門制圧戦と遭遇 その1
れ、連日だと…
~とある侯爵領・街並み外れた森林~
「にしても、なんでこんなところに脱出路作ったんだ?」
「俺が知るわけないだろ。まぁ、こんなところにまさか、王木の内界に入る門があるなんて思う奴はいないと思うけどな。」
「第一王子曰く、人族との戦争後にできた比較的新しい門だったけ。」
獣人たちが治める地帯に近いこの森林に置かれた門を見て、純血派のエルフは雑談に講じる。必要最低限の手入れはされているようだが、石でできたこの門には植物が這っており、他にもダミーとして置かれているとしか言いようがない石と遜色変わりなかった。
雑談を続けようとしたエルフたちは動きを止める。ぞっとするような気配がしたのだ。その原因である方向を見ると、一人の男が近づいてくる。
長身で細身、だが、そこから発せられる存在感は尋常ではない。その戦果故に一時期は爵位の拝命もあるのではないか、と言われた男。『晶公』、クォーツァ・ゾルイだ。
「ごくろう。巡回組は?」
「まだ、戻ってきておりません。クォーツァ様、どうかなされましたか。」
「気を引き締めろ。森が騒がしい。」
クォーツァの言葉に、二人組以外の周りで屯しているエルフたちも武器を手にする。彼の言葉に疑問を持ちながらも、彼らは動いた。
クォーツァは『アイテムボックス』から槍を取り出し、ひと振りする。その一振りが彼らから疑問を払拭した。敵が来ると。
キンッ!!
槍に弾かれたのは、ナイフ。角度からして木の上からの投擲攻撃。その方向を睨み、クォーツァは呟いた。
「『クリスタル・エッジ』『ブースト』」
三本の水晶の刃が飛んでいく。風の力が後押ししたその刃は葉を貫き、光をさし込む。外した。
代わりに一人のエルフが悲鳴を上げた。その肩には短剣が刺さっていた。慌てて庇うようにもう一人が盾を構える。
「『クリスタル・スプレッド』」
その盾持ちの死角から来る矢を弾いた。二本三本来る矢を弾き、その方向へ、礫を散弾状にばらまく。
「索敵出来ました!!上に五。下に三。囲まれています!!」
「遅い。もっといるぞ。各自、散開。このままではただの的だ。いつもの四人パーティーで動け。我らより数は少ない。動いて攪乱しろ。」
『了解』
クォーツァ一人を残し、エルフたちは動き出した。あの刺されたエルフの動きがぎこちないようだが、必死に動く。クォーツァの指示は絶対だ。それを身体で覚えさせられ、動く原動力となっていた。
クォーツァは散開していくのを見ず、静かに槍を構える。
「さて、君が来ると思っていたよ。アザレア君。」
「…」
呟きに対して返ってきたのは、先ほどの倍の速さの短剣。槍で弾く。その一本の後ろを追いかけるように投げられていた短剣はしゃがみ躱す。
それからもしばらく、クォーツァはただ自分に襲い掛かる短剣を弾き続けた。彼女が仕掛けてくるタイミングをひたすら待つ。そして、その時は来た。
ギィィン!
「どうしてなんだい?純血派に付く理由は?」
「…」
アザレアの頭上からの一撃を黙々とクォーツァは受け流す。
近接戦闘を淡々とクォーツァは処理し、唱える。
「『クリスタル・スプレッド』」
「くっ。」
水晶の散弾をアザレアは全力で回避する。拡散範囲が広く、何個かを素早く切り払った。
二人の間に距離が開く。同時に魔法とスキルが発動した。
「『ラージクリスタル・トリプレッド・ツイン』」
「『三・流』」
クォーツァの大水晶三発、二連撃はアザレアの回避行動のルートを潰すように放たれる。
それをアザレアは、動かず自分に向かってくる二発だけを流れるように躱した。そして、クォーツァとの距離が再び短くなる。迫りくる槍の一撃を流す。
「『七・転』」
「『スラスト・トリプル』」
アザレアの攻撃を中断させるように、槍の三連撃をかます。クォーツァ自身は身を引き、距離を取ろうとしたが、何か足に引っ掛かる。先ほど弾いた短剣が、地面に刺さっていたようだ。
引き遅れたクォーツァにアザレアが追い縋った。鞭のような蹴りがクォーツァに決まる。
ガードした腕が折れる。槍を手放し、引こうとした足を掴み、引き寄せるようにして短剣を首に突きつける。アザレアの短剣もクォーツァの首に突きつけられていた。
互いの動きが止まる。代わりに口が動いた。
「アザレア君はなぜ、王に仕える?あの男の過去を知れば、何をしでかすかは自明だというのに。」
「どんな過去だってどうでもいいよ。僕が守りたいのは王だけじゃない。今苦しんでいる民なんだ。」
「純血派の反乱が成功するには、とある条件がある。」
「急にどうしたのさ。」
「王が死ぬことと、第一王子が次の国王になることだ。我がなさねばならぬことは王を殺すことのみ。第一王子が王位につけば、純血派のやりたい放題になるだろう。それは、我も望まぬ。今回、協力したのは王を殺すという利害が一致したという点のみ。」
「つまり、王様を殺した後は、純血派に付くつもりはないと言いたいのかい。そうだとしても、貴方が純血派について民を傷つけた事実は変わらない。王を殺させるつもりもない。僕が貴方を倒す。」
「ならば、厄災について、貴様はどこまで知っている。厄災はずっと内側にあったのだぞ。」
「それはどういう…」
二人は身体を離す。丁度二人の間に矢が刺さった。アザレアは次々と飛んでくる矢を躱す。
クォーツァは叫んだ。
「何をしている!!自分の身を第一にしろ!!」
「ですが、クォーツァ様が!!」
クォーツァの意識がアザレアから一瞬離れる。アザレアは『隠密』を発動、気配を消した。
「ちっ。仕方あるまい。」
アザレアの姿がないことに気づいたクォーツァが舌打ちをする。石を盾にし、視界から消えた時に発動された。姿は視認できないが、風切り音が聞こえる。複数の方向からしたが本体は一つ。
「『クリスタル・ランス・フィフス』」
門を背にし、五つの水晶の槍を顕現。自分を取り囲むような状態で配置する。
魔力回復の水薬を飲み、さらに魔法を発動した。
「『リフレクト・ガラス・スプレッド』」
周りのエルフが戦慄を覚える。『晶公』が何をしようとしているのか察したのだ。純血派もアザレアの部隊も戦いを止め急いで退避し始める。
クォーツァはもう一本飲み干すと、最後の魔法を唱える。
「『シャイン・ブラスト・フィフス』」
「『十・断』!」
極太の光が反射し、周りを襲う。逃げ遅れた一人が穴だらけになり、崩れ落ちた。
『晶公』、クォーツァの魔法の中でも高威力、無差別型で使い勝手が悪い一つだが、結果は彼が望んだものだった。火の海に聴こえるのは、傷ついた戦士たちの呻き声。何人かは直撃を受け、絶命している。
戦いの続行をできる者は少ない。互いに、身を引き傷を癒していくので精一杯だった。
そして、クォーツァの前に自ら姿を現したアザレアの顔は憤怒に染まっていた。焼け落ちた枝が彼女の後ろを赤く照らす。火の粉が爆ぜたタイミングで、アザレアは動きだした。
「アザレア君、仮とは言え仲間ごと打ちたくはなかったが、仕方あるまい。アザレア君の隠密を破る方法はこれしかなかったのだ。」
「だとしても、やっていいことじゃない。」
短剣と短剣がぶつかり合う。アザレアの動きは荒い。しかしその分、身体能力を発揮していた。
上級魔法師であるクォーツァは怪盗であるアザレアの動きに押され始める。片腕を使えないこともあって、クォーツァの身体には傷が増えていく。
クォーツァの手から短剣が弾き飛ばされた。それでも、彼は諦めていなかった。
「『ランス・ダンシング』」
「!!」
地面に突き刺さっていた水晶の槍が急に飛び出し、アザレアの胴を掠める。咄嗟にもう一本迫りくる槍を短剣で受け流すが、三本目が彼女を貫き、地面に固定した。
アザレアは激痛と共に血を吐く。何とか急所は避けた。まだ動ける。しかし、動けば長くはもたないだろうとも。
クォーツァは槍を空中に構えて、顔を血で汚したアザレアの前に立つ。
「投稿しろ。まだ、戦うつもりか。」
「…」
彼女の目はまだ諦めていない。何かをしようとしている。
彼女を生かしておくと危険だ。本能が鳴らす警鐘のままに、クォーツァは止めを刺そうとした。
だが、手遅れだ。濃密な殺気がアザレアから放たれる。
「『継・麝香連理草』」
「これは!」
クォーツァは彼女からする甘い匂いから遠ざかるように地面を蹴る。操作が疎かになった水晶の槍が彼女から生えたツタに巻き付かれ、砕け散る。
アザレアの顔には死相が見えると同時に、赤の花を模した紋章が浮かびあがっている。
ツタはアザレアの意思によって、クォーツァへと迫る。回避が間に合わず捕まった。そして、あの甘い匂いが迫ってくる。身体は自由を失くし、思考だけしかもうできなかった。
「エ…ル…フ…の…」
「はぁはぁ、そうだよ。僕が得た秘奥の奥義さ。」
ツタは既に枯れており、破れた服の所々から女性としての身体を晒す彼女は上級のポーションをがぶ飲みしなら、クォーツァへと近づく。彼女の腹に空いていた穴はすでに塞がっている。そして、そこにはあの花の紋章が刻まれていた。
「諸刃の剣でね。しばらくはモチーフにした花の毒の影響で歩くのもやっとさ。この紋章が残り回数を教えてくれる。後三回も使えば、僕は一生歩けない体になる。死にかけた時にしか使えない奥の手さ。」
「…」
「もう戦いは終わりだ。その毒は二日持つし、それだけの時間があれば、本隊が到着する。」
クォーツァから離れ投降するようにと残りの純血派に言った。『晶公』を倒された彼らは素直にそれに従う。
そうして、アザレア対『晶公』クォーツァの戦いは終結した。
アザレアの部隊からは死者が三人、負傷していない者はいない。クォーツァたち純血派も死者が十人、負傷者多数と傷を負った者は多い。
互いに協力して消火を行い、崩れ落ちた木に下敷きになってしまった同族を救助した。疲れ果てたエルフたちの泣く声が響く。
アザレアは、クォーツァを錠で拘束、顔周りだけ回復させる。
「厄災は内側にあるってどういうこと?」
「…その言葉の通りだ。王族がなぜ、王族となったか知っているか。」
「知らない。確か建国自体は五百年前で、人族の勇者が魔族の王と戦う話と同じような時期だったんだよね。」
「そうだ。その時、エルフの国は一つではなく、複数あった。しかし、それが一つに統一される。いや、統一せざるを得なかったという方が正しい。たった一つの脅威に立ち向かうために、複数の国が協力するだけでは足りなかったのだ。そして、それを成し遂げたのは、エルフの王ではない。人族の勇者だ。」
「え?」
「人族の勇者のパーティーには一人エルフが参加していた。その方が、今も生きておられ、唯一上位妖精で目覚められておられる賢者様だ。」
「その話は知っているよ。でも、初代国王はエルフだよね。」
「それは、その方が都合が良かったからに過ぎん。エルフの王は象徴であり、実務をこなしていたのは勇者。実質のリーダーは彼だ。そして、王木はかつての彼らがとある存在を殺しきれず、封印するのに使ったものだ。また、王は封印を隠し、代々守る存在だった。」
「つまり、王族とは封印を維持する役目があるって言うこと?」
「王族が封印を維持しているのではない。あくまで、国を混乱から守る存在だ。王都に大きな爆弾を抱えていることを隠すために情報統制し、万が一封印が解けても、直ぐに対処できるように賢者様から伝えられるだけの存在だった。」
「ねぇ、それをなぜ、貴方が知っているの?」
「意図的に流した奴がいる。」
「それってまさか…」
アザレアは唖然とした。クォーツァが王を殺そうとする理由はそのまさかだと。
「「!!」」
ギィ…ギギギギッ!
門から現れたのは、頭はアリのようで昆虫の殻を持った人型の魔物。後ろから不気味に蠢く緑の触手が門の奥から繋がっていた。
二人は悟る。この魔物は自分よりも強いと。逃げろと本能が叫んでいた。
自然体で気配を発しないが故に、強さを測りかねた兵が近づく。その代償はすぐに支払われた。
グチュギュチュ、バキッ、グチュ
頭が無くなり、次は胴体を喰らっていく。一瞬でエルフたちに恐怖を植え付けた。
それから、森に悲鳴と怒号が満ちるまで、時間はかからなかった。
~南東の砦~
「はぁ!『伍の舞・桜草』」
チュリの大剣が振りぬかれる。連鎖爆発が砦の上部を襲った。しかし、被害は軽微。
戦闘が始まって一時間、膠着状態が続いていた。その原因となっているのは、相手があまりにも固いからだ。
「『プラント・ウォール』!」
「『ソーン・ウイップ』!!」
チュリを取り囲むようにして、植物の壁が出来上がり、壁から棘を持ったツタが鞭のように振るわれる。
「『陸の舞・樫』」
迫りくるツタも、壁も荒れ狂う炎の竜巻によって、焼き尽くされる。壁を出てきたところにすかさず、水の砲弾が飛んできたが、チュリの部下が割込み、大盾で受け止めた。
水の砲弾を受け止めた彼にも疲れが出ている。先ほどから魔法による遠距離攻撃を上手くしのいでくれていた。
南東の砦は、人族の戦争の際に作られたと言われている。ここにある門は、アザレアたちが向かった門と同時期の門であり、逃走経路であると同時に、占拠された際の奇襲経路として活用されるはずだった。
劣勢を悟った当時の王が、秘匿することを選択したため、噂話自体すら消えている。
歴史的な遺物という要素が強いと思っていたチュリだが、考えを改めていた。純血派が改造を加え、防御に特化させた生きた砦だ。そこに『緑眼』による植物の防御が加わり、難攻不落の砦と化していたのだ。
「こちらの被害は?」
「向こうの攻撃が緩やかなんで、死者は出てないぜ。ただ、一旦引いた方がいいと思う。俺も受け続けるのはきついし、人員は向こうが多い。一点突破し損ねた以上、立て直してもう一回チャレンジした方がいい。」
「分かりました。では、撤退を。私が殿をします。」
「お気をつけて、チュリ姐さん。」
男は盾を仕舞い、魔法飛び交う戦場を走り抜けていった。徐々に攻撃よりも防御に徹する人員が増えていく。それと同時に、距離を一気に離し、撤退していく者もだ。
砦から逃がすかと言わんばかりの魔法の砲撃が飛ぶ最中、チュリが大剣を地面に弧を描くように振りぬき、魔法を発動させる。
「『参の舞・藤』」
炎の壁が遮るように発動した。魔法や矢が当たる度、その部分が弾ける。しかし、攻撃を通すことはない。完全に遮った間にチュリも撤退し、戦闘が終了した。
「時間が無いですね。一点突破する方法を考えないといけません。まさか、無理矢理、『壱の舞・鬱金香』を無効化されてしまうなんて、思っていませんでした。」
「確かにチュリ姐さんの一点突破攻撃を壁をひたすら量産して防ぎきるなんて、思っていなかったぜ。」
「でも、そのおかげで『緑眼』の二人をMP不足まで追い込めたんですよね。」
初手の攻撃で、四人の内二人を戦線離脱させたのは良かった。しかし、残った後衛組の継戦能力が高かったうえに、チュリに二回目を撃たせないように二人からの攻撃が集中した。
チュリ自身は傷を負っていないが、MPは底をつきかけていたのだ。その事実に気付かないほどに巧妙な攻撃の頻度と、威力調整だった。実質、男が撤退の提案をしてくれなければ、切れて頭痛を覚えるまで戦っていた可能性がある。
『緑眼』の後衛陣と砦に潜み、砲撃を絶やさない純血派に負けた形となっていた。とは言え、士気はより高まっている。自分たちが失敗すると、潜入組や他の部隊に危険が迫る。このまま、引き下がることなど、できる訳が無かった。
「いい案がある奴はいるか?」
その問いに一人の手が上がる。魔法師の彼は、こう言った。
「チュリさんの壱の舞では二撃目を撃つことが難しい。ならば、私たちがすかさず、撃つことで補えないでしょうか。儀式魔法を使います。」
「あの砲撃の中だぞ。あんな中で固まったら、ただの的だ。俺は死にたくねぇぞ。」
そうだ、そうだという声が上がる。儀式魔法とは、魔法陣、詠唱などを使って、より強固なイメージ、魔力を励起し、強力な魔法を発動をすることだ。特徴としては、複数人で発動することができる。これが主なメリットだ。デメリットしては、魔法陣ならば各時間、詠唱なら唱える時間がかかること、揃えなければならないことだ。
魔法陣の場合、チュリの砲撃クラスを引き出すには、彼らのレベルからしてほぼ魔術師が参加する大きさを書かなければならない。複数人で書くとしても、砲撃の的になるのは目に見えている。
ならば、詠唱で発動を狙うかというと、こちらは揃えることが難しい。砲撃を躱しながら、同じ速度で同じ音程で唱え続けるのは、不可能に近い。この状況が、彼らを追い詰め、感覚を冴え渡らせているとは言っても、無理だと思うのは当然だった。
「戦場で描くのは自殺行為。ですから、ここで描き発動臨界まで持っていき、向こうで発動するのです。」
「紙に描きゃ、それもできるかもしれないけどよ。そんなの用意しているのか?それに発動するには全員の魔力が必要だろ。どうするつもりなんだ。」
提案した魔導士は『アイテムボックス』から一枚の彼の身長ほどある巻かれた紙と、一つの筆を取り出した。
巻かれた紙を広げる。すでに魔法陣が描かれており、後は相応の魔力を込めるだけとなっていた。
それを見た魔導士たちが、声を荒げる。
「なんで、それを最初に使わなかった!?」
「これ、どれくらい時間と費用が掛かったと思いますか?費用に関しては金貨八十枚ですよ。」
「金貨八十!?おいおい、俺たちの月給が金貨二枚、銀貨五十枚だろ。全部、それに使ったとして、三年はかかるじゃねぇか。で、時間の方は?」
「丸々十年です。人族なら、恋愛を楽しんだ方がいいレベルです。」
「十年か~!よく頑張ったよ。俺なら間違いなく投げ出しているぜ。」
「魔法陣の方は大きくするだけの簡単な作業だったんですが、この筆を作るのに苦労してしまって。この筆に全員の魔力を込めることによって、離れても発動できるようになるんです。」
「マジか。こいつ、やりやがったぞ!!」
一気に騒ぎになる。技術的革新をこの魔導士はしていた。大人数による儀式魔法のデメリットを失くす筆の開発は、戦術、戦略を変えるものとなるだろう。
チュリが魔力を発したことで、騒いでいた者が一気に静かになる。
「動作確認はしましたか?」
「簡単な動作確認はしました。これだけの人数での運用を前提に設計していますから、理論的にはいける筈です。ただ、私が起動しないといけません。」
「ならば、私の後ろにいてください。魔法陣と筆に魔力を込め終わり次第、前衛と私で一点突破を図ります。彼以外の後衛は拠点まで退却です。もし、私たちが戻らなかったら、後はお願いします。」
死んでも、突破口を開くという覚悟をチュリは示した。彼女を姐さんと慕う奴らが涙ぐんでいる。
チュリは大剣を突き刺し、力強く宣言をする。
「絶対に突破します。勝ちましょう!!」
『おおっ!!』
~半刻後~
「また、性懲りもなくやってきやがった。」
南東の砦の兵士がそうぼやく。警戒の鐘を鳴らし、総員位置についた。
魔道具に魔力を込め、いつでも砲撃が打てるように準備をする。
「ん?さっきより数が少ない。どうしてだ。」
疑問をよそに二人組が一気に前に出てきた。砲撃を撃とうとすると、
「『壱の舞・鬱金香』」
砲撃よりも早く、チュリの魔法が発動する。一人で即座に発動できる領域を外れた一撃という事実に戦慄を覚えるが二回目だ。防ぎきれた一回目と同じように対処すればいいだけの話。
すぐさま四人による植物の壁が焼き尽くされるスピードを超えて構築され続ける。二人が頭痛を覚えて、壁が減る。だが、火の勢いも衰え、消えかかっていた。
そして、植物の壁を燃やし尽くして、炎が止まった。
砲撃手が今度はこちらの番だと、砲台を動かす。照準を合わせた時、その手が止まった。
彼女の後ろで魔法陣を展開するエルフの男に悪寒を覚える。あれは不味いと。
「解放。『ボルケーノ』」
魔力でできた魔法陣が空中に浮かびあがる。さらに、魔法陣に込められた魔力が刻まれたイメージ通りに顕現した。
チュリの秘奥を超える熱量を持った炎が噴火するように砦を襲う。
一般兵どころか『緑眼』も砦の奥へと逃げ出した。四人でやっと抑えられた攻撃を上回る威力なのだ。砦に使われた石が溶けだしているし、逃げ遅れた者は間違いなく灰になるだろう。彼らは迫りくる死から逃れるために、必死に逃げた。
チュリたちも呆然とする。まさかここまでの威力だとは思っていなかったのだ。少しの時間、『緑眼』を無力化できればいいという考えだったというのに、結果は、砦が壊滅状態。発動した本人も想定外と言った感じで、身を震わせている。
「これは封印した方が良さそうです。」
「はい。ストランドさん。もう少し威力を抑えないと駄目ですね。」
魔法の暴威が止む。砦は形を保っていなかった。砦の元となった樹海樹は燃え尽きて、残骸となってしまっている。少なくとも地上に残っているのは、マグマだったり、一部ガラス化した地面だった。
遠くの方に『緑眼』と純血派がいる。無理矢理飛び降りたことによる骨折や迫りくる熱波による火傷で負傷した者はいるようだが、奇跡的に死者はいなかった。
このまま戦闘続行かと身構える部下を、チュリは手を横に伸ばし抑える。
部下に魔法を使ってもらい、声を拡張して告げる。
「勝負は喫したと思いますが抵抗しますか。それとも、大人しく投降しますか。」
その返事はすぐに帰ってきた。
「投降する。あんな魔法を何度も打たれてはかなわない。それに、疲れた。」
投降の言葉が聞こえた。これで、南東の砦での戦闘は終了するはずだった。
「姐さん!!」
盾の男が指した方向。残骸の中、地下に門があったところに動きがあった。
残骸を弾き飛ばし、現れたのは、アザレアたちと同じ昆虫の殻を纏った人型の魔物。
ギギギッギギッギギッ
魔物がチュリたちの方へと向いた。チュリの勘が警鐘を鳴らす。
咄嗟に魔導士を抱え、大剣をかざしながら後ろに飛んだのが功を奏した。激しい衝撃と共にチュリは吹き飛ぶ。大剣を持っていた右手首から嫌な音がし、激痛が走る。大剣が手が離れ、地面を転がった。もしかざしていなければ手首一つ折れるだけでは済まなかった威力だ。
「やりやがったな!」
「に、逃げて!!」
一人が剣を振り下ろす。その一撃は鈍い音と共に外殻に直撃した。しかし、魔物にダメージが入った様子はない。
魔物の腕が動いた。それだけで、その男の胸に穴が空く。即死だ。
グチュグチュ、グチュグチュ……
男の身体を喰らい始める。それも物凄い勢いでだ。
怒りよりも恐怖が沸き起こる。突如現れた得体の知れない魔物が、同族をいとも簡単に殺し捕食している。彼らが恐怖に支配されるのも無理はなかった。それは少し距離が離れていた純血派も同じ。
この場から逃走しようとして、互いにぶつかり悲鳴が起こる。数が多い純血派が無秩序に逃げようとした結果、こけて踏まれ死ぬ、二次災害が起きていた。
唯一、『緑眼』の四人と指揮官クラスは冷静さを失わなかったが、指示をしているどころではなかった。
騒ぎを聞きつけ、魔物の顔がこちらを向いていた。取れる選択肢は多くない。犠牲を減らして逃げ切るために取れる方法を必死に考える。
ギギギッ
「『ソーン・スロー』」
運悪く死んだ者を茨で絡めとり、魔物に方に放り投げた。死体に食いつく魔物。
『緑眼』のメンバーは顔色を悪くする。はっきり言って成功した。だが、気分のいいものではない。
逃げる。
チュリ側も、純血派側も同じ目的の元、全力で足を動かす。
それから半刻も経たない時間で、南東の砦跡には、魔物が死肉に食らいつく音しか響かなくなっていた。
補足 麝香連理草
鬱金香




