を抜けようとする狐型を妨害し、後ろに控えていたアンが剣を振るった。傷が浅く、まだ俊敏にうごいているところを、オリーの投擲した針が的確に貫いて動きを止め、すかさずアンが止めを刺した。
「!…ちっ!」
ウィスを強引に弾き飛ばし、熊型が魔法を放ってくる。襲い掛かってくる礫を護はアンを突き飛ばして、セレスたちに当たらないよう、立ち位置を調整しながら躱していく。
運悪く、護衛の一人に直撃し、激痛で顔を顰めているのようだ。見えたが、構う余裕はない。
ジャァァ!
「よっと!」
ギャ!
護は茂みからの襲撃に冷静に対処した。長爪を弾き、左アッパー。吹き飛んだところに、オリーの風の刃によって切り裂かれ、戦闘不能になった。
爆発音が鳴った。ウィスの炎が熊型を焼き、怒り狂って放たれた礫の反撃が彼女を襲う。
ウィスは礫を鎧の防御力に身を任せ、最短距離で強引に熊型の懐へと潜り込み、
「『ブリッツ』」
突進の勢いを乗せた渾身の突きを放った。付与された炎が、熊型を貫き、心臓を焼く。
ウィスが剣を抜き離れると同時に、巨体が倒れた。
護の方でも、猿型との決着がつく。短剣で脇腹、首を掻き切り、猿型は力なく倒れた。
他でも決着がつくのと同時に、次々現れる魔物が見える。
「どうやら、ここからが本番のようだな、貴殿。」
「そうみたいだ。」
護とウィスは互いに武器を構えると、次の魔物に切りかかった。
~数時間後~
「やっと着いたが、これは…」
「形を残していませんね。」
「生き残りはいるのかしら…」
途中、Lv84が出てきたが、結界で封じ、とりあえず西の砦へ急いだ護たちが見たのは壊滅し、腐臭漂う獣の楽園だった。メイアの言う通り、西の砦があったところは何も残っていない。
護でも苦戦するレベルの魔物を倒しながら、探索していく。他に突破できた者は少ない。しばらくして、ガンドルフたちと合流、それから、ニースメンド、アザレア、チュリ、そして賢者と合流して、結界を張っていく。
すべてを張り終えて、これで終わりかと思った矢先、護が崩れ落ちた。
「!!」
「どうやら、主が居るみたいだな。」
賢者の言葉がすっと入った。『気配察知』に載せられた情報だけで、汗が止まらない。
護は足を叩いて、何とか立ち上がった。こちらに真っすぐ向かってきており、足を震わせている暇はない。
空気が急速に冷えていく感じに、本能が逃げろと訴えてくる。それと同時に逃げられない相手であると、頭で理解できてしまった。できるのは武器を持ち抗うだけ。
「あれが…」
「来るぞ。『アース・ウォール』」
賢者の壁が展開すると同時に激しい激突音がなった。全容を知る前に主の体当たりが来たのだ。
かなり速い。賢者と同格の化け物はエルナが居たが、それと間違いなく同じ類であることを護は悟る。
エルナと違うのは、彼女は強者としての雰囲気を纏っておらず、初見ではその目を見ない限り、脅威だと思えなかった。しかし、奴は違う。
圧倒的な強者としての覇気。護たちでは太刀打ちできない力の差をまじまじと見せつけてくる。
賢者が壁を解き、護たちはその姿を見た。
愛らしかった。一言でいうならば、アライグマ。体長も五十センチメートルくらいだ。ただし、金色の瞳には、捕食者としての覇気が宿っている。
飛んできた『威圧』で、Lv90以下が意識を手放し、メイアたちは体が竦みあがる。
護も意識が飛びかけたところを、メイアが足に針を突き立て、激痛で意識を保たせてくれる。また、殺気とは別に寒気がする。突き立てられたのは毒針のようで、LPがどんどん減っていくのが見える。
メイアと目が合った。彼女は少しだけ頷き、それを見た護も覚悟を決めた。
そんな護たちをよそに、賢者とアライグマ型の戦いは始まっていた。
アライグマ型のスピードは目で追えない。勘を頼りに、突進攻撃を賢者は杖に纏わせた風で弾いていく。
それから護たちを守るように、土のドームが包んだ。そして、賢者は全方位に魔法を発動する。
「『ダイヤモンド・バレット・オールレンジ』」
シャッ!
アライグマ型をいくつかの散弾が貫く。硬質化した毛を砕き、血が流れた。頭を貫いたものもあった。
しかし、その傷で倒れる様子はないどころか、急激に再生していく。その姿を賢者は真っすぐ見据え、
「『十・断』」
切断攻撃。それに巻き込まれた樹海樹が倒れていく。
今度も、身体を切った感触はあるが、相手は倒れていない。切られたところをすぐさまつなぎ直したらしい。エルナクラスでも、咄嗟にできなかったことで、スキルを使いこなしていることに、賢者は舌打ちをした。
クルルッ!クルルッ!
「『三・流』」
風刃の嵐を賢者は流していく。流し損ねたものが、彼の右わき腹、両足を浅く切り裂いて血を流させる。特に動作にも影響しないので、賢者は気にしない。
その様子を見て、あまり効かなかったことに腹を立てているらしい。威嚇してくるアライグマ型。
突進攻撃を繰り出してくる。
「『捌の舞・仙人掌』」
杖の石突をアライグマ型に向けると、賢者の周りに細い針が何本も構成された。
突進に合わせて、突いた。
まず、賢者が吹き飛んだ。受け流さずに正面からぶつかり合った結果、アライグマ型の力に押し負けた形だ。
風魔法を発動して、ドームに直接打ち付けられることを回避する。それでも、衝撃で唇から血が流れている。
対して、アライグマ型の方は、針の山になっていた。そして、一本一本に込められた熱が解放される。
毛は燃え上がり、内臓を焼く痛みに、アライグマ型は賢者から距離を離す。
シャァァア!!
叫びと共に変異が始まった。正しくは元の姿に戻り始めた。どこにそんな質量を隠し持っていたのか分からないほどに、肥大化していく。また、それに応じて、燃えていた部分が崩れ落ち、肉の塊が新しく盛り上がって、身体を為していく。
変化し終わったアライグマ型の体長は二メートルほど。毛皮がなくなり、筋肉がむき出しになっている。
獰猛な爪が生えた足が地面に組み込むほどの溜めの後、賢者に迫る。
「『三・流』」
突進を受け流そうとする賢者を弾き飛ばした。運がいいことに、ぶつかるようなものが無い。対空時間が長くなり、その間に賢者は体勢を立て直す。
痛みを覚えて、賢者は腕を見ると、折れて腫れている。杖も触れた部分が折れてなくなっていた。
とりあえず傷を癒し、追撃を躱した。巨体になった割に、速さは変わらない。それどころか、速く感じる。
賢者は『十・断』を連続発動、みじん切りするつもりで放った。
シャァ!!
「何!」
思わず、驚きの声が漏れた。最初の状態だと真っ二つにできた筈だが、今の状態だと、途中までしか切り裂けない。
膨大な魔力を纏い、硬質化も発動して、耐えきってみせた。すぐさま再生して、肉体を元通りにしてみせる。
一旦、賢者は距離を取った。
「これは…厄介だな。」
相手の再生速度を超える攻撃を加えれば倒すことができるが、生半可な魔法では片っ端から回復されてしまう。火属性を直ぐに傷口にぶち込めば、再生を遅らせそうだが、すばしっこい上に硬い。
十分な傷口を広げ、そこに魔法を追加するという、工程に、賢者は辟易とする。
『十・断』の改良型『十改・断空』ならば、真っ二つにできそうだ。しかし、一発当たり、魔力の消費は1000。三発撃ち込めばそれだけで、ガス欠になり、再生されてしまう上、厄介な状況になる。
とりあえず、一発だけ打ち込み、『一の舞改・鬱金香・蒼』で打ち込んでみて、様子を見てみるかと思った時、自身が張った土のドームが内側から切り裂かれ、倒れる音がした。
その音に、賢者の動きもアライグマ型の動きも止まった。
「はぁはぁ…!!」
「おい!」
明らかに様子がおかしい護が出てくる。激しく息をつきながら、剣呑な目をアライグマ型に向けている。
姿がかき消えた。
風の衝撃と共に、アライグマ型の胴体が上下に分かれていた。
賢者は目を見張る。直ぐに再生していない。
衝撃によって、距離が空いているためか、再生が遅れているようだ。
賢者が唱える前に、肉が蠢いて切れたところを無理矢理連結して再生してしまった。それでも、護の一撃があれば、隙を作れる。賢者の口が開きかけた。
「『日輪』」
距離が離れているのに、護がそう呟いたことがはっきり耳に届く。
一瞬の間と共に、護を取り囲むように白の輪が広がっていく。目を焼くような光と、そこに含まれた膨大な熱量に本能が警鐘を鳴らす。
近くにいたアライグマ型の様子を見る暇もなく、賢者は急いで土のドームに飛び込み、外側に水の結界を張った。
ドゴォォォン!!
水と日輪が触れた瞬間、爆発が起こりドームが襲う。
あまりに大きな爆音に、目を覚ましていたセレスたちの悲鳴が響いた。
しばらくして、衝撃が収まり、賢者たちは外に出る。
護が立っていた。目の前には大きな魔石だけが残っており、アライグマ型の姿は残っていない。あまりの熱量に、魔石だけを残し蒸発したのだ。
そして、彼が起こした魔法の余波は甚大だった。残っていた樹海樹は切り倒され、全て燃えてしまっている。地面は高熱を帯びており、一部溶けてしまっていた。
肺を焼くような熱の中、メイアは急いで護の元へと駆け寄る。
何本も水薬を飲ませていく。解毒薬から回復薬まで、あらゆるものを飲ませつつ、自身の魔法もフル活用して、回復させていく。セレスやエトリア、状況を理解した賢者も加わって魔法をかけていった。
体中が紫色に変色していた護の身体が徐々に、元の色に戻り始めたが、目覚める様子はない。
「護様、しっかりしてください!!護様!」
「危険域は脱したはずだ。気を失っているだけだろう。何をした?あの動きとあの魔法の威力はどこから引き出した?」
「……説明させていただきます。」
メイアが護がしたことの説明をしていく。賢者は顔色一つ変えなかったが、これだけ言った。
「これからは使用しないように言っておけ。」
賢者は空に手を翳す。空が一気に曇ると、雨が降り出した。熱せられた地面からたちまち、煙が立ち、火は徐々に勢いを失くして消えていく。
賢者が転移して姿を消した後、メイアは魔石を回収し、まだ気を失っている護を抱え上げる。
自身が刺した針の痕は、傷は既に治り、塞がっているのが見えた。そこを見つめて、メイアは一度目を閉じた後、空を見る。
雨で髪が濡れ、肌に張り付く。この場の熱を急速に奪うような冷たさが、メイアたちからも熱を奪っていく。
「メイアお姉ちゃん、これ…」
「あまり長くはもたないので、急いでください。」
メイアは水魔法で傘を作り、彼ら全体が覆えるよう展開する。制御をしていない部分から雨水が地面に流れ落ちていく。
降りしきる雨の中、灰か炭になった植物を横目にメイアたちは拠点の町へと戻っていく。
護の魔法が、一回撤退した時の位置まで、影響を与えていることにライラが気付いてしまった。
「賢者様がいなかったら、私たち、マモル君の魔法で死んでいたの?」
ぽつりと呟かれた疑問は雨が掻き消し、それを聞いた者は誰もいない。
それから二日後、護の目が覚めるのであった。
補足 アライグマ型のステータス
ヴァッシュ・ベーア・ヴァリエ―ト Lv121
LP 1955 MP 1822
STR 1943 AGI 2004
TEC 1998 END 1999
INT 2153
一般スキル 風魔法Lv10 威圧Lv3
特殊 硬質化 支配Lv5(MAX) 変化 超再生Lv5(MAX)
護(毒状態+反撃の薬使用)
明石宮 護(男・17歳・半人半精?)職 Lv74
LP 15/599 MP 0/617
STR 3370(674) AGI 3155(631)
TEC 614 END 644
INT 3140(628)
MP全消費、LP消費の合成魔(日)が『日輪』に当たります。
なお、アライグマ型の反応速度を超えた不意打ちからの、魔法の発動のため、倒し切れたことになります。『日輪』だけだと、瀕死状態、完全な隙を突く形で、賢者が止めといったところになるかなと、思います。
元からえげつないステータスを持っている賢者が苦戦していたのは、ただ単に全力を使うと周囲に被害で出るからです。(ちなみに、『十改・断空』は敵だけを絶対に切り、周りに影響を及ぼさない環境にやさしい魔法です。視認して放つ魔法ではないので、難易度及び、魔力消費が激しくなってはいますが。)
後、仙人掌はサボテンのことです。




