とある町にて ~戦闘、遭遇~
~とある町~
「これは…」
「…酷いです。」
夢すら見ない眠りから目覚めた護たちは、魔物を蹴散らしながら西の砦へと進んでいた。その道中、立ち寄った町の状態に、息を呑むことになった。
あちらこちらから火の手が上がり、西の砦のような樹海樹に作った建物にかろうじて生き残りが籠城している有様だった。死臭が漂い、兵たちの中には顔色が悪い者も多い。
そして、護たちに気づいた魔物が襲い掛かってくる。
「各員、建物を利用しつつ、魔物を殲滅せよ!!」
「ガンドルフさん、あれの相手を。メイア、セレスを頼む。」
「あれだな。」「畏まりました、護様。」
兵たちが展開していく。
ガンドルフとエトリアには遠くからも見える、十メートルはありそうな熊の相手を頼む。
護はその近くにいる同格の相手をすることに決め、メイアにセレスの護衛を頼んだ。
それぞれが接敵していく。
「でかいだけの熊さんよ、こっちだ。『守護』!」
「『障壁』さね!」
エトリアの障壁が熊の突進を弾き、ガンドルフの大剣が、熊の剛毛を散らし、血が溢れる。
それを横目に護は、体長二メートルのキメラに短剣を構える。蛇の尾に、獅子の胴体、顔は狸、胴体からかぎ爪の生えた腕が四本ある。
『真理眼』でのレベルは65。各ステータスは600越え。魔法を一切覚えていない代わりに、牙からでている毒がかなり強力だ。
「!!」
獅子の両足は移動にしか使わず、かぎ爪の生えた腕で攻撃してくる。腕の一本と炎を纏わせた短剣がぶつかった。
「くっ。」
切れない。切り落とすつもりで振るった刃は、途中まで食い込んで、止まる。もう一本の腕が接近してきたので、魔法を発動する。
「『エアハンマー』」
ろくなダメージは与えられないが、時間は稼げた。短剣を引き抜き、離脱する。
「硬い。」
護はそう呟きながら、次の手を試す。逃げるように距離を取り始めた。
追いかけてくるところを、土の壁とスパイクで阻害していく。柔らかいところにスパイクが刺さると、血が流れた。とはいえ、当てるのは至難の業だ。器用にスパイクの上を渡ってくる。アンバランスな巨体にしては俊敏な動きだ。
護は、建物の屋根の上にいる邪魔な魔物を駆除しながら、移動していく。一度、キメラが屋根の上へと奇襲をかけてきた時は、肝が冷えた。風の結界が破られて、腕が迫ってきたため、しゃがんで回避したのだ。
それ以降、冷静に対処し、イメージを充分に練り終えた護は、魔法を発動する。
「『グランド・ウォール』」
全力の土の壁が、通路を完全にふさぐ。体当たりして突破しようとしたキメラが激突したが、表面が少し削れるだけで、ビクともしない。
護がいる屋根へ助走をかけて跳ぼうとするキメラよりも先に、魔力を回復した護の魔法と技が発動する。
「『エンチャント・ファイア』『ソニック・フォース』」
加速した四連撃。腕の反応速度を超えて、刺さったところの肉を焼いた。
しかし、反撃の一撃が護へと当たり、護は地面を転がった。追撃と言わんばかりに前脚を振り下ろしてくる。
「!!」
護は技をのせ、右足で地面を蹴った。無理な体勢から放ったためか、筋肉が軋み、痛みが走る。
それでも、結果は充分だ。押しつぶされるところを回避し、何とか立ち上がる。
距離を獣の速さで詰めてくる。振るわれた剛腕を護は自ら飛んで威力を弱めながら、受け止めた。
「『ライト・ヒール』」
痛む足に魔法をかけ癒す。衝撃が内部に蓄積しているのか、身体は痛いが、足さえ何とかなればまだ戦える。
「『サーペント』」
海竜が顕現する。そして、キメラへと襲い掛かった。飲み込み水の檻と為し、キメラを窒息させようとする。キメラはもがくが、水の檻が解ける様子はない。
護はどんどん減っていく魔力を回復させながら、周りの敵を減らしていく。護は背中から衝撃を受けて倒れた。すぐさま横に転がって首への噛みつきを回避し、逆に首へと短剣を突き刺す。
風の刃も土の礫も躱す。キメラを窒息させるまでは、魔法を解く訳にはいかない。物理的な攻撃で、次々と屠る。これまでの修羅場が彼を生存へと導いていた。
「よし!!」
遂にキメラが窒息して、抵抗しなくなった。LPが残っている間は例え窒息していても、まだ息を吹き返す可能性がある。
水魔法を解除し、急いで首を切り裂く。LPが0になったところで、護は一息ついた。
水薬を飲み干し、襲い掛かってきた燕型の魔物を切り裂く。まだ、戦闘は終わっていない。護は魔物を倒しながら、メイアたちに合流するため、走り出した。
「セレスさん、右から三体来ます。」
「…『シャイン・レイ』!」
メイアに抱えられたセレスが魔法を放つ。一度の魔法で、三体同時に貫き、絶命させる。
護と別れた後、メイアはセレスを抱え移動していた。メイアがセレスの足となり、セレスが高威力の魔法を連発する移動砲台として、戦場を駆ける。
二人の目の前に、苦戦している兵たちがいた。一人、負傷している男を庇いながら戦っているようだ。水薬が切れているのか、回復させている様子はない。
二人は、けが人の元へと、屋根から降り立った。すぐさまセレスが回復魔法をかけていく。
「ぎゃあ!」
一人の兵士が首から血を流して倒れた。メイアがすぐさま、水薬を傷口にかけて、血を止めるが、気を失っている。叩き起こすのももどかしい状況に陥っているため、放置して、彼の首を掻き切った魔物をメイアは鋼糸で始末する。
数が多い。傷を癒したセレスが戦線に戻ったおかけで、維持は出来ているが、二人でカバーできる範囲は限られていた。一度に崩れれば、この場を見捨てる決断をしなければならなくなる。
メイアはタイミングを間違えないように戦場を俯瞰する。しかし、その必要はなくなった。一人の男がこちらに向かって走ってきているのが見えたからだ。
「『属性付与・日』」
道中を邪魔する魔物を、護は槍で一突きずつする。そして日属性で焼いて倒した。
メイアが『隠密』で姿を消し、首を刎ねていく。魔物の数が減り、護はセレスたちにすんなりと合流することができた。
「護さん、支援、お願いします。」
「分かった。」
セレスが羊皮紙を取り出すのを見て、護は彼女の傍に控える。魔法を連発しながら、セレスに近寄ろうとする魔物を切り裂いた。メイアも護の傍でセレスを守るように、魔物を狩っていく。
「『フィールド・サーチ』」
魔法陣が展開していく。セレスの目には、魔法陣が展開された範囲の魔物の存在が地図上に映っており、数が消えていくのが見えた。その中で、例外的に魔物の数が増えていく場所があることに気づく。
「メイアさん、二時の方向!敵が増えてます!!」
「護様、私が倒して参ります。」
「頼んだ。」
メイアの姿が再びかき消える。
しばらくもしない内に、こちらに寄ってくる魔物の数が減った。
護たちは殲滅速度を上げて、魔物を全て倒し切る。兵たちが休息しているのを横目に、三人は移動を再開した。
「こっちは終わったぞ。後はあそこだけだ。」
「流れ弾が怖いところだねぇ。」
ガンドルフとエトリアに合流する。
大方の魔物を倒し、残るは籠城しているエルフたちに群がる魔物だけだ。籠城組は樹海樹の上にある建物から風魔法で飛んでくる魔物やよじ登ろうとする魔物を追い払っているようで、エトリアの言う通り、彼らの魔法には気をつけなければならない。
「俺が引き寄せるから、マモル、そいつらを倒してくれ。」
「了解。」
ガンドルフの『守護』でヘイトが移った魔物がぞろぞろ寄ってくる。
初手はセレスとエトリアの風、水魔法。風の刃と水の槍が魔物を倒していく。断末魔は、他の魔物の行進に遮られ聞こえてこないが、かなりの数が魔法の餌食になった。
突破してきた魔物に次手として、護の魔法が発動する。土の壁が急に現れ、こけた所を踏みつぶされる、もしくはぶつかり、後ろからの同士討ちで倒れていく魔物が続出した。
一部だけを土の壁を開けていたところから魔物が出てくる。護たち餌を目にし、喰らおうと走ろうとする。
その瞬間首が無くなり、姿が消えた。『隠密』を発動したメイアが短剣を振るい、身体を『アイテムボックス』に仕舞っているのだ。物凄い勢いで数を減らしていき、『守護』に引き寄せられた魔物は全滅した。
「オラオラァ!!もっと来い!!俺はここだぞ!」
移動したガンドルフの再びの『守護』が魔物を惹きつけていく。走りながら連続して発動していき、全部のヘイトを集める。
続いて骨や肉を潰す音があちこちで響いた。樹海樹近くで足掻いていた甲虫型など硬い魔物たちが、移動し始めたことによって、その移動に巻き込まれた魔物が潰されていく音がしているのだ。
建物を避けずに、壁を突破してくる魔物もいた。
ガンドルフは、注意するように叫ぶ。
「メイア、セレスと壁を突破してくる魔物を片付けてくれ。ここは、三人で引き受ける。」
「畏まりました。」
メイアはセレスを抱えると、屋根の上と移動する。ガンドルフと入れ違うように向かっていた。
ガンドルフは護が作った壁の手前で惹きつける。彼をめがけて迫りくる魔物の初陣を十分に惹きつけた所で、壁の隙間を通りすぎた。
「うわっ。」
隙間に殺到した魔物が後ろに押される形で倒れ潰されていく。悲鳴と共に、潰されていく肉と骨の音が隙間から出てきた魔物を叩く護の耳に聴こえた。魔物行進戦で聞き慣れた音だが、怖気が走る。
一気に潰れた音がしたと思うと、壁が形を維持したまま、地面を削った。そして、よじ登ってくるツノとハサミを持った、甲虫型の姿が見えた。
(Lv78…)
「『日閃』」
短剣を振りぬいた。壁ごと切り裂いた甲虫型から不快な悲鳴が聞こえる。黒板に爪を立てた音に似ていて、護は片耳を抑えながら、どれだけダメージを与えられたか見る。
ナースホルン・ヒルシュ Lv78
LP 932/1094 MP 726
STR 707 AGI 763
TEC 711 END 955
INT 702
スキル 硬質化
(日魔法じゃないと、ダメージを与えられないか。)
ENDが異様に高く、護の短剣は受け付けないだろう。AGIも高く、近寄りたくない相手だ。
壁ごと攻撃したため、壁が崩れて魔物は動き始めた。
護はエトリアより少し前まで後退する。
あの甲虫型は、護の元までいかず、ガンドルフをハサミで挟みちぎろうとしていた。それを見て、護は『守護』が切れていないことを確認すると、防御はガンドルフに任せ、魔法に集中する。
「『鳳凰』」
日属性の輝かしい火の鳥が顕現した。発動した護まで、目がくらみそうな光を放ち、鳳凰は一旦上空に上がったかと思うと、甲虫型めがけて、襲い掛かった。
ギイィィ!!
「うおっと!」
ガンドルフが驚きの声を上げて、後ろに下がる。
鳳凰が甲虫型と接触した瞬間、一気に燃え上がった。外骨格が高熱によって、鈍い緑色から赤色に染まっていく。腹など比較的柔らかい部分は、炭化が始まり、悲鳴すら上がらなくなった。
それを間近で見ていたガンドルフの顔が引き攣る。護の制御が甘く、少しあぶられたからだ。もし当たっていれば、火傷していたかもしれない。
甲虫型が完全に沈黙すると、再び火の鳥となり、残りの魔物を燃やしていく。建物にも火が移ったところで、護は慌てて、魔法を解除する。
「やばっ。『バキューム』」
口にしていた魔力回復薬を外し、風魔法を発動する。急速に、燃えている部分の空気を奪い、真空状態にすることで、消火する。『鳳凰』も『バキューム』も魔力消費が激しく、護は魔力回復薬を飲みながら維持していた。
「急に火が消えたさね。」
「エトリアさん、お願いが。水魔法で、燃えていたところに水をかけてほしいです。」
「『ウォーター・ボール』」
「助かります。」
念のためにエトリアに水で熱を奪ってもらう。しばらく見たが、再燃する様子はない。護は一息吐いて、ガンドルフに襲い掛かっている魔物へと、走り出すのであった。
~一時間後~
「あ、ありがとうございました。」
「助かった…」
樹海樹でずっと籠城していたエルフで、その中でリーダーをしていたエルフの女性とその夫が感謝を告げに、臨時拠点を作った護たちや兵の元を歩き回っているようだ。
感謝を告げられて、嬉しく思うのだが、町の状態を見て、護の感情はごったまぜになっていた。
(この町の把握していた人口は、約八千人。その内生き残ったのは、二千を切っている。四人に三人は魔物に食われて死んでいるのか…)
憂慮すべき事実も判明してきた。本来ならば、Lv70以下は絶対に寄せ付けない結界だが、護たちが倒してきた魔物のレベルの中に明らかにそれ以下の魔物がいた。つまり、結界のどこかが破られ、その部分から侵入してきたことになる。
問題なのは、一体どこが破られたかのであり、原因は何なのかという点だ。
(悩んでも仕方ない。とりあえず、西の砦に行く必要があるのは変わらない。第二王子の安否を確かめないといけないからなぁ。)
護はボロボロになった町を歩く。『気配探知』を発動し、残りがいないか確かめながら進む。
とある民家から一つだけ反応があった。護は短剣を引き抜くと、警戒しながら、民家に入った。
「…」
「お母さん、お父さん、どこ?」
護がタンスを開けると、ずっと手で口を押えていた少年がいた。そして、護に両親がどこにいるのか聞いてくる。困惑していると少年は泣きだし始めた。
脳内で罵倒してくる短剣を仕舞い、護は少年に手を差し伸べた。涙を溜めて嗚咽を漏らしながらも、少年は護の手をとる。
二人で、拠点まで歩く。護はぎこちない笑みを浮かべて、もしかしたら両親がいるかもと、希望のない嘘を言って、彼と共に戻っていく。
その道中、彼がうつらうつらしている所を見て、護はおんぶした。彼が寝息を立て始めたところで、護は一息吐く。ぎこちない笑みは消え失せ、苦い表情となった。
(あの家の近くにあった血だまりに、二人分の腕や足と遺品が残っていた。おそらく、この子の親のものだろう。5歳で親を失ってこの子は暮らしていけるのだろうか。)
拠点に着くと、護は周りから驚かれる。まだ、生存者がいるとは思われてなかったようだ。
一人の三十代の女性が走りだしてくる。護の『真理眼』は彼女は母親でないと映していた。
「その子をどこで?」
「家で。タンスの中に隠れていた。貴方は、この子の知り合いか?」
「ええ。この子の母親と仲が良かったの。この子の母親と父親は?」
護は『アイテムボックス』から遺品を取り出していく。どんどん取り出されていくうちに、女性の顔が真っ青になっていく。取り出し終えた頃には、泣き出し、地面に崩れていた。
「そんな…そんなぁ!!嘘よ。アリアが死ぬなんて…!」
「…」
護も周りも暗い表情で沈む。女性の泣く声だけがただただ、その場で響いていた。
泣き止んだ彼女に少年を預け、護はメイアたちと合流する。
天幕に入ると、横になった。その傍にメイアが座る。
「護様、これを。」
メイアから一枚の紙を受け取る。そこには、メイアとセレスが持ってきていた備品の残存状況が書かれている。
魔力回復薬の減りが著しい。護は身体を起こし、『アイテムボックス』から自身のものも取り出してみる。残り十三本。五十本持ってきたはずだが、もうこれだけしか残っていない。
護はメイアを見る。彼女の真意が読めない。
「護様が子供を見つけて帰ってきたことも、その子の両親が亡くなられていることも存じております。」
「…」
「辛く悲しい出来事かもしれませんが、私たちは前に進むしかないのです。悲しみに溺れている暇はありません。少なくなっていく物資をやり繰りし、生き残るために知恵を絞らなければなりません。私に、できることは、次の戦いに備えて護様から悲しみを逸らすことだけです。」
メイアの瞳に映る自分の顔はかなり酷い。護は、渡された紙を見つめる。彼女の言う通り、戦いはまだ残っている。こんなところで、うじうじしている暇などないのだ。
自分の頬を叩き、意識を『アイテムボックス』内に向ける。複数の植物を取り出した。
「これがあれば、魔力回復薬が数本作れるはずだったな。作れる人を探そう。」
「はい。」
拠点内を動きまわり、二人は夜遅くまで、物資の補給に務めた。
動き回っている間も弔いの唄が聞こえ、護の耳から離れなかった。
~翌日~
「後発隊が物資を持って、俺たちに合流するそうだ。」
「おおっ!」
昨日、王都へ送った伝令が朝戻って来て、宰相直筆の指示書を持っていた。それによると、西の砦進行は一旦、停止。その町を使った防衛ラインを構築するために、後発隊に物資を持たせ、送っているとのこと。
本部が把握できている戦況についても情報が来ており、各地に散らばった魔物は、名誉公爵たちが各個撃破しているようだ。
なお、西の砦を中心なるように包囲網を構築しているようだが、高レベルの魔物に対処ができず、上手くいっていないようだ。この町が突出している状況であるので、警戒しろという警告も入っていた。
「前から五体。二体は空を飛んで移動しているな。」
「…まともに休ませてくれないです。」
護の報告に、珍しくセレスが愚痴をこぼした。護も同感だと言わんばかりに頷く。
見張りとしてついてから、これで五度目。高レベル帯の魔物が来ないだけマシだが、あまりの頻度にうんざりしていた。
視認できる距離に入っても、あえて攻撃せずに惹きつける。
そして、防衛ラインとして構築途中の壁から十メートルぐらいになったところで、護が走り出し、セレスが魔法を放つ。
「後、二体!」
空飛ぶ鳥型二体が光線に打ち抜かれ墜落する。落下地点には護がおり、首を魔力の刃で切り裂いた。また、護から放たれた炎の槍が、熊型を頭から焼き貫く。
狐型の気が護に向いたところをメイアがすかさず、一突きで仕留める。
残りの一体は、護によって体が真っ二つにされ、倒れた。
「うーん、使えないな。」
「そうですね。」
素材に向かない魔物だとして、二人でぼやく。食料としては優秀だと思うが、二人が求めているのは、武器になるもの、もしくは魔力回復に使えるものだ。
とりあえず仕舞って、壁まで戻った。階段を上り、壁の上で待っているセレスの元へと行く。
「作業の続きだな。」
護は、簡易の椅子に腰を掛けると、壁の上にわざわざ作った水路に水を溜める。
『アイテムボックス』からこれまでの戦いで無造作に放り込んできた魔物を取り出すと、解体し始めた。たちまち血で水は赤く染まり、溢れたものが、水路を通って、外に流れていく。
セレスもメイアも護のように解体しており、そこだけ何かの儀式をしているようにしか見えない。兵たちも近づくことを躊躇うほどで、時折飛んだ血で、顔を赤黒く染めている護を見て、明らかに吐き気を覚えている者もいた。
本人たちは周りの様子など気にせずに、解体を続ける。
「二人とも、今度は七体だ。」
敵が来る度、出撃して倒しては、解体する。再び敵が来れば、このサイクルを繰り返していく。
使えない部分は焼却。まとめて焼き払い、煙はわざわざ風魔法を使って、騒ぎにならないように散らした。
時が経つにつれて、物が増えて本格的な処理場になっていた。まともな見た目になったことで、兵たちからの素材を解体する依頼まで受けるようにもなった。護たちは、後発隊が合流するまで捌き続けていった。
「助かります!!」
「えーと、どういたしまして?」
護たちの前で、ペコペコ頭を下げてくるエルフの女性に護は困惑しながらそう言った。
後発隊で来た彼女の仕事は、魔物の解体らしく、町中の処理場は魔物によって荒らされていて、絶望していたらしい。その時、解体をしてくれる三人が居ると聞いて、こちらに慌てて来たとのこと。
笑顔で「解体っ!解体っ!」と喜んでいる姿に、護たちは何とも言えない気持ちになるのだった。
処理場は彼女に、後発隊に見張りを任せ、護たちは一旦、拠点に戻る。
後発隊が来たことによって賑やかになっている。護たちがここに来るまでの魔物を倒してきたことによって、速やかな合流及び、損害なしで来れたらしい。
(嬉しいが…やっぱり複雑な気分だ。)
自分が見つけた少年と、泣く女性が脳裏に思い浮かぶ。ぎこちない笑みをして、兵たちの横を通り過ぎていくのが精一杯だった。
天幕に戻ると、一体のスライムを呼ぶ。このスライムはハイドロから分裂してできたスライムで、レベル上げはしていないものの、護たちに必要な存在だ。
護は下着一枚になると、スライムを体に這わせる。ひんやりとした独特の感触に護は体を震わせた。
こびりついた血汚れが落ちていく。いや、食べられていくといった方が正しい。このスライムは身体汚れ専用のスライムで、一人一匹と護はパーティーに渡していた。
『浄化』でも汚れをなくせるのだが、実感が無く、物足りない。簡易シャワー室を買うという選択肢もあったのだが、容量の圧迫が大きかったので、スライムの出番となった。
(あまり疚しいことは考えないようにしないとなぁ。)
テイマーである護には、メイアたちに渡したスライムの状態が分かる。言い換えると、彼女たちが利用しているかどうか分かる。
利用している彼女たちの妄想をついついしてしまうのは男の性なのか。護は頭を振りかぶって、妄想を振り払った。
さっぱりしたところで、服を着て外に出る。先ほどまでの、どこか暗い気持ちを流せることに成功したらしい。
護の足取りは少し軽くなり、メイアたちと合流するのであった。




