作戦と襲撃、そして出発
よ、ようやく…
~樹海・西の砦~
「遅かったじゃないか。」
店主の間延びした声が階段を下りてきた護たちにかかった。そんな店主を隣の宰相が鬼の形相で睨んでいる。
周りの様子を見ると、ほとんどが顔を下に向けていた。まるで、自分に関わらないでくださいと言わんばかりだ。
「宰相、貴方からこの方たちに詳細の説明を。私は神殿に戻ります。」
機嫌を悪くしている巫女はそう言って出て行ってしまった。とげとげしい物言いに周りのエルフたちの背中がびくぅ!!と震える。護たちと目を合わせようとする者はいない。皆、慌ただしく動き始めた。
護たちは宰相と店主の元へと行く。
「この馬鹿息子が世話になった。こいつの依頼を受けてここまで来たのだったな。神が示した方法とはいえ、こいつの顔を見ることになるとは…。さて、本部となる部屋はこちらだ。そこで王木及び、人質奪還、純血派の掃討の作戦を練っている。馬鹿息子も来い。」
「商人を兵として使う気かい。」
「戦闘力ある奴を遊ばせておく気はない。手を抜けないような場所に送ってやろう。」
宰相と店主の仲は相当悪いようだ。厳格な父と遊び人の息子、馬が合わないのは当然か。
険悪なムードが場を支配し、護たちは無言で宰相に案内された部屋へと入る。部屋には三人のエルフがいた。その中でピンクの髪をしたエルフがチュリに抱き着く。
「良かった!!無事に戻ってこられたんだ!!」
「元気でしたか、アザレア。」
「うん!!」
アザレアはチュリを解放し、護たちを見て自己紹介をする。
「僕の名前はアザレア・エル・キサラン。チュリやニースメンドと同じ、名誉公爵なんだ!よろしくね!!」
アザレアの元気な姿が、護たちを和ませる。護たちも自己紹介をする。
一通り終えた所で、宰相はわざと咳を一つすると、沢山の紙がピンで留められたボードの前に立つ。
「純血派が占拠している場所は二つ。王都と辺境伯領だ。彼らの数はおよそ、三万行くか行かない所だ。王都に二万、辺境伯に一万といった所だろう。彼らは、要人を人質にして脅し、周りの貴族から食料や物資を調達している。数の上ではこちらが倍以上用意できる分、今のところ向こうも下手な行動は控えているようだ。」
「でも、逃げ遅れた人たちへ力を振るったり、辱めたりしているんだ。徐々に要求もエスカレートしているみたい。早く手を打たないと、被害は増える一方なんだ。」
アザレアが怒りを滲ませてそう言った。
護はその状況を知る手段があるということに気が向いた。俗に言う暗部が動いているのだろうか。
宰相は護が思案に耽っていることを無視して話を続ける。
「幸いなことにやるべきことは決まっている。とるべき行動は二つ。人質を救出すること、純血派の反逆者どもを制圧することだ。」
人質さえいなくなれば、大体的に動くことができる。シンプルで堅実だ。
「問題は要人が居ると思われるのは王木であるということだ。」
「王木?」
「王城みたいなものさ。世界樹よりも一回り小さいけど、大きい樹海樹があってね。それを内部は異界化、外部は要塞化したものなんだ。潜入対策も万全だから、バレずに助けるのはほぼ無理がある。」
「馬鹿息子の言う通りだ。異界に入った瞬間、誰が進入したか分かるようになっている。隠密Lv10の盗賊ですら分かる代物だ。進入が明らかになってから、別の場所に移されては救出は困難になる。」
「警備の穴とかないのか?王城ならば、隠し通路の一つぐらいあるだろう。」
ガンドルフの問いに宰相は首を横に振る。補足の説明で隠し通路を使う場合、王、第一王子にだけ伝わるらしい。今回、第一王子が裏切った訳である。これが、第二王子ならば使えたらしい。
さらなる情報として、隠し通路を含めた異界の出口は全部で四つ。その全てが、純血派の強者で抑えられている。名誉公爵並の実力があり、全てを制圧するには人手が足りなかった。また、手こずれば、厄災への対応ができなくなる。
数の暴力を使い犠牲者を多く出し制圧するというのは、王の統治に悪影響を及ぼすとして、切りたくないカードの一つ。人質を切り捨て、総員で一気に制圧するというのも、そうだろう。
王は切り捨てることもやむを得ずといった態度ではあったが、この宰相はそうではないらしい。
「四つの入り口を同時に抑える。名誉公爵に貴殿らを加えれば全てを制圧することは可能だ。それと同時に内部に数人送り込み、王妃など囚われている者を救出する。」
「我ら名誉公爵三人がそれぞれ一つずつ入り口を担当し、残りをこの御仁たちに任せるという訳か。潜入をするは誰だ、宰相?」
「私の馬鹿息子を含めた十人だ。内部構造に詳しい者が三人いる。三チームに分けて行動させる予定だ。」
「私も加わりましょう。…護様、いけませんか。」
宰相の言葉にメイアが手を挙げそう言った。メイアの問いに護は許可を出した。
「そう言えば、かなり強かったね。楽ができそうだよ。ありがとう。」
「おい、馬鹿息子。貴殿は…ふむ、私よりも強いか。協力感謝する。」
作戦決行は二日後。本隊の王都到着が四日後の予定と考えると、救出してから一日、王都脱出または身を潜めることになるようだ。救出がギリギリになると、本隊の戦闘に巻き込まれやすくなる。かと言って早すぎると、多数の純血派相手に逃亡劇を繰り広げることになる。本隊の到着のタイミングが鍵を握るだろう。
話は終了かというところで、書類を処理していたエルフの一人から待ったの声がかかる。
「あの、教会の方からマモル・アカシミヤ、セレスティア、アン・マンタス三名を世界樹の賢者の元へと遣わすように指示が。王の印も押されていて、最優先事項だと。」
「ちっ。あの女狐が先に動いていたか。厄災の話はどうもきな臭い部分があるのだが、王も本気のようであるし、向かわせるしかあるまい。」
(宰相と巫女の仲は悪いのか?厄災についても情報が足りない。宰相もどこか納得できていないし、嫌な予感がするなぁ。とりあえず、メイアとは完全に別行動だな。)
護は不安を覚える。魔物行進戦は起きてから情報が来た。だが、今回は予言という形で起こることを知っている。その違いが妙に引っ掛かるのだ。
私はこのままでいいのでしょうかと、視線で尋ねてくるメイアに護は頷きを返す。彼女の戦闘力を救出に回した方がいいだろう。賢者と戦闘になる可能性は…ないと思いたい。
「賢者は世界樹の下にいる。普段は結界が張られているのだが、王族が居れば入ることができる。第三王女に案内してもらうよう、頼んでおこう。彼女は快く引き受けてくれるはずだ。」
宰相はそう言うと、部下を呼び指示を出す。護たちの宿泊の準備などをさせるようだ。
護たちは、チュリたちと共に行動の予定を確認する。
「俺とエトリア、メイア嬢は、いつ出発するんだ?」
「僕たちと共に、今夜には移動を始めるよ!決行日の明朝、日が昇らない内に奇襲をかける予定なんだ。だから、今のうちに休んでおいてね。」
「キサラン公爵、担当の詳しい割り振りは?」
「僕が北東、チュリが南東、ニースメンドが北西、ガンドルフさんたちが正門かな。比較的距離が長い北東の入り口を怪盗である僕と足の速い子で抑えるよ。チュリは防御が固い南東を崩してもらう。後、ニースメンドは生粋の後衛でしょ。前衛の子で足が遅いから、一緒に比較的近いところを抑えてもらうことにしたよ。ガンドルフさんたち、『堅牢』には申し訳ないんだけど、正門が適切かな。初めての人にも分かるように、要塞から異界への門は一本道になっていて、トンネル状になっているんだ。その分、ギミックが多いんだけど、二人の二つ名にかけさせてもらう。ここだけは制圧する必要はなくて、逃走しようとしたところを抑えてもらうだけでいい。」
「中々、骨が折れそうな仕事だな。」
「ごめん!!ギミックの詳細は説明するし、人員は多く配置する予定だよ。」
「王都の門からの距離はどう埋める?かなりあるのだろう。」
「それは、王直属だけが使える密偵用の通路が要塞近くまであるんだ。本来なら通らせないけど、今回は特例ということで、王から許可が降りてるから大丈夫。」
ガンドルフやニースメンド、チュリに説明をアザレアは続ける。
「どの場所にも戦闘力的に僕たちクラスの敵が一人はいると思った方がいい。密偵の報告では、『緑眼』、『晶公』、『腕力』、『深冥』が確認されているんだ。冒険者ランクは黄で、『緑眼』と『深冥』はパーティーだから厄介かも。それに、どこにどの面子がいるのかを数日ごとに変えているみたい。二日後が丁度、チュリとニースメンドにその二パーティーがあたるようにしているよ。」
「『晶公』は敵なのですか?彼は純血派に靡くような者では無い筈です。」
「チュリ、残念ながらそうだよ。そもそも彼が純血派と共に王木を落とした張本人なんだ。彼は民のために戦っている仲間だと思っていたんだけどなぁ。」
名誉公爵である三人に沈黙が降りる。その沈黙を破ったのは店主だった。
「裏切りは仕方ないことさ。それより、僕らの方はどうするんだい?どの門から突入したらいいのかな?」
「…潜入組はニースメンド側からになるよ。『深冥』と当たるけど、ニースメンドが派手に惹きつけている内に潜り抜けて内部へと侵入してほしい。手順はもう既に部隊の子に伝え終わっているから、先に合流して聞いてね。」
「了解しました。」「合流しなければ…」
「馬鹿息子は私が直々に引っ張っていこう。…巫女の想い人よ、貴殿らが泊まれる部屋の準備が整った。そして、この方が第三王女である、ライラ・ン・ポルン様だ。」
鬼の形相で店主の肩を掴んでいる。かなりの力が加わっているようで、店主が顔を歪めていた。店主を引きずり、身体を扉から離した宰相の後ろに立っていたのは、自身たちと同じくらいに見えるエルフの女性。同い年に見えるが、大人の女性といった印象を感じる。
「ライラと申します。マモルさんたちを賢者の元へと案内させていただきます。」
「…そんな畏まらないでください。エルフの王族の方に敬語を使われるほどの者じゃありません。」
「そう言うなら。…王女なんて名前だけ。私に権力はないし、政略結婚の縁談一つ、中々入ってこない。忘却姫とか、好き勝手言われるの。王族なんてこちらから願い下げなんだけどねぇ。」
「嫁ぎ先が無いのは、世界樹の結界に干渉する力を持っていて、慎重に選ぶ必要があるからだ。それに縁談を蹴り続けた結果だ。率直に言って、忘れ去られることを選んだのは、姫様だろう。」
セレスの言葉にかなり態度を崩したライラは、嫌味たらしく宰相に視線を向けた。しかし、宰相に正論を持って返されたため、舌打ちをする。
(一気に印象が変わったなぁ。個性的というか、どこかネシーナやミアノさんの姿が重なる。)
護には別れた教会騎士及び守護魔法師の女性陣の顔が思い浮かぶ。
アンが腕を抓ってくる。フードを被っていて顔は見えなかったが、大体どんな表情をしているのかは想像がついた。痛みを表情に出さないようにするように、護は耐える。メイアのじっと見つめてくる瞳が怖い。
アンに気を取られている間に、ライラが護の目の前に立ち、じっと見つめてくる。品定めをしてくる視線に、護は少し身を引く。
「へ~。面白い。職が無いなんて、初めて見た。賢者に会わせる人材としては、確かに合格ね。」
「鑑定持ちか。」
「そうよ、マモル君。ねぇ、貴方、私のモノにならない?」
「断る。」
護より小柄な彼女は上目遣いで誘惑してくる。護は即答で拒否した。
アンとメイア、セレスから殺気が零れる。三人の殺気にライラは護から少し離れて、てへっと笑った。
「冗談よ。殺されるかと思ったわ。…良い、本気になりそう。」
「?」
ライラは小言で何か言ったが、護には聞き取れなかった。メイアとセレスが首を傾げていて、アンが警戒心を剥きだしにしている。つまり、エルフ語で言った言葉だ。それよりも、女性陣の耳の良さに戦々兢々とする護だった。
ライラが来たことにより、護、セレス、アン、オリーは移動することになった。オリーについてだが、高レベルではないこと、アンの世話役であることを鑑みて、三人に付いていくことになっている。一人ぐらい増えても問題ないというのが、ライラの意見だ。
メイアたちの出立を護は見送ると約束して、護たちはライラに案内されるまま、西の砦を後にするのだった。
~宿~
「かなりいい部屋です。…いいんでしょうか。」
「貴方たち専用なんだから遠慮しなくていい。事前に用意していたものだし、タダよ。食事は有料だから注意してね。私は下にいるから、何か用があったら声をかけてね。」
護とセレス、アンとオリーの組み合わせで二部屋だ。当初の予定では、オリーの分のベッドがなく、護の個室と巫女二人の部屋になっていた。それを宰相は二人部屋を二つに変更していた。オリーの立ち位置だけを見て、こうなることを予想していたようだ。
部屋の割り振りへの不満をアンは顔に出していた。世話役であるオリーとアンが離れるのは少しおかしいと、無理矢理説得した護は、セレスとの時間を確保した。あの夜以来、二人きりになる時間がなかったのだ。
セレスはマジックバックからポットとコップを取り出すと果実水を注ぎ、椅子に座った護に渡す。
「ありがとう。」
「…どういたしまして。」
「「…」」
護は一口飲むと、苦笑を浮かべる。メイアと二人きりの場合、彼女の方から話を振ってくることが多い。それに対して、セレスと二人きりだと、沈黙に支配される。不思議なことにこの状況は護を落ち着かせるのだ。
セレスを見ると、うつらうつらと頭が横に揺れている。旅の疲れが出ているようだ。
「…護さん?」
「眠っておいていいぞ。俺も装備だけ確認したら、寝る。」
セレスをベッドに運び、横にする。運ぶ時にお姫様抱っこをしたので、彼女は顔を真っ赤にしていた。
しかし、恥ずかしさも睡魔には勝てず、彼女の寝息が直ぐに聞こえた。
その様子を見守り終えた護は、月光・真打を取り出し点検を始める。
(主、疲れが顔に出ているよ。それに、この子にはああ言ったけど、眠るつもりないでしょ。)
(ああ。一応、警戒することに越したことは無い。王、巫女と宰相の関係が気になるからな。アンにまた、巫女が接触してくる可能性もあるし、その接触が穏便なものとは限らない。)
(主はあの妖精巫女が敵になると、考えている訳だ。)
(そうなる。あの巫女はどこか信じられない。アンと言い合いをしていた時に素が出ていたからな。あの様子だと、アンに侮辱された分を返しにくるだろう。アンのトラウマを刺激しそうだから、できるだけ気をつけておきたい。)
霊がわざわざ見える状態になって、ため息を吐いてくる。その様子に護はムッとした。
(何か文句があるなら、言え。)
(真面目ね。もし、あのライラって子に約束を出されたら、主は律儀に守る…かな。)
(は?どういうことだ?)
(さぁね。未来の話であることは間違いないし。)
(未来?そう言えば、今回の厄災のことについてどう思う?いや、正確には予言はあるのか?)
(それは、あの光の神が言っていた通りじゃない。未来は不確定で、選択次第で変わるって。だから、もし予言通りに事がなったとしたら、そうなるような選択が行われたということ。)
(つまり、どちらとも言えると。)
(そうなるわ。)
護は思案に耽る。今回の厄災は本当に神が言ったことなのだろうかと。あの自称光の神は、セレスたち神託を持つ者への干渉と、魔物に関して知らせることができると言っていた。この魔物に関してどこまでのことを知れるのかが、疑問になるところだ。
(とりあえず、予言はいつからか、聞いてみるか。)
(あの巫女は答えてくれなそうだから、他に当たるつもりね。)
(もしくは、セレスを連れて教会に行くという手もある。教会で『神託』さえあれば、問題なさそうだったからな。)
(なるほど。それでいつ聞いてみるつもりなの?)
(夜中に開いているは思えないし、ライラに頼む。下に降りるくらいなら、『気配探知』の範囲内だ。)
短剣の点検が終わった。魔力の刃を形成がスムーズにいくことを確認して鞘に納める。
護はセレスの安らかな寝顔を見て、部屋をそっと出た。
「貴方の頼みは分かったわ。ただ、難しいかもしれない。」
ライラは申し訳なさそうな顔をして、護に謝る。理由を尋ねると、
「あそこは、巫女が完全に掌握しているの。教会関係者に聞くのは難しいと思う。間違いなく、詳しくは教えてくれない。自分に対して従順な奴しか彼女の懐にはいないの。後、貴方の彼女巫女を入れるのはお勧めしないわ。囲まれて、永遠に出てこれなくなってもおかしくない。」
「俺やあんたが居てもか。」
「そう。お父様がグルだから、私は確実に出家扱いで処理される。殺して処分してしまえば、貴方も一緒ね。」
ライラは真面目な口調で言った。本当にそうなるだろうと確信を持った言い方に、護は顔を顰める。
当てが外れてしまった。情報が欲しいところだが、危険を冒してまでする必要はない。
「そうか、諦めた方が良さそうだ。」
「一応、私が知る所では、予言の話が信ぴょう性を帯びたのは二か月とちょっと前ぐらいからよ。厄災が来るという話自体は何百年も前からあったらしいのだけど、間近に来るという話はそのあたりから。」
「二か月ぐらい前、か。」
(偶然なのか、必然なのか。俺たちが来た時期と重なるのは、出来過ぎている。)
護は顎に手を当てる。このタイミングでの純血派の反乱に厄災の到来、偶然ではなさそうだ。おそらくだが、護たち異界人が来た時に近々厄災が来ると言い、この国に来るだろうタイミングで、純血派に行動を起こさせた。
何故、純血派に行動を起こさせる必要があったのか、何故、厄災と同タイミングになるように調整したのか、といった謎は依然残るが、半ば確信したことがある。
「誰かがこうなるように仕向けた。」
「え?」
「いや、何でもない。」
ライラが机を乗り出し、護に上目遣いを向けてくる。先ほど、口から漏れ出たことを聞きたいようだ。しかし、護は口を噤む。
口を噤む理由としては、推測の域を出ないし、犯人も分からないからだ。確証が無いただの妄想に近い。ライラに教えて、不安にさせるのも気の毒だし、恥ずかしかった。
「教えてよ。面白そうな匂いがプンプンする。」
「何でもないって言っている。……すまん、後で。」
護は席を立つ。先ほど宿に入ってきた男エルフ五人組が、二手に分かれて、護の部屋、アンの部屋の前に立っていた。扉を破らず、ピッキングで開けようとしているようだ。
「おい。何をしている。」
「!!」
護がどす黒い声で扉を開けようといる一人を隠すように立っている二人に言い放つ。答えは直剣の抜刀で返ってきた。
護は事前に用意していた魔法を発動する。
「『シャイン』」
カッ!!
光が通路を染め上げる。事前に目を閉じていた護以外、目がくらむ。ピッキング用の道具を落とす音が鳴り響いた。
護は急接近、一人目の鳩尾を短剣の柄で強打、首も打つ。二人目は魔力の刃で手足を斬り、三人目は首を強打した。骨が折れる音がしたので、適当に水薬をぶっかける。全員、LPが残ったまま、無効化できていることを確認すると、アンの部屋へと急ぐ。
一階上がるとすぐ護に矢が迫った。風の結界を張り勢いを落として、短剣で弾く。次弾も弾いた。距離が一気に詰まる。向こうも短剣を抜いた。もう一人もピッキングを止め、こちらと相対する。
「悪魔が!」
「『エンチャント・ファイア』」
ピッキングをしていた男が物凄い勢いで突進してきた。護は赤き炎を纏わせた短剣を正眼に構えて、迎え打つ。
「なっ!!」
夜見纏いの上を相手の短剣が擦れ、金属音を立てる。半身になり、少しだけずれた所を通りこしていく。護は、彼の後ろに隠れるようにして襲い掛かる弓使いの右肘から先を飛ばす。
「あぁぁ!!う、腕がぁ!」
「うるさい。黙っていろ。」
泣き叫ぶ弓使いの顔面に左ストレートが決まる。鼻を潰しながら吹き飛んだ男は気を失った。
逃走を図ろうとしているもう一人の両足に、光の矢が刺さりこけた。
「いい腕だ、オリー。」
「ありがとうございます。ご主人様、この方たちは一体?」
「分からない。ただ、襲撃者であることは間違いないな。」
縄を取り出し、拘束していく。丁度縛り終わった後、騒ぎを聞きつけ、護衛と共にライラが上がってきた。
ライラは憲兵を手配するように言い、一人の護衛が走っていく。
「さて、どうして襲ったのか聞かせてもらおうか。」
「……」
唯一意識を落とさなかった、オリーの光の矢で転んだ男に護はそう尋ねたが、男は沈黙で答える。
「練度もレベルもそこまで高くなかった。はっきり言って、中堅以下の実力だ。俺たちが中層を通りこしてきてここまで来たことを知らなかったのか。」
「……」
(はぁ。だんまりか。しょうがない、あれをやるか。)
護はアンからハイドロを預かる。そして、短剣を男の足へと突き刺す。痛みで男の顔が歪み、脂汗まみれになっていく。
次に男から短剣を抜き、その代わりにハイドロを置いた。すると、ハイドロが血で染まっていく。どんどん染まっていくにつれて、男から血の気が引いていくのが目に見えて分かった。
ライラたちが悲鳴を飲み込み、アンの目をオリーが隠している。顔色を変えていない者はただ一人、護だけ。底冷えした視線で、男を覗き込む。
男は震えあがる。傷口からは血が流れ、スライムに自分の命が血と共に吸われていく感覚が襲っていた。さらに、追い打ちをかけるように無表情で見つめてくる護の姿が、男を恐怖へと引きずりこむ。
「早く言え。このまま血が流れて行ったら、回復できなくなるぞ。そして、死ぬ。」
「話すから止めてくれ!!俺は死にたくない!!!」
護はハイドロに吸収させるのを止めさせる。しかし、傷口は開いたままで、いつでも再開できるようにしていた。それが、男の恐怖を煽っている。
「どうして、襲った。」
「俺はあんたが、同族を奴隷にしている悪魔だと。純血派の戯言だと思っていたんだ。でも、実際にあんたの隣や後ろでいるところを見て、本当のことかもしれないと…。正義感に支配されて俺たちがやらないきゃといけないと思ったんだ。」
「もっと穏便に聞くとか、できただろう。」
「信じられるわけないじゃないか。だから、保護しようとしたんだ。人族の巫女もあんたに騙されて、傍にいると思った。」
「それで、俺たちの部屋も開けようとしていたんだな…」
アンやオリーが奴隷であるという話は広がっているようだ。この男たちのように、はた迷惑な正義感を出して、襲い掛かってくる馬鹿はまだいるに違いない。
辟易としている護の隣に、ライラが出てくる。
「私がいるのに、おかしいと思わなかったの?」
「あなたは?」
「ライラ・ン・ポルンよ。第三王女、忘却姫と言った方が、分かる?」
「王女様!?」
男は顔を真っ青にした。そして、隣の護の顔を見る。ようやく、自分たちが王族の客賓に危害を加えようとした事実に気づいた。唇が震えている。
ライラはというと、いい笑顔を浮かべている。怒りからくる笑顔というより、気づかれなかったことが本当に嬉しいといったかんじだ。後ろの護衛が頭痛を覚えているようで、頭に手を当てている。
「私に気づけないのはしょうがないことよ。普通の町娘のような言動しているし。ただ、問答無用で牢屋行きは変わらない。」
憲兵が到着した。男たちを引き渡す。事情を話し終え、警備を強化し終えた頃には夕方になっていた。すっかり、ハイドロの色が元の透明に近い状態に戻り、レベルが上がっている。吸収したものを経験値にしているみたいだが、仕組みが全く分からなかった。
メイアたちの出発の時刻まで、護はハイドロと戯れる。アンやオリーは休息をとるために自室に戻っている。
ライラや護衛がハイドロに興味を持っていたようなので、試しに向かわせてみる。
目の前にハイドロが来たライラは恐る恐るプニプニと表面の感触を楽しんでおり、護衛たちは手を沈めて冷たさを満喫している。
(ハイドロ、人の肌ぐらいまで温度を一気に、上げてみてくれ。)
ハイドロが、ふるふると答える。ハイドロの動作を不思議に思っていたライラたちの驚く声が響く。色々してみせてハイドロに虜になっているライラたちを護は静かに見守るのであった。
~夜~
「護様、くれぐれもお気をつけください。」
「それは、俺のセリフだ。メイア、存分に暴れてこい。」
「かしこまりました。」
護とメイアが交わした言葉はそれだけだった。互いの唇が重なる。二人にとってそれで十分だ。
嫉妬からの殺気が半分、当てられて、顔を赤くしているのが半分だ。それも、メイアの赤い瞳に見据えられ、微笑みを向けられる。それだけで、全員が構えた。彼女からする濃密な殺意が一瞬解き放たれたのだ。
「失礼しました。つい、気が抜けているようなので、引き締めさせてもらいました。」
(あんたのせいだろ!!)
全員の心が一致するのであった。
総勢は百三名に上る。ニースメンド・イー・ヴェルシェ率いる第一部隊二十名。アザレア・エル・キサラン率いる第二部隊十五名。チュリ・エフ・ストランド率いる第三部隊二十五名、『堅牢』が助っ人として加わった第四部隊三十三名。潜入部隊十一名。
彼らは夜の闇に紛れて、それぞれの戦地へと向かうのであった。
三話程で三章本編を終了させるつもりです。
閑話に関しては例のごとく二話入れる予定ですが…




