閑話 ~勇者の苦悩~
「はぁ、はぁ。またか。僕はどうして弱いんだ…。」
龍志の手にはルマノ・アスタイトが抱きしめられていた。そう、彼女は上半身だけしか残っておらず、下半身は目の前の魔物胃袋だ。虚ろな瞳をそっと閉じ、龍志は折れた剣を構える。
仲間は猛と桃花、るかを何とか逃がすことは出来た。しかし、団長と由奈、そしてルマノが死んだ。目の前のキメラからする仲間の血の匂いが龍志に怒りの炎を灯す。
キメラの飛び掛かりを瞬転で躱し、黒炎を纏わせて切りかかる。キメラは黒炎なぞ効かんと言わんばかりに無視して何本もある触腕を無造作に振るった。それだけで、龍志は吹き飛び、木を十本ほど巻き込む。
激痛に耐え、立ち上がろうとする龍志に追いついたキメラは前脚を振り下ろした。
「…!!。はぁはぁ。」
「大丈夫、龍志?今回、すごく長く眠ってたし、汗でびっしょりよ?」
「ごめん、大丈夫だ。いつもありがとう、由奈。」
龍志は汗を渡された手ぬぐいで拭う。龍志と同様に顔色の悪い由奈を心配させないように龍志は笑みを浮かべる。頬を優しくビンタされてしまった。今見た夢は彼女と協力して作ったものだ。どれだけ辛いものを見続けているかは、彼女が一番知っている。
「本当に馬鹿。もう、朝よ。今日は町長との会合があるのよね。頑張ってね。」
「任してくれ。由奈とるかがゆっくり休めるだけの時間とお金は稼いでくる。」
「じゃあ、私は休むわ。」
由奈が部屋を出て行った後、龍志は部屋についたシャワーで汗を流し、王城生活中に用意された正装に着替える。部屋を出て一階に降りると、そこには団長とルマノが待っていた。
「おはようございます。」
「おはよう、ルマノ。おはようございます、団長。」
「起きたか。迎えが来るまで時間がある。その顔色だと怪しまれそうだ。朝食をとって直した方がいい。」
「分かりました。」
龍志は朝食を食べる。さっぱりした味付けで、食欲が失せかけていた龍志でも食べられるものだった。顔色も普通と呼べるレベルまで回復し、ついでに洗濯を宿の従業員に頼み終わった頃、町長からの使いが案内にやってきた。
それから案内されるがまま、町役場らしき建物につく。二階の町長室に入ると、町長は彼女専用の机ではなく、ソファーに腰かけている。
「待っていました、勇者一行様。ぜひお座りになってください。」
「ありがとうございます。」
腰をかけると、彼女の司書が茶を持ってくる。彼女が最初に毒味し、龍志たちにも出される。龍志は一口だけ飲む。異世界の茶はかなり苦く、好みがはっきり分かれる。王城では由奈が砂糖たっぷりで飲んでいた。
龍志は女町長と目が合う。彼女が何を思っているのかは分からない。ただ、その顔は女傑らしく凛としていた。
「早速始めましょう。この度は町を救っていただきありがとうございました。昨夜、王からの勅命も受け取っております。確認なされますか?」
「はい。」
町長はルマノに一つの羊皮紙を渡す。そこには勇者一行へ様々な便宜を図れ、という内容と王自らが署名したことを表すサイン、そして玉璽による印が押されている。
ルマノはグンガイ団長とも確認し、町長に返した。
「本物と確認なされたようなので、続けたいと思います。私どもが考えておりますのは、白金貨一枚ほどの資金提供と宿及び食事の費用負担、この町一番の鍛冶師への優先依頼の受付と半額負担です。」
「期日はありますか?」
「いえ、この町に滞在してくださる間は、全て負担させていただきます。賢者様と女剣士様が体調を崩されておられるのは、存じておりますので。ゆっくり体調をこの町で整えてください。」
「ありがとうございます、町長。」
「この町の被害が大きくなれば聖女が動いたでしょう。かなり怖いお方と聞いているので、何を言われるか怯えていたところを、勇者様たちに助けてもらえました。感謝しております。」
龍志は特に他の要求をしなかった。第一の目標である時間とお金の確保は出来ている。鍛冶師への依頼は悪くない。武器の値段が唯一問題だが、そこは後にルマノたちと確認することを決める。宿も最上級のところを使わせてもらっているし、食事もかなりいい。何より、ルマノや団長が何も言っていない所を見ると、悪くない恩赦ということだ。
後は契約書にサインするだけとなった時、乱入者が現れる。
「伯爵、困ります!急に来訪されて、勇者に会いたいと仰られても。」
「うるさい!お前らが儂が勇者を呼び出そうとするのを邪魔しおって。だから、わざわざ来てやったのだ。」
「ハゲルノ伯爵、今はまだ勇者一行様と契約の最中なのですが。」
「関係ない!!貴方が勇者様!?ぜひとも今から我が屋敷に来ていただきたい。」
頭が悲しいことになっている伯爵は龍志に寄ってくる。体を引きながら龍志は、ルマノに視線を送り助けを求めた。
視線を受けたルマノは伯爵に、
「ハゲルノ伯爵。」
「これはルマノ第二王女様、ご機嫌麗しゅう。」
「いきなり押し寄せてきて、何事ですか?」
「そ、それは…」
明らかに低く、不機嫌な声に興奮は冷め、伯爵は顔が引き攣る。相手は王女。彼女が王に文を送るだけで、下手をすれば首が飛ぶかもしれない、という事実が伯爵を縮こまらせる。
「急用ではなさそうですね。貴族としての品格を貶めるような行動は慎んでくれませんか?私、貴方たちのようなお方を心底嫌っているのです。邪魔です、すぐさま屋敷で大人しく民のために励みなさい。…さもなくば、分かっていますよね?」
「は、はいぃぃぃ!失礼しましたぁぁあ!」
伯爵は涙目で走り去っていった。申し訳なさそうに町長が改めて謝罪する。
龍志たちは気にしていないことを伝えると、契約という証明を終え役場を出た。
ルマノは緊張を解き、表情を和らげる。疲れているのがすぐに分かった。
「やっぱり、演技をするのは疲れます。私には向かないです。」
「でも、そのおかげで何とか乗り切れたよ。ありがとう。」
「龍志さんにそう言われると、何だか嬉しいです。」
和む二人に水を差すようにグンガイが前に立ち止まる。建物の影から数人、武器を持って現れる。
一番前に立つ男が叫ぶ。
「何故だ、勇者。どうして俺の妻は死んで、この町の奴らはのうのうと生きているんだ。なぁ、教えてくれよ。お前たちがもっと早く来てくれれば、妻は死ななかったのに!!」
「そうだ、そうだ!!」
各々は怒り、泣き叫ぶ。今でも飛び掛かってきそうな勢いだ。
対する龍志には、彼らがどうしようもない怒りと悲しみをただ自分たちにぶつけて、満足したいだけなのだとそう思った。これは彼らが立ち直るきっかけを手に入れるまでの呪いのようなものだとも。
共感はできても行為そのものは許すことができない。武器を振るってくるのを受け入れる必要はない。ここで自分たちが倒れる訳にはいかないのだから。何より気を病んでいるのは自分の仲間たちだ。
「剣を引いてください。もしかかってくるのなら、容赦はしません。」
『!!』
「ひぃ…」
龍志の殺気に動きが止まる。一人は悲鳴と共に短剣を落とす。恐怖が場を支配した。戦意を喪失し、へたり込むかその場で石になったかのように動く者はいない。
しばらくもしない内に憲兵たちが騒ぎを聞きつけてやってくる。彼らは次々と拘束されていった。
その様子を見送った後、気を許した龍志が倒れる。グンガイは倒れないように受け止めた。そして、慌てるルマノに落ち着くよう言う。
「緊張の糸が解けただけだ。しばらくすれば目を覚ます。」
「龍志さんを運んでもらえますか?宿に戻ってゆっくり休んでもらわないと。一番無理してるのは、龍志さんですから。」
「そうだな。ゆっくり眠らせないと、今回のように倒れかねん。」
グンガイが龍志を背負い、二人は宿へと歩き出した。
~夢の中~
「あそこにいるの、攫われた人じゃない?」
「やっと見つけた。早く助けて脱出しないと。」
龍志は迫りくる触手どもを圧倒的なステータスで切り捨て道を切り開く。切られた触手の断面は焦げており、厄介な再生能力の発動を許さない。
隣では同じように炎を纏った剣を振り焼き払う団長と、ルマノは笑いながら伸びてきた触手を掴み、別の個体へと投げ飛ばす。重なったところを由奈が魔法で焼き払った。
彼らは難なく、攫われて半裸の女性たちの元へとたどり着く。すぐさま、団長は『アイテムボックス』から一枚の板を取り出した。
「龍志、そこの二人を乗せろ。俺はこっちを乗せる。」
「分かりました。」
「由奈さん。」
「分かっているわ。『フレイム・バリアー』!」
炎の結界が半円状に展開し、龍志と団長は女性たちを次々と女性を乗せていく。その度に板は大きくなっていく。これは救助用の魔道具で、人を大量に運ぶ時に使うものだ。魔力で浮かびあがるのだが、押して運ぶ必要があった。
「全員乗せ終わったぞ!」
「団長、私が押します。」
「由奈、結界を解いてくれ。一気に進む。」
由奈がグンガイの指示通り結界を解く。すると近くから女性の悲鳴が聞こえた。
「まだ、近くにいるわ!!」
「龍志、由奈とルマノ王女は任せろ。今のお前なら負けることはない。」
「頼みます!!」
「龍志さん、お気をつけて。」
「この人たちのことは任せなさい!」
龍志は剣に炎を纏わせ走り出す。グンガイたちも離脱するために動きだした。
悲鳴が聞こえた方に近づくにつれ、触手の死骸が増えていく。まだ女性は抵抗しているようだ。
龍志は自分のステータスにものを言わせて全力で駆ける。急ぎつつもステータスを開き、最終確認をした。
朝野 龍志 (男・17歳・人族)職 勇者Lv27
LP 478 MP 280/469
STR 503 AGI 498
TEC 530 END 483
INT 491
一般スキル 剣術Lv4 魔法(火・水・風・光・闇)Lv4 集中Lv5
不屈Lv2 指揮Lv2 栽培Lv1 裁縫Lv1
職スキル 瞬転Lv2 限界突破Lv1
エクストラ 言語理解
生命値《LP》は満タン、魔力量《MP》は充分ある。後は救うことだけだ。
「いやぁ、来ないで!!」
「見えた!いけぇぇ!!」
龍志は剣を縦に振る。延長されるように伸びた炎の刃が女性の両手両足に巻き付いた触手と不穏にうごめく一本を切り裂く。魔物と化したドルケの悲鳴があがる。怯んでいる隙に龍志は女性とドルケの間に割り込んだ。
「貴方は…?」
「助けにきました。」
「!」
女性はどこか後ろめたそうな表情をしているのだが、龍志はドルケに注意を払っており、気づかない。
触手を微々ながら再生させ、憤怒に満ちた瞳で龍志を捉えた。禍々しい魔力の波動と憎悪が渦巻き、女性は恐怖から後ずさる。
「クロカミ…。マタ、ジャマヲスルノカ…」
「また?」
疑問に思った龍志。しかし、何本もの触手が襲い掛かってくるため、思考を振る余裕がない。憎悪により強化され、段違いの硬さと太さになった触手は、龍志を容赦なく貫こうとする。
龍志は影を操り、複数の触手を少しの時間だけ縛った。時間差で一本だけ来るように調整し剣で弾く。重い手ごたえをものともせず繰り返す。次第に様子が変化してきた。
「…」
「す、すごい。」
触手は弾かれるのではなく、切り飛ばされ燃え尽きる。対処する触手が一本から三本に増えているにも関わらず全てだ。龍志の動きが洗練されていく様子を女性は目撃する。
「シネッ!!」
「…」
「え?」
再生が追い付かず残った触手を一本に束ね、龍志へと襲い掛かる。
突き刺さる瞬間に龍志の姿が消えた。ドルケと女性が虚に囚われる。そして、ドルケの首が飛んだ。
「はぁはぁ、もう大丈夫ですよ。」
いつの間にか剣を収め、手を指し伸ばしてくる龍志に驚きながらも手を握り返し立ち上がる女性。
二人が拠点近くまで戻った時、様子がおかしいことに気づく。やけに静かだ。急いで龍志は女性を抱っこして走りだす。こちらの方が速い。
たどり着いたとき、女性は口元を押さえ吐き気を堪える。龍志は呆然となった。そこには助けた女性たちの成れの果てと触手の死骸、青ざめたまま血まみれになった剣を握る、るかがいた。ルマノが吐いている由奈の背中を擦って、惨劇の場を後にしようとしているのが見えた。
混乱している龍志は女性を降ろし、亡骸を丁寧に運ぶよう指示を出すグンガイ団長に近づく。
「何が、あったんですか。」
「龍志、よく無事で戻ってきた。…手遅れだった。もうすでに種は植え付けられてあって、それが目覚めた。るかが一番近くにいて、目覚めて間もない眷属を全て切り殺した。だが、女性たちはここにいる魔法では治せないほど、損傷が酷く助けられなかった。」
「そんな…。」
るかが剣を落とし、倒れる。龍志は慌てて駆け寄った。気を失っただけだ。その後、龍志たちは宿でその日は休むことになる。女性たちの亡骸が瞼の裏から外れず、眠れない夜を過ごす。天井を見つめていると、
「龍志さん、龍志さん。」
声がどこからか聞こえる。起きあがろうとすると、景色がぼやけていき…。
~宿・龍志の個室~
「う、う~ん。…あれ、ここは?」
「起きましたか。龍志さんの個室です。」
「確か、今日は町長と…。」
「はい。あの後、倒れてしまって、ここに運びました。」
「団長にはお礼を言っておかないといけないかな。」
龍志は、心配そうに見つめるルマノを撫でると同時に夢を思い出す。あの人型の魔物との戦闘から惨劇まで、夢で追体験していたようだ。あれ以来、由奈とるかは悪夢を見るようになった。そして龍志は、悪夢を作り、仲間の死を体験し始めた。
扉を叩く音と桃花の声がする。龍志が扉を開けると、申し訳なさそうな桃花が立っていた。
「ごめんなさい~、龍志さん。少し、空きベッドで休ませてもらえませんか~?」
「いいよ。その間は下にいるから、目覚めたら声をかけて。」
「ありがとうございます~。」
龍志は、ルマノを残し桃花と入れ替わりで部屋を出ていく。一階に降りると不機嫌そうな猛がいた。猛の隣に座り、外を眺める。
そんな龍志に猛が話を切り出した。
「なぁ、委員長が降りてきたということは、また桃花の奴眠れてないのか?」
「そうみたいだ。るかは眠れずに荒れているし、面倒を見てくれている桃花は眠れてない。今は団長が扉で様子を見てくれているよ。」
由奈は気持ちから熱を出し、悪夢にうなされながらも回復に向かっているのに対して、るかは悪化していた。眠ろうとする度、るかは女性のお腹を突き破って出てくる触手を咄嗟に内臓ごと切り裂いた時を夢見る。感触と血の温度、匂いが苛むのだ。泣き叫び目を覚まし、自分の手を見ると、まだ血がついているように見え、手を洗いに水で洗い流す。激しくしても落ちない。そして、逆に自らの爪で傷つけ始めるとその血で余計に流そうとする。桃花が止めなければ、気を失うまで続けていただろう。
食欲を失い、痩せこけていた。手と腕は癒しているがすぐにぼろぼろになる。眠れないため、目が充血し髪も白髪が何本かちらほら見られた。そんな状態のるかを一度猛は殴った。すぐさま龍志たちは止めたが、以来、猛はるかに苛立っている。
「るかを置いていくつもりはないのか、委員長。」
「置いていける訳ないじゃないか。俺たちはこれ以上誰かを見捨てて進むつもりはないよ。」
「あいつが治るとは、俺は思わねぇ。」
吐き捨てるように言うと、猛は二階の自室に戻っていった。
龍志はため息をつく。今日会った公爵レベルではルマノがいるため、圧力をかけてくるのはほぼ不可能だが、それより上が旅を急ぐように働きかけてくるかもしれない。最悪、るかを治療院に預けるという選択肢をとる必要があった。
龍志は気を紛らわすように宿の外へ出る。どうやら、勇者であることが広まったらしく、声をかけてくれる人も多い。龍志は笑顔を作って手を振る。心は沈んだまま、花が色々咲き誇る広場のベンチに腰をかけた。
「あっ。」
「あの時の…。」
現れたのは龍志が助けた女性だ。彼女は皮鎧に身を包み、直剣を腰にさしている。
女性と二人きりは流石に周りの目が気になるので、龍志も立ち歩きはじめる。人気が少ない林の方へと。日が暮れ始め、うす暗くなった林を二人で歩く。
「ありがとうございました。あの時、お礼言えなくてごめんなさい。」
「気にしてないですよ。僕にとっては当然ですから。」
「本当にごめんなさい。」
謝り続ける女性を龍志は不思議に思う。どうして謝り続けるのだろうかと。
「何か、気に障ることでもしましたか?あの時、お姫様抱っこしたことが悪かったのなら謝ります。」
「いえ、あれは少し驚いただけなので…。勇者様にとっては誰かのために戦うのは当然ですか?」
「はい。」
「即答できるなんて。」
女性はしゃべりだした。元凶を殺し名声を得るために、わざと攫われたこと。戦えば他の女性を救えたはずなのに、最大のチャンスを狙い凌辱を見過ごしたこと。結局、恐怖で逃げ出したこと。
「誰かのために戦える勇者様からすれば、最低ですよね。自分の都合で見殺しにして、隣の人が壊れるのを見て怖くなって、無我夢中で逃げたんです。勇者様が来なければ、私も同じようになっていました。その方がこんな私の罰になっていたのに、生き残ってしまった。」
「貴方のことを最低だとは思えません。」
「え?どうして?」
「後悔しているのでしょう。確かに貴方がしたことは許したくない。でも、苦しんでいる。忘れることや認めないこともできます。それをしないだけでも、貴方は生きる価値がある。」
「苦しんで生きろ、ですか。」
「はい。」
女性はどこか消えそうな青さから、少し赤みを取り戻す。龍志は内心、安心していた。命を投げ捨てるような戦いに身を置きそうな雰囲気が薄らいだからだ。
死んでほしくない。罪の意識から死を選ぼうとする人には。龍志はこの人ならと、とある仮定を話し始める。
「まだ、どうなるかは分かりませんが、お願いがあります。」
「お願い?」
「僕の仲間を一時的に護衛として付き添ってほしいのです。」
「もしかして、女剣士さんのことですか?」
「はい。僕は、回復するのをできるだけ待つつもりです。しかし、限界があるのも事実です。僕たちの敵がいつ動きだしてもおかしくない。その時、回復しなければ、治療院に預けて発つしかない。だから、誰か知っている人を傍に居させたい。彼女が立ち直れる時まで守ってくれる人を。」
「決めました。そのお願い、受けます。もっと強くなって守れるようになります。もう、あんなことしたくないから。」
二人は林を出る。もう暗い。ふと、空を見ると数多の星が輝いている。
龍志は女性を泊っている宿まで送る。宿に入ろうとする女性を慌てて止める。
「待ってください。忘れてました。貴方の名前を教えてくれませんか?」
「私はコミイナです。イナと呼んでください、勇者様。女剣士様が回復することを祈っています。できれば、私は関わらない方がいいですから。」
「その時は…。」
イナは宿に入ってしまった。龍志は言いかけた言葉を飲み込み、帰路につく。
自身の宿に戻ると、明らかにご機嫌斜めの由奈と少し不貞腐れているルマノが待っていた。龍志は二人に事情を説明すると共に、怒られる羽目になるのであった。
三か月後、勇者一行はこの町を発つことになる。
次回は登場人物紹介です。




