第三章 エピローグ
よ、四章へと続く…
~世界樹・結界前~
メイアたちが激闘の最中、護、セレス、アン、オリー、ライラの五人は、世界樹へと向かっていた。かの賢者に今回の厄災への力を借りるためだ。
魔物が一匹も出てず、嵐の前の静けさのような道のりを護たちは進む。誤魔化すように会話が弾んだ。
特に、ライラの話は護にとって有意義だった。エルフの国の歴史から社会が抱える課題までと、国の情勢に詳しい。
護は感心した。立場上、教えられた物と言っていたが、それを覚えられている時点で、褒められることだろう。彼女に素直に賞賛の言葉を贈ると、恥ずかしそうにしながらも喜んでいた。
結界前にして、護たちは急に現実に戻される。
「まさか、あんな大軍で構えてくるとは予想外だ。」
五人をゴール目前で塞いでいるのは、あのエルフ巫女だった。それも、教会騎士や魔法師を連れて、ほぼ周りを囲んでしまっている。バレずに入るのは、ほぼ不可能だろう。このことに『気配察知』で気づいた護たちは、少し離れた場所に潜んでいた。
「どうする?」
「用があるのは間違いなく、私。護とライラお姉ちゃんは通れると思う。」
「二人だけで行くのは避けたい。セレスたちは土地勘が無いだろ。逃げ切れない。」
「そもそも危害を加えて…。あれは偶然じゃないとすると危ないのね。」
ライラが言う通り、襲撃に合っている。関連性がないとは言えなかった。
「いっそのこと五人で行くのは、どうでしょうか。」
「結果は……似たようなことになると思います。」
(向こうから迎えが来てくれれば万事解決なんだけどなぁ。)
護は、どうにかして、内部にいる賢者を引っ張り出してこられれば、巫女でも太刀打ちできないだろうと思う。
賢者の言葉は王より重んじられる。ライラが言ったことだ。
そうであるならば、巫女の言葉は簡単に軽くなるだろう。いくら巫女に陶酔していたとしても、伝説の存在の言葉を信じるに違いない。
「あの結界は、外部の音を通すか?」
「うーん、確か通したと思うわよ。…って、マモル君、何その顔。」
「ご主人様、悪い顔してる。あの時みたい。」
いつぞやの屋敷を諦めてしまおう宣言をしていた時の顔に近い。普段とほぼ変わらないが、目が笑っている。内心で護は決断した。
「賭けだが、やってみる価値はあるか。失敗は…できない。」
ライラは護の案を聞き、こう言った。
「いいんじゃない。乗ってあげる。」
ライラも承諾したことによって、護たちは動き出した。
全員で丁度巫女の目の前に姿を現す。一瞬巫女に笑みが浮かぶが、直ぐ真面目そうな顔に戻った。
「お待ちしておりました。さぁ、ライラ王女はマモル様と中へ。お三方は、私たちとお話しましょう。」
「嘘。話で済むわけがない。ご主人様たちが居ない間に、痛めつけるつもり。」
巫女の額がぴくっと引き攣った。アンの物言いに、怒りを感じているようだ。
まだ、手を出そうとはしない。護とライラを中に入れるまでは、怒りを堪えるつもりだ。
「あの、どいてくれないかしら。私たちを中へ入れてくれるのでしょう?」
「ええ。そうですよ。でも、お二人だけです。それに、私は本当のことを言っただけです。人族の巫女とも話してみたいのですよ。」
「そして、始末するのか。アンへの暴力を公表させないためには、俺たちを始末するのが一番だからな。盗賊のせいにでもしてしまえば、疑いはあっても裁けない。…一つ忠告しておくが、リヤお義姉さま、聖女は動くぞ。例え、神を敵に回してもな。」
護の言葉に、巫女ははて?ととぼけてみせた。
まだ足りない。護は言葉を紡ぐ。
「『傲慢』に『強欲』、そして『嫉妬』か。ずいぶん欲に憑りつかれた巫女様だ。反吐が出る。」
「何を仰られたいのですか?早く、賢者様のところへとお向かいください。」
「ご主人様、こう言ったらいい。可哀想。貴方は可哀想な人。腕を失った私よりも。心が腐っている。もう救いようがない位に。」
「貴方は…巫女失格です。」
セレスの失格という言葉に、ついに巫女はきれた。魔力が彼女の周りを弾ける。
巫女の顔は酷く歪み、狂気染みていた。そして叫ぶ。
「何が失格よ!?貴方たちを見ていて本当に苛つくわ!!お金や力を求めて何が悪いの?愛?何それ?私は一度も手に入れたことが無いのに!」
巫女から放たれた殺気は敵味方関わらず、構えさせられた。方向性のない殺気に当てられて、鳥が逃げていく。
「私の隣を望む人は後を絶えないわ。でも、私を見ている人はいなかった。私の権力にお金、色欲をただ単に満たしたいために近づいてきただけだった!私は分かったの。愛なんてどこにもないって。」
教会騎士たちは困惑している。取り乱す巫女を見たことが無いのだろう。
「でも、笑顔で笑い合っている夫婦を見て、渇望するようになった!私は欲しいの愛を!!それを見せつけてくるなんて、何様のつもり?貴方たちなんて死んじゃえばいいのに。手に入らないモノを持っている奴らなんか死んじゃえ!!」
目から涙をこぼしながら叫ぶ巫女。嫉妬に狂い、強欲からくる渇望が彼女を支配していた。
据わった目で、護たちを睨みつけてくる。それから、教会騎士に指示を出す。
「殺して。あいつら目障りなの。もう、厄災とかどうでもいい。…あの顔を見せないエルフは無惨に犯してから殺して。生きてきたこと後悔させてやって。」
「しかし、巫女様、それでは、私たちは厄災に滅ぼされてしまいます。せめて、あの男と王女は生かさなければなりません。」
「私がどうにかするから、心配しなくていい。はやく殺しなさい。」
「ぎょ、御意。」
教会騎士や魔導士が武器を構える。数の差は歴然。戦闘狂が率いるリヒト教会に比べると練度は落ちるが、それでもLv60は確実にある。戦えば、勝ち目はない。
絶体絶命という状況なのに、護の表情は先ほどと変わらなかった。『気配探知』に一つ反応する存在が増えていたからだ。
すぐさま、膨大な魔力が満ちていく。それは重圧として教会騎士や魔法師たちにのしかかった。物理的な重さを感じているようで、膝をつく者や耐え切れず気を失う者が現れる。巫女も受けているようだが、片膝をつくこともなくその力に抗っていた。
護たちと巫女の間に一人の男が立っていた。衣装は緑ローブを着ており、頭には羽飾りがついたベレー帽をかぶっている。右手には木でできた杖を持っていた。
そして、その容姿は美男としか形容ができないほど美しかった。何より、目を引くのは、ライラ達より長い耳。それは、彼が、上級妖精であることを示していた。
その男は巫女たちを一瞥すると、護を見つめる。護たちではなく、護だけを見つめていた。
「……」
「あの賢者様、厄災が目覚めようとしているのです。是非ともお力添えいただけないでしょうか。」
「……」
「賢者様?」
「うるさい、小娘。貴様の喚き声は実に滑稽だった。うたた寝しているところを起こしてくれた目覚まし程度の感謝はしてやるが、それ以上のことは思わん。俺の用事はそこの人族の男にある。」
「え?」
「失せろ。邪魔だ。」
あまりの邪険さに巫女は固まった。賢者は興味が無くなったようで、護たちの方へと歩いてくる。
賢者は護の目の前に立った。互いの視線がぶつかり合い、なぜか外したら負けのような気がした。
「貴様はどこの出身だ。二ホンという国か?」
(日本を知っているのか!?ライラの話に出てきた人族の勇者はもしかして、地球から来てたのか。)
護の顔が驚きで染まる。賢者はそれを確認すると、
「どうやら当たりか。黒髪に黒目、身体的特徴が一緒だからな。」
「そうなる。俺は日本出身だ。」
「あいつと同じ世界か。それにしては、こちら側の雰囲気を纏っている。」
(変化薬のせいか?メイアたちに扱かれた結果かもしれないけれど。)
アンたちは二人の話をうまく理解できない。唯一、セレスだけは護が異世界から呼ばれてきたことを知っているため、それに関係していることは分かった。
護の表情から見るに、賢者の言葉は護を思考の渦へと巻きこむものだったようだ。
「どうした?」
「複雑な気分だ。ある程度原因も想像がつく。」
「悪いことではない。生きていく上で必ずそうなる。」
「何で!?会話できているの!?」
会話に介入するように巫女が叫ぶ。それを忌まわしげに見た賢者は魔法を発動した。
「『ワープホール』」
時空が曲げられ、穴ができる。穴の向こうには書棚が見えた。
「貴様の彼女たちか?王女もいるな。…何時の時代の英雄も女癖は似ているか。まぁ、いい。女どもも来い。あの金切声娘の傍はかなわん。」
『ありがとうございます。』
恐る恐るワープホールに入っていく。最後に賢者が入ってくると共に、巫女の叫び声が聞こえた気がした。
「粗茶の類もない部屋だ。掃除や荷物整理しているつもりではいるのだが、散らかっていたら済まない。」
「綺麗だと思う。」
アンが一言で評価する。物は多いが、整理されていてこの人数でも問題なさそうだった。
「なら、いい。ところで、ローブ娘、片腕はどうした。」
「失くした。」
アンの淡々とした答えに賢者は、護を見た。その視線にはこの娘、大丈夫なのかという問いが宿っている。
「それを解決するために来たんだが、厄災がどうこう、純血派の反乱も起こっている。戦いに俺の…妻が参加しているし、知り合いもできた。厄災は賢者の力を借りなければ乗り切れないと聞いた。生きるために力を貸してほしい。」
護の頭の中で、メイアの顔が浮かぶ。よっぽどのことが無い限りは死ぬような女性ではないし、ガンドルフやエトリア、チュリたちもそうだろう。だが、きな臭さが棘として残り、心配になる。
賢者の顔が曇った。そして、静かに問いかけてきた。
「その奥さんたちはどこへ?」
「王木の内部の人質を解放しに行った。」
「それは不味いな…。奥さんの職業とレベルは?」
「上級暗殺者、レベルは98だ。」
「なら、斥候型ケファー相手だと死にはしないな。安心していい、兵士型が出てくると不味いが、あれの製造、覚醒は遅い。」
賢者の言葉に護は安心と同時に疑問を胸に抱く。嫌な事実を確認するために聞いた。
「もしかして、災厄は王木の内部に存在する?」
「そうだ。」
ゾクッと護の背中が震える。セレスたちも顔色が悪い。
ライラの呆然としている様子から、彼女も知らなかったようだ。
「昔の話をする必要がありそうだな。君たちも、今戦っている戦士たちも隠蔽した過去を知る必要がある。そして、決着をつける時が来た。」
賢者は護たちにそう言った。加えて彼らに聞こえない声で呟く。
「お別れの時だ、エルナ。」
A:なんちゃってQ&Aを始めるよ。
Q:久しぶりですね。
A:ようやく忙しさから解放された。更新も再開だ。
Q:そうですか。この章、次の章への布石ですよね?
A:その通り。元は三章一つでまとめようとしたところを筆者が失敗して、二章構成にし直している。
Q:うわー。(思いつきでやっているからそうなるんだよ。)
三章本編はこれで終わりです。閑話を挟んで四章に入ります。登場人物紹介?四章が終わった時でいいのでは?




