一つの決着 ~経緯と過去、変化~
け、賢者、強すぎ…
~要塞前・夜中~
「『フィールドサーチ・エルフ』」
圧倒的な魔力の波が賢者から発せられた。隣で立つ護の額が脂汗で滲む。
「『ロックオン・リムーブ』」
そして、次に発動した魔法で、王都全域からエルフを排除する。
護の『気配探知』にいくつかあった反応が全て、失せており、王都内に残っているエルフはいないだろう。
また、耳障りな音を発している魔物共に、賢者は容赦のない一撃を選択した。
「邪魔だな。失せろ。『一の型・活火激発』」
ドゴォォン!!
護は咄嗟に風の結界を起動させる。その直後、結界を破る勢いの衝撃が護を襲った。踏ん張りが効かず、足が地面から浮く。
賢者が護の様子に気づいたのか、強力な水の結界をドーム状に張って、吹き飛ばないようにした。
水の結界を通して見える周りの惨劇に、護は目を大きくする。
目の前に見えていた立派な要塞はがれきの山どころか、溶けており、門の鉄格子の先に見えていた化け物共は全て、燃え尽きて灰すら残っていない。
何より、月の光を遮っていたはずの王木の葉は太い枝ごと燃えてしまっていた。焼け落ちて下にある民家に火が移ってもおかしくないのだが、その前に燃え尽きて消える。賢者がそこまで考慮して行ったようだ。
「呆けている暇はないぞ。この程度のことで驚くな。」
「……」
魔法の規模、精度がこれまでと違い過ぎる。暴虐とも言える力の発露に護は完全に言葉を失くしていた。
ともあれ、好奇心が、ある種の恐怖があり見ていなかった賢者のステータスを『真理眼』で護に覗かせる。
ブレット・トルメイマ (男・551歳・上級妖精)職 賢者Lv164
LP 1586 MP 2983/3297
STR 1300 AGI 1539
TEC 1600 END 1356
INT 3004
一般スキル 魔法(火・水・風・土・光・闇・雷)Lv15(MAX)(時空)Lv14
集中Lv6 調合Lv8 家事Lv5 栽培Lv4 裁縫Lv4 鑑定
職スキル 広範囲補正 詠唱破棄Lv5(MAX) MP自然回復力向上 老化抑制
エクストラ 妖精の秘奥(E・L・F) 勇者契約
合成魔(木)Lv15(MAX)
(嘘だろ。MPとINTが3000越え…)
護は腰が抜けて、座り込みそうになるのを堪える。賢者が言ったことは事実だ。彼にとって、この程度は造作もない範囲であると護は理解できた。ここまでかけ離れていると、恐怖すら湧かない。
護の様子を一瞥した賢者が前へと歩き始める。内界への門はあれだけの魔法の暴威があったにもかかわらず、その位置にあり続けていた。
門から、かなり鈍重そうに出てくる魔物が出てくる。斥候型ケファーに比べて、外骨格の厚さが倍以上あり、動きは遅い。その背後に、身軽そうな魔物も出てきた。
「重装甲型ケファーに、魔法砲撃型ケファーか。本格的に覚醒しているみたいだな。」
ギゥギッ!!
超高威力の風の砲弾が二人に迫る。護では即死する一撃だ。
賢者が杖を振るった。同じ風属性の壁が、相殺する。威力を完全に一致させ、護の元にはそよ風すら来なかった。
魔法砲撃型ケファーは風魔法の砲弾を打ち続けてくる。二人の所以外にも飛ばすため、いくつか残されている樹海樹を激しく揺らし、幹に罅が入る嫌な音と、建物が吹き飛ぶ音が響いた。
「面倒だな。『二の型・疾風』」
迫りくる風の砲弾を切り裂き、二体の上半身と下半身も別れさせた。
「とっとと進むぞ。」
淡々とした声音でそう言ってくる賢者の後をついていく。
さらに門から出てこようとするケファーへ超高圧の水のカッターが炸裂し、護と賢者は内界へと入るのであった。
「!」
緑色の肉が壁も護たちが進む床も全てを埋め尽くしていた。あまりに、気持ち悪い光景に、護の顔が引き攣る。
護の背後の肉壁から、斥候型ケファーが奇襲をかけるが、賢者の魔法によって切り刻まれた。そして、歩みを二人は進め始める。
魔物は全て賢者が処理し、護は賢者についていくだけだったので、心に余裕ができる。
護は口を開き、尋ねた。
「どういうことなんだ?」
「何から知りたい?」
逆に問いが帰ってきてしまった。護はまず、ライラについて尋ねる。
少し間が空いた後、賢者は話し出した。
「あの王女は、王を殺そうとした。そして、返り討ちにあった訳だ。永眠するところを俺が助けた。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なぜ、ライラが父親を殺そうとするんだ。」
「それから説明しないといけないか。」
賢者は一瞬だけ辛そうに顔を歪めると、足を止めずに口を開ける。
「その話をする前に、過去から話をする。まず、変化薬を作った本人、俺の師匠、ムーンナイト・トルメイマが生きていて、俺が勇者と旅に出る前のことだ。」
また一匹、細断された。護は、そちらを気にせず、話に集中する。
「変化薬ができて間もない頃、俺は魔法の才を買われて、師匠と共にレベル上げに勤しんでいた。冒険者ギルドの依頼を受けることも多く、その時出会ったのが、受付嬢で、エルナという可愛い女性だった。」
雰囲気が変わった。斥候型ケファーは出現しなくなり、兵士型と呼ばれる魔物がメインになる。
それでも、賢者の口は変わらず、足は歩みを進める。
「俺はエルナと結婚した。変化薬を色々試している頃だ。二人で生活している内に、変化薬の話が挙がった。エルナは賢者の後を継ぎ、長い時を過ごす俺と添い遂げるために、強くなりたいと言っていた。変化薬が自分を強くして、俺と共にいる時間を増やしてくれるかもしれないと。」
「そして、その奥さんは変化薬を口にした。」
「そうだ。その時、下級職での増強は確認できていて、次は中級職に適応するかどうか試す前だった。下級職の犯罪奴隷で上手くいったのだから、中級職でも、エルナでも上手くいくだろうと思っていた。」
「結果は失敗したんだな。」
「ああ。エルナは死んだ。口にした途端、喉を抑えて震えながらな。最後の言葉も聞けなかった。」
賢者の気持ちに呼応したのか、魔物が闇へと沈んでいく。使用する魔法の変化が、彼の後悔を表しているようだと、護には思えた。
「師匠に叱られ、エルナを埋葬しようとした時に変化が訪れた。エルナが目を開いた。思わず蘇生したのかと思ったが、俺の首を噛み切ろうとしてきた。師匠が咄嗟に押してくれなければ、俺は死んでいたな。そして、エルナの身体はどんどん変わっていき、魔物となった。」
「その場で殺さなかったのか。」
「情けないことにな。俺は殺そうとする師匠を止めてしまった。そして、エルナにはその隙に逃げられてしまった。」
護は同情の視線を向ける。愛する人が蘇ったという希望を一瞬でも見て動けなくなるのは、誰だってそうだろう。もしかしたら、戻るかもしれないという淡い希望も抱いていたに違いない。
賢者は少し俯きながら、続きを喋りだした。
「エルナが再び現れたのは、俺が賢者に職を変えて間もない頃だった。その時、彼女は一人ではなかった。多くの魔物を連れて、エルフの諸国を襲い始めた。たちまち、南にあった一つの国が落ちたことで、俺の耳にも入ってきた。そして、戦場へと向かおうとした時に、ある問題が発生した。」
「?」
「その当時、諸国間の間柄は最悪で、次々に国が崩壊しているというのに、協力する気もなく、討伐をしに行こうとする俺を妨害しようとする動きもあった。時空魔法で対処したが、多勢に無勢、俺だけでは勝てる戦いではなかったのだ。」
「その時に、人族の勇者と会ったんだな。」
「ああ。彼のおかげで、エルフは一つの国として成り立つようになる。諸国の王を全て暗殺し、一人の王を立て、実質な権力は彼が全て掌握し、民を纏め上げた。」
(強引過ぎないか、勇者…。それでも、団結でき、今があると思えば悪くない結果を引き寄せた訳か。)
護たちは王の間へと到達した。王の間は多くの魔物でひしめき合っている。
賢者が、光の魔法を発動し、全てを一掃した。次々に、壁から供給されていくが、賢者は片っ端から全て、倒していく。
「俺たちは大元であるエルナへとたどり着いた。しかし、倒すことができなかった。当時の俺たちのレベルでは殺しきれず、こちらの傷が深くなっていくばかりだった。そのため、苦渋の決断でこの樹海樹へと彼女を封印した。いつか、倒し切るレベルまで強くなると誓ってな。」
「一ついいか?」
「なんだ?」
「倒すことより、封印の方が難しいと思うんだが。」
「当時の勇者の仲間に、エクストラを持っている女が居てな、その女に俺の魔力を使わせて行った。封印の欠点で、完全に封じ込めることはできず、血によって解放、覚醒してしまうという欠点を抱えこんではいたが。悪用されないように、封印されていることを知っている者自体を減らし、唯一事故で目覚めてしまってもいいように、王にだけ伝えた。もし覚醒すれば躊躇わず、賢者である俺の元へと来いと、王には伝えている。」
「え?王だけなら、何故、第一王子は知っていたんだ?」
「それが、お前が聞きたかった、話に繋がる。」
最奥に繋がる道を塞いでいた肉壁を吹き飛ばし、侵入する。
階段は形を残しておらず、所々塞がれている。
賢者は、階段を作りながら、壁を吹き飛ばし、前に進む。相変わらず魔物は攻めてくる上に、手間が増えたので、歩みは遅くなったが、それでも賢者の口と足は止まらない。
「代々、王を継ぐ者には、過去の話をする。愚王の類が生まれたとしても、自身が明らかに破滅する厄災を解き放つことはしなかった。今回の王が出てくるまでは。」
「……」
「あの王は、承認欲求が『強欲』によって暴走した狂人だ。あいつは今まで、教育の改革や、スラム撲滅を掲げての社会改革を押しすすめ、民から多くの支持を集めていた。だが、それでも足りなかったらしい。」
賢者の声には嫌悪感がにじみ出ていた。
「飽くなき欲求の果てに思いついたのが、反乱を鎮めた英雄となるものだった。そのために、俺の弟子、チュリたちを名誉公爵という立場に押し込め、レベルを上げることを阻害し、自身の妻に純血派思想を持っている者を入れこませた。」
「つまり、前もってから、こうなるように仕組んでいた?」
「そうだ。第一王子に封印の話をしたのは、反乱だけでは物足りないと感じたからだそうだ。」
「……」
「あまり驚かないようだな。」
(あの巫女と王が一緒にいた時点で、怪しいとは思っていたけど、そのまさかだからなぁ。)
何とも言えない気持ちになる護だった。
ともかく、ライラの経緯を聞いていないので、聞くことにした。
「ライラのことは?」
「あの王は失敗作だと呼んでいたな。何が失敗なのかは知らないが、殺意を抱くようなことをしたのは事実だろう。」
「そうか…。なぜ、この時期か分かるか?」
「情報が足りなくて、分からない。お前の方が知っているかもしれないぞ。ただ、俺はお前がいなければ、力を振るわなかったかもしれない。」
護は怪訝な顔をする。話の中では、封印が解けた際、厄災を倒す気でいた筈だ。
「愚かな王に力を貸すつもりはない。時代は移ろう。エルフたちの愚かさで起こる滅びを俺が救う義務はない。不慮の事故なら、話は違うがな。」
「……」
「理解しなくてもいい。長く生きれば、分かるようになる。さて、最深部についたぞ。」
賢者が最後の肉壁を吹き飛ばす。最深部には一人の少女のような化け物が立っていた。
昆虫の外骨格を鎧のように纏っているようにしか見えないが、明らかに触角は生えているし、鎧も身体と癒着している。何より、肌の色が緑色をしている時点で、既に人間の域を超えていることが分かった。
護の本能が警鐘を鳴らす。恐る恐る『真理眼』を使うと、そこには、
エルナ(女王型ケファー?)Lv126
LP 1921 MP 1797
STR 1756 AGI 1672
TEC 1759 END 1945
INT 1643
一般スキル 身体強化Lv5
特殊 侵食Lv5(MAX) 眷属増殖 超再生Lv5(MAX)
(つ、強すぎる。救いは2000までいくステータスが無いことか?)
目の前の化け物は、賢者だけを見ていた。賢者も化け物となったエルナを見据える。
「ブレット?」
「「!!」」
賢者の名を呼んだエルナに二人は驚愕する。それが隙となった。
ドゴォン!!
賢者が弾き飛ばされる。咄嗟に杖を盾にしたものの、肉壁へと叩きつけられた。
賢者を吹き飛ばしたエルナは、護の元へと、メイアを超える速度で近づき、頭を掴んで不意に止まる。
「ウーン、ナカマ?」
目の前の化け物は首を傾げる。
護の心臓は早鐘を打っていた。また、すぐに首をへし折られて死ぬという今の状況を俯瞰的に見ている自分がいる。
目の前の化け物は護の頭を掴んだまま、首を左右に傾げ続ける。
「ウーン、チガウ?ワタシトハチガウケド…」
「…」
「オナジカンジモスル。」
「離れろ、化け物。」
エルナの頭部を吹き飛ばすような熱線を賢者は撃った。しかし、エルナは護から離れずに回避してしまう。護にはいつの間にか、後ろに回り込まれていたとしか認知できない。
賢者が次弾として、護の周りを囲むように、火魔法を発動する。エルナは護を腹部から触手を伸ばして密着させ、護を連れて回避した。
「ナニスルノ?」
「それはこちらのセリフだ。」
「ジャマシナイデ!!」
肉壁からどんどん、眷属が生まれる。賢者の殲滅速度と増殖速度が同じで、倒した傍から、補給され、護とエルナに魔法を許さない。
そしてエルナに抱え込まれた護は身体が動かせず、エルナに運ばれ、ベッドのように盛り上がった部分に投げ込まれる。馬乗りにされ、両手を触手で抑えられてしまった。
「ネェ?」
「…」
「ワタシタチ、マジロウ?」
「は?」
恐怖よりも疑問が勝った護。言葉が脳内で繰り返される内に、メイアたちの怒った顔が浮かぶ。
身体を動かそうとするが、圧倒的なステータスの差に動けない。
目の前の化け物は彼女の原型が残った顔を首元へと近づける。護は必死に抵抗するが、意味はなく、首に彼女の牙が刺さった。
「~~~~っ!!!」
護はあまりの激痛に身体をのたうち回らせる。身体の内部が激しく書き換わっていく感覚が襲う。
変化薬を飲んだ時は自身の内部から何かが溢れる感覚だったものに対して、今回は外部から力を注ぎ込まれているようだった。
痛みで頭の中が漂白されていく。先ほどまで浮かんでいた彼女たちの顔が消えていく。護は全てが書き換わろうとしていることに恐怖を覚えた。
「『日、閃』」
力なく、呟かれた魔法を喚起する言葉は虚しく消える。碌にイメージができなかった。
もう、ほとんど意識が消え、視界が闇に染まる中、輝く一人の女性が見える。耳には声が。
「あなたは、まだ、大丈夫。」
護の意識が途絶えた。そして、エルナが護を解放する。
「ドウシテ?」
そんな困惑の言葉と共に、増殖が止まった。
眷属を突破した賢者が見たのは、首から血を流す護と、困惑を浮かべるエルナだった。
賢者は目を見張る。護はもう既に手遅れだと思っていたのだが、違う。彼は生きていた。しかし、様子が変だ。
護の耳はエルフの耳のように長く伸び、髪の色は緑に染まっている。何より、彼の鑑定画面には、
アカシミヤ・マモル(男・17歳・半人半精?)Lv74
と、映っていた。
謎のレベル上昇に、種族が人族から変わっていること。何より、魔物になっておかしくない状況だったはずなのに、彼はまだ、魔物ではない。
変化薬をあれ以降も調べ続けた賢者にとって、今回は初めて遭遇した事態だった。
賢者は一瞬だけ探求心に駆られた心を戦闘に戻す。
「モウイチド…」
「させるつもりはない。『九・速』」
「ムゥ。」
エルナが宙を飛ぶ。賢者が放った蹴りは頑丈な外骨格から内部へと衝撃を伝え、一定のダメージを与える。『超再生』でダメージはすぐ回復されてしまったが、護ではなく、狙いが賢者に移った。
エルナが距離を詰めようとすると、賢者は『参の舞・藤』を発動、チュリとは段違いの炎の壁を作り、前を遮る。触れた瞬間に、その所が弾け、外骨格を削る。
それでも、突破してきたエルナに向け、賢者は魔法を発動させる。
「『ブルー・ブラスト』」
青き炎が熱線となって、エルナを襲う。触れた部分が灰塵となる中、再生し続けて、足を止めなかったエルナは、腕から鋭い爪を伸ばして、賢者へと殴り掛かった。
「『三・流』」
杖と金属並に硬いローブを使って、嵐を思わせる連撃を流す。
「『二の型・疾風』」
眷属なら一撃必殺の風の刃を無理矢理、受け止めるエルナに、さらに追い打ちをかける。
「『十・断』!!」
手刀と同じように、空間がずれた。そこにあったエルナの右足がずれ落ちた。
動きが完全に止まったエルナに畳みかける。手を翳した賢者は告げる。
「『壱の舞改・鬱金香・蒼』」
青き炎の砲弾が着弾した。全てを灰塵に帰す力を持ったその炎は、避け損ねたエルナを灰にしていく。また、肉壁も樹海樹本体すら燃やした。空間にも影響を与え、不安定になっていく。
賢者は無言のまま、意識の無い護を抱えると、阻害が消えた内界からの転移をするのであった。
~???~
「ここは…」
護は何もない暗闇の中にいた。足を動かすと、光の波紋が何重にも広がっていく。
自分は化け物に噛まれたはず。あの言い分だと、魔物になったのか。訳が分からず、困惑していると後ろから聞き覚えがある声が聞こえた。
「ここは、よく分からない。ただ、ずっと私が居た場所。」
振り返ると、意識を落とす際に見た女性が立っていた。耳を見る限り、エルフのようだ。
彼女は、護に近づくと髪を撫でた。そして、耳を触った。
護は驚いて後ずさる。耳の感覚が今までと違った。ゆっくり触ってみる。明らかに長くなっている。
「?」
「あの時、私のエルフとしての因子が流れ込んだ。だから、君は半人半精に変化した。」
「…」
ここではスキルが使えない。確かめようがないが、耳の変化から、本当だと信じることにする。
「あなたが、エルナさん?」
「そう。あなたと夫との戦いを見ていた。夫は私を殺せた。やっと逝けるけど、その前に残った仕事がある。」
「仕事?」
エルナは護の前でクルリと回ると、護へと手を伸ばす。
護は手をつなぐ。すると、引っ張られる様に歩き出した。不思議な感じに再び困惑を浮かべる。まるで、エルナが母親で自分が子供になったかのようだった。
「その感覚は間違いじゃない。あなたは私の子供みたいなもの。ブレットとは子供ができる前に、死んでしまったから、残念。でも、二人のおかげで、母親になれた。」
「エルナお母さん?」
「嬉しいかも。あなたの母親はこんな感じであなたを見守っていたのかもしれない。」
護は急に悲しくなった。もう、自分の両親は自分のことを知らない。明石宮 護という存在を生んだことが無かったことになり、護自身さえ、記憶が曖昧になりつつある。
護の顔に気づいたのか、エルナは護を抱きしめる。
「何と言えばいいのかな。あなたの記憶に触れた。本当の母親にはもう二度と会えないかもしれないけど、あなたへの愛情は凄かった。あなたは愛されていた。」
護の目から涙が溢れる。光の神から聞いた時に、決別したと思っていた想いが彼の中を占める。
みっともなく泣く護を、エルナは抱きしめ続けたのであった。
「あなたに伝えなければならないことが大きく二つある。」
「二つ?」
泣き止んだ護に、エルナはそう言った。
「そう。一つ目は、私の変化は偶然じゃないこと。」
光の波紋を溢れさせながら、彼女は続ける。
「変化薬はなぜか知らないけど、中級職以上には劇毒になる。ただ、それだけ。あの魔物の因子は別に組み込まれ、覚醒した。」
「じゃあ、なぜ、エルナはここにいるんだ?」
「分からない。魂というものが奇跡的に残っていたという可能性もあるけど、多分原因はあなた。あなたを見た時、共鳴した。それから、私の元の因子があなたに移ったことで、エルナとしてはっきり独立したのかもしれない。とにかく、分からない。」
「そうなのか。」
エルナとこうして話せているのは、一種の奇跡とも言えるし、理由は後回しにしてもいいだろうと思う護だった。
「で、誰が魔物の因子を取り込ませたんだ?」
「これも分からない。ただ、当時は死体も研究素材の一つとして、腐敗しないように『アイテムボックス』に入れておくのが普通だった。おそらく夫の管理から外れた時に入ったはず。もしくは最初から入っていた。」
「最初から入っていたなんてあり得るのか?賢者が作ったものでは?」
「あれは夫が作った物じゃない。師匠から貰ったと夫は言っていた。でも、師匠はそんなことをする人とは思えない。だから、私が死んだあとに入ったと思う。」
仮説は考えられるが、事実は確かめてみないと分からない。
エルナは護に賢者への伝言としてこのことを伝えてほしいと頼まれた。後、幸せだったことも伝えてほしいとも。
護は承諾し、二つ目に移る。
「二つ目はあなたについて。あなたはエルフの他にも因子を集めないといけない。」
「他と言うと、獣人とか魔族とか、ドワーフ?」
「そう。あなたは私の動きに全く反応できていなかった。今のままじゃあなたは死ぬ。だから、強化する必要がある。レベルは上にいくほど上がりにくくなる。上昇幅が少ない今はレベルを上げても、かなり苦しい。だから、因子を取り込んで、上げる必要がある。」
「それはそうだが、その体への影響は?」
「分からない。見た目は変わるだろうし、子作りにも影響があるかもしれない。」
「それは困る。」
「どうして?…ああ、理解した。それは、因子によって子作りできなくなる前にすれば解決する。」
「ヘタレている理由も見ただろ。」
「確かに妊婦を連れての旅は大変。旅を続けるのはかなり面倒くさい。女のためなら、旅なんて放棄してしまえばいいのに。」
護はそうしたいのはやまやまだが、今回のエルフの一件のような事態に発展する可能性がある。
その原因は自分たちにあるのではないかとも思ってしまうが、起こりうる要因は前からあった。いつか起こるならば、最善の時に、起こった方がマシだ。少なくとも賢者が動かず、滅ぶルートは回避できた形である。
結果として、参加しておいてよかったと思う護だった。
考えに触れたエルナは呆れた視線を向ける。
「女の子たちは大変ね。あなたみたいな男の子と契約したり、助けられて恋心を向けたりして。」
「エルナお母さん、すごく耳が痛い。」
「そうでしょ。気をつけないと、あなたが恐れている事態になる。」
護は頷くしかなかった。
「とりあえず、あなたが因子を取り込んでも、生殖機能を失わないことを祈ってる。」
「…」
「もうそろそろ逝く。じゃあね、護。」
「バイバイ、母さん。」
闇を覆す光が護とエルナを照らす。隣のエルナが光の粒子となり護の中へと入っていった。
そして、護の意識は光に満ちた空間に大きな大樹が一本あることを認識して、現実へと戻っていくのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:結構、あっさりしてますね。これ、四章のメインイベントじゃ。
A:賢者の強さを考慮すると、こうなるのが自然かと思った。ちなみに、聖女が戦った場合は、一話分を使ってもけりがつかず、スタミナ切れで聖女が負けるぞ。
Q:それはそれで、見てみたいですね…。後、主人公、人間完全に辞めちゃってるじゃないですか。
A:何か問題が?
Q:ナンデモナイデス。(ろくでもない展開に利用されないことを祈るしかないなぁ。)
四章のメインイベントはこれからです。聖女や賢者といった圧倒的な人たちが活躍してばっかりなので、いい加減主人公にスポットライトを当てないと駄目ですよね。




