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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
妖精編
32/138

ハイドロ強化と館と悪霊

思ったより早かった…

~教会・宿舎~


けだものよ、早く解放するのだ!!」

「護、お前、獣扱いされているぞ。」

「何、他人ごとみたいに言っているんだ。リヤお義姉さまのことを指しているかもしれない。」

「そんな訳あるか。男勝りとは言え、俺は女だぞ。男を無理矢理手籠めにするような趣味はねぇよ。」

「ぬぅ…。聞いているのか、貴様ら!!」

「と言っているが、アンたちはどう思う?」


 エルフの男がブチ切れているのを無視して、護はアンとオリーに尋ねる。

 二人は男が喋りだしてから、顔色を悪くしていた。護のログにも二人の精神状態が不安定であると、残っている。


「この人は駄目。」

「この罵詈雑言しか言わない男について行くなんて、お断りです。論外ですね。」

「なっ…」

「ぷっ。振られたな。ということで、もう一方の主張を聞こうか。」


 固まるエルフの男。リヤお義姉さまが女の方に話を振る。

 軽蔑の目で男を見ていた女は、ビクッ!と姿勢を正すと、声を震わせながら喋りだした。


「純血派が失礼しました。私はチュリと申します。私の要件はこの隣の愚か者と同じですが、主人である貴方にタダで引き渡せとは申しません。お金や宝石、その他条件があれば、私の裁量でできる範囲のことは飲みましょう。」

「貴方の裁量とは?」

「私は自国にて、王から名誉公爵の地位を拝命しております。白金貨5枚程度のことであれば、何でもできるとお考えください。ただ、その…体を差し出したり、その貴方にそう言う類の使用人を用意したりといった頼みはお受けできませんので、ご了承ください。」

「はっはっはっ。やっぱり獣扱いだな、護。まぁ、実際はヘタレだが。」

「余計なお世話だ。」


 再び、アンとオリーに尋ねる。ログ表示はなかった。


「この人はマシ。だから、確かめる。」


 アンは、フードを外す。欠けた耳が露になり、男も女も驚く。男は明らかに侮蔑の視線を、女は悲しそうに同情を帯びた視線を向けた。

 アンはローブも脱ぎ捨て、右腕がないことも見せた。それによって、態度の違いが歴然とした。


「やっぱり、おじさんは駄目。あいつらと一緒な感じがする。チュリさんは、私のこと可哀想?」

「言葉にできません…。」

「この腕、どうにかできる?」

「ごめんなさい。私が届く範囲では貴方を癒すことはできない。でも、不自由ない生活を用意します。」

「そう。でも、ご主人様は約束してくれた。代わりの腕を用意してくれるって。私はそれを信じる。それに、腕輪がご主人様との繋がりだから、今は手放せない。手放すのは、ご主人様の子供を身ごもった時。」

(さりげなく爆弾発言が!!ちょっと待て、アン。どういうつもりだ!?)

「やはり、誇りを汚され、おぞましき奴隷として洗脳されたのだな。第一王子に報告せねば。」


 護は動揺で、不穏な勘違いをしたエルフの男を止めることに失敗する。エルフの男は部屋を出て行てしまった。女の方も、上の空で「身ごもる…?」と呟いた後、再起動を果たし顔を真っ赤にする。


「本気ですか?」


 恐る恐る問いかける女エルフもとい、チュリにアンは頷いた。まだ、頭に言葉が入ってきていないようだ。

 護は殺気を感じて隣を見る。リヤお義姉さまの作り笑いが怖い。流石に、客の前で拳が飛んでくることはないが、そうでなければ、殴られていたかもしれない。

 オリーからの視線も刺さっている。護からは見えないが、表情を消してこちらを見ているだろうと直感が告げていた。


「ご主人様、駄目?」

「冗談だよな?相手を説得するための嘘だよな?」

「本気。今、決めた。私にとって解放は捨てることと一緒。さっきは何も言ってくれなかったけど、ご主人様は私を捨てるの?捨てられたらもう私、生きていけない。ご主人様も巻き込んで一緒に死ぬ。」

「護、このエルフ、ヤバくないか!?かなり粘着質な愛情を抱いているようだぞ!?」


 アンのエスカレートする言動に、リヤお義姉さまからの心配する悲鳴が。目の前のチュリから冷たい雰囲気が、オリーからは絶対零度の吹雪が吹き荒れている。

 混沌と化す女性陣相手に、護は、もうどうにでもなれ、と諦めて対処することにした。


「アン、君の気持ちは分かった。俺はアンを捨てない。でも、子作りは待ってくれ。まだ、メイアもセレスともしていないんだ。それに、二人を説得することが条件だ。」

「あの二人を説得したらいいの?やってみる。」

「オリー、言いたいことがあるなら、言ってくれ。」

「アンの気持ちを不意にし、捨てるのかと思いました。男ならとっとと覚悟決めてください。」

「すまない。」


 アンは頬を綻ばせ、オリーの絶対零度が収まった。後は、アンの爆弾発言からテンションがおかしい二人だ。


「リヤお義姉さま、落ち着け。聖女ではなくて、ポンコツになってるぞ。」

「あぁ!?はぁ、妹と侍女に刺されても知らんからな。最後まで面倒見るなら、文句は言わん。」

「そして、チュリさん、申し訳ない。貴方との取引には応じられない。アンとオリーを将来を保証できるわけじゃないが、できる限りの最善を尽くす。」

「本人たちの意志は確認できました。しょうがありませんね。ですので、警告を。純血派は確実に貴方たちの存在を曲解して、人族とエルフとの軋轢を深くするでしょう。残念なことに彼らに触発されて、過激な行動を行うエルフもいます。それは人族でも起こり得ることです。」

「俺たちの存在だけで、そうなるものなのですか?心配し過ぎでは?」

「噂の影響力を舐めてはいけませんよ。事実よりも過激な嘘や噂は広がるものです。」

「それはそうかもしれませんが…。」

「しばらく、私は王都に滞在するつもりです。明日もこちらに出向く予定なので、聞きたいことがあれば翌日にしませんか?」

「分かりました。」


 チュリは出来の悪い教え子を諭すように、護にそう言うと席を立つ。彼女の助言は予想とは異なった形で実現し、護たちを戦火に巻き込むのだが、彼らはまだ知らない。

 護たちは教会の正門から宿に帰るチュリを見送った後、鍛錬場で魔法の制御訓練をしているメイアとセレスの元へと行く。

 アンが、開口一番こう言った。


「私も、ご主人様のお嫁さんになる。」

「…はい?」


 セレスの呆けた声が響く。メイアは咎めるように護を見つめている。

 アンが事情を説明するにつれて、アンに向かっていた視線は護へと向いて行く。嫁二人の視線にさらされて、護の背中には冷や汗が滝のように流れていた。


「神様が言った通りになったのですね。…護さん、アンさんのことどう思っていますか?」

「正直言って、拒否すれば殺されそうで怖い。可愛いとは思うが…」

「愛していますか?」

「いないというのが正しい。一緒に過ごした時間も関係も何かも足りない。」

「即答は酷い…。」


 護の容赦ない即答の「きれ」は、メイアを彷彿させる。メイアの瞼がピクピクと反応していた。

 落ち込むアンをオリーが慰めるように背中をさする。

 セレスは、アンの様子を見ながら、こう言った。


「護さんの気持ちは分かりました。…ですが、私も…メイアさんがいる身で護さんに、ずっと好きと言い続けていましたし…」


 顔を赤くしながらも、言葉を続けた。


「護さんは応えてくれました。…アンちゃんの気持ちが本当なら、護さんは応えてくれます。…そんな護さんを私は愛していますから。」


 護は強烈な罪悪感に襲われる。どこか間違っている感覚がするが、護には分からなかった。

 そして、ずっと黙っていたメイアが口を開ける。


「護様、何人、傍に女性を置くつもりなのですか?」

「正直、分からない。ただ、必要としてくれる相手がいるなら、俺は出来る限り応えるつもりだ。」

「はぁ。いつかハニートラップにかかりそうで、心配です。」

「耳が痛いな。」

「下手な色目を使う輩は私たちが排除しますので、ご安心してください。アンのように護様を必要とする女性には、寛容でいましょう。」

「メイアお姉ちゃん…。」

「ただし、ほどほどにしてくださいね。急に知らない女を連れてきたら、何をしてしまうか分かりませんので。」


 メイアの微笑みに、護は頷くしかなかった。女遊びをすれば、間違いなくバッドエンド(刺されて死亡)を迎えるだろう。

 アンのこれからについては定まったと言える。となると、後はオリーはどうするかだが…。


「私は、アンの傍が私の居場所ですので今までと変わりません。」

「オリーはご主人様のこと好き?」

「嫌いではないですよ、アン。ただ、恩を感じることはあっても、恋愛感情とは異なるだけです。」

(侍女たちって、どこか性格がはっきりしているなぁ。)


 護はオリーの受け答えを聞いて、逃避気味にそう思うのだった。

 ちなみに、夕食では何事もなかったのだが、夜、アンが一緒に眠ると言って譲らず、メイアとアンに挟まれる形で眠ることになってしまう。眠れない護は、『完全なる図書館の司書』を発動して強制的に意識を白色の空間に落とすのであった。


~翌日~


「おはようございます。」


 チュリがハイドロに魔石と水を与えて強化している護たちのところにやってくる。まだ、朝食が終わって間もない頃だ。かなり来るのが早い。


「スライムの強化ですか。レベル上げとしては一般的ですね。」

「若干、違いますけどね。」

「普段の口調で構いませんよ。私だけお客様扱いされるのは嫌なので。それで、どう違うのですか?」

「普通、魔石はそのまま与えるが、今回は砕いて与えている。」

「非効率な方法だと思いますが…。」


 彼女が言う通り、魔石は砕くと、内部に秘められた魔力が霧散する。砕けば砕くほど霧散していき、護が所有する指輪、『紅玉』『風の祝福』に嵌められている大きさになるとその効力は三分の一以下になる。そのため、指輪には魔法陣が彫られており、使用者の魔力を注ぎ力を増幅させる仕組みになっているのだ。

 訝しむチュリをよそに、護はとある薬品を取り出した。すり鉢の中に数個の魔石と薬品を入れると、撥で魔石を砕きながら混ぜる。すると、七色に光っていた薬品は魔石が砕ける度に、紫へと変色した。それをスライムの核が一気に吸収する。

 ハイドロの核が三倍ほどになっており、小さかった体積は急激にバスケットボールくらいの大きさまで膨れ上がっている。チュリは、常識外れの方法に驚く。彼女が知る吸収スピードよりずっと速い。


「その薬品は一体何ですか?」

「変化薬。物の本質を変える薬品だ。」

(肉体も変えてしまうけど、それは言わないほうがいいか。)


 護のステータスに変化を与えた、あの『変化薬』。ジェイに頼んで、いくつか作ってもらっていた。ステータス以外の物質にも影響を与える薬でもあり、今回はそれが上手く形に嵌った。変化薬に関しては、護も調べきれていない部分が残っており、魔石との反応は調べられた一例に過ぎない。


「そんな薬が…。どこで知ったのですか。」

「秘密だ。」

「譲ってもらえるとかは…。」

「駄目だ。正直、俺にもどこまで効果があるのか分からない。そんな危ない物を渡せない。」

「そうですか。」


 肩を落とすチュリに、話を逸らすように護から尋ねた。


「厭血流しとはなんだ?」


 チュリは顔を引き締める。ハイドロの身体をプニプニ突いているアンを見ながら、話し始めた。


「貴方にはしっかり話しておいた方がいいですね。かつて人族との戦争があり、捕虜となったエルフと人族の間で子供が生まれました。それが、ハーフエルフです。」


 チュリは静かに続ける。護は黙って耳を傾けた。


「ハーフエルフ同士、またはハーフエルフの血を引いていた場合、生まれてくる子供に人族の特徴を引き継ぐことがあるのです。それは外見しかり、寿命しかり、ステータスの成長にも影響があります。その中でも、特に人族に近い者は戦争をし、まだ傷が癒えてない頃の純粋なエルフたちに恐怖を与えました。人族との卑し子であるどころか、それに近い子供まで産む。当然のごとく、ハーフエルフは迫害の対象になり、追い詰められていったのです。」

「……」

「その中でも、エルフの要素が強かった親から人族のような子が生まれた時、始まったのが厭血流しです。自分たちがハーフであることを隠すように子を樹海深くに置き、見殺しにする。自分たちが社会で生きていくために子供を犠牲にしたのです。」

「もし、ご主人様と子供ができたら、殺さないといけないの?」

「いいえ。」


 いつの間にか話を聞いていたのか、アンが悲しそうにチュリに問う。それに対して、優しい口調でチュリは否定した。


「今の法では、ハーフエルフにも王国内でまともな生活ができるように制定されています。差別するようなことは合ってならないと今の王が決めたのです。」

「上手くいっているのか?」


 護の問いに顔に影を映すチュリ。その表情が答えを示していた。


「残念ながら、完璧に解消したとは言えません。実際にあの男のような純血主義は残っているのです。」

「アスタイト王国でエルフが見られない理由と関係あるのか?俺は、アスタイト王国でエルフを見たことが無い。」

「関係します。彼らの主張によってエルフは出国を制限されています。彼らは、架空の憎しみに囚われて、人族を憎んでいるのです。そして、人族から同族を守るという使命を帯び、行動しているようです。今となっては純血であるエルフの方が少なく、私にも人族の血が少しだけ流れています。今更、血に関しては、無意味だと思いますよ。…貴方にああ言いましたが、その恋愛とか、同意とかしているのであれば、構いません。」

(人種の問題はどこの世界も同じかぁ。なるほど、アンとの関係は彼女の意志だから問題ない訳か。)


 護は地球での出来事を思い出し、疲れた表情をする。ただ肌の色が違うだけでも争いになるのだ、戦争の影響があれば、どんな怨讐じみた差別を抱いているのだろうか、想像がつかなかった。実際、あのエルフの男の態度は、完全にこちらを見ておらず、狂信していた。


「確実に今、エルフの王国に行けば、厄介ごとになるのは間違いないな。」

「でも、行くよね?」


 護は頷く。アンやオリーを連れていけば、純血派とやらとひと悶着は避けられない。だが、アンの義手を作るには、向かう必要がある。そこは譲れなかった。


「チュリさん、エルフの王国への案内をしてくれないか?」

「出来ますが…。大変危険だと思います。それでも良ければ案内します。」

「ありがとう。」


 チュリとの会話がひと段落するのと同時にハイドロの強化も終わる。護は『真理眼』で確認した。


ハイドロ (スライム?)Lv19

  LP 97 MP 99

   STR 72 AGI 64

   TEC 59 END 103

   INT 70

一般スキル 魔法(風)Lv1

特殊 吸収(改) 変異 分裂 硬質化 毒Lv1


(魔石の元になった魔物の影響を受けるのか。硬質化と魔法はニードルボルクから、毒はシャララーク(毒蛇)からか。珍しい魔石を吸収したらどんな存在になるのか、気になるな。)


 護はアン、チュリ、そしてずっと後ろに控え続けているオリーのステータスも見た。


アン・マンタス (女・16歳・妖精族)職 巫女Lv46

  LP 350 MP 517

   STR 364 AGI 361

   TEC 343 END 322

   INT 828

一般スキル 杖術Lv3 剣術Lv5 調合Lv3 奉仕Lv1 依存Lv4

職スキル  神託Lv1

エクストラ


オリー・ドゥフト (女・42歳・妖精族)職 祓魔師Lv46

  LP 316 MP 631

   STR 264 AGI 356

   TEC 331 END 258

   INT 498

一般スキル 暗器Lv4 魔法(水・風・光)Lv6

      奉仕Lv4 家事Lv4 勤勉Lv3 忠義Lv1

職スキル  アイテムボックスLv5 浄化Lv4 祈りLv2 霊魔特攻

エクストラ 命共有ライフシェアリング


チュリ・エフ・ストランド (女・68歳・妖精族)職 上級魔剣士Lv63

  LP 559 MP 748

   STR 594 AGI 369

   TEC 450 END 372

   INT 895

一般スキル 剣術Lv6 大剣術Lv6 

      魔法(火)Lv9(水)Lv7(土)Lv2 集中Lv2 不屈Lv2

      栽培Lv5 宮廷作法Lv3

職スキル  アイテムボックスLv3 連続詠唱

エクストラ 妖精の秘奥(F)


(全体的にMPとINTの能力が高い…。エルフの種族特性なのか…。)


 護はエルフの能力値に驚き、また、アンの依存がステータスとして存在していることに悪寒を抱く。依存の対象は間違いなく護だ。ずっとべったりとくっついてくるのは、このスキルの影響かもしれないと思う護だった。

 なお、オリーは二十代、チュリは三十代に見えるので、実際の年齢の半分くらいがエルフの容姿のようだ。寿命も人族より長いのだろう。とは言え、アンは人族の16歳と変わらない。エルフの成長の仕方が気になる護は、予想を頭の中で立て始めた。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。」


 上の空になっていた護は、自分がチュリの顔をまじまじと見つめていたようで、自身の顔を逸らす。

 護は道具を片付ける。今日は、依頼を受けずにメイアたちと共に拠点を選ぶ予定だ。

 メイアと軽く魔法を使って遊びながらもう一人揃うのを待つ。護の炎の九尾がメイアの水球を尾で相殺した時、待ち人がやってきた。


「ごめん。待った?」

「大丈夫ですよ、ミアノさん。」

「あの、どこかへ出掛けるつもりなのですか?」 

「ああ。チュリさんはどうする?」

「私はもう少し、教会内部を見て回ります。」

「分かった。」


 護はメイア、ミアノ、アンを連れて教会を出る。オリーはチュリと共に、教会を見て回るようだ。セレスはガンドルフたちと共に冒険者の依頼を受けて、王都を離れている。

 教会から十分後、不動産屋を連れて目的の屋敷にたどり着く。屋敷の荒れようを見て、護たちはげんなりとする。草は無造作に生え、何が出てきてもおかしくない。窓の一部が割れているようで、そこから植物も進入しているようだ。復旧作業に一体何日かかるか想像がつかない有様だった。


「メイア、ここまで酷いとは聞いていなかったぞ。」

「申し訳ありません。三年前に手に入れた情報ですので…。まさか、簡単な手入れすらなされていなかったとは、思っておりませんでした。」

「言い訳させてもらうが、曰く付きの屋敷なんだ。勝手に住み着いた盗賊の一味が全滅していたのが分かってから、誰も寄り付かなっちまった。それ以来、お前さんたちのような物好きが現れなかったんだよ、今までな。」

「教会に頼めば、除霊ぐらいするんだけどねぇ。」

「金がかかるだろ。」

(ほったらかしにする理由にはならないと思うけどなぁ。)


 不動産屋の言い分に微妙な表情をする護たち。ただし、不動産屋が提示した金額はたった金貨一枚。管理費用は長年かかっていないし、売れない土地の価格は下がりに下がり続けて、格安になってしまった。

 修繕費、もしくは改築費は護たちの全額負担になるそうだが、霊問題を解決すれば、職人は紹介するとのことで、不動産屋のおっさんは店に戻っていった。


「とりあえず、入ってみるか。」


 錆びた門を開き、護は一歩を踏み出す。周りの気温よりもひんやりとした空気が頬に当たった。


(うへぇ。確かにこれはヤバいか。)

(主、気をつけて。私に近い存在がいる。植物からも力を感じるよ。)


 短剣の霊からの助言を基に、護はすぐさま『真理眼』を発動し、植物を見る。


アブソーブ・バイン Lv34

  LP 257 MP 269

   STR 312 AGI 357

   TEC 284 END 307

   INT 244

一般スキル

特殊  吸血Lv2 硬質化 毒Lv2 植生(火属性弱点・水、土属性耐性)


 護は、短剣を抜き、炎を纏わせる。ツタが炎を避けるように護から離れる。


「護様、この植物は魔物なのですか?」

「そうだな。いくら廃屋とは言え、魔物は自然発生するのか?」

「ほぼ無いわね。あるとしたら、ここの前の持ち主が植物に魔石を吸収させたのであれば、起こりうるけど。」

「とにかく、蹴散らすぞ!!」


 護、メイア、ミアノは各々武器を構える。アンは護の後ろに隠れた。

 片っ端から切り刻むメイアに、光で焼き尽くすミアノ。護はアンを庇いながら、ミアノの光で発生した炎が二次災害を起こさないように水で消しながら、襲い掛かってくる虫を切り裂いた。植物を取り込んだせいなのか、虫も魔物化している。

 五分後、ツタ及びその他も全て駆除し終わって、土が見えるほどまでになった庭まで歩を進める。


「よく被害が今まで出なかったな。」

「うーん、ある種の結界が張られているみたいね。そのせいで、この屋敷の地から出られなかったのかもしれないわ。それにこういうタイプの魔物は初期は無害だし、気づけなかった可能性も高いわね。」

「元の商人は何がしたかったのだろうな…。」

「商人を妬む者の仕業かもしれません。事実はもう分かりませんが。」

「さて、内部はどうなっているやら。」


 四人は屋敷の扉を開ける。予想に反して、植物の侵略を受けていなかった。調度品の類は全て相続されたようであり、何もないエントランスホールが目の前に登場する。


「ここからどうする?二手に分かれるか?」

「一緒に行動した方がよいでしょう。まだ、霊が残っていますよ。」

「もし分かれるなら、私は護から離れるつもりはない。ご主人様が対処できないぐらい強かったら、とても危ない。だから、メイアお姉ちゃんの言う通りにした方がいい。」


 護は四人で一つ一つ部屋を確認していく。家具も運び出されたようで何も残っていなかった。異変は右に曲がった一番右奥の部屋に入った時に始まる。

 アンが身震いする。ログには精神が不安定になっていると表示があった。


「アン、大丈夫か?」

「ここ、怖い。……何言っているの?ご主人様がそんな酷いことしない!!」

「アン!?」


 ミアノが慌てて、『浄化』をかける。すると、アンは虚ろになった目に光を取り戻し、心配する護と目を合わせる。片腕で自分を抱いたアンは口を開く。


「ご主人様が、私を捨てる夢を見せられた。男の子が、『可哀想に。飽きたら捨てられる存在なのに、勘違いしている哀れな子だ。魔法が使えれば、彼らからも捨てられなかったのにね。』と言ってきた。ご主人様を信じたよ?でも、ご主人様は私を捨てて…。」

「大丈夫だ、アン。俺は捨てないから。」

「う、うん。」


 まだ混乱しているアンを優しく抱きしめる護。ログでアンが落ち着いたのを確認すると、部屋に唯一残された机を見る。護はこの残された机が鍵を握っているとは思ったが、一旦二階を見て回ることにした。

 二階の部屋は個室部屋が多く、ここも全て何も残っていない。ミアノが『浄化』をかけて綺麗にしていく。部屋が新品同然に綺麗になっていくのを見ながら、護はアンの頭をそっと撫で続けていた。

 そして、唯一植物が進入している部屋に入る。すでに力尽きているツタを回収しようとすると、


「護様!!」

「フフッ。君に用はないよ。」

「『トゥ・ヘブン』!……えっ、嘘!?」


 ミアノの除霊魔法は効かず、少年の霊は護をスルーして、メイアに触れて消えた。ミアノが急いで、『浄化』をメイアにかける。それで、メイアも正気に戻ったはずだが、その顔は生気が失せ油汗が止まっていない。


「メイア?」

「すいません、護様。あれは、本当に嫌な相手ですね。しばらくすれば落ち着きます、ですので、気にしないでください。」


 護はメイアの肩を抱く。メイアは一瞬迷った後、体を護に預けた。メイアとアンを侍らせる形になった護は、微妙な視線を向けてくるミアノに気づく。


「私への当てつけをするために、あの霊、アンちゃんとメイアを狙ったのかしら。」

「違うような気がする。とりあえず、そこにある燭台を調べてみてくれないか?」

「はいはい。」


 ミアノが壁に取り付けられた、如何にも怪しい燭台を弄りはじめる。メイアが復帰するどころかわざと甘えはじめてきて、困惑する護をよそに、ミアノは仕掛けに気づく。

 燭台を右斜めに傾けて押し込む。すると、部屋の床が音を立ててスライドし、隠し階段が現れる。


「この下のスペースは丁度、あの部屋だったよな?」

「そうみたいね。でも、この階段、一階に続いている訳ではないみたいよ?とんでもない仕組みね。」

「メイアとアンはどうする?ついて来るのか?外で待っていてくれてもいいんだぞ?」

「ご一緒します。」「ついて行く。」


 四人で階段を下りていく。壁は黒ずんでおり、ただの黒い塗装ではないのが一目瞭然だった。

 そして、埃臭く、カビの生えた木製の扉が護たちを迎える。魔法の光が無ければ見えないほど暗い。地下であるのは間違いなかった。

 護はさび付いて開かない扉を蹴破る。濃厚な血の匂いと、階段よりも酷い黒い染み。さらに、石できた人が乗れる台と置かれた拷問具。台の上には先ほどの少年が座っていた。


「来たね。お嬢さん方を虐めたのに来たんだ。まぁ、僕は歓迎するけどさ。」

「…」

「だんまりはつまらないね。よくありふれた話さ。この前持ち主である商人の息子はとても残忍な性格をしていたんだ。罪なき人々を捕え、拷問にかけた。最終的にはその呪いに殺された愚かな男さ。」


 少年が指を指した先には髑髏が。少年が言った商人の息子だろう。


「犯人を殺したものの、苦しまされ、殺された恨みは呪いとなり消えなかった。貴方の目で見るといい。僕が呪いの果ての存在さ。」


 護は言われた通りに『真理眼』を使い、少年を見る。


モォード・ガイスト Lv59

  LP 324 MP 901

   STR 0  AGI 0

   TEC 934 END 0

   INT 926

一般スキル 隠密Lv8

特殊   怨嗟 記憶再生 幻惑Lv6 呪言Lv5 呪体 非実体


(呪体…。呪いには、魔法だけじゃ祓えないからなぁ。)


 ミアノの除霊魔法が効かなかった理由がはっきりとした。それと同時に今の状況はかなり不味いということも。


「かなり強い。今の俺たちじゃ分が悪すぎる。」

「マモル君、どうすればいいか分かったのかしら?」

「ああ。だが、セレス以上の術者がもう一人いない以上、今は勝てない。」

「逃げるの?」

「ああ。相手が許してくれればだが。」


 護たちが話していることに少年が気付いたようで、先ほどの様子から一変する。その目を爛々と輝かせ、舌なめずりしてきた。


「逃がさないよ。久しぶりの御馳走が来てくれたんだ、壊して糧にしてあげる。ああ、そこの女二人を捧げてくれるなら、逃がしてもいいけどさ。」


 少年は愉悦じみた表情を浮かべ、メイアとアンを指す。


「記憶を見たけど、絶望と狂気に二人とも身を落としたことがあるみたいだし、美味しいのは間違いないね。それに君がいるおかげで、もっと絶望してくれるかもしれない。捧げ物としては充分だから、生かしてあげるよ。」

「断る。二人とも俺の大事な人だ。悪霊に捧げるほど安くはない。」

「じゃあ、君も死になよ。」


 少年から邪気のような魔力が溢れる。護たちの戦いが始まるのであった。


A:なんちゃってQ&Aを始める。

Q:おー。拠点の話は本編じゃなくても良かったんじゃないですかね。

A:微妙な位置にある話だからな。一応、オリーの能力に関わってくる。

Q:チュリとの関係もどうなることやら。脈ありですか?

A:それについてはノーコメント。一度にヒロインが増えるのは厄介だしな。

Q;ほー。(アンは最初からヒロイン枠でチュリは違うということか。その割には、悪くない組み合わせのような気もする。)


とこんな感じですかね。奴隷系(立場のみ)ヒロイン、アンと護の関係はこれからです。

どうしてこうなったんだ…。


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