合流 ~つかの間の平穏、急転へ~
しゅ、修正するかも…
~世界樹・賢者の住処~
「事情は分かった。移動するぞ。」
賢者はそう言うと、護の頭をしっかり片手で掴む。掴まれた護は何が何やら訳が分からず、賢者をただ見るだけだ。
「お前の嫁の元に転移する。しっかりイメージをしろ。できるだけな。どんな姿でも構わん。俺の方には情報が来ないからな。」
(それって…。ああそういうことか。)
どうやら、魔法の発動を賢者、行先の決定を護が行うようだ。わざわざ護に情報の話を告げたのは、メイアのあられもない姿を思い浮かべても、自分は関与しないという意思表示か。
セレスたちがジト目で見てくる。護は勘弁してほしいので、とっと思い浮かべることにした。
護の中でメイアのイメージが浮かぶ。普段のメイド服を着た彼女を。戦闘時に見せるあの冷徹な眼差しを、戦いから生き延びて部屋で互いに座り、口づけを交わした後の顔を。
「よし、いけそうだ。『ワープ・ホール』」
イメージから現実に戻された。護を見るセレスたちの目が怖い。
にやけていたのだろうか。護には非難される理由が分からなかった。
護の戸惑いとは別に、向こう側の様子が見えた。オリーが向こうの様子に気づいて、咄嗟に賢者の顔を殴って背けさせる。ステータス的には絶対に無理なはずだが、賢者は大人しく背けていた。
向こう側では、天幕の中で下着姿になっているメイアが自分たちをまじまじと見つめていた。護の顔が見えると、目を細くして笑う。そして躊躇いもなく、下着姿のままワープホールから上半身出して、護へと手を伸ばす。
護は手を掴むと、一気に引き込まれた。護がメイアを押し倒すような形で、ベッドへと倒れ込む。
「メ、メイア。」
「新たなアプローチですね。まさか、転移してまで私と、したかったのですか?」
「そういう訳じゃない。偶々、タイミングが重なっただけだ。賢者もいるし、早く服を着てくれ。」
「かしこまりました。」
メイアはいつものメイド服を着始めた。その間、セレスとアンに挟まれるようにして両腕を抓られる護がいた。痛みより、薄っすら笑う二人が怖い。
着替えが終わったところで、護は解放され、賢者は渡ることを許された。
賢者はメイド服を着たメイアを見て、何か納得したように頷く。
「いい嫁だな。しかも、侍女で正妻か。」
護たちの関係性をある程度把握したらしい。
メイアは正妻という言葉に、ポーカーフェイスが崩れかかっていて、セレスとアンの目から光が失せている。また、護の腕を軋むのではないかと思うぐらい抱きしめてくる。
誰が一番なのかはデリケートな問題だ。護はその話の続きをさせまいと、話を変える。
「作戦はどうなった?」
「申し訳ありません、護様。失敗しました。」
メイアは二体の斥候型ケファーを退けた。その後、後続が来ないか見張っていたのだが、型の違う、一回り大きいやつが出てきて、撤退したのだ。あれは勝てないかもしれないという本能に従っての行動だった。その時、門から動かないことは確認している。
また、彼女が一人で天幕にいるのは、ニースメンドたちがかなり後方まで下がったことによる。けが人が居たのにも関わらず、メイアに一旦天幕で休むという選択肢を選ばせるほどの距離を移動したのは、流石としか言いようが無かった。
それを聞き、賢者が提案する。
「俺が送ろう。ニースメンドの顔は知っているから問題ない。」
全員が外に出て、メイアがテントを収納するのを確認すると、賢者があっけなく時空に穴を空ける。
向こうからのどよめきが聞こえる中、賢者が真っ先に通った。「賢者様。」というニースメンドの声が聞こえた。護たちもそれに続く。瞬く間に驚きは広がっていった。
「メイア殿、無事だったか。それに、マモル殿まで。」
護は違和感を抱く。ニースメンドの様子が落ちつきすぎている。王とのやり取りからして、感情の起伏が激しい方だと思っていたのだが、様子を見る限り、驚いている感じではなかった。
しばらくもしない内に、片腕の女性と支えるもう一人の女性がこちらへと寄ってくる。メイアと共に行動し、助けた二人だ。
「メイアさん、あの時はありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「いえ、私はあの時、最善を尽くしたまでです。」
二人がメイアへと感謝の言葉を溢れさせる。その様子を見て、護の腕をアンが引っ張った。
「あの人も腕が無い。私みたいにできるかな?」
「ハイドロの意思次第だ。」
小さくなってアンの肩にいつの間にか乗っているハイドロが身体を揺する。護には、それが肯定を示しているのだと分かった。
「出来るみたいだぞ。」
「良かった。早く戦いを終わらせないといけないね。」
アンがハイドロを肩に乗せたまま、二人に近づく。二人に話をするようだ。入れ替わるようにしてメイアが解放される。かなり盛り上がっているあの様子だと、話が終わるのに時間がかかるだろう。
「ねぇ。」
「申し訳ございません、ライラ様。貴方も臨時拠点に来ているとは思っておりませんでした。」
「私は気配が薄いみたいだし、いいわ。」
その一方で、不満そうな顔をするライラに、ニースメンドは平謝りをしていた。ライラは興味を失ったように手を振り、腕を組む。
紆余曲折したが、いざ、何が起こったのか話を聞こうというタイミングで、伝令が走り込んできた。
「伝令!伝令!直ちに本隊と合流すべし、との王からの命令です。」
「王からだと?」
「はっ。王は本隊と共に王都近郊まで来ております。位置はこの通りです。」
「王自ら、そんな危険を冒してまで、来られるとは、本気なのだな。」
ニースメンドは額に手を当て、そう言った。これから相手するのは同族ではない。化け物とも呼べる相手だ。前線近くまで来ずに、安全地帯で居てくれる方が心の負担にならなかった。
賢者の無表情が一瞬だけ崩れ、眉が寄る。しかし、それに気づいた者は誰もいない。
「俺が送ってやる。ニースメンド、撤収作業の指示を出せ。」
「分かりました、賢者様。しばらくお待ちください。」
ニースメンドは、賢者の言葉に従い、指示を部下に出し始めた。その間、とりあえず護たちは先にメイアに、王木内で起こったことを聞く。
余りに悲惨な事実に顔色を悪くしたのはセレスで、それ以外は険しい顔になっていた。その中、護は顰め面を手でほぐし、笑みを浮かべる。
「生き残ってくれて、良かった。」
護は安堵するように言う。彼女は最善を尽くした。そして、生きている。
脅威を重く考えるよりも、生存を喜ばずにはいられなかった。護にとって、メイアという女性はずっと心の支えなのだ。失いたくない。それが心の奥底にある。
(まぁ、メイアの望みの普通の夫婦とは、言い難い生活をしてるんだけどなぁ。)
このところ、ずっと騒動に巻き込まれているという事実に内心、苦笑する。それどころか、日常と化している。
ともあれ、護の一言で、重たくなっていた雰囲気が変わった。メイアが無事に戻ってきたことを喜ぶことの方に話は移っていった。ただし、唯一、賢者だけは終始、顔色を変えることは無かった。
~一時間後~
「これが賢者様の力…」
「おわっ!!」
護たちは、本隊の野営地のど真ん中へと転移した。目の前にいた兵士が驚いて腰をついた。
束縛した純血派たちもぞろぞろとついてきて現れ、驚きの声が更に大きくなる。
一気に喧騒が広がる中、一人の男が号令を出す。
「静かにせよ!!」
大気を震わせ、思わず耳を塞ぎたくなるような大爆音。その隣に平然として立っていたのは、王だ。
また、賢者が王の前に立っていて、馬に乗り目線が高くなっている王を見上げる形で睨みつける。
「将軍、彼らの処遇は任せる。私は、今、目の前に立っている賢者をもてなさなければならぬ。」
「御意。」
将軍は幹部クラスを呼び、護たちへと向かわせる。臨時の場所へと案内するためだ。
護たちは案内に従って、移動する。賢者だけが王の元へと残るのであった。
移動の最中、護たちの耳に聞き覚えのある声が聞こえる。
「お前さん、下戸なのか。」
「こんな体してるが、酒だけはからきし駄目だ。」
「意外さね。」
ガンドルフとエトリアの声だ。そして、セレスがその声の方へと走っていった。案内役の幹部がどうぞと言わんばかりに手を向けたので、護たちも続く。
一足先に向かったセレスは、エトリアに体当たりをかます。その目には涙が滲んでおり、牢屋に入れられている『腕力』とガンドルフが困った顔をする。
「おや、セレスじゃないかさね。泣いてどうしたんだい。」
「うぅ…。」
「マモルたちも合流できたみたいだな。マモル、どうにかしてやれ。」
「メイアの方が悲惨だったから、ガンドルフさんの方がとても心配だったんだろう。しばらく、そのままにしておいてやった方がいい。」
「なるほどねぇ。」
セレスが落ち着くまで待つ。牢屋に入っている筋肉達磨のエルフが気になる所だが、護たちは静かに待った。
セレスが落ち着いたところで、『腕力』が尋ねた。
「こいつらが、オッサンたちが言っていた仲間なのか?」
「そうだ。」
「強さが分からない嬢ちゃんが居るんだが。あの虫野郎より強いよな、間違いなく。」
「ガンドルフさんも、メイアが戦った魔物と遭遇したのか?」
『腕力』の言葉に、護はすかさずそう聞くと、ガンドルフからは首肯が帰ってくる。
「おそらく一緒だろう。俺より少し強かったな。エトリアの魔法で外側の鎧ごと貫けて助かった。正直言って、こいつらを守りながら戦うのは骨が折れたぜ。」
『腕力』の方を指しながら、ガンドルフは笑う。『腕力』が不機嫌そうな顔をしているが、事実なのか反論しない。
ガンドルフの言葉を補うように、エトリアが続く。
「私たち以外の攻撃は効果が薄くてねぇ。エルフたちに被害が出ないように戦ったさね。一体は倒せたけどねぇ、二体、三体と増えてきたから、逃げたよ。仲間や純血派から寝返った者たちと要塞から出たさね。」
「追って来ないか見ていたんだが、出て来なかった。だから、ここまで撤退した訳だ。純血派のやつらはこの通り、牢屋に入れられているが、共通の敵が出てきたからな、ここにいる奴らは協力的だ。」
目の前の筋肉達磨が大人しくしているところを見ていると、派手に暴れて、こちらを困らせているといったことは確かになさそうだ。ただでさえ、厄介な状況になった。ジッとしてもらった方が有難い。
一旦、護たちはガンドルフたちと別れ、案内の元、天幕へと移動する。
そして、消えていた賢者が合流した。チュリやアザレアたち他の門へと向かっていた部隊を連れて。また、純血派で投降した者たちもいる。
これで、さらに場が混沌と化す。一度に百人規模の人が増えたことで、大騒ぎだ。
新たに合流した者の場所の確保や、純血派の拘束、名誉公爵たちの王への謁見と様々な出来事が起こる中、護はメイアの天幕でセレスたちと休んでいた。
「ご主人様、これからどうするの?」
アンの問いに護は横に首を振った。護にも、これからどうなるかは予測できなかった。ただし、戦いになるのは間違いない。
時間が勿体ないので、樹海深部で手に入れた魔石を使って、ハイドロの強化を図る。気配探知で天幕の前に誰かが来るまで、護は強化に勤しむことにしたのだ。女性陣はそんな護を見て、ひそひそと話し込む。
「複雑な気分。ハイドロが強くなるのは良いことだけど、私たちの相手をしてくれないのは、嫌。」
「…私もそう思います。」
「そうですね。折角、合流できたのに、扱いが適当な気がします。」
「でも…、あの様子の護さんを邪魔したくない気持ちもあります。…調合に勤しんでいる護さんは、本当に楽しそうですから。」
三人の視線が護と横でふるふる震えるハイドロに向く。真剣に魔石を砕き、変化薬を入れて、均一になるように混ぜ込む姿は、どこか職人を思わせる。セレスが言った通り、真剣に調合する姿は、どこか楽しそうな一面がある。まだつき合いが浅いアンですら、理解していた。
もし、邪魔をしても、護は怒らないだろうが、良心の呵責に苦しむことになる。相手をしてもらいたい欲求よりも、護に楽しんでいることを大事にしてもらいたい欲求が勝っていた。
「ですが、女遊びだけは許せませんね。」
「メイアお姉ちゃん、それ、周りから見たら手遅れだと思う。オリー、そうだよね?」
「ええ。妻が三人いる時点で、ご主人様は既に、遊び人認定を受けていておかしくありません。貴族でもないのに、女性を侍らせて行動しているご主人様の印象は、その…」
「周りの目は関係ないでしょう。」
「そうですね。それに…私たちが幸せかどうかが、大事だと思います。」
鋭いメイアの言葉にセレスが同意したことで、アンとオリーは黙り込んだ。セレスの言うことももっともだと思ったからだ。
話に集中し過ぎていたせいか、護がこちらに近づいていることに四人とも声が聞こえるまで、気づかなかった。
「オリーの言うことももっともだと、俺は思う。ただ、それが理由で我慢する必要はないし、セレスの言う通り、幸せならいいんじゃないか。…もう、引き返せない所まで来てしまってるからな…」
セレスとアンから驚きの表情を向けられる。護はハイドロを抱えて、メイアとセレスの間に椅子を取り出して座る。
「あの、護様、どこから聞いていたのですか?」
「最初からだ。」
セレスたちの顔が真っ赤になる。メイアとオリーの頬も少し赤みが出ていた。まさか、本人に最初からずっと聞かれていたとは思っていなかった女性陣にとって、その事実は恥ずかしいものだった。
(悪口だけじゃないだけ、マシだけどなぁ。女の影口は怖いし。)
内心ホッとしているのは、護だ。とはいえ、彼女たちが不満に思っていたことも事実である。邪魔が入らない時間を使い魔に使われて不満に思わないはずがない。
「悪かった。」
「謝らないでください。…護さんが、悪いわけではなないですから…」
「そうなのか?でも、こうした方がいいんだろう。」
「え?」
護はセレスと手をつないだ。そのまま、彼女を抱き寄せる。
セレスの顔がたちまち赤くなり、彼女は目を回してダウンした。しばらくすれば、元に戻るだろう。
セレスとの間に割り込み、護の腕を強引に掴み組んだのは、アンだった。
「護はちゃんと、私たちの相手をしないと駄目。」
「そうですよ、ご主人様。私はともかく、アンやセレスさん達のご機嫌取りはしっかりした方がいいです。」
「はっきり言うな、オリーは。」
「アンのためなら、何でもします。」
護は、アンを引きはがし、ハイドロを渡しながら苦笑を浮かべる。裏表はっきりしているところが、オリーの美点であり、欠点でもある。アンの幸せを願う一途なところもそうだ。
オリーにとってアンの幸せは彼女にとっての幸せだ。だから、アンが幸せになるように必死になっていた。
護はそれを諫めることはしなかった。歪んではいるが、アンから拒絶されない限り、直すようなことでもないからだ。生き方を直すように言えるのは、アンだけだと護は思っている。
「ご主人様に構ってもらえないのは嫌。だけど、私はご主人様に嫌われたくない。捨てられないように頑張るから、ちゃんと見てて?」
(お、重い。)
オリーはともかく、アンの言葉に、護は内心で引き攣る。アンの愛は重い。メイアに近いモノを感じる時はあるが、それでも自身が離れて動いた方がいい時は、護の傍から離れる。だが、アンはそんな状況でも、護の傍にいることを選択しそうだ。彼女にとって、護の傍が一番であり、最善は二の次だろう。
こればかりは、護もどうにかしなければならないと思っている案件だった。
そんなことを思っている護をよそに、今度はメイアが行動を起こした。
「メ、メイア?」
顔を両手で挟まれ、軽く口づけをされた。メイアは静かに微笑み、護を後ろから抱きしめる。彼女の身体の感触に護の身体が熱を帯びる。
また、セレスが指の隙間からまじまじと見つめてくることが、とてもつもなく気になるし、アンとオリーの目が据わっている。
彼女たちに見せつけるようにメイアはより力を入れて抱きしめる。
「護様、無事再会できましたし、お願いがあります。」
「俺にできることなら。」
「私だけと一日過ごしませんか。戦いが終わった後で構いませんので。」
護は頷いた。デートの約束だ。メイアにセレスと、三人で街中を歩くことは多い護だったが、二人きりはなかなか無かった。セレスと契ってから、メイアと二人きりで一日過ごすという日は無かったはずだ。
すぐ了承したのは、護の中にもそういう願望があったのかもしれない。
「ありがとうございます。」
嬉しそうな声音に護も、嬉しく思う。そして、その二人の様子はアンやセレスに嫉妬すら抱かせない。
ともあれ、『気配探知』に自分たちの天幕の前に立つ動きする者たちが現れた。それを聞いて名残惜しくメイアは護を解放して、後ろに控える。
「お邪魔するよ!」
その一言と共に、アザレアが入ってくる。チュリやニースメンドも一緒だ。
「えーと、これからどうするか決まったから、本部まで来てほしい。」
「分かった。」
護たちは天幕から出る。そして、本部の天幕まで案内された。
本部は空間拡張がされており、内部は十人以上が入っても余裕がある広さだ。先ほど見た将軍が、多くの書類と共に睨めっこしながら、座っていた。報告を受けては、書類を整理し、指示を出す。
その隣で手伝っているのは、宰相だ。店主もいる。こちらに気づいて元気なく手を振った。それで、将軍と宰相も気づく。
「後は、『堅牢』たちだが…」
「俺らが最後みたいだな。」
ガンドルフ、エトリア、『腕力』に、緑髪の四人組と、ムッとした長身の男が入ってくる。
「『腕力』、『晶公』、『緑眼』も連れて来たか。」
「これで、後は賢者様だけど、来ないね。」
「仕方あるまい。早速、概要を教えよう。」
将軍は、地図を取り出し展開する。そして、門の位置にピンを刺した。
「我らでは、厄災本体を討伐できない。そのため、ここにはいないが、賢者様が単独でなさる。」
「その間、門から出てくる奴らの被害を抑えるのが、君たちの役目だ。雑兵では戦いにならん。王からの情報によると、明日には単体で動き出してもおかしくないと言う。門で、抑え込めなければ、エルフの国は全滅する。」
「そのため、これを使うことにした。」
宰相が、四角いキューブ型の箱を両手で抱え込んでいた。顔が見えなくなるほど大きい。
「我らの国を守る結界を為している魔道具だ。これは予備に当たる。これをそれぞれの門の近くに張り、逃げられなくする。しかし、相手は格上で、数が多い。一、二体ならば、問題ないのだが、それ以上増えられると、突破される。」
「つまり、突破されないように、死守するのが僕たちの役目さ。」
店主がまとめた。さらに、正門を除いた門から出てきた奴らを対処するという。正門は賢者が始末するらしい。
疑問はないかという点で、『晶公』が手を挙げた。
「なぜ、私たちを解放した。協力せねばならぬ相手ということは理解できるが、私たちは敵だぞ。」
「『晶公』、力が必要だからだ。お主たちにとっても、同族が死ぬのは困るだろう。それに、もう、第一王子とそれを支えていた侯爵は死んだ。純血派がばらばらになるのも時間の問題だ。」
「お、まじか。王子が死んだのかよ。」
『晶公』、『腕力』はともかく、『緑眼』に大きな動揺が走る。彼らは、第一王子を心底から支持していたからだ。第一王子の主張は正しいと本気で思っていた。砦が落ちた時に降伏したのは、むやみに数を減らさないためであり、第一王子が生きている限り、再び立ち上がれると思っていたのだ。
その心の支えとしていた存在が亡くなった。完全に心折られる者が続出するだろう。ただでさえ、力によって、自身の考えよりも命の方が大事だということを分からされた者たちが多いというのに。
「リーダー…」
「俺たちは完全に負けたのか。…俺たちは参加する。これ以上、同族を失うことは避けたい。」
『緑眼』は戦いに参戦することを決断した。続いて『腕力』もだ。そして、残るは『晶公』だけだ。
苦い顔をする『晶公』に、アザレアが言った。
「何を迷ってるの?王のことより、民のことを考えたら、答えは自然と出るよ。」
「…。いいだろう。私も参加しよう。」
「うん、そう来なくっちゃ。」
「だが、忠告しておく。必ず王の首は取らなければならない。犠牲者が増える前に、絶対にだ。」
『晶公』の重圧に護たちは気圧される。忠告は、この場にいる全てを敵にしても成し遂げるという、覚悟の表れのようだった。
緊張感が高まった中、各地にどう配置するかだけを確認して、解散した。明日決行だ。
「護様、再びお傍を離れることをお許しください。」
「セレスたちと待っている。約束はしっかり守るから、絶対に戻ってこい。」
「畏まりました。」
天幕に戻り、二人は、口づけを交わす。
護やセレスたちは力不足で、門の戦闘に参加しない。本部へと向かったのは、護たち残る側に知ってもらう意図があったのだろう。
それ以降、出来事として、チュリが来訪したり、ガンドルフたちと食事を取ったりと、激戦が迫る中、比較的穏やかな時間を過ごした。そして、夜になる。
「眠れないな。」
上手く寝付けなかった護は『完全なる図書館の司書』を発動する気にもなれなかったので、こっそりベッドから抜け出し、外を彷徨っていた。
月が雲に隠れたり出たりしている中、灯りが失せ、静けさに満ちた拠点を歩いて行く。昼間の喧騒が嘘のように感じられる。そして、『気配探知』に突如、反応が現れた。
「おい。」
「!!」
短剣を抜こうとする護を抑えたのは、賢者だ。口に人差し指を当て、静かにするようにとジェスチャーで示す。賢者は無言のままで『ワープ』を発動、護と転移した。
「ライラ!?」
「離れた所だから、多少は叫んでいいが、できるだけ静かにしろ。」
「分かった。で、どうして、ライラがここにいるんだ?」
ライラに外傷はない。ただ、眠っているように見える。
しかし、護の目には見えていた。『魔法性昏睡(極)』と。
「俺が眠らした訳ではない。それよりも時間が無い。すぐに討伐しに行くぞ。」
「は?明日の筈だ。それに、俺は邪魔になるだけだ。」
「事情は戦いながら話す。真に必要な人間はお前一人だ。他は要らん。」
「訳が分からないんだが。」
「ならば、一つだけ言っておく。お前、変化薬を飲んだだろ。」
「…ああ。」
「あれが厄災と関わっている。全員に話すつもりだったが、時間が無い。お前だけには話さなければならないし、実際に見てもらう必要がある。」
「!!」
反射的に準備をしていた護の手が止まる。思考も止まった護に、賢者は手を伸ばすと転移した。正門の手前へと。
~翌朝~
「どういうことだ!?」
「も、申し訳ありません。陣地内をくまなく捜しましたが、賢者が居られません。」
「これでは作戦が決行できんぞ。」
「それだけではありません。」
青ざめた顔で、兵士は激昂する将軍に報告する。
「王木が燃えています。要塞が瓦解し、ほとんどが炭と化していました。逃げ遅れた者たちや純血派の奴らは不思議なことに、被害がありません。王都の外へと放りだされていた形で生存できています。」
「なんだと!?死者が出ていないことは幸いだが、王木が壊滅状態になっていると。」
「は、はい。」
将軍は冷静な状態に戻り、腰を下ろし直す。
十中八九、賢者が動いた。要塞の全てを破壊尽くせる者など、彼しかいなかった。
そう思い、将軍は更なる情報を手に入れてくるように指示を出した。すると、別の兵士がやってくる。こちらも顔が青ざめている。
「ほ、報告が…」
「どうした?」
「王が…亡くなられています…」
「!!!」
将軍は言葉を失くす。このタイミングで王を殺す奴など、一人しか思い浮かばなかった。
「『晶公』を拘束し、ここへ連れてこい!!」
「は、はいっ。」
咆哮のような怒号が、天幕内に響く。
身体を震わせながら、兵士は走り出した。
王の崩御と王木の炎上の報せは瞬く間に兵士に広がり、混乱へと発展していく。
また、メイアたちも混乱の渦中にいた。
「一通り捜してみましたが、やはり護様はいませんでした。」
「ねぇ、ホント?本当に思い当たる所は捜したの?ねぇ、ねぇ!?」
瞳から光を失くしたアンが壊れたように尋ねてくるが、メイアは首を横に振るしかなかった。
護が消えた。その事実は、ガンドルフたちにも届き、必死に拠点内を探したが見当たらなかった。
そんな状況に一つの光が差したのは、アザレアたち名誉公爵の元へとメイアたちが赴いた時だった。
「彼がいなくなった?もしかしてだけど、賢者様が連れて行ったかもしれない。」
「どうして!?」
「お、落ち着いて、アンちゃん。」
アザレアの胸元を片腕で掴み、激しく泣き叫ぶアンをメイアが引きはがす。
「分からない。でも、賢者様がいなくなったことと、王木が燃えていることと、彼がいなくなったことは、偶然じゃない。彼を連れ去った理由は分からないけど、それだけは言える。」
「賢者様は王木に居るってこと?ご主人様も?」
「居たっていう方が正しいけど、おそらく。」
アンの目に輝きは戻らないが、落ち着いたようだ。賢者と行動を共にしているならば、彼女にとって最悪の想定、護が死んでいるという可能性は低い。
『依存』が彼を求めて暴れようとするのを、深呼吸をすることで抑え込む。
「信じて待つしかありませんね。」
「はい。」「うん。」
メイアの言葉に、セレスとアンの二人が相づちを打つ。もし、護が死ねば、賢者だけは道連れにすると心に決めて。
これからどうするかを話し合おうとすると、店主が慌てた様子でやってくる。
「ちょっ、将軍が『晶公』を問答無用で切り殺そうとしているから、だれか止めて。あれじゃ話を聞けない。」
「それは本当かい。ニースメンド、チュリ、後は頼んだ。僕とメイアさんたちはついて来て。」
メイアたちはアザレアと共に、将軍の暴走を止めに本部へと走るのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:主人公がさりげなく攫われている件について。
A:悪いことではないとだけしか言えないな。
Q:あと、アンは『依存』に気づいているんですか。
A:答えは「YES」だな。護が自分を捨てるのを躊躇う理由が一つ増えたとして、喜んでいる感じになる。
Q:うわぁ。(順調にヤバイ路線を進ませている…)
詳細については、未だに悩み中。ある程度の骨組みは思いついているのですが…




