第四章 プロローグ
だ、第四章…
~王木・内界~
「ここから三手に分かれて行動する。戦闘は極力控え、要人の確保を優先だ。」
メイアを含んだ潜入部隊が計画通り三手に分かれる。王木内部に詳しい者が先導して、それぞれ捜索し始めた。
王木内はアスタイト王国内と似たような構造をしている部分があった。正門から王の間まで、真っすぐ進めばたどり着けることなどがそうだ。ただし、異界ということを利用したギミックがあり、異常事態下では構造が変わる。
先導している者たちは、構造配置のパターンを知っている。彼らは普段、王を影から護衛しており、王の勅令で救出を命じられていた。
「罠があるので、お気をつけて。」
ある部屋に入った途端、仕掛けが作動し、雷が迫りくる。
メイアは針を投げ、雷を打ち払った。その直後に飛んでくる矢を短剣で弾く。断続的に迫りくる雷と矢を対処しながら、メイアを含めた三人は突破した。
「この罠のパターンだと、第二王妃の部屋への通路はこちらです。二つほど罠部屋を突破するので、ついて来てください。」
次の罠部屋に到着した。槍が出てきたり引っ込んだりと、せわしなく動いている。一歩タイミングを間違えれば、くし刺しになるのは間違いないだろう。また、その奥に扉が見える。
まず先導が風魔法を使い、自身を包み込むように展開した。上下の槍が引っ込んだ瞬間、踏み込み、後ろだけ魔法を爆ぜさせる。風の爆発によって一つの砲弾となり、さらに二度ほど加速して、一気に向こうに見える扉をぶち抜いて止まった。
上下に代わり左右の槍が飛び出てくる一瞬の間を強行突破した形だ。
もう一人も似たような突破をし、残りはメイアになる。メイアは廊下でクラウチングスタートの姿勢を取ると、左右に代わり上下の槍が出てこようとするタイミングで跳んだ。一歩で、部屋の中央まで到達、下から突き刺しにくる槍の穂先を蹴り、残りを突破、地面を削りながら着地した。何事もなかったかのように進行を再開する。
それからいくつかの部屋を潜り抜けた後、最後の罠部屋へとたどり着いた。
扉を開けた途端、頭より太い杭が飛んでくる。全員躱し、壁に大きな罅を作って突き刺さった。それを合図として、仕掛けが作動した。部屋が伸び、扉が遠のく。最初の槍は挨拶だと言わんばかりに、あちこちに砲台が見えた。
「実は、ここが一番楽な罠部屋です。」
先導は槍をくぐるようにして部屋に入る。いきなりカチリという音と共に、火球が飛ぶが、水魔法で相殺する。彼女は、冷静に対処していく。躱し、相殺しながら進み、踏破してしまった。扉を開けた時の、火炎すら、彼女を焼くことは無い。
残る二人も突破する。メイアに限っては、最高速度で罠を振り切った。
その罠部屋から二つほど、部屋を見て回り、いよいよ第二王妃の部屋へとたどり着く。
「誰もいないですね。」
第二王妃の部屋はもぬけの殻だった。使われた様子はなく、埃が薄っすらと被っている。
「確か、ここを押すと…」
先導は、タンスの内側にあるボタンを押す。すると、部屋の中央に穴が発生した。
「私たちが入ってきた門に一番近い部屋に繋がる隠し通路です。目標を見つけられなかったので、戻りましょう。」
「一つ聞きたいことが。」
「どうかしましたか?」
「敵を見かけないのは、偶然でしょうか。」
「多く配置していないからでは?部屋の配置を変えると、迷宮と化しますし、迷子になる可能性が高いです。罠もあり失踪されても困るので、見回りはさせていないのでしょう。」
「確かに、そう考えると自然ですね。」
メイアの勘が囁く。鳥肌が立っていた。理由は本当にそれだけなのだろうか。
先導が穴に飛び込んでしまったので、それに続く。繋がっていた部屋のタンスの中から出る。
部屋の外に出てみると、まだ、他の部隊も戻ってきていない。
「ここで待機してもよいですが、どうします?」
「他の部隊の応援に行った方がいいかな。王の間に行った部隊が不安だし。」
「そうですね。情報も足りませんし、他の部隊を追いかけてみますか。メイアさんはどう思いますか?」
先導の問いにメイアは同意を示す。
嫌な予感がする。しかし、何もしなければ、状況は悪化するだけだ。ここはリスクを負ってでも、進べきだと彼女は判断した。
王妃の部屋までの道のりとは違い、罠部屋は一つしかなかった。ここを通った部隊によって既に解除されていて普通に通ることができた。
侍女用などの部屋が多い。その一つ一つを調べて行ったのだろうか、扉は開いたままで全て放置されている。
王の間に繋がる通路へと出る手前で、金属がぶつかり合う音が聞こえる。その後に魔法を発動する音も。
「急ごう。」
一人、見知った顔の男が倒れているのが見える。向こうの数は十五人。すでに十人ほどが倒れているところを見ると、店主たちは善戦していた。それでも、押されているのが分かる。
また、王の間の内部が垣間見えた。先導が疑問の声を漏らす。玉座が取り除かれている。そして、置かれていた背後に自分の知らない通路が見えたのだ。
そちらに気を取られ、自身に迫りくる魔法の対処が遅れる。ダメージ覚悟で顔を腕で覆う。
庇うようにメイアが先導の前に立ち、風の結界を発動させ魔法を弾いた。顔をチラッと覗かせる先導に、彼女はこう言った。
「回復は任せます。私が処理するので、彼を後ろに下がらせてください。」
メイアが『隠密』を発動、気配が失せる。
すぐに純血派の首が三人掻き切られ、血の花を咲かせた。四人、五人と首が飛び、六人目で、ようやく武器同士がぶつかり合い止まった。
「くっ。」
六人目が倒れる。その女の腹部にはメイアの左手が添えられており、引き抜く動作と共に、血が滴り落ちる。メイアはすぐさま次の狙いを定め、消える。
味方であるエルフたちでさえ、圧倒される殲滅速度だった。敵は的確に急所を突かれ、成す術もなく倒れていく。唯一、最後の一人がメイアの身体への攻撃に成功したが、彼女の黒装束の裏地の鎖帷子によって衝撃しか与えられなかった。衝撃は上手く逃され、その男も首を掻き切られて絶命した。
「いやぁ、助かったよ、侍女ちゃん。かなり苦戦していたからね。」
水魔法で傷を癒しながら、店主はメイアに近づく。店主には打撲と切り傷が見られたが、重傷になるような傷は負っていなかった。宰相が言った通り、戦闘力はあるようだ。
重症を負っていた男を運ぶ班と、玉座の代わりにある通路を進む班に分かれる。メイア、店主は通路を進む側だ。
通路は上り階段となっており、五人が横になって歩けるような広さになっていた。慎重に進むこと、十分、一つの大きな広間に出た。そこには、人質である第二王妃とその世話役四人、そして、第一王子とその母、第一王妃、その部下が数人いた。
「ほう、父上の護衛はしなくていいのか、影共。」
「王の勅令です。」
第一王子の声は落ち着いていた。逃げ道はメイアたちの後ろであり、人質どころか王子たちを拘束できるというのに。
彼の手には杯が握られ、もう片方の手には血の跡があった。
「まだ、私たちは負けていない。私たちにはまだ、これがある。」
一人が王子を止めようとして動こうとするが、第一王妃とその部下が人質に手をかざす。いつでも魔法を撃てるという脅しだ。足を止めざるを得なかった。
そして、王子は壁から出ている盆に、悠々と杯の中身を注ごうとする。ところが、杯を持った手が手首から落ちた。血が溢れ、王子が絶叫する。杯を切り落とした手ごとメイアはキャッチし、遠くへと放り捨てた。
第一王妃たちは動揺し、魔法へのイメージが途切れる。生まれた隙に影たちも人質確保へ動きだす。
その時だった。
木の壁が揺れ動き、それは大きな振動となってメイアたちを、全てを揺らす。動きを止める中、王子だけが笑っていた。切り落とされた手首から溢れる血を盆に注ぎながら。
「さぁ、目覚めろ!!私たちの最終兵器!!」
壁から、エルフの女性の顔をもった上半身が出てくる。身体には甲虫の外骨格のようなものを纏っており、頭には触角が生えている。ある種の美しさがそこにあり、男性陣の目を奪う。しかし、それも彼女の目が開いた途端、恐怖に変わった。
網膜が緑に染まり、虹彩は赤。瞳孔は黒の瞳が、見下ろしてくる。猛烈な重圧と共に彼女は口を開く。
『オナカスイタ。』
エルフ語で言ったその言葉と共に、次々に斥候型ケファーが現れる。そして、最初に狙いをつけたのは第一王子だった。
「そ、そんな。父上はわ、私に…」
呆然とする第一王子の頭が食われる。それが合図のように、他の斥候型ケファーが第一王妃たちに、人質に、そしてメイアたちへと襲い掛かる。
「いやぁ!!」
次に死んだのは第一王妃だった。鋭い棘を纏った手に貫かれ、盛大に血を吐く。そして頭が無くなった。その部下も成す術なく殺されて、食われていく。
襲い掛かってくる斥候型ケファーに、先導の女性が切りかかった。しかし、外殻に阻まれるあまりの硬さに切りかかった彼女の腕が痺れた。その初撃以降、防戦一方になる。相手の攻撃は重く速い。流す度、短剣と腕が悲鳴を上げる。遂に短剣が折れた。
「あぁぁ!」
頭へと齧り付いてくるのを無理矢理回避した。しかし、腕に食いつかれ、食いつかれた先からが無くなった。血が流れ、痛みから意識が遠のく。
腕を食べ終わった敵が臓腑を貫こうと、抜き手で構えた。死を覚悟する。
キイィイン!!
「逃げてください。早く!!」
メイアが腕を弾く。卓越した技量が、外殻の間を縫った攻撃を可能にする。二撃目で腕が飛んだ。
それに関わらず、噛みつこうとしてくる敵をメイアは蹴りで倒し、不気味に胎動する触手を炎を纏わせた短剣で切り裂く。すると、敵の動きが止まった。
メイアは顔を顰める。触手の硬さは外殻以上だ。メイア以外にこの倒し方ができる者がいない。
血を垂れ流し、死んだ目をしている先導にメイアは火魔法で途切れた腕を焼き、水薬をぶっかける。
「その子は俺が運ぶ。だから、援護任せた。」
顔を血で染めた店主が言った。メイアは咄嗟に彼の頭上を飛び、後ろの斥候型ケファーの触手を切り裂いて、倒す。
「お願いします。」
店主が女を担ぎ、階段へと急ぐ。この場で生き残っている者は少ない。助けられる者は二人が限界だ。自身の部隊のもう一人と、別部隊の先導だけだ。
メイアは炎を纏わせた短剣の一撃を、先導の敵にぶつける。弾かれたところを足に仕込んだ暗器の刃に炎を纏わせ、触手へと叩きこむ。切断できたが、刃は折れてしまった。
「助かった。」
先導も逃げ始める。後、一人。彼女は武器を失い、丸腰になっていた。
あちこちの切り傷が刻まれ、腰が抜け、顔と下半身を濡らしているところに二体近づいている。
「『ウインド』『エンチャント・フレイム』」
メイアの魔法を使った全力疾走。短剣に炎を纏わせ、一筆書きに触手を切断する。
「メ、メイアさん?」
「逃げますよ。」
動きを止めず彼女を抱え、疾走する。悲鳴が響いた。粘っていた一人が食われる音が続いて響く。
メイアは顔色変えずに、どんどん数が増え、階段に殺到し始めている斥候型ケファーを壁を走って躱す。
痛みを覚える。一体の攻撃が当たったようだ。思ったより傷が深い。血が染みをつくり、床に雫が落ちた。
そんなことはお構いなしに、彼女は跳ぶように走る。階段使わず、壁を蹴って跳躍し、一気に降りた。
追手の気配はしない。上手く振り切れたようだ。
「メ、メイアさん、ち、血が…」
「まだ、大丈夫です。あなたは逃げることだけを考えてください。」
後ろを見て、血痕が残っていることに気づき、仲間が震える。そんな仲間へ彼女は冷静に告げた。
ふと目が壁に行く。徐々に変わりつつある。木から蠢く触手のような壁へと。
ギギィ!!
「!!!」
咄嗟に躱したが血が飛び散る。色が変わった壁から突然出てきたのだ。蠢く壁に正門への道は塞がれ、侵入してきた道を引き返すしかない。
似たような選択肢になった店主たちにもう少しで追いつける頃には、追手は三体に増えていた。
また、店主たちが先に三つ目の別働隊に遭遇する。こちらも傷だらけだ。しかし、死者はいない。
「ど、どうなっているんだ!?」
「逃げろ!!」
「あっ、侍女ちゃん!その子、この人にパスして、時間を!!」
「えっ、えっ?」
「行きますよ。」
怒号が響く。後ろを振り返った店主が追い付いたメイアに気づいた。そして、指示を出す。
それを聞いたメイアが風魔法を一旦切ると、理解が追い付いていない女の子を降ろし、再度魔法を発動する。
「『ウインド・バースト』」
「きゃぁぁあ!!」
仲間が吹き飛んで、向こうに合流したのを確認する暇もなく、彼女は短剣で一体の攻撃を流す。
二体、三体と来る連続攻撃をいなしていくが、押されていく。三体だと、隙が無い。致命傷を受けるのは時間の問題となっていた。
『隠密』を発動し隙を作ろうとするが、効き目が薄い。だが、『隠密』を再び発動、一瞬認識が逸れた時に逃げに転じる。すでに、店主たちが門から脱出しているのは知っている。後はメイアだけだった。
(この三体だけはしつこいですね。増援が来ないだけいい方ですが。)
他に追い縋ってきている敵はいない。門の外までこいつらは追いかけてくるだろうと勘が告げていた。
振り向かずメイアは鋼糸のついた針を投擲する。壁に勢いよく刺さり、即席のワイヤートラップを張る。
それは相手の外殻に薄っすら傷をつけるだけで終わる。しかし、本命は別だ。
ドゴォォン!!
低い音と共に大爆発が起こった。ワイヤートラップに貼られていた使い捨て型魔道具の効果だ。突破される衝撃で起動し、メイアまで迫る。
メイアは風の結界を張り、ぶつかり合う衝撃を利用して、門を脱出した。
そして、ニースメンドに逃げるように告げ、残った二体を相手に戦うのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるよ。
Q:王木の警備、スッカスカじゃないですか。
A:切り札と思っていたものの性質を鑑みて邪魔になると、第一王子は知っていたということである。
Q:いっぱい増殖するタイプだから、そう思ったのか。(うーん、どうなんだろう。)
第四章開始です。次回からは護側に戻ります。




