第三章 プロローグ
と、とりあえず、これで…
~教会内~
「護さん、紹介しますね。フォイアー教会から来たスインさんです。」
赤髪の中に一筋だけ青髪が混じった背の高い女性がセレスの紹介を受けて、護に挨拶をする。
朝食を終え、セレスに手を引かれるまま祈りの時間でセレス以外誰もいない教会に連れてこられた護は驚く。光の神関連だろうとは思っていたが、女性が一人待っているとは思っていなかった。
「貴方が『竜殺し』のマモルさんですね。私の名前はスイン。セレスティアさんがマモルさんと旅路を一緒にしている間、私がリヒト教会の巫女を務めさせていただきます。」
「セレスの夫になった護です。いくつか聞きたいのですが?」
「大体予想がつきます。それを話してからでもいいですか?」
「はい。」
スインは話し出した。まず、事の経緯についてからである。
事の発端はセレスと光の神のようだ。光の神が護はこの先様々な土地を渡り歩き、出会いと別れを繰り返す運命を持っていると言ったらしい。これは転移者の宿命であり避けられないものだと。そしてセレスに聞いたそうだ。「巫女の仕事と護さん、どっちが大切?」と。セレスは即答し、光の神も当然のように微笑み返したという。
今現在リヒト教会にはセレスしか巫女はいない。となると他の教会から余裕がある者を呼ぶ必要があった。それで白羽の矢が立ったのがフォイアー教会のスインとのこと。フォイアー教会には既に男性の神主が役を務めているようで、スインは教会内部では他の魔法使いと同じ生活をしていた。
火の神、神主を通してスインに連絡をし、彼女が快諾してリヒト教会に着いたのが今日だ。朝、護は訓練していたので、気づかなかった。ナヒーリヤが途中訓練を抜け出していたのは、彼女を案内するためだろう。
「なるほど。セレス、俺たちが旅に出るのは確定なのか?」
「そうみたいです。…あっ、神様が直接説明したいそうですよ。」
「むっ。どうやら私を通してするみたいだな。」
通常の口調に戻ったスインがそう言った途端、光の波動が広がる。スインの動きが挙動不審に止まり、髪の色が白色に染まった。そして、開かれた瞳は金色に輝いている。
「ふぅ、スインちゃんの神託のレベルからして、話せて数分ね。お久しぶりね、護さん。」
「ああ。知っているとは思うが、セレスとも契ったぞ。ただし、あんたのお節介は関係なしでな。それとどういうことだ?」
「あら、酷い。えー、旅に出る運命についてね。」
自称光の神は憑依の具合を確かめるように、手を開いたり閉じたりしている。確かめ終わった後、どこかふざけた雰囲気を消し、真面目な顔をして、話し始めた。
「最初に言っておくけど、運命は不確実だから、旅に出ず、このままずっといることはできるわ。それだと、悲惨な運命をたどる子が一人出てしまう。だから、助けたいの。」
「助ける?誰を?」
「エルフの巫女よ。」
「エルフですか?」
護とセレスは驚く。エルフという存在であることと、巫女ということの両方にだ。
自称光の神は二人を見据えたまま続けた。
「そうよ。セレスちゃんは知っていると思うけど、私たち神が人々に対して大きく関与できるのは、魔物と巫女や神主に関して。巫女、神主という血統職は職変更できない代わりに、異性との出会いや窮地に陥った時などに私たちが関与できる。護さんとセレスちゃんの出会いは私が手引きしなければ、起こってなかったわ。」
「つまり、そのエルフの巫女がピンチだということか?それで、助けてほしいと?」
「ええ。後、お嫁さん三人目候補かな。」
「「え?」」
自称光の神は悪戯っぽく舌を出す。その様子に二人はジト目になった。
二人にとって、護の嫁はメイアとセレスの二人で充分間に合っている。これ以上は、護にとってリヤお義姉さまに殺される動機を増やすことになるし、セレスは当然、護と二人で過ごせる時間が減る。メイアがこのことを聞けば、聞かなかったことにし、無視しかねないだろう。
「まぁまぁ、落ち着いて。不確定要素よ。ただ単純に助けて、然るべきところに送るだけでも問題ないわ。あの時は気持ちを応援したかったから、あんなことしたけど、エルフの巫女ちゃんがどう思うか次第よ。」
「そう言え。それで、然るべきところってなんだ?」
「迎えが来るから後で分かるわ。それが、あなたたちの旅の始まり。もうそろそろ限界ね。」
スインの白髪になっていた髪が元の色に戻り始める。もうすぐ、憑依が解けるのだろう。
光の粒子がどんどん発せられていく。粒子の中で、自称光の神は微笑むと、
「歓楽街に行きなさい。自然と分かるはずよ。またね、護さん。エルフの巫女をどうか、助けてあげて。」
そう言い残し、一際光り輝く。護とセレスは眩しくて目を瞑った。
スインの身体から力が抜け、倒れるのを護は支える。まだ、目覚めない彼女を椅子に横たわらせる。しばらくすれば、目を覚ますだろう。
教会の扉を開き、メイアとガンドルフ、エトリアが入ってくる。その後ろにはリヤお義姉さまの姿もあった。
「スインはまだ目を覚まさないようだな。」
「ええ。リヤお義姉さまは何をしに?」
「あぁ?様子を見に来たのに決まっているだろ。後、確認したいことがあるからな。」
「というと?」
「行くのか?」
ナヒーリヤからの問いはシンプルだった。おそらく、全て勘づいているのだろうと護は思った。
護はセレスとメイアの顔を見てから、答えを返す。
「行く。むしろ行かない選択肢はあるのか?」
「ないな。スインの面倒は俺が見ておくから、とっとと動け。」
リヤお義姉さまが不機嫌になる前に護は、セレスたちを連れて歓楽街に向けて移動し始めた。ガンドルフとエトリアも事情を察しているようで、セレスの護衛復帰だそうだ。情報を共有しながら、喧騒に満ちた道を進む。
そして、王城を通り過ぎ、北西にある歓楽街へと到着した。大半の店は夜に営業をしているため、閉まっている。それでも、いくつかの店は開いていた。
スラムに近い一つの店の前で大勢の人が騒ぎ立てている。流れてくる言葉の中に「エルフ」があった。
「護さん…」
「どうやら、あそこにエルフの巫女がいるみたいだ。行くか。」
護たちは人だかりの中を潜り抜けてみると、大きな鉄檻とその横で大声で客を集める奴隷商がいた。鉄檻の中に入っているのは二人の女性エルフ。その姿に、全員の顔が険しくなる。
(これは酷い…。人目から避けるように庇っているエルフは切り傷が化膿しているだけで、済んでいるようだけど、もう一人は重傷だ。右腕がないし、体中傷だらけだ。意識もなく、LPもかなり不味い。少しずつだが、減っているし放っておけば死ぬ。これは、自称光の神が救ってほしいと頼むわけだ。)
『真理眼』で重症のエルフのステータスを見た護は、彼女たちを買うことを決める。周りにはろくでもなさそうな、人相をした奴らもいる。悲惨なことを避けるには絶対に負ける訳にはいかない。
奴隷商が、オークション形式でこの二人を売るようだ。先ずは、庇っているエルフの方からだ。
「こちらは傷を癒せば、いくらでも使い道があるでしょう。金貨三枚からスタートします。」
「高ぇよぉ。」
金額提示で何人かが離れる。ライバルが減るのは都合が良かった。
「十枚。」
「ちっ、十一枚だ。」
護が一気に上げたことで、ろくでもない奴以外、手を振り諦める。この場を離れている様子を見ると、瀕死のエルフを買おうとする輩はいないようだ。護は知らないが、奴隷の扱いについては年々厳しくなっており、戦闘以外で死なせると罰もある。罰則を犯すリスクより諦めてしまった方が良い。
「十三枚。」
「おい、テメェ。これ以上上げるとどうなっても知らないからな。十四。」
「十五枚。」
「言ったからな。テメェの顔は覚えたぞ。」
「こっちの顔ぶれを見て、そんなこと言えるとは凄いな、こいつ。」
「あぁ?……!!冗談です、冗談なんです。ご、ごめんなさい~!!」
ろくでもない奴は、睨みつけるガンドルフたちに気づいたようだ。顔を青くしどこかに逃げ去ってしまった。
奴隷商が冷や汗をかきながら、残った護たちに声をかける。
「本当に金貨十五枚で買っていただけるのでしょうか?後、傷だらけのエルフの少女に関してはタダでお譲りします。このまま売れないと、私が憲兵に追われる身になってしまいますから。」
「それはありがたい。後、この二人について話が聞きたい。」
「それでいいのでしたら。」
「それから、彼女たちの傷を癒したい。檻から出せないか?」
「畏まりました。では、これを腕につけて魔力を流してください。そうすれば、所有者はあなたになります。注意点ですが、腕に直接つけてください。一度着けると解除しない限り、外れませんので。」
言われた通り、護は腕輪を嵌めて、魔力を流す。すると自身と彼女たちの腕輪が魔力によって繋がった。そして、ステータスのようなメニュー画面が二つ表示される。一つには彼女たちのLP、MP、空腹かどうかなど、彼女たちの状態が表示され、禁則事項の設定画面が映る。主への反逆行為の禁止などの設定だ。護は後回しにして、もう一つを見る。
『明石宮 護がアン・マンタス及びオリー・ドゥフトの主人になりました。』
『禁則事項の設定を行ってください。及び、アン・マンタスのバイタルが危険領域です。すぐに治療を行ってください。』
(ただのログとは言い難いよなぁ。『完全なる図書館の司書』に似ているとは思うけど…)
異世界の謎技術を不思議に思う。魔法の存在があるので、今更驚くものでもないが。
契約が履行されたのを見て、奴隷商が檻の扉を開ける。エトリアとセレスに重傷のアンの治療を任せ、オリーの治療を護とメイアがする。
オリーが魔法の光を見て、アンをより庇うように抱きしめて警戒していたが、それが回復魔法であると分かると、目を見開いていた。しかし、警戒する様子を解除しない。
「あ、ありがとうございます。…貴方は私たちをどうしたいのですか?…傷を癒して弄びたいのですか?」
「まさか。とある自称神様に助けてやってくれと頼まれたんだ。」
「神に?馬鹿な。そんなことするはずありません。アレはそんな存在じゃない。」
「?」
オリーの瞳には激しい憎悪が宿っているのが見えた。神そのものを恨んでいるようだ。
(訳ありか。まぁ、こうして奴隷として売られている時点で、分かってはいたけどさぁ。)
護は、目の前の怒りで顔を赤くした女性を静かに癒す。
しばらくもしない内に、二人の治療を終えた。結局、アンの右腕は傷を塞ぎ、体を蝕む病原菌を殺すので、精いっぱいだった。今は安定した寝息を立てている。オリーも落ち着いたようだ。アンの様子を見て、涙ぐんでいる。
「さて、話を聞かせてもらおう。金貨はその後で払う。」
「承知しました。では、いきさつを話しましょう。」
奴隷商によると、彼自身この大陸で商をやっている訳ではないらしい。護たちがいる大陸の南にある諸島を中心にしているようだ。そして、彼女たちをその諸島で見つけた。その諸島内部では奴隷制を撤廃しており、彼女たちも違法でさらに南の大陸から運ばれたようだ。
普通であれば、見目麗しいエルフはすぐに買い手がつく。しかし、彼女たちはその頃から傷だらけであり、管理状態も最悪であったことから、アンはほぼ死人同然、そんなアンを守るオリーも不気味がられ、スルーされたようだ。
買い手がおらず、処分しようとしたところを、この奴隷商の重鎮が買い、奴隷商に一応奴隷制度が残っているアスタイト王国で売るように命じたそうだ。水薬を最低限使用して命をなんとか紡ぎ、この王国へと連れてきたらしい。
(重鎮の行動に謎は残るけど…。それで生き延びられているのだから、二人は運がいいみたいだ。)
護は奴隷商に金貨十五枚を払う。奴隷商が他の商品を見ていかないかと聞かれたが、断る。
アンとホッとしたのか眠っているオリーを男二人で背負い一旦教会に戻ることにした。
二人には外套を着せ、顔が見れないようにしているのだが、周りからの視線が集まる。急かされる様に足を速め、教会へと戻るのであった。
~???~
「あの二人、エルフだったな。」
「女だし、攫ってみる?一人はいい値で売れると思うよ。」
「いや、無理だろう。『堅牢』に『竜殺し』、後『冷血』か?あんな奴らとやり合うのは正直面倒だ。」
「確かに。」
二人の男は閑古鳥が鳴く、バーで酒を飲んでいた。マスターは顔を青くして彼らのオーダーをこなしている。失敗すれば指が飛ぶ。既に左手小指がなくなっていた。
一口飲むと、寡黙そうな男が続けた。
「それに、エルフならあいつらが動く。同族の束縛ほど厄介なものはない。仲間に奴隷がいる、さらに簡単には治せない傷を負っていると知ったら、怒り狂うだろう。それが、王国で起こったことではないとしても。」
「だよね。あの瀕死のエルフを連れてきた奴隷商、共和国の先兵かな?戦争の火種以外、生かす理由ないでしょ。」
「それは分からん。共和国の違法奴隷事件専門の憲兵は優秀だからな。処分するよりも、他に回した方が最善だと思ったのかもしれん。先兵という可能性も捨てられんが、農作物関連は確実にマイナスだ。敵対させて得をするのは武器商ぐらいしか居ないだろう。後はあり得るのは神の思し召しか。」
「どれでもいいや。とにかく、あいつらは動くよね。リヒト教会と敵対するかな?」
「ないだろう。聖女とやり合えるのはエルフでも少数だ。知られている限り穏健派であいつらに協力することはない。それを知っていて、もし襲撃するならば、愚かだな。」
「やりそうだけどね。もし、協力を頼まれても、断るよね?」
「当然だ。」
軽そうな男はその答えに頷く。リヒト教会は強い。裏社会でもアンタッチャブルな存在だ。ここ最近、喧嘩を売った奴らを知っているが、どれも返り討ちにあっている。自分たちまで、二の舞になるのは、御免だった。
「さて、マスター。頑張っているところ悪いが、終いだ。」
悲鳴を上げる間もなく、マスターの首が飛んだ。返り血一滴も浴びずに二人は店を出る。
そこで殺人が行われたことが判明するのは、三日後だった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるよ。
Q:おー。いよいよ三章ですね。今回から、人族以外登場ですか。
A:そうなる。
Q:今まで他種族が全然出てこなかった理由は?
A:本編で出てくるぞ。ところで、エルフは好きかね?
Q:……(露骨に話を変えようとしている…)
こんな感じですかね。彼女たちの過去及び、異種族との関係については、書く予定です。




