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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
聖女編
25/138

竜殺しの少年と聖女3~決着~

サブタイトルを変えるべきなのか…

~ブルスタイン領~


「ブルスタイン領に入りましたわ。」


 ペルティの一言で、車窓を覗く護とセレス。そこには川を中心に農地が広がっていた。魔物が荒らさないよう金属製の柵で囲まれている。


「この辺りは農地ですの。ブルスタイン領は他の領より群を抜いて作物を生産してますのよ。初代公爵様が農業に力を入れていたのもあって、有名ですわ。」


 彼女が自慢するように言ってくる。実際に農地を見ると嫌味に聞こえない。

 屋敷まで、まだ時間がある。護はペルティと先代公爵に気になったことを聞きながら時間を過ごす。

 彼女の話等によると、ブルスタイン領は王都から北東に位置し、領の東部は海に面している。その土地柄、農業、漁業ともに豊かで食料生産力はアスタイト王国でもトップ。流通にも権力を持っており、他の領へのアドバンテージとなっているそうだ。

 彼女の話を聞いている最中、護の顔が引き締まりセレスに声をかける。


「セレス、三匹ほどこっちに魔物が向かってくる。魔法で迎撃しよう。」


 護が気配探知でかなりの速さで寄ってくる魔物を察知する。もう少しすれば視認できそうだ。


「もう少しで後方に見えてくるはずだ。……来た。」

「ニードルボルグだな。二人に任せたぞ。」

「「『シャイン・スピア』!」」


 護とセレスは同じ魔法を選択し、三匹に放つ。光の速さで進む槍はあっという間に距離を詰め二匹にあたる。さらにセレスの光の槍は残りの一匹を追尾し貫く。

 セレスの攻撃が当たった二匹は死亡、護の方の一匹は足の傷が深く追ってくる気配はない。

 結果を見ていたペルティが呟く。


「何度見ても驚きますわ。同じ魔法ですのに、威力が段違い。これがレベル差ですのね。」

「そうじゃのぅ。巫女様の光の魔法はレベルが高そうじゃ。一回の魔法で二匹攻撃するとは、流石ですな。」

「…あ、ありがとうございます。」


 先代公爵の言葉にセレスが照れている。アルもご機嫌のようだ。


「私も先ほどのような魔法が打てるようになるのかしら。」

「それはペルティ次第だ。鍛錬さえ、欠かさなければいつかはできるようになる。」

「…厳しいのぅ。」


 先代公爵は孫娘を心配しているようだが、当の本人はそれを聞いてやる気を出している。ペルティからすれば憧れに近づくチャンスなのだ。どんな敵でも怯まずに挑む心構えもできつつあった。それが尚更、先代公爵の気にするところではあったが。

 セレスがアルの妹自慢に付き合わされている横で、護は索敵に務めていた。再び魔物が来ないとは限らない。気配探知に少し意識を割くため、口数の少ない護はさらに黙り込んでしまう。たまに話が振られる時に応えるぐらいだ。

 二度、魔物を退散させ、一行は直轄領へとたどり着く。屋敷は直轄領内の北外れにあり、来賓が何十人も泊まれるほどの大きさらしい。

 門番がこちら、正確には御者をしている執事を見て驚き、慌ててやってくる。


「もしかして、ヤーロン様が乗っておられるのか?」

「その通りでございます。」

「確認してもよいだろうか?」


 その声を聞いた先代公爵が窓から顔を見せる。顔を見た門番は敬礼する。


「ほっほっ。久しぶりじゃの。息子は帰ってきておるか?」

「はい。ペルティ様の婚姻の催しが行われるため、屋敷で準備をなされているはずです。」

「屋敷におるのか。都合がええわい。」

「?」

「通してくれるかの?」

「承知しました。先代公爵様一行が通られる。道を開けろ!!」


 先代公爵の言い方に疑問を覚えたのか、首を傾げる門番。すかさず先代公爵が言葉を続けたため、疑問よりも門を通すことに意識が向く。その間に門番の仲間が道を確保し、一行の馬車は通りすぎていった。

 街中は活気に溢れており、お祝いムード一点といったところだ。ペルティと先代公爵の顔が曇る。今からそのメインイベントを壊そうとしているのだ。事実を知らなくても浮かれている人々の期待を裏切ることになる。


「大丈夫か?」

「ええ。民には申し訳ないのですけど、父がやろうとしていることは下種なことですもの、止まるわけにはいきませんわ。身内のけりは私でつけてやりますわ。」


 アルにペルティは気丈に返事をする。言葉には怒りがこもっていた。民をぬか喜びさせている当主への腹立たしさがこみあげているようだ。


「皆様方、もう少しで屋敷に到着いたします。準備の方をよろしくお願いします。」


 執事の声で、護たちは武器の確認をする。確実に荒事になる、そんな予感がしていた。

 そして、いよいよ屋敷前の門で止まる。止まるのと同時に先代公爵が降りた。


「孫の祝宴を見に来たのじゃ。通してくれるのかの?」

「すいません、ヤーロン様。催しまで誰も通すなと現当主様から仰せつかっております。準備が終わり次第ではいけないでしょうか。」

「急ぎの用事なのじゃ。孫を見ても、同じことが言えるかのぅ?」

「おじい様の言う通りですわ。」

「なっ!?どうしてお嬢様が…」


 門番は今目の前にいるペルティを見て、混乱している。彼は昨日もペルティ(お嬢様)の姿を見ていた。記憶が正しければまだ屋敷で準備しているはずだ。外に出たとも聞いていない。

 彼の混乱をよそにペルティは続けた。


「詳しい説明は後ですわ。現当主の元へと案内して頂戴。後、ついて来ているのは道中を護衛してもらった冒険者ですわ。お客様なので、入れてもいいわよね。」

「は、はい。お客様ならどうぞ中に。一体どうなっているのですか。お嬢様が二人…」


 門番は護たちを門の中に通す。屋敷を囲むような垣の様子から分かっていたがかなり広い。

 目の前は宮殿という言葉が相応しい建造物があり、綺麗な花を咲かせた花垣の中の道を通る。王城に負けじ劣らずといったところだと護は思った。


「来ると思っていたよ、父上と愛しい我が娘を騙る偽物。」

「のこのこと現れるとは滑稽だ。あっはっはっは。」


 いざ、建物に入ろうとしていたところで現れた二人の男。ペルティの父であるブルスタイン現当主とロイ・プレ・アスタイトだ。


「偽物ですって?私が正真正銘のペルティ・ブルスタインですわ。貴方本当に父親ですの?」

「いやぁ、僕は父親さ。本物のペルティ・ブルスタインはロイ殿に嫁ぎ、父上をたぶらかした偽物は罰を受ける。そう、ロイ殿の玩具おもちゃとしてね。」


 あまりの言い様にペルティの頭は怒りでおかしくなりそうになる。握りしめた拳から血が滴る。

 ペルティ自身が生まれた頃は愛情を注ぐいい父親だと母親は語っていた。その様子はもう見られない。いつ変わったのだろうか。傍から離されることになった母の苦悩を何度も見てきたペルティは目の前の男が、父親だとはもう思えない。


「何を言っておるのじゃ。お主は実の娘を何とも思っておらんのか。」

「いいえ、父上。娘を想っておりますとも。私に忠実な娘を。私に忠実でない娘など私の娘ではありません。その点で言えば、本物は実に素晴らしく愛せる娘ですよ。ロイ殿との婚姻も結んでくれるので、嬉しく思っております。」

「狂っておる…」


 先代公爵は言葉を失ってしまった。もう先代公爵が知っている息子ではなかった。その衝撃に呆然としてしまう。


「なぁ、ブルスタイン殿、賊は捕えないといけないのでは?とっととしないと、催しに響くぞ。」

「そうですね。ロイ殿の兵を借りても?」

「そのために雇ったんだ。存分に使ってくれ。」

「恐れ入ります。では…」


 いくつもの花びらが散るのと同時にガラの悪い連中たちが建物と垣を超えて現れる。瞬く間に周りを囲まれてしまった。


「男は殺し、女は生かしておきなさい。我が娘の偽物以外には手を出してくれても構いません。父上を殺してくれた者には私の方からも報酬を払いましょう。やってしまいなさい。」


 当主の号令でならず者たちが襲い掛かってきた。当主たちは屋敷の中へと入っていくのが見える。


「ペルティ、先代公爵を連れて行け。門番、頼んだぞ。護と妹、支援してやれ!!」


 アルが剣を抜き、先代公爵へと迫る剣を防ぐ。彼女の圧倒的なステータスが相手の剣を強引に弾いた。すかさず、メイアの追撃が入る。ナイフが両足に刺さり、そいつは毒で麻痺し動けなくなる。


「アカシミヤ様、セレスさん、お願いしますわ!!」

「『ソニック・フォース』」

「『シャイン・レイ』!」


 護の神速の四連撃が一人の手足を切り裂き、セレスの光線がならず者たちを焼く。彼らが怯んだところを門番が先導し、ペルティたちは屋敷の中へと入っていった。

 追いかけようとするならず者たちを炎の壁が遮り、護たちを倒す以外に選択肢がなくなったならず者たちが護たちと対峙する。


「おらぁ!!」

「くっ、このアマ、太刀筋はでたらめだが威力が桁違いだ。多少の攻撃じゃビクともしねぇ!」


 アルからの力を受け流し転がるならず者がそう言う。周りは自分と似たような状態か受け損なって垣に顔を突っ込んで気絶しているのかの二択だった。

 自分たちよりも圧倒的な強者。多少の小技では彼女に一太刀すら入れられない。彼らはそれを体と頭で嫌でも理解させられる。かと言って、逃げるという選択肢は取れない。目を離した瞬間、彼女の攻撃が飛んでくるのは間違いないのだから。


「魔法ならどうだ!!『ファイヤーランス』!」

「甘い。」


 アルは剣を無造作に振るい、迫りくる炎の槍をかき消す。それと同時に殴りかかってきた拳闘士の拳を片手で受け止める。

 彼女が顔を顰めたのを見て、ならず者たちの胸に希望の灯がともる。すぐさま消えてしまうが。


「流石に痛いな。だが、すぐさま引く程度の打撃で俺を倒せると思っているのか?」

「!?…がはっ。」


 アルは拳を掴んだまま捻る。拳闘士の腕から骨が折れる音が鳴り、追撃のアルの蹴りが炸裂する。あまりの痛みで拳闘士は蹲るしかなかった。


「さぁ、次はどいつだ?言っておくが降参はなしだ。ここにいる奴らは全員倒させてもらう。」


 その宣言から彼女と対峙したならず者たちが全員戦闘不能になるまで時間はかからなかった。

 一方で、護とセレス、メイアの戦闘は優勢だった。


(右から長剣の振り下ろしが来るよ!!)

「!!」


 せめぎ合う短剣使いを蹴りで転がし、剣士の振り下ろしを短剣で受け流す。さらに飛んできた矢を夜見纏いで弾いた。剣士の追撃を後ろに引いて躱し、炎の壁を維持するセレスの方へと距離を取る。

 剣士が思わずぼやいた。


「ちっ、ガキが。この若さで一体どれだけの修羅場くぐってやがる。」

「『エアハンマー』」

「うおっ!!ちょっとは何か言ったらどうだ!?」


 風の槌(エアハンマー)が剣士を打ち付ける。咄嗟に防御したおかげでダメージは腕の骨が軋みを挙げているぐらいで済む。距離を離されてしまった。短剣使いともう一人の剣士も似たような状況だ。

 先ほどから距離を詰めては離されるという似たような状況が続いている。目の前のガキを無視して攻めようにも、セレス()との間へと技で強引に割込み、急所を容赦なく狙ってくるため回避するか、風の守りで弾かれる。おまけに完璧に決まるだろうというタイミングでも、あいつは割り込んでくる。装備に身を任せ、多少の傷を負っても関係ない。身を挺してセレス()を庇うのだ。

 目の前でそんな様子を見ていると、すごく腹立たしくなる。女のために頑張っていますというのが物凄く琴線に触れていた。

 護へと苛立ちを募らせる中、後ろから悲鳴が上がる。そのおかげで頭が冷えた。

 ちらりと見ると弓使いが無力化されていた。遂に後方支援をする者が全て倒されてしまった。残りは自分を含め、三人。目の前の少年に後ろのメイド。状況はほぼ詰みだ。


「全く、貧乏くじを引いたぜ。いいや、元からか。俺たちは降参する。お前らもそれでいいよな?」

「ちょ、俺はまだ」


 反対しようとしたもう一人の剣士の首に手刀が振り下ろされ、鋼糸でぐるぐる巻きにされる。いつの間にか後ろにいた筈のメイアが彼の後ろにいた。


「嘘だといけないので、捕縛させてもらいます。」


 早業で、剣士と短剣使いも同じ状態になった。かなりきつく、下手をすると皮膚が切れそうだ。


「もう大丈夫だ。魔法を解いてくれ。」

「はい。……護さん、お怪我を治しますね。『ライトヒール・ライト』」

「ありがとう。」


 護の傷が全て塞がった。メイアはアルがのした面々も縛って戻ってくる。

 力を振るって満足したのか、顔色がいいアルもやってきた。彼女は顔を引き締めると、屋敷を見る。


「さて、ペルティたちのことだから心配ないが様子を見に行くか。」

「はい。」


 四人は屋敷の中へと入っていくのであった。



~屋敷内~


「お嬢様方、私の後ろに!!」

「おお、門番ごときで俺たちが止められると思うなよ。」


 護たちと戦闘をしているならず者以外にまだ屋敷の中には何人か残っていた。通路で彼らと門番が衝突する。

 結果は、門番の圧勝だった。巧みな槍捌きに彼らでは手も足もでない。通路という狭い空間というのに、門番の突きと払いは正確無比。苦戦することなく制圧してしまった。

 途中、彼らは増援を気にしていたようだが、完全に別行動で挟撃させないように立ち回っている執事のことなど、彼らが知る由もない。

 そして、ペルティたちは奥の執務室の扉を大きく開ける。余裕そうに座る当主と焦りを見せ立っているロイ、赤のドレスを着たペルティに似た少女がロイの隣に不安そうに立っていた。


「まさか、ここまで来てしまうとは驚きました。所詮は冒険者崩れ、教会の関係者には勝ち目がありませんか。」

「観念するのね、ブルスタイン当主とロイ。貴方たちを捕縛して事実を打ち明けますわ。」


 ペルティの通告にも余裕を崩さない当主。それどころか笑い始めた彼にペルティは怪訝な顔をする。


「何がおかしいの?」

「まだ、終わりじゃない。…色々捨てないといけなくなるのは勿体ないけど、しょうがないか。」


 当主は『アイテムボックス』から一つの紫色をした玉を取り出す。

 それを見た途端、ペルティたちの本能が警鐘を鳴らす。門番の槍が発動させまいと繰り出されるが遅かった。

 玉は光を放ち、床が揺れる。足元には魔法陣が浮かび上がり、当主の後ろの壁が崩れた。そこには大きな二つの大きな瞳がこちらを見ている。


「なっ!!」

「ロイ殿、行きましょう。こうなってしまった以上、我々は犯罪者です。頼れる者を存じ上げておりますので、ご安心を。」

「ひぃっ。」

「命令だ。ロイ殿も運べ。」


 後ろから人が余裕で乗れる手が当主、ロイの二人を掴み部屋から脱出させる。ペルティは咄嗟に少女の手を引き、手と残る壁で潰れそうになるのを防いだ。

 ペルティは壊れた壁から怪物の姿を見る。一言でいうならばヤギの悪魔。ただし、その身長は五メートルを超える。翼があり、魔力を使えば空も飛べそうだ。


「娘は…、もうどうでもいいか。寧ろ私の邪魔ですね。殺してしまいましょう。眷属を召喚した後、空を飛び逃げろ。眷属には皆殺しと命令しておけ。」


 その一言でいくつものの召喚陣が浮かぶ。そこから這い出てくる眷属はどれも門番が苦戦しそうな強さを誇っている。その一体がペルティを捉えた。彼女が見られていると思ったときにはかぎ爪が迫る。

 しかし、その召喚された眷属は頭を光で消し飛ばされる。


「おいおい、次は魔物かよ。」

「アルさん!!」


 戦意と共にアルが現れ、その他の悪魔を殺す。さらに、後ろからは護たちと執事がついて来ていた。

 アルは作業を続けながら、空を睨む。当主とロイはもうすでに空のかなたへと逃げてしまっていた。打ち落とすこともできるが、運悪く村があると困る。見逃すしかできない。


「とりあえず、だ。こいつらやけに殺気を振りまいてくるし、屋敷にいる侍女とかに被害が出そうだ。とっとと片付けるか。」


 その後は、アルとセレスの魔法が空にいる奴らを打ち落とし、屋敷に入ってきていたのは護とメイア、門番と執事が討伐したていく。

 運悪く襲われた侍女や使用人も軽傷で済んでいるといった経過を執事が報告し、護たちはようやく落ち着くことになるのだった。

次回はエピローグの予定です。

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