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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
妖精編
31/138

解呪とテイムと妖精と

男女比が…。いい男キャラ出さないと…。

~教会~


「う、うーん。痛い!え?ここどこ?」


 アンが無くなった腕の痛みで目を覚ます。混乱するまま辺りを見回すと、隣には抱き着くようにオリーが寝ていてベッドに二人で眠る形となっていた。朦朧としている記憶では、ぼろの麻の服を着ていた筈だが、心地いい生地で作られた服を着せられていた。奴らの気まぐれで残った左腕には奴隷としての腕輪が嵌められており、確認すると、


「マモル・アカシミヤ?」


 いつの間にか主人が登録されている。禁則事項として逃亡禁止と、自傷行為の禁止が設定されていた。設定としては必要最低限。傷も全て塞がっているし、最初の船旅から出ていた高熱もない。

 死にかけていた時にぼんやりとしていた意識が急に覚醒した反動と痛みで、アンの頭の中は様々な情報がぐちゃぐちゃになる。とりあえず、分かることは生きている、ただそれだけ。


「失礼します。おや、目覚められたようですね。これを飲んでください。痛みを誤魔化す薬です。」


 目の前の赤い瞳を持った人物、メイアに言われるまま、アンは薬を飲み干す。痛みが引き、頭の中が鮮明になる。そして、自分が如何に軽率な行動をしたのか、自分を心の中で罵った。


「毒ではありませんよ。」

「なんで、分かったの?」

「勘です。それとここはリヒト教会です。護様たちを呼んできますね。オリーが目覚めれば話をしましょう。それまで、ゆっくりしていてください。」

「う、うん。」


 アンは教会というフレーズに混乱する。嫌な記憶を思い出し、冷や汗が流れる。身体が思うように動かず、せめてもの思いで片手だけを構える。しかし、いつまでたっても記憶に出てきたあいつらは来ない。

 落ち着いたところで、アンは改めて体を確かめる。傷跡は残っていた。自分を傷つけた武器は呪われており、傷は癒せても跡は残ってしまっている。

 やや遠くにある鏡を見る。顔にも傷跡は残っている。長い耳は左耳が欠けていて、整っていた女性としての美しさはほぼ消滅している。朦朧としていた時にあいつらが下碑た笑いをしていた記憶が蘇る。心臓が早鐘を打ち、痛み止めを飲んでいるはずなのに、顔の傷が痛んだ。

 しばらくの間、鏡には慟哭し、身体を震わせる少女が映っていた。


「アン?」

「オリー?」

「よかった、目覚めたのですね!!」


 しばらくして目を覚ましたオリーが、アンを抱きしめる。そして、アンの赤く充血した目に気づいたオリーは顔を険しくする。


「ねぇ、オリー。私…」


 静かに抱きしめ、枯れ果ててしまったようなアンを慰めるオリー。扉が叩かれる。


「入ってもいいか?」

「少し待ってください。私の方で合図します。」

「分かった。待つ。」


 自身の心が落ち着くまでオリーは護たちを待たせる。オリーから許可が降り、護たちが部屋に入った。


(最低限の説明だけにしておくべきかな。)


 一気に状況が変わったのだ、気持ちを整理する時間は必要だろう。

 護は部屋では狭いので、教会を案内しながら説明することにした。暗い表情をしている二人の気分転換になればよいし、実際に見てもらった方が早いためだ。


「初めまして。俺が君たちの主人になっている明石宮護だ。護と呼んでくれて構わない。それでなんだが、部屋を出て、歩きながら話そうと思う。ここじゃ、狭いし実際に見てもらった方が早い。」

「教会内部の施設を…案内します。しばらくは、ここで生活しますから。」

「っ。…私たちはエルフです。人目を引きませんか?」

「この時間帯だと、教会に所属している人しかいない。問題ないと思う。不安ならフードを被って見えないようにしてくれ。」

「分かりました。」


 護は教会という言葉に二人が反応したのを気にかけながらも、メイアに合図する。

 メイアが二人に外套を渡す。二人が顔が見えないようにしたところで、部屋を出た。

 階段を下りると、ナヒーリヤとペルティ、ケレスが話しこんでいた。こちらに気づく。


「起きたのか。」

「そこのお嬢さんたち、二人の部屋に関してなんだけどねぇ、しばらくはあんたとメイアの部屋で寝泊まりさせてやってくれないかい?」

「分かりました、ケレスさん。部屋がないことは知っていますから、どうにかします。」

「頼んだよ。」

「アカシミヤさん、そこのお二方は?」

「アンとオリーだ。訳ありなんだ。一緒に生活することになった。」

「そう一緒にですのね。アンさん、オリーさん、ペルティと申しますわ。今日はルナを外で待たせてしまっているので、ご機嫌よう。」


 ペルティは優雅に一礼すると、宿舎を出て行った。オリーが『サヨウナラ』とエルフ語で見送った。それを聞きとれたのは護とケレスだけだ。

 ケレスは二人をまじまじと見つめると、腕を組む。


「本当にエルフなんだね。久しぶりに聞いたよ、エルフ語。ただ、あまり使わない方がいいね。知っている奴はいるから、面倒だよ。王都じゃかなり珍しいからね。」

「気をつけます。」

「護、訓練場に残っている馬鹿どもがいる。とっとと戻るように言え。」

「分かった。」

「それじゃあな。ケレス、改築計画の書類はゴロンゾに渡しておいてくれ。」


 リヤお義姉さまも、宿舎を後にした。ケレスも自室に戻るようだ。

 護たちは、食堂を紹介した後、訓練場へと向かう。確かに、喧騒が聞こえるということは、まだ鍛錬している面子がいるようだ。

 アンの身体が一瞬震えたが、それに気づいたのはオリーのみ。オリーは、アンを励ますように手をそっと握った。


「もうそんな時間なのか。助かったよ、マモル。」


 一人の騎士はそう言って、撤収を始めた。

 ログが表示される。二人の顔を見ると、少し顔色が悪い。護は訓練場をすぐに後にし、教会へと向かう。すると、建物の前で、アンは立ち止まってしまった。護たちも足を止める。


「大丈夫ですか?」

「いや、嫌、御免なさい、御免なさい。御免なさい…」


 アンは拒絶と謝罪を何度も繰り返す。それは許しを乞うようで、また、恐怖で声音が震えていた。


『アン・マンタスのトラウマを検知。精神が非常に不安定です。オリーの精神も不安定化する危険性があります。すぐに対処してください。』

(とにかく、この場を後にした方がいいか。にしても、教会で一体何があったんだ?ろくでもないことは間違いことは確かだ。)


 護たちは教会から離れる。アンの異常な様子は治まったが、巫女である彼女が神に対して怯えるなど、セレスとは対照的だった。

 アンたちを鑑みて、その日は何もせずに夕食をとり、入浴をして眠ることに。入浴に関して、二人だけで入浴したいとのことで、最後にしたようだ。入浴時間が丁度終わった頃、メイアが作成した服を着た二人が部屋に戻ってくる。


「二人はベッドで眠ってくれて構わない。俺たちは寝袋で眠る。」

「嬉しいのですが、本当によろしいのでしょうか。」

「不満か?」

「いえ。奴隷の扱いだとは思えなくて…。」

「そうか、先に話しておくと、奴隷から解放するつもりだ。他人を強制してまで従わせる趣味はない。来るべき時が来れば、二人を解放する。」

「来るべき時って?」

「ここの神様曰く、迎えが来るらしい。とりあえずは、その時までだと考えている。」

「「…」」


 二人の反応はぎこちない。奴隷から解放すると言ったはずだが、喜ぶ様子もなかった。

 アンが護に尋ねる。


「迎えって誰?同族エルフは嫌。それなら、貴方の奴隷でいる方がいい。」

「分からないが…。もし、迎えがエルフだとして、俺たちについて来るつもりなのか?」

「私はそう。あいつらも、人族も嫌い。でも、貴方たちはまだ、信じられる。もう、いじめられるのは嫌。魔法も、綺麗な体でも…ない私の居場所は奴隷で十分。」


 絶望を纏ったアンに護たちは黙り込む。年相応の彼女の心はすり減ってしまっていて、護が自傷行為を禁止していなければ、自ら命を絶とうとしていただろう。


(これで良かったのか、自称光の神?彼女にとって生きることは地獄かもしれないのになぁ。)


 見ているだけで護も心が病みそうになる。どうにかしないと、悪影響が出てくるだろう。


(確かに、俺が適任なのかもしれないが…。はぁ、やるか。)


 護はアンのために手を尽くすことを決める。放っておくことはできない。

 アンと彼女を宥めていたオリーがベッドの上で眠った後、護たちも眠ることに。流石に寝袋一つに二人は不可能だったので、別々に眠る。メイアが残念そうにしていたので、護は口づけをいつもより長くするのだった。


~『完全なる図書館』~


「ここに来るのは避妊に関することを探して以来か。」

『司書様、今回はどのような要件でしょうか?』


 セレスと契りを交わして数日経った頃、護はスキルを使用して避妊について調べていた。二人と契りを結んだことによって、子供や夜の営みをどうするか、決めておきたかったからだ。結論から言うと、避妊に関しては挫折した研究結果が沢山でるだけで、コンドームといった避妊具はこの世界になかった。それを知って以来、余計にヘタレている。

 前回の散々な結果に苦笑いしながら、今回の検索をどうするか悩む。


「四肢欠損を再生する方法、呪いの武器についてで、頼む。」

『検索した結果、再生に関する本、研究等の記録は4450件、呪いの武器については53件になりました。』

「呪いの武器を優先、さらに解呪方法を条件に追加してくれ。」

『3件です。』

(さて、どんなものかな…)

 

 アンとオリーが呪いにかかっていることは二人を治療した時にセレスたちが教えてくれていた。呪いについては彼女たちも詳しく知らないようで、お手上げ状態だったのだ。

 これから呪いの類と遭遇しないとは限らない。アンたちを助けることにもなるし、対策が打てる。

 集中して護は読み進めていく。一冊は似非というか、オカルトの部類だったので早々に読むのを止めた。そしてもう一冊を呼んだところで、該当の項目を見つける。


「なるほど…」


 見つけた内容によると、呪いの武器とは、特殊な儀式に条件を満たす、例えば、色欲Lv5以上の男女を集め、性行為の狂乱を起こす。そして、発生した狂気を魔法とスキルの力を利用して固定し武器に込める。すると、切りつけた敵を強制的に発情させる武器の出来上がりという訳だ。

 傷跡を残す武器の元となった感情は「嫉妬」。要するに相手の美貌などを妬む気持ちを固定した呪いだ。呪いとしてはレベルが低いことが幸いである。ちなみに、色欲の方が難度が高い。

 そして、肝心な解呪方法なのだが、作成の際、魔法とスキルを利用したわけだが、解除するにも二つの力を利用する必要がある。


「光魔法Lv5以上と、浄化でいけそうかな。解呪スキルをもつ人を探す必要がないのは良かった。」


 三冊目でも確認し、確証を得た護は、腕の再生を調べることにする。

 こちらは難航した。どれも神話のような話ばかりだったのだ。知恵ある龍が癒したのだの、天使が癒したのだのと、奇跡の存在と遭遇し回復した話が大半だった。


「お、これは。」


 検索でおとぎ話関連を削ぎ落した結果、残った記録の中に、見慣れた名前がある。


「ムーンナイト・トルメイマか。この人、本当に何でもやっているな。」


 職に関することから避妊、そして四肢の再生まで、あらゆることに手を出している存在が出した結論を目に通す。そして判明したことは、


「無理か。LPを回復させる際に、エリクサーを使えば生えるらしい。しかし、一度完全に失ったままLPを回復させると、不可能になるのか。それじゃあ、アンは治らない。」


 アンの腕の再生は不可能という事実だった。記録の最後には世界樹の新芽を使ったポーションであれば、可能かもしれないという、推測は書かれている。しかし、それに関する記録はなかった。


「もしかしたら、できたのかもしれない。記録として残していないだけか。本人に聞いてみたいところだが…」


 ムーンナイト・トルメイマが生存しているか不明だった。もうすでに亡くなっている可能性の方が高い。

 護は腕の再生は諦めて、次善策を検索する。


「義手で検索してくれ。」

『検索の結果、345冊の本と、594件の記録が見つかりました。』

「物語を除外しろ。」

『物語を除外した結果、23冊、349件まで減ります。』

「適当にとってみるか。」


 護は適当に目についた本をとる。題名は「万能!!スライム義手!」というものだ。

 内容は、テイムしたスライムに命じて、腕や足を再現させるというもの。興味深いのは、スライムと感覚を共有することによって、あたかも自分の手足のように動かせるというところだった。

 スライムとの感覚共有に必要なものとして、とある植物の実の摂取があった。その植物は、エルフたちが住まう樹海で生える植物であり、王国内では自生していないことが書かれていた。

 護は他の本にも目を通してみるが、スライムを使った義手については書かれていない。スキル使用限界時間が訪れたため、一旦、護は意識を闇に落とすことにするのだった。


~宿舎~


「アンとオリーの呪いを解けるかもしれない。」

「本当ですか!?」


 オリーが声を大きくして驚く。護が落ち着くように言うと、オリーは気まずそうに椅子に座った。オリーの隣にいるアンもそわそわしている。

 護は、そんな二人と隣の部屋で待っていたセレスを連れて一階のある部屋を訪れる。扉を叩くと、


「いらっしゃい、マモル君。私に頼みたいことって?さぁ、入って。」


 魔物行進モンパレ戦時にお世話になったミアノが扉を開けて入るように言った。

 四人は部屋に入る。かなり整理されていて、頻繁に掃除をしているのか綺麗な部屋だった。


「これだけの人数がいると狭いわね。」

「すいません、ミアノさん。リヤお義姉さま曰く、一番『浄化』のレベルが高いと言っていたので。」

「合っていると思うわ。『浄化』のレベルは7。マモル君の力になれそう?」

「はい。」


 護はセレスとミアノに二人で同時に、光魔法による回復と『浄化』をアンとオリーにかけてほしいと頼む。これが呪いを解く方法だと説明した。


「簡単なお願いね。セレスちゃん、魔法のイメージはできたかしら。」

「…できました。」

「じゃあ、試してみるわね。『浄化』」

「『ハイ・ヒール』」


 アンの身体が白色と黄色の光に包まれる。徐々に二つの光は混じり合い、輝きを増していく。


「はぁ、はぁ。身体が熱い…」


 アンは片腕で自分の身体を抱きしめ、蹲る。男である護が見るにはかなり刺激的な様子になっている。

 それよりも護は、アンの傷跡に注目していた。


「よし。」


 傷跡が消えていく。その際、黒い霧のようなものが抜けていくのが見えた。おそらく、呪いだろう。

 光が完全に混じり、一つの光となった。


「はぁはぁ、駄目っ!!」


 それと同時に、アンは激しく体を震わせてぐったりする。そして、光が収まる。


「ご主人様、アンの身体を確認したいので、後ろを向いてください。」

「お、おう。」


 オリーにそう言われて護が後ろを向き、その間にアンの身体を女性三人が傷跡が残っていないか確認している。


「綺麗な肌。羨ましいわ。」

「…お人形さんみたいです。」

「よかった、本当によかった…」

(凄く気になる…。)

『アン・マンタスの絶頂を確認。合意によるものであると判断。』

(こんなこともログに反映されるのか。食べ物に関してはログが出ることを知っていたけど…)


 ログ表記に頬を引きつらせながら護は待つ。許可が下りた頃には、顔を真っ赤にしたアンと涙ぐんでいるオリー、どこか呆けているセレスとミアノが。


「次はオリーも頼む。」

「はっ!!…お姉さんたちに任せなさい。セレスちゃん、やるわよ。」


 解呪し始めると、オリーもアンと似たような状態になる。護の視線に気づいたオリーが見ないでと懇願した。それに対して、護の心臓は跳ね上がる。艶やかな声に思わず釘付けになってしまう。

 セレスの冷たい視線を感じて、護は視線を逸らした。それと同時にログが。


『オリー・ドゥフトの二回目の絶頂を確認。合意によるものであると判断。』

(うっ、すごい罪悪感が。二回目?)


 オリーの傷跡も綺麗になくなっていた。アンとオリーがお互いに抱き合って喜んでいる。

 護の隣にそっとセレスが寄ってくる。護は冷や汗をかいた。セレスの瞳には光がない。


「護さん、ずっと思っていたのですけど…。メイアさんやオリーさんのような侍女が好きなのですか?」

「そ、それは…」

「オリーさんの時の護さんの視線が、すごく厭らしかったです。…もしかして、女の子をいじめるのが、好き…」

「絶対違うから。侍女が好きなのは認めるけど、女の子を虐めるなんて、俺にはできない。」


 護は肯定と否定を返す。セレスの瞳に光が戻って来て、護の腕をとる。


「分かりました。…メイアさんに頼んで、メイド服作ってもらいます。」

「セレス、セレスはそのままでいいんだ。」

「…そうでしょうか?護さんがそう言うのであれば、着ませんが…」

「いちゃついているところ悪いのだけど、マモル君、朝の約束覚えてる?」

「ごめん、セレス。先にアンとオリーを連れて、食堂で手伝っているメイアと合流してくれ。」

「護さんは?」

「ミアノさんたちと共に、掃除をしてくる。」


 護はミアノに協力を頼んだ。その見返りとしてミアノは、護に教会の掃除を手伝うことを要求したのだ。

 セレスは渋々といった形で、二人を連れて部屋を出ていく。

 護とミアノだけが部屋に残った。


「ありがとうございました、ミアノさん。」

「どういたしまして。教会を綺麗にしに行くわよ。」

「はい。」

「あっ。一つ聞きたいの。」

「どうかしましたか?」


 ミアノは護の顔をじっと見つめると、


「新居にはいつ移るの?お嫁さん二人に、奴隷の二人でしょ。一つの部屋で過ごすには狭いし、ここは改築するから、結局しばらく住めなくなるし。新たな拠点は必要よ。」

「まだ、決まっていませんが、メイアのおすすめで、この地区の外縁部にある屋敷を買おうと思っています。そこはかつての大商人が住んでいた屋敷らしいのですが、ちょっと訳ありで安いので、買おうかと。ミアノさんの力をまた借りるかもしれません。」

「あら、そうなの?力を貸すから、そこに住ませてもらえないかしら?」

「えーと、二人と相談してからで良いですか?」

「お願いね。」


 二人は教会に行き、『浄化』をフル活用して綺麗にしていく。そうして、護の『浄化』のレベルが1上がるのであった。


~昼過ぎ~


「護様、これからどうするのですか?」

「スライムをテイムしにいこうと思う。」

「どうして?」


 アンたちと食事を終えた護はメイアとアンを連れて、工区へと向かっていた。スライムを調達するためだ。ちなみに、オリーはセレスと共にリヤお義姉さまに捕まり、ペルティたちと魔法を鍛錬している。

 疑問に思っているアンに、護はスライム義手を説明する。使うことになるアンは微妙な表情だ。


「それって、私の言うことを聞くの?私はテイムできないよ。」

「多分、大丈夫だ。それと、アンに聞いておきたいことがある。」

「何?」

「エルフの国に行くことになる。ついて来るか、それとも待つか?」

「貴方たちが守ってくれるならついていく。それに、私は奴隷。貴方は好きじゃないかもしれないけど、命令すればいい。合意しているから股を開けと言われれば、開く。」

「そんな自分を卑下に扱う必要はないだろ。それにしても、アンは俺のことどう思っているんだ?」

「女たらし。女の子ばっかり助けてるって聞いた。」

「ぐはっ。」

「でも、私は貴方の奴隷。しかも、貴方のおかげで呪いは解けて傷跡はもう残ってないし、腕もどうにかしてくれようとしている。それに、私にはもう同族に居場所はない。今は貴方の傍にある。…だから、私を捨てないで。」

「…」


 彼女にとって、奴隷という立場はある種の拠り所になっている。縋るような視線に護は何も答えることができなかった。絶望に染まっていた昨日に比べれば依存など、マシなのかもしれない。

 メイアはアンに鋭い視線を向けている。どこかで、殺し合いが起こらないことを祈るしかなかった。


「相変わらず、多いな。」


 店の前には行列ができており、護たちは並ぶ。十分後、店に入ることができた。

 店内はいくつかの個室に分かれているようで、カップルが満足そうに出て行った後の部屋に入るように指示される。


「いらっしゃいませ。ローションスライムですか?それともノーマルのスライムにします?」

「「「……」」」

「無言にならないでください。そんな冷たい目で見られると…」


 顔を赤くして興奮されても困る。護はとっとと済ませてしまおうと決心した。


「テイムに関して、話が聞きたい。」

「話って言われましても、この水晶を使うだけですよ。」


 店員は、冒険者の時に使用した水晶にそっくりで、色違いの水晶を取り出す。

 護は手をかざす。すると、水晶から力が流れ込んでくる。ステータスを確認すると、『テイム』が職スキルの欄に追加されていた。


「同志ですか。ようこそ、テイマーの世界へ。」

「そういうのどうでもいいから、ノーマルのスライムをテイムさせてくれ。」

「お厳しい~!!はぁ、これがノーマルの無限の可能性をもつスライムですよ。」


 彼女の手には透けてコアだけが見えるソフトボールくらいのスライムが乗っていた。

 護はスライムのひんやりするボディに触れながら、力を流す。力がコアに触れた途端、護とスライムに奴隷との契約に似た繋がりが構成された。

 テイムした魔物のステータスを見ることができるようだ。


     (スライム) Lv2

  LP 5  MP 4

   STR 3  AGI 3

   TEC 1  END 5

   INT 3

一般スキル

特殊  吸収 変異 分裂


(よ、弱い…)

「名前をつけてあげてね。」

「アンがつけろ。」

「私?……ハイドロがいい。」

「分かった。お前の名前はハイドロだ。」


フルフル


 スライムもとい、ハイドロは震えることで答える。実に可愛らしかった。アンの興味も引けたようで、指先で突いている。

 この店はテイマーのギルドにもなっている。一応、テイムした魔物を報告すると、ギルド公認の管理タグが渡されて、問答無用で討伐されることはなくなるようだ。


「テイマーへの料金はタダです。御覧の通り、売り上げは上々だから、テイマーへの支援は無償で行っている訳ですね~。これを渡しておきます。参考にしてね。」

「魔物扱いマニュアルか。助かる。」


 ハイドロに管理タグを取り込ませ、見えるようにした後、店を出た。日は南西にあり、何をしても中途半端になるため、教会に戻ることに。

 訓練場を訪れると、騎士たちは休憩、オリーとペルティが魔法で動物をかたどって制御していた。

 炎の鳥と、水の牡牛が戯れ、触れ合うか合わないところのぎりぎりの距離を保つ。しばらく魅せるようにその演舞を続け、最後は正面からぶつかって蒸発した。

 騎士たちは拍手をし、次は守護魔法師たちの光の乱舞が始まる。


「戻ってきたのか。早かったな。お前たちに客が来ている。」

「客?」

「俺もついていくから心配するな。」


 リヤお義姉さまがついて来るというのに、護は嫌な予感がする。確実に面倒な相手であるのは間違いないだろう。

 オリーを呼び、護はリヤお義姉さまと宿舎にある客間へと入る。そこにはアンたちと同じ長い耳を持った男女が。微妙に距離が空いていることに護は気づく。

 アンは護の後ろに隠れ、オリーは護の隣でアンを庇うように立つ。警戒心を剥きだしにし、魔力を発する。いつもでも魔法が打てるような状態にしていた。

 護がそんなオリーの腕を軽く握る。彼女は驚き、集中が途切れる。集まった魔力が霧散した。

 その様子を見ても動じない、男女にリヤお義姉さまが軽く告げる。


「連れてきたぞ。」

「初めまして。私は…」

「抜け駆けは許さんぞ!」


 自己紹介をしようとした女に男はそう怒鳴った。険悪な雰囲気が漂う。リヤお義姉さまが対面のソファーに乱暴に座ると、二人を睨みつけた。

 視線で黙り込ませたリヤお義姉さまは護を隣に座らせる。その護はというと、冷や汗で背中がびっしょりだ。二人からの視線が一気にこっちに向いたからだ。

 リヤお義姉さまは何事も気にしてないように、口を開く。


「この二人は要するにお前の奴隷を解放して、どちら(・・・)かの保護下に置きたいそうだ。」

「神が言っていたお迎えという訳か。」

「それは違うぞ、低俗な人族よ。お前らけだものから同族を守りに来たのだ。」

「…」

「お前ら獣の血が混じることによって、どれだけ厭血流しが行われてきたか。そこの奴隷を解放し、渡せ。災いを振りまく、貴様らの血など、混ぜさせるわけにはいかん。」

(気になることが多いが…。この人すげえ、睨みつけてくるなぁ。)


 完全に悪者扱いしてくる男エルフに辟易する護。

 こうして、争いの種を内側に持ったエルフという種とのファーストコンタクトが始まった。


A:なんちゃってQ&Aを始める。

Q:おー。アンがいつかヤンデレになりそうな展開に。

A:すでに、メイアがいつなってもおかしくないと思うぞ。

Q:主人公の女性関係危うくないですか?

A:そこは主人公補正で…

Q:刺される展開が起きないことを祈ります。


 来訪者のエルフたちとの会話は次回も続きます。アンとオリーのステータスも次回に登場予定です。

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